(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
操舵トルクに対する電流指令値の特性を車速に応じて規定するアシストマップを用いて前記電流指令値を演算し、前記電流指令値に基づいてモータを駆動し、コラム軸にトーションバーを具備している操舵系をアシスト制御する電動パワーステアリング装置において、
前記アシストマップの原点からの傾きKmap’が変更可能で、
操舵角度情報としてハンドル角及びコラム角を検出する機能を有し、前記コラム角若しくは前記ハンドル角及び前記車速に基づいて、車速感応のSAT補償兼仮想バネ定数を用いて前記コラム角若しくは前記ハンドル角に応じたSAT補償兼仮想バネトルクを演算し、電流変換係数により前記SAT補償兼仮想バネトルクを変換した補償信号を出力するSAT補償部兼仮想バネ補償部を設け、
前記補償信号により前記電流指令値を補償し、オンセンタ感の所望特性を得ることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
前記操舵角度情報を横軸、前記操舵トルクを縦軸として前記基本関係式を表記した場合、前記横軸の前記操舵角度情報に対する操舵トルクの傾きα及び前記縦軸の切片Trを求め、前記傾きα及び前記切片Trに基づいて前記傾きKmap及び前記SAT補償兼仮想バネ定数を導出するようになっている請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
操舵トルクに対する電流指令値の特性を車速に応じて規定するアシストマップを用いて、コラム軸にトーションバーを具備している操舵系をアシスト制御する電動パワーステアリング装置を制御する制御装置において、
前記電動パワーステアリング装置が備える、操舵角度情報及び前記車速に基づいて演算されるSAT補償兼仮想バネトルクを電流変換係数により変換した補償信号を出力するSAT補償部兼仮想バネ補償部に設定されるSAT補償兼仮想バネ係数並びに前記アシストマップに設定される初期勾配を演算する制御パラメータ演算部を備えることを特徴とする制御装置。
前記SAT補償兼仮想バネ係数及び前記初期勾配は、複数の設定車速に対しては前記制御パラメータ演算部より演算され、前記設定車速以外の車速に対しては前記設定車速に対する前記SAT補償兼仮想バネ係数及び前記初期勾配を用いて演算される請求項12に記載の制御装置。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリング機構にモータの回転力で操舵補助力(アシスト力)を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、操舵補助力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、電流指令値とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティの調整で行っている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を
図1に示して説明すると、ハンドル(ステアリングホイール)1のコラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2にはトーションバー(図示せず)が介挿されており、トーションバーの捩れ角によりハンドル1の操舵角θを検出する舵角センサ14、操舵トルクThを検出するトルクセンサ10が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Velとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御値Vrefによってモータ20に供給する電流を制御する。なお、車速VelはCAN(Controller Area Network)等から受信することも可能である。
【0004】
なお、舵角センサ14は必須のものではなく、配設されていなくても良く、また、モータ20に連結されたレゾルバ等の回転センサから操舵角を取得することも可能である。
【0005】
コントロールユニット30には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)40が接続されており、車速VelはCAN40から受信することも可能である。また、コントロールユニット30には、CAN40以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN41も接続可能である。
【0006】
コントロールユニット30は主としてCPU(MPUやMCU等も含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと
図2のようになる。
【0007】
図2を参照してコントロールユニット30の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTh及び車速センサ12(若しくはCAN40)からの車速Velは電流指令値演算部31に入力され、電流指令値演算部31はアシストマップを用いて車速Velをパラメータとする電流指令値Iref1を演算する。演算された電流指令値Iref1は操舵系の安定性を高めるための位相補償部32で位相補償され、位相補償された電流指令値Iref2が加算部33に入力される。また、操舵トルクThは応答速度を高めるためのフィードフォワード系の微分補償部35に入力され、微分補償された操舵トルクThdは加算部33に入力され、加算部33は電流指令値Iref2と操舵トルクThdを加算し、その加算結果である電流指令値Iref3を減算部34に入力する。
【0008】
減算部34は、電流指令値Iref3とフィードバックされているモータ電流Imとの偏差Iref4(=Iref3−Im)を求め、偏差Iref4は電流制御部36でPI制御等を施され、電圧制御値VrefがPWM制御部37に入力されてデューティを演算され、インバータ38を介してモータ20をPWM駆動する。モータ20のモータ電流値Imはモータ電流検出器39で検出され、減算部34にフィードバックされる。
【0009】
このような電動パワーステアリング装置において、従来、オンセンタ感を向上させるための手段として、例えばWO 2011/101979(特許文献1)に開示されているように、SAT(セルフアライニングトルク)を用いてフィードバックする方法が提案されている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】電動パワーステアリング装置の概要を示す構成図である。
【
図2】電動パワーステアリング装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の構成例(第1実施形態)を示すブロック図である。
【
図4】本発明に係るSAT補償部兼仮想バネ補償部の構成例を示すブロック図である。
【
図5】本発明に係るアシストマップの一例を示す特性図である。
【
図6】センサの装着例及び操舵角度情報の関係を示す模式図である。
【
図7】トーションバーと操舵角度情報の関係を示す機構図である。
【
図8】舵角(コラム角)と操舵トルク(トーションバートルク)の関係を模式的に示す特性図である。
【
図9】本発明の動作例を示すフローチャートである。
【
図10】本発明(第1実施形態)のシミュレーション結果を示す特性図である。
【
図11】本発明の構成例(第2実施形態)を示すブロック図である。
【
図12】本発明に係るSAT補償部兼仮想バネ補償部の構成例を示すブロック図である。
【
図13】本発明(第2実施形態)のシミュレーション結果を示す特性図である。
【
図14】本発明に係る制御装置(第3実施形態)が制御する電動パワーステアリング装置の構成例を示すブロック図である。
【
図15】SAT補償部兼仮想バネ補償部の構成例を示すブロック図である。
【
図16】本発明の構成例(第1実施例)を示すブロック図である。
【
図17】本発明の動作例(第1実施例)を示すフローチャートである。
【
図18】本発明の構成例(第2実施例)を示すブロック図である。
【
図19】本発明の動作例(第2実施例)を示すフローチャートである。
【
図20】本発明の構成例(第3実施例)を示すブロック図である。
【
図21】第3実施形態の表示部の表示例を示す画面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は簡易な制御構成により、オンセンタ(中立点付近)の微小な操舵(緩慢操舵)において所望の操舵特性を実現し、従来より一層摩擦感を抑制し、線形的なオンセンタの操舵フィーリングを向上させる電動パワーステアリング装置である。本発明では、車速をパラメータとして操舵トルクに応じて電流指令値を演算すると共に、原点からの傾きを可変できるアシストマップと、車速と、操舵角度情報としてのコラム角(コラム出力側角度)或いは車速及び操舵角度情報としてのハンドル角(コラム入力側角度)とに基づいて、SAT補償兼仮想バネ補償を行う補償信号を演算するSAT補償部兼仮想バネ補償部とを設け、補償信号で電流指令値を補償することによって、オンセンタにおける緩慢操舵での所望の操舵特性(微小微舵速操舵領域)を実現している。
【0021】
また、本発明に係る制御装置は、簡易な制御構成により、オンセンタ緩慢操舵において所望の操舵特性を実現し、従来より一層摩擦感を抑制し、線形的なオンセンタの操舵フィーリングを向上させるものであり、アシストマップの初期勾配とSAT補償部兼仮想バネ補償部に設定されるSAP補償兼仮想バネ係数を、制御パラメータとして算出して設定することにより、簡易にセンタ感をチューニングできるようにしている。
【0022】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図3は本発明の構成例(第1実施形態)を
図2に対応させて示しており、車速Vel及び操舵角度情報θとしてコラム角θcを入力して補償信号Iskを出力するSAT補償部兼仮想バネ補償部100が設けられている。SAT補償部兼仮想バネ補償部100で算出された補償信号Iskは加算部33に入力されて加算処理され、電流指令値Iref2を補償する。SAT補償兼仮想バネ補償された電流指令値Iref3によって、モータ20を駆動する。
【0024】
SAT補償部兼仮想バネ補償部100の構成は、例えば
図4に示すようになっている。操舵角度情報θ(コラム角θc)は車速感応のゲイン部101に入力され、SAT補償兼仮想バネ定数Kbでゲイン倍された仮想バネトルクTsk’[Nm]は、チューニングの幅を持たせるための位相補償部102に入力される。位相補償部102は、仮想バネトルクTsk’[Nm]に基づいて位相補償した仮想バネトルクTsk[Nm]を算出し、算出された仮想バネトルクTskはモータ電流[A]に換算するための変換係数部103に入力され、電流変換係数で電流値に換算された補償信号Iskが出力される。
【0025】
また、本発明では電流指令値演算部31内のアシストマップの原点からの傾きを、
図5に示すように傾きKmap’に設定する。Ciをコラム軸トルク[Nm]からモータ電流[A]への傾き変換係数とし、後述の数6で使用する傾きKmapを用いて下記数1により、傾きKmap’を設定する。傾きKmap’は電流指令値演算部31に入力され、アシストマップの原点からの傾きKmap’に調整される。なお、傾きKmap’は車速Velに応じて変化する。
【0026】
【数1】
コラム軸(ハンドル軸)2にトーションバーを具備する電動パワーステアリング装置では、例えば
図6に示すような各種センサがトーションバー23を挟むコラム軸2に装着され、角度が検出される。即ち、ハンドル軸2のハンドル1側の入力シャフト2Aには、角度センサとしてのホールICセンサ21及びトルクセンサ入力側ロータの20°ロータセンサ22が装着されている。ホールICセンサ21は296°周期のAS_IS角度θnを出力する。トーションバー23よりもハンドル1側に装着された20°ロータセンサ22は、20°周期のコラム入力側角度信号θh1を出力し、コラム入力側角度信号θh1は舵角演算部50に入力される。また、ハンドル軸2の出力シャフト2Bには、トルクセンサ出力側ロータの40°ロータセンサ24が装着されており、40°ロータセンサ24からコラム出力側角度信号θc1が出力され、コラム出力側角度信号θc1は舵角演算部50に入力される。操舵角度情報としてのコラム入力側角度信号θh1及びコラム出力側角度信号θc1は共に舵角演算部50で絶対角度に演算され、舵角演算部50から絶対角度のハンドル角θh及びコラム角θcが操舵角度情報として出力される。このようにして検出されるコラム角θcが、SAT補償部兼仮想バネ補償部100に入力される。
【0027】
ここで、トーションバートルクをTt、コラム角速度をωc、検出したトーションバートルクTtに応じたアシストトルクをTa、コラム角θcに応じたSAT補償兼仮想バネトルクをTb、検出若しくは推定されたSAT(セルフアライニングトルク)値をTsat、摩擦トルクをTfとしたとき、比較的ゆっくり若しくは緩やかな操舵(以下、「緩慢操舵」とする)での関係式は、近似的に下記数2で表わせる。数2を、以下では、「緩慢操舵における第1近似関係式」とする。
【0028】
【数2】
一方、トーションバー捩れ角Δθ、ハンドル角θh、コラム角θcの関係は、
図7に示すようになり、下記数3が成立する。
【0029】
【数3】
また、トーションバートルクTtとトーションバー捩れ角Δθの関係は、Ktを捩れ角係数として、下記数4の関係式で表わせる。
【0030】
【数4】
そして、コラム角θcとSAT値Tsatの関係が線形であるとすると、KsatをSAT係数として、下記数5の関係式が成立する。
【0031】
【数5】
また、アシストトルクTaが検出したトーションバートルクTtに対して線形で表されるとすると、Kmapを傾きとして、下記数6の関係式が成立する。
【0032】
【数6】
SAT補償兼仮想バネ補償トルクTbがコラム角θcに対して線形で表されるとすると、KbをSAT補償兼仮想バネ定数として、下記数7の関係式が成立する。
【0033】
【数7】
以上の関係式から、コラム角θcとトーションバートルクTtの関係式を導出すると、下記数8となる。
【0034】
【数8】
上記数8から、操舵角度情報θ(ハンドル角θh[deg])と操舵トルク(トーションバートルクTt)[Nm]を模式的に図で表すと、
図8になる。X軸(横軸)がハンドル角θh[deg]であり、Y軸(縦軸)がトーションバートルクTt[Nm]である。ただし、Y軸との切片Tr[Nm]とハンドル角θh[deg]に対する操舵トルクの傾きα[Nm/deg]は、下記数9及び数10で表される。
【0036】
【数10】
次に、所望のトーションバートルクTtと操舵トルクの傾きαから傾きKmapを導出すると下記数11となり、SAT補償兼仮想バネ定数Kbは下記数12となる。
【0038】
【数12】
このような構成において、その動作例を
図9のフローチャートを参照して説明する。
【0039】
先ず検出された操舵トルクThを入力し(ステップS1)、次いで車速Velを入力し(ステップS2)、ハンドル角θh及びコラム角θcを入力する(ステップS3)。これら入力の順番は適宜変更可能である。ゲイン部101はコラム角θc及び車速Velに基づいて仮想バネトルクTsk’を求め(ステップS10)、位相補償部102は仮想バネトルクTsk’に基づいて仮想バネトルクTskを算出する(ステップS20)。
【0040】
位相補償部102からの仮想バネトルクTskは変換係数部103に入力され、電流に変換する電流変換係数を乗算されて補償信号Iskが出力される(ステップS30)。その後、電流指令値演算部31は、傾きKmap’のアシストマップを用いて電流指令値Iref1を演算する(ステップS41)。変換係数部103からの補償信号Iskが加算部33に入力され、電流指令値Iref2が補償信号Iskによって補償される(ステップS42)。
【0041】
車両モデルと電動パワーステアリング装置を考慮した第1実施形態のシミュレーション結果を、
図10に示す。車速100kph、ハンドル角を5deg、0.2Hzで操舵したときのコラム角θcとトーションバートルクTtの線図を示す。細線と太線は、切片Trと傾きαの設定値を以下の値にした場合の、アシストマップの初期勾配Kmap’[A/Nm]、SAT補償兼仮想バネ定数Kb[Nm/deg]を適用した。
【0042】
細線:Tr=0.5[Nm]、α=0.2[Nm/deg]
太線:Tr=0.25[Nm]、α=0.2[Nm/deg]
本発明の第1実施形態は、
図10に示すような所望の特性(切片Tr,傾きα)を逆算して傾きKmap、SAT補償兼仮想バネ定数Kbを算出している。SAT補償兼仮想バネ定数Kb及び傾きKmapは予め求められており、例えば車速に応じた特性のマップでも良い。また、コラム角は、コラム角を直接検出する角度センサでも良いし、ハンドル角とトーションバー捩れ角を組み合わせて求めたものでも良い。
【0043】
次に、操舵角度情報θとしてハンドル角(コラム出力側角度)θhを用いる第2実施形態を説明する。
【0044】
その構成は、
図3に対応させて示す
図11であり、SAT補償部兼仮想バネ補償部100Aには車速Vel及び操舵角度情報としてハンドル角θhが入力され、補償信号Iskは加算部33に入力される。SAT補償部兼仮想バネ補償部100Aの詳細構成は、
図4に対応させて示す
図12であり、ハンドル角θhが車速感応のゲイン部101Aに入力され、SAT補償部兼仮想バネ定数Kbでゲイン倍された仮想バネトルクTsk’[Nm]が位相補償部102に入力される。
【0045】
第2実施形態では、トーションバートルクTt、コラム角速度ωc、アシストトルクTa、SAT補償兼仮想バネトルクTb、SAT値をTsat、摩擦トルクTfに対して、緩慢操舵での関係式は、近似的に下記数13で表わせる。数13を、以下では、「緩慢操舵における第2近似関係式」とする。
【0046】
【数13】
第2実施形態においても、トーションバー捩れ角Δθ、ハンドル角θh、コラム角θcの関係は
図7に示すようになり、前記数3が成立し、トーションバートルクTtとトーションバー捩れ角Δθの関係は、前記数4で表わせる。同様に、ハンドル角θhとSAT値Tsatの関係が線形であるとすると、前記数5の関係式が成立し、アシストトルクTaが検出したトーションバートルクTtに対して線形で表されるとすると前記数6の関係式が成立する。そして、SAT補償兼仮想バネ補償トルクTbがハンドル角θhに対して線形で表されるとすると、下記数14の関係式が成立する。
【0047】
【数14】
以上の関係式から、ハンドル角θhとトーションバートルクTtの関係式を導出すると、下記数15となる。
【0048】
【数15】
上記数15から、操舵角度情報(ハンドル角θh)[deg]と操舵トルク(トーションバートルクTt)[Nm]を図で表すと
図8になるが、第2実施形態では、Y軸との切片Tr[Nm]とハンドル角θhに対する操舵トルクの傾きα[Nm/deg]は、下記数16及び数17で表される。
【0050】
【数17】
次に、所望のトーションバートルクTtと操舵トルクの傾きαから傾きKmapを導出すると下記数18となり、SAT補償兼仮想バネ定数Kbは前記数12となる。
【0051】
【数18】
このような構成において、その動作例は
図9のフローチャートと同様であり、ゲイン部101Aがハンドル角θh及び車速Velに基づいて仮想バネトルクTsk’を求めるステップ(ステップS10)のみが、第1実施形態と相違している。
【0052】
車両モデルと電動パワーステアリング装置を考慮した第2実施形態のシミュレーション結果を、
図13に示す。車速100kph、ハンドル角を5deg、0.2Hzで操舵したときのハンドルム角θhとトーションバートルクTtの線図を示す。細線と太線は、切片Trと傾きαの設定値を以下の値にした場合の、アシストマップの初期勾配Kmap’[A/Nm]、SAT補償兼仮想バネ定数Kb[Nm/deg]を適用した。
【0053】
細線:Tr=0.5[Nm]、α=0.2[Nm/deg]
太線:Tr=0.25[Nm]、α=0.2[Nm/deg]
本発明は
図13に示すような所望の特性(切片Tr,傾きα)を逆算して傾きKmap、SAT補償兼仮想バネ定数Kbを算出しており、SAT補償兼仮想バネ定数Kb及び傾きKmapは予め求められており、例えば車速に応じた特性のマップでも良い。
【0054】
また、ハンドル角は、ハンドル角を直接検出する角度センサでも良いよいし、或いはモータ角度と減速比の関係から求めた角度でも良く、或いはコラム角とトーションバー捩れ角から求めた角度でも良い。また、トーションバー捩れ角は、捩れ角を直接検出するトーションバートルクセンサでも良いし、ハンドル角とコラム角の偏差から求めたものでも良い。
【0055】
ここで、電動パワーステアリング装置内の電流指令値演算部が用いるアシストマップの初期勾配を
図5に示すようにKmap’に設定し、傾き変換係数Ciを用いると、初期勾配Kmap’は前記数1より算出される。よって、摩擦トルクTf,捩れ角係数Kt,SAT係数Ksat及び傾き変換係数Ciを既知として、所望の切片Trと傾きαを設定することにより、コラム角θcの場合は数11、数12及び数19を用いて、ハンドル角θhの場合は数11、数18及び数19を用いてアシストマップの初期勾配Kmap’とSAT補償兼仮想バネ係数Kbを求めることができる。なお、初期勾配Kmap’とSAT補償兼仮想バネ係数Kbは車速Velに応じて変化するので、予め設定された複数の車速(以下、「設定車速」とする)Vs毎に初期勾配Kmap’とSAT補償兼仮想バネ係数Kbを求める。
【0056】
本発明に係る制御装置が制御する電動パワーステアリング装置について説明する。
【0057】
図14は本発明に係る制御装置が制御する電動パワーステアリング装置の構成例第3実施形態を
図2及び
図3に対応させて示しており、本例では操舵角度情報としてコラム角θcを使用しており、車速Vel及びコラム角θcを入力して補償信号Iskを出力するSAT補償部兼仮想バネ補償部100が設けられている。SAT補償部兼仮想バネ補償部100で算出された補償信号Iskは加算部33に入力されて加算処理され、電流指令値Iref2を補償する。SAT補償兼仮想バネ補償された電流指令値Iref3によって、モータ20を駆動する。制御装置60で演算されたアシストマップの初期勾配Kmap’及びSAT補償兼仮想バネ係数Kbが、それぞれ電流指令値演算部31及びSAT補償部兼仮想バネ補償部100に設定車速Vsと共に設定される。
【0058】
SAT補償部兼仮想バネ補償部100の構成は、例えば
図15に示すようになっている。制御装置60で演算されたSAT補償兼仮想バネ係数Kbが設定された車速感応のゲイン部101にコラム角θcが入力され、SAT補償兼仮想バネ係数Kbでゲイン倍されたSAT補償兼仮想バネ補償トルクTb[Nm]は位相補償部102に入力される。位相補償部102は、位相補償した仮想バネトルクTsk[Nm]を算出し、仮想バネトルクTskは変換係数部103に入力され、電流値に換算された補償信号Iskが出力される。
【0059】
コラム軸(ハンドル軸)2にトーションバーを具備する電動パワーステアリング装置では、例えば
図6に示すような各種センサがトーションバー23を挟むコラム軸2に装着され、角度が検出される。検出されたコラム角θcが、SAT補償部兼仮想バネ補償部100に入力される。
【0060】
このような構成の電動パワーステアリング装置において、その動作例は
図9のフローチャートに示されており、SAT補償兼仮想バネ補償トルクTbの算出(ステップS10)及び電流指令値Iref1の算出(ステップS41)において、設定車速Vsの中に車速Velと一致するものがない場合、車速Velに最も近い設定車速に対するSAT補償兼仮想バネ係数Kb及び初期勾配Kmap’を使用する。操舵角度情報としてハンドル角θhを使用する場合の構成及び動作は、上述の構成例及び動作例と同様である。
【0061】
本発明に係る制御装置は、上述のように、電流指令値演算部31及びSAT補償部兼仮想バネ補償部100に設定される初期勾配Kmap及びSAT補償兼仮想バネ係数Kbを演算する。
【0062】
以下に、本発明に係る制御装置(第3実施形態)の実施例を、図面を参照して説明する。
【0063】
図16は本発明の第1実施例を示すブロック図であり、本第1実施例では、制御装置60は、データ入力部61、制御パラメータ演算部62及びメモリ63を備える。
【0064】
データ入力部61はキーボードやタブレット等を有し、所望の操舵特性の切片Tr及び傾きα並びに設定車速Vsを取得する。メモリ63には、摩擦トルクTf、捩れ角係数Kt、SAT係数Ksat及び傾き変換係数Ci(以下、纏めて「特性組成データ」とする)が格納されている。制御パラメータ演算部62は、所望の操舵特性の切片Tr及び傾きαとメモリ63に格納されている特性組成データを用いて、設定車速Vsに対する制御パラメータ(初期勾配Kmap’、SAT補償兼仮想バネ係数Kb)を算出する。
【0065】
このような構成において、その動作例(第1実施例)を
図17のフローチャートを参照して説明する。
【0066】
先ずデータ入力部61が設定車速Vs、所望の操舵特性の切片Tr及び傾きαを取得し、制御パラメータ演算部62に出力する(ステップS100)。制御パラメータ演算部62は、メモリ63に格納されている特性組成データ(Tf、Kt、Ksat、Ci)を読み出し(ステップS110)、入力された切片Tr及び傾きαを用いて、初期勾配Kmap’及びSAT補償兼仮想バネ係数Kbを算出する(ステップS120)。算出に当たり、舵角としてコラム角θcを使用する場合は数10、数11及び数12を使用し、舵角としてハンドル角θhを使用する場合は数11、数12及び数18を使用する。
【0067】
算出された初期勾配Kmap’及びSAT補償兼仮想バネ係数Kbは、設定車速Vsに対する制御パラメータとして電動パワーステアリング装置9に設定される。
【0068】
本発明に係る制御装置で算出した制御パラメータを用いて、車両モデルと電動パワーステアリング装置を考慮したシミュレーション結果は
図13と同一である。
【0069】
なお、上述の第1実施例では制御パラメータのみを算出しているが、電動パワーステアリング装置9内のSAT補償部兼仮想バネ補償部100の位相補償部102のパラメータを制御装置60で算出しても良い。例えば、位相補償を1次のフィルタで実現する場合、伝達関数の分子と分母のカットオフ周波数を設定することにより、制御装置60でフィルタ係数を算出する。この場合、カットオフ周波数はデータ入力部61で取得する。これにより、電動パワーステアリング装置9の動作に必要なパラメータを纏めて算出することができる。
【0070】
第1実施例では設定車速に対する制御パラメータのみを算出しているが、設定車速以外の車速に対する制御パラメータを線形補間等により算出することもできる。例えば、設定車速以外の車速Vxに対する制御パラメータを、設定車速の中で車速Vxの近傍に位置する設定車速Vs(n)及びVs(n+1)に対する制御パラメータから線形補間により算出する。即ち、設定車速Vs(n)及びVs(n+1)に対する初期勾配がKmap’(n)及びKmap’(n+1)、SAT補償兼仮想バネ係数がKb(n)及びKb(n+1)の場合、車速Vxに対する初期勾配Kmap’x及びSAT補償兼仮想バネ係数Kbxを、それぞれ下記の数19及び数20で算出する。
【0072】
【数20】
これにより、対応可能な車速の範囲を容易に拡大することができる。
【0073】
この機能を盛り込んだ本発明の第2実施例を
図18に示す。本第2実施例では、
図16に示される第1実施例に対して、制御パラメータ演算部とメモリが変更されている。即ち、メモリ73は、特性組成データの他に、制御パラメータ演算部72で算出される設定車速Vsに対する制御パラメータを設定車速Vsと共に格納する。制御パラメータ演算部72は、メモリ73に格納された設定車速Vsに対する制御パラメータを用いて、設定車速Vs以外の車速Vxに対する制御パラメータも算出する。なお、車速Vxはデータ入力部61で取得しても良いし、予め決定しておいても良いし、設定車速Vsから算出(例えば設定車速間の中間値をVxとする等)しても良い。
【0074】
第2実施例の動作例を
図19のフローチャートを参照して説明する。
【0075】
先ず第1実施例と同様の動作により、設定車速Vsに対する初期勾配Kmap’及びSAT補償兼仮想バネ係数Kbを算出する(ステップS100〜S120)。算出された初期勾配Kmap’及びSAT補償兼仮想バネ係数Kb並びに設定車速Vsはメモリ73に格納される(ステップS130)。そして、全ての設定車速に対する初期勾配Kmap’及びSAT補償兼仮想バネ係数Kbが算出されたら(ステップS140)、制御パラメータ演算部72は、メモリ73に格納されたKmap’、Kb及びVsを用いて、設定車速Vs以外の車速Vxに対する初期勾配Kmap’x及びSAT補償兼仮想バネ係数Kbxを数19及び20による線形補間により算出する(ステップS150)。
【0076】
算出された初期勾配Kmap’x及びSAT補償兼仮想バネ係数Kbxは、車速Vxに対する制御パラメータとして、設定車速Vsに対する初期勾配Kmap’及びSAT補償兼仮想バネ係数Kbと共に、電動パワーステアリング装置9に設定される。
【0077】
なお、車速Vxに対する制御パラメータの算出を電動パワーステアリング装置9で行っても良い。電動パワーステアリング装置9が入力する車速Velが設定車速Vsではない場合、例えば電流指令値演算部31が車速Velに対する初期勾配Kmap’xを線形補間により算出し、SAT補償部兼仮想バネ補償部100が車速Velに対するSAT補償兼仮想バネ係数Kbxを線形補間により算出する。これにより、実測された車速に応じた制御パラメータを算出することができる。
【0078】
また、車速Vxに対する制御パラメータは、線形補間以外の補間方法で算出しても良い。例えば、多項式補間であるラグランジュ補間やニュートン補間等で算出しても良い。これにより、補間算出の精度を上げることができる。
【0079】
本発明に係る制御装置に表示部を設け、データ入力部61が取得した切片Tr及び傾きαから描写される特性図を表示させることにより、所望の操舵特性を分かりやすく提示することができる。
【0080】
図16に示される第1実施例に対して、表示部を追加した第3実施例を
図20に示す。データ入力部61から出力される切片Tr、傾きα及び設定車速Vsが、制御パラメータ演算部62と表示部64に入力されている。
【0081】
表示部64による表示例を
図21に示す。本表示例では、電動パワーステアリング装置9内のSAT補償部兼仮想バネ補償部100の位相補償部102のパラメータを算出するために設定されるカットオフ周波数も表示している。
【0082】
なお、制御パラメータ演算部62が算出する初期勾配及びSAT補償兼仮想バネ係数も表示部64で表示しても良い。
【0083】
上述の第1実施例〜第3実施例では、制御装置60と電動パワーステアリング装置9は接続されているが、制御装置60で演算された制御パラメータが電動パワーステアリング装置9に設定された後は、再設定が必要になるまでは制御装置60は不要であるから、制御装置60と電動パワーステアリング装置9を切り離しても良い。或いは、制御装置60と電動パワーステアリング装置9は接続せず、演算した制御パラメータを着脱可能な記憶媒体に制御装置60が書き出し、その記憶媒体から電動パワーステアリング装置9が制御パラメータを読み出すようにしても良い。