(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属及び前記金属酸化物の少なくともいずれかは、リン酸緩衝生理食塩水中での、飽和塩化カリウム溶液に浸された塩化銀からなる参照電極基準の浸漬電位が0.03Vより貴である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィルター。
前記金属及び前記金属酸化物の少なくともいずれかは、金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、これらの合金及びこれらの酸化物からなる群から選択された少なくとも1つを含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のフィルター。
前記金属及び前記金属酸化物の少なくともいずれかは、リン酸緩衝生理食塩水中での、飽和塩化カリウム溶液に浸された塩化銀からなる参照電極基準の浸漬電位が0.03Vより貴である、請求項7〜10のいずれか一項に記載の濾過方法。
前記金属及び前記金属酸化物の少なくともいずれかは、金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、これらの合金及びこれらの酸化物からなる群から選択された少なくとも1つを含有する、請求項7〜11のいずれか一項に記載の濾過方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明に至った経緯)
特許文献1では、不織布で構成される細胞捕捉フィルター材を用いて、有核細胞と血小板とを捕捉し、赤血球のような不要な細胞を通過させることによって、血液から単核細胞を分離している。しかしながら、特許文献1の細胞捕捉フィルターでは、単核細胞の回収率が74%程度であり、捕捉対象である細胞の回収率の向上といった点で未だ改善の余地がある。
【0011】
本発明者らは、鋭意研究したところ、金属及び金属酸化物の少なくともいずれかを主成分とするフィルターを用いて、有核細胞を含む液体に対して濾過を行うことによって、捕捉対象である有核細胞の回収率を向上させることができることを見出し、本発明に至った。
【0012】
本発明の一態様のフィルターは、
有核細胞の濾過用フィルターであって、
金属及び金属酸化物の少なくともいずれかを主成分とし、
複数の貫通孔(正方形を除く)が形成されており、
前記貫通孔の内接楕円の長径は、前記有核細胞の核の大きさより小さく、前記貫通孔の内接楕円は、前記貫通孔の開口を画定するすべての辺に接する楕円である。
【0013】
このような構成により、有核細胞の回収率を向上させることができる。
【0014】
前記フィルターにおいて、前記貫通孔の形状は、多角形であってもよい。
【0015】
このような構成により、有核細胞の回収率を向上させることができる。
【0016】
前記フィルターにおいて、前記貫通孔の形状は、長方形であってもよい。
【0017】
このような構成により、濾過時間を短縮すると共に、有核細胞の回収率を向上させることができる。
【0018】
前記フィルターにおいて、更に
互いに対向する第1主面と第2主面とを貫通する前記複数の貫通孔を有するフィルター部と、
前記フィルター部の外周を囲むように配置された枠部と、
を備え、
前記フィルター部内において、前記枠部から離れた中央側領域における前記フィルター部の膜厚は、前記中央側領域よりも前記枠部に近い周縁側領域における前記フィルター部の膜厚よりも小さくてもよい。
【0019】
このような構成により、フィルター部における第1主面および第2主面の少なくともいずれかの表面の一部に凹面を形成することができる。凹面が形成された側で細胞を捕捉するような場合には、流体の表面張力により凹面に流体溜まりが形成されやすくなることから、捕捉された細胞の乾燥を抑制することができる。よって、フィルター部にて捕捉された細胞の取り扱い性を向上させることができる。
【0020】
前記フィルターにおいて、前記金属及び前記金属酸化物の少なくともいずれかは、リン酸緩衝生理食塩水中での、飽和塩化カリウム溶液に浸された塩化銀からなる参照電極基準の浸漬電位が0.03Vより貴であってもよい。
【0021】
このような構成により、フィルターの成分である金属又は金属酸化物が有核細胞を含む液体中に溶出することを防止することができる。
【0022】
前記フィルターにおいて、前記金属及び前記金属酸化物の少なくともいずれかは、金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、これらの合金及びこれらの酸化物からなる群から選択された少なくとも1つを含有していてもよい。
【0023】
このような構成により、有核細胞の回収率を更に向上させることができる。
【0024】
本発明の一態様の濾過方法は、
有核細胞の濾過方法であって、
金属及び金属酸化物の少なくともいずれかを主成分とし、複数の貫通孔(正方形を除く)が形成されており、前記貫通孔の内接楕円の長径は、前記有核細胞の核の大きさより小さく、前記貫通孔の内接楕円は、前記貫通孔の開口を画定するすべての辺に接する楕円である、フィルターを準備するステップ、
前記有核細胞を含む液体を前記フィルターに通過させるステップ、
を含む。
【0025】
このような構成により、有核細胞の回収率を向上させることができる。
【0026】
前記濾過方法において、前記貫通孔の形状は、多角形であってもよい。
【0027】
このような構成により、有核細胞の回収率を向上させることができる。
【0028】
前記濾過方法において、前記貫通孔の形状は、長方形であってもよい。
【0029】
このような構成により、濾過時間を短縮すると共に、有核細胞の回収率を更に向上させることができる。
【0030】
前記濾過方法において、
前記フィルターは、
互いに対向する第1主面と第2主面とを貫通する前記複数の貫通孔を有するフィルター部と、
前記フィルター部の外周を囲むように配置された枠部と、
を備え、
前記フィルター部内において、前記枠部から離れた中央側領域における前記フィルター部の膜厚は、前記中央側領域よりも前記枠部に近い周縁側領域における前記フィルター部の膜厚よりも小さくてもよい。
【0031】
このような構成により、フィルター部における第1主面および第2主面の少なくともいずれかの表面の一部に形成された凹面で細胞を捕捉することができる。流体の表面張力により凹面に流体溜まりが形成されやすくなることから、捕捉された細胞の乾燥を抑制することができる。よって、フィルター部にて捕捉された細胞の取り扱い性を向上させることができる。。
【0032】
前記濾過方法において、前記金属及び前記金属酸化物の少なくともいずれかは、リン酸緩衝生理食塩水中での、飽和塩化カリウム溶液に浸された塩化銀からなる参照電極基準の浸漬電位が0.03Vより貴であってもよい。
【0033】
このような構成により、フィルターの成分である金属又は金属酸化物が有核細胞を含む液体中に溶出することを防止することができる。
【0034】
前記濾過方法において、前記金属及び前記金属酸化物の少なくともいずれかは、金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、これらの合金及びこれらの酸化物からなる群から選択された少なくとも1つを含有していてもよい。
【0035】
このような構成により、有核細胞の回収率を更に向上させることができる。
【0036】
前記濾過方法において、前記有核細胞を含む液体を前記フィルターに通過させるステップは、生細胞と死細胞とを分離するステップを含んでもよい。
【0037】
このような構成により、生細胞と死細胞とを分離することができる。
【0038】
本発明の一態様のキットは、
有核細胞の濾過用フィルターを含む、前記濾過方法を実施するためのキットであって、
前記フィルターは、金属及び金属酸化物の少なくともいずれかを主成分とし、複数の貫通孔(正方形を除く)が形成されており、前記貫通孔の内接楕円の長径は、前記有核細胞の核の大きさより小さく、前記貫通孔の内接楕円は、前記貫通孔の開口を画定するすべての辺に接する楕円である。
【0039】
このような構成により、有核細胞の回収率を向上させることができる。
【0040】
以下、本発明に係る実施の形態1について、添付の図面を参照しながら説明する。また、各図においては、説明を容易なものとするため、各要素を誇張して示している。
【0041】
(実施の形態1)
[フィルターの構成]
図1は、本発明に係る実施の形態1のフィルター10の概略構成図である。
図2は、本発明に係る実施の形態1におけるフィルター10の一部の拡大斜視図である。
図1及び
図2中のX、Y、Z方向は、それぞれフィルター10の縦方向、横方向、厚み方向を示している。
図1に示すように、フィルター10は、フィルター部11と、フィルター部11の外周に設けられた枠部15とを備える。
図2に示すように、フィルター10は、互いに対向する第1主面PS1と第2主面PS2とを有している。フィルター部11は、第1主面PS1と第2主面PS2とを貫通する複数の貫通孔12が形成されたフィルター基体部14を備える。
【0042】
フィルター10は、有核細胞を含む液体(細胞懸濁液)をフィルター部11に通過させることによって、有核細胞を濾過するものである。
【0043】
本明細書において、「有核細胞」とは、核小体と細胞質とが核膜によって隔てられている細胞である。
【0044】
<材質>
フィルター10の基体部分を形成するフィルター基体部14を構成する材料は、金属及び/又は金属酸化物を主成分としている。フィルター基体部14は、例えば、金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、これらの合金及びこれらの酸化物であってもよい。
【0045】
フィルター10の最表層は、細胞懸濁液へ溶出しにくい金属及び/又は金属酸化物で構成されていてもよい。例えば、フィルター10の最表層が、リン酸緩衝生理食塩水中での、飽和塩化カリウム溶液に浸された塩化銀からなる参照電極基準の浸漬電位が0.03Vより貴である金属で覆われている場合、フィルター10を構成する材料が、細胞懸濁液へ溶出することを抑制することができる。これにより、細胞へのストレスを低減することができる。あるいは、フィルター10の最表層は、親水性の材料で構成されていてもよい。例えば、水系の細胞懸濁液を処理する場合に、処理時間を短縮することができるため、細胞へのストレスを低減することができる。
【0046】
<外形>
フィルター10の外形は、例えば、円形、長方形、又は楕円形である。実施の形態1では、フィルター10の外形は、略円形である。フィルター10の外形を略円形にすることによって、フィルター10の主面(例えば、フィルター部11の第1主面PS1)に対して流体を均一に流すことができる。なお、本明細書において、「略円形」とは、短径の長さに対する長径の長さの比が1.0以上1.2以下であることをいう。
【0047】
<フィルター部>
フィルター部11は、複数の貫通孔12が形成された板状構造体である。フィルター部11の形状は、例えば、円形、長方形、楕円形である。実施の形態1では、フィルター部11の形状は、略円形である。フィルター部11の形状を略円形にすることによって、フィルター部11の第1主面PS1に対して流体を均一に流すことができる。
【0048】
図3は、フィルター部11の一部を厚み方向(Z方向)から見た概略図である。
図3に示すように、複数の貫通孔12は、フィルター部11の第1主面PS1及び第2主面PS2上に周期的に配置されている。具体的には、複数の貫通孔12は、フィルター部11においてマトリクス状に等間隔で設けられている。
【0049】
実施の形態1では、貫通孔12は、フィルター部11の第1主面PS1側、即ちZ方向から見て、長方形の形状を有する。
図3に示すように、貫通孔12の形状は、X方向に長辺d1、Y方向に短辺d2の長方形である。なお、貫通孔12は、Z方向から見て、正方形以外の形状を有する。貫通孔12は、Z方向から見て、例えば、菱形、多角形などの形状であってもよい。なお、多角形は、正方形を除く正多角形を含んでいてもよい。
【0050】
実施の形態1では、貫通孔12の長辺d1は、例えば、短辺d2の1.2倍以上1.8倍以下で形成されている。
【0051】
実施の形態1では、フィルター部11の第1主面PS1に対して垂直な面に投影した貫通孔12の形状(断面形状)は、長方形である。具体的には、貫通孔12の断面形状は、フィルター10の半径方向の一辺の長さがフィルター10の厚み方向の一辺の長さより長い長方形である。なお、貫通孔12の断面形状は、長方形に限定されず、例えば、平行四辺形又は台形等のテーパー形状であってもよいし、対称形状であってもよいし、非対称形状であってもよい。
【0052】
実施の形態1では、複数の貫通孔12は、フィルター部11の第1主面PS1側(Z方向)から見て長方形の各辺と平行な2つの配列方向、即ち
図3中のX方向とY方向に等しい間隔で設けられている。このように、複数の貫通孔12を長方格子配列で設けることによって、開口率を高めることが可能であり、フィルター10に対する流体の通過抵抗を低減することができる。このような構成により、処理時間を短くし、細胞へのストレスを低減することができる。また、複数の貫通孔12の配列の対称性が向上するため、フィルターの観察が容易になる。
【0053】
なお、複数の貫通孔12の配列は、長方格子配列に限定されず、例えば、準周期配列、又は周期配列であってもよい。周期配列の例としては、方形配列であれば、2つの配列方向の間隔が等しくない長方形配列でもよく、三角格子配列又は正三角格子配列などであってもよい。なお、貫通孔12は、フィルター部11に複数設けられていればよく、配列は限定されない。
【0054】
なお、貫通孔12の開口を画定する各辺が接続される角部は、R加工されていてもよい。即ち、貫通孔12の角部は、丸く形成されていてもよい。このような構成により、貫通孔12の角部において、細胞が傷つくのを抑制し、細胞の活性をより保つことができる。
【0055】
貫通孔12の間隔は、分離する細胞の種類(大きさ、形態、性質、弾性)又は量に応じて適宜設計されるものである。ここで、貫通孔12の間隔とは、
図3に示すように、貫通孔12をフィルター部11の第1主面PS1側から見て、任意の貫通孔12の中心と隣接する貫通孔12の中心との距離b1及びb2を意味する。具体的には、間隔b1は、貫通孔12の短辺方向(X方向)における貫通孔12の中心と隣接する貫通孔12の中心との距離を意味する。間隔b2は、貫通孔12の長辺方向(Y方向)における貫通孔12の中心と隣接する貫通孔12の中心との距離を意味する。なお、実施の形態1において、任意の貫通孔12の中心とは、長方形の貫通孔12の対角線の交点を意味する。
【0056】
周期配列の構造体の場合、貫通孔12の間隔b1は、例えば、貫通孔12の長辺d1の1倍より大きく10倍以下であり、好ましくは貫通孔12の長辺d1の3倍以下である。貫通孔12の間隔b2は、例えば、貫通孔12の短辺d2の1倍より大きく10倍以下であり、好ましくは貫通孔12の短辺d2の3倍以下である。あるいは、例えば、フィルター部11の開口率は、10%以上であり、好ましくは開口率は、25%以上である。このような構成により、フィルター部11に対する流体の通過抵抗を低減することができる。そのため、処理時間を短くすることができ、細胞へのストレスを低減することができる。なお、開口率とは、(貫通孔12が占める面積)/(貫通孔12が空いていないと仮定したときの第1主面PS1の投影面積)で計算される。
【0057】
貫通孔12の内接楕円の長径は、有核細胞の核の大きさより小さくなるように設計されている。本明細書では、「貫通孔12の内接楕円」とは、長径と短径とを有する楕円であり、フィルター部11の第1主面PS1側から見て、貫通孔12内に描ける楕円のうち長径が最も大きい楕円を意味する。即ち、「貫通孔12の内接楕円」とは、貫通孔12を構成するフィルター基体部14の内壁に接する楕円のうち長径が最も大きい楕円を意味する。言い換えると、「貫通孔12の内接楕円」とは、フィルター部11の第1主面PS1側から見て、貫通孔12の開口を画定するすべての辺に接する楕円を意味する。また、「貫通孔12の内接楕円」の長径と短径とは、異なる長さであってもよいし、同じ長さであってもよい。本明細書において、「貫通孔12の内接楕円」は、真円を含んでもよい。
【0058】
また、本明細書では、「有核細胞の核の大きさ」とは、有核細胞を液中に配置して顕微鏡で観察し、有核細胞の核の外周の任意の2つの点を結んだ線のうち、最長なものを有核細胞の核の長さとした場合、複数個の有核細胞の核の長さの平均値を意味する。
【0059】
複数の貫通孔12の寸法は、略同一に設計されている。同じ形状の複数の貫通孔12を周期配列した構成である場合、複数の貫通孔12の大きさにおける標準偏差は小さい方が好ましい。
【0060】
フィルター部11は、フィルター部11の中心から外側に向かって均一な膜厚を有している。言い換えると、フィルター部11のZ方向に切断した場合、フィルター部11は、平板状の断面形状を有する。フィルター部11の厚みは、貫通孔12を画定する辺のうち最も短い辺(例えば、短辺d2)の0.1倍より大きく100倍以下が好ましい。より好ましくは、フィルター部11の厚みは、貫通孔12の短辺d2の0.5倍より大きく10倍以下である。このような構成により、流体に対するフィルター10の抵抗を低減することができ、処理時間を短くすることができる。その結果、細胞へのストレスを低減することができる。
【0061】
フィルター部11の表面(第1主面PS1)の算術平均粗さは、有核細胞の核の大きさよりも小さいことが好ましい。このような構成により、フィルター部11の表面(第1主面PS1)への細胞の付着が低減され、細胞の回収率を高くすることができる。なお、算術平均粗さの測定は、株式会社アルバック製の触針式表面形状測定機DEKTAK150(登録商標)を用い、フィルター部11の表面のうち5個所の測定値の平均値をフィルター部11の算術平均粗さとした。
【0062】
フィルター部11において、有核細胞を含む液体が接触する第1主面PS1は、平滑に形成されていてもよい。具体的には、フィルター部11の第1主面PS1は、凹凸がなく均一な平面で形成されていてもよい。言い換えると、フィルター部11の第1主面PS1上の複数の貫通孔12の開口が同一平面上に形成されている。また、フィルター部11のうち貫通孔12が形成されていない部分であるフィルター基体部14は、繋がっており、一体に形成されている。このような構成により、フィルター部11の表面(第1主面PS1)への細胞の付着が低減され、捕捉した有核細胞を容易に回収することができる。
【0063】
フィルター部11の貫通孔12は、第1主面PS1側の開口と第2主面PS2側の開口とが連続した壁面を通じて連通している。具体的には、貫通孔12は、第1主面PS1側の開口が第2主面PS2側の開口に投影可能に設けられている。即ち、フィルター部11を第1主面PS1側から見た場合に、貫通孔12は、第1主面PS1側の開口が第2主面PS2側の開口と重なるように設けられている。実施の形態1において、貫通孔12は、その内壁が第1主面PS1及び第2主面PS2に対して垂直となるように設けられている。
【0064】
<枠部>
枠部15は、フィルター部11の外周に設けられており、フィルター部11に比べて単位面積当たりの貫通孔12の数が少ない部分である。枠部15における貫通孔12の数は、フィルター部11における貫通孔12の数の1%以下である。枠部15の厚みは、フィルター部11の厚みよりも厚くてもよい。このような構成により、フィルター10の機械強度を高めることができる。
【0065】
フィルター10を装置に接続して使用する場合、枠部15は、フィルター10と装置とを接続する接続部として機能してもよい。また、枠部15には、フィルターの情報(貫通孔12の寸法など)を表示してもよい。
【0066】
枠部15は、フィルター部11の第1主面PS1側から見て、リング状に形成されている。フィルター10を第1主面PS1側から見て、枠部15の中心は、フィルター部11の中心と一致する。即ち、枠部15は、フィルターと同心円上に形成されている。
【0067】
フィルター10は、取り扱いやすさ及びシステムとの接合のしやすさの観点から、治具に固定されて使用されてもよい。治具は、例えば、ガンマ滅菌可能な材料で構成することができる。治具は、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリスチレン、シリコンゴム、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、天然ゴム、ラテックス、ウレタンゴム、シリコンゴム、エチレン酢酸ビニル、ポリエステル類、エポキシ類、フェノール類、シリカ、アルミナ、金、白金、ニッケル、ステンレス、チタン、などを含む材料で形成されていてもよい。このような材料で治具を構成することにより、細胞へのストレスを低減することができる。
【0068】
[濾過方法]
フィルター10を用いた濾過方法について説明する。
【0069】
まず、フィルター10を準備する。この工程では、有核細胞の核の大きさに応じて貫通孔12のサイズを選択したフィルター10を準備する。具体的には、濾過対象となる有核細胞の核の大きさより小さい貫通孔12を有するフィルター10を準備する。
【0070】
例えば、フィルター10を準備する工程では、複数個の有核細胞の核の大きさをミクロメーター又は血球計算盤などを用いて確認することによって、有核細胞の核の大きさより小さい貫通孔12のサイズを有するフィルター10を選択してもよい。あるいは、複数個の有核細胞を写真撮影し、複数個の有核細胞の核の大きさを測長することによって、有核細胞の核の大きさより小さい貫通孔12のサイズを有するフィルター10を選択してもよい。なお、フィルター10の選択は、これらに限定されない。
【0071】
フィルター10は、装置に取り付けられる。具体的には、フィルター10の枠部15を挟持することによって、フィルター10が装置に取り付けられる。
【0072】
次に、細胞懸濁液をフィルター10に通過させる。本明細書において、「細胞懸濁液」とは、有核細胞を含む流体である。多くの場合、有核細胞を含む流体は、液体である。液体としては、例えば、アミノ酸、タンパク質、血清、などを含んだ培養溶液、リン酸緩衝生理食塩水、又は水である。細胞懸濁液には、細胞と流体の他に、樹脂製粒子などの非生物由来物質、骨片又は肉片などの組織の一部、死細胞などを含んでいてもよい。
【0073】
このように、有核細胞を含む液体をフィルター部11に通過させることによって、液体から有核細胞を分離する。実施の形態1では、フィルター部11の貫通孔12の内接楕円の長径は、有核細胞の核の大きさよりも小さく設計されている。このため、有核細胞は、貫通孔12を通過せずに、フィルター部11の第1主面PS1上に捕捉される。
【0074】
細胞懸濁液をフィルター10に通過させる方法としては、例えば、フィルター部11の第1主面PS1に対して略鉛直上方から重力を利用して細胞懸濁液を通過させる方法がある。この他に、フィルター部11の第1主面PS1に細胞懸濁液を接触させた上で細胞懸濁液に圧力を加えて通過させる方法(押圧)、又はフィルター部11の第1主面PS1に細胞懸濁液を接触させて、第2主面PS2から吸引して細胞懸濁液を通過させる方法(吸引)などがある。なお、有核細胞を含む液体をフィルター部11に通過させる工程においては、細胞にストレスをなるべく与えないことが好ましい。例えば、圧力を加える場合、有核細胞が変形しない程度の圧力とすることが好ましい。より好ましくは、圧力を加えずに、液体の自重により、液体をフィルター部11に通過させることである。あるいは、フィルター部11の開口率を高めることによって処理時間を短縮し、有核細胞にストレスがかかっている時間を少なくすることが好ましい。
【0075】
また、液体中に有核細胞が浮遊した状態で細胞懸濁液をフィルター10に通過させてもよい。液体中に浮遊した有核細胞は、ほぼ球形状となるため、捕捉対象である有核細胞の回収率を向上させることができる。即ち、捕捉したい有核細胞の寸法精度を向上させることができる。
【0076】
また、フィルター10に複数回通過させることによって、捕捉対象である有核細胞の寸法精度を高めることができる。
【0077】
フィルター10を用いた濾過方法において、例えば、濾過用容器を用いて、濾過を行ってもよい。濾過用容器は、例えば、外形14mm、内径6mm、高さ55mmの円筒形状の容器であり、底部にフィルター10を取り付けることができる。なお、濾過容器は、これに限定されず、様々な形状及び寸法の容器を使用してもよい。
【0078】
[フィルターの製造方法]
フィルター10の代表的な製造方法について説明する。フィルター10は、以下の工程により製造される。
【0079】
<給電膜の形成>
スパッタ装置を用いて、シリコン基板の上面にCuの給電膜を形成する。この給電膜は、後述するフィルター10のフィルター基体部14を形成するときの給電源となる。このとき、シリコン基板と給電膜との接着性確保を目的としてTi等の中間層を形成してもよい。
【0080】
Cuの給電膜を形成する条件は、以下の通りである。
スパッタリングガス:アルゴンガス
スパッタリング装置の真空度:5.0×10
−4Pa
印加電力:DC500W
スパッタ時間:Cu膜形成時/27分
Ti膜形成時/3分5秒
【0081】
<レジスト像の形成>
シリコン基板の上面に形成された給電膜上にレジスト像を形成する。
スピンコーター等を用いて、シリコン基板の上面に形成された給電膜上に所定の膜厚のレジスト膜を形成する。次に、所定のパターンが形成されたフォトマスクを介してレジストを露光し、現像処理することによりレジスト像を形成する。
【0082】
レジスト膜塗布の条件は、以下の通りである。
レジスト剤:ノボラック系樹脂+有機溶剤
スピンコーターの回転数:1130rpm
レジスト膜厚:2μm
スピンコーターにて上記レジスト剤をシリコン基板上面に塗布した後に窒素雰囲気下で130℃にて溶剤を揮発させた後に冷却することで、レジスト膜を形成する。
【0083】
波長365nmを含んだエネルギー密度2500J/m
2の光線を0.25秒間照射して、レジスト剤を露光する。
【0084】
露光部分をアルカリ性溶液に接触させて現像処理する。
【0085】
<フィルター基体部の形成>
レジスト像の開口部にフィルター基体部14を形成する。先に形成した給電膜を給電源として、電解めっき法を用いて、ニッケルめっき膜からなるフィルター基体部14を形成する。
【0086】
フィルター基体部14の形成の条件は、以下の通りである。
前処理:希硫酸に60秒浸漬させることで給電膜の表面を活性化する。
めっき液:スルファミン酸ニッケルめっき液 液温55℃ pH=4.0
めっき速度:0.5μm/min
めっき:揺動させながら、電解めっきを行う。
【0087】
<レジストの溶解及び剥離>
フィルター基体部14にアセトン溶液中で15分間超音波をかけることによって、レジスト膜を溶解させて、レジストを剥離する。
【0088】
<支持基材の形成>
フィルター10を用いて濾過を行うに際し、必要に応じてフィルター10に支持基材を設けてもよい。
【0089】
図4は、支持基材13が取り付けられたフィルター10の概略構成を示す。
図4に示すように、フィルター10の第2主面PS2側に支持基材13が設けられてもよい。支持基材13には、正方形状の複数の開口部13aが設けられている。支持基材13の厚みは、例えば、14μmであり、開口部13aの一辺、即ち桟の間隔Aは、260μmであり、桟の幅Bは、14μmである。
【0090】
このように支持基材13を設けることで、濾過中にフィルター10が破損することを防止できる。支持基材は以下の工程により作製される。
【0091】
フィルター10の基体が形成されたシリコン基板の上面に再度、感光性レジストを塗布してレジスト膜を形成した後に、フォトマスクを介してレジストを露光し、現像処理することによりレジスト像を形成する。このとき、レジスト像がフィルター10の基体を複数またぐように露光、現像処理を行う。なお、レジスト像がフィルター10の基体をまたいでいる部分は、フィルター10の完成後に、フィルター10の開口部となる。つまり、レジスト像がまたぐフィルター10の基体の数は、フィルター10に求められる開口率に応じて適宜決定される。
【0092】
レジスト像の開口部にフィルター基体部14を形成する。先に形成した給電膜を給電源として、電解めっき法を用いて、ニッケルめっき膜からなる支持基材を形成する。なお、支持基材の幅は、フィルター10に求められる強度に応じて適宜決定される。
【0093】
支持基材にアセトン溶液中で15分間超音波をかけることによって、レジスト膜を溶解させることで、レジストを剥離する。
【0094】
<給電膜の除去>
給電膜を除去し、シリコン基板から、フィルター基体部14及び支持基材を分離することで有核細胞の濾過用のフィルター10が完成する。
【0095】
給電膜の除去は、60%の過酸化水素水と酢酸と純水を1:1:20の混合比で作製した水溶液に、25℃の環境下で48時間浸漬することによって行う。
【0096】
[効果]
実施の形態1に係るフィルター10によれば、以下の効果を奏することができる。
【0097】
フィルター10は、金属及び金属酸化物の少なくともいずれかを主成分としている。また、フィルター10は、複数の貫通孔12が形成されたフィルター部11を備えている。このような構成により、フィルター部11の貫通孔12が変形しにくく、捕捉対象である有核細胞を捕捉し、有核細胞の回収率を向上させることができる。
【0098】
貫通孔12の内接楕円の長径は、有核細胞の核の大きさより小さくなるように設計されている。このような構成により、有核細胞の回収率を更に向上させることができる。
【0099】
貫通孔12の形状が長方形に形成されている。このような構成により、正方形形状の貫通孔に比べて濾過時間を減少させることができる。具体的に説明すると、有核細胞の細胞質は、核に比べて変形しやすい。正方形形状の貫通孔の場合、フィルター部で有核細胞を捕捉すると、細胞質が変形し、変形した細胞質によって貫通孔が塞がれてしまう可能性がある。一方、長方形形状の貫通孔12においては、有核細胞を捕捉したときに細胞質が変形して貫通孔12が一部塞がれたとしても、貫通孔12の他の部分から液体が通り抜けることができる。したがって、長方形形状の貫通孔12においては、正方形形状の貫通孔に比べて、液体を通過させやすく、濾過時間を減少させることができる。
【0100】
フィルター部11の第1主面PS1は、平滑に形成されている。このような構成により、第1主面PS1で捕捉した有核細胞を容易にフィルター部11から分離させることができるため、回収が簡単になる。
【0101】
有核細胞の核の形状は、真円以外に楕円形等の様々な形状が存在する。フィルター10では、貫通孔12の内接楕円の長径は、有核細胞の核の大きさより小さく形成されており、且つ、貫通孔12の内接楕円は、貫通孔12の開口を画定するすべての辺に接する楕円である。このような構成により、真円形状の核以外の様々な形状の核についても確実に捕捉することができ、回収率を向上させることができる。
【0102】
また、フィルター10を用いた濾過方法では、有核細胞を含む液体をフィルター10に通過させることによって、捕捉対象である有核細胞を確実に捕捉することができるため、回収率を向上させることができる。
【0103】
有核細胞は、種類、培養条件、継代数等によって、核の大きさが変動する。例えば、同じ細胞であっても、培養した温度、時間又は環境などの培養条件によって、核の大きさが異なってくる。このため、同じ有核細胞であっても核の大きさは様々であり、核の大きさに着目せずに、フィルター10を準備した場合、有核細胞が貫通孔12を通過してしまうことがある。フィルター10を用いた濾過方法では、有核細胞の核の大きさに応じて貫通孔12のサイズを選択したフィルター10を準備している。即ち、フィルター10を用いた濾過方法では、濾過対象の有核細胞の核の大きさより小さい貫通孔12を有するフィルター10を選択し、濾過に使用するフィルター10を準備している。このため、フィルター10を用いた濾過方法では有核細胞をフィルター10上に確実に捕捉することができ、回収率を向上させることができる。
【0104】
なお、実施の形態1では、貫通孔12の寸法が略同一である例について説明したが、これに限定されない。例えば、貫通孔12の寸法は、それぞれ異なっていてもよい。この場合、貫通孔12の最大寸法は、有核細胞の核の大きさより小さく設計されていればよい。
【0105】
実施の形態1では、フィルター10の製造方法は、裏打ち層基体部を形成する工程を含む例を説明したが、これに限定されない。例えば、フィルター10の製造方法は、裏打ち層基体部を形成する工程を含んでいなくてもよい。
【0106】
実施の形態1では、有核細胞を含む液体をフィルター10に通過させることによって、有核細胞を濾過する例について説明したが、これに限定されない。例えば、フィルター10を用いて、生細胞と死細胞とを含む液体から、生細胞と死細胞とを分離してもよい。
【0107】
生細胞と死細胞とを分離する方法としては、例えば、フィルター10によってフィルター部11の第1主面PS1上に生細胞を捕捉し、死細胞を通過させてもよい。また、フィルター10によって、フィルター部11の第1主面PS1上に死細胞を捕捉し、生細胞を通過させてもよい。
【0108】
実施の形態1では、フィルター10と濾過方法について説明したが、これに限定されない。例えば、有核細胞の濾過用のフィルター10を含む、濾過方法を実施するためのキットとして使用されてもよい。
【0109】
実施の形態1では、フィルター部11が均一な膜厚を有する例について説明したが、これに限定されない。例えば、フィルター部11は、均一な膜厚を有しているのではなく、中央側の膜厚が周縁側に比し小さくなるように形成されていてもよい。
【0110】
図5は、実施の形態1の変形例のフィルター10Aを示す。
図5に示すように、フィルター10Aのフィルター部11a内において、枠部15から離れた中央側領域R11における膜厚T1が、中央側領域R11よりも枠部15に近い周縁側領域R13における膜厚T3よりも小さく形成されている。さらに、フィルター10Aでは、フィルター部11a内において、中央側領域R11と周縁側領域R13との間に位置する中間領域R12における膜厚をT2とした場合、それぞれの領域における膜厚は、T1<T2<T3の関係を満たしている。すなわち、フィルター10のフィルター部11a内において、フィルター部11aの中心から放射方向(半径方向外向き)に向かって、膜厚が増加するように、膜厚が設定されている。また、膜厚は、連続的または段階的に増加するようにしてもよい。
【0111】
また、
図5に示すように、フィルター10Aの第2主面PS2は平坦面として形成されており、第1主面PS1におけるフィルター部11aに相当する面が、中央側領域よりも周縁側領域が高くなるような凹面として形成されている。フィルター10Aの枠部15は膜厚T0が概ね一定の厚さに形成され、膜厚T0は周縁側領域R13における膜厚T3以上となっている。
【0112】
フィルター10Aは、例えば、直径6mm(枠部15の外形)、枠部15の幅寸法1mm、隣接する貫通孔12aの間隔が1μm以上500μm以下に形成される。また、フィルター部11aにおいて、枠部15に近い周縁側領域R13おける膜厚T3が1.1μm、中央側領域R11における膜厚T1が0.8μmに形成される。
【0113】
フィルター10Aによれば、フィルター部11aにおいて、中央側領域R11の膜厚T1が周縁側領域R13の膜厚T3よりも小さくなるように、第1主面PS1が凹面として形成されている。これにより、凹面が形成された第1主面PS1で細胞を捕捉するような場合には、流体の表面張力により凹面に流体溜まりが形成されやすくなる。例えば、培養液を液溜まりとして凹面に溜めた状態にて捕捉された細胞を取り扱うことにより、細胞の乾燥を抑制しながら、分析等の処理を行うことができる。よって、フィルター部11aにて捕捉された細胞の取り扱い性を向上させることができる。
【0114】
また、フィルター部11a内において、中央側領域R11から周縁側領域R13に向かって、フィルター部11aの膜厚が連続的にまたは段階的に増加しているようにすることで、フィルター部11aに滑らかな凹面を形成することができる。これにより、表面張力の作用により凹面に流体溜まりを形成しやすくでき、フィルター部11aにて捕捉された細胞の取り扱い性をさらに向上させることができる。
【0115】
また、フィルター部11aの第2主面PS2が平坦面であり、第1主面PS1が凹面としている。これにより、例えば、凹面を利用した流体溜まりを利用したい場合には、凹面である第1主面PS1側にて細胞を捕捉することができる。一方、流体溜まりを形成せずに流体抜けを良くしたい場合には、平坦面である第2主面PS2側にて細胞を捕捉することができる。このように目的に応じて第1主面PS1と第2主面PS2とを使い分けることにより、細胞濾過フィルタの取り扱い性を向上できる。
【0116】
なお、フィルター10Aの説明では、フィルター部11a内において、中央側領域R11から周縁側領域R13に向かって、膜厚が連続的にまたは段階的に増加するように凹面を形成する場合を例としている。しかしながら、フィルター10Aはこのような場合についてのみに限られない。例えば、フィルター部11a内において、中央側領域R11から周縁側領域R13に向かって膜厚が増加している箇所が一部に含まれているような場合であっても構わない。そのような場合であっても、中央側領域R11における平均膜厚が、周縁側領域R13における平均膜厚よりも小さくなっていれば、フィルター10Aの効果を奏することができる。
【0117】
実施の形態1では、貫通孔12の形状が長方形である例について説明したが、これに限定されない。例えば、貫通孔12の形状は、正方形を除く多角形であってもよい。
【0118】
図6は、正六角形形状に形成された貫通孔12bを有するフィルター10Bの一部の拡大断面図を示す。
図6に示すように、フィルター10Bのフィルター部11bにおいては、正六角形形状に形成された複数の貫通孔12bが正三角格子配列(ハニカム構造)で形成されている。
【0119】
図7は、正八角形形状に形成された貫通孔12cを有するフィルター10Cの一部の拡大断面図を示す。
図7に示すように、フィルター10Cのフィルター部11cにおいては、正八角形形状に形成された複数の貫通孔12cが正方格子で形成されている。
【0120】
図6及び
図7に示すように、正多角形形状の貫通孔12b、12cにおいては、貫通孔12b、12cの開口を画定する隣り合う辺と辺との間の角度を鈍角にすることができる。即ち、貫通孔12a、12bの角部が、正方形形状の貫通孔と比べて、緩やかになる。このため、貫通孔12b、12cは、正方形形状の貫通孔に比べて、細胞を傷付けにくいというメリットがある。また、正多角形形状の貫通孔12b、12cは、正方形形状の貫通孔に比べて、加工がし易いため、加工精度を向上させることができる。即ち、正多角形形状の貫通孔12b、12cにおいては、正方形形状の貫通孔に比べて変動係数を小さくすることができる。
【0121】
なお、貫通孔12は、正六角形及び正八角形以外の正多角形状で形成されてもよい。
【0122】
また、貫通孔12の形状は、異なる長さの辺を含む多角形であってもよい。
図8は、多角形状形状に形成された貫通孔12dを有するフィルター10Dの一部の拡大断面図を示す。
図8に示すように、フィルター10Dにおいては、貫通孔12dは、Y方向に伸びた横長の六角形形状に形成されている。具体的には、貫通孔12dは、開口を画定する平行な二辺をY方向に伸ばした横長の六角形形状で形成されている。
【0123】
このような構成により、フィルター10Dは、正多角形形状の貫通孔12b、12cと同様の効果を奏すると共に、長方形形状の貫通孔12と同様の効果を奏することができる。
【0124】
なお、フィルター10Dにおいては、六角形形状の貫通孔12dに限定されず、八角形などの多角形形状の貫通孔であってもよい。また、フィルター10Dの貫通孔12dの延びる方向は限定されない。例えば、貫通孔12dは、X方向に伸びた縦長の多角形形状で形成されていてもよい。
【実施例】
【0125】
実施の形態1に係るフィルター10の性能評価を、実施例1−5及び比較例1−3を用いて行った。
【0126】
(1)実施例1−5と比較例1−3のフィルターについて
実施例1−5と比較例1−3のフィルターを、表1に示す仕様で作製した。
【0127】
【表1】
【0128】
なお、表1の配列間隔において、長辺は
図3中の符号b1の長さに相当し、短辺は
図3中のb2の長さに相当する。
【0129】
実施例1−5及び比較例1−3のフィルターは、円形であり、外形の直径7.8mm、フィルター部11の直径6mm、枠部の厚み2μmである。材質は、ニッケル(Ni)である。
【0130】
実施例1及び2は、長方形形状の貫通孔12を有するフィルター10を用いた。実施例3は、正六角形形状の貫通孔12bを有するフィルター10Bを用いた。実施例4は、正八角形形状の貫通孔12cを有するフィルター10Cを用いた。実施例5は、長方形形状の貫通孔12aを有するフィルター10Aを用いた。また、実施例5においては、枠部15から離れた中央側領域におけるフィルター部11aの膜厚は、中央側領域よりも枠部15に近い周縁側領域におけるフィルター部11aの膜厚よりも小さい。
【0131】
比較例1は、長方形形状の貫通孔12を有するフィルター10を用いた。比較例2は、正六角形形状の貫通孔12bを有するフィルター10Bを用いた。比較例3は、正八角形形状の貫通孔12cを有するフィルター10Cを用いた。
【0132】
これらの実施例1−5及び比較例1−3のフィルターをそれぞれ濾過装置に設置し、細胞懸濁液を濾過することによって、性能評価を行った。なお、前処理として、それぞれのフィルターをエタノール溶液に1分間浸漬し、その後、純水中に1分間浸漬して親水性を高めた。
【0133】
(2)細胞懸濁液について
100mmディッシュを用いて、10vol%のウシ胎児血清と1vol%のペニシリン―ストレプトマイシンとを含むRPMI1620培地(L−グルタミン含有)で、白血病細胞株である浮遊細胞HL−60を5日間培養した。
【0134】
100mmディッシュから培養液の一部を、ピペッティングにより15mLの遠沈管に移した。次に、培養液が入った遠沈管に対して、回転数1000rpmで、3分間の遠心分離を行った後、上清を除去した。次いで、リン酸緩衝生理食塩水を添加し、細胞懸濁液を生成した。なお、細胞懸濁液の細胞濃度が10
5個/mLになるようにリン酸緩衝生理食塩水の添加量を調整した。
【0135】
30μLの細胞懸濁液と、15μLの蛍光試薬DAPIと、をマイクロチューブにて混合して細胞を染色し、染色した細胞懸濁液(細胞染色液)を遮光下にて37℃で20分間インキュベートした。その後、スライドガラスの上に細胞染色液10μLを滴下し、カバーガラスを重ね、波長345nmの励起光源を使用し、455nmを中心とするバンドパスフィルターを通して、蛍光顕微鏡により蛍光観察を行った。青紫色に発色した核のサイズを測定したところ、HL−60の核の大きさは3.66μmであった。なお、HL−60の核の大きさは、100個のHL−60の核の大きさを測定することによって算出された平均値である。
【0136】
100mmディッシュ中の培養液の一部に対して、ピペッティングにより細胞を分散させた後、マイクロピペットを使用して10μL取り出し、細胞数計(Thermo Fisher製自動セルカウンター、Countess(登録商標) II FL)で細胞濃度、生存率、細胞の大きさの平均値を測定した。その結果、細胞濃度は5×10
5個/mL、活性のある細胞(HL−60)の大きさの平均値は13.4μm、生存率は90%であった。具体的には、細胞懸濁液と0.4%のトリパンブルー溶液を1:1の体積割合で混合して細胞膜を青色に染色し、細胞懸濁液とトリパンブルー溶液との混合液10μLを細胞計数スライド(Thermo Fisher製Countess(登録商標) Cell Counting Chamber Slide)に滴下して、細胞の形態を観察した。細胞計数では、染色された細胞膜をマーカーとする画像解析によって、細胞の個数(濃度)、細胞の大きさの平均値、生存率をそれぞれ求めた。
【0137】
100mmディッシュ中の培養液に対して、さらにRPMI1620培地を任意の比率で混合することにより、以下のHL−60細胞懸濁液を作製した。
活性のある細胞(HL−60)の濃度・・・3.06×10
5個/mL
液量・・・1mL
【0138】
なお、室温下のクリーンベンチ内に4時間放置した100mmディッシュ中の培養液について、上述の方法で細胞の生存率を測定した結果、生存率が81%に低下した。このことは、細胞を室温で、長時間放置することによって活性が低下することを意味している。
【0139】
(3)濾過方法について
濾過装置に取り付けられた実施例1−5及び比較例1−3のフィルターにおいて、フィルター部11の第1主面PS1上にピペットで細胞懸濁液を滴下し、第2主面PS2側から細胞懸濁液を吸引することによって、細胞懸濁液の濾過を行った。操作条件としては、0.5kPaの圧力で吸引を行った。フィルターを通過した液体(通過液)が約0.8mlとなったことを目視で確認次第、吸引を中止させた。評価は、吸引開始から吸引中止までの時間(濾過時間)、通過液の液量、通過液に含まれる細胞の数を測定することによって行った。
【0140】
(4)評価結果について
表2に評価結果について示す。
【0141】
【表2】
【0142】
実施例1−5においては、細胞(HL−60)の回収率が100%であった。これに対し、比較例1−3では、細胞の回収率が、それぞれ29.3%、35.7%、40.9%であった。
【0143】
表1に示すように、比較例1−3では、貫通孔12の内接楕円の長径が、それぞれ9.0μm、6.6μm、6.5μmであり、細胞(HL−60)の核の大きさ3.66μmよりも大きい。このため、細胞が貫通孔12を通過してしまったと考えられる。
【0144】
一方、実施例1−5においては、貫通孔12の内接楕円の長径は、3.0μm以上3.5μm以下であり、細胞の核の大きさよりも小さい。このため、実施例1−5では、細胞を確実に捕捉することができたと考えられる。
【0145】
なお、本明細書において、「回収率」とは、フィルターの第1主面PS1上に捕捉した細胞に対する投入した活性のある細胞数の割合を意味し、(投入した活性のある細胞数−通過液に含まれる活性細胞の数)/(投入した活性のある細胞数)で計算した。
【0146】
なお、通過液に含まれる活性細胞の数は、ピペッティングにより通過液中の細胞を分散させた後にマイクロピペットを使用して10μLの通過液を10検体取り出し、細胞数計(Thermo Fisher製自動セルカウンター、Countess(登録商標) II FL)にて、上記検体中の細胞の数を計測した。
【0147】
このように、貫通孔12の内接楕円の長径を、細胞核の大きさよりも小さく設計することで、回収率を向上させることができる。この理由としては、細胞核を取り囲む細胞質は変形しやすく、細胞核は変形しにくい点にある。
【0148】
比較例1−3のように、貫通孔12の内接楕円の長径が細胞核の大きさよりも大きい場合、たとえ貫通孔12の内接楕円の長径が細胞全体の大きさよりも小さくても、細胞質が変形することで細胞がフィルター10を通過してしまうことがある。
【0149】
一方、実施例1−5のように、貫通孔12の内接楕円の長径を細胞核より小さく設計している場合、細胞核は細胞質と比べて変形しにくいため、比較例1−3と比べて、細胞をフィルター10上で捕捉しやすい。
【0150】
また、フィルター10が金属製である点も細胞の回収率の向上に寄与している。金属から成るフィルター10を使用することで、フィルター10の貫通孔12自体の変形量は、メンブレンなどの樹脂性のフィルターと比べて少なくなる。このため、フィルター10では、更に細胞を捕捉しやすくなっている。
【0151】
なお、有核細胞を濾過するに際し、細胞懸濁液への不純物混入、すなわちフィルター10を構成する金属が細胞懸濁液へ溶出することを抑制することが好ましいことは言うまでもない。
【0152】
実施例5において、濾過後に、フィルター部11aの第1主面PS1上に捕捉された細胞を観察した。その結果、濾過前の細胞と同様に、細胞の形態が円形であり、活性が保たれていることがわかった。これは、フィルター部11aの中央側領域R11において液溜まりが生じ、細胞が液溜まりの中に浸された状態でフィルター部11aの第1主面PS1上に捕捉されたためである。
【0153】
ニッケルについて、金属のイオン化傾向の指標である浸漬電位の測定を実施した。リン酸緩衝生理食塩水中での、飽和塩化カリウム溶液に浸された塩化銀からなる参照電極基準の浸漬電位を3分間測定したところ、ニッケルの浸漬電位は0.03Vより貴の範囲で推移した。つまり、同条件で測定したときに、少なくとも0.03Vより貴の浸漬電位を示す金属及び/又は金属酸化物であれば、細胞の活性を損なわずに濾過が可能であると言える。
【0154】
また、実施例1、2及び5では、実施例3及び4に比べて濾過時間が短い。これは、貫通孔12を長方形形状に形成していることによって、細胞の細胞質の変形による目詰まりを抑制することができるためである。具体的には、貫通孔12の形状が長方形である場合、細胞質の変形によって貫通孔12の一部が塞がれたとしても、貫通孔12の他の部分から液体が通過しやすい。このため、実施例1、2及び5では、実施例3及び4に比べて濾過時間が短くなったと考えられる。
【0155】
なお、実施例においては、細胞懸濁液中に有核細胞が10
5個/mL以上存在する比較的高い濃度の細胞懸濁液を濾過して有核細胞を捕捉する例について説明したが、フィルター10は、細胞懸濁液中に有核細胞が数個/mL程度の極めて低濃度の細胞懸濁液を濾過した場合であっても、回収対象である有核細胞を捕捉することができる。
【0156】
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した特許請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
【解決手段】本発明のフィルターは、有核細胞の濾過用フィルターであって、金属及び金属酸化物の少なくともいずれかを主成分とし、複数の貫通孔(正方形を除く)が形成されており、前記貫通孔の内接楕円の長径は、前記有核細胞の核の大きさより小さく、前記貫通孔の内接楕円は、前記貫通孔の開口を画定するすべての辺に接する楕円である。