【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の第1の態様の液体噴射装置は、第1の面と前記第1の面の裏面の第2の面を有する被記録媒体の前記第1の面に液体を噴射する液体噴射部と、前記被記録媒体の第1の面に噴射された前記液体を加熱する第1加熱部と、前記被記録媒体の第1の面と対向する位置に設けられた第1回収部と、前記被記録媒体の第2の面と対向する位置に設けられた第2回収部と、を備え、前記第1回収部と前記第2回収部は、前記第1加熱部による前記液体の加熱処理で生じる蒸気を集める蒸気集め部と、該集めた蒸気を液化する蒸気液化部とを備える、ことを特徴とする
【0010】
ここで、「被記録媒体の第1の面と対向する位置に設けられた第1回収部」とは、本明細書においては、前記加熱処理で生じる蒸気を集めるための蒸気取り入れ口が前記第1の面と対向する位置に設けられていればよく、当該第1回収部の構成部材の全てが前記第1の面と対向する位置に設けられていなくてもよい意味で使われている。
「被記録媒体の第2の面と対向する位置に設けられた第2回収部」とは、同様に本明細書においては、前記加熱処理で生じる蒸気を集めるための蒸気取り入れ口が前記第2の面と対向する位置に設けられていればよく、当該第2回収部の構成部材の全てが前記第2の面と対向する位置に設けられていなくてもよい意味で使われている。
【0011】
本態様によれば、前記第1加熱部よって前記加熱処理を行う部分における前記被記録媒体の第1の面と対向する位置に第1回収部、前記加熱処理を行う部分における前記被記録媒体の第2の面と対向する位置に第2回収部とがそれぞれ設けられている。そして、前記第1回収部と前記第2回収部は、前記加熱処理で生じる蒸気を蒸気取り入れ口から集める蒸気集め部と、該集めた蒸気を液化する蒸気液化部とを備える。
これにより、インクジェット記録装置等の液体噴射装置において、被記録媒体に噴射された液体を加熱乾燥することで発生する蒸気を、該被記録媒体の液体噴射面側と更にその反対側である裏面側において、それぞれ集めて更に液化するので、蒸気の周囲環境への放出を有効に低減することができる。
【0012】
本発明の第2の態様の液体噴射装置は、前記第1の態様において、前記被記録媒体を支持する支持部材を備え、前記支持部材の前記被記録媒体の支持面は水平面に対して10°以上60°以下の範囲で傾斜して支持されている、ことを特徴とする。
【0013】
傾斜状態の被記録媒体から加熱処理によって発生する蒸気は鉛直上方への上昇気流となる。従って、加熱により前記加熱処理を行う部分の面積に対して前記上昇気流が占める領域の水平断面の面積は小さくなる。従って、前記蒸気集め部が備える前記蒸気取り入れ口のサイズを前記傾斜させない水平支持構造に対して小さくすることが可能になる。これにより小型化を図ることができる。
【0014】
本発明の第3の態様の液体噴射装置は、前記第1の態様又は第2の態様において、前記液体は液体成分として水と水溶性有機溶媒を含むインクであり、前記蒸気液化部は、水の蒸気は水蒸気のまま残り、他の蒸気は液化する温度に設定可能である、ことを特徴とする。
【0015】
ここで、「水の蒸気は水蒸気のまま残り」とは、本願明細書においては、すべてが水蒸気のまま残ることまでは要せず、一部が凝縮して液化してもよい意味で使われている。また、「他の蒸気は液化する」とは、その蒸気のすべてが凝縮して液化することまでは要せず、一部が蒸気であってもよい意味で使われている。それでも、水の蒸気と他の蒸気を高分離率で分離するように該蒸気液化部の温度等の条件を設定することが好ましい。
また、「前記蒸気液化部は、水の蒸気は水蒸気のまま残り、他の蒸気は液化する温度に設定されている」における温度が設定さえている部分は、当該蒸気液化部の構成部材の内の蒸気を液化させる作用をする部分である。
【0016】
本態様によれば、噴射される前記液体が水と水溶性有機溶媒を含むインクである場合、前記蒸気液化部は水の蒸気は水蒸気のまま残し、他の蒸気は液化する。従って、液化して回収する廃液から水を除くことが出来る。インクの成分はほとんどが水であるので、水蒸気も液化して廃液に含めると廃液タンクが短時間で満杯になってしまうので該廃液タンクの容量を大型化する必要がある。しかし、本態様によれば周囲の環境を悪化しない水は水蒸気のまま環境中に放出するので、廃液の発生量を大幅に減少することができ、以て廃液タンクを小型化することができる。
【0017】
本発明の第4の態様の液体噴射装置は、前記第1の態様又は第2の態様において、前記液体は液体成分として水と水溶性有機溶媒を含むインクであり、前記蒸気液化部は、温度が40℃〜65℃の範囲に設定可能である、ことを特徴とする。
【0018】
ここで、「前記蒸気液化部は、温度が40℃〜65℃の範囲に設定されている」における温度が設定さえている部分は、当該蒸気液化部の構成部材の内の蒸気を液化させる作用をする部分である。
【0019】
本態様によれば、噴射される前記液体が水と水溶性有機溶媒を含むインクである場合、前記蒸気液化部は、温度が40℃〜65℃の範囲に設定されている。この温度範囲ではインク中に分散剤として含まれる前記水溶性有機溶媒の蒸気は液化するが、水蒸気は液化せず蒸気のまま残る。従って、液化して回収する廃液から水を除くことが出来る。インクの成分はほとんどが水であるので、水蒸気も液化して廃液に含めると廃液タンクが短時間で満杯になってしまうので該廃液タンクの容量を大型化する必要がある。しかし、本態様によれば周囲の環境を悪化しない水は水蒸気のまま環境中に放出するので、周囲環境への有機溶媒の放出を抑制しつつ、廃液の発生量を大幅に減少することができ、以て廃液タンクを小型化することができる。
【0020】
本発明の第5の態様の液体噴射装置は、前記第1の態様から第4の態様のいずれか一つの態様において、前記蒸気液化部は第2加熱部を備え、該第2加熱部による加熱温度は調整可能である、ことを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、前記第2加熱部による加熱温度が調整可能であるので、当該蒸気液化部は、液体の種類の違いに対応して、当該液体の蒸気を液化する為の適切な温度への変更が容易である。
或いは、前記液体が前記インクである場合に、水の蒸気は水蒸気のまま残し、水溶性有機溶媒の蒸気を液化するために適切な温度への変更が容易である。
【0022】
本発明の第6の態様の液体噴射装置は、前記第1の態様から第5の態様のいずれか一つの態様において、前記第1回収部と前記第2回収部は、蒸気を取り入れるための蒸気取り入れ口を有し、前記蒸気取り入れ口に前記蒸気集め部内への蒸気の移動力を発生する蒸気移動力発生部を備え、前記蒸気液化部は前記移動力によって移動する蒸気の移動経路に位置する、ことを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、蒸気移動力発生部によって前記蒸気集め部の蒸気取り入れ口に当該蒸気集め部内への蒸気の移動力が発生するので、前記加熱処理で発生した蒸気は前記蒸気取り入れ口に誘導され、該蒸気集め部内に容易に集めることができる。
また、前記蒸気液化部は前記移動力によって移動する蒸気の移動経路に位置するので、集めた蒸気を効率良く液化することができる。
【0024】
本発明の第7の態様の液体噴射装置は、前記第6の態様において、前記蒸気移動力発生部は前記蒸気取り入れ口に吸引力を発生して蒸気の移動状態を作るファンであり、前記蒸気液化部は前記蒸気の移動経路において前記入り口より下流で且つ前記ファンよりも上流に位置する、ことを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、第6の態様の作用効果に加えて、前記蒸気液化部は前記蒸気の移動経路において前記蒸気取り入れ口より下流で且つ前記ファンよりも上流に位置するので、該ファンの部分で蒸気が結露する虞が低減できる。
【0026】
本発明の第8の態様の液体噴射装置は、前記第6の態様において、前記蒸気移動力発生部は前記蒸気の移動経路と異なる位置に設けられ、気流によって前記蒸気取り入れ口に吸引力を発生して蒸気の移動状態を作るファンであり、前記蒸気液化部は前記ファンの作る気流の方向において該ファンより下流で、且つ前記蒸気の移動経路において前記蒸気取り入れ口よりも下流に位置する、ことを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、第6の態様の作用効果に加えて、前記蒸気移動力発生部を成すファンを前記蒸気の移動経路と異なる位置に設ける構造によっても、前記蒸気取り入れ口に吸引力を発生して蒸気の移動状態を作ることができる。そして、この構造によっても、該ファンの部分で蒸気が結露する虞が低減できる。
【0028】
本発明の第9の態様の液体噴射装置は、前記第1の態様から第8の態様のいずれか一つの態様において、前記被記録媒体を支持する支持部材を備え、前記蒸気取り入れ口は前記支持部材に設けられた上面から下面に連通する連通孔であり、前記被記録媒体の第2面側に発生した蒸気は前記連通孔を通って前記蒸気液化部に向かう、ことを特徴とする。
【0029】
本態様によれば、第2回収部は被記録媒体の下側に位置する。そして、該第2回収部は、被記録媒体を支持部材によって下側から支持した状態で、該被記録媒体の液体噴射面側と反対側である裏面側に発生する蒸気を、その連通孔を前記蒸気取り入れ口として蒸気集め部内に集めることができる。
【0030】
本発明の第10の態様の液体噴射装置は、前記第1の態様から第5の態様のいずれか一つの態様において、前記被記録媒体を支持する支持部材と、前記蒸気取り入れ口に前記蒸気集め部内への蒸気の移動力を発生する蒸気移動力発生部と、を備え、前記蒸気取り入れ口は前記支持部材に設けられた上面から下面に連通する連通孔であり、前記蒸気液化部は前記支持部材よりも熱伝導率の高い材料で構成され、前記蒸気移動力発生部による前記蒸気の移動力は、前記支持部材よりも熱伝導率が高い前記蒸気液化部の方で前記蒸気が結露しやすいことで発生する、ことを特徴とする。
【0031】
本態様によれば、当該蒸気移動力発生部を第7の態様や第8の態様のようにファンを用いずに、支持部材の熱伝導率と蒸気液化部の熱伝導率の差によって、前記蒸気取り入れ口に蒸気の移動力を発生することができる。この構造によっても第9の態様と同様の作用効果を得ることができる。
【0032】
本発明の第11の態様の液体噴射装置は、前記第1の態様から第10の態様のいずれか一つの態様において、前記第1回収部の前記蒸気取り入れ口は前記加熱処理で蒸発する蒸気が上昇する位置に設けられている、ことを特徴とする。
【0033】
本態様によれば、第1回収部は被記録媒体の上側に位置する。そして、第1回収部は、被記録媒体の液体噴射面側に発生する蒸気を、該蒸気が上昇する位置に設けられた蒸気取り入れ口から効果的に前記蒸気集め部内に集めることができる。
【0034】
本発明の第12の態様の液体噴射装置は、前記第11の態様において、前記第1回収部は、前記蒸気集め部内に外気を取り込み可能である、ことを特徴とする。
【0035】
本態様によれば、前記第1回収部は、前記蒸気集め部内に外気を取り込み可能であるので、該外気の取り込み量の調整によって前記蒸気液化部の温度調整を簡単に行うことができる。
【0036】
本発明の第13の態様の液体噴射装置は、前記第11の態様又は第12の態様において、前記第1回収部は、前記蒸気液化部が複数層に構成され、各層は液化温度が異なる、ことを特徴とする。
【0037】
本態様によれば、前記第1回収部は、前記蒸気液化部が複数層に構成され、各層は液化温度が異なるので、当該複数層構造によって蒸気の液化効率を向上することができる。
【0038】
本発明の第14の態様の液体噴射装置は、前記第1の態様から第13の態様のいずれか一つの態様において、前記液体噴射部から液体が噴射される領域から発生する蒸気に対する第3回収部を備え、前記第3回収部は、前記蒸気を集める蒸気集め部と、該集めた蒸気を液化する蒸気液化部とを備える、ことを特徴とする。
【0039】
本態様によれば、第3回収部が前記液体噴射部から液体が噴射される領域から発生する蒸気を集めて更に液化するので、蒸気の周囲環境への放出を一層有効に低減することができる。
【0040】
本発明の第15の態様の液体噴射装置は、前記第14の態様において、前記第3回収部の蒸気集め部で集めた蒸気は前記第1回収部に送られる、ことを特徴とする。
【0041】
本態様によれば、第1回収部の蒸気液化部に第3回収部の蒸気液化部の役割を兼ねさせることができるので、第3回収部専用の蒸気液化部を設ける必要がなく、以て部品点数の削減および小型化を実現することができる。
【0042】
本発明の第16の態様の液体噴射装置は、前記第14の態様において、前記第1加熱部は、電磁波を利用して液体を乾燥する電磁波照射部を備えている、ことを特徴とする。
【0043】
本態様によれば、赤外線等の電磁波を利用して被記録媒体に噴射された液体を乾燥するので、加熱処理を行う部分の構造が複雑化しない。
【0044】
本発明の第17の態様の液体噴射装置は、前記第1の態様から第16の態様のいずれか一つの態様において、前記第1回収部と前記第2回収部の少なくとも一方は、蒸気液化後の空気中の蒸気量を測る濃度センサーを備えている、ことを特徴とする。
【0045】
本態様によれば、前記濃度センサーの測定結果を利用して前記蒸気液化部の温度を設定することにより、蒸気或いは有機溶媒が空気中に存在でききにくい状態を担保することが出来る。
【0046】
本発明の第18の態様の液体噴射装置は、前記第1の態様から第16の態様のいずれか一つの態様において、前記第1回収部と前記第2回収部の少なくとも一方に、蒸気液化部に蒸気圧を測る気圧センサーを備えている、ことを特徴とする。
【0047】
本態様によれば、前記気圧センサーの測定結果を利用して当該蒸気液化部の温度を設定することにより、蒸気或いは有機溶媒が空気中に存在できない状態を容易に実現することが出来る。
【0048】
本発明の第19の態様の液体噴射装置は、前記第1の態様から第18の態様のいずれか一つの態様において、前記液体噴射部のメンテナンスのために噴射させる液体を溜める貯留部を備え、該貯留部は前記蒸気液化部で蒸気が液化された廃液の貯留部を兼ねる、ことを特徴とする。
【0049】
本態様によれば、前記液体噴射部のメンテナンスのために噴射させる液体を溜める貯留部が、前記蒸気液化部で蒸気が液化された廃液の貯留部を兼ねるので、部品点数の削減および小型化を実現することができる。
【0050】
本発明の第20の態様の液体噴射装置は、前記第1の態様から第19の態様のいずれか一つの態様において、前記被記録媒体として布帛を使用可能であることを特徴とする。
ここで、「布帛」とは、綿、麻、絹、ポリエステル又はこれらを混合したもの等を原糸とする布や織物等の繊維製品を意味し、例えば、ブラウス、ワイシャツ、作業着などの衣料品の材料として用いられるブロード、シーチング等の繊維製品が挙げられる。
【0051】
本態様によれば、前記被記録媒体として布帛を使用可能である。このような被記録媒体は該被記録媒体の液体噴射面とは反対側に前記蒸気が通り抜けやすい。本発明は、このような被記録媒体を使用可能な液体噴射装置において特に有効である。