(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の予混合圧縮着火エンジンが適用されるエンジンシステムの構成を示す図である。本実施形態のエンジンシステムは、4ストロークのエンジン本体1と、エンジン本体1に燃焼用の空気を導入するための吸気通路30と、エンジン本体1で生成された排気を排出するための排気通路40とを備える。
【0021】
エンジン本体1は、例えば、4つの気筒2が
図1の紙面と直交する方向に直列に配置された直列4気筒エンジンである。このエンジンシステムは車両に搭載され、エンジン本体1は車両の駆動源として利用される。本実施形態では、エンジン本体1は、ガソリンを含む燃料の供給を受けて駆動される。なお、燃料は、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。
【0022】
(1)エンジン本体
図2は、エンジン本体1の概略断面図である。
【0023】
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復動(上下動)可能に嵌装されたピストン5とを有する。
【0024】
ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。燃焼室6はいわゆるペントルーフ型であり、シリンダヘッド4の下面で構成される燃焼室6の天井面6a(以下、単に、燃焼室天井面6aという)は吸気側および排気側の2つの傾斜面からなる三角屋根状をなしている。ピストン5の冠面5a(以下、単に、ピストン冠面5aという)には、その中心部を含む領域をシリンダヘッド4とは反対側(下方)に凹ませたキャビティ10が形成されている。なお、ここでは、ピストン5の位置や混合気の燃焼状態によらず気筒2の内側空間のうちピストン冠面5aと燃焼室天井面6aとの間の空間を、燃焼室6という。
【0025】
本実施形態では、エンジン本体1の幾何学的圧縮比、つまり、ピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、16以上35以下(例えば20程度)に設定されている。
【0026】
シリンダヘッド4には、吸気通路30から供給される空気を気筒2(燃焼室6)内に導入するための吸気ポート16と、気筒2内で生成された排気を排気通路40に導出するための排気ポート17とが形成されている。これら吸気ポート16と排気ポート17とは、気筒2毎にそれぞれ2つずつ形成されている。
【0027】
シリンダヘッド4には、各吸気ポート16の気筒2側の開口をそれぞれ開閉する吸気弁18と、各排気ポート17の気筒2側の開口をそれぞれ開閉する排気弁19とが設けられている。
【0028】
シリンダヘッド4には、燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)22が設けられている。インジェクタ22は、噴射口が形成された先端部が燃焼室天井面6aの中央付近に位置して燃焼室6の中央を臨むように取り付けられている。インジェクタ22は、燃焼室天井面6aの中央付近からピストン冠面5aに向かって、気筒2の中心軸を中心としたコーン状(詳しくはホローコーン状)に燃料を噴射するように構成されている。コーンのテーパ角(噴霧角)は、例えば90°〜100°である。
【0029】
本実施形態では、インジェクタ22として、外開式のインジェクタが用いられている。なお、インジェクタ22は、前記のように気筒2の中心軸を中心としたコーン状に燃料を噴射可能なものであればどのような構成のものであってもよく、外開式に限らず、VCO(Valve Covered Orifice)ノズルタイプのインジェクタや、先端部に複数の噴孔が設けられかつ所定の噴霧角で燃料を噴射するマルチホールタイプのインジェクタや、ホロ−コーン状に燃料を噴射するスワールインジェクタであってもよい。
【0030】
シリンダヘッド4には、燃焼室6内の混合気を点火するための点火プラグ(点火装置)23が設けられている。点火プラグ23は、火花を放電して混合気に点火エネルギーを付与する電極が形成された電極部23aを有する。点火プラグ23は、電極部23aが燃焼室天井面6aの中央付近に位置して燃焼室6の中央を臨むように配置されている。
【0031】
シリンダヘッド4には、さらに、燃焼室6内に水を噴射する水噴射装置24が設けられている。水噴射装置24は、噴射口が形成された先端部が燃焼室天井面6aの中央付近に位置して燃焼室6の中央を臨むように取り付けられている。水噴射装置24は、この天井面6aの中央付近からからピストン冠面5aに向かって、気筒2の中心軸を中心としたコーン状(詳しくはホローコーン状)に水を噴射するように構成されている。このコーンのテーパ角(噴霧角)は、例えば90°〜100°である。水噴射装置24としては、例えば、インジェクタ22と同様の構造を有する装置を適用することができる。以下では、適宜、水噴射装置24により燃焼室6に噴射された水を噴射水という。
【0032】
なお、
図2および燃焼室6の概略断面図である
図3に示すように、インジェクタ22と水噴射装置24とは、その各先端部が燃焼室天井面6aの中央付近において近接するように配置されている。また、点火プラグ23は、その電極部23aが、これらインジェクタ22および水噴射装置24のうちインジェクタ22の先端部により近接するように配置されている。
【0033】
図1に戻り、吸気通路30には、上流側から順に、エアクリーナ31と、吸気通路30を開閉するためのスロットルバルブ32とが設けられている。本実施形態では、エンジンの運転中、スロットルバルブ32は基本的に全開もしくはこれに近い開度に維持されており、エンジンの停止時等の限られた運転条件のときにのみ閉弁されて吸気通路30を遮断する。
【0034】
排気通路40には、上流側から順に、排気を浄化するための浄化装置41、コンデンサー42が設けられている。浄化装置41は、例えば、三元触媒を内蔵している。
【0035】
コンデンサー42は、排気通路40を通過する排気中の水(水蒸気)を凝縮するためのものである。コンデンサー42と水噴射装置24とは水供給通路61によって接続されており、コンデンサー42で生成された凝縮水は、水供給通路61を介して水噴射装置24に供給される。このように、本実施形態では、水噴射装置24は、排気から生成された水の供給を受けてこれを燃焼室6内に噴射する。より詳細には、水供給通路61には、コンデンサー42で生成された凝縮水を貯留する水タンク43が設けられるとともに、水タンク43内の水を圧送する水ポンプ44が設けられており、この水ポンプ44によって水タンク43から水噴射装置24に凝縮水が供給される。
【0036】
排気通路40には、排気通路40を通過する排気の一部をEGRガスとして吸気通路30に還流するためのEGR装置46が設けられている。EGR装置46は、吸気通路30のうちスロットルバルブ32よりも下流側の部分と排気通路40のうち浄化装置41よりも上流側の部分とを連通するEGR通路47、および、EGR通路47を開閉するEGRバルブ48を有する。また、本実施形態では、EGR通路47に、これを通過するEGRガスを冷却するためのEGRクーラ49が設けられており、EGRガスはEGRクーラ49にて冷却された後吸気通路30に還流される。
【0037】
(2)制御系統
(2−1)システム構成
図4は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。
図4に示すように、本実施形態のエンジンシステムは、PCM(パワートレイン・コントロール・モジュール、制御手段)100によって統括的に制御される。PCM100は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
【0038】
車両には各種センサが設けられており、PCM100はこれらセンサと電気的に接続されている。例えば、シリンダブロック3には、エンジン回転数を検出するクランク角センサSN1が設けられている。また、吸気通路30を通って各気筒2に吸入される空気量を検出するエアフローセンサSN2が設けられている。また、車両には、運転者により操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN3が設けられている。
【0039】
PCM100は、これらセンサSN1〜SN3等からの入力信号に基づいて種々の演算を実行して、点火プラグ23、インジェクタ22、水噴射装置24、スロットルバルブ32、EGRバルブ48、水ポンプ44等のエンジンの各部を制御する。
【0040】
本実施形態では、EGRバルブ48は全運転領域において開弁され、全運転領域においてEGRガスが吸気通路30に還流される。
【0041】
また、熱効率を高めるべく、点火プラグ23の点火時期(点火プラグ23が混合気を点火する時期)が、全運転領域において、熱発生率の重心、すなわち、燃焼室6に供給される燃料の全量(質量)の50%が燃焼を完了するタイミングが、膨張行程となるように制御される。
【0042】
また、本実施形態では、全運転領域において予混合圧縮着火燃焼(CI燃焼)が実施される。ただし、予混合圧縮着火燃焼を実現するための各種制御が運転領域に応じて異なっている。
【0043】
図5は、横軸がエンジン回転数、縦軸がエンジン負荷の制御マップである。本実施形態では、制御領域として、エンジン負荷が予め設定された第1負荷Tq1以下の低負荷領域A1と、エンジン負荷が第1負荷Tq1より大きくかつ第4負荷(基準負荷)Tq4以下の中負荷領域A2と、エンジン負荷が第4負荷Tq4よりも高い高負荷領域A3とが設定されている。さらに、中負荷領域A2が、エンジン負荷が第2負荷Tq2以下の中負荷第1領域A2_1と、エンジン負荷が第2負荷Tq2より大きくかつ第3負荷Tq3以下の中負荷第2領域A2_2と、エンジン負荷が第3負荷Tq3より大きい中負荷第3領域A2_3とに分けられている。以下に、各運転領域A1〜A3における制御内容について説明する。
【0044】
(2−2)低負荷領域A1
図6は、低負荷領域A1における燃料の噴射パターンおよび熱発生率dQを概略的に示した図である。
図6に示すように、低負荷領域A1では、一括噴射F10が行われ、1燃焼サイクルに燃焼室6に供給する燃料の全量が圧縮行程の前半にインジェクタ22から燃焼室6に噴射される。なお、この噴射量(インジェクタ22から噴射される燃料の量)は、アクセル開度等から算出されたエンジン負荷とエンジン回転数等から演算される。
【0045】
このように、低負荷領域A1では、燃料の全量が圧縮行程前半に燃焼室6内に噴射されて空気と混合される。そして、この混合気がピストン5の圧縮作用により昇温および昇圧することで圧縮上死点付近において自着火し、これにより、予混合圧縮着火燃焼(CI燃焼)が実現される。
【0046】
なお、低負荷領域A1では、水噴射装置24による水噴射は停止される。
【0047】
(2−3)中負荷領域
中負荷領域A2では、点火アシストによる予混合圧縮着火燃焼(SI+CI燃焼)を実施する。すなわち、燃焼室6に形成された混合気に点火プラグ23から放電を行い、点火プラグ23周りの混合気を強制的に着火する。そして、点火プラグ23周りから火炎伝播を生じさせて燃焼室6内の混合気を昇温し、他の混合気を自着火させる。
【0048】
中負荷領域A2では、点火時期において、燃焼室6のうち点火プラグ23の電極部23aを含む中央側領域(第1領域)R1に形成される第1混合気G1の空燃比が、理論空燃比よりもリーン(混合気の空燃比A/Fが理論空燃比よりも大きく混合気の空気過剰率λがλ>1となり)、かつ、燃焼室6のうち第1領域R1よりも外周側の外周側領域(第2領域)R2に形成される第2混合気G2の空燃比以上となるように、インジェクタ22から燃料を噴射する。そして、
図3に示すように、中央側領域R1に形成された第1混合気G1を火炎伝播燃焼(SI燃焼)させて、外周側領域R2に形成された第2混合気G2を圧縮自着火燃焼(CI燃焼)させる。
【0049】
本実施形態では、
図3に示すように、中央側領域R1は、気筒2の中心軸に沿う方向から見ておよそキャビティ10が形成された領域であり、外周側領域R2は、キャビティ10よりも気筒2の径方向の外側の領域である。
【0050】
図7、
図8、
図9は、それぞれ、中負荷第1領域A2_1、中負荷第3領域A2_2、中負荷第3領域A2_3における、燃料噴射の噴射パターンと、点火時期と、熱発生率とを概略的に示した図である。なお、中負荷第2領域A2_2、中負荷第3領域A2_3では、後述するように水噴射を行っており、
図8、
図9には合わせて水噴射の噴射パターンを示している。
【0051】
図7、
図8、
図9に示すように、中負荷領域A2では、各領域A2_1〜A2_3の噴射パターンはほぼ同様であって、2回に分けて燃焼室6内に燃料が噴射される。そして、これにより、中央側領域R1と外周側領域R2とに空燃比の異なる混合気が形成される。
【0052】
図10は、中負荷領域A2における混合気の形成手順を説明するための図である。
図10(1)〜(4)は、この順に時間が経過しており、
図10の(1)は、吸気行程中の燃焼室6内の状態を、
図10の(2)〜(4)は、圧縮行程中の燃焼室6内の様子を示している。
【0053】
図10の(1)に示すように、インジェクタ22は、まず、燃焼室6の全域に燃料を拡散させるための第1燃料噴射F21を実施する。第1燃料噴射F21は、吸気行程から圧縮行程前期までの期間内に実施される。なお、本明細書において圧縮行程等の○○行程の前期、中期、後期は、この行程を3等分したときの前期、中期、後期のことを指し、○○行程の前半、後半は、この行程を2等分したときの前半、後半のことを指す。
【0054】
このとき、第1燃料噴射F21の噴射量(第1燃料噴射F1によって燃焼室6内に噴射された燃料の量)は、燃焼室6内に存在する空気を理論空燃比で割った値よりも小さくされる。
【0055】
図10の(2)に示すように、第1燃料噴射F21実施後しばらく後には、第1燃料噴射F21により噴射された燃料は燃焼室6のほぼ全域に拡散し、燃焼室6には理論空燃比よりもリーンでほぼ均質な混合気が形成される。ここで、第1燃料噴射F21を吸気行程の前半であって吸気ポート16から燃焼室6へ流入する空気の流速が比較的高いタイミングで実施すれば、第1燃料噴射F21によって噴射された燃料を、燃焼室6内により確実に均質に拡散させることができる。
【0056】
次に、インジェクタ22は、外周側領域R2に燃料を偏在させるための第2燃料噴射F22を実施する。具体的には、インジェクタ22は、
図10の(3)に示すように、インジェクタ22から噴射された燃料がキャビティ10の周縁部10cと衝突するようなタイミングで燃料を噴射する。
【0057】
図10の(3)に示すように、このように噴射された燃料はキャビティ10の周辺部10cへ至った後これに沿って燃焼室6の天井面6a側に向かい、キャビティ10の外周側すなわち外周側領域R2に導入される。例えば、第2燃料噴射F22は、圧縮行程中期(BTDC120°CAからBTDC60°CAまで)に実施される。
【0058】
第2燃料噴射F22によって、中負荷領域A2では、
図10の(4)に示すように、燃焼室6内が成層化される。すなわち、中央側領域R1に、第1燃料噴射F21によって噴射された燃料と空気との混合気であって理論空燃比よりもリーンな混合気(第1混合気G1)が形成され、外周側領域R2に、第1燃料噴射F21の燃料と第2燃料噴射F22の燃料と空気との混合気であって、第1燃料噴射F21の燃料によってのみ形成された中央側領域R1の混合気よりもリッチな(空燃比が小さい)混合気(第2混合気G2)が形成される。この成層状態は点火時期まで維持され、点火時期においても中央側領域R1には理論空燃比よりもリーンな混合気が存在し、外周側領域R2には中央側領域R1の混合気よりもリッチな混合気が存在することになる。
【0059】
第2燃料噴射F22が実施された後は、点火プラグ23によって混合気への点火が実施される。例えば、圧縮上死点よりも進角側の時期に混合気へ点火が行われる。
【0060】
図11は、中負荷領域A2および高負荷領域A3における、エンジン負荷と、各領域R1、R2の混合気の空燃比(点火時期における空燃比)との関係を示した図である。
【0061】
図11に示すように、中負荷領域A2では、エンジン負荷によらず点火時期での外周側領域R2の混合気の空燃比AF_R2が理論空燃比とされる。
【0062】
一方、中負荷領域A2における中央側領域R1の混合気の空燃比AF_R1は、エンジン負荷が第2負荷Tq2を超えるまではエンジン負荷によらず一定の値(例えば20程度)に制御され、エンジン負荷が第2負荷Tq2を超えると、エンジン負荷の増大に伴ってリッチにされる(低減される)。例えば、エンジン負荷に比例して空燃比AF_R1が低減される。なお、これを実現するために、中負荷領域A2では、エンジン負荷が第2負荷Tq2を超えるまでは、第1燃料噴射F21の噴射量と第2燃料噴射F22の噴射量との比率がエンジン負荷によらずほぼ一定に維持され、エンジン負荷が第2負荷Tq2を超えると、エンジン負荷の増大に伴って第1燃料噴射F21の噴射量の割合(1燃焼サイクルあたりに燃焼室6に供給される燃料量の総量に対する割合)が増大されて第2燃料噴射F22の噴射量の割合が低減される。
【0063】
なお、
図11に示すように、本実施形態では、中負荷領域A2と高負荷領域A3との境界、すなわちエンジン負荷が第4負荷Tq4となる運転条件では、中央側領域R1の混合気の空燃比AF_R1が理論空燃比まで低下され、これにより、中央側領域R1の混合気の空燃比AF_R1と外周側領域R2の混合気の空燃比AF_2とは同じ理論空燃比となる。このエンジン負荷が第4負荷Tq4となる運転条件では、第2燃料噴射F22は、停止される。
【0064】
一方、中負荷領域A2の各領域A2_1〜A2_3の水噴射の噴射パターンは互いに異なっている。次に、この水噴射の噴射パターンについて説明する。
【0065】
中負荷第1領域A2_1では、水噴射装置24による水噴射は停止される。
【0066】
中負荷第2領域A2_2では、水噴射装置24による水噴射が実施される。そして、中負荷第2領域A2_2では、水噴射の噴射パターンは、点火時期において外周側領域R2にのみ噴射水が存在する噴射パターンとされる。
【0067】
具体的には、中負荷第2領域A2_2では、第2燃料噴射F22と同様に、すなわち、
図10の(3)で示した第2燃料噴射F22のように、水噴射装置24から噴射された水がキャビティ10の周縁部10cに至るようなタイミング(例えば、圧縮行程中期)で1回だけ水噴射W1が行われ、これにより外周側領域R2にのみ噴射水が導入される。
【0068】
中負荷第3領域A2_3でも、水噴射装置24による水噴射が実施される。ただし、中負荷第2領域A2_2では、水噴射の噴射パターンは、点火時期において中央側領域R1と外周側領域R2とに噴射水が存在する噴射パターンとされる。また、このとき、中央側領域R1の水の濃度よりも外周側領域R2の水の濃度の方が高くされる。
【0069】
具体的には、まず、燃焼室6全体に噴射水が拡散するタイミングで水噴射W11が行われ、その後、中負荷第2領域A2_2での水噴射W1と同様に噴射水がキャビティ10の周縁部10cに至って外周側領域R2にのみ導入されるタイミングで追加の水噴射W12が行われる。例えば、
図9に示すように、圧縮行程中期の比較的早いタイミングで最初の水噴射W11が実施され、その後、圧縮行程の比較的遅いタイミングで次の水噴射W12が実施される。これにより、最初の水噴射W11によって中央側領域R1に噴射水の濃度が比較的薄い混合気が形成され、次の水噴射W12によって外周側領域R2の噴射水の濃度が高められる。
【0070】
図12は、エンジン負荷と、各領域R1、R2の噴射水の濃度(点火時期における噴射水の濃度)との関係を示したグラフである。
図12に示すように、本実施形態では、中負荷第2領域A2_2と中負荷第3領域A2_3とからなる運転領域において、エンジン負荷が高くなるほど外周側領域R2の噴射水の濃度Cw_R2が高くなるように制御される。また、中負荷第3領域A2_3において、エンジン負荷が高くなるほど中央側領域R1の噴射水の濃度Cw_R1が高くなるように制御される。また、中負荷第3領域A2_3におけるエンジン負荷に対する噴射水の濃度の増加割合は中央側領域R1の方が大きく、エンジン負荷が高くなるほど外周側領域R2の噴射水の濃度Cw_R2と中央側領域R1の噴射水の濃度Cw_R1との差が小さくされる。
【0071】
なお、
図7〜9では、各水噴射W1、W11、W12がそれぞれ第2燃料噴射F22の後に実施される場合を示したが、水の噴射タイミングと燃料の噴射タイミングとは独立して設定することができ、高負荷第2領域A3_2の水噴射W1、高負荷第3領域A3_3の各水噴射W11、W12は、第2燃料噴射F22よりも前に実施されてもよい。例えば、高負荷第3領域A3_3の第1水噴射W11を、吸気行程中に行ってもよい。ただし、高負荷第2領域A3_2の水噴射W1と、高負荷第3領域A3_3の第2水噴射W12は、より確実に外周側領域R2にのみ噴射水を存在させることができるように前記のように圧縮行程中期に実施する。
【0072】
(2−4)高負荷領域
図13は、高負荷領域A3における、燃料噴射の噴射パターンと、水噴射パターンと、点火時期と、熱発生率とを概略的に示した図である。
【0073】
高負荷領域A3でも、その全域で、中負荷領域A2と同様に点火アシストによる予混合圧縮着火燃焼(SI+CI燃焼)を実施する。また、高負荷領域A3でも、中負荷領域A2と同様に、その全域で、点火時期において中央側領域R1の混合気の空燃比AF_R1が外周側領域R2の混合気の空燃比AF_R2よりもリーンになるように、インジェクタ22から燃料を噴射する。
【0074】
ただし、高負荷領域A3では、
図11に示すように、その全域で、中央側領域R1の混合気の空燃比AF_R1および外周側領域R2の混合気の空燃比AF_R2を、理論空燃比よりもリッチ(λ<1)にする。
【0075】
本実施形態では、前記のように第4負荷Tq4において中央側領域R1および外周側領域R2の混合気の空燃比がほぼ理論空燃比とされる。そして、第4負荷Tq4からエンジン負荷が増大するのに伴ってこれら混合気の空燃比が理論空燃比よりもリッチにされる。例えば、エンジン負荷に比例して理論空燃比から低減される。
【0076】
また、高負荷領域A3では、中負荷第3領域A2_3と同じ水噴射パターンで燃焼室6への水噴射が実施される。すなわち、点火時期において中央側領域R1と外周側領域R2とに噴射水が存在し、かつ、中央側領域R1の噴射水の濃度Cw_R1よりも外周側領域R2の噴射水の濃度Cw_R2の方が高くなるように水噴射が実施される。
【0077】
図12に示すように、高負荷領域A4でも、中負荷第3領域A2_3と同様に、エンジン負荷が高くなるほど中央側領域R1の噴射水の濃度Cw_R1および外周側領域R2の噴射水の濃度Cw_R2が高くなるように制御されるとともに、エンジン負荷が高くなるほど外周側領域R2の噴射水の濃度Cw_R2と中央側領域R1の噴射水の濃度Cw_R1との差が小さくなるように制御される。本実施形態では、エンジン負荷が最大負荷のとき、すなわち、いわゆる全開領域において、外周側領域R2の噴射水の濃度Cw_R2と中央側領域R1の噴射水の濃度Cw_R1とが一致するようにこれら濃度が制御される。
【0078】
(3)作用等
以上のように、本実施形態では、全運転領域A1〜A3にて予混合圧縮着火燃焼が実現される。そのため、熱効率を高めることができる。
【0079】
また、中負荷領域A2および高負荷領域A3において点火アシストを行っており、これら運転領域A2、A3において、点火時期を調整することで着火時期を適切な時期に制御することができ着火時期の制御性を高めることができる。
【0080】
ここで、中負荷領域A2および高負荷領域A3では、燃焼室6に供給される燃料の総量が多くなり発熱量が多くなることに伴って燃焼騒音が増大しやすい。
【0081】
これに対して、本実施形態では、中負荷領域A2において、点火プラグ23の電極部23aを含む中央側領域R1の混合気の空燃比AF_R1を外周側領域R2の混合気の空燃比AF_R2よりもリーンにして点火アシストを行っている。そのため、点火エネルギーを受けて中央側領域R1で生じる火炎伝播燃焼を緩慢にして燃焼室6内の急激な温度上昇を抑制することができ、これに続く外周側領域R2での混合気の圧縮自着火燃焼が過剰に早期に開始されることを抑制できるとともに、この圧縮自着火燃焼を緩慢にすることができる。従って、燃焼に伴う筒内圧の急激な上昇を抑制して燃焼騒音を小さくすることができる。特に、中負荷領域A2では、中央側領域R1の混合気の空燃比AF_R1を、基本的に理論空燃比よりもリーンにしている。そのため、中央側領域R1での火炎伝播燃焼およびこれに続く圧縮自着火燃焼をより確実に緩慢にして燃焼騒音の増大を抑制することができる。
【0082】
しかしながら、高負荷領域A3では、エンジン負荷が高いために燃焼室6に供給せねばならない燃料の総量が増大して燃焼室6内での発熱量が増大するため、燃焼騒音がより高くなりやすい。そのため、中負荷領域A2と同様の制御では燃焼騒音を十分に抑制できなくなる。
【0083】
これに対して、本実施形態では、高負荷領域A3において、中央側領域R1の混合気の空燃比AF_R1を外周側領域R2の混合気の空燃比AF_R2よりもリーンにしつつ、これら領域R1、R2の混合気の空燃比AF_R1、AF_R2を理論空燃比よりもリッチにしている。
【0084】
そのため、多量の燃料の気化潜熱によって混合気を冷却して燃焼温度ひいては燃焼時の筒内圧の急激な上昇を抑えることができる。特に、点火時期における外周側領域R2の混合気の空燃比AF_R2が中央側領域R1の混合気の空燃比AF_R1よりもリッチにされていることで、外周側領域R2の混合気の温度をより低く抑えることができ、外周側領域R2で生じる圧縮自着火燃焼を効果的に緩慢にして燃焼騒音を小さくすることができる。
【0086】
高負荷領域A3において、仮に燃焼室6内の空燃比を理論空燃比よりリッチにしなかった場合には、燃料の気化潜熱による冷却効果が少ないため、点火プラグ23周りで急激な火炎伝播燃焼(SI燃焼)が生じ、周辺の温度が急激に上昇する。そのため、この場合には、
図14に示すように、中央側領域R1の外周部分においても圧縮自着火燃焼(CI燃焼)が生じることになり、圧縮自着火燃焼(CI燃焼)が過剰に早期に開始することになるとともに、この中央側領域R1の外周部分に存在する混合気と外周側領域R2に存在する混合気とからなる多くの混合気が短期間で圧縮自着火燃焼(CI燃焼)を行うことになる。従って、この場合には、
図15の破線に示すように、点火直後に燃焼室6全体の混合気が急激に燃焼し、筒内圧が急上昇して燃焼騒音が増大する。
【0087】
これに対して、本実施形態では、中央側領域R1の混合気の空燃比AF_R1を理論空燃比よりもリッチしている。そのため、多量の燃料の気化潜熱によって中央側領域R1の混合気の温度を低く抑えることができ、点火プラグ23周りで急激な火炎伝播燃焼(SI燃焼)が生じるのを抑制して中央側領域R1の外周部分および外周側領域R2での過早着火を抑制できるとともに、外周側領域R2での混合気の燃焼を緩慢にすることができる。さらに、本実施形態では、外周側領域R2の混合気の空燃比AF_R2が理論空燃比よりもリッチにされていることでこの外周側領域R2の混合気の温度が低く抑えられる。特に、外周側領域R2の混合気の空燃比AF_R2が中央側領域R1の混合気の混合気の空燃比AF_R1よりもリッチとされており、効果的に外周側領域R2の混合気の温度が低く抑えられる。そのため、
図15の実線で示すように、外周側領域R2での混合気の燃焼すなわち圧縮自着火燃焼(CI燃焼)を緩慢にすることができ、効果的に燃焼騒音を小さくすることができる。
【0088】
さらに、本実施形態では、高負荷領域A3において燃焼室6内に水を噴射している。そのため、混合気の比熱を高めて燃焼温度の上昇を抑制することができる。
【0089】
特に、本実施形態では、高負荷領域A3において、外周側領域R2と中央側領域R1との両方に噴射水を供給している。そのため、中央側領域R1での火炎伝播燃焼を緩慢にして周囲の温度上昇を抑制し、これにより、圧縮自着火燃焼が過剰に早期に開始するのを抑制すること、および、圧縮自着火燃焼を緩慢にすることができるとともに、外周側領域R2に供給された噴射水によるこの外周側領域R2の混合気の比熱の増大によっても外周側領域R2での圧縮自着火燃焼を緩慢にすることができる。従って、高負荷領域A3においてより確実に燃焼騒音を小さくすることができる。
【0090】
このことは中負荷第3領域A2_3においても同様であり、本実施形態では、中負荷第3領域A2_3においても、外周側領域R2と中央側領域R1との両方に噴射水を供給していることで燃焼騒音を確実に小さくすることができる。
【0091】
また、中負荷第2領域A2_2であって、エンジン負荷が比較的低いが十分に低くはない領域では、外周側領域R2にのみ噴射水を供給している。そのため、内周側領域R1に噴射水が供給されることによってこの領域R1の温度が過剰に低下して火炎が適切に伝播しなくなるのを回避しつつ、外周側領域R2での圧縮自着火燃焼を緩慢にすることができ、圧縮自着火燃焼を実現しつつ燃焼騒音を小さくすることができる。
【0092】
(4)変形例
前記実施形態では、中負荷第2領域A2_2、中負荷第3領域A2_3および高負荷領域A3において燃焼室6内に噴射水を供給する場合について説明したが、噴射水を供給する制御は省略してもよい。すなわち、水噴射装置24は省略してもよい。ただし、これらのエンジン負荷が比較的高い領域において燃焼室6内に噴射水を供給すれば、より一層燃焼騒音を小さくすることができる。
【0093】
また、前記実施形態では、中負荷第3領域A2_3および高負荷領域A3において、中央側領域R1にも噴射水が存在するように制御する場合について説明したが、この中央側領域R1への水噴射の供給は省略してもよい。ただし、中央側領域R1にも噴射水を存在させれば、より一層燃焼騒音を小さくすることができる。
【0094】
また、前記実施形態では、中央側領域R1と外周側領域R2の両領域に噴射水を供給する場合(中負荷第3領域A2_3および高負荷領域A3で運転されている場合)に、エンジン負荷が高くなるほど中央側領域R1の噴射水の濃度Cw_R1と外周側領域R2の噴射水の濃度Cw_R2との差を小さくする場合について説明したが、これら濃度の関係はこれに限らず、エンジン負荷によらず濃度差が一定となるようにしてもよい。ただし、前記のように、この差をエンジン負荷の増大に伴って小さくし、外周側領域R2の噴射水の濃度Cw_R2を高くすれば効果的に燃焼騒音を小さくすることができる。
【0095】
また、前記実施形態では、水噴射装置24の噴射時期を変更することで、噴射水を中央側領域R1と外周側領域R2とに偏在させた場合について説明したが、噴射水を偏在させるための具体的な構成はこれに限らない。例えば、水噴射装置24として、異なる領域に水を噴射可能なもの、例えば、異なる噴射角度で水を噴射することが可能なものを用いて、この噴射領域(噴射角度)を変更することで水を偏在させてもよい。同様に、インジェクタ22においても、噴射領域の変更等によって燃料を偏在させてもよい。
【0096】
また、前記実施形態では、全運転領域においてEGRバルブ52を開弁してEGRガスを吸気通路30に還流させる場合について説明したが、一部の領域でのみEGRガスを還流させてもよい。また、EGR装置46を省略してもよい。ただし、中負荷領域A2および高負荷領域A3においてEGRガスを還流させれば、燃焼室6内の不活性ガスを多くして燃焼温度の急激な上昇およびこれに伴う燃焼騒音の増大をより確実に抑制することができる。
【0097】
また、エンジン本体の幾何学的圧縮比は前記に限らない。ただし、中負荷領域A2等において中央側領域R1の混合気の空燃比をリーンとしながら適切な火炎伝播燃焼を実現するため、また、混合気の圧縮自着火燃焼を確実に実現するために、幾何学的圧縮比は前記実施形態のように設定されるのが好ましい。
【解決手段】燃焼室6のうち点火装置23の電極部23aを含む第1領域R1の混合気G1が点火エネルギーを受けて燃焼した後、第1領域R1の外周側に位置する第2領域R2に形成された混合気G2が自着火するSI+CI燃焼が起きるように制御するとともに、SI+CI燃焼の実行領域のうち高負荷領域A3では、燃焼室6全体の空燃比を理論空燃比よりもリッチにし、かつ、第1領域R1の混合気G1の空燃比が第2領域R2の混合気の空燃比よりもリーンになるように制御する。