(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の内燃機関の気流の流速算出装置の第1の実施形態について説明する前に、本発明に関連する発明の実施形態について説明する。
図4は本発明に関連する発明の実施形態が適用される内燃機関10を示した概略構成図である。後述する第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置を、
図4に示す内燃機関10に適用することもできる。
【0012】
図4に示す例では、シリンダブロック19に形成された気筒12と、気筒12の内部を往復運動するピストン14とが設けられている。さらに、シリンダヘッド18の下面と気筒12の内壁面とピストン14の冠面とによって、燃焼室20が形成されている。シリンダヘッド18には、燃焼室20内に直接燃料を噴射するための燃料噴射弁11が配置されている。また、気筒12内に配置された中心電極22aと接地電極22bとを有する点火プラグ22が設けられている。つまり、点火プラグ22の中心電極22aと接地電極22bとが、燃焼室20内に突出している。
さらに、吸気通路24と排気通路26とが気筒12に接続されている。また、吸気通路24と燃焼室20との間を開閉する吸気バルブ28と、燃焼室20と排気通路26との間を開閉する排気バルブ30とが設けられている。さらに、気筒12内の気流を制御するために、例えばタンブル制御弁(TCV)、スワール制御弁(SCV)などの気流制御弁40が、吸気通路24に配置されている。
図4中に双方向矢印で示すように、気流制御弁40は、
図4中に実線で示す位置と、
図4中に破線で示す位置との間を回動可能に構成されている。詳細には、気流制御弁40の開度により、燃焼状態が、例えばリーンとストイキとの間で切り替えられる。
【0013】
気流制御弁40を制御する(動作させる)ことにより、気筒12内の空気流動が活発になり、燃焼状態が好適になる。特に均質リーンバーンやEGRバーンでは、気筒12内の空気流動によって生成された乱れが燃焼の安定性確保に必要である。気流制御弁40を閉弁し、吸気流路を絞ったままでは内燃機関10の出力が要求される運転領域で空気量が不足して動力性能が低下するため、一般に、出力要求時には、気流制御弁40が開弁状態にされ、空気量が確保される。
内燃機関10の運転状態のなかで、気流制御弁40の閉弁状態で実現できる燃焼と、気流制御弁40の開弁状態で実現できる燃焼とには差がある。例えば、気流制御弁40の閉弁状態ではA/F25の燃焼を実現可能であるが、気流制御弁40の開弁状態ではA/F23までしか希薄運転を実現することができない。そのため、燃焼切り替えと気流制御弁40による気流切り替えとは、運転状態を確認しながら実施することが望ましい。運転状態を確認することなく、燃焼切り替えと気流制御弁40による気流切り替えとが実施される場合には、燃焼変動が増大したり、失火が生じたりするおそれがある。
【0014】
図4に示す例のように構成された内燃機関10では、気流制御弁40が
図4中に実線で示す位置と破線で示す位置との間を回動する所要時間が、
図3(A)に示すように、経年によって長くなる傾向がある。
一般には、経年によって気流制御弁40の動作速度が低下した場合であっても、気流制御弁40の開閉切り替え動作指示が出されてから所定期間が経過した後に、気流制御弁40の開閉切り替え動作が完了したとみなされ、気流制御弁40の状態が確認されることなく、後述する他の燃焼パラメータが変更されている。
【0015】
図3(A)は閉弁動作時における気流制御弁40(
図4参照)の開度を、気流制御弁40の使用初期と経年後とで比較して示した図である。
図3(B)は筒内気流流動(気筒12(
図4参照)内の気流の流速)を、気流制御弁40の使用初期(
図3(B)中の破線)と経年後(
図3(B)中の実線)とで比較して示した図である。
図3(A)に示すように、気流制御弁40の閉弁動作の所要時間が、気流制御弁40の使用初期に初期時間Topenであるのに対し、気流制御弁40の経年後には経年後時間Topenに増大する。
図3(B)に示すように、気流制御弁40の開弁量が減少するに従って、筒内気流流動(気筒12内の気流の流速)は増加する。
図4に示す例では、
図9に示すように点火プラグ22の放電電圧(電極間電圧)が計測され、
図12(A)に示すような放電電圧(電極間電圧)の挙動に基づいて中心電極22aおよび接地電極22bの近傍の気流の流速が推測(算出)される。
【0016】
図3(C)は後述する気流制御弁40の動作所要時間学習が反映されない場合および気流制御弁40の動作所要時間学習が反映される場合における気流制御弁40の経年後のA/Fを示した図である。
図3(C)中に破線で示すように、気流制御弁40の動作所要時間学習が反映されない場合、経年した気流制御弁40の閉弁動作が完了する前にA/Fを変更する制御が実行されてしまう。一方、
図3(C)中に実線で示すように、気流制御弁40の動作所要時間学習が反映される場合、経年した気流制御弁40の閉弁動作が完了した後にA/Fを変更する制御が実行される。
図3(D)は気流制御弁40の動作所要時間学習が反映されない場合および気流制御弁40の動作所要時間学習が反映される場合における点火時期を示した図である。
図3(D)中に破線で示すように、気流制御弁40の動作所要時間学習が反映されない場合、経年した気流制御弁40の閉弁動作が完了する前に点火が実行されてしまう。一方、
図3(D)中に実線で示すように、気流制御弁40の動作所要時間学習が反映される場合、経年した気流制御弁40の閉弁動作が完了した後に点火が実行される。
つまり、気流制御弁40の動作所要時間学習が反映されない場合には、
図3(C)および
図3(D)の楕円で囲まれた部分に示すように、経年した気流制御弁40の閉弁動作が完了する前にA/Fの変更制御および点火が実行されることに伴い、燃焼が悪化し、失火が発生するおそれが生じてしまう。
すなわち、上述したように、気流制御弁40の開閉切り替え動作指示が出されてから所定期間が経過した後に、気流制御弁40の開閉切り替え動作が完了したとみなされ、気流制御弁40の状態が確認されることなく、燃焼パラメータが変更される場合には、経年した気流制御弁40の開閉切り替え動作が完了する前に燃焼パラメータが変更されるときに、燃焼変動や失火が発生してしまうおそれがある。
この問題点に鑑み、本発明に関連する発明の実施形態では、気流制御弁40の動作所要時間学習が実行される。
【0017】
図1は本発明に関連する発明の実施形態における気流制御弁40(
図4参照)の動作所要時間学習を説明するためのフローチャートである。
図1に示すルーチンが開始されると、ステップS101において、気流制御弁40の動作所要時間学習に適した条件であるか否かが判定される。YESのときにはステップS102に進み、NOのときにはこのルーチンを終了し、所定期間経過後にステップS101からの処理を再開する。
ステップS102では、気流制御弁40の開閉が実施される。次いで、ステップS103では、気流制御弁40の動作所要時間学習が実行される。具体的には、気流制御弁40が
図4中に破線で示す開弁位置から実線で示す閉弁位置まで回動する所要時間Topen[ms]と、気流制御弁40が
図4中に実線で示す閉弁位置から破線で示す開弁位置まで回動する所要時間Tclose[ms]とが取得される。
【0018】
詳細には、気流制御弁40(
図4参照)の開度と、点火プラグ22(
図4参照)の中心電極22a(
図4参照)および接地電極22b(
図4参照)の近傍の気流の流速(プラグ部流速)とには、
図6に示すような関係がある。
図6(A)はプラグ部流速(点火プラグ22の中心電極22aおよび接地電極22bの近傍の気流の流速)を示しており、
図6(B)は気流制御弁40の開度を示している。
図6に示すように、気流制御弁40の開度が大きくなるに従って、点火プラグ22の中心電極22aおよび接地電極22bの近傍の気流の流速が小さくなる。つまり、気流制御弁40の開度が小さくなるに従って、点火プラグ22の中心電極22aおよび接地電極22bの近傍の気流の流速が大きくなる。
【0019】
また、点火プラグ22(
図4参照)の中心電極22a(
図4参照)および接地電極22b(
図4参照)の近傍の気流の流速(電極部流速)と、中心電極22aと接地電極22bとの間の放電維持時間とには、
図5に示すような関係がある。
図5は電極部流速と放電維持時間との関係を示した図である。
図5に示すように、気流制御弁40(
図4参照)の開度が小さく、電極部流速(点火プラグ22の中心電極22aおよび接地電極22bの近傍の気流の流速)が大きい場合には、中心電極22aと接地電極22bとの間の放電維持時間が短くなる。一方、気流制御弁40の開度が大きく、電極部流速が小さい場合には、中心電極22aと接地電極22bとの間の放電維持時間が長くなる。
【0020】
図9は中心電極22aと接地電極22bとの間の点火放電を説明するための図である。
図9に示すように、中心電極22aと接地電極22bとの間に電圧が印加され、中心電極22aと接地電極22bとの間のガスに絶縁破壊が生じると、中心電極22aと接地電極22bとの間に点火放電が生じ、
図9中に示す「放電経路(電気火花経路)」が形成される。
図9中に矢印で示すような気流が中心電極22aおよび接地電極22bの近傍に存在する場合には、中心電極22aと接地電極22bとの間に、
図9に示すような伸長した(湾曲した)放電経路が形成される。一方、中心電極22aおよび接地電極22bの近傍に気流が存在しない場合には、中心電極22aと接地電極22bとの間に、
図10(A)に示すような伸長していない(湾曲していない)直線的な放電経路が形成される。
【0021】
図10は中心電極22a(
図4および
図9参照)と接地電極22b(
図4および
図9参照)との間の放電経路(
図9参照)の伸長を説明するための図である。
中心電極22aおよび接地電極22bの近傍に気流が存在する場合、
図10(A)に示すように、中心電極22aと接地電極22bとの間の放電の開始直後には、中心電極22aと接地電極22bとの間に、伸長していない(湾曲していない)直線的な放電経路が形成される。
次いで、
図10(B)に示すように、中心電極22aおよび接地電極22bの近傍の気流によって、放電経路が伸長する(湾曲する)。
次いで、
図10(C)に示すように、中心電極22aおよび接地電極22bの近傍の気流によって、放電経路がさらに伸長する(湾曲する)。一方、
図10(C)に示す程度まで放電経路が伸長すると、放電経路内の電気抵抗の増加、絶縁破壊されていないガスが気流によって中心電極22aと接地電極22bとの間に流入することなどが起因し、
図10(D)中に破線で示すように、中心電極22aと接地電極22bとの間の放電が遮断される。
その時、中心電極22aと接地電極22bとの間の放電を引き続き実行するのに十分なエネルギーが点火プラグ22(
図4参照)に供給されている場合には、中心電極22aと接地電極22bとの間で次の放電(再放電)が実行され、
図10(D)中に実線で示すような放電経路が形成される。
【0022】
図11は
図10(D)中に破線で示す中心電極22aと接地電極22bとの間の初回放電の遮断および
図10(D)中に実線で示す中心電極22aと接地電極22bとの間の再放電を説明するための図である。
図11において、横軸は放電長(放電経路の長さ)を示しており、縦軸は電極間絶縁破壊電圧および放電経路間電圧を示している。
図11に示すように、放電経路が長くなる(放電長が大きくなる)に従って、放電経路間電圧が大きくなる。
図10に示す例では、
図10(D)に破線で示す程度まで初回放電(
図12参照)の放電経路が長くなると、
図11中に星印で示すように、放電経路間電圧(
図11参照)が電極間絶縁破壊電圧(
図11参照)に到達し、中心電極22a(
図4および
図9参照)と接地電極22b(
図4および
図9参照)との間の初回放電が遮断されると共に、中心電極22aと接地電極22bとの間で再放電(
図12参照)が実行される。
図11に示すように、放電電流が小さい場合には、放電電流が大きい場合よりも初回放電の放電経路が短いときに、中心電極22aと接地電極22bとの間の初回放電が遮断されると共に、中心電極22aと接地電極22bとの間で再放電が実行される。
【0023】
本明細書では、
図10(A)に示すように中心電極22a(
図4および
図9参照)と接地電極22b(
図4および
図9参照)との間の放電が開始されてから、
図10(D)に示すように気筒12(
図4参照)内の気流によって中心電極22aと接地電極22bとの間の放電が遮断されるまでの時間を「放電維持時間」(
図5参照)と称する。
図10(D)中に破線で示すように、中心電極22aと接地電極22bとの間の放電が遮断されても、中心電極22aと接地電極22bとの間の放電を引き続き実行するのに十分なエネルギーが点火プラグ22(
図4参照)に供給されている場合には、
図10(D)中に実線で示すように、中心電極22aと接地電極22bとの間で次の放電が実行される。
従って、本明細書では、エンジンの1サイクル中に最初に実行される中心電極22aと接地電極22bとの間の放電を「初回の放電」と称し、例えば
図12(A)中の「Ts1」は初回の放電における放電維持時間を示す。また、本明細書では、
図10(D)に示すように初回の放電に引き続いて実行される中心電極22aと接地電極22bとの間の放電を「2回目以降の放電」と称する。例えば
図12(A)中の「Ts2」は2回目の放電における放電維持時間を示し、「Ts3」は3回目の放電における放電維持時間を示す。
さらに、本明細書では、エンジンの1サイクル中に1回実行される点火プラグ22の点火における「点火期間」を、「初回の放電における放電維持時間Ts1(
図12(A)参照)と、気筒12内の気流によって中心電極22aと接地電極22bとの間の初回の放電が遮断された後に中心電極22aと接地電極22bとの間で初回の放電に引き続いて実行される2回目以降の放電における放電維持時間Ts2、Ts3、…(
図12(A)参照)との合計」と定義する。詳細には、
図12(A)に示す例では、
図12(A)中の「初回放電」の時点から
図12(A)中の「放電終了」の時点までの期間が、点火プラグ22の点火における「点火期間」に相当する。
図12(A)は中心電極22aと接地電極22bとの間の電圧(電極間電圧)の値を示しており、
図12(B)は中心電極22aと接地電極22bとの間の放電電流の値を示している。
図12(A)に示すように、中心電極22aと接地電極22bとの間の電圧(電極間電圧)は、
図10(D)に破線で示すように初回放電が遮断されるときに極値になり、
図10(D)に実線で示すように再放電(次の放電)が実行されるときに急峻に接地電位(0V)に近付く。この性質を利用し、前回計測された電極間電圧と今回計測された電極間電圧との差が所定の閾値を超えたときに、再放電が実行されたと判断される。
【0024】
図1の説明に戻り、ステップS103では、例えば
図12(A)の初回放電の実施時刻と再放電の実施時刻とに基づいて放電維持時間Ts1が算出され、次いで、例えば
図5に示す関係に基づいて気流の流速が算出され、次いで、例えば
図6に示す関係に基づいて気流制御弁40(
図4参照)の開度が算出されると共に、気流制御弁40の開弁状態から閉弁状態への閉弁動作所要時間Topenが算出される。同様に、気流制御弁40の閉弁状態から開弁状態への開弁動作所要時間Tcloseが算出される。
つまり、経年による気流制御弁40の動作所要時間Topen、Tcloseの変化が、このステップS103において学習される。
次いで、ステップS104では、故障判定が実行される。具体的には、ステップS103において算出された閉弁動作所要時間Topenが閾値TopenMAXより大きいか否かが判定される。さらに、ステップS103において算出された開弁動作所要時間Tcloseが閾値TcloseMAXより大きいか否かが判定される。いずれかがYESのときにはステップS105に進み、いずれもがNOのときにはこのルーチンを終了し、所定期間経過後にステップS101からの処理を再開する。
ステップS105では、故障通知が実行される。具体的には、気流制御弁40(
図4参照)の開閉が禁止され、退避モードへ移行する。
図1に示す例では、気流制御弁40の専用の故障検知センサを用いることなく、気流制御弁40の故障および経年動作変化を把握することができ、故障検知センサのコストを削減することができる。
また、気流制御弁40の開閉切り替え動作所要時間を学習して反映することにより、
図3(C)および
図3(D)の楕円で囲まれた部分に示すような、気流制御弁40の開閉切り替え動作完了前の燃焼変動の増大や失火を防ぐことができ、燃焼を安定化させることができる。
【0025】
図2は経年した気流制御弁40(
図4参照)の開弁動作または閉弁動作が完了する前に点火などの制御が実行されてしまうのを防止する制御を説明するためのフローチャートである。つまり、
図2は、
図3(C)に示す例のように経年した気流制御弁40の閉弁動作が完了する前にA/Fの切り替えが実行されてしまったり、
図3(D)に示す例のように経年した気流制御弁40の閉弁動作が完了する前に点火が実行されてしまったりするのを防止する制御を説明するためのフローチャートである。
図2に示すルーチンが開始されると、ステップS201において、気流制御弁40の切り替え条件が読み込まれる。次いで、ステップS202において、気流制御弁40の切り替え指令が出される。この気流制御弁40の切り替えは、気流制御弁40の切り替えに適した条件下においてのみ実行される。
【0026】
次いで、ステップS203では、気流制御弁40(
図4参照)の切り替え時間の経過の判断が実行される。具体的には、例えば
図3(A)に示す例のように、気流制御弁40が開弁状態から閉弁状態に切り替えられる場合には、気流制御弁40の切り替え動作の開始後の経過時間Tが、時間Topenより大きくなったか否かが判定される。
図3(A)に示すように、気流制御弁40の使用初期には、時間Topenが小さい値に設定され、気流制御弁40の経年後には、時間Topenが大きい値に設定される。
気流制御弁40の切り替え動作の開始後の経過時間Tが時間Topenより大きいときには、
図3(C)および
図3(D)の楕円で囲まれた部分に示すような状況が発生しないと判断し、ステップS204に進む。一方、気流制御弁40の切り替え動作の開始後の経過時間Tが時間Topenより大きくないときには、
図3(C)および
図3(D)の楕円で囲まれた部分に示すような状況になるおそれがあると判断し、所定期間経過後にステップS203が再び実行される。
つまり、後述する他の燃焼パラメータの変更が禁止されることになる。
【0027】
また、ステップS203では、気流制御弁40(
図4参照)が閉弁状態から開弁状態に切り替えられる場合に、気流制御弁40の切り替え動作の開始後の経過時間Tが、時間Tcloseより大きくなったか否かが判定される。
図3(A)に示す例と同様に、気流制御弁40の使用初期には、時間Tcloseが小さい値に設定され、気流制御弁40の経年後には、時間Tcloseが大きい値に設定される。
気流制御弁40の切り替え動作の開始後の経過時間Tが時間Tcloseより大きいときには、
図3(C)および
図3(D)の楕円で囲まれた部分に示すような状況が発生しないと判断し、ステップS204に進む。一方、気流制御弁40の切り替え動作の開始後の経過時間Tが時間Tcloseより大きくないときには、
図3(C)および
図3(D)の楕円で囲まれた部分に示すような状況になるおそれがあると判断し、所定期間経過後にステップS203が再び実行される。
つまり、後述する他の燃焼パラメータの変更が禁止されることになる。
【0028】
ステップS204では、他の燃焼パラメータ変更の実施が許可される。具体的には、例えば
図3(D)に示すような点火の実行が許可される。また、例えば
図3(C)に示すような燃料噴射量の変更が許可される。
つまり、
図2に示す例では、経年変化によって気流制御弁40(
図4参照)の切り替え動作所要時間が変化した場合であっても、好適な燃焼切り替えが実行される。
具体的には、例えば
図12(A)の初回放電の実施時刻と再放電の実施時刻とに基づいて放電維持時間Ts1が算出される。さらに、中心電極22a(
図4および
図9参照)と接地電極22b(
図4および
図9参照)との間の放電維持時間Ts1と
図5に示す関係とに基づいて気筒12(
図4参照)内の気流の流速が算出される。詳細には、放電維持時間Ts1は放電維持時間Ts2、Ts3(
図12(A)参照)よりも電極部気流流速との相関が高いため、放電維持時間Ts1と気流の流速とが
図5に示すような関係を有する。
また、気筒12内の気流の流速と
図6(A)および
図6(B)に示す関係とに基づいて気流制御弁40の開度が算出され、気流制御弁40の切り替え動作所要時間(時間Topen、Tclose)が算出される。つまり、気流制御弁40の切り替え動作所要時間(時間Topen、Tclose)の学習が実行される。
詳細には、エンジンのサイクル毎に、放電維持時間Ts1が算出され、気筒12内の気流の流速が算出され、気流制御弁40の開度が算出され、その結果、
図6(B)に示す気流制御弁40の開度と時間との関係が得られ、気流制御弁40の開閉切り替え動作所要時間が得られる。
それにより、失火などの燃焼変動を防ぐことができる。
【0029】
図7は気流制御弁40の切り替え動作所要時間(時間Topen、Tclose)の学習を実行するのに適した運転領域を説明するための図である。
図7において、横軸はエンジン回転速度を示しており、縦軸はトルクを示している。
図7に示すように、気流制御弁40の開度が小さい「気流制御弁閉領域」は、
図7の左下側部分に設定されている。また、気流制御弁40の開度が大きい「気流制御弁開領域」は、
図7の右上側部分に設定されている。「気流制御弁閉領域」と「気流制御弁開領域」との間の、
図7中にハッチングで示す領域が、気流制御弁40の開閉切り替え動作の「ヒステリシス領域」である。
【0030】
図8は
図1に示す気流制御弁40(
図4参照)の開閉切り替え動作所要時間学習が実行される条件を説明するためのフローチャートである。
図8に示すルーチンが開始されると、ステップS301において、気流制御弁40の開閉切り替え動作所要時間学習が要求される。次いで、ステップS302では、現在の内燃機関10(
図4参照)の運転状態が、
図7中にハッチングで示す「ヒステリシス領域」内にあるか否かが判定される。YESのときにはステップS303に進み、NOのときにはこのルーチンを終了し、所定期間経過後にステップS301からの処理を再開する。
ステップS303では、現在の内燃機関10の運転状態が定常運転状態であるか否かが判定される。具体的には、
図7中にハッチングで示す「ヒステリシス領域」内に滞在している時間が所定の閾値(判定時間)より大きくなったか否かが判定される。YESのときにはステップS304に進み、NOのときにはステップS302に戻る。
ステップS304では、学習条件がONにされ、
図1に示す気流制御弁40の開閉切り替え動作所要時間学習が実行される。
図8に示す例では、気流制御弁40の開閉切り替え動作所要時間学習が
図7中にハッチングで示す「ヒステリシス領域」内で実行されるため、気流制御弁40の開弁中および閉弁中(つまり、非開閉切り替え動作中)の燃焼安定性を確保することができる。
また、
図8に示す例では、定常運転時に気流制御弁40の開閉切り替え動作所要時間学習が実行されるため、運転条件の変動の影響を受けることなく、学習の精度を向上させることができる。
【0031】
以下、本発明の内燃機関の気流の流速算出装置の第1の実施形態について説明する。
図14は第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置の主要部を示した概略構成図である。
図13は第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置の効果を説明するための図である。
図13(A)は第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置の中心電極22aと接地電極22bとの間の電圧(電極間電圧)を示しており、
図13(B)は第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置の中心電極22aと接地電極22bとの間の放電電流を示している。
第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置は、例えば
図4に示す構成の内燃機関システムに対して適用することができる。
また、
図1に示す気流制御弁40(
図4参照)の開閉切り替え動作所要時間学習は、第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置が適用された内燃機関システムにおいても実行することができる。
さらに、経年した気流制御弁40(
図4参照)の開弁動作または閉弁動作が完了する前に点火などの制御が実行されてしまうのを防止するための
図2に示す制御は、第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置が適用された内燃機関システムにおいても実行することができる。
また、気流制御弁40(
図4参照)の開閉切り替え動作所要時間学習が実行される条件であるか否かを判定する
図8に示す処理は、第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置が適用された内燃機関システムにおいても実行することができる。
【0032】
一般的に、エンジンの1サイクル中に1回実行される点火プラグの点火では、
図12(A)に示すように、気筒12(
図4参照)内の気流によって点火プラグ22(
図4参照)の中心電極22a(
図4および
図9参照)と接地電極22b(
図4および
図9参照)との間の初回放電が遮断された後に中心電極22aと接地電極22bとの間で2回目の放電(再放電)が実行され、エネルギーが消費されて放電が実行できなくなるまで中心電極22aと接地電極22bとの間の放電(再放電)が断続的に繰り返される。
一般には、
図12(A)に示す例のように、点火プラグ22の中心電極22aと接地電極22bとの間の初回放電が開始されてから、気筒12内の気流によって初回放電が遮断されるまでの放電維持時間Ts1に基づき、気筒12内の気流の流速が算出される。一方、初回放電中に点火コイル50の電磁エネルギーが消費され、
図12(B)に示すように、中心電極22aと接地電極22bとの間の放電電流が低下していくため、2回目の放電の放電維持時間Ts2は初回放電の放電維持時間Ts1より短くなり、3回目の放電の放電維持時間Ts3は2回目の放電の放電維持時間Ts2より短くなる。
詳細には、時間の経過と共に放電電流が低下するため、放電経路中の電離イオンが減少し、
図11に示すように放電経路間電圧が上昇し、それに伴って、短い放電経路長で放電が遮断され、その放電に引き続く再放電が行われるようになる。
その結果、2回目以降の放電における放電維持時間Ts2、Ts3、…に基づいては、気筒12内の気流の流速を正確に算出することが難しい。
ところで、上述したように、点火プラグ22の点火はエンジンの1サイクル中に1回しか実行されない。従って、点火プラグ22の中心電極22aと接地電極22bとの間の初回放電中に、例えば気流方向が急変するイレギュラーな現象が生じた場合には、その初回放電における放電維持時間Ts1に基づいて算出される気筒12内の気流の流速が不正確になってしまう。
【0033】
この問題点に鑑み、第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置は、気筒12(
図4参照)内の気流の流速の算出精度を向上させることができるように構成されている。
具体的には、第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置では、
図13(B)に示すように、中心電極22a(
図4および
図9参照)と接地電極22b(
図4および
図9参照)との間の放電電流の値が一定に維持される。その結果、
図13(A)に示すように、初回放電の放電維持時間Ts1と、初回放電に引き続いて実行される2回目以降の放電(再放電)の放電維持時間Ts2、Ts3とが等しくなる。つまり、2回目以降の放電(再放電)の放電維持時間Ts2、Ts3と気筒12内の気流の流速との相関が高くなる。
詳細には、第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置では、初回放電中に例えば気流方向が急変するイレギュラーな現象が生じた場合に、初回放電の放電維持時間Ts1に基づくのはなく、2回目以降の放電(再放電)の放電維持時間Ts2、Ts3に基づいて、気筒12内の気流の流速が算出される。そのため、気筒12内の気流の流速を算出するために初回放電の放電維持時間Ts1のみが用いられる場合よりも、気筒12内の気流の流速の算出精度を向上させることができる。
【0034】
上述した効果を奏するために、第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置では、
図14に示すように、放電維持時間Ts1、Ts2、Ts3(
図13(A)参照)に基づいて気筒12(
図4参照)内の気流の流速を算出する流速算出部70が、制御装置(ECU)90に設けられている。また、点火プラグ22の中心電極22aと接地電極22bとの間の放電電流(
図13(B)参照)を制御する放電電流制御部が、例えば制御装置90と電流制御電源60とによって構成されている。
さらに、1次コイル50aと2次コイル50bとを有する点火コイル50が設けられている。また、1次コイル50aに電圧を入力する電源51が設けられている。1次コイル50aへの電圧の入力が、例えば制御装置90から制御信号が入力されるトランジスタなどのようなスイッチ52によって切り替えられる。
1次コイル50aを流れる電流が急激に減少すると、2次コイル50bに誘導電圧が生じ、放電電流が接地電極22bから中心電極22aに流れ、その電流がダイオード56を介して2次コイル50bに流れる。
【0035】
放電電流が接地電極22bから中心電極22aに流れるとき、点火コイル50の電磁エネルギーが消費されてしまうため、仮に電流制御電源60が設けられていない場合には、
図12(B)に示すように、点火期間中、放電電流が低下し続けてしまい、その結果、
図12(A)に示すように、再放電の放電維持時間Ts2、Ts3が初回放電の放電維持時間Ts1よりも短くなり、気筒12(
図4参照)内の気流の流速の算出に、再放電の放電維持時間Ts2、Ts3を用いることができなくなってしまう。
【0036】
そこで、第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置では、放電電流制御部として機能する電流制御電源60および制御装置90によって、
図13(B)に示すように、点火期間中、中心電極22aと接地電極22bとの間の放電電流の値が一定に維持されるように、点火プラグ22にエネルギーが重畳的に付加される。その結果、
図13(A)に示すように、初回放電の放電維持時間Ts1と、初回放電に引き続いて実行される2回目以降の放電(再放電)の放電維持時間Ts2、Ts3とが等しくなる。
そのため、第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置では、初回放電の放電維持時間Ts1のみならず、2回目以降の放電(再放電)の放電維持時間Ts2、Ts3に基づいても、気筒12内の気流の流速を算出することができる。
【0037】
上述したように、例えば気流方向が急変するイレギュラーな現象が初回放電中に生じる場合がある。
この点に鑑み、第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置では、
図14に示すように、初回放電の放電維持時間Ts1(
図13(A)参照)に基づいて算出された気筒12(
図4参照)内の気流の流速が異常値であるか否かを判断する判断部80が設けられている。さらに、初回放電の放電維持時間Ts1に基づいて算出された気筒12内の気流の流速が異常値であると判断部80によって判断されたときに、流速算出部70が、2回目以降の放電(再放電)の放電維持時間Ts2、Ts3(
図13(A)参照)に基づいて気筒12内の気流の流速を算出する。
【0038】
第1の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置では、点火プラグ22にエネルギーを付加的に供給し、
図13(B)に示すように点火期間中の放電電流の値を一定に維持するために、2次コイル50bの側に配置された電流制御電源60を有する放電電流制御部が設けられているが、第2の実施形態の内燃機関の気流の流速算出装置では、代わりに、点火プラグ22にエネルギーを付加的に供給し、
図13(B)に示すように点火期間中の放電電流の値を一定に維持するために、昇圧装置(図示せず)によって1次コイル50aの側にエネルギーを付加したり、複数のコイル(図示せず)を別個に設けたりすることもできる。
【0039】
第3の実施形態では、上述した第1および第2の実施形態ならびに各例を適宜組み合わせることもできる。