(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
日本の「ものづくり」産業を支えてきた技術の一つに、金型を用いた成形技術がある。かかる成形技術としては、加圧成形法、射出成形法および押出成形法などが挙げられる。これら成形法のうち、射出成形法は、射出成形用金型を用いて溶融樹脂原料から成形品を得る方法である。
【0003】
射出成形法においては、射出成形用金型200’の一方の金型(コア側金型)201’と他方の金型(キャビティ側金型)202’とから構成された金型キャビティ203’内に溶融樹脂原料が射出される(
図11参照)。射出された溶融樹脂原料は金型キャビティ203’で冷却固化に付され、成形品となる。金型キャビティ203’内への溶融樹脂原料の射出は、一般にスプルブッシュ100’を介して行われる。
【0004】
図11に示すように、射出成形用金型200’に用いられるスプルブッシュ100’には原料樹脂流路10’が設けられている。かかる原料樹脂流路10’は、溶融樹脂原料が導入される上流側始端10a’から金型キャビティ203’内へと通じる下流側末端10b’にまで延在している。
【0005】
原料樹脂流路10’には、成形品を取り出し易くするためにテーパが付けられている。具体的には、原料樹脂流路10’は、その上流側始端10a’から下流側末端10b’へと延在するにつれて幅寸法W’が漸次大きくなっている。
図11に示すように、原料樹脂流路10’の上流側10α’の幅寸法W
1’は相対的に小さいのに対して、原料樹脂流路10’の下流側10β’の幅寸法W
2’は相対的に大きくなっている。
【0006】
テーパが付けられた原料樹脂流路10’は、成形品の取出しの点で好ましいものの、溶融樹脂原料の冷却固化の点からは必ずしも好ましいといえない。例えばテーパが付けられた原料樹脂流路10’が長くなると、それに伴って相対的に大きい幅寸法W’の下流側の影響が大きくなり、溶融樹脂原料が冷却固化しにくくなる。溶融樹脂原料が冷却固化しにくいと、溶融原料樹脂の射出から成形品の取出しまでに要する時間が増し、結果として成形サイクルが長くなってしまう。それゆえ、
図11に示されるように原料樹脂流路10’の周囲に直管形態の冷却媒体流路20’が供されることがある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照して本発明の一実施形態をより詳細に説明する。図面における各種要素の形態および寸法は、あくまでも例示にすぎず、実際の形態および寸法を反映するものではない。
【0015】
複数のスプルブッシュの製造方法を説明する前に、原料樹脂流路内の溶融樹脂原料を全体として好適に冷却可能なスプルブッシュ(単一)の構成およびその製造方法について説明する。
【0016】
[スプルブッシュ(単一)の構成]
本発明の一実施形態では、最終的に得られる複数のスプルブッシュの各々は、少なくとも2つのパーツ(基部および造形部)から構成するといった技術的思想に基づき製造される。ここでいう基部とは、既存のスプルブッシュを実質的に指す。基部は既存のスプルブッシュを実質的に指すため、基部それ自体に別のパーツ(造形部)を敢えて設けなくとも、基部を射出成形用部品として用いることができ得る。それにもかかわらず、本発明の一実施形態では、最終的に得られるスプルブッシュを少なくとも2つのパーツ(基部および造形部)から敢えて構成している。特に、本発明の一実施形態は、下記で詳述するが、複数の基部上へ造形部をそれぞれ設置するに先立って、各基部の位置を特定することを特徴とする。
【0017】
スプルブッシュ100は、
図1に示すように、基部100Aと、基部100A上に位置付けられるように構成される造形部100Bとを組み合わすことで得られ得る。なお、
図1では図示していないが、造形部100Bが基部100A上に位置付けられた後に、スプルブッシュ100が射出成形の際に用いられることを考慮し、表面を切削加工に付してよい。かかるスプルブッシュ100は、図示するように、原料樹脂流路10およびその周囲に設けられた冷却媒体流路20を内部に有して成る。当該原料樹脂流路10は、最終的に得られる成形品の取出し易さの観点から、上流側始端10aから下流側末端10bへ向かうにつれ幅寸法が漸次大きくなるように構成されている。
【0018】
ここでいう「スプルブッシュ100の冷却媒体流路20」とは、冷却媒体を流すための流路であって、原料樹脂流路10内の溶融樹脂原料を冷却させるための流路である。つまり、成形時においては冷却媒体流路20を流れる冷却媒体に起因して原料樹脂流路10内の溶融樹脂原料が降温に付されることになる。ここでいう「冷却媒体」とは、原料樹脂流路10内の溶融樹脂原料に対して冷却効果を与えることができる流体のことを指しており、例えば冷却水または冷却ガスなどである。ここでいう「原料樹脂流路10の上流側」とは、溶融樹脂原料が導入される上流側始端10aに対して近位側に位置する部分を指す。一方、ここでいう「原料樹脂流路10の下流側」とは、溶融樹脂原料が導入される上流側始端10aに対して遠位側に位置する部分を指す。原料樹脂流路10の上流側と下流側との境界は、特に限定されるものではないが、例えば本発明のスプルブッシュの高さの2分の1なる部分を指す。より具体的に例示すれば、「原料樹脂流路10の上流側」は、例えば原料樹脂流路10の上流側始端10aから“本発明のスプルブッシュ100の高さの2分の1なる部分”にまで至る領域に相当する。その一方、「原料樹脂流路10の下流側」は、例えば“本発明のスプルブッシュの高さの2分の1なる部分”から原料樹脂流路10の下流側末端10bにまで至る領域に相当する。
【0019】
詳細には、基部100Aは、原料樹脂流路10A、および原料樹脂流路10Aの周囲に配置される冷却媒体流路20Aを備えている。ここでいう「基部100Aの原料樹脂流路10A」とは、スプルブッシュ100の原料樹脂流路10の上流側領域を指す。ここでいう「基部100Aの冷却媒体流路20A」とは、スプルブッシュ100の冷却媒体流路20の上流側領域を指す。基部100Aの冷却媒体流路20Aは、原料樹脂流路10Aの周囲に配置さる直管形態の流路である。一方、造形部100Bは、原料樹脂流路10B、および原料樹脂流路10Bの周囲に位置する冷却媒体流路20Bを備えている。ここでいう「造形部100Bの原料樹脂流路10B」とは、スプルブッシュ100の原料樹脂流路10の下流側領域を指す。ここでいう「造形部100Bの冷却媒体流路20B」とは、スプルブッシュ100の冷却媒体流路20の下流側領域を指す。上述のように、本発明の一実施形態では、スプルブッシュ100(単一)は、
図1に示すように、基部100Aと、基部100A上に位置付けられる造形部100Bとから構成されている。より具体的には、基部100A内の原料樹脂流路10Aと造形部100B内の原料樹脂流路10Bとが相互に連結されるように、および基部100A内の冷却媒体流路10Aと造形部100B内の冷却媒体流路10Bとが相互に連結されるように、造形部100Bが基部100A上に位置付けられ得る。
【0020】
上述のように、スプルブッシュ100内部の原料樹脂流路10はその幅寸法が上流側10aから下流側10bへと向かうにつれ漸次大きくなるように構成され得るため、それに起因して原料樹脂流路10の下流側領域内の溶融樹脂原料は原料樹脂流路10の上流側領域内の溶融樹脂原料よりも冷却固化しにくい。そのため、原料樹脂流路10の下流側領域内の溶融樹脂原料を好適に冷却固化できるようにする必要があり得る。そこで、スプルブッシュ100(単一)においては、溶融樹脂原料が冷却固化しにくい部分であり得る原料樹脂流路10の下流側領域、すなわち造形部100Bの原料樹脂流路10Bの周囲に配置される冷却媒体流路20Bが、原料樹脂流路10の下流側領域、すなわち造形部100Bの冷却媒体流路20Bを取り囲むように構成され得る。特に限定されるものではないが、造形部100Bの冷却媒体流路20Bは螺旋構造を有するように構成されてよい。ここでいう「冷却媒体流路20の下流側領域」とは本発明のスプルブッシュの高さの2分の1未満の部分に位置するものを指す。つまり、冷却媒体流路20の下流側領域は、本発明のスプルブッシュの高さの2分の1未満の領域に位置付けられてよい。
【0021】
造形部100Bの冷却媒体流路20Bが原料樹脂流路10Bを取り囲むように設けられていると、造形部100Bの冷却媒体流路20Bを流れる冷却媒体の冷却熱を、平面視においていずれの方向(すなわち実質的に全方向)からも原料樹脂流路10B内の溶融樹脂原料に対して供することができ得る。そのため、これに起因して、造形部100Bの冷却媒体流路20Bを流れる冷却媒体の冷却熱を、造形部100Bの原料樹脂流路10B内の相対的に冷却固化しにくい溶融樹脂原料に好適に伝えることができ得る。その結果、造形部100Bの原料樹脂流路10B、すなわちスプルブッシュ100の原料樹脂流路10の下流側領域内の溶融樹脂原料を好適に冷却固化でき得る。これにより、原料樹脂流路10内の溶融樹脂原料を全体として好適に冷却可能となり、それに起因して、成形完了の際に、スプルブッシュ100の原料樹脂流路10内から冷却固化して形成される樹脂部材を好適に取り出し得る。
【0022】
[スプルブッシュ(単一)の製造方法]
以下、スプルブッシュ(単一)の製造方法について説明する。
【0023】
<1.基部の用意>
図2(a)に示すように、一端部10Aaから他端部10Abまで貫通するように延在する原料樹脂流路10Aを内部に備えた基部100Aを用意する。ここでいう「基部100A」とは、既存のスプルブッシュを実質的に指す。また、原料樹脂流路10Aは、上流側から下流側に向かうにつれ幅寸法が漸次大きくなるように構成されていてよい。
【0024】
次いで、
図2(b)に示すように、冷却媒体流路20Aが基部100Aの内部に形成されるように、基部100Aを切削加工に付す。具体的には、基部100Aを切削加工に付して、原料樹脂流路10Aの周囲に配置される直管形態の冷却媒体流路20Aを内部に形成する。特に限定されるものでないが、基部100Aにおいて、冷却媒体流路20Aに流す冷却媒体熱を原料樹脂流路10A中の原料樹脂に均一に供する観点から、当該冷却媒体流路20Aを、原料樹脂流路10Aの延在方向に対して略平行に延在するように位置付けてよい。又、特に限定されるものではないが、冷却媒体を流入および/または流出させるための開口部が基部100Aの上流側の側部に供されてよい。つまり、詳細には、冷却媒体流路20Aは、当該開口部から、原料樹脂流路10Aの周囲に配置される直管部分まで連続する構造を採ってよい。切削加工するための切削工具としては、例えばエンドミルを用いることができ得る。特に限定されるものではないが、エンドミルとしては、例えば超硬素材の二枚刃ボールエンドミル等を挙げることができ得る。以上により、原料樹脂流路10Aおよび冷却媒体流路20Aを内部に備えた基部100Aを用意する。
【0025】
<2.造形部の形成>
基部100Aを用意した後、
図2(c)に示すように基部100A上にて造形部100Bを形成する。当該造形部100Bは例えば“粉末焼結積層法”で形成することができ得る。
【0026】
造形部100Bの形成に用いられる“粉末焼結積層法”とは、光ビームを粉末材料に照射することを通じて三次元形状造形物を製造できる方法である。粉末焼結積層法では、以下の工程(i)および(ii)に基づいて粉末層形成と固化層形成とを交互に繰り返し実施して三次元形状造形物を製造する。
(i)粉末層の所定箇所に光ビームを照射し、かかる所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成する工程。
(ii)得られた固化層の上に新たな粉末層を形成し、同様に光ビームを照射して更なる固化層を形成する工程。
【0027】
このような製造技術に従えば、複雑な三次元形状造形物を短時間で製造することが可能となる。粉末材料として金属粉末を用いる場合、得られる三次元形状造形物を造形部100Bとして用いることができ得る。
【0028】
粉末材料として金属粉末を用い、それによって三次元形状造形物を製造する場合の粉末焼結積層法の一般的な例を示す。
図3に示すように、まず、スキージング・ブレード23を動かして造形プレート21上に所定厚みの粉末層22を形成する(
図3(a)参照)。次いで、粉末層22の所定箇所に光ビームLを照射して粉末層22から固化層24を形成する(
図3(b)参照)。引き続いて、得られた固化層の上に新たな粉末層を形成して再度光ビームを照射して新たな固化層を形成する。このようにして粉末層形成と固化層形成とを交互に繰り返し実施すると固化層24が積層することになり(
図3(c)参照)、最終的には積層化した固化層24から成る三次元形状造形物を得ることができ得る。
【0029】
具体的には、
図4(および
図2(c))に示すように、造形プレート21上に原料樹脂流路10Aおよび冷却媒体流路20Aを内部に備えた基部100Aを固定する。基部100Aを固定した後、原料樹脂流路10Bおよび当該原料樹脂流路10Bの周囲に冷却媒体流路20Bがそれぞれ内部に形成されるように、造形部100Bを粉末焼結積層法で形成する。具体的には、冷却媒体流路20Bが原料樹脂流路10Bを取り囲むように、造形部100Bを形成する。これに加えて、
図2(c)に示すように、基部100Aの原料樹脂流路10Aと造形部100Bの原料樹脂流路10Bとが相互に連結され、および基部100Aの冷却媒体流路20Aと造形部100Bの冷却媒体流路20Bとが相互に連結されるように基部100A上にて造形部100Bを形成する。なお、冷却媒体流路20Bが原料樹脂流路10Bを取り囲むように設けられていると、冷却媒体流路20Bを流れる冷却媒体の冷却熱を、平面視においていずれの方向からも原料樹脂流路10B内の溶融樹脂原料に対して供することができ得る。そのため、これに起因して、冷却媒体流路20Bを流れる冷却媒体の冷却熱を、原料樹脂流路10B内の相対的に冷却固化しにくい溶融樹脂原料に好適に伝えることができ得る。その結果として、原料樹脂流路10B内の溶融樹脂原料を好適に冷却固化でき得る。すなわち、スプルブッシュ100の原料樹脂流路10の下流側領域内の溶融樹脂原料を好適に冷却固化でき得る。これにより、原料樹脂流路10内の溶融樹脂原料を全体として好適に冷却可能となり、それに起因して、成形完了の際に、スプルブッシュ100の原料樹脂流路10内から、冷却固化して形成される樹脂部材を好適に取り出し得る。また、造形部100Bの形成を基部100A上にて実施する場合、基部100A上に位置する粉末層の所定箇所に光ビームLを照射することで固化層24が形成される。この場合、光ビームLの照射により、基部100A上にて金属粉末が溶融固化するため、溶融固化した金属粉末から得られる固化層24と基部100Aとの接続強度が向上され得る。
【0030】
なお、上述の造形部100Bの原料樹脂流路10B、および当該原料樹脂流路10Bを取り囲むように設けられる冷却媒体流路20Bを形成するために、以下の態様を採り得る。まず、固化層を形成する際に光ビームが部分的に照射されない非照射部を形成する。具体的には、粉末焼結積層法で固化層を形成する際、原料樹脂流路10Bおよび当該原料樹脂流路10Bを取り囲むように設けられる冷却媒体流路20Bとなる所定領域には光ビームを照射しないことで非照射部を形成する。非照射部を形成した後、かかる非照射部に存在し得る粉末を最終的に除去する。これにより、形成される造形部100Bの内部に原料樹脂流路10Bおよび当該原料樹脂流路10Bを取り囲むように設けられる冷却媒体流路20Bが形成され得る。
【0031】
図2(d)に示すように、造形部100Bの形成が完了すると、基部100A上に造形部100Bが位置付けられることになる。基部100A上に造形部100Bを位置付けた後、基部100A上に造形部100Bを位置付けることで得られるスプルブッシュ100の表面、特に造形部100Bの表面を切削加工に付してよい。
【0032】
粉末焼結積層法で得られる造形部100Bは、比較的粗い表面を有している。例えば、造形部100Bは数百μmRz程度の表面粗さの表面を有している。かかる表面粗さは、造形部100Bを成す固化層の表面に粉末が付着することに起因している。固化層形成の際には光ビームのエネルギーが熱に変換されることによって光ビームが照射される粉末層の所定箇所の粉末が焼結又は溶融固化する。この際、かかる所定箇所の周辺の粉末温度も上昇し得るため、当該周辺の粉末が固化層の表面に付着してしまう。このように付着粉末に起因して造形部100B(三次元形状造形物)に表面粗さがもたらされることになる。従って、基部100A上に造形部100Bを位置付けることで得られる本発明のスプルブッシュ100の表面、特に造形部100Bの表面を切削加工に付すことがよい。
【0033】
[複数のスプルブッシュの製造方法(本発明に対応)]
上記では、スプルブッシュ(単一)の構成およびその製造方法について説明してきた。以下、上記内容をふまえ、当該スプルブッシュ(単一)を複数製造する方法(本発明に対応)について説明する。
【0034】
上記のスプルブッシュ100(単一)を複数製造する場合、複数の基部100A上に造形部100Bをそれぞれ形成することが必要となる。より具体的には、造形プレートの所定箇所に複数の基部100Aをそれぞれ位置付けた上で、当該所定箇所に位置付けた基部100A上に造形部100Bをそれぞれ形成することが必要となる。この場合、複数の基部100Aの位置をそれぞれ精度良く特定することは容易ではないおそれがある。そのため、基部100A上に後刻に形成する造形部100Bを精度良く位置付けることが容易ではないおそれがあり得る。その結果、原料樹脂流路内の溶融樹脂原料を全体として好適に冷却可能なスプルブッシュ(単一)を精度良く複数製造することが容易ではないおそれがあり得る。
【0035】
上記点を鑑み、本発明は、
図5に示すように造形部100Bの設置に先立って、基部100Aの原料樹脂流路10Aおよび冷却媒体流路20Aの少なくとも一方の位置情報から複数の基部100Aのそれぞれの位置をXY仮想座標平面で特定するという技術的思想を有する。すなわち、本発明は、複数の基部100A上に造形部100Bをそれぞれ精度良く位置付ける観点から、造形部10の各々の位置付けに先立って各基部100Aの位置を予め把握しておくという技術的思想を有している。かかる本発明の技術的思想は、従来の当業者の技術常識の延長線上での対応に基づくものではない点で有益であり得る。
【0036】
かかる技術的思想に従えば、造形部100Bの設置に先立って複数の基部100Aのそれぞれの位置がXY仮想座標平面で特定される。かかるXY仮想座標平面での特定により、複数の基部100Aのそれぞれの位置を客観的に数値化することが可能となる。そのため、後刻の造形部100Bの設置の際に、かかる複数の基部100Aのそれぞれの位置の数値化された情報に基づき、複数の基部100A上に造形部100Bをそれぞれ精度良く設置することができ得る。端的に言うと、後刻に造形部100Bをそれぞれ設置する際には、平面視においていずれの箇所に各基部100Aが設置されているか既に把握済みの状態となっている。換言すれば、造形部100Bの形成を行うべきかを既に把握済みの状態となっている。そのため、所定箇所に固定配置された複数の基部100A上に造形部100Bをそれぞれ精度良く位置付けることができ得る。又、所定箇所に固定配置された複数の基部100A上に造形部100Bをそれぞれ略同タイミングで位置付けることもでき得る。以上の事から、各造形部100Bの精度の良い位置付けおよび各造形部100Bの略同タイミングの位置付けに起因して、全体として複数のスプルブッシュ100を精度良くかつ同タイミングで製造することが可能となり得る。これにより、本発明では、全体として、製造コスト低減および製造時間の短縮を好適に図ることが可能となり得る。
【0037】
なお、本発明の一実施形態に係る製造方法は、以下の態様を採り得る。
【0038】
一態様では、XY仮想座標平面における複数の基部100Aの各々の原料樹脂流路の位置情報に基づいて、複数の基部100AのそれぞれのXY座標を特定してよい。
【0039】
本態様では、上記の複数の基部100Aのそれぞれの位置情報の客観的な数値化を実現するための手段として、当該基部100AのそれぞれのXY座標情報が用いられる。具体的には、XY仮想座標平面での特定により、複数の基部100AのそれぞれのXY座標情報が特定される。かかるXY座標情報の特定により、後刻の造形部100Bの設置の際に、当該XY座標情報に基づき基部100A上に造形部100Bをそれぞれ精度良く設置することができ得る。又、当該XY座標情報が特定されていることに起因して、所定箇所に固定配置された複数の基部100A上に造形部100Bをそれぞれ略同タイミングで位置付けることもでき得る。
【0040】
なお、各基部100AのXY座標情報については、例えば下記手順に従い特定し得る。具体的には、
図6に示すようにカメラ等の撮影手段200Aを、造形プレート21の所定箇所に固定した基部100Aの略鉛直上方に配置した上で、当該撮影手段200Aにて複数の基部100Aの天面100Aaを撮影する。撮影した基部100Aの天面100Aaの画像データおよび撮影手段の位置情報等に基づき、複数の基部100Aの原料樹脂流路(図示せず)の位置情報をそれぞれ把握する。複数の基部100Aの原料樹脂流路の位置情報をそれぞれ把握した後、当該基部100Aの原料樹脂流路の位置情報に基づき、
図5に示すXY仮想座標上における各基部100AのXY座標情報を特定する。
【0041】
一態様では、XY仮想座標平面にて複数の基部100Aの各々の原料樹脂流路10Aおよび冷却媒体流路20Aを通る直線と、XY仮想座標平面のX軸またはY軸とが成す角度θから複数の基部100Aの各々の軸回転量を特定してよい。
【0042】
上述のように、複数の基部100Aは造形プレートの所定箇所にそれぞれ設置され得るところ、複数の基部100Aの設置態様を全て等しくすることは容易ではない。例えば、複数の基部100Aの各々の原料樹脂流路10Aおよび冷却媒体流路20Aを通る直線の軸を全て同じ方向に方向づけることは容易ではない。つまり、複数の基部100Aのうちいくつかの基部100Aの当該軸は他の基部100Aとは異なる方向に方向づけられる場合がある。
【0043】
そこで、
図7に示すように、例えば、XY仮想座標平面にて複数の基部100Aの各々の原料樹脂流路10Aおよび冷却媒体流路20Aを通る直線と、XY仮想座標平面のX軸の延長線とが成す角度θから基部100Aの各々の軸回転量を特定してよい。具体的には、所定箇所に設置した基部100Aが、基準となる基部(例えば、基部の原料樹脂流路および冷却媒体流路を通る直線が仮想X軸に対して水平である基部)と比べて、どの程度回転されているかを特定してよい。これにより、後刻の造形部100Bの設置の際に、基部100AのXY座標情報に加え当該軸回転量に基づき基部100A上に造形部100Bを精度良く設置することができ得る。端的に言うと、(1)後刻の造形部100Bの設置の際には、平面視においていずれの箇所にて造形部100Bの形成を行うべきか、および(2)基準となる基部100Aと比べてどの程度「回転補正」させるべきかを予め把握済みになっている。従って、所定箇所に設置した基部100Aが、基準となる基部と比べて軸回転している場合であっても、所定箇所に設置された基部100A上に造形部100Bを精度良く位置付けることができ得る。
【0044】
一態様では、仮想XY座標平面に対して垂直な軸を仮想Z軸とし、複数の基部の各々の天面レベルに基づいて複数の基部のそれぞれのZ座標を特定してよい。
【0045】
すなわち、本態様は、造形部100Bの設置に先立って仮想Z軸上における複数の基部100AのそれぞれのZ座標情報を把握しておくことを特徴とする。造形プレートの所定箇所に固定する基部100Aの高さは、基部100Aが既存のスプルブッシュを用いていることもあって必ずしも等しいとは限らない。しかしながら、後刻に形成する造形部100Bは上述の粉末焼結積層法で形成するところ、複数の基部100Aの各々の高さが等しくないと、複数の基部100A上にそれぞれ所定厚みの新たな粉末層を好適に敷くことができないおそれがあり得る。そこで、
図8に示すように造形部の設置に先立って複数の基部100Aのそれぞれの仮想Z軸上におけるZ座標情報を予め把握する。一例を挙げると、例えば
図8に示すように、造形部の設置に先立って一方の基部100Aの仮想Z軸上におけるZ座標がZ
1であり、他方の基部100Aの仮想Z軸上におけるZ座標がZ
2であることを予め把握する。かかる把握により、各基部100Aの高さ情報が客観的に数値化され得る。そのため、複数の基部100Aのそれぞれの高さ調整を精度良く行うことができ得る。具体的には、造形プレートの所定箇所に固定した複数の基部の高さがそれぞれ等しくなるように切削加工処理を好適に施すことができ得る。これにより、複数の基部上にそれぞれ略同一の所定厚みを有する新たな粉末層を好適に敷くことができ得る。従って、最終的に複数の所望の造形部をそれぞれ得ることができ得る。
【0046】
なお、各基部100AのZ座標情報を特定するために用いられる「複数の基部100Aの各々の天面100Aaのレベル」については、例えば下記手順に従い特定し得る。具体的には、
図9に示すようにカメラ等の撮影手段200Bを、造形プレート21の所定箇所に固定した基部100Aの略水平方向に配置し、当該撮影手段200Bにて複数の基部100Aの側面を撮影する。そして、撮影した基部100Aの側面の画像データおよび撮影手段200Bの位置情報等に基づき、複数の基部100Aの各々の天面100Aaのレベルを把握する。以上により、各天面100Aaのレベルの情報に基づき、
図8に示す仮想Z軸上におけるZ座標情報が特定され得る。
【0047】
一態様では、複数の基部100AのそれぞれのZ座標のうち最も小さい座標をZ座標
minとすると、複数の基部100Aの全てがZ座標
minとなるように、複数の基部100Aの天面100Aaを切削加工に付してよい。
【0048】
図9に示すように、造形プレート21の所定箇所に固定する基部100Aの高さは、基部100Aが既存のスプルブッシュであるために必ずしも等しいとは限らない。しかしながら、後刻に形成する造形部は上述の粉末焼結積層法で形成するため、複数の基部100Aの各々の高さが等しくないと、複数の基部100A上にそれぞれ所定厚みの新たな粉末層を好適に敷くことができないおそれがあり得る。
【0049】
そこで、本態様では、複数の基部100Aの各々の天面100Aaのレベル情報に基づき、仮想Z軸上におけるZ座標情報を特定し(
図8参照)、その後特定したZ座標のうち最も小さい座標Z座標
minの値になるように、造形プレート21に固定した他の基部100Aの天面100Aaを切削工具4により切削加工に付してよい(
図10参照)。かかる切削加工により、造形プレート21の所定箇所に固定した他の基部100Aの高さを等しくすることができ得る。従って、後刻に形成する造形部を粉末焼結積層法で形成するに際して、複数の基部100Aの各々の高さが等しいことに起因して、複数の基部100A上にそれぞれ略同一の所定厚みの新たな粉末層を好適に敷くことができ得る。従って、最終的に複数の所望の造形部をそれぞれ得ることができ得る。なお、切削加工に付すための切削工具4としては、例えばエンドミルを用いることができ得る。特に限定されるものではないが、エンドミルとしては、例えば超硬素材の二枚刃ボールエンドミル等を挙げることができ得る。
【0050】
上述の事からも、本態様は、複数の基部100Aのうち、数値特定した最もZ座標が小さい基部100Aに合わせて、他の基部100AのZ座標の値(すなわち、高さ)を減じることを特徴とする。つまり、この事は、他の基部100Aについては、高さを減じるための切削加工処理のみを実施すればよいことを意味する。これに対して、複数の基部100Aのうち、数値特定した最もZ座標が小さい基部100Aを基準としない場合、他の基部100Aについては、高さを減じるための切削加工処理および/または追加的な光造形処理が必要となってしまう。従って、本態様は製造効率の観点からも好ましいと言える。
【0051】
なお、
図9および
図10に示す態様では、複数の基部100Aの各々を造形プレート21上に直接固定しなくてもよい。例えば、
図9および
図10に示すように、例えば造形プレート21上に土台30を設け、当該土台30上に基部100Aを固定してもよい。これにより、基部100Aの天面100Aaのレベルを適宜調節でき得る。
【0052】
以上、本発明の一実施形態に係る複数のスプルブッシュの製造方法について説明してきたが、本発明はこれに限定されることなく、特許請求の範囲に規定される発明の範囲から逸脱することなく種々の変更が当業者によってなされると理解されよう。
【0053】
なお、上述のような本発明の一実施形態は、次の好適な態様を包含している。
第1態様:
複数の基部上に対して造形部をそれぞれ設置することによって複数のスプルブッシュを製造する方法であって、
前記基部の各々は、原料樹脂流路および該原料樹脂流路の周囲に配置された冷却媒体流路を備えており、
前記造形部の前記設置に先立っては、前記原料樹脂流路および前記冷却媒体流路の少なくとも一方の位置情報から前記複数の前記基部のそれぞれの位置をXY仮想座標平面で特定する、複数のスプルブッシュの製造方法。
第2態様:
上記第1態様において、前記XY仮想座標平面における前記複数の前記基部の各々の前記原料樹脂流路の位置情報に基づいて、前記複数の前記基部のそれぞれのXY座標を特定する、複数のスプルブッシュの製造方法。
第3態様:
上記第1態様又は第2態様において、前記XY仮想座標平面にて前記複数の前記基部の各々の前記原料樹脂流路および前記冷却媒体流路を通る直線と、前記XY仮想座標平面のX軸またはY軸とが成す角度θから前記複数の前記基部の各々の軸回転量を特定する、複数のスプルブッシュの製造方法。
第4態様:
上記第1態様〜第3態様のいずれかにおいて、前記XY仮想座標平面に対して垂直な軸を仮想Z軸とし、前記複数の前記基部の各々の天面レベルに基づいて該複数の該基部のそれぞれのZ座標を特定する、複数のスプルブッシュの製造方法。
第5態様:
上記第4態様において、前記複数の前記基部のそれぞれの前記Z座標のうち最も小さい座標をZ座標
minとすると、該複数の該基部の全てが該Z座標
minとなるように、前記複数の前記基部の天面を切削加工に付す、複数のスプルブッシュの製造方法。
第6態様:
上記第1態様〜第5態様のいずれかにおいて、前記造形部を粉末焼結積層法で形成する、複数のスプルブッシュの製造方法。
原料樹脂流路内の溶融樹脂原料を全体として好適に冷却可能な複数のスプルブッシュの各々を精度良くかつ略同タイミングで製造するための方法を提供するために、本発明の一実施形態では、複数の基部上に対して造形部をそれぞれ設置することによって複数のスプルブッシュを製造する方法であって、複数の基部の各々は、原料樹脂流路および原料樹脂流路の周囲に配置された冷却媒体流路を備えており、造形部の設置に先立っては、原料樹脂流路および冷却媒体流路の少なくとも一方の位置情報から複数の基部のそれぞれの位置をXY仮想座標平面で特定する、複数のスプルブッシュの製造方法が提供される。