特許第6249210号(P6249210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6249210-有機蛍光材料 図000023
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249210
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】有機蛍光材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/06 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
   C09K11/06
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-189950(P2013-189950)
(22)【出願日】2013年9月13日
(65)【公開番号】特開2015-54937(P2015-54937A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】片桐 洋史
(72)【発明者】
【氏名】大場 好弘
(72)【発明者】
【氏名】別部 輝生
(72)【発明者】
【氏名】堀江 悠太
(72)【発明者】
【氏名】冨口 紘輔
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/202779(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、スルホニルアニリン骨格を有する有機蛍光材料。
【化1】
(式(1)中、置換基R1,R2は、それぞれ独立に、アルキル基、フルオロアルキル基、フェニル基、ハロゲン原子又はアミノ基もしくはアルコキシ基で置換されたフェニル基、ナフチル基、チエニル基、ハロゲン原子で置換されたチエニル基、チアゾリル基、ハロゲン原子で置換されたチアゾリル基、ピリジル基、及び、ハロゲン原子で置換されたピリジル基のうちのいずれかである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホニルアニリン骨格を有する有機蛍光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機蛍光材料は、バイオイメージング、有機EL用発光色素、色素レーザへの応用が可能であることから、近年注目されている。この有機蛍光材料の高性能を発揮させるためには、高いモル吸光係数及び発光量子効率が求められる。
【0003】
このため、有機蛍光材料の分子設計は、従来、分子運動を抑制した堅固なπ電子系を拡張することにより行われてきた。
しかしながら、このような有機蛍光材料は、強い分子間相互作用による溶解性の低下や分子間エネルギー移動による濃度消光、さらに、材料の安定性が低い等の課題を有していた。特に、濃度消光は、バイオイメージングのコントラストを著しく低下させ、また、固体発光を利用する有機EL用発光色素の場合に問題となる。さらに、溶解性の低下は、主に水系媒体中で行うバイオイメージングへの応用において極めて不利であり、また、有機電子材料としての特徴を最大限に活用したプロセス、すなわち、インクジェット法に代表されるウェットプロセスにおいて大きな障害となる。
なお、ここで言うバイオイメージングとは、細胞・組織または個体レベルでタンパク質などの分布・局在を捉え、その動態を画像として解析する技術であり、具体的には、蛍光発光イメージングシステム、すなわち、蛍光を用いて生体分子を可視化する技術(蛍光イメージング法)を指す。
【0004】
したがって、新たな分子設計の指針が求められている。そのうちの1つの手法として、蛍光特性に直接関係しない嵩高い置換基の導入が検討されてきた。また、この場合には、溶解性を付加する官能基の導入も必須となることが多い。
【0005】
これに対して、本願発明者らは、1つのベンゼン骨格に複数のアミノ基とスルホニル基を共存させることによって、他の官能基を導入することなく、(1)Push-Pull効果がもたらす長波長化、(2)スルホニル基の折れ曲がり構造がもたらす溶解性の向上及び固体蛍光性、(3)アミノ基とスルホニル基との間での水素結合によるアミノ基の自由回転の抑制がもたらす蛍光量子効率や安定性の向上等、従来よりも優れた特性が得られる有機蛍光材料を見出した。具体的には、下記(化1)に示す「2,6−ビス(アリールスルホニル)アニリン類縁体の合成及び蛍光特性」を既に報告している(非特許文献1参照)。
【0006】
【化1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】別部輝生、大場好弘、片桐洋史、「日本化学会第93春季年会(2013)講演予稿集」、プログラム番号2A2−05
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の2,6−ビス(アリールスルホニル)アニリン類縁体は、蛍光波長が最長で432nmであり、また、水に溶解しないため、バイオイメージングへの適応性が低いものであった。加えて、量子効率が低く、塗布型の有機EL材料としての利用も困難であった。さらに、その合成においては、ニトロベンゼン誘導体を基質に用いるが、現時点で入手可能なこのような基質はニトロ基が1つである材料に限られ、合成の点からも制約が大きかった。
【0009】
したがって、より高い溶解性を有し、溶液及び固体のいずれの状態でも蛍光発光が可能であり、蛍光量子効率や安定性のより一層の向上が図られ、かつ、簡便に効率的に合成することができる蛍光材料が求められる。
【0010】
本発明は、先に報告したアミノ基とスルホニル基をベンゼン骨格に導入した有機蛍光材料における上記技術的課題に対して、これらの課題の改善を図るべく、バイオイメージングや有機ELにおける発光材料として優れた性能を発揮し得る有機蛍光材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、下記一般式(1)〜(9)で表される、スルホニルアニリン骨格を有する有機蛍光材料が提供される。
【0012】
【化2】
【0013】
ここで、式(1)〜(9)中、置換基R1〜R3は、それぞれ独立に、アルキル基、フルオロアルキル基、フェニル基、ハロゲン原子又はアミノ基もしくはアルコキシ基で置換されたフェニル基、ナフチル基、チエニル基、ハロゲン原子で置換されたチエニル基、チアゾリル基、ハロゲン原子で置換されたチアゾリル基、ピリジル基、及び、ハロゲン原子で置換されたピリジル基のうちのいずれかである。
【0014】
上記のようなスルホニルアニリン骨格を有する有機蛍光材料は、溶液及び固体のいずれの状態でも蛍光発光が可能であり、蛍光量子効率や安定性にも優れた新規の蛍光材料である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来よりも、高い溶解性を有し、溶液及び固体のいずれの状態でも蛍光発光が可能であり、蛍光量子効率や安定性のより一層の向上が図られ、簡便に効率的に合成することができる蛍光材料が得られる。
したがって、本発明に係る蛍光材料は、バイオイメージングや有機ELにおける発光材料として優れた性能を発揮し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例における有機蛍光材料の照射時間と吸光度減少率の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明に係る有機蛍光材料は、上記一般式(1)〜(9)で表される、スルホニルアニリン骨格を有する化合物である。すなわち、前記化合物は、ベンゼン骨格に、アミノ基と2又は3個のスルホニル基を導入した構造からなる新規の有機蛍光材料である。
このようなスルホニルアニリン骨格を有する化合物は、従来の蛍光色素と比較して、単純な構造であり、分子量が小さく、溶解性に優れ、水溶性も認められ、かつ、ストークスシフトが大きいことから、バイオイメージングにおいて非常に有用であり、また、塗布型の有機EL材料としても好適に適用し得る。
【0018】
また、前記有機蛍光材料は、濃度消光の影響を受けにくく、溶液状態でも、固体の状態でも、高い量子効率で蛍光発光するものであり、従来の蛍光色素よりも安定であるという特性も有している。
さらに、これらの有機蛍光材料は、ウルマン反応を経由する簡便かつ高効率な方法で合成することができるという利点も有している。
【0019】
また、上記一般式(1)〜(9)において、置換基R1〜R3には、種々の置換基を導入することが可能であり、電子供与性基又は電子受容性基を導入する以外にも、ねじれ型分子内電荷移動(TICT)構造を形成するためにアニリン等を導入したり、水溶性発現のため、小分子を導入したりする等の自由度の高い分子設計を行うことができる。
【0020】
前記置換基R1〜R3は、具体的には、それぞれ独立に、アルキル基、フルオロアルキル基、フェニル基、ハロゲン原子又はアミノ基もしくはアルコキシ基で置換されたフェニル基、ナフチル基、チエニル基、ハロゲン原子で置換されたチエニル基、チアゾリル基、ハロゲン原子で置換されたチアゾリル基、ピリジル基、及び、ハロゲン原子で置換されたピリジル基のうちのいずれかである。
【0021】
上記一般式(1)で表される有機蛍光材料のうち、具体的な化合物を以下に例示する。
【0022】
【化3】
【0023】
上記のような本発明に係る有機蛍光材料の合成方法は、特に限定されるものではないが、前記有機蛍光材料は、ベンゼン骨格に、アミノ基とスルホニル基を導入した単純な骨格を有し、かつ、比較的分子量が小さい化合物であるため、ウルマン反応等による簡便な合成法を用いて、効率的に得ることができる。具体的な合成方法は、下記実施例に示す。
【0024】
本発明に係る有機蛍光材料は、上述したように、従来の有機蛍光色素よりも、ストークスシフトが大きく、自家蛍光の抑制が図られる、かつ、安定であるため、バイオイメージングに好適に適用することができる。
また、従来の有機蛍光材料に比べて、溶解性及び量子効率が改善され、かつ、合成プロセスも簡便であることから、ウェットプロセスによる低コストでの有機EL素子等の有機電子デバイスの作製を可能とし得るものであり、色素レーザへの応用も可能な材料である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
本発明に係る有機蛍光材料のうち、4つの代表例について、ウルマン反応を用いた方法により合成した。
【0026】
(合成例1)BPS−p−Aの合成
下記に示すようなステップを経て、BPS−p−Aを合成した。
【0027】
【化4】
【0028】
まず、窒素雰囲気下、100ml二口フラスコに水50ml、水酸化ナトリウム130mg、化合物1 300mgを入れ、30分間室温で撹拌を行った。続いて、塩化銅(I)60mg、trans−1,2−シクロヘキサンジアミン2.10g、ヨードベンゼン(化合物2)900mgを加え、還流撹拌を1日行った。放冷後、ジクロロメタン100mlで3回抽出を行い、有機層を水100mlで2回、飽和食塩水100mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(NHシリカゲル、ジクロロメタン:ヘキサン=2:3)で精製し、化合物3の無色鱗片状結晶を得た(303mg、収率76%)。
【0029】
【化5】
【0030】
次に、窒素雰囲気下、30ml二口フラスコに化合物3 50mg、ジクロロメタン10ml、トリエチルアミン78mg、無水酢酸79mgを入れ、室温で1日撹拌した。水10mlを加え、30分撹拌した後、ジクロロメタン30mlで3回抽出を行った。有機層を水30mlで5回、飽和食塩水100mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去し、化合物4の無色粉末を得た(61mg、収率97%)。
【0031】
【化6】
【0032】
そして、窒素雰囲気下、50ml二口フラスコに化合物4 68mg、ジクロロメタン20ml、m−CPBA75% 212mgを入れ、室温で1日撹拌した。その後、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液10ml、1N水酸化ナトリウム水溶液10mlを加えて失活させ、反応溶液を分液ロートに移し、ジクロロメタン50ml、水50mlを加え、有機層と水層を分離した。水層をジクロロメタン40mlで10回抽出し、有機層と合わせ、飽和食塩水200mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去し、化合物5の無色粉末を得た(73mg、定量的)。
【0033】
【化7】
【0034】
そして、50ml二口フラスコに化合物5 55mg、6N塩酸6ml、テトラヒドロフラン8mlを入れ、還流撹拌を3時間行った。これを、4N水酸化ナトリウム水溶液400mlに少量ずつ加え、室温で1日激しく撹拌した後、吸引ろ過し、水50mlで洗浄し、ろ物を減圧乾燥し、化合物6(BPS−p−A)の黄緑色粉末を得た(44.3mg、収率98%)。
【0035】
(合成例2)BAS−p−Aの合成
下記に示すようなステップを経て、BAS−p−Aを合成した。
【0036】
【化8】
【0037】
まず、窒素雰囲気下、100ml二口フラスコに水75ml、エタノール10ml、水酸化ナトリウム190mg、化合物1 500mgを入れ、室温で30分間撹拌した。続いて、塩化銅(I)100mg、trans−1,2−シクロヘキサンジアミン3.5g、2−ヨードアニリン(化合物7)1.42gを加え、還流撹拌を1日行った。放冷後、ジクロロメタン100mlで5回抽出を行い、この有機層を水100mlで2回、飽和食塩水100mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(NHシリカゲル、ジクロロメタン)で精製した。次いで、ジクロロメタン−ヘキサンの混合溶媒で再結晶を行い、化合物8の無色鱗片状結晶を得た(554mg、収率77%)。
【0038】
【化9】
【0039】
次に、窒素雰囲気下、100ml二口フラスコに化合物8 300mg、ジクロロメタン60ml、トリエチルアミン1.29g、無水酢酸1.30gを入れ、室温で1日撹拌した。水30mlを加え、30分間撹拌した。反応溶液を分液ロートに移し、ジクロロメタン50ml、水50mlを加え、水層と有機層を分離した。水層をジクロロメタン80mlで4回抽出し、有機層と合わせ、水100mlで2回、飽和食塩水100mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去し、化合物9の無色粉末を得た(440mg、定量的)。
【0040】
【化10】
【0041】
そして、窒素雰囲気下、200ml二口フラスコに化合物9 150mg、ジクロロメタン100ml)、m−CPBA75% 660mgを加え室温で1日撹拌した。その後、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液30ml、1N水酸化ナトリウム水溶液30mlを加えて失活させ、反応溶液を分液ロートに移し、ジクロロメタン50ml、水50mlを加え、水層と有機層を分離した。水層をジクロロメタン80mlで5回抽出し、有機層と合わせ、飽和食塩水200mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去し、化合物10の無色粉末を得た(165mg、定量的)。
【0042】
【化11】
【0043】
そして、100ml二口フラスコに化合物10 70mg、6N塩酸30ml、テトラヒドロフラン30mlを加え、還流撹拌を3時間行った。これを、4N水酸化ナトリウム水溶液600mlに少量ずつ加え、室温で1日激しく撹拌した後、吸引ろ過し、水50mlで洗浄し、ろ物を減圧乾燥し、黄緑色粉末を得た。これを、1,2−ジクロロエタン30mlでコーティングし、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(NHシリカゲル、ジクロロメタン:メタノール=30:1)で精製し、化合物10(BAS−p−A)の黄緑色粉末を得た(34mg、収率69%)。
【0044】
(合成例3)BThS−p−A
下記に示すようなステップを経て、BThS−p−Aを合成した。
【0045】
【化12】
【0046】
まず、窒素雰囲気下、200ml三口フラスコに水140ml、水酸化ナトリウム270mg、化合物1 800mgを入れ、室温で30分間撹拌した。続いて、塩化銅(I)30mg、trans−1,2−シクロヘキサンジアミン5.3g、2−ヨードチオフェン(化合物12)3.1gを加え、還流撹拌を1日行った。放冷後、ジクロロメタン150mlで3回抽出し、有機層を水100mlで3回、飽和食塩水100mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(中性シリカゲル、ジクロロメタン)、(NHシリカゲル、ジクロロメタン)で精製し、化合物3の黄色鱗片状結晶を得た(704mg、収率65%)。
【0047】
【化13】
【0048】
次に、窒素雰囲気下、200ml三口フラスコに化合物13 500mg、ジクロロメタン100ml、トリエチルアミン1.63g、無水酢酸1.52gを入れ、室温で6日間撹拌した。水100mlを加え、30分撹拌した。反応溶液を分液ロートに移し、有機層と水層を分離した。続いて、有機層を水100mlで2回、飽和食塩水100mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去し、酢酸エチル50ml、次いで、ジクロロメタン10mlで洗浄し、化合物14の無色粉末を得た(602mg、収率96%)。
【0049】
【化14】
【0050】
そして、窒素雰囲気下、200ml三口フラスコに化合物14 100mg、クロロホルム100ml、m−CPBA75% 280mgを入れ、室温で5日間撹拌した。その後、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液10ml、1N水酸化ナトリウム水溶液50mlを加えて失活させ、反応溶液を分液ロートに移し、有機層と水層を分離した。水層をクロロホルム50mlで5回抽出し、有機層と合わせ、飽和食塩水200mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(NHシリカゲル、ジクロロメタン)で精製し、化合物15の無色粉末を得た(115mg、定量的)。
【0051】
【化15】
【0052】
そして、200ml三口フラスコに化合物15 100mg、6N塩酸60ml、テトラヒドロフラン60mlを入れ、還流撹拌を7日間行った。この際、24時間ごとに濃塩酸10mlを加えた。これを、4N水酸化ナトリウム水溶液1200mlに少量ずつ加え、室温で1日激しく撹拌した後、吸引ろ過し、水50mlで洗浄した。ろ物を減圧乾燥し、化合物16(BThS−p−A)の黄緑色粉末を得た(82mg、定量的)。
【0053】
(合成例4)BMeS−p−A
下記に示すようなステップを経て、BMeS−p−Aを合成した。
【0054】
【化16】
【0055】
まず、窒素雰囲気下、25ml二口フラスコにメタノール10ml、金属ナトリウム190mgを入れ、室温で5分間撹拌した。化合物1 520mgを加え、室温で5分間撹拌し、次いで、ヨードメタン620mgを加えて、室温で4時間撹拌した。1N水酸化ナトリウム水溶液6mlを加えて失活させ、反応溶液を分液ロートに移し、ジクロロメタン50ml、水50mlを加え、有機層と水層に分離した。水層をジクロロメタン50mlで4回抽出し、有機層と合わせ、飽和食塩水150mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去し、化合物17の深緑色鱗片状結晶を得た(400mg、収率95%)。
【0056】
【化17】
【0057】
次に、窒素雰囲気下、100ml二口フラスコに化合物17 300mg、ジクロロメタン40ml、トリエチルアミン1.52g、無水酢酸1.53gを入れ、室温で1日撹拌した。反応溶液を吸引ろ過し、ろ物を減圧乾燥した(260mg)。また、ろ液を分液ロートに移し、ジクロロメタン100ml、水100mlを加え、有機層と水層に分離した。水層をジクロロメタン50mlで5回抽出し、有機層と合わせ、水150mlで2回、飽和食塩水150mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去し、ろ物と合わせて、化合物18の無色粉末を得た(385mg、収率90%)。
【0058】
【化18】
【0059】
そして、窒素雰囲気下、100ml二口フラスコに化合物18 135mg、ジクロロメタン50ml、m-CPBA75% 1090mgを入れ、室温で2日間撹拌した。次いで、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液10ml、6N水酸化ナトリウム水溶液20mlを加え、室温で18時間撹拌した。反応溶液を分液ロートに移し、水20mlを加えた、有機層と水層を分離した。水層をジクロロメタン50mlで5回抽出し、有機層と合わせ、水150ml、飽和食塩水150mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去し、ジクロロメタン30mlに懸濁させ、吸引ろ過し、ろ物を減圧乾燥した(30mg)。また、ろ液をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(NHシリカゲル、ジクロロメタン)で精製し、ろ物と合わせて、化合物19(BMeS−p−A)の黄緑色粉末を得た(40mg、収率32%)。
【0060】
(光学特性評価)
上記において合成したBPS−p−A、BAS−p−A、BThS−p−A及びBMeS−p−Aについて、それぞれ、THF溶液における吸収スペクトル及び蛍光スペクトルの測定を行った。
BMeS−p−Aについては、水溶液における測定も行い、比較のため、汎用の水溶性蛍光色素であるフルオレセイン(0.1N水酸化ナトリウム水溶液)についても同様に測定した。なお、フルオレセインの構造式を下記に示す。
【0061】
【化19】
【0062】
これらの結果を表1にまとめて示す。
なお、表1における量子効率Φは、9,10−ジフェニルアントラセン(シクロヘキサン溶液)を0.95とした場合に対応する値である。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示した結果から分かるように、本発明に係る有機蛍光材料であるBPS−p−A、BAS−p−A、BThS−p−A及びBMeS−p−Aはいずれも、高い蛍光量子効率及び大きなストークスシフトを示すことが認められた。
また、BMeS−p−Aは、水溶性を示し、水中において、より高い蛍光量子効率及び大きなストークスシフトを示し、かつ、汎用の水溶性蛍光色素であるフルオレセインと比較して、ストークスシフトの優位性が認められた。
【0065】
(安定性評価)
BMeS−p−A及びフルオレセインについて、水中での安定性の評価を行った。
なお、BMeS−p−Aは2.5×10-5Mの水溶液、また、フルオレセインは1.0×10-5Mの0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いて、150Wキセノンランプによる白色光を照射し、その照射時間の経過に伴う吸光度の変化を測定することにより、安定性を評価した。
図1に、それぞれの照射時間と吸光度減少率の関係をグラフとして示す。
【0066】
図1に示したグラフから、BMeS−p−Aは、汎用の蛍光色素であるフルオレセインよりも高い安定性を示すことが認められた。
図1