(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249162
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】風力発電装置
(51)【国際特許分類】
F03D 80/00 20160101AFI20171211BHJP
F03D 1/06 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
F03D80/00
F03D1/06 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-679(P2014-679)
(22)【出願日】2014年1月7日
(65)【公開番号】特開2015-129448(P2015-129448A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷本 憲司
(72)【発明者】
【氏名】久保 泰康
(72)【発明者】
【氏名】村上 友康
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 敦
【審査官】
所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−181451(JP,A)
【文献】
特開2003−293932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 80/00
F03D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気機器に設けられた駆動モータでベルトを介して排気側風車を回転駆動し、前記排気側風車から排出される排気風を捉えて発電側風車が回転し、前記発電側風車の回転によって発電機を回転駆動するとともに、前記排気風の風速分布が前記排気側風車の旋回面内で前記排気側風車の風車半径の1/2近傍がもっとも風速が速く、さらに前記ベルトを覆うカバーを設けた風力発電装置において、
前記発電側風車は、風車旋回中心軸の軸心上に基端が取り付けられた複数枚の羽根を備え、前記羽根の形状が、羽根中央部から羽根先端に向かって羽根幅が減少し、かつ前記羽根中央部から前記羽根の基端に向かって羽根幅が減少する形状であり、前記発電側風車の旋回中心軸の位置が、前記排気側風車の旋回中心軸の軸心上からずらせて配置されており、前記羽根の形状は、羽根長さ方向の距離の3乗に比例した成分を羽根幅にもつ形状で、さらに前記排気側風車と前記発電側風車との間に前記カバーが配置されるように取り付けた、
風力発電装置。
【請求項2】
前記発電側風車の旋回中心軸の軸心を、前記排気側風車の旋回中心軸の軸心上から、前記排気側風車の直径の20%ずらせて配置した、
請求項1記載の風力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排風機器から放出される排気風の活用を目的にしたマイクロ風力発電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特殊な風速分布を伴わない自然風を風車によって捉えて回転する大型風力発電装置では、様々な羽根形状の風車が提案されている。また、冷却塔や換気扇などの排風機器からの排気風の活用を目的にしたマイクロ風力発電装置では、風速分布が自然風とは異なっているため、使用する風車は、いわゆるプロペラ形状の、複数枚の羽根で構成されている。
【0003】
特許文献1では、風車に対して効率よく排気風を供給するために整流機構を設け、風車の旋回面に対してより大きい風速で風を供給せしめ、発電量の向上を図っている。
特許文献2では、発電機を回転駆動する風車よりも上手側に、通過する風に従動して回転する従動風車を設けて、発電に有効な領域の風速を増大させる試みが取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−7288号公報
【特許文献2】特開2000−220561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マイクロ風力発電装置で使用される風車の羽根形状の設計は、特殊な風速分布を伴わない自然風のような均一風を前提にプロペラ形状の設計が行われている。そのため、均一ではない風速条件下では、その発電性能が低下する。
【0006】
冷却塔などは、その機能上、一定量の排気風を定常的に生じるが、これらの排気風は風速が均一とみなせる自然風とは異なり、排気面内において風速が均一ではなく、局所偏在する分布となっていることが多い。
【0007】
さらに、排風機器の近傍においては、排風機器の駆動機構、たとえば風車回転駆動のためのベルトおよびそのカバー等が風の遮蔽物として作用してしまい、マイクロ風力発電装置の風車へ放出される排気風の乱れを生じせしめ、マイクロ風力発電装置の風車の振動を起こさせる。
【0008】
また、特許文献1,2の技術は風車に対して複雑な機構を設ける必要があり、装置自体の大型化を招き、その構造を採用するにあたり実現コストが高価になってしまう。特に、マイクロ風力発電装置は、その規模の特性上、コスト制約が強く、大掛かりな仕組みを導入することが困難である。
本発明は、特殊な風速分布の排気風であっても安定で良好な発電性能を得ることができ、しかも、比較的低コストで実現できる風力発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の風力発電装置は、排気機器に設けられた
駆動モータでベルトを介して排気側風車を回転駆動し、前記排気側風車から排出される排気風を捉えて発電側風車が回転し、前記発電側風車の回転によって発電機を回転駆動する
とともに、前記排気風の風速分布が前記排気側風車の旋回面内で前記排気側風車の風車半径の1/2近傍がもっとも風速が速く、さらに前記ベルトを覆うカバーを設けた風力発電装置において、前記発電側風車は、風車旋回中心軸の軸心上に基端が取り付けられた複数枚の羽根を備え、前記羽根の形状が、羽根中央部から羽根先端に向かって羽根幅が減少し、かつ前記羽根中央部から前記羽根の基端に向かって羽根幅が減少する形状であり、前記発電側風車
の旋回中心軸の位置が、前記排気側風車の旋回中心軸の軸心上からずらせて配置されて
おり、前記羽根の形状は、羽根長さ方向の距離の3乗に比例した成分を羽根幅にもつ形状で、さらに前記排気側風車と前記発電側風車との間に前記カバーが配置されるように取り付けた、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この構成によれば、簡素な構成で発電風車の旋回を安定させて良好な発電性能を得ることができ、しかも、比較的低コストで小型の風力発電装置の具現化を可能とするものであり、排気風の利活用実施によるエネルギーロスの低減に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の風力発電装置を備えた排風機器の断面図
【
図2】
図1の要部を風車の旋回面を上面から見た平面図
【
図3】風車の(a)従来の羽根を旋回面上面から見た平面図と(b)本発明の実施例の羽根を旋回面上面から見た平面図
【
図4】本発明の風力発電装置に作用する排気風の分布を示す排風機器の断面図
【
図5】本発明の実施例における羽根の回転とその時々に作用する排気風を旋回面上面から見た平面図
【
図6】比較例1における羽根の回転とその時々に作用する排気風を旋回面上面から見た平面図
【
図7】比較例2における羽根の回転とその時々に作用する排気風を旋回面上面から見た平面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の風力発電装置を実施の形態に基づいて説明する。
図1,
図2は、排風機器としての冷却塔1に風力発電装置2を取り付けた状態を示している。
【0013】
冷却塔1のハウジング内には、ハウジング外へ向かう排気風3を生成するために、排気側風車4が配置されている。排気側風車4は、基端が排気側風車ハブ5に取り付けられた複数枚の羽根6a,6b,6cと、排気側風車ハブ5が取り付けられた排気側シャフト7とで構成されている。排気側シャフト7は、軸受け8と排気側フレーム9を介して冷却塔ケーシング10の上面に取り付けられて支持されている。11は排気側風車4の周りを取り囲む円筒状の排気フードで、下端が冷却塔ケーシング10に取り付けられている。
【0014】
この排気側風車4は、排気側フレーム9に取り付けられた駆動モータ12と、駆動モータ12の出力軸に取り付けられた駆動プーリ13と、排気側シャフト7の上端に取り付けられた排気風車プーリ14と、駆動プーリ13と排気風車プーリ14に掛け渡された連結手段のベルト15によって回転駆動されている。16は排気風3がベルト15に吹き付けることを防いでいるカバーで、排気風3の通過を妨げることを低減するようにカバー16の内側には貫通孔17が形成されている。18はカバー16の外周の内側と貫通孔17を取り囲む壁とで仕切られたベルト通過経路である。カバー16は例えば排気側フレーム9に取り付けられている。
【0015】
風力発電装置2は、発電機19の発電側シャフト20に取り付けられた発電側風車21を有している。発電側風車21は、基端が発電側風車ハブ22に取り付けられた複数枚の羽根23a,23b,23cを有している。発電側風車ハブ22が発電側シャフト20に取り付けられている。発電機19は、発電側フレーム24を介して冷却塔ケーシング10に取り付けられている。発電側風車21は、排気風3を受けて回転して発電機19を回転駆動するよう、排気フード11の外部で排気側風車4と対向して配置されている。
【0016】
発電側シャフト20と排気側シャフト7は、この実施の形態では発電側シャフト20の軸心を排気側シャフト7の軸心から距離Dだけ離して、互いに並行した位置関係に配置されている。
【0017】
発電側風車21の羽根23a,23b,23cの形状は、従来とは異なっている。
図3(a)は自然風のような均一風を前提に設計された一般的な羽根25を示している。この形状の羽根25は、風車旋回中心Oから羽根長さ方向に沿った距離をLとしたとき、1/Lに比例した形状であり、羽根基端から羽根先端に向かって次第に羽根幅が減少している。
【0018】
これに対して実施の形態の羽根23a,23b,23cは、
図3(b)に示すように、羽根中央部N2から羽根先端N3に向かって羽根幅が減少し、羽根中央部N2から羽根基端N1に向かって羽根幅が減少する形状である。仮想線は一般的な羽根25の形状を示している。詳しくは、羽根23a,23b,23cの幅は羽根長さ方向の羽根中央部N2の付近で最も幅が広い形状で、その最大幅は
図2に示したベルト通過経路18の外側の幅W1よりも広い形状である。排気風車プーリ14とカバー16の影響を考慮し、風速分布の断面は排気側風車4の羽根半径の2乗の項を持つ分布でよく近似できることを勘案して、ひとつの実施例としては、発電側風車21の風車旋回中心Oから羽根長さ方向に沿った距離をLとしたとき、距離Lの3乗に比例した成分を羽根の幅に持つ形状である。
【0019】
まず、発電側シャフト20の軸心と排気側シャフト7の軸心が距離Dだけ離れて配置されている点について、具体的に説明する。
ベルト15を保護するためのカバー16が、排気側風車4と発電側風車21の間に配置されていると、羽根23a,23b,23cがカバー16の後方を通過するタイミングに、羽根に作用する排気風3の面積が変動する。
【0020】
図6(a)〜(c)の比較例1は、発電側風車21の羽根として
図3(a)に示した形状の羽根25a,25b,25cを使用した場合を示している。さらに、この比較例1では、排気側シャフト7の軸心と発電側シャフト20の軸心とが一致している場合であって、発電側風車21の回転角度によって排気風3が作用する受風部分がハッチングPで図示され、排気フード11,カバー16に邪魔されて排気風3が当たらない部分からはハッチングPが除かれて空白で図示されている。その他の図も同様である。
【0021】
このように比較例1では、羽根25aはカバー16の位置を通過する時に排気風3が当たらない部分が発生し、羽根25b,25cはその羽根の全領域で風を受けている。毎分数百回転する発電側風車21は、
図6(a)〜(c)の受風状態を繰り返すことになり、羽根25a,25b,25cを使用した場合には、発電側風車21が振動する。
【0022】
図7(a)〜(c)の比較例2は、発電側風車21の羽根形状が
図3(b)に示した形状で、かつ排気側シャフト7の軸心と発電側シャフト20の軸心とが一致している場合を示している。この比較例2の場合も比較例1の場合と同様に、カバー16の後方を通過するタイミングに羽根23a,23b,23cに作用する排気風3の面積が変動するが、羽根中央部N2の羽根の幅が
図6の比較例1の場合よりも広いことにより、カバー16の後方を通過するタイミングにおける受風面積を、比較例1よりも増大することができ、発電側風車21の1回転中における各羽根の受風量変動を抑制できる。つまり、発電側風車21の1回転中に羽根が受けるモーメントの変動が小さくなるので、発電側風車21の振動を低減できる。
【0023】
このとき、羽根23a,23b,23cの最大幅は、カバー16の幅W1の2倍以上を取ることが望ましい。羽根23a〜23cの最大幅を2倍以上とすることで、比較例1と同等の受風面積を確保しつつ、発電側風車21の受風量変動を小さくすることができる。
【0024】
ここで、排気風3の風速分布は、
図4に示すように排気側風車4の旋回面内で風車半径の1/2近傍がもっとも風速が速く、その部分の風エネルギを有効に活用することが重要であり、該当部分の羽根の幅が最も広い形状をとった比較例2の方が、比較例1よりも発電性能を向上できる。
【0025】
図5(a)〜(c)は、
図7に示した比較例2の発電側風車21の軸心を、排気側風車4の軸心から距離Dだけ横にずらせた実施例を示している。
図5(a)では羽根23aの受風量がカバー16のために減少するが、各羽根23a,23b,23cの風量ばらつきについては、発電側風車21の軸心を距離Dだけ排気側風車4の軸心からずらせたことで、羽根23aがカバー16の後方を通過するタイミングにおける羽根23b,23cの先端受風面が比較例2の場合よりも減少し、各羽根の受風量の差が比較例2の場合よりも小さくなり、羽根にかかるモーメントを低減、風車旋回中の各羽根の受風量変動が抑制されており、さらに比較例2の場合よりも安定して発電側風車21が旋回する。
【0026】
ここで、発電側風車21の旋回中心を、排気側風車4の旋回中心から距離Dだけずらした場合の影響が懸念されるが、実際の冷却塔1の風速分布の一例は
図4のような風速分布26を示す。排気風車プーリ14と排気側風車ハブ5の影響を考慮して、風速分布の断面は排気側風車4の半径の2乗の項を持つ分布でよく近似できる。この分布で旋回中心を距離Dだけずらしても、排気風の分布特徴のため、風車が受ける風のエネルギは大きく減少することはなく、実用上は無視できる減少量である。例えば、直径2mの排気側風車4に直径1.8mの発電側風車21を設置するときに、距離Dを排気側風車4の直径の20%、すなわち、0.4mとしても、受風のエネルギは99.9%にとどまり、実用上、発電性能への影響はきわめて小さい。
【0027】
このように、簡素な構成で風車回転の安定化を実現でき、各種の工場などで用いられる冷却塔、換気扇などの排風機器から出る排気風を再利用することが可能となり、エネルギーロスの低減に寄与することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、各種工場などで用いられる冷却塔などの排気風を再利用することが可能となり、エネルギーロスの低減に寄与することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 冷却塔(排風機器)
2 風力発電装置
3 排気風
4 排気側風車
5 排気側風車ハブ
6a,6b,6c 羽根
7 排気側シャフト
8 軸受け
9 排気側フレーム
10 冷却塔ケーシング
11 排気フード
12 駆動モータ
13 駆動プーリ
14 排気風車プーリ
15 ベルト(連結手段)
16 カバー
17 貫通孔
18 ベルト通過経路
19 発電機
20 発電側シャフト
21 発電側風車
22 発電側風車ハブ
23a,23b,23c 羽根
24 発電側フレーム
D 距離
O 風車旋回中心
L 羽根長さ方向に沿った距離
N1 羽根基端
N2 羽根中央部
N3 羽根先端