特許第6248976号(P6248976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248976
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20060101AFI20171211BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20171211BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20171211BHJP
【FI】
   B60L3/00 J
   B60L9/18 J
   H02M7/48 M
   H02M7/48 E
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-88266(P2015-88266)
(22)【出願日】2015年4月23日
(65)【公開番号】特開2016-208687(P2016-208687A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2016年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加地 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】大庭 智子
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−171766(JP,A)
【文献】 特開2006−050870(JP,A)
【文献】 特開2005−045927(JP,A)
【文献】 特開2008−259270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00− 3/12
B60L 7/00−13/00
B60L 15/00−15/42
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力を入出力するモータと、
前記モータを駆動するインバータと、
前記インバータに接続されたバッテリと、
前記インバータを冷却する冷却装置と、
を備える電動車両において、
前記冷却装置に異常が生じたときには、前記モータによる誘起電圧が前記バッテリ側から前記インバータに入力される入力電圧以下となる車速を車速制限として設定し、前記車速制限の範囲内で走行するよう前記モータを制御する制御手段と、
前記バッテリと前記インバータとの間に取り付けられ、前記バッテリ側の電力を昇圧して前記インバータ側に供給する昇圧動作と前記インバータ側の電力を降圧して前記バッテリ側に供給する降圧動作とが可能な電力変換手段とを備え、
前記制御手段は、前記冷却装置に異常が生じたときの前記誘起電圧が前記入力電圧以下のときには、そのときの入力電圧が保持されるよう前記電力変換手段を制御し、前記モータが前記入力電圧以下の第1電圧に相当する誘起電圧を生じる車速を前記車速制限として設定する手段である、
電動車両。
【請求項2】
請求項記載の電動車両であって、
前記制御手段は、前記冷却装置に異常が生じたときの前記誘起電圧が前記入力電圧より大きいときには、前記入力電圧が前記誘起電圧以上の第2電圧となるように前記電力変換手段を制御すると共に前記モータから前記第2電圧に相当する誘起電圧を生じる車速を前記車速制限として設定する手段である、
電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両に関し、詳しくは、走行用のモータと、このモータを駆動するインバータと、インバータを冷却する冷却装置と、を備える電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動車両としては、モータを駆動するインバータの素子温度が閾値を超えたときには、モータの負荷率を制限するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この電動車両では、インバータを冷却する冷却装置の冷却液体の温度や、インバータに印加される直流電圧、キャリア周波数などをパラメータとして、モータの負荷率に制限を課す際の閾値を変更し、これにより、インバータの性能を充分に発揮できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2012/124073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の電動車両では、モータの負荷率を制限するものの、モータの回転数によってはインバータに電流が流れてインバータの素子温度を上昇させてしまう場合が生じる。モータが比較的高回転で回転すると、モータにより生じる誘起電圧(逆起電圧とも称する。)がインバータに入力される直流電圧より大きくなるため、一般的には弱め界磁制御が実施される。弱め界磁制御が実施されると、インバータに電流が流れ、インバータの素子温度を上昇させてしまう。特に、インバータを冷却する冷却装置に異常が生じているときには、インバータの素子温度の上昇が急激になるため、モータの負荷率の制限だけではインバータが過熱してしまう。
【0005】
本発明の電動車両は、インバータを冷却する冷却装置に異常が生じているときにインバータの素子が過熱するのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電動車両は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の電動車両は、
走行用の動力を入出力するモータと、
前記モータを駆動するインバータと、
前記インバータに接続されたバッテリと、
前記インバータを冷却する冷却装置と、
を備える電動車両において、
前記冷却装置に異常が生じたときには、前記モータによる誘起電圧が前記バッテリ側から前記インバータに入力される入力電圧以下となる車速を車速制限として設定し、前記車速制限の範囲内で走行するよう前記モータを制御する制御手段、
を備えることを特徴とする。
【0008】
この本発明の電動車両では、インバータを冷却する冷却装置に異常が生じたときには、走行用の動力を入出力するモータによる誘起電圧(逆起電圧)がバッテリ側からインバータに入力される入力電圧以下となる車速を車速制限として設定し、車速制限の範囲内で走行するようモータを制御する。これにより、モータにより生じる誘起電圧(逆起電圧)がインバータの入力電圧より大きくなることによって弱め界磁制御が実施され、インバータに電流が流れてインバータの素子温度を上昇させるのを抑制することができる。この結果、インバータの素子が過熱するのを抑制することができる。
【0009】
こうした本発明の電動車両において、前記制御手段は、前記モータが前記入力電圧に相当する誘起電圧を生じる車速を前記車速制限として設定する手段であるものとしてもよい。また、前記制御手段は、前記冷却装置に異常が生じたときの前記誘起電圧が前記入力電圧以下のときには、前記冷却装置に異常が生じたときの車速を前記車速制限として設定する手段であるものとしてもよい。これらは、モータによる誘起電圧(逆起電圧)がインバータの入力電圧を超えることがないため、弱め界磁制御の実施に伴うインバータの素子の温度上昇を防止することができる。
【0010】
本発明の電動車両において、前記バッテリと前記インバータとの間に取り付けられ、前記バッテリ側の電力を昇圧して前記インバータ側に供給する昇圧動作と前記インバータ側の電力を降圧して前記バッテリ側に供給する降圧動作とが可能な電力変換手段を備え、前記制御手段は、前記冷却装置に異常が生じたときの前記誘起電圧が前記入力電圧以下のときには、そのときの入力電圧が保持されるよう前記電力変換手段を制御し、前記モータが前記入力電圧以下の第1電圧に相当する誘起電圧を生じる車速を前記車速制限として設定する手段であるものとしてもよい。こうすれば、モータによる誘起電圧(逆起電圧)がインバータの入力電圧を超えることがないため、弱め界磁制御の実施に伴うインバータの素子の温度上昇を防止することができる。この場合、前記制御手段は、前記冷却装置に異常が生じたときの前記誘起電圧が前記入力電圧より大きいときには、前記入力電圧が前記誘起電圧以上の第2電圧となるように前記電力変換手段を制御すると共に前記モータから前記第2電圧に相当する誘起電圧を生じる車速を前記車速制限として設定する手段であるものとしてもよい。こうすれば、インバータの入力電圧を迅速に誘起電圧(逆起電圧)より大きくするから、弱め界磁制御を迅速に終了させることができる。また、インバータの入力電圧を第2電圧とした以降は、モータによる誘起電圧(逆起電圧)がインバータの入力電圧を超えることがないため、弱め界磁制御の実施に伴うインバータの素子の温度上昇を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施例の電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
図2】ECU50により実行される駆動制御の一例を示すフローチャートである。
図3】ECU50により実行される冷却系異常時車速電圧制御の一例を示すフローチャートである。
図4】補正係数ktを設定する様子の一例を示す説明図である。
図5】本発明の第2実施例の電気自動車120の構成の概略を示す構成図である。
図6】ECU50により実行される駆動制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の第1実施例の電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。第1実施例の電気自動車20は、図示するように、モータ32と、パワーコントロールユニット(以下、PCUという)33と、バッテリ36と、リレー42と、冷却装置70と、電子制御ユニット(以下、ECUという)50と、を備える。
【0014】
モータ32は、永久磁石が埋め込まれた回転子と、三相コイルが巻回された固定子と、を有する周知の同期発電電動機として構成されている。モータ32は、駆動輪22a,22bにドライブシャフト(車軸)23およびデファレンシャルギヤ24を介して連結された駆動軸26に取り付けられている。このモータ32は、回転に伴って逆起電圧(誘起電圧とも称する)Vmを発生する。
【0015】
PCU33は、インバータ34と、昇圧コンバータ35と、平滑用のコンデンサ48とを備え、これらを単一のケースに収納している。インバータ34は、6つのトランジスタT11〜T16と、6つのダイオードD11〜D16と、を有する。トランジスタT11〜T16は、それぞれ、高電圧系電力ライン46の正極母線46aと負極母線46bとに対して、ソース側とシンク側になるように、2個ずつペアで配置されている。6つのダイオードD11〜D16は、それぞれ、トランジスタT11〜T16に逆方向に並列接続されている。トランジスタT11〜T16の対となるトランジスタ同士の接続点の各々には、モータ32の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用しているときに、ECU50によって、対となるトランジスタT11〜T16のオン時間の割合が調節されることにより、三相コイルに回転磁界が形成され、モータ32が回転駆動される。
【0016】
昇圧コンバータ35は、インバータ34が接続された高電圧系電力ライン46と、バッテリ36が接続された低電圧系電力ライン40と、に接続されている。この昇圧コンバータ35は、2つのトランジスタT21,T22と、トランジスタT21,T22に逆方向に並列接続された2つのダイオードD21,D22と、リアクトルLと、を有する。トランジスタT21は、高電圧系電力ライン46の正極母線46aに接続されている。トランジスタT22は、トランジスタT21に接続されていると共に、高電圧系電力ライン46の負極母線46bを兼ねる低電圧系電力ライン40の負極母線40bに接続されている。リアクトルLは、トランジスタT21,T22同士の接続点と、低電圧系電力ライン40の正極母線40aと、に接続されている。昇圧コンバータ35は、ECU50によってトランジスタT21,T22がオンオフされることにより、低電圧系電力ライン40の電力を昇圧して高電圧系電力ライン46に供給したり、高電圧系電力ライン46の電力を降圧して低電圧系電力ライン40に供給したりする。
【0017】
バッテリ36は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されている。コンデンサ44は、低電圧系電力ライン40の正極母線40aと負極母線40bとに接続されている。リレー42は、正極母線40aおよび負極母線40bの、コンデンサ44との接続点よりバッテリ36側に設けられている。このリレー42は、PCU33側(昇圧コンバータ33やインバータ34)と、バッテリ36側との接続および接続の解除を行なう。
【0018】
冷却装置70は、ラジエータ72と、循環流路74と、電動ポンプ76と、を備える。ラジエータ72は、冷却水(LLC(ロングライフクーラント))と外気との熱交換を行なう。循環流路74は、ラジエータ72,インバータ34,モータ32に冷却水を循環させるための流路である。電動ポンプ76は、冷却水を圧送する。
【0019】
ECU50は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。ECU50には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。各種センサからの信号としては、以下のものを挙げることができる。
・モータ32の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ32bからの回転位置θm
・モータ32とインバータ34とを接続する電力ラインに取り付けられた電流センサからのモータ32の各相の相電流Iu,Iv,Iw
・インバータ34の温度を検出する温度センサ34aからのインバータ温度Tinv
・バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサからの電池電圧Vb
・バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサからの電池電流Ib
・バッテリ36に取り付けられた温度センサからの電池温度Tb
・コンデンサ44の端子間に取り付けられた電圧センサ44aからのコンデンサ電圧(低電圧系電圧)VB
・コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ電圧(高電圧系電圧)VH
・冷却装置70の循環流路74に取り付けられた温度センサ78からの冷却水温Tw
・イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号
・シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSP
・アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Acc
・ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP
・車速センサ68からの車速V
【0020】
ECU50からは、種々の制御信号が出力ポートを介して出力されている。種々の制御信号としては、以下のものを挙げることができる。
・インバータ34のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号
・昇圧コンバータ35のトランジスタT21,T22へのスイッチング制御信号
・リレー42への制御信号。冷却装置70の電動ポンプ76への制御信号
【0021】
ECU50は、回転位置検出センサ32bにより検出されたモータ32の回転子の回転位置θmに基づいて、モータ32の回転数Nmを演算している。また、ECU50は、電流センサにより検出された電池電流Ibの積算値に基づいて、バッテリ36の蓄電割合SOCを演算している。
【0022】
次に、こうして構成された第1実施例の電気自動車20の動作、特に冷却装置70に異常が生じたときの動作について説明する。図2は、冷却装置70の異常の有無に拘わらず所定時間毎に繰り返しECU50により実行される駆動制御の一例を示すフローチャートであり、図3は、冷却装置70に異常が生じたときにECU50により実行される冷却系異常時車速電圧制御の一例を示すフローチャートである。まず、冷却装置70が正常のときの駆動制御について簡単に説明し、その後、冷却装置70に異常が生じたときの駆動制御について説明する。なお、冷却装置70の異常としては、電動ポンプ76の故障やラジエータ72の故障、冷却水の抜けなどの冷却することができない状態を考えることができる。
【0023】
冷却装置70が正常のときには、図2に示すように、ECU50は、まず、アクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accと車速センサ68からの車速Vとモータ32の回転数Nmとを入力し(ステップS100)、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸26に要求される要求トルクTd*を設定する(ステップS110)。続いて、冷却装置70が正常であるか否かを判定し(ステップS120)、冷却装置70が正常であるのを確認すると、要求トルクTd*をモータ32のトルク指令Tm*として設定し(ステップS130)、トルク指令Tm*とモータ32の回転数Nmとに基づいて目標電圧VH*を設定する(ステップS140)。そして、トルク指令Tm*に相当するトルクがモータ32から出力されるようにインバータ34の6つのトランジスタT11〜T16をスイッチング制御するモータ制御と高電圧系電圧ライン46の電圧VHが目標電圧VH*となるように昇圧コンバータ35のトランジスタT21,T22をスイッチング制御する昇圧制御とを実行し(ステップS170)、駆動制御を終了する。
【0024】
次に、冷却装置70に異常が生じたときについて説明する。説明の都合上、まず、図3を用いて目標電圧VH*と車速制限Vlimの設定について説明し、その後、図2を用いて冷却装置70に異常が生じているときの駆動制御について説明する。図3の冷却系異常時車速電圧制御が実行されると、ECU50は、まず、電圧センサ48aからの高電圧系電圧VHとモータ32の回転数Nmと車速センサ68からの車速Vとを入力し(ステップS200)、回転数Nmに換算係数kmを乗じてモータ32の逆起電圧Vm(Vm=km・Nm)を計算する(ステップS210)。続いて、高電圧系電圧VHと逆起電圧Vmとを比較する(ステップS220)。
【0025】
ステップS220で高電圧系電圧VHが逆起電圧Vm以上と判定されたときには、高電圧系電圧VHを目標電圧VH*として設定すると共に(ステップS230)、目標電圧VH*を換算係数kmで除して得られる値に回転数を車速に換算する係数kvを乗じたものを車速制限Vlimとして設定して(ステップS240)、本制御を終了する。即ち、冷却装置70に異常が生じたときに高電圧系電圧VHが逆起電圧Vm以上のときには、そのときの高電圧系電圧VHを目標電圧VH*として設定すると共に、モータ32がそのときの高電圧系電圧VHに相当する逆起電圧(誘起電圧)を生じる車速を車速制限Vlimとして設定するのである。図2の駆動制御では、ステップS120で冷却装置70に異常が生じていると判定されると、車速Vと車速制限Vlimとに基づいて補正係数ktを設定し(ステップS150)、要求トルクTd*に補正係数ktを乗じたものをモータ32のトルク指令Tm*として設定する(ステップS160)。そして、モータ制御と昇圧制御とを実行して(ステップS170)、駆動制御を終了する。図4に補正係数ktを設定する様子の一例を示す。図4の例では、補正係数ktは、車速が値0から車速制限Vlim近傍の車速(Vlim−α)までは1.0が設定され、車速(Vlim−α)から車速制限Vlimまでで1.0から値0となるよう設定される。このため、モータ32のトルク指令Tm*は、車速(Vlim−α)までは要求トルクTd*が設定され、車速(Vlim−α)より大きくなると徐々に小さな値が設定され、車速制限Vlim以上では値0が設定されることになる。従って、車両は車速制限Vlimまでの車速で走行することになる。この結果、モータ32の逆起電圧Vmが高電圧系電圧VHより大きいことにより弱め界磁制御が実施され、インバータ34の素子に電流が流れて素子が過熱するのを抑制することができる。なお、車速(Vlim−α)の「α」は、10km/hや20km/hなどを用いることができる。
【0026】
図3のステップS220で逆起電圧Vmが高電圧系電圧VHより大きいと判定されたときには、計算した逆起電圧Vmを目標電圧VH*として設定し(ステップS250)、車速Vを車速制限Vlimとして設定して(ステップS260)、本制御を終了する。即ち、冷却装置70に異常が生じたときに逆起電圧Vmが高電圧系電圧VHより大きいときには、そのときの逆起電圧Vmを目標電圧VH*として設定すると共に、そのときの車速Vを車速制限Vlimとして設定するのである。図2の駆動制御では、上述したように、ステップS120で冷却装置70に異常が生じていると判定されると、車速Vと車速制限Vlimとに基づく補正係数ktを要求トルクTd*に乗じてモータ32のトルク指令Tm*を設定し(ステップS150,S160)、モータ制御と昇圧制御とが実行される(ステップS170)。このため、高電圧系電圧VHは迅速に目標電圧VH*、即ち冷却装置70に異常が生じたときに逆起電圧Vmまで上昇する一方、車速制限Vlimにより車速Vが減少する。このため、短時間ではあるが逆起電圧Vmが高電圧系電圧VHより大きいために弱め界磁制御が実施されるが、その後は、高電圧系電圧VHが逆起電圧Vm以上となるため、弱め界磁制御は実施されない。この結果、モータ32の逆起電圧Vmが高電圧系電圧VHより大きいことにより弱め界磁制御が実施され、インバータ34の素子に電流が流れて素子が過熱するのを抑制することができる。
【0027】
以上説明した第1実施例の電気自動車20では、冷却装置70に異常が生じたときにインバータ34に入力される高電圧系電圧VHが逆起電圧Vm以上のときには、そのときの高電圧系電圧VHを目標電圧VH*として設定して昇圧制御を実行する。そして、モータ32が設定した目標電圧VH*に相当する逆起電圧(誘起電圧)を生じる車速を車速制限Vlimとして設定し、車速Vが車速制限Vlim以下となるようにモータ32を駆動制御する。このため、モータ32の逆起電圧Vmが高電圧系電圧VHより大きいことにより弱め界磁制御が実施され、インバータ34の素子に電流が流れて素子が過熱するのを抑制することができる。また、冷却装置70に異常が生じたときに逆起電圧Vmがインバータ34に入力される高電圧系電圧VHより大きいときには、そのときの逆起電圧Vmを目標電圧VH*として設定して昇圧制御を実行し、そのときの車速Vを車速制限Vlimとして設定し、車速Vが車速制限Vlim以下となるようにモータ32を駆動制御する。このため、モータ32の逆起電圧Vmが高電圧系電圧VHより大きいことにより弱め界磁制御が実施され、インバータ34の素子に電流が流れて素子が過熱するのを抑制することができる。上記2つの状態を言い換えると、冷却装置70に異常が生じたときには、モータ32の逆起電圧Vmがインバータ34に入力される高電圧系電圧VH以下となる車速を車速制限Vlimとして設定し、車速Vが車速制限Vlim以下となるようにモータ32を駆動制御するものとなる。このように制御することにより、インバータ34の素子が過熱するのを抑制することができる。
【0028】
第1実施例の電気自動車20では、冷却装置70に異常が生じたときにインバータ34に入力される高電圧系電圧VHが逆起電圧Vm以上のときには、そのときの高電圧系電圧VHを目標電圧VH*として設定すると共に設定した目標電圧VH*に相当する逆起電圧(誘起電圧)を生じる車速を車速制限Vlimとして設定するものとした。しかし、モータ32の逆起電圧Vmがインバータ34に入力される高電圧系電圧VH以下となればよいから、そのときの高電圧系電圧VHを目標電圧VH*として設定すると共にそのときの車速Vを車速制限Vlimとして設定したり、そのときの逆起電圧Vmを目標電圧VH*として設定すると共にそのときの車速Vを車速制限Vlimに設定したりしてもよい。
【0029】
また、第1実施例の電気自動車20では、冷却装置70に異常が生じたときに逆起電圧Vmがインバータ34に入力される高電圧系電圧VHより大きいときには、そのときの逆起電圧Vmを目標電圧VH*として設定すると共にそのときの車速Vを車速制限Vlimとして設定するものとした。しかし、モータ32の逆起電圧Vmがインバータ34に入力される高電圧系電圧VH以下となればよいから、そのときの逆起電圧Vmより大きな電圧を目標電圧VH*として設定すると共にそのときの車速Vを車速制限Vlimとして設定したり、そのときの逆起電圧Vmより大きな電圧を目標電圧VH*として設定すると共に設定した目標電圧VH*に相当する逆起電圧Vmを生じる車速を車速制限Vlimとして設定したりしてもよい。
【0030】
第1実施例の電気自動車20では、補正係数ktとして、車速が値0から車速制限Vlim近傍の車速(Vlim−α)までは1.0を設定し、車速(Vlim−α)から車速制限Vlimまでで1.0から値0となるよう設定するものとした。しかし、車速制限Vlimで駆動トルクが小さくなればよいから、補正係数ktとして、車速が値0から車速制限Vlim近傍の車速(Vlim−α)までは1.0を設定し、車速(Vlim−α)から車速制限Vlimまでで1.0から要求トルクTd*が最大のときにロードロードとなる値となるよう設定するものとしてもよい。こうすれば、最大の要求トルクTd*のときでも車速を車速制限Vlimにすることができる。
【実施例2】
【0031】
図5は、本発明の第2実施例の電気自動車120の構成の概略を示す構成図である。第2実施例の電気自動車120は、昇圧コンバータ35とコンデンサ48と電圧センサ48aとを備えないことを除いて第1実施例の電気自動車20と同一の構成をしている。したがって、重複する説明を回避するために、第2実施例の電気自動車120の構成のうち第1実施例の電気自動車20の構成と同一の構成については同一の符号を付しその説明は省略する。なお、第2実施例では、昇圧コンバータ35を備えないため、第1実施例の低電圧系電力ライン40と同様の構成を単に電力ライン40と称し、電圧センサ44aにより検出されるコンデンサ44の電圧VBについては単にライン電圧VBと称する。
【0032】
第2実施例の電気自動車120では、冷却装置70の異常の有無に拘わらず図6に例示する駆動制御が定時間毎に繰り返しECU50により実行される。なお、冷却装置70の異常としては、第1実施例と同様に、電動ポンプ76の故障やラジエータ72の故障、冷却水の抜けなどの冷却することができない状態を考えることができる。
【0033】
駆動制御が実行されると、まず、アクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accと車速センサ68からの車速Vを入力し(ステップS300)、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸26に要求される要求トルクTd*を設定する(ステップS310)。続いて、冷却装置70が正常であるか否かを判定し(ステップS320)、冷却装置70が正常であると判定したときには、要求トルクTd*をモータ32のトルク指令Tm*として設定し(ステップS330)、トルク指令Tm*に相当するトルクがモータ32から出力されるようにインバータ34の6つのトランジスタT11〜T16をスイッチング制御するモータ制御を実行し(ステップS370)、駆動制御を終了する。
【0034】
ステップS320で冷却装置70に異常が生じていると判定したときには、モータ32の逆起電圧Vmがライン電圧VB未満となる範囲で予め定めた車速Vsetを車速制限Vlimとして設定する(ステップS340)。例えば、バッテリ36の通常の電圧範囲における下限電圧かこの下限電圧より若干低い電圧をモータ32から逆起電圧Vmとして生じる車速Vsetを車速制限Vlimとして設定することができる。続いて、第1実施例と同様に、図4を用いて車速Vと車速制限Vlimとに基づいて補正係数ktを設定し(ステップS350)、要求トルクTd*に補正係数ktを乗じたものをモータ32のトルク指令Tm*として設定する(ステップS360)。そして、トルク指令Tm*に相当するトルクがモータ32から出力されるようにインバータ34の6つのトランジスタT11〜T16をスイッチング制御するモータ制御を実行し(ステップS370)、駆動制御を終了する。
【0035】
こうした第2実施例の電気自動車120では、冷却装置70に異常が生じているときには、モータ32の逆起電圧Vmがライン電圧VB未満となる範囲で予め定めた車速を車速制限Vlimとして設定し、車速Vが車速制限Vlim以下となるようにモータ32を駆動制御する。このため、モータ32の逆起電圧Vmがライン電圧VBより大きいことにより弱め界磁制御が実施され、インバータ34の素子に電流が流れて素子が過熱するのを抑制することができる。
【0036】
第2実施例の電気自動車120では、冷却装置70に異常が生じているときには、モータ32の逆起電圧Vmがライン電圧VB未満となる範囲で予め定めた車速を車速制限Vlimとして設定するものとした。しかし、モータ32の逆起電圧Vmがライン電圧VB以下となればよいから、そのときのライン電圧VBに相当する逆起電圧Vmを生じる車速を車速制限Vlimとして設定したり、そのときのライン電圧VBから所定電圧だけ小さい電圧に相当する逆起電圧Vmを生じる車速を車速制限Vlimとして設定したりしてもよい。
【0037】
実施例では、駆動軸26にモータ32を接続する電気自動車20の構成とした。しかし、例えば、駆動輪22a,22bに直接モータが組み込まれるホイールインモータを用いる電気自動車の構成としたり、モータ走行が可能なハイブリッド自動車の構成としてもよい。
【0038】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータ32が「モータ」に相当し、インバータ34が「インバータ」に相当し、バッテリ36が「バッテリ」に相当し、冷却装置70が「冷却装置」に相当し、電子制御ユニット(ECU)50が「制御手段」に相当する。
【0039】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0040】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、電動車両の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0042】
20,120 電気自動車、22a,22b 駆動輪、23 ドライブシャフト、24 デファレンシャルギヤ、26 駆動軸、32 モータ、32b 回転位置検出センサ、33 パワーコントロールユニット(PCU)、34 インバータ、34a 温度センサ、35 昇圧コンバータ、36 バッテリ、40 低電圧系電力ライン(電力ライン)、40a 正極母線、40b 負極母線、42 リレー、44 コンデンサ、44a 電圧センサ、46 高電圧系電力ライン、46a 正極母線、46b 負極母線、48 コンデンサ、48a 電圧センサ、50 電子制御ユニット(ECU)、60 イグニッションスイッチ、61 シフトレバー、62 シフトポジションセンサ、63 アクセルペダル、64 アクセルペダルポジションセンサ、65 ブレーキペダル、66 ブレーキペダルポジションセンサ、68 車速センサ、70 冷却装置、72 ラジエータ、74 循環流路、76 電動ポンプ、78 温度センサ、D11〜D16,D21,D22 ダイオード、T11〜T16,T21,T22 トランジスタ、L リアクトル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6