【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3の方法による遊離石灰量の制御は十分ではなく、クリンカー中の遊離石灰量は大きく変動しているのが現状である。遊離石灰量が変動すると、セメント(コンクリート)の凝結性状、強度や流動性などの基礎的物性が影響を受ける。本発明は従来の上記方法による課題を解決したものであり、クリンカーの遊離石灰量を容易に制御することができるクリンカーの製造方法を提供する。
また、特許文献4の方法は、クリンカー中の遊離石灰量を的確に制御できるが、本発明をさらに適用することによって、クリンカーの遊離石灰量をより的確に制御したクリンカーを製造することができる。
【0007】
本発明は、以下の構成からなるクリンカーの製造方法である。
〔1〕クリンカー調合原料の硅石に含まれる石英結晶子径をモニターし、この石英結晶子径に応じて原料ミルの運転条件を調整して調合原料の粉末度を制御することによってクリンカーの遊離石灰量を0.7〜1.0wt%に制御するクリンカーの製造方法。
〔2〕硅石の石英結晶子径に基づいて硅石を含む調合原料のブレーン値を調整してクリンカー中の遊離石灰量を制御するクリンカーの製造方法であって、ブレーン値調整前のクリンカーの遊離石灰量が0.75〜0.80wt%になる石英結晶子径と調合原料のブレーン値を定めて基準とし、(イ)基準の石英結晶子径より小さい石英結晶子径の硅石を含む調合原料については、そのブレーン値を基準のブレーン値の0.98倍以下にし、(ロ)基準の石英結晶子径より大きい石英結晶子径の硅石を含む調合原料については、そのブレーン値を基準のブレーン値の1.03倍以上にしてクリンカーの遊離石灰量を制御する請求項1に記載するクリンカーの製造方法。
〔3〕石英結晶子径が200nm以上〜250nm未満の硅石を含む調合原料のブレーン値が4600cm
2/g〜4700cm
2/gのときに、クリンカーの遊離石灰量が
0.75〜0.80wt%である焼成条件において、
(イ)硅石の石英結晶子径が200nm未満の場合には調合原料のブレーン値を4500cm
2/g以下にし、
(ロ)硅石の石英結晶子径が250nm以上〜300nm未満の場合には調合原料のブレーン値4850cm
2/g以上〜4950cm
2/g未満にし、
(ハ)硅石の石英結晶子径が300nm以上の場合には調合原料のブレーン値を5200cm
2/g以上にする請求項1または請求項2に記載するクリンカーの製造方法。
【0008】
〔具体的な説明〕
本発明は、クリンカー調合原料の硅石に含まれる石英結晶子径をモニターし、この石英結晶子径に応じて原料ミルの運転条件を調整して調合原料の粉末度を制御することによってクリンカーの遊離石灰量を0.7〜1.0wt%に制御するクリンカーの製造方法である。
【0009】
セメントクリンカーの原料として、主に石灰石、粘土、鉄原料、硅石などが用いられる。これらは原料ミルに投入され、適度な粉末度、例えばブレーン値4000cm
2/g〜11000cm
2/gに粉砕されて調合される。粉砕された調合原料はキルンに投入され、1000℃前後で仮焼され、さらに1450℃以上で焼成されてクリンカーが製造される。
【0010】
本発明は、このクリンカーの製造において、原料の硅石に含まれる石英の結晶子径と、硅石を含む調合原料の粉末度(ブレーン値)と、クリンカーに含まれる遊離石灰量との間に一定の関係があることを見出した。
【0011】
一般に、一個の石英粒子は複数の結晶子の集合体である。結晶子は単結晶とみなせる範囲の平均的な大きさを有している。ふるいや顕微鏡にて分離または弁別可能な粒子の大きさを粒子径と云う。粒子径と結晶子径の関係を
図1に示す。
【0012】
石英の結晶子径は粉末X線回折によって測定することができる。例えば、測定方法は規格(JIS K 0131:1996「X線回折分析通則」)に定められている。粉末X線回折において、試料に依存する回折線の広がりは、結晶子の大きさと結晶内部のひずみ(不均一ひずみ)の程度によって異なる。結晶子径および不均一ひずみの関係式(次式[1])を使用すれば、複数の回折線を用いることによって、結晶子径および不均一ひずみを算出することができる。
β=λ/(ε×cosθ)+2ηtanθ [1]
(式[1]において、β:試料に依存する回折線の広がり、λ:波長、ε:結晶子径、θ:回折角度、η:不均一ひずみ)
【0013】
本発明では、不均一ひずみを一定とし、試料による回折線の広がりはすべて結晶子径に起因するものとして求めた見かけの結晶子径を結晶子径とした。また、クリンカー原料には硅石と共に粘土や石灰石などが用いられており、これらにも石英が含まれている。本発明においてはこれらの石英の結晶子径も含めて結晶子径とした。
【0014】
本発明において、硅石に含まれる石英の結晶子径とクリンカーの遊離石灰量の関係を調べた。この結果を
図2に示す。このグラフに示すように、石英の結晶子径が大きいほど、クリンカーに含まれる遊離石灰量が多くなる傾向がある。この傾向は硅石の種類(A〜F)が異なっても同様である。
【0015】
また、本発明において、粉砕した硅石の粉末度(ブレーン値)とクリンカーの遊離石灰量の関係を調べた。この結果を
図3に示す。このグラフに示すように、硅石のブレーン値が大きいほど、クリンカーに含まれる遊離石灰量が減少する。この傾向は硅石の種類(A〜F)が異なっても同様である。
【0016】
本発明の製造方法は、
図2および
図3の結果に基づき、硅石の石英結晶子径に基づいて硅石を含む調合原料のブレーン値を調整してクリンカー中の遊離石灰量を制御するクリンカーの製造方法であり、具体的には、クリンカー調合原料の硅石に含まれる石英結晶子径をモニターし、この石英結晶子径に応じて原料ミルの運転条件を調整して調合原料の粉末度を制御することによってクリンカーの遊離石灰量を0.7〜1.0wt%に制御するクリンカーの製造方法である。
【0017】
例えば、ブレーン値調整前のクリンカーの遊離石灰量が
0.75〜0.80wt%になる石英結晶子径と調合原料のブレーン値を定めて基準とし、(イ)基準の石英結晶子径より小さい石英結晶子径の硅石を含む調合原料については、そのブレーン値を基準のブレーン値の0.95倍以上にし、(ロ)基準の石英結晶子径より大きい石英結晶子径の硅石を含む調合原料については、そのブレーン値を基準のブレーン値の1.03倍以上にしてクリンカーの遊離石灰量を制御する。
【0018】
クリンカーの製造において、硅石の産地や焼成条件などによって、クリンカーの焼成反応が異なるので、ブレーン値調整前のクリンカーの遊離石灰量が0.75〜0.80wt%になる石英結晶子径と調合原料のブレーン値を定めて基準とする。この基準に基づいて、石英結晶子径に応じてブレーン値を調整することによって、同じ焼成条件下で、クリンカーの遊離石灰量を制御することができる。
【0019】
例えば、石英結晶子径が200nm以上〜250nm未満の硅石を含む調合原料のブレーン値が4600cm
2/g〜4700cm
2/gのときに、クリンカーの遊離石灰量が0.75〜0.80wt%であるとき、この石英結晶子径の範囲と調合原料のブレーン値の範囲を基準に定める。
【0020】
次に、原料ミルの出口において、粉砕した調合原料の石英結晶子径と調合原料のブレーン値をモニターし、基準の石英結晶子径より小さい石英結晶子径の硅石を含む調合原料については、原料ミルの運転条件を調整して、原料ミル出口の調合原料のブレーン値を上記基準のブレーン値の0.98倍以下にし、粉末度を下げる。調整後のブレーン値が基準の0.98倍より大きいと、クリンカーの遊離石灰量が目標の範囲よりも少なくなる。
【0021】
具体的には、例えば、硅石の石英結晶子径が200nm未満の場合には、調合原料のブレーン値を4500cm
2/g以下にする。
図2に示すように、石英結晶子径が小さい場合には遊離石灰量が減少する傾向があり、一方、
図3に示すように、ブレーン値が小さい場合には遊離石灰量が増加する傾向があるので、石英結晶子径が基準より小さい場合にはブレーン値を小さくすることによって、焼成条件を変えずにクリンカーの遊離石灰量を一定範囲にすることができる。
【0022】
さらに、原料ミルの出口において、粉砕した調合原料の石英結晶子径と調合原料のブレーン値をモニターし、基準の石英結晶子径より大きい石英結晶子径の硅石を含む調合原料については、原料ミルの運転条件を調整して、原料ミル出口の調合原料のブレーン値を上記基準のブレーン値の1.03倍以上にし、粉末度を上げる。調整後のブレーン値が基準の1.03倍より小さいと、クリンカーの遊離石灰量が目標の範囲よりも多くなる。
【0023】
具体的には、例えば、硅石の石英結晶子径が250nm以上の場合には、調合原料のブレーン値4850cm
2/g以上にする。このように、石英結晶子径が基準より大きい場合にはブレーン値を大きくすることによって、焼成条件を変えずにクリンカーの遊離石灰量を一定範囲にすることができる。
【0024】
硅石の石英結晶子径が250nm以上の場合には、石英結晶子径の大きさをさらに区分し、区分された石英結晶子径に応じて調合原料のブレーン値を調整すると良い。例えば、硅石の石英結晶子径が250nm以上〜300nm未満の場合には調合原料のブレーン値4850cm
2/g以上〜4950cm
2/g未満(基準のブレーン値の1.03倍〜1.07倍)にすると良い。
【0025】
また、硅石の石英結晶子径が300nm以上の場合には、調合原料のブレーン値を5200cm
2/g以上にすると良い。