(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、既存の電池に比べて軽量かつエネルギー密度が高いことから、いわゆるポータブル電源や車両搭載用の高出力電源等に好ましく利用されている。
このような非水電解液二次電池では、性能向上の一環として更なる高出力密度化が検討されている。かかる高出力密度化は、例えば正極活物質の性状を調整することによって実現し得る。例えば特許文献1には、BET比表面積が0.5〜1.9m
2/g、および/または、DBP吸収量が20mL/100g以上の正極活物質を備えることで、内部抵抗が低く出力特性に優れた二次電池を実現し得る旨が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、非水電解液二次電池は、誤操作等によって通常以上の電流が供給されると、過充電状態となり電池温度が上昇することがある。近年、信頼性向上の観点から、かかる過充電時の電池温度の上昇を安定的により一層低く抑えること(耐過充電性能に一層優れること)が求められている。好ましくは、耐過充電性能と電池本来の特性(例えば、高出力密度や高エネルギー密度)とを高いレベルで両立することが望まれている。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐過充電性能に優れた(好ましくは、高い耐過充電性能と優れた電池特性とを兼ね備えた)非水電解液二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは様々な角度から検討を行い、上記課題を解決するには正極活物質の表面積(具体的には、BET比表面積とDBP吸収量)を制御することが重要との結論に至った。すなわち、例えば正極活物質のBET比表面積を大きくすると、正極活物質と電荷担体との反応場が増えて電池特性(例えばエネルギー密度)の向上につながり得る。しかし、その一方で、過充電時には正極上の反応場が増えて発熱量が大きくなることがあり得る。
そこで、これら相反する両特性を高いレベルで両立すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を創出するに至った。
【0006】
ここに開示される非水電解液二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水電解液と、を備える。そして、上記正極活物質のBET比表面積(m
2/g)をSとし、DBP吸収量(ml/100g)をQとしたときに、上記BET比表面積および上記DBP吸収量を変数とする2次元の座標系において、上記(S,Q)が、以下の5つの座標点:(0.1,30),(0.95,30),(1.7,37.5),(1.7,71),(0.1,54);を隣り合う上記座標点同士で直線状に結んでなる5角形の範囲内にある。
正極活物質のBET比表面積SとDBP吸収量Qとを上記範囲内とすることで、高い耐過充電性能を安定的に実現することができる。そして、好ましくは、高い耐過充電性能と優れた電池特性とを兼ね備えた非水電解液二次電池を実現することができる。
【0007】
なお、本明細書中において「BET比表面積」とは、窒素ガスを用いた定容量式吸着法によって測定した表面積をBET法(例えばBET多点法)で解析した比表面積を指す。
具体的には、先ず、測定セル内に試料を凡そ0.5g投入し、100℃で3時間乾燥(前処理)させる。次に、一般的な比表面積測定装置(例えば、Quantachrome Instruments社製のオートソーブ1)を用いて、相対圧0.025〜0.200の範囲の8点で上記試料の測定を行い、その結果をBET法で解析することによって得られる比表面積を指す。
また、本明細書中において「DBP吸収量」とは、一般的な吸収量測定装置(例えば、株式会社あさひ総研の吸収量測定装置S410)を用い、DBP(ジブチルフタレート)を試薬液体として使用して、JIS K6217−4(2008)「ゴム用カーボンブラック‐基本特性‐第4部:DBP吸収量の求め方」に準拠して測定した値を指す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、正極活物質の性状)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない電池の構成要素や一般的な製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0010】
≪非水電解液二次電池≫
ここに開示される非水電解液二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水電解液と、を備えている。そして、正極活物質の性状が所定の要件を満たすことによって特徴づけられる。したがって、その他の構成要素については特に限定されず、種々の用途に応じて任意に決定することができる。以下、各構成要素について順に説明する。
【0011】
ここに開示される非水電解液二次電池の正極は、少なくとも正極活物質を含んでいる。かかる正極としては、正極活物質粉末(粒子)をバインダや導電材等とともに正極集電体上に固着させ、正極活物質層を形成した形態のものが好適である。正極集電体としては、導電性の良好な金属(例えばアルミニウム、ニッケル等)からなる導電性部材が好適である。
【0012】
ここに開示される技術では、正極活物質のBET比表面積S(m
2/g)とDBP吸収量Q(ml/100g)とが所定の範囲内になるよう制御されている。具体的には、
図1に示すように、BET比表面積を縦軸(Y軸)とし、DBP吸収量を横軸(X軸)とした2次元(平面)のXY座標系において、以下の5つの座標点:(0.1,30),(0.95,30),(1.7,37.5),(1.7,71),(0.1,54);を隣り合う座標点同士でそれぞれ直線状に結ぶことによって得られる5角形の範囲内に(S,Q)が収まるよう、正極活物質の性状が制御されている。
【0013】
換言すれば、正極活物質のBET比表面積S(m
2/g)とDBP吸収量Q(ml/100g)とが
図1に示す5角形の範囲外となる場合、電池の信頼性(典型的には耐過充電性能)等が低下することがあり得る。具体的には、以下のような不具合が生じ得る。
・領域A(すなわち、正極活物質のDBP吸収量が30未満の領域)では、正極活物質と非水電解液が馴染み難く、正極の内部まで非水電解液の含浸が進まずに液枯れを生じることがある。
・領域B(すなわち、正極活物質のBET比表面積が1.7m
2/gを超える領域)では、正極活物質の表面積が大きすぎるために、過充電時における正極表面の反応場が増え、電池発熱が大きくなることがある。
・領域Cでは、正極活物質のBET比表面積が大きすぎる、および/または、DBP吸収量が高すぎるために、正極(典型的には正極活物質層)を作製することが困難なことがある。
・領域D(すなわち、正極活物質のBET比表面積が0.1m
2/g未満の領域)では、正極活物質の粒径が大きすぎるために、該活物質を製造する際の焼成が不均一になり、均質な正極(典型的には正極活物質層)を作製することが困難なことがある。
・領域Eでは、正極活物質のBET比表面積に対してDBP吸収量が小さいため、過充電時に正極未分解部が残り、電池発熱が大きくなることがある。すなわち、非水電解液が正極の内部まで含浸せず、過充電時において正極内部で分解反応が均一に進行しないため、正極の内部(典型的には、相対的に正極活物質表面から離れた領域、例えば正極集電体近傍の領域)に未分解部位が残存し、これによって過充電時に電池発熱が大きくなることがある。
ここに開示される技術は、正極活物質の表面積(BET比表面積とDBP吸収量)を上記5角形の範囲内に制御することで、上述のような不具合の発生を回避し、高い信頼性(典型的には耐過充電性能)を実現するものである。さらには、高エネルギー密度や高出力密度といった、優れた電池特性を実現し得るものである。
【0014】
正極活物質としては、層状系のリチウム遷移金属複合酸化物材料(例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、LiNi
0.33Mn
0.33Co
0.33O
2等)が好適である。なかでも、エネルギー密度や熱安定性の観点から、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物が好ましい。正極活物質のBET比表面積は、上記表面積性状を満たす限りにおいて特に限定されないが、0.5〜1.5m
2/gであることがより好ましい。正極活物質のDBP吸収量は、上記表面積性状を満たす限りにおいて特に限定されないが、35〜54ml/100gであることがより好ましい。これらのうち少なくともいずれか1つを満たすことで、より安定的に高い耐過充電性能の非水電解液二次電池を実現することができる。
【0015】
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のハロゲン化ビニル樹脂や、ポリエチレンオキサイド(PEO)等のポリアルキレンオキサイドが好適である。導電材としては、カーボンブラック(典型的にはアセチレンブラック、ケッチェンブラック)や活性炭等の炭素材料が好適である。
【0016】
正極活物質層全体に占める正極活物質の割合は、エネルギー密度向上の観点から、凡そ50質量%以上とすることが適当であり、通常は50〜98質量%、例えば80〜95質量%とするとよい。正極活物質層全体に占めるバインダの割合は、機械的強度向上や耐久性向上の観点から、例えば凡そ0.5〜10質量%とすることが適当であり、通常は凡そ1〜5質量%とするとよい。正極活物質層全体に占める導電材の割合は、出力密度向上や低抵抗化の観点から、凡そ0〜15質量%とすることが適当であり、通常は凡そ1〜10質量%とするとよい。
【0017】
ここに開示される非水電解液二次電池の負極は、少なくとも負極活物質を含んでいる。かかる負極としては、負極活物質粉末(粒子)をバインダや増粘剤等とともに負極集電体上に固着させ、負極活物質層を形成した形態のものが好適である。負極集電体としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル等)からなる導電性材料が好適である。負極活物質としては、黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)等の炭素材料が好適であり、なかでもエネルギー密度や耐久性の観点から黒鉛が好ましい。バインダとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が好適である。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)のセルロース系材料が好適である。負極集電体としては、導電性の良好な金属(例えば銅)からなる導電性材料が好適である。
【0018】
ここに開示される非水電解液二次電池の正極と負極は、典型的にはセパレータを介して対向している。セパレータとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂から成る多孔質樹脂シートが好適である。上記多孔性樹脂シートの片面または両面には、多孔質の耐熱層を備えていてもよい。
【0019】
ここに開示される非水電解液二次電池の非水電解液は、典型的には常温(例えば25℃)において液状を呈し、好ましくは使用温度域内(例えば−20〜60℃)において常に液状を呈する。非水電解液としては、非水溶媒中に支持塩(例えば、リチウムイオン二次電池ではリチウム塩。)を含有させたものを好適に用いることができる。
非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒が好適である。なかでも、耐久性の観点等から、カーボネート類、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)の使用が好ましい。支持塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩等が好適であり、なかでもLiPF
6、LiBF
4等のリチウム塩が好ましい。
【0020】
≪非水電解液二次電池の用途≫
ここに開示される非水電解液二次電池は、正極活物質の性状(表面積)が制御されている効果によって、従来品に比べて高い信頼性(耐過充電性能)を安定的に実現し得るものである。好ましくは、高エネルギー密度と高出力密度と高信頼性とを兼ね備え得るものである。したがって、かかる非水電解液二次電池は各種用途に利用可能であるが、このような特徴を活かして、高エネルギー密度や高入出力密度、高信頼性が要求される用途で好ましく用いることができる。かかる用途としては、例えば、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。
【0021】
以下、本発明に関するいくつかの例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0022】
<リチウムイオン二次電池の構築>
正極活物質として、表1に示す表面積性状のニッケルマンガンコバルト酸リチウム(Li(Ni
0.33Mn
0.33Co
0.33)O
2)を準備した。この正極活物質と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを混合し、N−メチルピロリドン(NMP)で粘度を調整することで、正極活物質層形成用スラリーを調製した。かかるスラリーをアルミニウム箔(正極集電体)の表面に塗工し、乾燥することにより、正極活物質層を形成した。これをロール圧延した後、所定の大きさにスリット加工することで、正極集電体上に正極活物質層を備えたシート状の正極(実施例1〜9、比較例1〜3)を得た。
【0023】
次に、負極活物質としてのカーボンと、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを混合し、イオン交換水で粘度を調整することで、負極活物質層形成用スラリーを調製した。かかるスラリーを銅箔(負極集電体)の表面に塗工し、乾燥することにより、負極活物質層を形成した。これをロール圧延した後、所定の大きさにスリット加工することで、負極集電体上に負極活物質層を備えたシート状の負極を得た。
上記作製したシート状の正極と負極とをセパレータシートを介して積層し、電極体(実施例1〜9、比較例1〜3)を作製した。なお、セパレータとしては、ポリプロピレン(PP)/ポリエチレン(PE)/ポリプロピレン(PP)からなる三層構造の多孔質シートを用いた。
【0024】
次に、この電極体をアルミニウム製の角型の電池ケースに収容し、非水電解液を注液した。なお、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを3:4:3の体積比率で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF
6を凡そ1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。上記電池ケースの開口部を封止し、電池ケースの外表面に熱電対を貼り付けて、実施例1〜9および比較例1〜3のリチウムイオン二次電池(理論容量3.8Ah)を構築した。
【0025】
<過充電試験>
上記構築した電池に対して、コンディショニング処理を施した後、3.0〜4.2Vの電圧範囲で初期容量の確認を行い、異常がないことを確認した。次に、この電池を、25℃の温度環境下で、上限電圧10Vとして過充電状態まで10Aの定電流で充電し、このときの最大電池温度(℃)を確認した。結果を表1に示す。
【0027】
表1より明らかなように、実施例1〜9では、比較例1〜3に比べて過充電時の最大電池温度が低く、具体的には最大電池温度が140℃以下(例えば130℃以下)に抑えられていた。これは、正極活物質のBET比表面積とDBP吸収量とを制御することで、非水電解液を正極の内部まで十分に浸透させることができたためと考えられる。その結果、過充電時に正極内を均質に反応させることができ、正極の発熱を低く抑えることができたと推察される。なかでも、正極活物質のDBP吸収量が35ml/100g以上(例えば40ml/100g以上)であって、54ml/100g以下を満たす場合に、より高い耐過充電性能を実現することができるとわかった。また、正極活物質のBET比表面積が1.5m
2/g以下(例えば1.0m
2/g以下)を満たす場合に、より高い耐過充電性能を実現することができるとわかった。これらの結果は、本発明の技術的意義を示すものである。
【0028】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここに開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。