特許第6249209号(P6249209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249209
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】変位抑制装置及び変位抑制システム
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20171211BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   E04H9/02 351
   F16F15/04 D
   E04H9/02 331B
   E04H9/02 331D
   E04H9/02 331E
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-176680(P2013-176680)
(22)【出願日】2013年8月28日
(65)【公開番号】特開2015-45171(P2015-45171A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000145954
【氏名又は名称】株式会社昭電
(74)【代理人】
【識別番号】100094053
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 隆久
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 正人
(72)【発明者】
【氏名】村井 和男
【審査官】 兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−002532(JP,A)
【文献】 特開平09−041717(JP,A)
【文献】 特開2002−179337(JP,A)
【文献】 実開昭62−121293(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02−15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準物に対する対象物の変位を抑制する変位抑制装置であって、
2組の変位抑制ユニットと、
前記2組の変位抑制ユニットに共用される減衰機構と、
前記基準物及び前記対象物の一方に固定され、前記2組の変位抑制ユニットに共用される基体と、
を有し、
前記2組の変位抑制ユニットのそれぞれは
前記基準物及び前記対象物の他方に一端側が固定される可撓性を有する長尺部材と、
前記基体に回転可能に支持され、前記長尺部材を他端側から巻き取り可能な巻き取り部材と、
前記長尺部材を巻き取る方向に前記巻き取り部材を付勢する付勢機構と、
前記巻き取り部材の前記長尺部材を引き出す方向への回転を伝達するワンウェイクラッチと、を有し、
前記減衰機構は、
前記2組の変位抑制ユニットの前記ワンウェイクラッチにより前記巻き取り部材の前記長尺部材を引き出す方向への回転が伝達されて回転可能な回転部材と、
前記回転部材にその回転に抗する減衰力を付与する固定部材と、を有する
変位抑制装置。
【請求項2】
基準物に対する対象物の変位を抑制する変位抑制装置であって、
2組の変位抑制ユニットと、
前記2組の変位抑制ユニットに共用される減衰機構と、
前記基準物及び前記対象物の一方に固定される基体と、
を有し、
前記2組の変位抑制ユニットのそれぞれは、
前記基準物及び前記対象物の他方に一端側が固定される可撓性を有する長尺部材と、
前記基体に回転可能に支持され、前記長尺部材を他端側から巻き取り可能な巻き取り部材と、
前記長尺部材を巻き取る方向に前記巻き取り部材を付勢する付勢機構と、
前記巻き取り部材の前記長尺部材を引き出す方向への回転を伝達するワンウェイクラッチと、を有し、
前記減衰機構は、
前記2組の変位抑制ユニットの前記ワンウェイクラッチにより前記巻き取り部材の前記長尺部材を引き出す方向への回転が伝達されて回転可能な回転部材と、
前記回転部材にその回転に抗する減衰力を付与する固定部材と、の組み合わせを複数有し、且つ、
前記2組の変位抑制ユニットの前記ワンウェイクラッチから伝達された前記巻き取り部材の前記長尺部材を引き出す方向への回転を複数の前記回転部材に伝達する伝達機構を更に有する
位抑制装置。
【請求項3】
前記伝達機構は歯車機構である
請求項2に記載の変位抑制装置。
【請求項4】
前記減衰機構は、
複数の前記回転部材を取り付け可能、且つ、前記2組の変位抑制ユニットの前記ワンウェイクラッチからの前記巻き取り部材の前記長尺部材を引き出す方向への回転を前記複数の回転部材に伝達する伝達機構を取り付け可能な支持機構を更に有する
請求項1に記載の変位抑制装置。
【請求項5】
前記長尺部材が引き出されるときの前記回転部材の回転方向は、前記2組の変位抑制ユニット間において互いに同一である
請求項1〜4のいずれか1項に記載の変位抑制装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の変位抑制装置と、
前記巻き取り部材と前記基準物及び前記対象物の前記他方との間にて前記長尺部材に当接して前記長尺部材の向きを変化させるプーリと、
を有し、
前記対象物は、前記基準物に対して所定方向において往復移動可能であり、
前記対象物が前記基準物に対して前記所定方向のいずれか側に移動したとき、前記2組の変位抑制ユニットの一方においては前記巻き取り部材から前記長尺部材が引き出されるとともに、前記2組の変位抑制ユニットの他方においては前記巻き取り部材に前記長尺部材が巻き取られ、且つ、このときの前記長尺部材の引き出し量と前記長尺部材の巻き取り量とが互いに異なる
変位抑制システム。
【請求項7】
前記2組の変位抑制ユニットは、平面視において前記巻き取り部材から前記長尺部材が引き出される方向が互いに逆になるように配置され、
前記プーリは、前記2組の変位抑制ユニットそれぞれの前記長尺部材を前記巻き取り部材側へ折り返すように2つ設けられている
請求項6に記載の変位抑制システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の変位を抑制する変位抑制装置及び変位抑制システムに関する。対象物は、例えば、免震システムによって移動可能とされた対象物(免震対象物)である。免震対象物は、例えば、建築物である。
【背景技術】
【0002】
免震対象物を当該免震対象物を支持する支持構造物に対して水平方向に変位可能とした免震システムが知られている。このような免震システムは、地震が生じたときに免震対象物に加えられる加速度を減じることができる。しかし、その一方で、免震対象物の変位が過大になると、免震対象物とその周囲の構造物との衝突を招く等の不都合が生じる。
【0003】
特許文献1は、種々の用途に利用可能な変位抑制装置を提案するとともに、この変位抑制装置を免震対象物の変位の抑制に利用可能であることを開示している。
【0004】
特許文献1の変位抑制装置は、巻尺に類似した構成を含んでいる。すなわち、この変位抑制装置は、一端が免震対象物に固定された可撓性の長尺部材と、この長尺部材の他端が固定され、回転することにより長尺部材の巻き取り及び引き出しを可能とする巻き取り部材とを有している。
【0005】
そして、免震対象物が所定方向の一方側へ移動するときには、長尺部材が引き出される。このとき、長尺部材の引き出しによって回転する巻き取り部材には、回転を抑制する方向への摩擦力(摩擦抵抗)が付与される。その結果、免震対象物の運動エネルギーが散逸され、免震対象物の変位が抑制される。
【0006】
一方、免震対象物が前記の所定方向の他方側へ移動するときには、ぜんまいばねにより長尺部材が巻き取り部材に巻き取られる。このとき、巻き取り部材には摩擦力は付与されず、長尺部材の次の引き出しの準備が速やかになされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−2532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献1の変位抑制装置は、免震対象物が一方側へ移動するときは、長尺部材が引き出され、免震対象物の変位を抑制することに寄与する。しかし、特許文献1の変位抑制装置は、免震対象物の他方側への移動に対しては、変位を抑制することに寄与しない。従って、特許文献1の変位抑制装置を免震システムに適用する場合においては、例えば、互いに逆向きの2つの変位抑制装置が必要である。
【0009】
しかし、特許文献1の変位抑制装置を複数設けた場合、種々の不都合が生じる。なお、この不都合については、本願の実施形態の作用効果を説明する際に詳述する。以上のとおり、多方向の変位抑制に好適な変位抑制装置及び変位抑制システムが提供されることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る変位抑制装置は、基準物に対する対象物の変位を抑制する変位抑制装置であって、2組の変位抑制ユニットと、前記2組の変位抑制ユニットに共用される減衰機構と、を有し、前記2組の変位抑制ユニットのそれぞれは、前記基準物及び前記対象物の一方に固定される基体と、前記基準物及び前記対象物の他方に一端側が固定される可撓性を有する長尺部材と、前記基体に回転可能に支持され、前記長尺部材を他端側から巻き取り可能な巻き取り部材と、前記長尺部材を巻き取る方向に前記巻き取り部材を付勢する付勢機構と、前記巻き取り部材の前記長尺部材を引き出す方向への回転を伝達するワンウェイクラッチと、を有し、前記減衰機構は、前記2組の変位抑制ユニットの前記ワンウェイクラッチにより前記巻き取り部材の前記長尺部材を引き出す方向への回転が伝達されて回転可能な回転部材と、前記回転部材にその回転に抗する減衰力を付与する固定部材と、を有する。
【0011】
好適には、前記減衰機構は、前記回転部材及び前記固定部材の組み合わせを複数有し、且つ、前記2組の変位抑制ユニットの前記ワンウェイクラッチから伝達された前記巻き取り部材の前記長尺部材を引き出す方向への回転を複数の前記回転部材に伝達する伝達機構を更に有する。
【0012】
好適には、前記伝達機構は歯車機構である。
【0013】
好適には、前記減衰機構は、複数の前記回転部材を取り付け可能、且つ、前記2組の変位抑制ユニットの前記ワンウェイクラッチからの前記巻き取り部材の前記長尺部材を引き出す方向への回転を前記複数の回転部材に伝達する伝達機構を取り付け可能な支持機構を更に有する。
【0014】
好適には、前記2組の変位抑制ユニットそれぞれは、前記長尺部材を前記巻き取り部材に整列巻きさせる整列機構を更に有する。
【0015】
本発明の一態様に係る変位抑制システムは、上記の変位抑制装置と、前記巻き取り部材と前記基準物及び前記対象物の前記他方との間にて前記長尺部材に当接して前記長尺部材の向きを変化させるプーリと、を有する。
【0016】
好適には、前記2組の変位抑制ユニットは、平面視において前記巻き取り部材から前記長尺部材が引き出される方向が互いに逆になるように配置され、前記プーリは、前記2組の変位抑制ユニットそれぞれの前記長尺部材を前記巻き取り部材側へ折り返すように2つ設けられている。
【発明の効果】
【0017】
上記の構成によれば、多方向の変位を好適に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(a)及び図1(b)は本発明の第1の実施形態に係る変位抑制システムの概要を説明する模式的な側面図。
図2図1の変位抑制システムの構成を図1よりも詳細に示す模式的な平面図。
図3図3(a)及び図3(b)は図2の変位抑制システムの作用を説明するための図。
図4】本発明の第2の実施形態に係る変位抑制装置の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1の実施形態>
図1(a)及び図1(b)は、本発明の第1の実施形態に係る変位抑制装置3及び当該変位抑制装置3を含む変位抑制システム1の概要を説明する模式的な側面図である。図1において、x方向及びy方向は水平方向であり、z方向は鉛直方向である。
【0020】
変位抑制システム1(変位抑制装置3)は、支持構造物101に対する免震対象物103の変位を抑制する装置として構成されている。支持構造物101及び免震対象物103の組み合わせは、例えば、構造物の基礎部分及び当該基礎部分に支持される家屋等の構造物の組み合わせや、家屋等の構造物及び当該構造物に支持された什器の組み合わせである。
【0021】
免震対象物103は、特に図示しないが、いわゆるアイソレータを介して支持構造物101に支持されており、支持構造物101に対して水平方向に移動可能である。アイソレータは、例えば、積層ゴム、転がり支承、滑り支承である。なお、変位抑制システム1は、免震対象物103の振動の減衰に寄与するが、変位抑制システム1とは別にいわゆるダンパーが設けられていてもよい。
【0022】
変位抑制装置3は、第1変位抑制ユニット5A及び第2変位抑制ユニット5Bを有している。なお、以下では、単に「変位抑制ユニット5」といい、両者を区別しないことがある。各変位抑制ユニット5は、巻尺乃至は釣り用のリールに類似した構成を含んでおり、本体部7と、本体部7から引き出し及び巻き取り可能なワイヤー9とを有している。
【0023】
本体部7及びワイヤー9の一方(本実施形態では本体部7)は、支持構造物101に固定されており、本体部7及びワイヤー9の他方(本実施形態ではワイヤー9)は、免震対象物103に固定されている。従って、免震対象物103が支持構造物101に対して変位すると、ワイヤー9が本体部7から引き出され、又は、ワイヤー9の本体部7への巻き取りが許容される。
【0024】
本体部7は、ワイヤー9が引き出されるときに、その引き出しに対して摩擦力による抵抗を生じるように構成されている。従って、例えば、比較的高い加速度の地震が生じ、免震対象物103が本体部7からワイヤー9を引き出しながら移動すると、免震対象物103の運動エネルギーは摩擦によって熱エネルギーに変換されて散逸される。これにより、免震対象物103の変位が抑制される。別の観点では、免震対象物103の振動が減衰される。なお、比較的加速度が低い地震(長周期の地震)が生じたときは、免震対象物103は、摩擦力に抗してワイヤー9を本体部7から引き出すことができず、支持構造物101に対して変位しない。
【0025】
変位抑制システム1は、免震対象物103が支持構造物101に対してx方向の正側及び負側のいずれに移動した場合においても、上記の作用が得られるように、2つの変位抑制ユニット5を適宜な向き及び配置で有している。
【0026】
具体的には、例えば、2つの変位抑制ユニット5は、本体部7がx方向に互いに隣接し、且つ、2つのワイヤー9の引き出し方向がx方向において互いに逆向き(より詳細には互いに外側)となるように配置されている。また、変位抑制システム1は、2つの変位抑制ユニット5それぞれに対して、本体部7から延びるワイヤー9を本体部7側へ折り返すプーリ11を有している。そして、2つのワイヤー9の先端は、プーリ11よりもx方向の内側(本体部7側)にて免震対象物103に固定されている。2つの変位抑制ユニット5は、概ね、x方向において対称に配置されている。
【0027】
従って、免震対象物103が、図1(a)に示す基準位置(中立位置)からx方向の正側へ移動すると、図1(b)において示すように、x方向の負側に配置された第1変位抑制ユニット5Aのワイヤー9が引き出され、x方向の正側に配置された第2変位抑制ユニット5Bのワイヤー9が巻き取られる。特に図示しないが、これとは逆に、免震対象物103がx方向の負側へ移動すると、x方向の正側に配置された第2変位抑制ユニット5Bのワイヤー9が引き出され、x方向の負側に配置された第1変位抑制ユニット5Aのワイヤー9が巻き取られる。
【0028】
図2は、変位抑制システム1(変位抑制装置3)の構成を図1よりも詳細に示す模式的な平面図(一部に断面図を含む)である。なお、図2では、免震対象物103のうち、ワイヤー9の先端が固定される取付部103aも模式的に示されている。
【0029】
変位抑制装置3は、上述の2組の変位抑制ユニット5と、この2組の変位抑制ユニット5に共用される摩擦機構13とを有している。各変位抑制ユニット5は、上述のように、ワイヤー9及び本体部7を有している。
【0030】
ワイヤー9は、針金又は複数の針金を束ねたもの(ワイヤロープ)であり、可撓性を有している。その材料(金属)は、例えば、鋼である。なお、ワイヤー9を構成する針金の断面形状は円形であることが好ましい。
【0031】
本体部7は、ワイヤー9が巻かれる巻き取り部材15と、巻き取り部材15をワイヤー9を巻き取る方向に回転させる付勢力を生じるばね部17と、巻き取り部材15から摩擦機構13への回転の伝達を制御するクラッチ19と、ワイヤー9を巻き取り部材15に整列巻きさせるための整列機構21とを有している。
【0032】
これら巻き取り部材15、ばね部17、クラッチ19、整列機構21及び摩擦機構13等は、板状部材乃至は枠状部材等を適宜に組み合わせて構成された基体23(一部のみ図示する)に保持されている。基体23は、支持構造物101に固定されている。
【0033】
巻き取り部材15は、適宜な軸支機構を介して基体23に回転可能に支持されるとともに、ワイヤー9の一端(免震対象物103に固定される一端とは反対側の一端)が固定されている。巻き取り部材15のワイヤー9が巻かれる胴体部分は、例えば、円筒状乃至は円柱状である。当該胴体部分は、例えば、その軸方向の長さがワイヤー9の直径の数倍以上である。
【0034】
なお、図1及び図2では、ワイヤー9を巻き取るときの2つの巻き取り部材15の回転方向が同一方向(y軸方向に見て右回り)とされており、ひいては、引き出されたワイヤー9の巻き取り部材15に対する上下位置が2つの巻き取り部材15間で互いに逆になっているが、これとは逆に、ワイヤー9を巻き取るときの2つの巻き取り部材15の回転方向は互いに逆方向とされてもよい。
【0035】
ばね部17は、例えば、ばね18(後述する図3に模式的に示す)を含んで構成されている。ばね18は、いわゆるぜんまい(渦巻きばね)である。ぜんまいは、非接触型でもよいし、接触型でもよいし、S字型でもよいし、定トルク型でもよいし、定荷重型でもよいし、長さ方向に直交する断面形状が扁平の帯状の素材を巻いたものであってもよいし、長さ方向に直交する断面形状が円形等の線状の素材を巻いたものであってもよい。また、ぜんまいの材料は、例えば、高炭素鋼、ステンレス等の金属である。
【0036】
ばね18は、例えば、一端側が巻き取り部材15に固定され、他端側が基体23に固定されている。そして、ばね18は、巻き込まれた状態から伸びる方向へ復元力によって変形し、これにより巻き取り部材15を回転させ、巻き取り部材15にワイヤー9を巻き取らせる。ばね18は、免震対象物103が想定された範囲(両振幅)内で移動するときに、その範囲の全域で復元力を発揮可能に、弾性域における変形量を十分に有するとともに、免震対象物103が基準位置(図1(a))にあるときに適宜な量で巻き込まれた状態である。
【0037】
クラッチ19は、いわゆるワンウェイクラッチであり、巻き取り部材15のワイヤー9が引き出される方向の回転を出力軸19aに出力する(摩擦機構13に伝達する)一方で、その反対方向(ワイヤー9が巻き取られる方向)の回転は出力軸19aに出力しない(摩擦機構13に伝達しない)。なお、厳密には、クラッチ19の構成によっては、反対方向の回転も微量の力で出力(伝達)するが、ここでは出力(伝達)しないと表現するものとする。ワンウェイクラッチは、スプラグ型のものやローラ型のものなど、公知の構成とされてよい。
【0038】
整列機構21は、上述のように、ワイヤー9が巻き取り部材15に整列巻きされるようにするためのものである。整列巻きでは、ワイヤー9は、1周分ごとに巻き取り部材15の軸方向へ順次並べられる。なお、ワイヤー9は、1周分ごとに軸方向へ順次並べられた後、さらに、その上に整列巻きがなされてもよいし(内周側から外周側へ複数層に巻かれてもよいし)、1層のみ巻かれてもよい。
【0039】
整列機構21の構成は、公知の適宜なものとされてよい。例えば、整列機構21は、いわゆる倣い巻きによって整列巻きを実現するものとされている。具体的には、例えば、整列機構21は、巻き取り部材15とプーリ11との間にワイヤー9をガイドするためのローラ22を有している。ローラ22は、巻き取り部材15の軸方向(y方向)において揺動可能であり、不図示のばねの付勢力によって、ワイヤー9のうち巻き取り部材15から引き出されている部分に当接している。その当接方向は、ワイヤー9のうち引き出されている部分をワイヤー9のうち巻かれている部分の側面に押し付ける方向である。従って、巻き取り部材15がワイヤー9を巻き取る方向に回転すると、巻き取り部材15から引き出されていた部分は、既に巻かれている部分の側面に当接しながら(位置決めされながら)巻き取り部材15に巻かれ、これによりワイヤー9の整列巻きが実現される。
【0040】
整列巻きを補助する構成として、巻き取り部材15の直径を軸方向の一端側から他端側へかけて小さくする構成を採用してもよい。この場合、ワイヤー9の張力の一部は、ワイヤー9のうち巻き取り部材15に巻き取られつつある部分(乃至は既に巻き取られている部分)を巻き取り部材15の直径が大きい側から小さい側へ付勢する力に変換される。その結果、ワイヤー9を巻き取り部材15の直径が小さい側から大きい側へ順次巻き付けてゆく整列巻きが好適に行われる。
【0041】
摩擦機構13は、例えば、複数の摩擦式トルクリミッタ25を含んで構成されている。なお、トルクリミッタ25は、一般には、入力されたトルクが閾値を超えるまでは回転を伝達し、閾値を超えると回転の伝達を遮断する装置(安全機能付きの回転伝達装置)として利用されるが、本実施形態では、このような回転伝達装置としては利用されない。
【0042】
トルクリミッタ25は、例えば、内輪27と、内輪27を回転可能に収容する外側部品29とを有している。外側部品29は、例えば、特に図示しないが、筒状部材と、この筒状部材と内輪27との間に介在するスプリングとを有している。スプリングは、筒状部材に対して回転不可能とされ、また、内輪27を締め付けている。スプリングと内輪27との間には潤滑剤が介在されている。
【0043】
従って、内輪27を外側部品29に対して回転させるモーメントがトルクリミッタ25に入力された場合、そのモーメントが内輪27と外側部品29(より詳細にはスプリング)との間の最大摩擦力のモーメント換算値を超えないときは、内輪27は外側部品29に対して回転せず、超えたときは、内輪27は、運動摩擦力による抵抗モーメントを受けつつ外側部品29に対して回転する。
【0044】
トルクリミッタ25は、外側部品29が基体23に固定されることにより基体23に保持されている。内輪27は、クラッチ19の出力軸19aと接続される。従って、トルクリミッタ25は、クラッチ19の出力軸19aの回転に抗する摩擦力を生じる装置として機能する。
【0045】
クラッチ19の出力軸19aと、複数のトルクリミッタ25との接続は、適宜な伝達機構(歯車機構31)を介してなされており、これにより、2つの変位抑制ユニット5による摩擦機構13の共用が実現され、さらには、任意の数のトルクリミッタ25の利用が可能となっている。
【0046】
具体的には、例えば、歯車機構31は、各トルクリミッタ25の内輪27に対して同軸に固定された歯車33を有している。複数のトルクリミッタ25は、複数の歯車33が互いに噛み合うように配置されている。例えば、複数のトルクリミッタ25は、複数の歯車33が順次噛み合うように、直線状に乃至はジグザグに、x方向に配列されている。そして、複数のトルクリミッタ25のいずれかの内輪27(図2では、x方向の両側の2つ)は、2つのクラッチ19に直接に連結されている。
【0047】
なお、図2の例では、2つのクラッチ19に直接に連結された2つのトルクリミッタ25は、その間に奇数個のトルクリミッタ25(歯車33)が介在していることから、回転方向が互いに同一である。ただし、偶数個のトルクリミッタ25が介在することにより、これらの回転方向は逆方向であってもよい。
【0048】
歯車33及び複数のトルクリミッタ25は、基体23により支持されている。例えば、基体23は、1対の板状部材23aを有し、その間にトルクリミッタ25及び歯車33を保持するように構成されている。1対の板状部材23aの一方には、歯車33の回転軸(一部はクラッチ19の出力軸19aを兼ねる)を回転可能に支持するための複数の取付孔が形成されている。1対の板状部材23aの他方には、外側部品29を保持する複数の保持部(例えば外側部品29が回転不可能に嵌合される非円形の孔)が形成されている。
【0049】
基体23(1対の板状部材23a)は、トルクリミッタ25の数が決定された後、その数に応じた構成となるように作製されてもよいし、トルクリミッタ25の数を適宜に変更できる(トルクリミッタ25を着脱できる)ように作製されてもよい。後者の場合、トルクリミッタ25のみを着脱可能であってもよいし、トルクリミッタ25と共に歯車33も着脱可能であってもよい。
【0050】
着脱によりトルクリミッタ25の数を変更可能な構成は、例えば、図2と同様の構成で実現できる。例えば、基体23を一部分解して(1対の板状部材23aを互いに離間させて)歯車33及びトルクリミッタ25を着脱することにより、トルクリミッタ25及び歯車33の数は、上記の歯車33の回転軸を軸支する取付孔及び外側部品29を保持する保持部の数の範囲内において変更可能である。
【0051】
この場合、2つのクラッチ19間の歯車33の外側に配置される(2つのクラッチ19間の接続に対して並列に接続される)トルクリミッタ25及び歯車33を着脱するための取付孔及び保持部が設けられていれば、変位抑制ユニット5の取り付け位置を変更することなく、トルクリミッタ25及び歯車33の数を変更でき、好ましい。
【0052】
また、板状部材23aのトルクリミッタ25を保持する保持部に、歯車33の回転軸を軸支する部材を配置して、歯車33の数は変えずに、トルクリミッタ25の数のみを変えるようにしてもよい。この場合も、変位抑制ユニット5の取り付け位置を変更する必要は無い。
【0053】
図3(a)及び図3(b)は、変位抑制装置3の動作を説明するための図であり、2つの変位抑制ユニット5それぞれについて、巻き取り部材15、ばね18、クラッチ19及び内輪27(摩擦機構13)を模式的に示している。
【0054】
なお、図3において、クラッチ19については、その動作の理解を容易にするために、せん断キーが係合する構造のものを例示している。具体的には、以下のとおりである。
【0055】
クラッチ19は、巻き取り部材15の回転が入力される入力側回転部材35と、入力側回転部材35の回転が伝達され若しくはその伝達が遮断される出力側回転部材37と、入力側回転部材35と出力側回転部材37との間に介在する介在部材39とを有している。出力側回転部材37は、内輪27に固定されている。
【0056】
介在部材39は、入力側回転部材35の外周面に対して入出可能に構成されており、不図示のスプリングによって入力側回転部材35の外側へ付勢されている。介在部材39は、入力側回転部材35の円周方向の一方側においては、円周方向に対する傾斜が大きく、他方側においては円周方向に対する傾斜が小さく形成されている。出力側回転部材37には、複数の介在部材39に対して円周方向において係合可能な複数のせん断キー37bが形成されている。
【0057】
従って、例えば、図3(a)において矢印y3で示すように、入力側回転部材35が一方側に回転すると、介在部材39がせん断キー37bに係合して、入力側回転部材35の回転が出力側回転部材37に伝達される。一方、図3(b)において矢印y19で示すように、入力側回転部材35が他方側に回転すると、介在部材39とせん断キー37bとの間に作用する力は介在部材39を入力側回転部材35に押し込む力に変換され、クラッチ19は空転する。
【0058】
図3(a)は、免震対象物103がx方向の正側へ移動する場合(図1(b)参照)を示している。まず、この場合における、第1変位抑制ユニット5A側の動作を説明する。
【0059】
免震対象物103がx方向の正側へ移動すると、第1変位抑制ユニット5Aにおいては、矢印y1で示すように、ワイヤー9が引き出され、また、この引き出しに伴って、巻き取り部材15は矢印y2で示す方向に回転する。なお、この際、ばね18は、巻き取り部材15の回転によって巻き込まれていく。
【0060】
巻き取り部材15の回転は、クラッチ19の入力側回転部材35に入力され、入力側回転部材35は、矢印y3で示す方向に回転する。この回転方向は、入力側回転部材35から出力側回転部材37に回転が伝達される方向であり、出力側回転部材37は、矢印y4で示す方向に回転する。
【0061】
出力側回転部材37の回転は、摩擦機構13の内輪27に入力され、内輪27は、矢印y5で示す方向に回転する。この際、内輪27は、摩擦抵抗を外側部品29から受ける。
【0062】
以上のとおり、第1変位抑制ユニット5Aにおいては、摩擦抵抗を受けながらワイヤー9が引き出される。より詳細には、ワイヤー9を引き出す力が摩擦機構13において生じる最大摩擦力(最大の静止摩擦力)を超えるまでは、ワイヤー9は引き出されない(巻き取り部材15等は回転しない。)。そして、ワイヤー9を引き出す力が摩擦機構13において生じる最大摩擦力を超えると、ワイヤー9は引き出され(巻き取り部材15等は回転し)、この際、ワイヤー9は摩擦機構13において生じる運動摩擦力を抵抗力として受ける。
【0063】
一方、第2変位抑制ユニット5Bにおいては、免震対象物103がx方向の正側へ移動すると、矢印y7及びy8により示すように、ばね18の復元力により巻き取り部材15が回転し、ワイヤー9が巻き取り部材15に巻き取られる。
【0064】
巻き取り部材15の回転は、クラッチ19の入力側回転部材35に入力され、入力側回転部材35は、矢印y9で示す方向に回転する。この回転方向は、入力側回転部材35から出力側回転部材37に回転が伝達されない(空転する)方向である。
【0065】
上述のように、摩擦機構13の内輪27は、第1変位抑制ユニット5Aにおける回転によって矢印y5で示す方向に回転しているから、第2変位抑制ユニット5Bにおいて、内輪27に接続されているクラッチ19の出力側回転部材37は、矢印y6で示す方向に回転する。この回転方向は、出力側回転部材37から入力側回転部材35に回転が伝達されない(空転する)方向である。
【0066】
以上のとおり、第2変位抑制ユニット5Bにおいては、ばね15の復元力によってワイヤー9が巻き取られる。この際、クラッチ19は空転するから、摩擦機構13は、ワイヤー9の巻き取りを阻害しない。別の観点では、摩擦機構13は、第2変位抑制ユニット5Bに対しては休止状態となっている。
【0067】
図3(b)は、免震対象物103が図3(a)の場合とは反対側(x方向の負側)へ移動する場合を示している。この場合における変位抑制装置3の動作は、第1変位抑制ユニット5A側の動作と第2変位抑制ユニット5B側の動作とが逆になっていることを除いて、図3(a)の場合の動作と同様である。
【0068】
具体的には、第2変位抑制ユニット5Bにおいては、ワイヤー9が引き出される(矢印y11)。この引き出しは、巻き取り部材15の回転(矢印y12)、入力側回転部材35の回転(矢印y13)、出力側回転部材37の回転(矢印y14)及び内輪27の回転(矢印y15)を生じさせる。
【0069】
その一方で、第1変位抑制ユニット5Aにおいては、ばね18の復元力によりワイヤー9が巻き取られる(矢印y17)。この際の巻き取り部材15の回転(矢印y18)は、入力側回転部材35の回転(矢印y19)を生じさせる。ただし、この入力側回転部材35の回転及び内輪27の回転による出力側回転部材37の回転(矢印y16)は、いずれもクラッチ19を空転させる方向である。
【0070】
以上のとおり、本実施形態の変位抑制装置3は、支持構造物101に対する免震対象物103の変位を抑制する変位抑制装置であって、2組の変位抑制ユニット5と、2組の変位抑制ユニット5に共用される摩擦機構13と、を有している。2組の変位抑制ユニット5のそれぞれは、支持構造物101に固定される基体23と、免震対象物103に一端側が固定される可撓性を有するワイヤー9と、基体23に回転可能に支持され、ワイヤー9を他端側から巻き取り可能な巻き取り部材15と、ワイヤー9を巻き取る方向に巻き取り部材15を付勢するばね部17と、巻き取り部材15のワイヤー9を引き出す方向への回転を伝達するワンウェイクラッチ19と、を有している。摩擦機構13は、2組の変位抑制ユニット5のクラッチ19により巻き取り部材15のワイヤー9を引き出す方向への回転が伝達されて回転可能な内輪27と、内輪27にその回転に抗する減衰力を付与する外側部品29と、を有している。
【0071】
従って、図3を参照して説明したように、免震対象物103の2方向(例えばx方向の正側及び負側)の変位が摩擦機構13の生じる摩擦抵抗によって抑制される。さらに、本実施形態では、摩擦機構13が効率的に利用されるとともに、小型化及びコスト削減が期待される。効率的利用等については、具体的には、以下のとおりである。
【0072】
特許文献1の変位抑制装置を2つ設けることにより、x方向の正側及び負側の双方の変位を抑制することを考える。別の観点では、実施形態の変位抑制装置3において、2つの変位抑制ユニット5間において摩擦機構13が共用されておらず、2つの変位抑制ユニット5に対応して2つの摩擦機構13が設けられている場合を考える。
【0073】
この場合、免震対象物103がx方向の正側及び負側のいずれかに移動すると、一方の変位抑制ユニット5側においては、ワイヤー9が引き出される動作がなされ、摩擦機構13が稼働し、他方の変位抑制ユニット5側においては、ワイヤー9が巻き取られる動作がなされ、摩擦機構13は休止状態となる。すなわち、2つの摩擦機構13の一方は常に休止状態となる。従って、摩擦機構13の動作が非効率である。
【0074】
しかし、本実施形態では、摩擦機構13は常に稼働することになり、摩擦機構13が効率的に利用される。また、このように摩擦機構13が効率的に利用され、ひいては、摩擦機構13の数を減らせることから、変位抑制装置3の小型化及びコスト削減も期待される。変位抑制装置3の小型化によって、免震システムにおける変位抑制装置3の取付スペースの縮小化が図られるから、変位抑制装置3の免震システムへの適用が容易化される。
【0075】
なお、本実施形態とは異なり、1組の巻き取り部材15及びワイヤー9で、x方向の正側及び負側の双方の移動に対して摩擦機構を稼働させることが考えられる。例えば、巻き取り部材15に対してワイヤー9の長さ方向中央を固定し、ワイヤー9の一端側をx方向の一方側に引き出して免震対象物103に固定し、ワイヤー9の他端側をx方向の他方側に引き出して免震対象物103に固定する。また、ばね部17及びクラッチ19を設けずに、巻き取り部材15を直接に摩擦機構13の内輪27に固定する。このようにすれば、免震対象物103がx方向のいずれに移動するときも、ワイヤー9の一端側は引き出され、他端側はその引き出しに伴う巻き取り部材15の回転により巻き取られ、また、巻き取り部材15には常に摩擦力が付与される。
【0076】
しかし、この場合、例えば、ワイヤー9の引き出し量と、ワイヤー9の巻き取り量とが同一でないと、ワイヤー9に弛みが生じたり、逆に、ワイヤー9に過大な張力が加えられたりするおそれがある。すなわち、ワイヤー9の引き出し量とワイヤー9の巻き取り量とが同一でなければならない等の不都合が生じる。
【0077】
一方、本実施形態では、一方の変位抑制ユニット5におけるワイヤー9の引き出し量と、他方の変位抑制ユニット5におけるワイヤー9の巻き取り量とは同一でなくてもよい。その結果、例えば、2つのワイヤー9間において、その端部の取付位置や、巻き取り部材15から前記の取付位置までの経路等を互いに異ならせることができる。また、例えば、2つのワイヤー9の延びる方向を、同一方向の互いに逆側(x方向の正負)だけでなく、互いに交差する方向とすることも可能である。また、例えば、免震対象物103が、ワイヤー9の延びる方向に対して交差する方向(y方向やz方向)に移動しても、その変位抑制に対応することなどができる。このように、本実施形態では、2つの変位抑制ユニット5を用いていることにより、設計の自由度や変位抑制装置の応用性が向上する。
【0078】
また、本実施形態では、摩擦機構13は、内輪27及び外側部品29(トルクリミッタ25)を複数有し、且つ、2組の変位抑制ユニット5のワンウェイクラッチ19から伝達された巻き取り部材15のワイヤー9を引き出す方向への回転を複数の内輪27に伝達する伝達機構(歯車機構31)を更に有する。
【0079】
従って、トルクリミッタ25の数の変更により摩擦機構13の生じる摩擦抵抗の大きさを調整することが容易である。また、伝達機構が歯車機構31であることにより、小型化、応答性の向上等が期待される。
【0080】
また、本実施形態では、2組の変位抑制ユニット5それぞれは、ワイヤー9を巻き取り部材15に整列巻きさせる整列機構21を更に有する。
【0081】
その結果、免震対象物103の変位抑制に係る摩擦抵抗の大きさのばらつきを小さくすることができる。すなわち、ワイヤー9を巻き取り部材15に乱巻きした場合においては、その巻かれ方が巻かれる度に異なり、ワイヤー9に加えられる張力及び当該張力に抗する摩擦抵抗がばらつくおそれがあるところ、そのようなおそれが解消される。
【0082】
また、本実施形態では、変位抑制システム1は、上述したような変位抑制装置3と、巻き取り部材15と免震対象物103との間にてワイヤー9に当接してワイヤー9の向きを変化させるプーリ11とを有している。
【0083】
従って、例えば、ワイヤー9の巻き取り部材15から延びる方向と、ワイヤー9が変位を抑制する方向とを異ならせることができる。また、例えば、ワイヤー9が引き回される範囲を小さくしつつも、免震対象物103が基準位置にあるときのワイヤー9の引き出し量(免震対象物103が基準位置からワイヤー9が巻き取られる方向へ移動したときに必要となる)を十分に確保することができる。すなわち、取り付け等の自由度が高い。
【0084】
特に、本実施形態では、2組の変位抑制ユニット5は、平面視において巻き取り部材15からワイヤー9が引き出される方向が互いに逆(x方向の正側及び負側)になるように配置され、プーリ11は、2組の変位抑制ユニット5それぞれのワイヤー9を巻き取り部材15側へ折り返すように2つ設けられていることから、変位抑制システム1の小型化が好適になされる。
【0085】
<第2の実施形態>
図4は、第2の実施形態に係る変位抑制装置の構成を示す模式図である。なお、第1の実施形態の構成と同一又は類似する構成については、第1の実施形態と同一の符号を付す。
【0086】
第2の実施形態においては、2つの変位抑制ユニット5が同軸に配置されている。そして、2つの変位抑制ユニット5の出力軸19aは、同一のトルクリミッタ225(内輪227)に対して直接に接続されている。なお、内輪227及び外側部品229は、軸方向両端部に出力軸19aを接続可能に構成されている以外は、第1の実施形態の内輪27及び外側部品29と同様である。
【0087】
このように、2つの変位抑制ユニット5は、同軸に配置されてもよく、また、伝達機構(歯車機構31)は省略されてもよい。なお、第2の実施形態においても、伝達機構を介して、トルクリミッタ225(変位抑制ユニット5)に他のトルクリミッタ25を接続してもよい。
【0088】
なお、以上の実施形態において、支持構造物101は基準物の一例であり、免震対象物103は対象物の一例であり、摩擦機構13は減衰機構の一例であり、ワイヤー9は長尺部材の一例であり、ばね部17は付勢機構の一例であり、クラッチ19はワンウェイクラッチの一例であり、内輪27は回転部材の一例であり、外側部品29は固定部材の一例であり、歯車機構31は伝達機構の一例であり、基体23は基体及び支持機構の一例である。
【0089】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0090】
本願発明が適用される対象は免震システムに限定されない。換言すれば、基準物及び基準物に対して変位が抑制される対象物は、支持構造物及び免震対象物に限定されない。例えば、特許文献1と同様に、本発明は、免震支承を介さずに床面や地面に載置された設置物の変位抑制に利用されたり、構造物の部材間の変位抑制に利用されたりしてもよい。また、変位抑制装置によって変位が抑制される方向は、水平方向に限定されず、鉛直方向又は鉛直方向の成分を含む方向であってもよい。
【0091】
本願発明が免震システムに適用される場合において、実施形態では、基体が支持構造物に固定され、ワイヤー(長尺部材)の端部が免震対象物に固定されたが、これとは逆に、基体が免震対象物に固定され、ワイヤーの端部が支持構造物に固定されてもよい。
【0092】
長尺部材は、ワイヤーに限定されない。例えば、長尺部材は、特許文献1に開示されているような、金属繊維又は樹脂繊維からなる扁平な部材であってもよいし、ゴムベルト、チェーンであってもよい。軽量免震対象物の場合、長尺部材として強度の高いテグスを用いることも可能である。
【0093】
2つの変位抑制装置の長尺部材は、巻き取り部材から引き出された先端同士が互いに接続されていてもよい。換言すれば、長尺部材は、2つの変位抑制装置に共用されており、その適宜な部位に基準物又は対象物が固定されてもよい。
【0094】
長尺部材(扁平なものに限定されず、ワイヤー等を含む)は、特許文献1に開示されているように、巻き取り部材の軸方向に1列に且つ半径方向に多層(又は1層)に巻かれるものであってもよい。なお、この場合、巻き取り部材のうち長尺部材が巻かれる胴体部分の軸方向の長さは、例えば、長尺部材の幅(直径)と同等又はそれよりも若干大きい程度である。また、長尺部材が2列以上で巻かれる場合において、実施形態では、整列巻きであることが好ましいことを述べたが、乱巻きであってもよい。
【0095】
長尺部材を巻き取る方向に巻き取り部材を付勢する付勢機構は、ばね(ぜんまい)を含むものに限定されない。例えば、カウンターウェイトが用いられてもよい。また、例えば、一方の変位抑制ユニットにおける長尺部材の巻き取りに、他方の変位抑制ユニットにおける長尺部材の引き出しの力が利用されてもよい。
【0096】
減衰機構は、摩擦機構に限定されず、回転部材(内輪27)にその回転に抗する減衰力を付与することができるものであればよい。ここで、減衰力は、速度に比例する力に限定されず、また、振動の減衰に係るものに限定されず、運動エネルギーの散逸を伴う、変位を抑制する力であるものとする。例えば、減衰機構は、磁力乃至は電磁力を利用するマグネット式のトルクリミッタによって構成されてもよいし、粘性流体中に回転部材が配置されて粘性抵抗を利用するものであってもよい。
【0097】
ワンウェイクラッチと減衰機構との間に伝達機構(歯車機構31)が必須でないことは、第2の実施形態において述べたとおりである。また、この伝達機構は、歯車機構に限定されず、例えば、歯車及びチェーンからなる機構であってもよい。また、伝達機構として回転運動を並進運動に変換する機構(例えばリンク機構やボールねじ機構)を用い、減衰機構として並進運動の減衰を行うものを利用してもよい。
【0098】
プーリは、設けられなくてもよい。また、プーリは、長尺部材を折り返すように配置されるものに限定されず、長尺部材の向きを巻き取り部材からプーリへの方向とは交差する(例えば直交する)方向に変化させるためのものであってもよい。なお、本願においてプーリは、筒状部の両端にフランジが設けられたような形状のものだけでなく、チェーンやタイミングベルト用の歯車を含むものとする。
【0099】
実施形態の作用効果の説明において言及したように、2つの変位抑制ユニットの長尺部材の引き出し方向(変位抑制方向)は、平面視において互いに逆の方向(x方向の正側及び負側)である必要はなく、平面視において互いに交差する方向であってもよい。なお、本願において、長尺部材が平面視において互いに逆の方向に引き出されているという場合、2つの長尺部材は、平面視において比較的微小な角度(例えば20°未満)で交差することがあってもよいものとする。長尺部材を巻き取り部材に対して整列巻きすれば、その整列巻きの幅(y方向)に応じた長尺部材の傾きは必ず生じるし、変位抑制システムの取り付けの都合上、真逆にすることが難しいこともあるからである。
【0100】
実施形態では、巻き取り部材とクラッチの入力側回転部材(35)との間で回転方向は同一であった。例えば、図3(a)において、矢印y2及び矢印y3の方向は同一であった。ただし、これらの間に歯車が介在することなどにより、これらの回転方向は逆方向とされてもよい。同様に、クラッチの出力側回転部材(37)と、これに直近の回転部材(内輪27)との間に歯車が介在することなどにより、これらの回転方向は逆方向とされてよい。
【0101】
このような歯車の配置等は、2つの変位抑制ユニット間で同様に行われる必要はなく、一方のみにおいて行われてもよい。すなわち、2つの変位抑制ユニット間において、巻き取り部材から回転部材(内輪27)に至るまでの回転方向の維持又は逆転は、互いに異なっていてもよい。
【0102】
2つの変位抑制ユニット間において、同一部材の回転方向は、適宜に同一又は逆とされてよい。例えば、既に述べたように、実施形態では、2つの巻き取り部材は、ワイヤーを巻き取るときの回転方向(図3(a)の矢印y8及び図3(b)の矢印y18)が互いに同一(同時期という観点では逆)であるが、これとは逆になるようにされてもよい。
【0103】
また、例えば、実施形態では、2つの出力側回転部材(37)間に奇数個の歯車(33)が介在し、これらの回転方向は同一であった。例えば、図3(a)において、矢印y4及び矢印y6の方向は同一であった。ただし、2つの出力側回転部材間に偶数個の歯車が介在することなどにより、これらの回転方向は逆方向とされてもよい。
【0104】
実施形態では、2つの変位抑制ユニットにおいて長尺部材が引き出されるときの回転部材(内輪27)の回転方向を同一とした。すなわち、図3(a)の矢印y5及び図3(b)の矢印y15は同一であった。しかし、これらは逆方向であってもよい。なお、逆方向にする方法は、例えば、上述のように適宜に歯車を介在させる方法であってもよいし、実施形態の構成において、長尺部材が引き出されるときの2つの巻き取り部材の回転方向(図3(a)の矢印y2及び図3(b)の矢印y12)を互いに逆方向とする方法であってもよい。
【0105】
なお、2つの変位抑制ユニットに対して長尺部材を引き出す力が同時に加えられる可能性がある実施態様においては、変位抑制装置に過大な負荷が加えられることを避ける観点から、2つの変位抑制ユニットの長尺部材が引き出されるときの回転部材(内輪27)の回転方向は、実施形態のように同一であることが好ましい。
【0106】
実施形態では、長尺部材を巻き取る変位抑制ユニットにおいて、入力側回転部材の回転方向及び出力側回転部材の回転方向は、クラッチを空転させるように互いに逆方向であった。例えば、図3(a)の矢印y9及び矢印y6は互いに逆方向であった。ただし、これらは、互いに同一方向であってもよい。換言すれば、出力側回転部材の回転方向は実施形態とは逆方向(空転しない方向)であってもよい。
【0107】
例えば、想定される対象物の速度(減衰機構からの回転によって生じる出力側回転部材の回転速度)に対して、付勢機構(ばね部17)の復元力(入力側回転部材の回転速度)が十分に大きければ、出力側回転部材が実施形態とは逆方向に回転しても、クラッチは常に空転する。また、例えば、出力側回転部材の回転速度が入力側回転部材の回転速度に対して一時的に速くなり得る実施態様であったとしても、出力側回転部材の回転速度が長尺部材の巻き取りされるべき量の増加速度に対して極端に速く無い限りは、出力側回転部材の回転は、付勢機構と協働して入力側回転部材を回転させて長尺部材の巻き取りに寄与するのみである。
【符号の説明】
【0108】
1…変位抑制装置、5A…第1変位抑制ユニット、5B…第2変位抑制ユニット、13…摩擦機構(減衰機構)、9…ワイヤー(長尺部材)、15…巻き取り部材、17…ばね部(付勢機構)、19…クラッチ(ワンウェイクラッチ)、23…基体、27…内輪(回転部材)、29…外側部材(固定部材)、101…支持構造物(基準物)、103…免震対象物(対象物)。
図1
図2
図3
図4