特許第6249100号(P6249100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249100
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】機械構造用圧延棒鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20171211BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20171211BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   C22C38/00 301Y
   C22C38/60
   C21D8/06 A
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-531474(P2016-531474)
(86)(22)【出願日】2015年7月3日
(86)【国際出願番号】JP2015069289
(87)【国際公開番号】WO2016002935
(87)【国際公開日】20160107
【審査請求日】2016年12月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-137736(P2014-137736)
(32)【優先日】2014年7月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 啓督
(72)【発明者】
【氏名】寺本 真也
(72)【発明者】
【氏名】大山 修
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−228051(JP,A)
【文献】 特開2000−256741(JP,A)
【文献】 特開2004−346415(JP,A)
【文献】 特許第5522321(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.45〜0.65%、
Si:1.00%超、1.50%以下、
Mn:0.40%超、1.00%以下、
P:0.005〜0.050%、
S:0.020〜0.100%、
V:0.08〜0.20%、
Ti:0〜0.050%、
Ca:0〜0.0030%、
Zr:0〜0.0030%、
Te:0〜0.0030%
を含有し、残部がFe及び不純物であり;
前記不純物として、
Cr:0.10%以下、
Al:0.01%未満、
N:0.0060%以下、
に制限し;
下記(式1)で求められるK1が0.95〜1.05であり;
下記(式2)で求められるK2が35超であり;
下記(式3)で求められるK3が10.7以上であり;
Mn及びSの含有量が、下記式4を満足し;
表層全脱炭深さが500μm以下である;
ことを特徴とする機械構造用圧延棒鋼。
K1=C+Si/7+Mn/5+1.54×V (式1)
K2=139−28.6×Si+105×Mn−833×S−13420×N (式2)
K3=137×C−44.0×Si (式3)
Mn/S≧8.0 (式4)
ここで、式中のC、Si、Mn、V、S、Nは各元素の質量%での含有量である。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
Ti:0.010〜0.050%、
Ca:0.0005〜0.0030%、
Zr:0.0005〜0.0030%、
Te:0.0005〜0.0030%
の1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の機械構造用圧延棒鋼。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の機械構造用圧延棒鋼の製造方法であって、
請求項1又は2に記載の前記化学組成を有する溶鋼を溶製する溶製工程と;
前記溶鋼を、連続鋳造によって断面積40000cm以下の鋳片とする鋳造工程と;
前記鋳造工程に続いて、前記鋳片を1000〜1150℃の温度域に加熱し、前記温度域で7000s以下保持し、棒鋼圧延を行う棒鋼圧延工程と;
を有することを特徴とする機械構造用圧延棒鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間鍛造などを施して製造される機械部品や構造部材など(以下、機械構造部材と称する)の素材として好適な、機械構造用圧延棒鋼及びその製造方法に関する。
本願は、2014年07月03日に、日本に出願された特願2014−137736号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
自動車、産業機械などに使用される機械構造部材は、高強度に加え、優れた延性や靱性が必要とされる場合がある。このような場合、機械構造部材は、その金属組織を焼戻しマルテンサイトとすることが好ましいので、素材の棒鋼を熱間鍛造によって成形した後、焼入れ−焼戻しなどの調質熱処理、更に、機械加工を施して製造されることが多い。
一方、靱性や延性がそれほど要求されない機械構造部材は、一般に、製造コストの点から、熱間鍛造後、調質熱処理を施さず、機械加工を施して製造される。調質熱処理を施さずに製造される鋼(非調質鋼)では、その金属組織がフェライトとパーライトとからなる複合組織であると、良好な被削性及び高い降伏比が得られる。金属組織がベイナイトを含む場合には、被削性が劣化するとともに、降伏比が低下する。そのため、非調質鋼では、金属組織をフェライトとパーライトとからなる複合組織とすることが多い。
【0003】
また、機械構造部材には、耐疲労特性が要求される場合がある。
このような場合、金属組織がフェライトとパーライトとの複合組織である機械構造部材は、軟質のフェライトが疲労破壊の起点になるという問題を有していた。これに対し、例えば特許文献1〜3には、Si添加による固溶強化や、Vなどの添加による析出強化によって、フェライトを硬化させ、パーライトとの硬度差を小さくすることで、耐疲労特性を向上させた鋼材や熱間鍛造品が提案されている。
しかしながら、特許文献1では、0.30%超のVの含有が必須である。このようにVが多量に含有されると、熱間鍛造を行う際の加熱温度を十分高くしても、Vが十分に固溶しない。この場合、未溶解V炭化物が残存し、機械構造部材の強度と延性とが低下するという問題がある。
また、特許文献2では、0.01%以上のAlの含有が必須である。しかしながら、Alは鋼中に硬質な酸化物を形成し、鋼の被削性を著しく低下させるという問題がある。
また、特許文献3では、1.0%以上のMnと0.20%以上のCrの含有が必須である。しかしながら、Mn及びCrは被削性を劣化させ、降伏比を低下させるベイナイトの変態を促進する元素であるという問題がある。
【0004】
一方、例えば特許文献4には、高価な元素であるVの代替としてSiによる固溶強化を利用し、更に、Cr添加によるラメラ間隔の微細化によって、耐疲労特性(疲労強度)の向上を図った鋼材が提案されている。
しかしながら、鋼材にSiを含有させた場合、一定量以下であれば、耐疲労特性の向上が図れるものの、Siを多量に含有させると鋼材の表面に脱炭層が形成され、機械構造部材としての耐疲労特性が低下するという問題が生じる。また、特許文献4では、0.10%以上のCrの含有が必須であるが、Crは被削性を劣化させ、降伏比を低下させるベイナイトの変態を促進する元素である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開平7−3386号公報
【特許文献2】日本国特開平9−143610号公報
【特許文献3】日本国特開平11−152542号公報
【特許文献4】日本国特開平10−226847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、従来、Siを多量に含有し、かつ、Cr、Alを含有させず、低コストでかつ優れた耐疲労特性を有する機械構造部材は提供されていなかった。
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、機械構造部材の耐疲労特性を向上させるには、特に、機械構造部材表層の硬度を制御することが重要であることを見出した。また、本発明者らは、機械構造部材の表層の硬度を制御するためには、その素材となる圧延棒鋼(機械構造用圧延棒鋼)の表層部の組織を制御することが有効であることを見出した。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑み、強度及び耐疲労特性が要求される機械構造部材の素材として好適な機械構造用圧延棒鋼、及びその製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の通り、機械構造部材の耐疲労特性を向上させるには、特に、機械構造部材表層の硬度を制御することが重要であり、そのためには、その素材となる圧延棒鋼(機械構造用圧延棒鋼)の表層部の組織を制御することが有効である。
しかしながら、Crを含有せず、Siの含有量を増加させて、低コスト化を図った圧延棒鋼を素材として用いる場合、機械構造部材表層の脱炭が顕著になり、硬度が低下して、耐疲労特性が劣化することがわかった。
【0009】
そのため、本発明者らは、Siを多量に含有する圧延棒鋼を素材とする機械構造部材の、耐疲労特性に及ぼす脱炭の影響、脱炭の原因について検討した。その結果、機械構造部材の表層の脱炭の原因が、素材である圧延棒鋼にあることを突き止めた。
更に、本発明者らは、圧延棒鋼の表層の脱炭は、連続鋳造後の冷却や熱間圧延前の加熱において、フェライト(α)とオーステナイト(γ)とが共存するα/γ二相域を通過する際に促進される鋳片の脱炭に起因することを明らかにし、対策を検討した。そして、本発明者らは、鋼のC含有量を多くし、脱炭が促進されるα/γ二相域の温度範囲(A点とA点との間の温度差)を小さくし、かつ、鋳造時の鋳片サイズを小さくすることによって、鋳片の温度がα/γ二相域を通過する時間が短くなり、圧延棒鋼の表層の脱炭が軽減されることを明らかにした。また、鋳片サイズを小さくすることにより、鋳造後、鋼片のサイズの調整を目的とする分塊圧延工程の省略も可能になった。
更に、本発明者は、熱間鍛造に必要とされる圧延棒鋼の熱間延性を確保しつつ、熱間鍛造によって成形された機械構造部材の強度を向上させることが可能な、圧延棒鋼の最適な成分組成(化学成分)及び製造条件を見いだした。
また、この圧延棒鋼を熱間鍛造して得られる機械構造部材において、優れた耐疲労特性(疲労限度比)が得られることを見出した。
【0010】
本発明は上記の知見に基づいてなされた。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
(1)本発明の一態様に係る機械構造用圧延棒鋼は、化学組成が、質量%で、C:0.45〜0.65%、Si:1.00%超、1.50%以下、Mn:0.40%超、1.00%以下、P:0.005〜0.050%、S:0.020〜0.100%、V:0.08〜0.20%、Ti:0〜0.050%、Ca:0〜0.0030%、Zr:0〜0.0030%、Te:0〜0.0030%を含有し、残部がFe及び不純物であり;前記不純物として、Cr:0.10%以下、Al:0.01%未満、N:0.0060%以下、に制限し;下記式1で求められるK1が0.95〜1.05であり;下記式2で求められるK2が35超であり;下記式3で求められるK3が10.7以上であり;Mn及びSの含有量が、下記式4を満足し;表層全脱炭深さが500μm以下である。
K1=C+Si/7+Mn/5+1.54×V (式1)
K2=139−28.6×Si+105×Mn−833×S−13420×N (式2)
K3=137×C−44.0×Si (式3)
Mn/S≧8.0 (式4)
ここで、式中のC、Si、Mn、V、S、Nは各元素の質量%での含有量である。
【0012】
(2)上記(1)に記載の機械構造用圧延棒鋼では、前記化学組成が、質量%で、Ti:0.010〜0.050%、Ca:0.0005〜0.0030%、Zr:0.0005〜0.0030%、Te:0.0005〜0.0030%の1種以上を含有してもよい。
【0013】
(3)本発明の別の態様に係る機械構造用圧延棒鋼の製造方法は、上記(1)又は(2)に記載の機械構造用圧延棒鋼の製造方法であって、上記(1)又は(2)に記載の前記化学組成を有する溶鋼を溶製する溶製工程と;前記溶鋼を、連続鋳造によって断面積40000cm以下の鋳片とする鋳造工程と;前記鋳造工程に続いて、前記鋳片を1000〜1150℃の温度域に加熱し、前記温度域で7000s以下保持し、棒鋼圧延を行う棒鋼圧延工程と;を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記態様によれば、Cr、Alの含有量を制限し、Siを多く含有させた低コストの機械構造用圧延棒鋼において、深い脱炭層の形成を抑制した圧延棒鋼を提供できる。この圧延棒鋼を素材として熱間鍛造によって製造された機械構造部材は、優れた耐疲労特性を有するので、産業上の貢献が極めて顕著である。また、本発明の上記態様に係る製造条件によれば、圧延棒鋼の製造工程において分塊圧延工程を省略することできるので、製造コストが低減され、産業上の貢献が極めて顕著である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る機械構造用圧延棒鋼(以下、本実施形態に係る圧延棒鋼と言う場合がある)は、化学組成が、質量%で、C:0.45〜0.65%、Si:1.00%超、1.50%以下、Mn:0.40%超、1.00%以下、P:0.005〜0.050%、S:0.020〜0.100%、V:0.08〜0.20%を含有し、さらに、必要に応じて、Ti:0.050%以下、Ca:0.0030%以下、Zr:0.0030%以下、Te:0.0030%以下を含有し、残部がFe及び不純物であり;前記不純物として、Cr:0.10%以下、Al:0.01%未満、N:0.0060%以下、に制限し;K1=C+Si/7+Mn/5+1.54×Vで求められるK1が0.95〜1.05であり;K2=139−28.6×Si+105×Mn−833×S−13420×Nで求められるK2が35超であり;K3=137×C−44.0×Siで求められるK3が10.7以上であり;Mn及びSの含有量が、Mn/S≧8.0を満足し;表層全脱炭深さが500μm以下である。
【0016】
まず、本実施形態に係る圧延棒鋼の化学組成について説明する。以下、化学組成に関する%は質量%を意味する。以下の説明において含有量を範囲で示す場合、特に説明が無い限り上限と下限を含むものとする。すなわち、0.45〜0.65%と表記した場合、0.45%以上0.65%以下の範囲を意味する。
【0017】
(C:0.45〜0.65%)
Cは安価に鋼材の引張強さを高めることができる元素である。また、Cは鋼のA点温度を低下させる元素である。鋳片の表層の脱炭は、連続鋳造後の冷却や熱間圧延前の加熱において、鋳片温度がα/γ二相域(すなわち、A点〜A点の間の温度域)を通過する際に促進される。そのため、C含有量を増加させてα/γ二相域温度域を狭くすることにより、鋳片の表層の脱炭が抑制される。
本実施形態に係る圧延棒鋼では、α/γ二相域の温度範囲を小さくし、強度を確保するため、C含有量を0.45%以上とする。一方、本実施形態に係る圧延棒鋼を熱間鍛造にて成形し、直後に連続冷却した場合、鋼材のC含有量が多いほど降伏比は低下する。降伏比は、0.2%耐力を引張強さで除して求めた値である。降伏比が低下すると、0.2%耐力を所望の値とした場合に引張強度が過剰に高くなり、被削性低下の原因となる。したがって、機械構造部材の降伏比の低下を抑制するため、C含有量を0.65%以下とする。好ましくは、0.60%以下である。
【0018】
(Si:1.00%超、1.50%以下)
Siは、安価で、鋼材の高強度化に寄与する有用な元素である。この効果を得るため、Si含有量を1.00%超とする。好ましくは、1.10%以上とする。一方、Si含有量が過剰になると、表層の脱炭深さが過剰になる上、熱間延性が低下して、棒鋼圧延や熱間鍛造の際に、疵が発生し易くなる。また、Si含有量が多くなると、α/γ二相域の温度範囲が大きくなる。そのため、Si含有量を1.50%以下とする。
【0019】
(Mn:0.40%超、1.00%以下)
Mnは、Si、Vに比べて、延性の低下を抑制しつつ鋼材を高強度化できる固溶強化元素である。また、Mnは、Sと結合して被削性を向上させるMnSを形成する元素である。Mn含有量が少ないと、SはFeSをオーステナイト粒界上に形成して熱間延性を著しく低下させるので、割れや疵が発生しやすくなる。したがって、FeSの生成を抑制し、熱間延性を確保するため、Mn含有量を0.40%超とする。一方、Mn含有量が過剰であると、熱間鍛造品の組織に、降伏比を低下させるベイナイトが混在する場合がある。そのため、Mn含有量は1.00%以下とする。好ましくは0.95%以下、より好ましくは0.90%以下である。
【0020】
(P:0.005〜0.050%)
Pは、フェライト変態を促進してベイナイト変態を抑制する作用を有する元素である。熱間鍛造後の冷却時にベイナイト変態を抑制するため、P含有量を0.005%以上とする。一方、P含有量が過剰になると、熱間延性が低下し、鋼片に疵が発生する場合がある。そのため、P含有量の上限を0.050%に限定する。好ましくは0.040%以下である。
【0021】
(S:0.020〜0.100%)
Sは、被削性を向上させるMn硫化物(MnS)を形成する元素であり、被削性の向上に寄与する。この効果を得るため、S含有量を0.020%以上とする。一方、S含有量が0.100%超になると、粗大なMnSが多量に鋼中に分散し、熱間延性が低下して鋼片に疵が発生する場合がある。そのため、S含有量の上限を0.100%に限定する。
【0022】
(V:0.08〜0.20%)
Vは、V炭化物及び/またはV窒化物を形成して鋼材の析出強化に寄与する元素であり、特に、鋼材の降伏比を高める効果を有する。この効果を得るため、V含有量を0.08%以上とする。一方、Vは高価な合金元素であり、また、熱間鍛造後の冷却時に、望ましくないベイナイト組織の変態を促進する元素である。よって、コスト低減及びベイナイト変態抑制のため、V含有量を0.20%以下とする。好ましくは、0.15%以下とする。
【0023】
本実施形態に係る圧延棒鋼は、上記の化学成分を含有し、残部がFe及び不純物であることを基本とする。しかしながら、本実施形態に係る圧延棒鋼は、必要に応じて、Ca、Te、Zr、Tiを以下に示す範囲で、Feの一部に代えてさらに含んでもよい。ただし、これらの元素は必ずしも含有させる必要はないので、その下限は0%である。
不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石若しくはスクラップ等のような原料、又は製造工程の種々の環境から混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。不純物のうち、Al、N及びCrについては、特に、その含有量を以下の範囲に制限する。
【0024】
(Al:0.01%未満)
Alは不純物である。Alは、鋼中に存在すると、酸素と結合して硬質のAl酸化物を形成し鋼材の被削性を低下させる。したがって、Al含有量は少ない方が好ましい。Al含有量が0.01%以上であると、被削性が著しく低下するため、Al含有量を0.01%未満に制限する。
【0025】
(N:0.0060%以下)
Nは、不純物である。Nは鋼中に存在すると、Vと結合してV窒化物を形成する。V窒化物は、V炭化物に比べると粗大であり、析出強化への寄与が小さい。したがって、N含有量が多いと、V窒化物が増加し、その分、V炭化物が少なくなる。その結果、Vの析出強化への寄与が小さくなる。V含有量を少なくしても、十分な析出強化の効果を得るためには、V窒化物の総量は少ない方が好ましく、従って、N含有量は少ない方が好ましい。N含有量が0.0060%超であると、特にVの析出強化への寄与が著しく小さくなるので、N含有量を0.0060%以下に制限する。一方、製鋼技術上、Nを低減するとコストが高くなるので、下限を0.0020%としてもよい。
【0026】
(Cr:0.10%以下)
Crは、不純物である。Crは、強度に対する影響は小さいが、熱間鍛造後の冷却時に、ベイナイト変態を促進する。そのため、Cr含有量が多くなると、圧延棒鋼を熱間鍛造して得られた機械構造用部材において、降伏比が低下する。Cr含有量は少ない方が好ましいが、Cr含有量が0.10%を超えるとその影響が顕著になるため、Cr量を0.10%以下に制限する。
【0027】
(Ca:0.0005〜0.0030%)
(Zr:0.0005〜0.0030%)
(Te:0.0005〜0.0030%)
Ca、Te、Zrは、何れもMnS粒子を微細化、球状化する(すなわち、硫化物の形態を制御する)元素である。MnSが伸長すると、熱間延性の異方性が大きくなるので、特定方向の割れが生じやすくなる。割れを抑制することが必要とされる場合、Ca、Zr、Teから選択される1種以上を含有させてもよい。MnSの微細化、球状化の効果を得る場合、Ca含有量、Zr含有量および/またはTe含有量を、それぞれ、0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Ca含有量、Zr含有量、Te含有量が過剰になると、粗大なCa、Zr、Teの酸化物が形成され、被削性が低下する。そのため、含有させる場合でも、Ca含有量、Zr含有量、Te含有量は、何れも、0.0030%以下が好ましい。
【0028】
Ti:0.010〜0.050%
Tiは、鋼中にTi窒化物を形成する元素である。Ti窒化物は、鋼材の組織を整粒にする効果を有する。この効果を得る場合、Ti含有量を0.010%以上とすることが好ましい。一方で、Ti窒化物は硬質であり、切削加工時の工具寿命を低下させることがある。そのため、含有させる場合でも、Ti含有量を0.050%以下とする。
【0029】
本実施形態に係る圧延棒鋼は、上記の各元素の含有量だけではなく、C、Si、Mn、V、S、Nが以下に示す関係を満たす必要がある。式中のC、Si、Mn、V、S、Nは、質量%での各元素の含有量である。
【0030】
(K1:0.95〜1.05)
K1は強度に関する指標である炭素当量であり、下記(式1)で求められる。
K1=C+Si/7+Mn/5+1.54×V (式1)
本実施形態に係る圧延棒鋼を素材とし、熱間鍛造によって成形した機械構造部材の引張強さは、炭素当量K1に影響される。K1が0.95以上の圧延棒鋼を用いて、熱間鍛造によって機械構造部材を製造すると、組織がパーライトを主体とするフェライトとパーライトとからなり、900MPa超の引張強さ、570MPa以上の0.2%耐力、0.45以上の疲労限度比(疲労限/引張強さ)を有する機械構造部材を得ることができる。一方、K1が1.05を超える場合、機械構造部材にベイナイトが生成して降伏比が低下する。したがって、炭素当量K1を0.95〜1.05に限定する。
【0031】
(K2>35)
K2は、本発明者らが後述する実験から求めた、熱間延性に関する指標であり、下記(式2)で求められる。
K2=139−28.6×Si+105×Mn−833×S−13420×N (式2)
【0032】
実験には、0.52〜0.54%のCを含有し、Si、Mn、P、S、Nの含有量がそれぞれ異なる17水準の圧延棒鋼を用いた。これらの圧延棒鋼から切り出し及び加工を行って得られた、直径10mm、長さ100mmの試験片の熱間延性を評価した。熱間延性は、試験片の中央部を、加熱して溶融させ、その後凝固させた直後に、種々の温度に保持し、0.05mm/sの速度で引っ張り、破断させて、破断後の絞り値で評価した。また、950℃、1100℃、1200℃の保持温度(引張温度)における絞り値を従属変数とし、合金元素含有量を独立変数として回帰計算し、有意な独立変数を平均してK2(式2)を得た。
その結果、このK2の値が35を超える場合には、鋼片の鋳造、及び、圧延棒鋼の熱間鍛造において、疵、割れの発生は認められなかった。よって、熱間延性指標K2を35超とした。
K2の上限は、限定する必要はなく、Si、Mn、S、Nのそれぞれの含有量の範囲から決定されるが、100を上限としてもよい。
上記式2から分かるように、Si、S、Nが熱間延性の低下因子、Mnが向上因子となる。よって、基本的にそれらのバランスから、K2の値を満たすことが必要となる。しかしながら、後述するように、Mn/Sが8.0未満になると、有害なFeSが生成するので、仮に、K2の値が35超を満たしたとしても、Mn/Sが8.0未満ならば特性が低下する。
【0033】
(K3≧10.7)
K3は表層脱炭に影響するα/γ二相域温度の幅に関する指標であり、下記(式3)で求められる。
K3=137×C−44.0×Si (式3)
本実施形態に係る圧延棒鋼の鋼組成では、K3を10.7以上とすることで、α/γ二相域の温度範囲が狭く、例えば80℃以下になる。この場合、連続鋳造後の冷却及び熱間圧延前の加熱の際に鋳片の表層に生じる脱炭を抑制することができる。その結果、圧延棒鋼の表層の脱炭が軽減され、熱間鍛造後の機械構造部材の耐疲労特性の低下を防止することができる。脱炭の抑制の観点では、二相域の温度範囲は狭い方が好ましいので、K3の上限を限定する必要はない。しかしながら、K3の値が高く、α/γ二相域の温度範囲が狭いと熱間鍛造後の組織がパーライトのみとなり、降伏比が低下する場合があるので、K3の上限を60としてもよい。
【0034】
(Mn/S≧8.0)
上述したように、SはMnと結合してMnSを形成する。しかしながら、Mnに対してSが過剰に含まれる場合、SはMnSの他に、FeSをオーステナイト粒界上に形成する。この場合、結果として、熱間延性が著しく低下し、熱間鍛造によって割れを生じる。したがって、FeSの生成を抑制するために、Mn/Sを8.0以上とする。Mn/Sが8.0以上であれば、熱間延性は、上述したK2の値に支配される。よって、Mn/Sは8.0以上であればよく、上限はSの最低値、Mnの最大値で決定される。
【0035】
次に、本実施形態に係る圧延棒鋼の脱炭深さ、組織について説明する。
【0036】
「表層全脱炭深さ」
上述の通り、圧延棒鋼の脱炭深さ(表層全脱炭深さ)は、圧延棒鋼を熱間鍛造して得られる機械構造部材の耐疲労特性に影響する。表層全脱炭深さが500μmを超える圧延棒鋼を素材として、熱間鍛造によって成形された機械構造部材は、耐疲労特性(疲労限度比)が劣化する。また、表層全脱炭深さが深くなると、鋼成分によっては、脱炭に起因して、引張強さ、耐力、疲労限度比が低くなることがある。したがって、圧延棒鋼の表層全脱炭深さを500μm以下とする。下限は0μmである(すなわち、脱炭層がなくてもかまわない)。
本実施形態において、圧延棒鋼の表層全脱炭深さとは、圧延棒鋼の長手方向の中央部、両端からそれぞれ全長の1/4の長さの部位とで切断して得られた3つの断面を、各々周方向に90度違いの4箇所で測定した場合の、合計12箇所の表層の脱炭深さの平均値と定義する。表層の脱炭深さは、表層から内部に向かう直線上で測定した炭素量が、内部で一定となった炭素量(内部炭素量)の90%となる深さと定義され、電子プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer、EPMAという。)によって測定することができる。
【0037】
本実施形態に係る圧延棒鋼の組織(金属組織)を限定する必要はない。しかしながら、上述したように、機械構造部材では、フェライトとパーライトとからなる複合組織(フェライト・パーライト組織)であることが好ましい。機械構造部材の組織をフェライトとパーライトとからなる組織にする場合、圧延棒鋼でも同様のフェライトとパーライトとからなる組織となる場合が多い。
【0038】
次に、本実施形態に係る圧延棒鋼の製造方法の一例について説明する。
本実施形態に係る圧延棒鋼は、上述の化学組成を有する溶鋼を常法によって溶製し(溶製工程)、この溶鋼を連続鋳造等によって、断面積40000cm以下の鋳片とし(鋳造工程)、鋳造によって得られた鋳片を、熱間圧延(棒鋼圧延ともいう。)し(棒鋼圧延工程)、製造する。本実施形態に係る圧延棒鋼の製造方法において、鋳片の断面積は40000cm以下と十分小さいので、棒鋼圧延前に断面積を小さくする分塊圧延は行わない。
【0039】
連続鋳造の鋳造断面積は小さいほど、α/γ二相域を通過する時間が短くなり、表層脱炭が抑制される。本発明者らの検討の結果、上述した化学組成の鋼を断面積196000cmに鋳造した場合、その表層脱炭深さは最大1.8mmであったが、同様の組成の鋼を断面積40000cmに鋳造した場合、表層脱炭深さは最大0.7mmであった。また、断面積40000cmに鋳造した場合鋳片を、分塊圧延することなく、後述する条件で熱間圧延して製造した直径70mmの圧延棒鋼は、その表層脱炭深さが500μmを超えることはなかった。上述したように、圧延棒鋼の表層脱炭深さが500μm以下であれば、その圧延棒鋼を熱間鍛造して製造した熱間鍛造部品(機械構造部材)は、表層脱炭による疲労強度の低下が小さい。よって、鋳造工程において、鋳造断面積は40000cm以下に限定することが好ましい。鋳造断面積が40000cmを超えた場合、分塊圧延することなく棒鋼圧延することが困難となる。鋳造の際、鋳造断面積以外は、常法に従って行えばよい。
【0040】
棒鋼圧延(熱間圧延)工程では、鋼中へのVの固溶を促進するために、鋼片を1000℃以上に加熱して、熱間圧延を行う必要がある。棒鋼圧延の加熱時にVを固溶させることで熱間圧延後の圧延棒鋼中に再析出するV炭化物が微細となる。その結果、圧延棒鋼を素材として熱間鍛造を行う際の加熱時にも、V炭化物の固溶が容易となって、機械構造部材の強度と延性を低下させる原因となる未固溶V炭化物が消滅する。加熱温度が1000℃未満であると、Vが十分に固溶しない。一方、棒鋼圧延の加熱温度の上限は1150℃とする必要がある。これは、鋼片を1150℃超の温度に加熱すると、表層の脱炭速度が急激に大きくなるためである。また、加熱温度での保持時間が長くなると脱炭が促進される。したがって、圧延棒鋼の表層全脱炭を500μm以下に抑制するため、加熱温度(1000〜1150℃)での保持時間を7000s以下とする。十分にVを固溶させるため、保持時間は、10s以上とすることが好ましい。
【0041】
上記の工程を含む製造方法によれば、本実施形態に係る圧延棒鋼を得ることができる。また、この圧延棒鋼を鍛造することによって、耐疲労特性に優れる構造用部材を得ることができる。鍛造条件は、通常行われる条件範囲であればよく、例えば、1000〜1300℃である。機械構造部材を鍛造によって成形する場合、素材を高周波加熱して熱間鍛造を行うことが多いが、高周波加熱は所定温度への到達に要する加熱時間が短いので、その間に素材(圧延棒鋼)の表層に極端な脱炭が生じることは少ない。
【実施例】
【0042】
「実施例1」
表1に示す化学組成の鋼Aを、連続鋳造して、断面積が、26244cm(断面サイズ162×162mm)、40000cm(断面サイズ200×200mm)、または75000cm(断面サイズ250×300mm)である複数の鋳片を得た。鋼Aは、K3値の下限近傍となるC、Siを含有する成分を有しており、脱炭が起きやすい組成である。表1の残部は、Fe及び不純物である。
これらの鋳片を表2に示す通り、1150℃または1200℃に加熱して7000または10000s保持した後、熱間圧延して直径70mmの圧延棒鋼とし、常温まで空冷した。これらの圧延棒鋼の表層全脱炭深さを前述した方法により求めた。
表2に、鋳片の断面積と圧延棒鋼の表層全脱炭深さの測定結果とを示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
No.A1〜A3の試料より、鋳造断面積を40000cm以下とすることで、棒鋼圧延の加熱条件が脱炭を促進する高温長時間(1150℃×7000s)であっても、圧延棒鋼の表層全脱炭深さは500μm以下に抑制できることがわかる。更に、No.A4の試料が示す結果から、棒鋼圧延開始の際の加熱温度を1150℃に設定しても7000sを超える10000sの保持時間では圧延棒鋼の表層全脱炭深さが深くなりすぎることがわかる。また、No.A5の試料が示す結果から、棒鋼圧延の際の加熱温度を1200℃とすると圧延棒鋼表層全脱炭深さが深くなりすぎることがわかる。このため、棒鋼圧延開始の際の保持温度は1000〜1150℃、保持時間は7000s以下であることが好ましいと想定できる。
【0046】
「実施例2」
表3に示す化学組成の鋼(No.B〜AH)を溶製し、連続鋳造にて断面積40000cmの鋳片とした。表3の残部は、Fe及び不純物である。この鋳片を分塊圧延することなく、そのまま熱間圧延を行って直径40mmの圧延棒鋼を製造した。熱間圧延は、表4に示すように、加熱温度を1150〜1200℃、保持時間を2000〜7000sとして行った。熱間圧延後は空冷した。
【0047】
【表3】
【0048】
圧延棒鋼の表層全脱炭深さは、前述した方法で求めた。結果を表4に示す。
次に、圧延棒鋼を高周波加熱によって、1220℃に加熱し、300s保持した後、直ちに直径方向に圧下し10mm厚さの平板に鍛造成形した。この鍛造平板の側面を切削加工し、断面幅15mm、厚さ10mm(鍛造ままの厚さ)、長さ20mmの平行部を有する試験片とし、両振りの引張圧縮疲労試験及び引張試験に供した。引張圧縮疲労試験はJIS Z 2273に準拠して行い、10回以上の寿命を示した最大負荷応力を疲労限とした。引張試験はJIS Z 2241に準拠して常温で20mm/minの速度にて実施した。
平行部の鍛造面は、加工を施さず、鍛造肌のままであるが、鋼No.BとCについては、参考として、熱間鍛造後に表面を500μm研削し、脱炭層を除去した試験片も設けた(試験No.2及び3)。また、試験片の切断部の角は、全て半径2mmの面取り加工を行った。
【0049】
表4及び表5に、熱間鍛造前の圧延棒鋼の表層全脱炭深さ、熱間鍛造後の鍛造平板のミクロ組織、0.2%耐力、引張強さ、降伏比(0.2%耐力/引張強さ)、引張圧縮試験の10回の疲労限度比(疲労限/引張強さ)を示す。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
表4の試験No.4〜11、20は本発明例である。圧延棒鋼の表層全脱炭深さは何れも500μm以下であった。また、圧延棒鋼を鍛造して得られた鍛造平板の引張強さは911MPa以上と高く、0.2%耐力は592MPa以上と高く、引張圧縮疲労試験の疲労限度比(疲労強さ/引張強さ)は、0.46以上と良好であった。また、熱間鍛造後に脱炭層を研削で削除した試験No.2及び3と、試験No.4及び5との比較から、圧延棒鋼における脱炭深さが500μm以下の場合、疲労限度比の低下が0.02以下であることが分かる。
【0053】
表4の試験No.12〜19は、圧延棒鋼の脱炭深さが500μmを超える比較例である。これらは、900MPa以上の引張強さ、570MPa以上の0.2%耐力、0.45以上の疲労限度比のうち、少なくとも1つ以上を満たしていない。
【0054】
表5の試験No.21〜44は、鋼成分(化学組成)、Mn/S、K1、K2あるいはK3のいずれかが本発明の範囲からはずれる鋼No.K〜AHの比較例である。
M/Sが8.0未満、K2値が35%未満の少なくとも一方に該当する鋼No.L、M、N、R、S、W、Y及びZを用いた試験No.22、23、24、28、29、33、35及び36は、棒鋼鍛造時に割れや大きな疵が発生し、熱間鍛造以降の評価ができなかったので、表5の各評価欄に「*」を示した。
試験No.21(鋼No.K)は、C含有量、Si含有量、K1値が低く、引張強さと0.2%耐力が、それぞれ目標とする900MPa、570MPaに達していない。
試験No.25(鋼No.O)は、鍛造品のミクロ組織がフェライト・パーライトに加えてベイナイトが混在している。この試料No.25の0.2%耐力は目標とする570MPaに達していない。この理由としては、組織にMnが多いため、FP(フェライト・パーライト)組織に加えてB(ベイナイト)組織が混在したためであると考えられる。
K3値が低い試験No.26(鋼No.P)は、熱間圧延の加熱温度を1150℃、保持時間を7000sとしたが、圧延棒鋼の表層脱炭深さが500μmを超えており、また、脱炭に起因して、引張強さ、0.2%耐力、疲労限度比のいずれも低くなった。
【0055】
K1値が低い試験No.27(鋼No.Q)は、引張強さ、0.2%耐力が低下している。
試験No.30(鋼No.T)は、C含有量が多いため、引張強さは高いが、0.2%耐力、疲労限度比が低くなった。
試験No.31(鋼No.U)は、V含有量が少なく、K1も低いため、引張強さと0.2%耐力がいずれも目標の900MPa以上、570MPa以上より低くなった。
試験No.32(鋼No.V)は、V含有量が高いために引張強さと疲労限度比は良好であるが、ベイナイト組織が混在し、0.2%耐力が低下した。
【0056】
試験No.23(鋼No.M)は、Mn/Sが小さく、鍛造時割れ、疵が発生している。鋼No.Jは、Mn/Sが小さく、鍛造時割れ、疵が発生している。
試験No.24(鋼No.N)は、Siが多く、K2が小さい試料であり、鍛造時割れ、疵が発生している。
試験No.34(鋼no.X)は、各元素の含有量は範囲内であるが、K3が10.7%より小さい試料であり、表層全脱炭深さが大きく、0.2%耐力も低下した。
試験No.28(鋼No.R)は、K2が小さいため、鍛造時割れ、疵発生になっている。
試験No.29(鋼No.S)は、Mn/Sが小さいため、鍛造時割れ、疵発生になっている。
【0057】
試験No.35(鋼No.Y)の試料は、鋼成分は望ましい範囲であり、K1、K2、K3の値も範囲内であるがMn/Sの値が8.0より小さいため、棒鋼鍛造時に割れや大きな疵が発生した。
試験No.37(鋼No.AA)は、K1を満たしているがC含有量が少なく、引張強さと0.2%耐力がいずれも目標の900MPa以上、570MPa以上より低い。
試験No.38(鋼No.AB)は、K1を満たしているがSi含有量が少ないため、0.2%耐力が低い。
試験No.39(鋼No.AC)は、Mn/S値とK2値を満たしているが、Mn含有量が少ないため、鍛造時に割れや大きな疵が発生した。
試験No.40(鋼No.AD)は、K1を満たしているがC含有量が多いため、引張強さは高いが、0.2%耐力、疲労限度比が低い。
試験No.41(鋼No.AE)は、K1を満たしているがV含有量が少ないため、0.2%耐力と疲労限度比が低い。
試験No.42(鋼No.AF)は、N含有量が多いため、V窒化物が増加し、Vの析出強化への寄与が小さくなり、引張強さ、0.2%耐力および疲労限度比ともに低い。
試験No.43(鋼No.AG)は、Cr含有量が高いために引張強さと疲労限度比は良好であるが、ベイナイト組織が混在し、0.2%耐力が低下した。
試験No.44(鋼No.AH)は、K1が大きいため、ベイナイト組織が混在し、0.2%耐力が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、Cr、Alの含有量を制限し、Siを多く含有させた低コストの機械構造用圧延棒鋼の表層において深い脱炭層の形成を抑制した圧延棒鋼を提供できる。この圧延棒鋼を素材として熱間鍛造によって製造された機械構造部材は、優れた耐疲労特性を有するので、産業上の貢献が極めて顕著である。また、本発明の上記態様に係る製造条件によれば、圧延棒鋼の製造工程において分塊圧延工程を省略することでき、製造コストを低減できるので、産業上の貢献が極めて顕著である。