(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、正極の構成および製法、セパレータの構成および製法、非水電解質の構成および調製方法、電池(ケース)の形状等、電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0014】
<非水電解質二次電池>
ここに開示される非水電解質二次電池は、(a)正極と(b)負極と(c)非水電解質とを有する。以下、かかる電池の各構成要素について説明する。
【0015】
<(a)正極>
正極は、典型的には正極集電体と当該正極集電体上に固着された正極活物質層とを備える。正極活物質層は正極活物質を含む。
正極集電体としては、導電性の良好な金属(例えばアルミニウム、ニッケル等)からなる導電性部材が好適である。正極集電体の形状は、電池の形状等に応じて異なり得るため特に限定されず、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の形態であり得る。正極集電体の厚さも特に限定されず、例えば5〜30μmであり得る。
【0016】
正極活物質としては、非水電解質二次電池の正極活物質として使用し得ることが知られている各種の材料を特に限定なく1種または2種以上採用し得る。一典型例として、リチウム(Li)と少なくとも1種の遷移金属元素とを含むリチウム遷移金属複合化合物が挙げられる。リチウム遷移金属複合化合物の代表例としては、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも1種と、を含む複合酸化物が挙げられる。具体的には、LiNiO
2、LiCoO
2、LiFeO
2、LiMn
2O
4、LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2、LiNi
0.5Mn
1.5O
4等が例示される。なかでも、熱安定性やエネルギー密度を向上する観点から、LiとNiとCoとMnとを含む三元系のリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
【0017】
正極活物質層は、上述の正極活物質の他に、必要に応じてその他の任意成分(例えばバインダや導電材、分散剤、増粘剤等)を含み得る。
導電材としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、黒鉛、炭素繊維等の炭素材料を好適に採用し得る。また、金属繊維類;銅、ニッケル等の金属粉末類;ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料;等も好適に採用し得る。
バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のハロゲン化ビニル樹脂や、ポリエチレンオキサイド(PEO)等のポリアルキレンオキサイドを好適に採用し得る。
【0018】
<(b)負極>
負極は、(b1)負極活物質と、(b2)導電材と、(b3)バインダと、を含む。負極は、典型的には、負極集電体と当該負極集電体上に固着された負極活物質層とを備える。そして、この負極活物質層に上記(b1)〜(b3)が含まれる。
このような態様の負極は、例えば下記の方法で作製される。先ず、負極活物質と導電材とバインダとを適当な溶媒と混合して、ペースト状の負極活物質層形成用組成物(負極ペースト)を調製する。溶媒としては、水性溶媒および有機溶媒のいずれも使用可能であり、例えば水を用いることができる。次に、調製した負極ペーストを負極集電体に付与し、上記負極ペーストに含まれる溶媒を除去する。そして、溶媒を除去した後の組成物を、所望の厚さ、目付量となるよう必要に応じて圧縮(プレス)する。このようにして、負極集電体上に負極活物質層を備えた負極が得られる。
【0019】
ここに開示される電池の負極は、導電材の平均粒径をDeとし、バインダの平均粒径をDbとしたときに、Db≦Deを満たすことによって特徴づけられる。
図1は、一実施形態に係る負極(典型的には負極活物質層)の構成を示す部分模式図である。
図1に示すように、上記関係式(Db≦De)を満たす負極では、導電材24の一部の表面がバインダ26によって覆われる。これにより、導電材24と非水電解質との接触面積が低減される。そして、導電材24表面における非水電解質の還元分解が抑制される。また、負極活物質22の間には、バインダ26で部分的に覆われた導電材24が存在する。これにより、負極活物質層内に良好な導電パスが形成されると共に、負極の機械的強度(形状保持性)が高められる。その結果、電気伝導性の向上(抵抗の低減)と容量維持率の向上とを両立することができる。
【0020】
なお、本発明者らの検討によれば、上記Dbと上記Deとが、Db>Deの関係にある場合(例えば、平均粒径が150〜300nm程度のバインダと、平均粒径が100nm程度の導電材と、を用いる場合)は、導電材の表面がバインダで被覆され難い。このため、負極ペーストの調製時にバインダが溶媒中でダマになったり凝集したりし易くなる。バインダは、凝集すると粒径が大きくなる。したがって、この負極ペーストを負極集電体上に付与して乾燥させると、粒径の大きなバインダは、負極活物質間に侵入できず負極活物質の表面に堆積する。一方、バインダよりも粒径の小さな導電材は、負極活物質間に優先的に充填される。その結果、負極活物質間に存在する導電材は、表面が露出した状態となる。これにより、当該導電材表面で非水電解質の還元分解が生じて、不可逆容量が増大する。その結果、充放電サイクルを繰り返すにつれて容量劣化が顕著なものとなる。
【0021】
ここに開示される技術の好適な一態様では、上記Dbと上記Deとが、(Db/De)<1、好ましくは(Db/De)≦0.9、より好ましくは(Db/De)≦0.8を満たす。これによって、導電材とバインダの粒径の差がより顕著なものとなる。その結果、導電材の表面がバインダで覆われやすくなる。したがって、容量維持率向上の効果がより良く発揮される。
好適な他の一態様では、上記Dbと上記Deとが、0.05≦(Db/De)、典型的には0.1≦(Db/De)、例えば0.5≦(Db/De)を満たす。これによって、一層高いレベルで電池抵抗の低減と耐久性の向上とを実現することができる。
以下、負極の構成要素について説明する。
【0022】
負極集電体としては、導電性の良好な金属(例えば銅、ニッケル等)からなる導電性部材が好適である。負極集電体の形状は、電池の形状等に応じて異なり得るため特に限定されず、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の形態であり得る。負極集電体の厚さも特に限定されず、例えば5〜30μmであり得る。
【0023】
(b1)負極活物質としては、非水電解質二次電池の負極活物質として使用し得ることが知られている各種の材料を特に限定なく1種または2種以上採用し得る。一典型例として、炭素材料が挙げられる。炭素材料の代表例としては、黒鉛(グラファイト)、ならびに該黒鉛の表面にアモルファスカーボンを備えた非晶質コート黒鉛が挙げられる。その他、電池の使用用途等によっては、チタン酸リチウム等の酸化物;ケイ素材料、スズ材料等の単体、合金、化合物等も負極活物質として好適である。なかでも、黒鉛が負極活物質全体の50質量%以上(典型的には80質量%以上、好ましくは90質量%以上)を占める黒鉛系炭素材料が好ましい。これにより、エネルギー密度の向上と高耐久とを高いレベルで両立し得る。
【0024】
負極活物質は、典型的には粒子状(粉末状)である。負極活物質のレーザー回折・光散乱法に基づく平均粒径(二次粒子径)は、導電材やバインダに比べて大きく、典型的には1〜20μm程度、例えば5〜15μm程度であり得る。
負極活物質の平均粒径を所定値以下とすることで、電荷担体との反応場が適切に確保される。その結果、抵抗がより良く低減されて、一層高い入出力特性を実現し得る。
また、負極活物質の平均粒径を所定値以上とすることで、負極活物質表面における非水電解質の還元分解がより良く抑制される。その結果、不可逆容量の増大が抑えられて、一層高い容量維持率を実現し得る。
【0025】
(b2)導電材としては、従来から非水電解質二次電池の電極に使用されている各種の材料を特に採用し得る。一典型例として、カーボンブラックや活性炭、炭素繊維、ハードカーボン、ソフトカーボン、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)等のアモルファスカーボンが挙げられる。カーボンブラックの代表例としては、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック等が挙げられる。なかでも、低抵抗と高容量とを高いレベルで兼ね備える観点から、アセチレンブラックが好ましい。
【0026】
ここで用いられる導電材は、粒子状(粉末状)である。
導電材の平均粒径De(一次粒子径)は、バインダの平均粒径Db以上である限りにおいて(Db≦Deを満たす限りにおいて)特に限定されない。
好適な一態様では、Deが概ね60nm以上、例えば70nm以上である。Deが所定値以上であると、嵩密度を比較的小さく抑えることができる。このため、高いエネルギー密度を実現する観点から有利である。また、Deが所定値以上であると、負極活物質間に太い(より強固な)導電パスを形成する効果がある。したがって、負極の抵抗をより高いレベルで低減することができる。
好適な他の一態様では、Deが概ね200nm以下、典型的には150nm以下、例えば100nm以下である。Deが所定値以下であると、導電材の単位質量あたりの比表面積が大きくなる。そのため、負極活物質との接触面積が増加し、負極内に導電パスを形成しやすくなる。したがって、負極の抵抗をより高いレベルで低減することができる。
【0027】
(b3)バインダとしては、従来から非水電解質二次電池の電極に使用されている各種の材料を特に採用し得る。一典型例として、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを主な共重合成分とするアクリル系ポリマー;スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、アクリロニトリル−イソプレン共重合体ゴム(NIR)、アクリロニトリル−ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム(NBIR)等のゴム類;ポリエチレン等のポリオレフィン系ポリマー;ポリウレタン等のウレタン系ポリマー;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;ポリエチレンオキサイド(PEO)等のポリアルキレンオキサイド;等が挙げられる。なかでもアクリル系ポリマーは接着性(典型的には初期タック、接着強度)が強く、かつ電気化学的な安定性が高いため、好ましい。
【0028】
ここで用いられるバインダは、粒子状(粉末状)である。
バインダの平均粒径Db(一次粒子径)は、導電材の平均粒径De以下である(Db≦Deを満たす)限りにおいて特に限定されない。
好適な一態様では、Dbが概ね60nm以上、例えば70nm以上である。Dbが所定値以上であると、負極ペースト調製時におけるバインダの凝集を好適に抑制することができる。また、バインダ自体の製造容易性や取扱性も向上することができる。その結果、生産性が高まり、低コスト化を実現することができる。
好適な他の一態様では、Dbが概ね150nm以下、典型的には100nm以下、好ましくは90nm以下である。Dbが所定値以下であると、単位質量あたりの比表面積が大きくなる。そのため、導電材の表面をバインダでより良く覆うことができる。その結果、導電材と非水電解質との接触面積が的確に低減され、非水電解質の還元分解が抑制される。また、バインダの粒径が小さいと負極活物質間に入り込みやすくなる。そのため、負極活物質間の接着性を高め、機械的強度を向上することができる。したがって、Dbが所定値以下であると、本発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0029】
負極中の導電材とバインダの質量比は特に限定されないが、概ね1:1〜10:1、例えば4:1〜6:1であるとよい。これにより導電材の表面がバインダによってより良く被覆される。つまり、導電材の一部表面がバインダで覆われることで、非水電解質の還元分解がより良く抑制される。その結果、非水電解質の分解が生じ易い高温環境下にあっても、容量劣化を高度に低減することができる。また、導電材の表面にバインダで覆われていない部分(露出した部分)を残すことで、負極内に良好な導電パスがより良く形成される。その結果、高いレベルで負極の抵抗を低減することができる。
【0030】
負極活物質層は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、必要に応じて各種の添加剤(例えば増粘剤や分散剤等)を含み得る。増粘剤は、負極スラリーに適度な粘性を与える機能を有する。具体例として、カルボキシメチルセルロース(CMC)やメチルセルロース(MC)等のセルロース類が挙げられる。
【0031】
負極活物質層全体に占める負極活物質の割合は、高エネルギー密度を実現する観点から、通常50質量%を超え、好ましくは90〜99質量%、例えば90〜95質量%であるとよい。また、負極活物質層全体に占める導電材の割合は、エネルギー密度と入出力特性の兼ね合いから、凡そ1〜10質量%、好ましくは1〜7質量%、例えば5±1質量%であるとよい。また、負極活物質層全体に占めるバインダの割合は、機械的強度(形状保持性)の維持と低抵抗の兼ね合いから、凡そ0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜3質量%、例えば1〜2質量%であるとよい。
【0032】
負極活物質層の単位面積あたりの目付量(負極ペーストの固形分換算の付与量)は特に限定されない。
好適な一態様では、負極活物質層の単位面積あたりの目付量が、負極集電体の片面あたり2mg/cm
2以上、例えば3mg/cm
2以上、典型的には3.5mg/cm
2以上である。これにより、高エネルギー密度の電池をより良く実現することができる。
他の好適な一態様では、負極活物質層の単位面積あたりの目付量が、負極集電体の片面あたり5.2mg/cm
2以下、例えば5mg/cm
2以下、典型的には4.5mg/cm
2以下である。本発明者の検討によれば、バインダの平均粒径が小さい場合、負極の製造時(より具体的には、負極ペーストを負極集電体上に付与して乾燥させる際)に、バインダが負極活物質層の表層部にマイグレーション(偏在化)し易くなる。目付量を所定値以下とすることで、かかる不具合を効果的に抑制することができる。
【0033】
電池構築に使用するときの(プレス処理を施した後の)負極活物質層の密度は、特に限定されない。好適な一態様では、高エネルギー密度と高入出力密度とを両立する観点等から、負極活物質層の密度が1.1g/cm
3以上、典型的には1.2g/cm
3以上、例えば1.3g/cm
3以上であって、典型的には1.5g/cm
3以下である。これにより、高エネルギー密度と高入出力密度とを高いレベルで両立することができる。
【0034】
好適な一態様では、負極集電体と負極活物質層の間の剥離強度が概ね2N/m以上、好ましくは3.5N/m以上、より好ましくは4N/m以上である。特に強度を要求され得る用途においては、剥離強度が5N/m以上であるとよい。これによって、負極の機械的強度(形状保持性)を高めることができる。つまり、剥離強度が高いと、電池の製造時または使用時に応力が加わったり、充放電に伴って負極活物質が膨張収縮を繰り返したりしても、負極活物質層の剥離や崩落が生じ難くなる。したがって、高耐久な電池を安定的に実現することができる。なお、剥離試験の具体的な手順については実施例で示す。
【0035】
<(c)非水電解質>
非水電解質は、一般的には支持塩と非水溶媒とを含む。非水電解質は、例えば常温(25℃±5℃)において液状を呈する。つまり、非水電解液である。非水電解質は、好ましくは電池の使用温度域内(例えば−30〜+60℃)において、常に液状を呈する。
支持塩としては、非水電解質二次電池の支持塩として使用し得ることが知られている各種の化合物を特に限定なく1種または2種以上採用し得る。一好適例として、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiClO
4等のリチウム塩が挙げられる。なかでもLiPF
6やLiBF
4が好ましい。
非水溶媒としては、非水電解質二次電池の非水溶媒として使用し得ることが知られている各種の有機溶媒を特に限定なく1種または2種以上採用し得る。具体例として、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等が挙げられる。一好適例として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類が挙げられる。
【0036】
非水電解質は、上述の支持塩と非水溶媒の他に、必要に応じて各種の添加剤を含み得る。かかる添加剤は、例えば、電池のサイクル特性の向上、高温保存特性の向上、初期充放電効率の向上、入出力特性の向上、過充電耐性の向上(過充電時のガス発生量の増加)等の1または2以上の目的で使用され得る。一好適例として、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)等の皮膜形成剤;ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等の過充電添加剤;が挙げられる。
【0037】
<非水電解質二次電池の一実施形態>
図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池(単電池)100の縦断面図である。非水電解質二次電池100は、扁平形状の捲回電極体80と、図示しない非水電解質と、これらを収容する扁平な直方体形の電池ケース50と、を備える。
電池ケース50は、上端が開放された扁平な直方体形状の電池ケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54と、を備える。電池ケース50の材質は、例えばアルミニウム等の軽量な金属であり得る。電池ケースの形状は特に限定されず、直方体、円筒形等であり得る。電池ケース50の上面(すなわち蓋体54)には、外部接続用の正極端子70と負極端子72が設けられている。それら端子70,72の一部は蓋体54の表面側に突出している。正極端子70は、電池ケース50側で捲回電極体80の正極と電気的に接続している。負極端子72は、電池ケース50側で捲回電極体80の負極と電気的に接続している。蓋体54にはまた、電池ケース50の内部で発生したガスを外部に排出するための安全弁55が設けられている。
【0038】
捲回電極体80は、長尺状の正極シート10と、長尺状の負極シート20と、を備える。正極シート10は、長尺状の正極集電体と、その表面(典型的には両面)に長尺方向に沿って形成された正極活物質層と、を備えている。負極シート20は、長尺状の負極集電体と、その表面(典型的には両面)に長尺方向に沿って形成された負極活物質層と、を備えている。また、捲回電極体80は、2枚の長尺状のセパレータシート40を備える。正極シート10(正極活物質層)と負極シート20(負極活物質層)は、セパレータシート40で絶縁されている。セパレータシート40の材質は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂であり得る。セパレータシート40の表面には、内部短絡の防止等を目的として、無機化合物粒子(無機フィラー)を含む多孔質な耐熱層が設けられていてもよい。
なお、この捲回電極体80は扁平状であるが、例えば電池の形状や使用目的等に応じて、適切な形状、構成を採用することができる。
【0039】
<非水電解質二次電池の用途>
ここに開示される非水電解質二次電池は各種用途に利用可能であるが、負極の構成が最適化されている効果によって、低抵抗かつ高耐久(例えば、優れた高温保存特性)を実現している。そのため、かかる電池は、長期にわたって高エネルギー密度と高入出力密度とが維持されたものとなり得る。
ここに開示される非水電解質二次電池は、このような特徴を活かして、例えば、急速充放電を繰り返す使用態様が想定される用途;10年程度の長期間交換せずに使用され続ける用途;使用環境や保存環境が50℃以上の高温となり得る用途;で特に好ましく用いることができる。具体的には、例えば、ハイブリッド自動車(HV)等の車両に搭載されるモーター用の動力源(駆動用電源)として好ましく利用され得る。
したがって、本発明によると、ここに開示されるいずれかの非水電解質二次電池(複数の電池が接続された組電池の形態であり得る。)を搭載した車両が提供される。
【0040】
以下、本発明に関するいくつかの例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0041】
I.電池特性の評価
<正極の作製>
先ず、正極活物質としての三元系のリチウム遷移金属複合酸化物(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、質量比率が91:6:3となるよう秤量し、N−メチルピロリドン(NMP)と混合して、正極ペーストを調製した。調製した正極ペーストを、長尺状のアルミニウム箔(正極集電体)に帯状に塗布した。これを加熱乾燥した後に圧延プレスして、正極シートを作製した。
【0042】
<負極の作製>
先ず、負極活物質として、黒鉛の表面にアモルファスカーボンがコートされた構造の非晶質コート黒鉛を作製した。具体的には、天然黒鉛粉末とピッチとを、質量比率が95:5となるよう混合して、天然黒鉛の表面にピッチを付着させた。これを不活性ガス雰囲気下において凡そ1000℃で焼成した後、篩いにかけて、平均粒径10μmの非晶質コート黒鉛を得た。
また、バインダとして平均粒径が70〜300nmのアクリル系バインダ(5種類、いずれも分散媒を含むエマルジョンの状態である。)を用意した。
【0043】
次に、上記作製した非晶質コート黒鉛と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、上記5種類のアクリル系バインダとを、以下の質量比率となるよう秤量し、イオン交換水と混合して、計10種類の負極ペーストを調製した。調製した負極ペーストを、長尺状の銅箔(負極集電体)に帯状に塗布した。これを加熱乾燥した後に圧延プレスして、計10種類の負極シートを作製した。
・導電材ありの試験例;
負極活物質:導電材:増粘剤:バインダ=93:5:1:1
・導電材なしの試験例(参考例);
負極活物質:導電材:増粘剤:バインダ=98:0:1:1
【0044】
<非水電解液の調製>
先ず、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、体積比率が3:4:3となるよう混合して溶媒を調製した。この混合溶媒に、支持塩としてのLiPF
6を1.1mol/Lの濃度で溶解させ、非水電解液を用意した。
【0045】
<電池の構築>
先ず、セパレータシートとして、ポリエチレン(PE)層の両面にポリプロピレン(PP)層が積層された三層構造の多孔質樹脂シート(平均厚み20μm)の片面に、耐熱層(4μm)が設けられているシートを用意した。
次に、上記作製した正極シートおよび負極シートを、セパレータシートを介して積層し、10種類の負極シートに対応する電極体を作製した。このとき、セパレータシートの耐熱層側の面を負極シートに対向させた。かかる電極体を電池ケースに収容し、電池ケースに非水電解液を注入した。これにより、負極の構成が異なる計10種類のリチウムイオン二次電池を構築した。
【0046】
<初期容量の測定>
25℃の温度環境下において上記構築した電池の初期容量を測定した。具体的には、3.0Vから4.1Vの電圧範囲で、以下の手順1、2にしたがって測定を行った。
(手順1)1/3Cの定電流で4.1VまでCC充電し、10分間休止する。
(手順2)1/3Cの定電流で3.0VまでCC放電した後、当該電圧で、電流が1/100CとなるかCV放電時間が1.5時間経過するまでCV放電する。
そして、手順2における放電容量(CCCV放電容量)を初期容量(SOC100%)とした。
【0047】
<低温抵抗の測定>
先ず、25℃の温度環境下において、上記電池をSOC56%の状態に調整した。この電池を−10℃の恒温槽に移し、しばらく放置した。電池の温度が安定した後、1C、3Cのレートでそれぞれ10秒間CC充電した。このときの電流と電圧降下量と関係をグラフに表し、その近似直線の傾きを低温抵抗(mΩ)として算出した。
結果を表1に示す。なお、表1では、負極が次の条件:導電材を含まない;バインダの平均粒径Dbが300nm;を満たす試験例を100としたときの相対値で結果を示している。
【0048】
<高温保存試験>
先ず、25℃の温度環境下において、上記電池をSOC80%の状態に調整した。この電池を60℃の恒温槽に移し、60日間保存した。試験終了後、電池を恒温槽から取り出して、初期容量の場合と同様に電池容量を測定した。高温保存試験後の電池容量を初期容量で除して、容量維持率(%)を算出した。
結果を表1に示す。なお、表1では、負極が次の条件:導電材を含まない;バインダの平均粒径Dbが300nm;を満たす試験例を100としたときの相対値で結果を示している。
【0050】
図3は、導電材の平均粒径Deに対するバインダの平均粒径Dbの比(Db/De)と、電池の低温抵抗の関係を示すグラフである。
表1および
図3に示すように、負極に導電材を含まない試験例(「導電材なし」の試験例(参考例))では
、バインダの平均粒径Dbが大き
いほど、低温抵抗が低減されていた。これは、バインダの粒径が大きいほど、負極活物質表面のバインダ被覆割合が小さくなるためと考えられる。
これに対し、負極に導電材を含む試験例(「導電材あり」の試験例)では、低温抵抗がDb/De(すなわちバインダの平均粒径Db)に依存せず一定の値を示した。また、負極に導電材を含まない試験例(参考例)と比べて、全体的に低温抵抗が低減されていた。
【0051】
図4は、導電材の平均粒径Deに対するバインダの平均粒径Dbの比(Db/De)と、電池の容量維持率の関係を示すグラフである。
表1および
図4に示すように、負極に導電材を含まない試験例(「導電材なし」の試験例(参考例))では
、バインダの平均粒径Dbが大き
いほど、高温保存後の容量劣化が大きかった。これは、バインダの粒径が大きいほど、負極活物質表面のバインダ被覆割合が小さくなるためと考えられる。つまり、負極活物質の表面で非水電解質の還元分解が促進された結果と考えられる。
負極に導電材を含む試験例(「導電材あり」の試験例)では、負極に導電材を含まない試験例(参考例)に比べて、Db/De(すなわちバインダの平均粒径Db)の影響が大きかった。これは、導電材の平均粒径Deに対するバインダの平均粒径Dbの比が小さくなるほど、導電材の表面にバインダが被覆され易くなるためと考えられる。
【0052】
以上の結果から、負極に導電材を含むことで、低温抵抗が低減される。また、負極におけるバインダの平均粒径Dbを導電材の平均粒径De以下(すなわちDb/De≦1)とすることで、耐久後の容量維持率(例えば高温保存特性)が向上する。これらの効果により、ここに開示される技術によれば、良好な電池特性(例えば入出力特性)を長期にわたって維持発揮することができる(高耐久性な)非水電解質二次電池が実現される。
【0053】
II.負極の剥離強度の評価
<負極の作製>
先ず、上記非晶質コート黒鉛と、アセチレンブラックと、カルボキシメチルセルロースと、アクリル系バインダ(平均粒径70nm、分散媒を含むエマルジョンの状態。)とを、質量比率が93:5:1:1となるよう秤量し、イオン交換水と混合して、負極ペーストを調製した。調製した負極ペーストを、表2に示す目付量で長尺状の銅箔(負極集電体)の片面に帯状に塗布した。これを加熱乾燥した後に圧延プレスして、計5種類の負極シートを作製した。
【0054】
<90度剥離試験>
90度剥離試験は、JIS K6854−1(1999)の「はく離接着強さ試験」に準じて行った。すなわち、先ず、各負極シートを1.5cm×70cmの大きさに切り出して、試験片を用意した。次に、試験片の負極集電体側の面を引張試験機の架台に固定し、負極活物質層の面を引張冶具(クランプ)に固定した。そして、引張冶具を鉛直方向上側に20〜40mm/minの速度でそれぞれ引っ張りあげ、負極活物質層が負極集電体から剥がれるときの剥離強度(N/m)を測定した。そして、上記引っ張り速度における引っ張り強度を算術平均して剥離強度を求めた。結果を表2に示す。
【0056】
図5は、負極集電体の片面あたりの目付量と剥離強度との関係を示すグラフである。
表2および
図5に示すように、負極集電体の片面あたりの目付量が5.2mg/cm
2以下(好ましくは4.3mg/cm
2以下)のとき、4N/m以上(好ましくは5N/m以上)の剥離強度が実現された。また、片面あたりの目付量が5.2mg/cm
2を超えると剥離強度は低下傾向となった。これは、目付量が多くなるほど負極活物質層が厚くなり、負極活物質層の表層部にバインダがマイグレーションし易くなるためと考えられる。このことから、ここに開示される技術は、薄膜状の負極を備えた非水電解質二次電池、例えば大電流で急速充放電を行う使用態様が想定される車両搭載用の電池(特にはハイブリッド自動車用の電池)等に特に好ましく適用し得る。
【0057】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここに開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。