【実施例】
【0011】
図1〜
図5は、この発明の実施例を示すものである。
図1において、圧縮着火式内燃機関1は、シリンダブロック2にシリンダヘッド3を搭載し、シリンダブロック2にシリンダ4を囲むようにウォータジャケット5を形成し、シリンダ4に摺動可能に内蔵したピストン6によりシリンダヘッド3との間に燃焼室7を形成している。ピストン6は、コンロッド8によりクランク軸9に接続されている。圧縮着火式内燃機関1は、燃焼室7内の混合気を圧縮し自発的に着火させる燃焼方式である。
圧縮着火式内燃機関1は、燃焼室7に新気を供給するための吸気通路10を備えている。吸気通路10には、新気の流量を調整する絞り弁11を備えている。絞り弁11の下流側の吸気通路10は、分岐されたハイポート12とローポート13とを備えている。
ハイポート12は、吸気通路10の延長方向に延びてから、中心線C1がシリンダヘッド3の底面14に対し大きい接続角度θ1で燃焼室7に接続されている。ローポート13は、吸気通路10よりもシリンダヘッド3寄りの位置を延長方向に延びてから、中心線C2がハイポート12シリンダヘッド3の底面14に対しハイポート12よりも小さい接続角度θ2(θ1>θ2)で燃焼室7に接続されている。
ハイポート12は、
図2に示すように、ローポート13に比べて、大きい断面積に形成されている。これより、ローポート13は、ハイポート12と比較して吸気量が小さくなるように形成されている。ローポート13には、吸気通路10と接続する部分に、吸気通路10からローポート13に導入される新気量を調整する新気調整弁15を備えている。
圧縮着火式内燃機関1は、燃焼室7から燃焼後のガスを排出するための排気通路16を備えている。排気通路16は、
図2に示すように、燃焼室7に接続される2つの排気ポート17、18を備えている。2つの排気ポート17、18の下流側は、集合されて1本の排気通路16にまとめられる。
【0012】
圧縮着火式内燃機関1は、シリンダヘッド3に、ハイポート12とローポート13とをそれぞれ開閉する吸気バルブ19、20を備え、2つの排気ポート17、18をそれぞれ開閉する2つの排気バルブ21、22を備えている。
圧縮着火式内燃機関1は、シリンダヘッド3に、クランク軸9に同期して回転される吸気カム軸23と排気カム軸24とを備えている。吸気カム軸23は、吸気カム25により吸気バルブ19、20を開閉駆動する。排気カム軸24は、排気カム26により排気バルブ21、22を開閉駆動する。
圧縮着火式内燃機関1は、吸気バルブ可変動弁機構27と排気バルブ可変動弁機構28とを備えている。吸気バルブ可変動弁機構27は、クランク軸6に対する吸気カム軸23の位相を変化させて、吸気バルブ19、20の開閉時期及びバルブリフト量を変更する。排気バルブ可変動弁機構28は、クランク軸9に対する排気カム軸24の位相を変化させて、排気バルブ21、22の開閉時期及びバルブリフト量を変更する。
【0013】
圧縮着火式内燃機関1は、シリンダヘッド3に燃焼室7に臨ませて燃料噴射弁29を備えている。燃料噴射弁29は、燃焼室7内に燃料を噴射し、混合気を生成する。圧縮着火式内燃機関1は、シリンダヘッド3に燃焼室7に臨ませて点火プラグ30を備えている。点火プラグ30は、燃焼室7内に火花を発生させ、混合気に着火して燃焼させる。
圧縮着火式内燃機関1は、排気通路16内の排気ガスを吸気通路10へと導く排気還流通路31を備えている。排気還流通路31は、排気側接続部32を排気通路16に接続し、吸気側接続部33を吸気通路10のハイポート12又はローポート13のいずれか一方、この実施例ではローポート13に接続している。排気還流通路31には、還流ガスを冷却するEGRクーラ34と、還流ガスの流量を調整するEGRバルブ35とを備えている。排気還流通路31は、EGRクーラ34により冷却した排気ガスをEGRバルブ35により流量調整し、還流ガスとして吸気通路10へと導く。
【0014】
圧縮着火式内燃機関1は、新気調整弁15と、吸気バルブ可変動弁機構27と、排気バルブ可変動弁機構28と、燃料噴射弁29と、点火プラグ30と、EGRバルブ35とを、制御装置36に接続している。制御装置36には、圧縮着火式内燃機関1の運転負荷や目標回転数を算出するための情報(例えば、吸気圧、吸気流量、吸気温度、機関回転速度、アクセル開度等)を入力する情報入力手段37を接続している。
制御装置36は、情報入力手段37から入力する情報に基づいて算出した圧縮着火式内燃機関1の目標回転数に応じて、新気調整弁15によりローポート13に導入される新気量を制御し、吸気バルブ可変動弁機構27と排気バルブ可変動弁機構28とによる吸気バルブ19、20と排気バルブ21、22との開閉時期及びバルブリフト量を制御し、燃料噴射弁29の燃料噴射量を制御し、点火プラグ30の点火時期を制御し、EGRバルブ35による還流ガスの流量を制御する。
制御装置36は、情報入力手段37から入力する情報により運転状態を判定し、必要に応じて圧縮自発着火燃焼と火花点火燃焼とを切り換える燃焼制御を実行する。
【0015】
この圧縮着火式内燃機関1は、燃焼室7内において混合気の濃度分布及び温度分布を形成させて、圧縮による自発着火のタイミング及び燃焼速度を制御する。そこで、圧縮着火式内燃機関1は、燃焼を精度よく制御するために、ハイポート12から導入される高酸素濃度の新気と、ローポート13から導入される冷却された還流ガスを含む低酸素濃度の新気とを、燃焼室7に別々に導入する。
圧縮着火式内燃機関1は、シリンダヘッド3の底面14に対して接続角度の異なるハイポート12とローポート13とを燃焼室7に接続し、新気導入用のハイポート12をローポート13に比べて大きい断面積に形成している。ローポート13には、新気調整弁15を設置し、運転負荷に応じてローポート13から燃焼室7に導入される還流ガスを含む新気の酸素濃度を調整できるように、ローポート13に供給される新気量を制御する。
圧縮着火式内燃機関1は、
図3に示すように、通常のカムリフトカーブに対して、燃焼室7内に燃焼ガスを残留させる負のバルブオーバーラップ(NVO)と低バルブリフト量となるカムリフトカーブを使用する。負のバルブオーバーラップは、排気行程から吸気行程にかけて吸気バルブ19、20と排気バルブ21、22とが共に閉じている区間(EVC’−IVO’)である。圧縮着火式内燃機関1は、吸気バルブ可変動弁機構27と排気バルブ可変動弁機構28とを用いることで、運転負荷に応じて吸気バルブ19、20と排気バルブ21、22との開閉時期やバルブリフト量を可変な状態とし、負のバルブオーバーラップ(NVO)と低バルブリフト量とを実現する。
【0016】
圧縮着火式内燃機関1は、運転時に吸気バルブ19、20のバルブリフト量が低くなり、吸入空気が絞られて、燃焼室7内へ導入できる空気量が大きく低減する。また、燃焼室7内に残留する燃焼ガスにより新気の充填効率が悪化し、燃焼室7内全域にわたって均質な燃料が分布すると、混合気の酸素濃度が低下して着火性の低下に繋がる。従って、自発着火性及び燃焼安定性を向上するために、燃焼室7内の一部の領域のみに高酸素濃度混合気を形成させなければならない。
吸気バルブ19、20は、バルブリフト量が小さいほど燃焼室7内に強力な気体流動を発生させる。
図2に示すように、ハイポート12では、ローポート13に比べて大きい断面積とし、吸入空気の流量を向上させる。また、断面積がより大きいハイポート12を配置することにより、燃焼室7内の過剰な気体流動の発達を抑制し、新気で形成する高酸素濃度混合気の拡散を防ぎ、高酸素濃度の混合気を筒内の一部の領域に配置する。よって、ハイポート12では、新気を燃焼室7内に導いて、燃焼室7内に噴射された燃料と混合し、着火性が良い混合気層を確保できる。
ローポート13では、ハイポート12よりも断面積を小さくし、小径化された吸気バルブ20を採用し、ローポート13との組み合わせで燃焼室7内に強い気体流動(端プル)を発生させる。これは、冷却された還流ガスを大量に導入する際に、均一な希薄混合気を形成し、安定した希薄燃焼を実現できる。
圧縮着火式内燃機関1は、高酸素濃度の新気を導入するハイポート12と冷却された還流ガスを含む低酸素濃度の新気を導入するローポート13とを用いることにより、燃焼室7内に吸入される混合気を成層化させて、不均一な濃度と温度分布を持った混合気層の形成を可能にする。
図4に示すように、ハイポート12とローポート13とから燃焼室7内に吸入される2種類の気体がそれぞれの流速で燃焼室7内に噴射された燃料と混合し、燃焼室7内に酸素濃度分布の異なる混合気が形成される。
【0017】
圧縮上死点では、酸素濃度分布の異なる混合気が、比熱比の相違により混合気の温度上昇率が異なり、着火タイミングの早遅が現れてくる。着火性の高い新気混合気層は、上死点において圧縮され高温にさらされた際に、圧縮自発着火を始める。燃焼による燃焼室7内の温度上昇に伴い、火炎伝播により着火性が低い冷却された還流ガスを含む混合気層が着火に至る。これは、
図5に示すように、可燃混合気を中心部分に偏在させることにより、急峻な圧縮自発着火燃焼に成層燃焼を混合し、燃焼時間を延長させ、燃焼室7内の急激な圧力上昇を抑制するためである。これにより、ノッキングが発生しにくくなり、圧縮自発着火燃焼をより高負荷領域に拡大できる。
圧縮着火式内燃機関1の高負荷圧縮自発着火燃焼領域では、燃焼安定性を向上させるために、冷却された還流ガス導入用のローポート13に設けた新気調整弁15を運転負荷の目標回転数に応じて開放作動させて一部の新気を導入し、吸気効率の悪化を防ぐ。運転負荷の上昇につれ、ローポート13への新気調整弁15の開口面積を増大させ、運転負荷に応じた新気を導入し、吸気バルブ19、20の低リフトバルブ量に起因する新気充填量不足を補い、混合気の酸素濃度を高める。さらに、高負荷時には、ローポート13からの吸気流速がハイポート12よりも相対的に強いため、ハイポート12及びローポート13の両方のタンブルが衝突しても、燃焼室7内には気体流動が維持され、燃焼の改善に寄与する。
一方、圧縮着火式内燃機関1は、冷却された還流ガスを大量に導入することにより、混合気の酸素濃度が低減し、高熱効率の希薄燃焼ができるが、高負荷圧縮自発着火燃焼時に燃焼温度が低下し、失火や不完全燃焼が発生してしまう。よって、安定した燃焼を確保するために、圧縮着火式内燃機関1は、運転負荷の上昇に応じて、新気調整弁15の開度を調整して、冷却された還流ガスの導入量を減らしながら、ローポート13への新気導入量を増加させ、冷却された還流ガス中の酸素濃度を高める。
これにより、圧縮着火式内燃機関1は、安定した自発着火の確保及び燃焼室7内の圧力上昇率の制御を両立させて、急峻な圧縮自発着火燃焼を制御し、自発着火の燃焼範囲を拡大することができる。
【0018】
このように、圧縮着火式内燃機関1は、排気通路16内の排気ガスを還流ガスとして吸気通路10へと導く排気還流通路31の排気側接続部32を排気通路16に接続し、吸気側接続部33を吸気通路10のハイポート12又はローポート13のいずれか一方、この実施例ではローポート13に接続している。
圧縮着火式内燃機関1は、シリンダヘッド3の底面14に対して接続角度の異なるハイポート12とローポート13とを燃焼室7に接続したので、
図4に示すように、燃焼室7内においてハイポート12側とローポート13側との各タンブル流に偏差が生じる。このとき、排気還流通路31で燃焼室7に還流される排気ガスである還流ガスは、燃焼室7内に吸入される際に、ハイポート12側とローポート13側とのいずれか一側のタンブル流によって還流ガス層が形成され、いずれか他側のタンブル流の影響を受けることがない。
従って、圧縮着火式内燃機関1は、ハイポート12とローポート13とから燃焼室7内に吸入される吸気の混合を抑制し、燃焼室7内の混合気を成層化し、燃焼室内の混合気が均質化することを防止でき、多点同時着火の発生を抑制することができる。
【0019】
また、この圧縮着火式内燃機関1は、排気還流通路31の吸気側接続部33をタンブル流が大きいローポート13側へ接続したため、
図5に示すように、燃焼室7内の圧縮時において、排気還流通路31で還流された還流ガスはハイポート12からの混合気を取り囲むように還流ガス層を形成する。詳細に説明すれば、燃焼室7内の中央部分に混合気層が形成され、この混合気層の周囲を取り囲むように還流ガス層が形成される。
従って、膨張時においては、中央部分の混合気層から着火が発生し、その後、外周部分の還流ガス層に火炎伝播が行われるため、ノッキングが生じにくくなる。また、混合気は、その周囲を還流ガス層に覆われるため、混合気中の燃料が燃焼室7の隅部分に付着し、不燃焼やノッキングの原因となることを防止できる。
【0020】
さらに、この圧縮着火式内燃機関1は、ローポート13の吸気通路10との接続部分に、吸気通路10からローポート13に導入される新気量を調整する新気調整弁15を備えている。新気制御弁15は、制御装置36によって、圧縮着火式内燃機関1の目標回転数に応じてローポート13に導入される新気量を調整する。
これにより、圧縮着火式内燃機関1の運転状態が低負荷から高負荷にかけて変化する場合であっても、吸気量を増減させ燃焼状態を安定させることができる。
また、この圧縮着火式内燃機関1は、ローポート13を、ハイポート12と比較して吸気量が小さくなるように形成しているので、ローポート13の流速はハイポート12の流速と比較して早くなる。従って、還流ガス層は、混合気を素早く取り囲むことができ、確実な成層化を実現することができる。