(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249103
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】異常記録から素子の全パラメータを識別する方法とシステム、及び異常箇所特定方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20171211BHJP
H02J 3/24 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/24
【請求項の数】12
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-537100(P2016-537100)
(86)(22)【出願日】2014年7月7日
(65)【公表番号】特表2016-530866(P2016-530866A)
(43)【公表日】2016年9月29日
(86)【国際出願番号】CN2014081746
(87)【国際公開番号】WO2015027757
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2016年4月6日
(31)【優先権主張番号】201310383000.X
(32)【優先日】2013年8月28日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515103685
【氏名又は名称】▲ハォ▼玉山
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】▲ハォ▼玉山
【審査官】
赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2005/0137834(US,A1)
【文献】
特開2011−064465(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0086459(US,A1)
【文献】
特開2011−223647(JP,A)
【文献】
特開平06−289089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異常記録データから電気素子の全パラメータを識別する方法であって、
電気素子に関する異常記録データを入力するステップS1と、
前記異常記録データをデータ処理するステップであって、スケール変換を行うS21と、記録データの時間スケールを揃えるS22と、異常期間のデータを切り取るS23とを含むステップS2と、
切り取ったデータと素子の全パラメータ微分方程式から素子の全パラメータを識別するステップS3と、
識別結果を出力するステップS4と、を含
み、
電気素子に関する異常記録データを入力する前記ステップS1において、
二端子素子について、素子左側の三相電圧ua1、ub1、uc1と零相電圧uo1、左側の三相電流ia1、ib1、ic1と零相電流io1、及び右側の三相電圧ua2、ub2、uc2と零相電圧uo2、右側の三相電流ia2、ib2、ic2と零相電流io2のサンプリング値とサンプリングタイムを入力し、左側を{ua1k、ub1k、uc1k、uo1k、ia1k、ib1k、ic1k、io1k、t1k}、右側を{ua2j、ub2j、uc2j、uo2j、ia2j、ib2j、ic2j、io2j、t2j}、k=1,2,…,N、j=1,2,…,Mとし、
三端子素子について、素子における第1側の三相電圧ua1、ub1、uc1と零相電圧uo1、三相電流ia1、ib1、ic1と零相電流io1、第2側の三相電圧ua2、ub2、uc2と零相電圧uo2、三相電流ia2、ib2、ic2と零相電流io2、及び第3側の三相電圧ua3、ub3、uc3と零相電圧uo3、三相電流ia3、ib3、ic3と零相電流io3のサンプリング値とサンプリングタイムを入力し、第1側を{ua1k、ub1k、uc1k、uo1k、ia1k、ib1k、ic1k、io1k、t1k}、第2側を{ua2j、ub2j、uc2j、uo2j、ia2j、ib2j、ic2j、io2j、t2j}、第3側を{ua3l、ub3l、uc3l、uo3l、ia3l、ib3l、ic3l、io3l、t3l}、k=1,2,…,N、j=1,2,…,M、l=1,2,…,とし、
ステップS23の前に、デジタルフィルタリングを行うステップS23aと、リサンプリングを行うステップS23bを挿入し、
前記ステップS23aにおいて、サンプリング周波数の上限fcsを特定し、前記デジタルフィルタリングにおいてローパスフィルターを使用し、遮断周波数fcをサンプリング周波数の上限fcsより小さくすることで、高周波信号を除去してリサンプリング時のエイリアシングを回避し、
前記ステップS23bでは、サンプリング周波数の上限fcs以下の周波数で記録データをリサンプリングするとともに、両側/三方において同じリサンプリング周波数を用い、二端子素子については、
【数1】
のデータを出力し、三端子素子については、
【数2】
のデータを出力することを特徴とする方法。
【請求項2】
スケール変換を実行する前記ステップS21において、両側/三方の記録データの電圧を各PT変圧比と乗算してから統一の電圧基数で除算するとともに、電流を各CT変流比と乗算してから統一の電流基数で除算し、
記録データの時間スケールを揃える前記ステップS22において、両側/三方の零相電圧uo1とuo2/uo1とuo2とuo3の突然変化のタイミングを揃えることを原則とし、
異常期間のデータを切り取る前記ステップS23では、異常前及び異常除去後の期間のデータを除き、異常存在期間のデータのみを切り取ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
素子の全パラメータ微分方程式から素子の全パラメータを識別するステップS3において、
まず、素子の全パラメータ微分方程式を書き出すとともに、以下の状態方程式に整理し、
【数3】
式中、Xは状態変数ベクトル、tは時間、uは制御ベクトル、yは出力ベクトル、Aは状態行列、B,C及びDは行列又はベクトルであり、
【請求項4】
異常回路の全パラメータ微分方程式は下記式のようになり、
【数4】
式中、R
abc2=β・R
abc1、L
abc2=β・L
abc1、C
abc2=β・C
abc1、G
abc2=β・G
abc1であり、また、
【数5】
であり、式中、R
abcfは異常の種別により決定され、a相地絡の場合、r
bf=∞、r
cf=∞、r
af=r
fとなり、b相地絡の場合、r
af=∞、r
cf=∞、r
bf=r
fとなり、c相地絡の場合、r
af=∞、r
bf=∞、r
cf=r
fとなり、ab二相地絡の場合、r
af=r
f1、r
bf=r
f2、r
cf=∞となり、bc二相地絡の場合、r
af=∞、r
bf=r
f1、r
cf=r
f2となり、ac二相地絡の場合、r
af=r
f1、r
bf=∞、r
cf=r
f2となり、
これより、パラメータβ、r
f又はr
f1とr
f2、及びパラメータR
abc1、L
abc1、C
abc1、G
abc1を一括して識別し、
回路パラメータについては、R
abc=R
abc1+R
abc2、L
abc=L
abc1+L
abc2、C
abc=(C
abc1+C
abc2)/2、及び、G
abc=(G
abc1+C
abc2)/2となることを特徴とする請求項
3記載の方法。
【請求項5】
非異常回路の全パラメータ微分方程式は下記式のようになり、
【数6】
式中、
【数7】
であり、これより、パラメータR
abc、L
abc、C
abcを識別することを特徴とする請求項
3記載の方法。
【請求項6】
非異常二巻線変圧器の全パラメータ微分方程式は、下記式のようになり、
【数8】
式中、
【数9】
であり、これより、変圧器のパラメータr
1、r
0、l
1、l
0、g
1、g
0、l
1m、l
0mを識別することを特徴とする請求項
3記載の方法。
【請求項7】
非異常三巻線変圧器の全パラメータ微分方程式は、下記式のようになり、
【数10】
式中、
【数11】
であり、これより、パラメータr
11、r
01、l
11、l
01、r
12、r
02、l
12、l
02、r
131、r
03、l
13、l
03、g
1、g
0、l
1m及びl
0mを識別することを特徴とする請求項
3記載の方法。
【請求項8】
電気素子に関する異常記録データを入力する前記ステップS1において、
非異常発電機ついて、端部の三相電圧ua、ub、uc、三相電流ia、ib、icのサンプリング値{uak、ubk、uck、iak、ibk、ick}、電力網の角周波数ω0、発電機の回転数ω、負荷角δ、励磁電圧uf、励磁電流ifのサンプリング値{ω0k、ωk、δk、ufk、ifk}、及びサンプリングタイム{tk}を入力し、k=1,2,…,N、ω0k=2πf0kであり、f0kは電力網の電源周波数であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
素子の全パラメータ微分方程式から素子の全パラメータを識別するステップS3において、
下記の非異常発電機の全パラメータ微分方程式に基づいて、パラメータT
J、D、l
d、l
q、l
f、l
D、l
Q、m
ad、m
aD、m
aQ、m
fD、r
d、r
q、r
f、r
D、r
Q、T
g、k
g、T
a、k
a、T
e及びT
wと、k
w又はT
h及びk
hを識別し、
【数12】
三相電圧と三相電流i
a1、i
b1、i
c1の記録値から、
【数13】
のように変換して、u
d、u
q、i
d、i
qの値{u
dk、u
qk、i
dk、i
qk}を求め、k=1,2,…,Nとし、
また、
【数14】
であり、式中、P
mは機械電力、M
mは機械トルク、u
tは発電機の端部電圧、M
eは電磁トルク、L
dfDqQは発電機における固定子と回転子のインダクタンス及び相互インダクタンス行列、T
gは電気油圧ガバナの時定数、k
gは電気油圧ガバナの増幅率、μはバルブ開度、T
Wは水力タービンの時定数、k
wは水力タービンの動作係数、T
hはガスタービンにおける高圧シリンダの時定数、k
hはガスタービンにおける高圧シリンダの動作係数、T
aは励磁制御装置の時定数、T
eは励磁機の時定数、k
aは励磁制御装置の増幅率、T
Jは回転子の慣性時定数、δは発電機の負荷角、ω
0は電力網の角速度、ωは発電機における回転子の角速度、u
fは励磁電圧、i
fは励磁電流、i
Dは直軸ダンピング電流、i
Qは横軸ダンピング電流、Dはダンピング係数であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
非異常発電機の全パラメータ微分方程式のうち第3の微分方程式は、
【数15】
のように簡略化されることを特徴とする請求項
9記載の方法。
【請求項11】
前記データ処理ユニットとパラメータ識別ユニットは、発電機異常記録装置内に設けられてもよいし、コンピュータに設けられてもよいことを特徴とするシステム。
【請求項12】
異常記録データから回路の異常ポイントを特定する方法であって、
回路の異常記録データを入力するステップS1と、
前記データをデータ処理するステップであって、スケール変換を行うS21と、記録データの時間スケールを揃えるS22と、デジタルローパスフィルタリングを行うS23と、リサンプリングを行うS24と、異常期間のデータを切り取るS25とを含むステップS2と、
異常期間のデータと異常回路の全パラメータ微分方程式から、過渡抵抗と、異常ポイントにおける右側回路の長さと左側回路の長さの比βを識別するステップS3と、を含み、
前記全パラメータ微分方程式が、
【数16】
であり、式中、R
abc2=β・R
abc1、L
abc2=β・L
abc1、C
abc2=β・C
abc1、G
abc2=β・G
abc1であり、また、
【数17】
であり、式中、R
abcfは異常の種別により決定され、a相地絡の場合、r
bf=∞、r
cf=∞、r
af=r
fとなり、b相地絡の場合、r
af=∞、r
cf=∞、r
bf=r
fとなり、c相地絡の場合、r
af=∞、r
bf=∞、r
cf=r
fとなり、ab二相地絡の場合、r
af=r
f1、r
bf=r
f2、r
cf=∞となり、bc二相地絡の場合、r
af=∞、r
bf=r
f1、r
cf=r
f2となり、ac二相地絡の場合、r
af=r
f1、r
bf=∞、r
cf=r
f2となり、
更に、過渡抵抗r
f又はr
f1とr
f2、及び異常ポイント位置を出力するステップ4を含み、異常ポイントの左側回路の長さ=異常回路の全長/(1+β)であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力網の自動化技術に関し、特に、電力システムの素子パラメータ技術及び異常箇所特定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電力網には多数の異常記録装置が取り付けられており、異常が発生すると、記録装置が起動して異常データを記録する。異常データには、a、b、c三相と零相の電圧及び電流の瞬時値が含まれ、周波ごとに数十から数百の値が記録される。中国各省の電力網会社では年間百回以上の異常が発生しているため、大量の異常記録データが存在している。
【0003】
一方で、電気素子のパラメータは誤差が大きく、異常記録からパラメータを抽出せねばならないものの、異常電流には、直流減衰成分や三相パラメータの不一致、記録データの非同期といった問題がある。結果、異常記録による正弦波成分の分解、回路の正負零相パラメータ抽出の誤差が大きくなり、電力網における計算や分析の要求を満たせていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の技術的課題を解決し、異常記録データから、回路、変圧器、発電機といった電力システムの素子における正確な全パラメータを識別することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
異常記録データから電気素子の全パラメータを識別する方法であって、電気素子に関する異常記録データを入力するステップS1と、前記異常記録データをデータ処理するステップであって、スケール変換を行うS21と、記録データの時間スケールを揃えるS22と、異常期間のデータを切り取るS23とを含むステップS2と、切り取ったデータと素子の全パラメータ微分方程式から素子の全パラメータを識別するステップS3と、識別結果を出力するステップS4と、を含む。
【0006】
二端子素子について、素子左側の三相電圧u
a1、u
b1、u
c1と零相電圧u
o1、左側の三相電流i
a1、i
b1、i
c1と零相電流i
o1、及び右側の三相電圧u
a2、u
b2、u
c2と零相電圧u
o2、右側の三相電流i
a2、i
b2、i
c2と零相電流i
o2のサンプリング値とサンプリングタイムを入力し、左側を{u
a1k、u
b1k、u
c1k、u
o1k、i
a1k、i
b1k、i
c1k、i
o1k、t
1k}、右側を{u
a2j、u
b2j、u
c2j、u
o2j、i
a2j、i
b2j、i
c2j、i
o2j、t
2j}、k=1,2,…,N、j=1,2,…,Mとし、三端子素子について、素子における第1側の三相電圧u
a1、u
b1、u
c1と零相電圧u
o1、三相電流i
a1、i
b1、i
c1と零相電流i
o1、第2側の三相電圧u
a2、u
b2、u
c2と零相電圧u
o2、三相電流i
a2、i
b2、i
c2と零相電流i
o2、及び第3側の三相電圧u
a3、u
b3、u
c3と零相電圧u
o3、三相電流i
a3、i
b3、i
c3と零相電流i
o3のサンプリング値とサンプリングタイムを入力し、第1側を{u
a1k、u
b1k、u
c1k、u
o1k、i
a1k、i
b1k、i
c1k、i
o1k、t
1k}、第2側を{u
a2j、u
b2j、u
c2j、u
o2j、i
a2j、i
b2j、i
c2j、i
o2j、t
2j}、第3側を{u
a3l、u
b3l、u
c3l、u
o3l、i
a3l、i
b3l、i
c3l、i
o3l、t
3l}、k=1,2,…,N、j=1,2,…,M、l=1,2,…,Lとする。
【0007】
スケール変換を実行する前記ステップS21において、両側/三方の記録データの電圧を各PT変圧比と乗算してから統一の電圧基数で除算するとともに、電流を各CT変流比と乗算してから統一の電流基数で除算し、記録データの時間スケールを揃える前記ステップS22において、両側/三方の零相電圧u
o1とu
o2/u
o1とu
o2とu
o3の突然変化のタイミングを揃えることを原則とし、異常期間のデータを切り取る前記ステップS23では、異常前及び異常除去後の期間のデータを除き、異常存在期間のデータのみを切り取る。
【0008】
ステップS23の前に、デジタルフィルタリング行うステップS23aと、リサンプリングを行うステップS23bを挿入し、前記ステップS23aにおいて、サンプリング周波数の上限f
csを特定し、前記デジタルフィルタリングにおいてローパスフィルターを使用し、遮断周波数f
cをf
csより小さくすることで、高周波信号を除去してリサンプリング時のエイリアシングを回避し、前記ステップS23bでは、f
cs以下の周波数で記録データをリサンプリングするとともに、両側/三方において同じリサンプリング周波数を用い、二端子素子については以下のデータを出力する。
【0009】
【数1】
【0010】
三端子素子については、以下のデータを出力する。
【0011】
【数2】
【0012】
両側/三方の記録データのうち、電圧は計器用変圧器PTを通過し、電流は変流器CTを通過する。両側/三方のPT変圧比及びCT変流比は同一の場合もあれば、異なる場合もある。一般的には、スケール変換を実行する必要があり、電圧をPT変圧比と乗算し、電流をCT変流比と乗算してから、両側/三方の変換比を統一する。また、両側/三方の記録データは往々にして時間が同期していないため、時間スケールを揃える必要がある。そこで、時間スケールを揃える方法として、両側の零相電圧u
o1とu
o2、或いは、三方の零相電圧u
o1とu
o2とu
o3における突然変化のタイミング揃える。最後に、異常期間の記録データを切り取って出力する。
【0013】
中国特許出願第201210408534号では、サンプリング周波数の上限と下限を提示しているが、実際には、異常記録データのサンプリング周波数は、往往にしてサンプリング周波数の上限f
csよりも大きくなる。よって、記録データをリサンプリングする必要がある。リサンプリングによる周波数のエイリアシングエラーを防ぐためには、まず、記録データをローパスデジタルフィルタリングして、その遮断周波数をf
csよりも大幅に小さくする。その後、f
cs以下の周波数でリサンプリングして、両側/三方におけるリサンプリング周波数を同じにする。最後に、異常期間の記録データを切り取って出力する。
【0014】
素子の全パラメータ微分方程式から素子の全パラメータを識別するステップS3において、まず、素子の全パラメータ微分方程式を書き出すとともに、以下の状態方程式に整える。
【0015】
【数3】
【0016】
【0017】
【0018】
本発明は、更に、異常記録データから回路の異常ポイントを特定する方法を提供する。当該方法は、回路の異常記録データを入力するステップS1と、前記データをデータ処理するステップであって、スケール変換を行うS21と、記録データの時間スケールを揃えるS22と、デジタルローパスフィルタリングを行うS23と、リサンプリングを行うS24と、異常期間のデータを切り取るS25とを含むステップS2と、異常期間のデータと異常回路の全パラメータ微分方程式から、過渡抵抗と、異常ポイントにおける右側回路の長さと左側回路の長さの比βを識別するステップS3と、を含み、前記全パラメータ微分方程式が以下となる。
【0019】
【数4】
【0020】
式中、R
abc2=β・R
abc1、L
abc2=β・L
abc1、C
abc2=β・C
abc1、G
abc2=β・G
abc1であり、また、以下となる。
【0021】
【数5】
【0022】
式中、R
abcfは異常の種別により決定され、a相地絡の場合、r
bf=∞、r
cf=∞、r
af=r
fとなり、b相地絡の場合、r
af=∞、r
cf=∞、r
bf=r
fとなり、c相地絡の場合、r
af=∞、r
bf=∞、r
cf=r
fとなり、ab二相地絡の場合、r
af=r
f1、r
bf=r
f2、r
cf=∞となり、bc二相地絡の場合、r
af=∞、r
bf=r
f1、r
cf=r
f2となり、ac二相地絡の場合、r
af=r
f1、r
bf=∞、r
cf=r
f2となり、更に、過渡抵抗r
f又はr
f1とr
f2、及び異常ポイント位置を出力するステップ4を含み、異常ポイントの左側回路の長さ=異常回路の全長/(1+β)である。
【発明の効果】
【0023】
本発明を実施すれば、異常記録データから電力回路、変圧器といった素子の全パラメータと異常抵抗、及び発電機やその制御システムの全パラメータを識別可能となる。これにより、異常素子の全パラメータを取得できるだけでなく、非異常素子の全パラメータを取得可能となる。且つ、パラメータ精度が従来の20%から1%以内にまで高まるとともに、異常箇所の特定精度が20%から0.1%にまで高まる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の実施例に基づく、異常記録データから電気素子の全パラメータを識別する方法のフローチャートである。
【
図2】
図2は、
図1に示したデータ処理ステップのフローチャートである。
【
図3】
図3a、
図3bは、それぞれ異常回路を示す図とその等価回路図である。
【
図4】
図4a、
図4bは、それぞれ非異常回路を示す図とその等価回路図である。
【
図5】
図5a、
図5bは、それぞれ非異常二巻線変圧器を示す図とその等価回路図である。
【
図6】
図6a、
図6bは、それぞれ非異常三巻線変圧器を示す図とその等価回路図である。
【
図7】
図7a、
図7bは、それぞれ非異常発電機の内面ベクトル図と、その端部の電流電圧の正方向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施例について述べる。図面には実施例の一例を示しているが、図面を参照して述べる実施例は例示であって、本発明を説明するためのものにすぎず、本発明を制限するものと解釈すべきではない。
【0026】
図1を参照して、異常記録データによって電気素子の全パラメータを識別する方法は、電気素子に関する異常記録データを入力するステップS1と、前記異常記録データをデータ処理するステップであって、スケール変換を行うS21と、記録データの時間スケールを揃えるS22と、異常期間のデータを切り取るS23とを含むステップS2と、切り取ったデータと素子の全パラメータ微分方程式から素子の全パラメータを識別するステップS3と、識別結果を出力するステップS4とを含む。
【0027】
本発明において、素子の全パラメータとはR、L、C等の全行列要素である。従来は、単に正負の零相パラメータとされており、正負の零相間の相互インピーダンスは0と考えられていた。即ち、正負の零相インピーダンス行列には対角要素のみが存在し、非対角要素は0であると考えられていた。この場合、回路の転置が不充分であり、abc三相パラメータ化が一致しないことから、正負の零相インピーダンス行列が非対角化してしまう。結果、複数の相互インピーダンスの識別が必要となり、識別の難度が大幅に上がっていた。
【0028】
二端子素子については、素子左側の三相電圧u
a1、u
b1、u
c1と零相電圧u
o1、左側の三相電流i
a1、i
b1、i
c1と零相電流i
o1、及び右側の三相電圧u
a2、u
b2、u
c2と零相電圧u
o2、右側の三相電流i
a2、i
b2、i
c2と零相電流i
o2のサンプリング値とサンプリングタイムを入力する。サンプリング値とサンプリングタイムの形式としては、データシーケンス又は行列が可能である。例えば、左側を{u
a1k、u
b1k、u
c1k、u
o1k、i
a1k、i
b1k、i
c1k、i
o1k、t
1k}、右側を{u
a2j、u
b2j、u
c2j、u
o2j、i
a2j、i
b2j、i
c2j、i
o2j、t
2j}、k=1,2,…,N、j=1,2,…,Mとする。式中、kは左側のk回目のサンプリングを表し、t
1kは左側におけるk回の目サンプリングのサンプリングタイムを表す。また、jは右側のj回目のサンプリングを表し、t
2jは右側におけるj回目のサンプリングのサンプリングタイムを表す。また、NとMは同じ又は異なる。
【0029】
三端子素子については、素子における第1側の三相電圧u
a1、u
b1、u
c1と零相電圧u
o1、三相電流i
a1、i
b1、i
c1と零相電流i
o1、第2側の三相電圧u
a2、u
b2、u
c2と零相電圧u
o2、三相電流i
a2、i
b2、i
c2と零相電流i
o2、及び第3側の三相電圧u
a3、u
b3、u
c3と零相電圧u
o3、三相電流i
a3、i
b3、i
c3と零相電流i
o3のサンプリング値とサンプリングタイムを入力する。サンプリング及びサンプリングタイムの形式としては、データシーケンス又は行列が可能である。例えば、第1側を{u
a1k、u
b1k、u
c1k、u
o1k、i
a1k、i
b1k、i
c1k、i
o1k、t
1k}、第2側を{u
a2j、u
b2j、u
c2j、u
o2j、i
a2j、i
b2j、i
c2j、i
o2j、t
2j}、第3側を{u
a3l、u
b3l、u
c3l、u
o3l、i
a3l、i
b3l、i
c3l、i
o3l、t
3l}、k=1,2,…,N、j=1,2,…,M、l=1,2,…,Lとする。式中、kは第1側におけるk回目のサンプリングを表し、t
1kは第1側におけるk回目のサンプリングのサンプリングタイムを表す。また、jは第2側におけるj回目のサンプリングを表し、t
2jは第2側におけるj回目のサンプリングのサンプリングタイムを表す。また、lは第3側におけるl回目のサンプリングを表し、t
3lは第3側におけるl回目のサンプリングのサンプリングタイムを表す。N、M、Lは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
図2に示すように、1の実施例では、データ処理のステップが、(21)スケールを変換し、(22)記録データの時間スケールを揃え、(23)デジタルフィルタリングを行い、(24)リサンプリングを行い、(25)異常期間のデータを切り取ることを含む。
【0031】
両側/三方の記録データのうち、電圧は計器用変圧器PTを通過し、電流は変流器CTを通過する。両側/三方のPT変圧比及びCT変流比は同一の場合もあれば、異なる場合もある。一般的には、ステップ(21)のスケール変換を実行する必要があり、電圧を各PT変圧比と乗算してから統一の電圧値で除算するとともに、電流を各CT変流比と乗算してから統一の電流値で除算する。両側/三方の記録データの時間スケールは往々にして時間が同期していないため、時間スケールを揃える必要がある。そこで、ステップ(22)では、時間スケールを揃える方法として、両側/三方の零相電圧u
o1とu
o2/u
o1とu
o2とu
o3の突然変化のタイミング揃える。ステップ(23)では、中国特許出願第201210408534号の開示に基づき、サンプリング周波数が一定の上限及び下限要求を満たすものとする。しかし、実際には、異常記録データのサンプリング周波数は、往往にしてサンプリング周波数の上限f
csよりも大きくなる。そこで、まず異常記録データをローパスデジタルフィルタリングし、その遮断周波数f
cをf
csよりも大幅に小さくする必要がある。その後、ステップ(24)においてf
cs以下の周波数でリサンプリングし、両側/三方のリサンプリング周波数を同一の値とする。最後に、ステップ(25)で異常期間の記録データを切り取って出力し、リサンプリングタイムt
kに対応する処理済みデータを形成する。ここで、kはk番目のリサンプリングタイムを表す。
【0032】
二端子素子については、下記式のようになる。
【0034】
三端子素子については、下記式のようになる。
【0036】
電力システムの専門知識より、素子の全パラメータ微分方程式を書き出し可能であり、最適制御理論における状態方程式に書き換えることができる。
【0039】
次に、電気素子の全パラメータ微分方程式と識別過程について例を挙げて説明する。
【0040】
(一)
図3aと
図3bを参照して、異常回路の全パラメータ微分方程式は下記式のようになる。
【0042】
式中、R
abc2=β・R
abc1、L
abc2=β・L
abc1、C
abc2=β・C
abc1、G
abc2=β・G
abc1である。また、以下となる。
【0044】
式中、R
abcfは異常の種別により決定される。a相地絡の場合、r
bf=∞、r
cf=∞、r
af=r
fとなり、b相地絡の場合、r
af=∞、r
cf=∞、r
bf=r
fとなり、c相地絡の場合、r
af=∞、r
bf=∞、r
cf=r
fとなり、ab二相地絡の場合、r
af=r
f1、r
bf=r
f2、r
cf=∞となり、bc二相地絡の場合、r
af=∞、r
bf=r
f1、r
cf=r
f2となり、ac二相地絡の場合、r
af=r
f1、r
bf=∞、r
cf=r
f2となる。
【0045】
このうち、パラメータβは異常ポイントにおける右側回路の長さと左側回路の長さの比であり、r
f、r
f1、r
f2は過渡抵抗である。
【0047】
(二)
図4aと
図4bを参照して、異常上流における非異常回路の全パラメータ微分方程式は下記式のようになる。
【0052】
式2と式3を、高低圧レベルの長短架線及びケーブル回路に適用する。ここで、R
abc、L
abc及びC
abcとG
abc行列が回路の全パラメータである。回路が比較的短い(300km未満)又は電圧が比較的低い(500kV未満)場合には、G
abcを無視してもよい。また、回路が短い(100km未満)又は電圧が低い(220kV未満) 場合には、C
abcとG
abcを無視してもよい。これと比較して、従来はabc三相の回路パラメータは一致していると考えられており、正負の零相変換後は、R
120、L
120、C
120の非対角線要素が0に等しくなると考えられていたため、対角要素、即ち、正、負、零相パラメータのみを識別していた。
【0053】
(三)
図5aと
図5bを参照して、異常上流における非異常二巻線変圧器の全パラメータ微分方程式は、下記式のようになる。
【0056】
或いは、変圧器の三相パラメータは一致しているため、三相を正負の零相に変換することで下記の方程式を得る。
【0061】
(四)
図6aと
図6bを参照して、非異常三巻線変圧器については、変圧器の三相パラメータが一致していることから、三相を正負の零相に変換して、全パラメータ微分方程式を得る。
【0066】
同様にして、当業者は電気に関する専門知識に基づいて、発電機や、同一ラインを共用する回路等の電気素子の微分方程式を求めることができる。発電機については、そのdqo座標の微分方程式を求め、発電機の外部異常後の端部電圧、電流、励磁電圧、電流及び発電機の回転数等の記録値を入力した後に、発電機とそのガバナ及び励磁機のパラメータを識別する。
【0067】
(五)
図7aと
図7bを参照する。非異常発電機については、電気素子に関する異常記録データを入力するステップS1において、非異常発電機について、端部の三相電圧u
a、u
b、u
c、三相電流i
a、i
b、i
cのサンプリング値{u
ak、u
bk、u
ck、i
ak、i
bk、i
ck}、電力網の角周波数ω
0、発電機の回転数ω、負荷角δ、励磁電圧u
f、励磁電流i
fのサンプリング値{ω
0k、ω
k、δ
k、u
fk、i
fk}、及びサンプリングタイム{t
k}を入力する。このうち、k=1,2,…,N、ω
0k=2πf
0kであり、f
0kは電力網の電源周波数である。
【0068】
素子の全パラメータ微分方程式から素子の全パラメータを識別するステップS3では、下記の非異常発電機の全パラメータ微分方程式に基づいて、パラメータT
J、D、l
d、l
q、l
f、l
D、l
Q、m
ad、m
aD、m
aQ、m
fD、r
d、r
q、r
f、r
D、r
Q、T
g、k
g、T
a、k
a、T
e及びT
wと、k
w又はT
h及びk
hを識別する。
【0070】
このうち、三相電圧と三相電流i
a1、i
b1、i
c1の記録値から次のように変換する。
【0072】
これより、u
d、u
q、i
d、i
qの値{u
dk、u
qk、i
dk、i
qk}を求める。なお、k=1,2,…,Nとする。
【0075】
式中、P
mは機械電力、M
mは機械トルク、u
tは発電機の端部電圧、M
eは電磁トルク、L
dfDqQは発電機における固定子と回転子のインダクタンス及び相互インダクタンス行列、T
gは電気油圧ガバナの時定数、k
gは電気油圧ガバナの増幅率、μはバルブ開度、T
Wは水力タービンの時定数、k
wは水力タービンの動作係数、T
hはガスタービンにおける高圧シリンダの時定数、k
hはガスタービンにおける高圧シリンダの動作係数、T
aは励磁制御装置の時定数、T
eは励磁機の時定数、k
aは励磁制御装置の増幅率、T
Jは回転子の慣性時定数、δは発電機の負荷角、ω
0は電力網の角速度、ωは発電機における回転子の角速度、u
fは励磁電圧、i
fは励磁電流、i
Dは直軸ダンピング電流、i
Qは横軸ダンピング電流、Dはダンピング係数である。
【0076】
非異常発電機の全パラメータ微分方程式のうち第3の微分方程式は、次のように簡略化可能である。
【0078】
本発明は更に、異常記録データから発電機の全パラメータを識別するシステムを提供する。当該システムは、以下を含む。
【0080】
データ処理ユニットが、スケール変換を実施し、記録データをデジタルローパスフィルタリングしてからリサンプリングし、出力するために用いられる。
【0081】
パラメータ識別ユニットが、発電機及びその制御システムの全パラメータ微分方程式から、発電機及びその制御システムの全パラメータを識別するために用いられる。
【0082】
前記データ処理ユニットとパラメータ識別ユニットは、発電機異常記録装置内に設けられてもよいし、コンピュータに設けられてもよい。
【0083】
本発明は、更に、異常記録データから回路の異常ポイントを特定する方法を提供する。当該方法は、以下のステップを含む。
【0084】
ステップ1において、回路の異常記録データを入力する。
【0085】
ステップS2において、前記データをデータ処理する。当該ステップは、スケール変換を行うS21と、記録データの時間スケールを揃えるS22と、デジタルローパスフィルタリングを行うS23と、リサンプリングを行うS24と、異常期間のデータを切り取るS25とを含む。
【0086】
ステップS3において、異常期間のデータと異常回路の全パラメータ微分方程式から、過渡抵抗と、異常ポイントにおける右側回路の長さと左側回路の長さの比βを識別する。
【0087】
前記全パラメータ微分方程式は、以下である。
【0089】
式中、R
abc2=β・R
abc1、L
abc2=β・L
abc1、C
abc2=β・C
abc1、G
abc2=β・G
abc1である。また、以下とされる。
【0091】
式中、R
abcfは異常の種別により決定される。a相地絡の場合、r
bf=∞、r
cf=∞、r
af=r
fとなり、b相地絡の場合、r
af=∞、r
cf=∞、r
bf=r
fとなり、c相地絡の場合、r
af=∞、r
bf=∞、r
cf=r
fとなり、ab二相地絡の場合、r
af=r
f1、r
bf=r
f2、r
cf=∞となり、bc二相地絡の場合、r
af=∞、r
bf=r
f1、r
cf=r
f2となり、ac二相地絡の場合、r
af=r
f1、r
bf=∞、r
cf=r
f2となる。
【0092】
ステップS4において、過渡抵抗r
f又はr
f1とr
f2、及び異常ポイント位置を出力する。ここで、異常ポイントの左側回路の長さ=異常回路の全長/(1+β)である。
【0093】
本発明を実施すれば、異常記録データから、電力回路、変圧器といった素子の全パラメータと異常抵抗、及び発電機とその制御システムの全パラメータを識別可能となる。よって、異常素子の全パラメータを取得可能なだけでなく、非異常素子の全パラメータも取得できる。且つ、パラメータ精度が従来の20%から1%以内にまで向上するほか、異常箇所の特定精度が20%から0.1%にまで向上する。
【0094】
送電線のパラメータについては、これまで国内外を問わず基準がないままである。欧米では理論的パラメータを用いており、中国国内では実測パラメータを用いているが、いずれも誤差が大きい。送電線は電力網に最も多数存在する素子であり、そのパラメータが正確であるか否かは全電力網の計算精度に関係し、ひいては判断の正誤にも関わってくる。本発明では、サンプリング周波数の上限下限理論によって異常記録データを処理するとともに、適応制御理論における識別方法によって回路の全パラメータを識別している。よって、フーリエ分解により減衰成分を分解処理することで電源周波数に対して生じる10%程度の誤差が解消されるだけでなく、回路の全パラメータのインピーダンス行列とサセプタンス行列を識別可能となる。シミュレーション実験によれば、復元された電流波形とシミュレーション波形の誤差≦0.01%、パラメータ誤差≦1%、箇所特定誤差≦0.1%であり、正負の零相パラメータのみを用いる従来と比べて精度が10倍向上した。
【0095】
このほか、本発明における異常記録データから素子の全パラメータを識別する方法としては、更に複数の応用形態がある。本発明では、回路の異常箇所を特定する方法について取り上げており、この方法によれば、正確且つ迅速に回路の異常ポイントを特定可能となる。