【実施例】
【0022】
以下に、コイル成形治具にかかる実施例について、図面を参照して説明する。
本例のコイル成形治具(渡り部成形治具)1は、
図1〜
図3に示すように、一対の第1側面としての幅狭側面802A,802B及び一対の第2側面としての幅広側面803A,803Bを有する平角線801から、ステータコアのスロット内に配置される渦巻状のコイルと他のスロットに配置される渦巻状のコイルとを接続するための、コイルの一部としての渡り部82を成形するために用いられる。コイル成形治具1は、平角線801における、渡り部82を構成する部分の第1の幅広側面803Aに当接する第1治具部2と、平角線801における、渡り部82を構成する部分の第2の幅広側面803Bに当接する第2治具部3とを有している。コイル成形治具1は、第2治具部3が第1治具部2への接近方向S1へスライドすることによって、第1治具部2と第2治具部3との間に挟み込む平角線801に、一対の幅広側面803A,803Bの方向に折り曲げる第2方向曲げとしてのフラットワイズ曲げF1,F2と、一対の幅狭側面802A,802Bの方向に折り曲げる第1方向曲げとしてのエッジワイズ曲げE1,E2とを順次行うよう構成されている。
【0023】
図1に示すように、第2治具部3は、接近方向S1とは反対側の離隔方向S2へスライドして、渡り部82が配置された第1治具部2から離隔するよう構成されている。また、
図4、
図5、
図11に示すように、第2治具部3は、エッジワイズ曲げE2が行われるときに、第2の幅広側面803Bにおける曲げの内側部分804に膨らんで形成される膨らみ部83に対向する部位に、膨らみ部83を逃がすための逃がし溝36を有している。このエッジワイズ曲げE2は、後述する2段階目のエッジワイズ曲げE2として行われる。逃がし溝36は、第2治具部3が離隔方向S2へスライドする際に、膨らみ部83が通過する経路に沿って設けられている。
【0024】
以下に、本例のコイル成形治具1について、
図1〜
図11を参照して詳説する。
本例のコイル8は、回転電機のステータコアに配置されて、ステータを形成するために用いられる。コイル8は、集中巻コイルであり、ステータコアのティースに装着されるインシュレータの外周に装着される。コイル8は、3相回転電機を構成するものである。コイル8は、略四角形の渦巻状に形成されており、外周側に向かうに連れて外形が拡大している。
【0025】
図10に示すように、コイル成形治具1によって渡り部82を成形するコイル8は、ステータコアの軸方向外方に引き出された引出し端部81と、ステータコアの軸方向外方に引き出された後、他のコイル8の軸方向外方を周方向に伸びる渡り部82とを有している。コイル8の渡り部82は、他の2相のコイル8の軸方向外方に配置されて、同相のコイル8の引出し端部81に接続される。
本例のコイル成形治具1は、一対の幅狭側面802A,802B及び一対の幅広側面803A,803Bを有する平角線801を巻回して形成されたコイル8に、他のコイル8の端部81と接続するための渡り部82を成形するために用いられる。本例の渡り部82は、コイル8から延設された平角線801の部分に成形される。
【0026】
同図に示すように、コイル8の引出し端部81及び渡り部82は、ステータコアの軸方向一方側に設けられる。コイル8の引出し端部81は、コイル8における外周側部分に配置され、コイル8の渡り部82は、コイル8における内周側部分に配置される。
渡り部82は、2段階にフラットワイズ曲げF1,F2が行われた後、2段階にエッジワイズ曲げE1,E2が行われて成形される。渡り部82におけるフラットワイズ曲げF1,F2は、コイル8側の基端部からステータコアの内周側に配置される方向に2段階に行われている。渡り部82におけるエッジワイズ曲げE1,E2は、ステータコアの軸方向内方に配置される方向に行われた後、ステータコアの軸方向外方に配置される方向に行われている。2段階目のエッジワイズ曲げE2は、渡り部82の先端部821に略直角に行われており、1段階目のエッジワイズ曲げE1は、渡り部82の先端部821に隣接する位置に行われている。
【0027】
平角線801は、導体部の外周に絶縁被膜層を有するものであり、長方形の断面形状を有するものである。一対の幅狭側面802A,802Bは、長方形の断面形状の一対の短辺を形成する面であり、一対の幅広側面803A,803Bは、長方形の断面形状の一対の長辺を形成する面である。コイル成形治具1によって渡り部82の成形を行うための平角線801の先端部は、絶縁被膜層を剥離して、導体部が露出する状態にしておくことができる。
平角線801が巻回されたコイル8は、一対の幅広側面803A,803Bがステータコアの径方向に向けられた状態でステータコアのティースに装着される(ステータコアのスロットに配置される)。
【0028】
図1〜
図3に示すように、第1治具部2は、曲げを行う平角線801が配置される位置に固定されて平角線801を受ける固定治具部2Aと、固定治具部2Aに対してスライド可能に設けられた分割治具部2Bとを有している。固定治具部2Aは、1段階目及び2段階目のフラットワイズ曲げF1,F2を行う際の荷重受けを構成する。分割治具部2Bは、固定治具部2A及び第2治具部3に対してスライドして、渡り部82の先端部821に略直角に曲げる2段階目のエッジワイズ曲げE2を行うよう構成されている。
【0029】
コイル成形治具1は、第1のアクチュエータによって、第2治具部3を接近方向S1及び離隔方向S2の第1の同一軸方向へスライドさせるとともに、第2のアクチュエータによって、分割治具部2Bを第1の同一軸方向と平行な第2の同一軸方向へスライドさせるよう構成されている。
コイル8は支持台4の上に支持され、支持台4は、渡り部82の曲げを行う間は、固定治具部2Aとともに位置が固定される。渡り部82は、その基端部において、ステータコアの軸方向に伸びる状態からステータコアの周方向に伸びる状態にエッジワイズ曲げE3によって曲げられる(
図10参照)。この基端部のエッジワイズ曲げE3は、第1治具部2及び第2治具部3によって成形後の渡り部82を挟み込んだ状態において、コイル8を支持する支持台4を移動させることによって行うことができる。
【0030】
図6、
図8に示すように、固定治具部2A及び分割治具部2Bは、渡り部82の第1の幅広側面803Aの形状に沿った第1段差底面21と、渡り部82の第1の幅狭側面802Aの形状に沿った第1段差側面22とを有している。第1段差側面22は、第1の幅狭側面802Aの幅と略同一の高さに形成されており、かつ第1段差底面21に対して直角に形成されている。固定治具部2Aの第1段差底面21は、固定治具部2Aにおける第2治具部3側の端部位置に形成されており、固定治具部2Aの一般面20から段差状に下がって形成されている。分割治具部2Bの第1段差底面21は、分割治具部2Bにおける第2治具部3側の端部位置に形成されており、分割治具部2Bの一般面20から段差状に下がって形成されている。
【0031】
図6に示すように、固定治具部2Aの第1段差底面21及び第1段差側面22は、渡り部82の先端部821を除く部分を成形する形状を有しており、
図8に示すように、分割治具部2Bの第1段差底面21及び第1段差側面22は、渡り部82の先端部821を成形する形状を有している。
また、
図4に示すように、第2治具部3の第2段差側面32は、平角線801の先端部を略直角に曲げる2段階目のエッジワイズ曲げE2を行うための屈曲側面部321を有している。屈曲側面部321は、これに繋がる第2段差側面32から略直角に屈曲して形成されている。また、
図8に示すように、分割治具部2Bに形成された第1段差側面22は、第2段差側面32の屈曲側面部321とともに平角線801の先端部を略直角に曲げる2段階目のエッジワイズ曲げE2を行うための分割側面部221を有している。
【0032】
図6に示すように、固定治具部2Aの第1段差底面21には、渡り部82の1段階目のフラットワイズ曲げF1を行う起点位置にある第1角部211と、渡り部82の2段階目のフラットワイズ曲げF2を行う起点位置にある第2角部212とが形成されている。また、固定治具部2Aの第1段差底面21には、1段階目のエッジワイズ曲げE1が行われるときに、一対の幅広側面803A,803Bにおける曲げの内側部分804に膨らんで形成される膨らみ部83Aに対向する部位に、この膨らみ部83Aを逃がすための別の逃がし溝23を有している。この別の逃がし溝23は、膨らみ部83Aとの干渉を避けるよう窪み形状に形成されている。
【0033】
図4、
図5に示すように、第2治具部3は、渡り部82の第2の幅広側面803Bの形状に沿った第2段差底面31と、渡り部82の第2の幅狭側面802Bの形状に沿った第2段差側面32とを有している。第2段差側面32は、第2の幅狭側面802Bの幅と略同一の高さに形成されており、かつ第2段差底面31に対して直角に形成されている。
第2治具部3は、第2段差底面31から延設された面であって、フラットワイズ曲げF1,F2及びエッジワイズ曲げE1,E2が行われる平角線801を第1段差底面21との間に挟み込む挟持面33と、挟持面33に交差する面であって、挟持面33との間に、フラットワイズ曲げF1,F2を行うための成形角部35を形成する傾斜面34A,34B,34C,34Dとを有している。
【0034】
挟持面33は、平角線801の第2の幅広側面803Bに対面して、固定治具部2Aにおける第1段差底面21との間に、平角線801を順次挟み込んでいく面である。また、フラットワイズ曲げF1,F2を行う段階に応じて、傾斜角度θが異なる複数段階(本例では4段階)の傾斜面34A,34B,34C,34Dが形成されている。
第1傾斜面34A及び第2傾斜面34Bは、これらに隣接する成形角部35によって1段階目のフラットワイズ曲げF1を行う部分である。第2傾斜面34Bは、第1傾斜面34Aよりも急な傾斜角度の急傾斜面として形成されており、1段階目のフラットワイズ曲げF1が行われた平角線801を第1段差底面21との間に挟み込んでいく速度を高めた部分である。
【0035】
第3傾斜面34C及び第4傾斜面34Dは、これらに隣接する成形角部35によって2段階目のフラットワイズ曲げF2を行う部分である。第3傾斜面34Cは、第2傾斜面34Bよりも緩やかな傾斜角度の緩傾斜面として形成されている。第4傾斜面34Dは、第3傾斜面34Cよりも急な傾斜角度の急傾斜面として形成されている。各フラットワイズ曲げF1,F2が行われた平角線801は、固定治具部2Aの第1段差底面21と第2治具部3の挟持面33との間に順次挟み込まれていく。
【0036】
図4に示すように、成形角部35は、傾斜面34A,34B,34C,34Dの傾斜角度θが変化する位置である、各傾斜面34A,34B,34C,34D間の境界位置に、他の部位に比べて平角線801に強く接触する屈曲成形部351を有している。屈曲成形部351は、成形角部35が屈曲する位置に形成されている。成形角部35における、屈曲成形部351以外の部分は、直線状の一般部352として形成されている。
【0037】
図4、
図5に示すように、逃がし溝36は、屈曲側面部321に隣接する位置において、平角線801の先端部を略直角に曲げた際に形成される膨らみ部83を逃がす部位に設けられている。逃がし溝36は、第2段差側面32における屈曲側面部321に隣接する位置において、第
2段差底面
31から、挟持面33を経由して、緩傾斜面としての第3傾斜面34Cに隣接する成形角部35における一般部352まで連続して設けられている。逃がし溝36は、第
2段差底面
31及び挟持面33における離隔方向S2の全長に亘って設けられている。
【0038】
次に、上記コイル成形治具1を用いてコイル8の渡り部82を成形する方法、及び本例の作用効果について説明する。
まず、
図1に示すように、渡り部82を成形するための平角線801の部分が引き出されたコイル8を支持台4に支持し、この平角線801の基端側部分を固定治具部2Aの第1段差底面21及び第1段差側面22に配置する。また、分割治具部2B及び第2治具部3は、成形を行う前の初期位置に後退させておく。
【0039】
次いで、
図2に示すように、第2治具部3を、接近方向S1へスライドさせて固定治具部2Aに接近させる。このとき、第1傾斜面34Aに隣接する成形角部35によって、平角線801に対して1段階目のフラットワイズ曲げF1が開始される。
図5において、このときの平角線801の状態を二点鎖線801Aによって示す。そして、平角線801が、基端側部分から順に固定治具部2Aの第1段差底面21と第2治具部3の挟持面33との間に挟持されていく。
ここで、
図2は、2段階のフラットワイズ曲げF1,F2を行った状態を、第2治具部3を省略した状態で示す。
【0040】
次いで、
図5に示すように、第2治具部3が接近方向S1へさらにスライドしたときには、第2傾斜面34Bに隣接する成形角部35によって、平角線801に対して1段階目のフラットワイズ曲げF1がさらに行われる。このとき、第2傾斜面34Bが第1傾斜面34Aに比べて急な傾斜角度に形成してあることにより、フラットワイズ曲げF1を行う速度を速くすることができる。同図において、このときの平角線801の状態を二点鎖線801Bによって示す。
【0041】
次いで、
図5に示すように、第2治具部3が接近方向S1へさらにスライドしたときには、第3傾斜面34Cに隣接する成形角部35によって、平角線801に対して2段階目のフラットワイズ曲げF2が開始される。そして、平角線801が、第1段差底面21と挟持面33との間にさらに挟持されていく。同図において、このときの平角線801の状態を二点鎖線801Cによって示す。
【0042】
第3傾斜面34Cに隣接する成形角部35によって2段階目のフラットワイズ曲げF2が行われる時には、平角線801は、成形角部35における逃がし溝36上を通過する。このとき、逃がし溝36が、緩傾斜面としての第3傾斜面34Cに隣接する成形角部35の一般部352まで設けられ、成形角部35の屈曲成形部351には設けられていないことにより、逃がし溝36が、フラットワイズ曲げF2の成形精度に影響することが防止される。
【0043】
次いで、第2治具部3が接近方向S1へさらにスライドしたときには、第4傾斜面34Dに隣接する成形角部35によって、平角線801に対して2段階目のフラットワイズ曲げF2が行われる。
また、第4傾斜面34Dに隣接する成形角部35によって2段階目のフラットワイズ曲げF2が行われた直後、あるいは2段階目のフラットワイズ曲げF2が行われると同時に、固定治具部2Aの第1段差側面22と第2治具部3の第2段差側面32とによって、平角線801に対して1段階目のエッジワイズ曲げE1が行われる。
【0044】
このとき、
図5、
図6に示すように、平角線801の一対の幅広側面803A,803Bにおける曲げの内側部分804に膨らんで形成される膨らみ部83Aは、固定治具部2Aの第1段差底面21に設けられた別の逃がし溝23に逃げることができる。これにより、1段階目のエッジワイズ曲げE1の成形精度を向上させることができる。
【0045】
固定治具部2Aに対する第2治具部3の接近方向S1へのスライドが完了したときには、平角線801は、固定治具部2Aの第1段差底面21と第2治具部3の第2段差底面31との間において一対の幅広側面803A,803Bの方向に挟み込まれるとともに、固定治具部2Aの第1段差側面22と第2治具部3の第2段差側面32との間において一対の幅狭側面802A,802Bの方向に挟み込まれる。そして、
図3に示すように、固定治具部2Aと第2治具部3とによって平角線801が拘束された状態で、固定治具部2A及び第2治具部3に対して分割治具部2Bを前進させて、2段階目のエッジワイズ曲げE2を行う。この分割治具部2Bを前進させる方向は、第2治具部3を固定治具部2Aから離隔させるときの離隔方向S2と同じ方向である。
ここで、同図は、2段階のエッジワイズ曲げE1,E2を行った状態を、第2治具部3を省略した状態で示す。
【0046】
分割治具部2Bが隔離方向と同じ方向へスライドしたときには、平角線801の先端部は、分割治具部2Bの第1段差底面21と第2治具部3の第2段差底面31との間において一対の幅広側面803A,803Bの方向に挟み込まれるとともに、分割治具部2Bの第1段差側面22における分割側面部221と、第2治具部3の第2段差側面32における屈曲側面部321との間において一対の幅狭側面802A,802Bの方向に挟み込まれる。このとき、
図5に示すように、平角線801の先端部における、一対の幅広側面803A,803Bにおける曲げの内側部分804に膨らんで形成される膨らみ部83を、逃がし溝36へ逃がすことができる。こうして、平角線801の先端部に2段階目のエッジワイズ曲げE2が行われて、略直角に屈曲する先端部821を有する渡り部82が成形される。
【0047】
次いで、成形後の渡り部82を取り出す際には、分割治具部2Bを、第2治具部3の接近方向S1と同じ方向に後退させ、第2治具部3を、離隔方向S2へスライドさせる。第2治具部3を離隔方向S2へスライドさせるときには、
図5、
図11に示すように、2段階目のエッジワイズ曲げE2が行われた、略直角の先端部821における曲げの内側部分804における膨らみ部83が、第2治具部3における逃がし溝36に沿って通過することができる。そして、この膨らみ部83が、挟持面33における離隔方向S2の全長において、逃がし溝36に干渉することが避けられる。これにより、渡り部82における略直角の先端部821に形成された膨らみ部83が第2治具部3に接触することが防止され、渡り部82の形状が崩れることが防止される。
【0048】
また、上述したように、第2治具部3は、固定治具部2Aに対して、接近方向S1及び離隔方向S2の同一軸方向にスライドする構造になっている。そして、成形後の渡り部82の変形を防止するために、第2治具部3を接近方向S1及び離隔方向S2の同一軸方向以外の方向へスライドさせる必要がなくなる。
それ故、本例のコイル成形治具1によれば、第1治具部2の固定治具部2Aに対して第2治具部3をスライドさせる構造が簡単になり、成形後の渡り部82の形状が崩れることが防止される。
【0049】
本例のコイル成形治具1においては、第2治具部3の逃がし溝36は、エッジワイズ曲げを行った際に形成された膨らみ部83を逃がすものとした。これ以外にも、第2治具部3の逃がし溝36は、フラットワイズ曲げを行った際に形成される膨らみ部を逃がすものとすることもできる。また、第2治具部3の逃がし溝36は、断面正方形の平角線801を曲げる際に形成される膨らみ部を逃がすものとすることもできる。
また、コイル成形治具1によって曲げ加工を行う対象は、コイル8の渡り部82とする以外にも、コイル8の渦巻状本体部の一部とすることもできる。このコイル8の渦巻状本体部の一部は、渦巻状本体部を複数に分割した際の一部とすることができる。