(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249283
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】衝撃吸収材の製造方法および衝撃吸収材
(51)【国際特許分類】
B60R 21/04 20060101AFI20171211BHJP
B29C 51/30 20060101ALI20171211BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
B60R21/04 B
B29C51/30
F16F7/00 J
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-1648(P2014-1648)
(22)【出願日】2014年1月8日
(65)【公開番号】特開2015-128950(P2015-128950A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】大石 浩二
(72)【発明者】
【氏名】後藤 陽一
(72)【発明者】
【氏名】麻生 雅宏
【審査官】
森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2002/0185795(US,A1)
【文献】
仏国特許出願公開第2785956(FR,A1)
【文献】
特開平07−315076(JP,A)
【文献】
特表2001−500594(JP,A)
【文献】
特開昭60−115427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/04
B29C 51/30
F16F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体部材とその表面側の内外装材との間に配設される衝撃吸収材であって、前記車体部材側もしくは前記内外装材側に配置されるベース部と、前記ベース部から前記内外装材側もしくは前記車体部材側に向けて突出した複数の中空錐台状の突起部とを備えた衝撃吸収材の製造方法において、
前記ベース部を成形する平坦部に前記突起部を成形する凹型部が凹設された成形型を、前記突起部の先端に行くに従って前記突起部の側面の段差が小さくなるように積層ピッチを変化させて積層造形することにより、前記凹型部の内側面が階段状に形成されるステップと、
前記成形型上に加熱軟化させた樹脂シートを導入して真空成形または圧空成形することにより、前記突起部の側面が略階段状に形成され、かつ、前記突起部の先端に行くに従って樹脂の厚さが薄くなるように形成されるステップと、
を含むことを特徴とする衝撃吸収材の製造方法。
【請求項2】
前記突起部の段差高が樹脂厚さ以上であることを特徴とする請求項1記載の衝撃吸収材の製造方法。
【請求項3】
前記突起部の基部における樹脂厚さ/段差高が、先端部における樹脂厚さ/段差高の100〜120%であることを特徴とする請求項2記載の衝撃吸収材の製造方法。
【請求項4】
自動車の車体部材とその表面側の内外装材との間に配設される衝撃吸収材であって、前記車体部材側もしくは前記内外装材側に配置されるベース部と、前記ベース部から前記内外装材側もしくは前記車体部材側に向けて突出した複数の中空錐台状の突起部とを備えるものにおいて、
前記ベース部を成形する平坦部に前記突起部を成形する凹型部が凹設され、かつ、積層造形されることで前記凹型部の内側面が階段状に形成された成形型を用い、前記成形型上に加熱軟化させた樹脂シートを導入して真空成形または圧空成形することにより、前記突起部の側面が略階段状に形成され、かつ、前記突起部の先端に行くに従って樹脂の厚さが薄くなるとともに前記突起部の側面の段差が小さくなるように形成されていることを特徴とする衝撃吸収材。
【請求項5】
前記突起部の段差高が樹脂厚さ以上であることを特徴とする請求項4記載の衝撃吸収材。
【請求項6】
前記突起部の基部における樹脂厚さ/段差高が、先端部における樹脂厚さ/段差高の100〜120%であることを特徴とする請求項5記載の衝撃吸収材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の乗員保護や歩行者保護に用いられる衝撃吸収材の製造方法および衝撃吸収材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内外装間には乗員保護あるいは歩行者保護の観点から様々な衝撃吸収材が介装されている。例えば、自動車の樹脂製バンパー(バンパーフェイシア)と車体フレーム(バンパービームなど)の間に歩行者の脚部保護用の衝撃吸収材が挿入され、樹脂製内装材(インストルメントパネル、ドアトリム、ルーフライニングなど)と車体パネルとの間には乗員保護用の衝撃吸収材が挿入される。
【0003】
このような衝撃吸収材としては、素材の弾性変形を利用する樹脂発泡材や、素材の塑性変形を利用する樹脂成形品、あるいは、紙、軽金属、樹脂フィルムなどの複合材が用いられてきたが、衝突時のエネルギー吸収性能という点では塑性変形を利用するものが有利であり、また、取り付け部位に応じた賦形性や製造コストの点では樹脂成形品が有利である。
【0004】
樹脂成形品の製造には形状自由度が高い射出成形が多用されているが、シェル構造の大型部品では金型および加熱設備を簡素化できる真空成形(圧空成形)が有利である(例えば特許文献1参照)。しかし、樹脂シートを加熱して軟化させて賦形する真空成形(圧空成形)は、衝撃吸収のための塑性変形を誘導する上で重要な厚さの管理が困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4448938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、真空成形または圧空成形にて衝撃吸収に適した樹脂厚さ分布を得ることが可能な衝撃吸収材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来技術の有する課題を解決するため、本発明は、
自動車の車体部材(41)とその表面側の内外装材(42)との間に配設される衝撃吸収材であって、前記車体部材側もしくは前記内外装材側に配置されるベース部(2)と、前記ベース部から前記内外装材側もしくは前記車体部材側に向けて突出した複数の中空錐台状の突起部(3)とを備えた衝撃吸収材(1)の製造方法において、
前記ベース部を成形する平坦部(12)に前記突起部を成形する凹型部(13)が凹設された成形型(11)を、前記突起部の先端に行くに従って前記突起部の側面の段差(h1〜h3)が小さくなるように積層ピッチを変化させて積層造形することにより、前記凹型部の内側面が階段状に形成されるステップと、
前記成形型上に加熱軟化させた樹脂シートを導入して真空成形または圧空成形することにより、前記突起部(3)の側面(31〜33)が略階段状に形成され、かつ、前記突起部の先端に行くに従って樹脂の厚さ(d1〜d3)が薄くなるように形成されるステップと、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上記製造方法を採用したことにより、厚さが一様な樹脂シートを用いながら、一般的な成形とは逆の凹型、しかも、積層造形により内側面が階段状に形成された成形型を用いることで、突起部の側面が階段状をなしかつ突起部の先端に行くに従って樹脂の厚さが薄くなる衝撃吸収材を形成でき、製造工程の複雑化を回避しつつ、衝撃吸収に適した樹脂厚さ分布を得ることが可能である。また、突起部の先端に行くに従って前記突起部の側面の段差が小さくなるように積層ピッチを変化させるので、先端部に衝撃荷重が作用した場合の初期変形が誘導される衝撃吸収材を得つつも、成形型の製造工程が複雑化することがない。
【0009】
また、上記製造方法によってなる衝撃吸収材は、前記ベース部(2)を成形する平坦部(12)に前記突起部(3)を成形する凹型部(13)が凹設され、かつ、積層造形されることで前記凹型部の内側面が階段状に形成された成形型(11)を用い、前記成形型上に加熱軟化させた樹脂シートを導入して真空成形または圧空成形することにより、前記突起部(3)の側面(31〜33)が略階段状に形成され、かつ、前記突起部の先端に行くに従って樹脂の厚さ(d1〜d3)が薄くなるとともに前記突起部の側面の段差(h1〜h3)が小さくなるように形成されているので、肉厚が薄く段差が小さい先端部によって、衝撃荷重が作用した場合の初期変形が誘導され、変形が進むにつれて吸収量が大きくなるエネルギー吸収パターンが得られる利点がある。
【0010】
さらに、上記のようなエネルギー吸収パターンを得る上で、前記突起部の段差高が樹脂厚さ以上であること、および、前記突起部の基部における樹脂厚さ/段差高が、先端部における樹脂厚さ/段差高の100〜120%であることが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明実施形態に係る衝撃吸収材を示す斜視図である。
【
図3】本発明実施形態に係る衝撃吸収材の成形工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1および
図2に示されるように、本発明実施形態に係る衝撃吸収材1は、後述のように厚さが一様な樹脂シート(2)を圧空成形(または真空成形)してなるシェル構造をなし、平坦なベース部2と多数の突起部3から構成され、突起部3の内部は下方に貫通する中空部20となっている。
【0013】
各突起部3は基本的に同形状であり、それぞれ頂面4を有する中空の錐台状をなしており、図示例では、横断面が角丸星形多角形状(六芒星状)をなし、6つの稜部5を有している。稜部5の数は6に限定されるものではなく、7以上または5以下でもよい。また、横断面が角丸星形多角形状である代わりに、角丸多角形状あるいは円形状であってもよく、すなわち、多角錐台状あるいは円錐台状(截頭円錐形状)であっても良い。
【0014】
各突起部3の平坦な頂面4には小突部6が突設されている。図示例では頂面4の略中央1つのみ突設されているが、複数であってもよい。この小突部6は、後述する成形型の排気孔16に対応して設けられ、小突部6を貫通する小孔が穿設されていても良い。
【0015】
各突起部3の側面は階段状をなしており、その段差hは、基部31の段差h1が最も大きく、中間部32の段差h2がこれに次ぎ、先端部33の段差h3が最も小さい。また、突起部3の基部31における樹脂厚さd1/段差高h1は、先端部33における樹脂厚さd3/段差高h3と略等しいか僅かに大きい(100〜120%)ことが好ましい。また、各突起部3の段差高h1〜h3は樹脂厚さd1〜d3以上で3倍以下が好適であり、さらに好ましくは樹脂厚さd1〜d3の2倍程度である。なお、図示例では3〜4段ずつ一組にして同じ段差高の領域になっているが、1〜2段ずつ、あるいは、
全段同じ段差でも良い。各突起部3は正方格子状に配列されているが、六方格子状や斜格子状、あるいは、ランダムに配置されても良い。
【0016】
衝撃吸収材1の製造に使用される樹脂シートは、特に限定されるものではなく、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)など、各種の熱可塑性樹脂を利用可能であるが、衝撃吸収(塑性変形)に必要な強度と加工性(熱可塑性)からポリプロピレンが好適である。
【0017】
衝撃吸収材1の製造に際しては、
図3に断面図で示すような成形型11を用い、一般的な真空成形とは上下逆向きに圧空成形する。成形型11は、ベース部2を成形する平坦部12に突起部3を成形する凹型部13が凹設された凹型であり、積層造形されることで、凹型部13の内側面は階段状に形成されている。積層造形法としては、例えば、粉末焼結積層法やシート積層法を好適に利用可能である。
【0018】
粉末焼結積層法では、母線が直線状をなす錐台形状の突起部を有する衝撃吸収材の3次元CADデータを、段差h1〜h3毎に横断面でスライスしたスライスデータを取得し、3Dプリンタにより、鋼、青銅、ニッケル、チタンなどの素材金属粉末を層状に敷き詰め、高出力のレーザーなどで直接焼結する。
【0019】
シート積層法では、スライスデータの形状にレーザーなどで切り出した金属薄板を積層する。この際、粉末焼結積層法では、積層ピッチを上部21ではh1、中間部22ではh2、下部23ではh3に変化させ、シート積層法では、それぞれに対応する厚さの金属板(鋼板)を積層することで、段差h1〜h3の異なる階段状の凹型部13を形成できる。
【0020】
凹型部13の底面14に排気孔16が穿設されている。排気孔16が開口する底面14の略中央には、小突起6に対応した小凹部が設けてあり、換言すれば、排気孔16の上端部は拡径されている。
【0021】
樹脂シート(2)は成形前に加熱され軟化した状態で成形型11上に移載され、次いで、成形型11の上側が圧空ボックス(図示せず)によって閉じられ、圧空ボックス内に圧縮空気が吹き込まれ加圧(+P)されることで、軟化した樹脂シートが成形型11に押し付けられ凹型部13内に樹脂シートが膨出して側面が階段状の突起部3が成形される。
【0022】
この際、樹脂シートは成形型11に押し付けられた時点で冷却が始まるので、突起部3の先端に行くほど樹脂シートは延伸され、その分だけ樹脂の厚さが薄くなる(d1>d2>d3)。最終的に樹脂シートの最も薄肉の先端が底面14に押し付けられ、排気孔16を通じて圧縮空気が排気されることで小凹部に樹脂が押し付けられ小突部6が形成される。この小突起6に対応する部分の樹脂シートに予め小孔を穿設しておき、小孔を空気抜きに利用することにより、小孔が確実に小凹部(排気孔16)に導かれ、小突起6の成形性が向上するとともに、突起部3の厚さ分布が良好になる利点がある。冷却後に離型され成形が完了する。
【0023】
以上のように形成された衝撃吸収材1は、
図2に示されるように、車体側の取付面41と内装材(または外装材)42との間に介装され、ベース部2が車体側の取付面41に固定される。この状態で、突起部3の頂面4の小突起6が内装材42の裏面に当接するように、突起部3の高さが事前に調整されている。上述の通り、衝撃吸収材1は、ベース部2からの高さ
が、段差h1,h2,h3
の領域の順に、高くなるほど樹脂の厚さd1,d2,d3が小さく、突起部3の先端側ほど変形し易い特徴を有している。
【0024】
このような衝撃吸収材1を介装した自動車の内装材42に不慮の事態により乗員が衝突した場合、衝撃力Fが内装材42に加わると、衝撃吸収材1は、段差が小さく(
h3)かつ薄肉(d3)の先端部33から初期変形が誘導され、中間部32から基端部31に変形が進むにつれて吸収量が大きくなる理想的なエネルギー吸収パターンとなる。また、段差形状で変形が誘導されることで、突起部が倒れるのが防止され、確実に衝撃吸収できる利点もある。
【0025】
なお、上記実施形態では、衝撃吸収材1を圧空成形する場合について述べたが、排気孔16の下側の空洞(図示せず)を真空ポンプで減圧し、排気孔16を通じて吸引することで、衝撃吸収材1を真空成形することもできる。
【0026】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。
【符号の説明】
【0027】
1 衝撃吸収材
2 ベース部
3 突起部
4 頂面
5 稜部
6 小突部
11 成形型
12 平坦部
13 凹型部
16 排気孔
31 基部
32 中間部
33 先端部
d1,d2,d3 厚さ
h1,h2,h3 段差