(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249256
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】光硬化装置
(51)【国際特許分類】
B29C 35/08 20060101AFI20171211BHJP
B29C 64/241 20170101ALI20171211BHJP
B29C 64/264 20170101ALI20171211BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20171211BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20171211BHJP
【FI】
B29C35/08
B29C64/241
B29C64/264
B33Y30/00
B33Y10/00
【請求項の数】12
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-538043(P2016-538043)
(86)(22)【出願日】2015年3月19日
(65)【公表番号】特表2017-516678(P2017-516678A)
(43)【公表日】2017年6月22日
(86)【国際出願番号】IB2015052032
(87)【国際公開番号】WO2015145314
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年8月1日
(31)【優先権主張番号】VI2014A000068
(32)【優先日】2014年3月24日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】512014740
【氏名又は名称】ディーダブリューエス エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ゼネレ,セルジオ
【審査官】
関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−144166(JP,A)
【文献】
韓国特許第1996−0005781(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 35/08
B29C 64/241
B29C 64/264
B33Y 10/00
B33Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化される1つまたは複数の物体(A)を収容できるように構成される光硬化室(2)と、
前記光硬化室(2)内に配置される光硬化放射線の光源(3)と、
前記光硬化室(2)と連通する少なくとも1つの吸引ダクト(5)を有する真空ポンプ(4)と、
光硬化プロセス中に前記物体(A)を移動させるのに適した移動手段(6;106)と、を備え、
前記移動手段(6;106)は、光硬化される前記物体(A)を支持するのに適した支持手段(9)に機械的に関連付けられる駆動シャフト(8)を有する少なくとも1つの電気モータ(7;107)を含み、前記電気モータ(7;107)および前記駆動シャフト(8)は、前記物体(A)に対して水平回転軸(X)を画定するように構成されることを特徴とする、光硬化装置(1;100)。
【請求項2】
前記移動手段(6;106)は前記物体(A)を振動させるのに適した振動手段(10;110)も備えることを特徴とする、請求項1に記載の光硬化装置(1;100)。
【請求項3】
前記振動手段(10)は前記電気モータ(7)の基部(7a)に関連付けられることを特徴とする、請求項2に記載の光硬化装置(1)。
【請求項4】
前記振動手段(10)は前記装置(1)の構造体(1a)の基部(1b)に関連付けられることを特徴とする、請求項2に記載の光硬化装置(1)。
【請求項5】
前記振動手段(10)は1つまたは複数の圧電変換器(11)であることを特徴とする、請求項2〜4のうちいずれか一項に記載の光硬化装置(1)。
【請求項6】
前記振動手段は超音波発生器を備えることを特徴とする、請求項2〜4のうちいずれか一項に記載の光硬化装置(1)。
【請求項7】
前記電気モータ(107)はステップモータであり、前記振動手段(110)は、前記ステップモータ(107)を動作させることができるように構成されるプログラム可能論理回路を備える電子制御手段(112)を備えることを特徴とする、請求項2に記載の光硬化装置(100)。
【請求項8】
前記ステップモータによって、全てが同じ回転方向で行われる、複数の前記支持手段(9)の複数の回転が達成されることを特徴とする、請求項7に記載の光硬化装置(100)。
【請求項9】
前記ステップモータによって、対向する回転方向で行われる、複数の前記支持手段(9)の複数の回転が達成されることを特徴とする、請求項7に記載の光硬化装置(100)。
【請求項10】
前記光硬化放射線の光源(3)は、UV放射線の1つまたは複数のエミッタを備えることを特徴とする、請求項1〜9のうちいずれか一項に記載の光硬化装置(1;100)。
【請求項11】
光硬化装置の光硬化室内に配置される物体の表面を覆うように配設される光硬化性樹脂を光硬化するための方法であって、次の動作:
−前記光硬化性樹脂の層によって前記物体の表面を覆うことと、
−前記物体を前記光硬化室内に配置することと、
−前記光硬化室に光硬化放射域をもたらすことと、
−前記光硬化室内に真空をもたらすことと、
−前記物体を前記光硬化室内で回転するように設定することと、を含み、
前記物体の前記回転は、水平回転軸に従って行われることを特徴とする、方法。
【請求項12】
前記回転中に前記物体は振動するように設定されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂を光硬化させるための装置に関する。
【0002】
特に、本発明による装置は、ステレオリソグラフィプロセスによって製造される物体の表面に塗布される光硬化樹脂にとって有用である。
【背景技術】
【0003】
美的外観を改善するために、ステレオリソグラフィプロセスによって作られた物体は、光硬化性樹脂の層によって被覆され、光硬化プロセス後、該層によって、物体の表面はより滑らかになり、かつより均質になることは、周知の事実である。
【0004】
先行技術によると、この処理は、物体の表面を光硬化性樹脂の層で被覆してから物体を処理するため、例えば、紫外線放射を放つ1つまたは複数のランプによって出される光硬化放射域の存在下で、光硬化室内で被覆されることを伴う。
【0005】
代替的には、物体の表面を被覆する光硬化性樹脂の層はまた、物体を製造するために使用されるステレオリソグラフィプロセスから自発的に生じるぬれで構成されてよい。
【0006】
光硬化装置はまた、光硬化室と連通する吸入口を有する真空ポンプ、および、略垂直回転軸に従って回転して処理されるように物体を設定する電気モータを含む。
【0007】
処理中、モータによって物体に与えられた回転によって、紫外線の作用に対して物体の表面のあらゆる部分が容易に均質に露出されることで、それら物体を被覆する樹脂の最適な光硬化が得られる。
【0008】
さらに、光硬化室内に真空状態が同時にもたらされることによって、樹脂からガスが容易に抽出され、被覆はより密で均質になり、光硬化プロセスが改善される。
【0009】
しかしながら、上述された先行技術の装置には、いくつかの制限事項および欠点が認められる。
【0010】
認められる最初の欠点は、物体は、垂直回転軸に従って回転するため、回転すると、該物体を被覆する樹脂は重力によって処理室の底部上に滴り、かつ、物体の最下部分に向かって厚くなる傾向があることにある。
【0011】
これは、例えば、特許文献1に記載されるタイプの装置において生じる。この場合、物体は、垂直軸を中心に回転するように設定される。
【0012】
認められる別の欠点は、ガス抜きによって樹脂は浸透しやすくなり、それによって、処理が完了した後絹のような外観を有することにある。
【0013】
この後者の認められる欠点から生じる制限事項は、先行技術に従って装置を使用することによって、光沢のある表面を得ることが不可能となり、この光沢のある表面は研磨剤によって機械的に研磨することによってしか実現できないことにある。
【0014】
しかしながら、研磨剤によって機械的に研磨することには別の制限事項があり、これは、この機械的に研磨することが物体の内側部分に対して実行できず、該内側部分まで届かせるのが困難でありさらには不可能であるためである。
【0015】
既知の特許文献2は、「観覧車」タイプ、ひいては、水平軸に従った回転の動きと同様の動きで回転するように設定される保持具上で支持される物体を硬化するための装置を記載している。しかしながら、真空状態での処理は行われない。
【0016】
また、既知の特許文献3は連続硬化方法について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】独国実用新案第202007004266号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2014/0013719号明細書
【特許文献3】米国特許第5,135,686号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、上で列挙した欠点および制限事項全てを克服することである。
【0019】
特に、本発明の最初の目的は、光硬化処理中、物体を被覆する光硬化される樹脂が光硬化室の底部上に滴りにくい光硬化装置を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、光硬化処理中、物体の表面全体にわたって樹脂が均一に分布されることを徹底することである。
【0021】
また、必然ではないが、最後の目的は、本発明による装置によって物体が滑らかかつ光沢のある表面を得られることができるように徹底することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上で列挙した目的は、下記で述べられる主請求項に記載される特性を有する光硬化装置によって実現される。
【0023】
本発明による装置、および、前記装置によって実現可能な光硬化方法の他の特性は、従属請求項において記載される。
【0024】
本発明による装置によって、有利には、既知の光硬化装置によって実現可能なものより一様な厚さの表面被覆の物体を得ることができるようにする。
【0025】
さらに一層有利には、いずれの研磨材による機械的研磨も必要なく、光沢のある表面を有する物体が得られる。
【0026】
また、有利には、届かないため研磨剤を使用して研磨できない、物体の内側部分上でも光沢のある表面を有する物体を得ることができる。
【0027】
上で列挙した目的および利点は、非限定的例として提供される、添付の図面を参照して説明される、本発明による装置の好ましい実施形態を説明することによってより良く示されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図4】本発明による装置の別の実施形態の内部正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明による光硬化装置は、
図1における不等角投影図において、および、
図2および
図3における内部図において示され、ここでは、全体的に1で示される。
【0030】
図2では、装置は構造体1aを含む。該構造体1aの内部には、光硬化室2が画定され、開閉式ハッチ2aを備え、光硬化される樹脂で被覆された1つまたは複数の物体Aを収容するように構成されることを見ることができる。
【0031】
光硬化室2内には、光硬化室2の天井2bに取り付けられるのが好ましいが必然ではなく、例えば、市販のタイプのUV放射線を放つ1つまたは複数のランプを含む光硬化放射線の光源3がある。
【0032】
従って、物体Aが入れられる光硬化室2内に光硬化域がもたらされる。
【0033】
本発明による装置1を画定する構造体1aは形状が略平行6面体であるが、他の実施形態では任意の他の形状であってよい。
【0034】
さらに、光硬化放射線の光源3は、市販のUVランプとは異なるタイプのものであってもよい。
【0035】
構造体1aは、光硬化室2と連通する吸引ダクト5を有する真空ポンプ4と、また、光硬化プロセス中物体Aを移動させるための手段6とを収容する。
【0036】
本発明によると、移動手段6は、光硬化される物体Aを支持するための手段9に機械的に関連付けられる駆動シャフト8を有する電気モータ7を含む。電気モータ7および駆動シャフト8は、物体Aを実質的水平回転軸Xに従って回動させるように構成される。
【0037】
支持手段9は、光硬化される物体Aのタイプによっては変更してよい。
【0038】
好適例では、および、単に例として、
図1〜
図3では、物体Aは樹脂リングから成り、かつ、電気モータ7の駆動シャフト8に連結されるプレート9aと、プレート9aに取り付けられ、それぞれが物体Aを支持する複数の把持部材9bとを備える支持手段9によって支持されることを見ることができる。
【0039】
明確には、支持手段の形状およびサイズは、種々のタイプの物体、とりわけ、種々の形状およびサイズの物体に適するように変更してよい。
【0040】
動作可能には、本発明による装置を使用して、物体Aの表面を被覆する樹脂を硬化することで、該表面を滑らかかつ均質にする。
【0041】
この目的のために、物体Aの表面は、噴霧もしくは浸漬によって、または、他の方法を使用して塗布される光硬化性樹脂で被覆される。
【0042】
代替的には、前述されるように、物体の表面を被覆する光硬化性樹脂の層は、ステレオリソグラフィプロセスから自発的に生じるぬれから構成されてよく、該プロセスによって物体は製造されている。
【0043】
それぞれの物体Aは、光硬化室内に置かれ、該光硬化室において、支持手段9と、この特定のケースでは、それぞれの対応する把持部材9bと関連付けられる。
【0044】
次いで、光硬化室2のハッチ2aは閉鎖され、光硬化放射線の光源3がオンにされ、真空ポンプ4および電気モータ7が有効にされる。
【0045】
水平軸Xを中心とした回転中に、それぞれの物体Aのあらゆる部分は、光源3の光硬化作用に対して同じ時間露出され、これによって、物体Aの表面のあらゆる部分上の樹脂の完全かつ均質な光硬化が徹底される。
【0046】
さらに、電気モータ7の回動速度は、それぞれの物体Aが半回転を完了させるのにかかる時間が被覆用樹脂が重力によって剥落するのにかかる時間より少なくなるような値に調節できるため、光硬化室2の底部2b上に樹脂が滴ることがいずれも回避でき、よって、本発明の目的のうちの1つを実現できる。
【0047】
最終的に、水平軸Xに従った物体Aの回転は、樹脂が蓄積するような箇所がもたらされるのを防止するため、均一な厚さの光硬化被覆を得ることにある本発明の別の目的が実現される。
【0048】
光硬化処理は真空状態で行われるため、密で均質である、物体上に被覆される表面を得るというさらなる目的も、該表面に含有されるガスが放出されるため実現される。
【0049】
得られた表面は、その結果として滑らかで厚さが一様になるが、光硬化室2内の陰圧の結果として、光硬化プロセス中に樹脂から自発的に現れるガスによってもたらされる微小気泡の存在によって絹のような外観を有する。
【0050】
この欠点を克服し、かつ、物体上に光沢のある表面被覆をもたらすために、光硬化プロセス中に物体A上の樹脂被覆を連続的に固めることによって形成する微小気泡を排除することは不可欠である。
【0051】
この目的のために、
図2に示されるように、移動手段6は、物体Aを振動させるための手段10も含む。手段10は、1つまたは複数の、市販の既知のタイプの圧電変換器11から成る。圧電変換器11は、電気モータ7の基部7aに、または、
図3に示されるように装置1の構造体1aの基部1bに関連付けられる。
【0052】
振動手段は、電気モータ7の基部7aに、または、装置1の構造体1aの基部1bに関連付けられる超音波発生器から成ることもできる。
【0053】
全体的に数字100で示される、本発明による装置の別の実施形態が
図4に示される。ここでは、移動手段106が、ステップタイプの電気モータ107と、回転運動を画定するためにステップモータ107を動作させるように構成されるプログラム可能論理回路を備える電子制御手段112とを含むこの別の実施形態が先述した実施形態とは明らかに異なることを見ることができる。
【0054】
この回転運動は、全てが同じ回転方向で行われる複数の回転を含むことができる、または、前記回転運動は、対向する回転方向で行われる複数の回転を含むことができる。
【0055】
記載される実施形態全てにおいて、振動運動によって物体上の樹脂被覆が固められるが、これは、光硬化室2内の真空状態によって樹脂から自発的に現れるようなガスによって生成される微小気泡をはじけさせるからである。
【0056】
結果的に、光硬化プロセスの終わりに、物体の表面は光沢のあるものになるため、本発明の別の目的が実現される。
【0057】
物体Aの振動の動きと軸Xに従った物体Aの回転とを組み合わせることで、結果として、物体の表面全体にわたる一様な厚さ、および、滑らかかつ密であり、一様な光硬化された外観を有するのに加えて、先行技術による光硬化装置によって実現される結果と違って光沢もある表面被覆を実現できる。
【0058】
よって、機械的研磨材の手段を使用したいずれの手動の研磨も用いる必要なく、光沢のある表面を有する物体を得ることができる。
【0059】
光沢のある表面はまた、機械的研磨手段では届かせることができない物体Aの内側部分においても、該物体のあらゆる部分上で得られる。
【0060】
本発明による光硬化装置によって、次の動作:
−光硬化性樹脂の層によって処理される物体の表面を被覆することと;
−物体を光硬化室内に配置することと;
−光硬化室内に光硬化放射域をもたらすことと;
−光硬化室内に真空をもたらすことと;
−物体を光硬化室内で略水平回転軸に従って回転するように設定することと;
を含む光硬化方法を実行することが実質的に可能になる。
【0061】
該方法は、物体を同時に振動させることも含むことができる。
【0062】
従って、上の説明に基づいて、本発明による光硬化装置が、既定の目的および利点を実現可能にすることは明らかである。
【0063】
添付の特許請求の範囲内に入る、光硬化装置および光硬化方法に対して行われるいずれの修正または変形も、本発明によって保護されると考えられるべきである。