(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249328
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】移動体検知装置
(51)【国際特許分類】
G01S 15/52 20060101AFI20171211BHJP
G01S 7/534 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
G01S15/52
G01S7/534
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-127865(P2013-127865)
(22)【出願日】2013年6月18日
(65)【公開番号】特開2015-1510(P2015-1510A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087767
【弁理士】
【氏名又は名称】西川 惠清
(72)【発明者】
【氏名】麦生田 徹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和士
【審査官】
中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−079855(JP,A)
【文献】
特開2005−142867(JP,A)
【文献】
特開昭63−275917(JP,A)
【文献】
特開2007−183182(JP,A)
【文献】
特開2008−145255(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/075631(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0001755(US,A1)
【文献】
国際公開第2008/062568(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
G01S 7/52− 7/64
G01S13/00−15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数の発振信号を出力する発振手段と、前記発振手段から出力する発振信号により振幅が周期的に変化する連続エネルギ波を監視空間に送波する送波手段と、前記連続エネルギ波が前記監視空間に存在する物体に反射して生じる反射波を受波して受波信号を出力する受波手段と、前記発振信号と前記受波信号とを混合することで両信号の周波数差に応じたドップラー信号を得る位相検波手段と、前記ドップラー信号を信号処理して前記監視空間における移動体を検知して検知信号を出力する検知手段と、前記各手段を制御する制御手段とを備え、
前記位相検波手段は、前記発振信号と前記受波信号とを混合する混合器と、前記混合器の出力信号から前記発振信号の周波数よりも低い周波数成分のみを通過させる低域通過フィルタと、複数の遮断周波数を切り換えて前記低域通過フィルタの出力信号を濾波する高域通過フィルタと、前記高域通過フィルタの出力信号を増幅する増幅器とを有し、前記増幅器の出力信号を前記ドップラー信号とするように構成され、
前記制御手段は、前記送波手段が前記連続エネルギ波の送波を開始してから所定の待機期間が経過するまでは前記高域通過フィルタの前記遮断周波数が相対的に高くなり、前記待機期間が経過した後は前記高域通過フィルタの前記遮断周波数が相対的に低くなるように前記高域通過フィルタを制御し、
前記高域通過フィルタは、
コンデンサ及び前記コンデンサの一端に並列接続された複数の抵抗器を有し、前記複数の抵抗器のうちの一方の抵抗器にスイッチ要素が直列に接続されて構成され、前記複数の抵抗器の合成抵抗値が可変である微分回路と、
前記合成抵抗値が変化することに伴って出力信号の信号レベルが変動することを抑制する抑制回路とを備え、
前記抑制回路は、所定の定電圧が印加されるとともに、前記コンデンサに一端が接続された前記抵抗器の他端に接続点が接続された複数の抵抗器の直列回路から構成され、
前記制御手段は、前記スイッチ要素を制御して前記合成抵抗値を変化させることで前記遮断周波数を変化させる
ことを特徴とする移動体検知装置。
【請求項2】
前記位相検波手段は、前記混合器及び前記低域通過フィルタ、前記高域通過フィルタ、前記増幅器をそれぞれ複数有し、全ての前記高域通過フィルタは、複数の前記遮断周波数に切換可能に構成されることを特徴とする請求項1記載の移動体検知装置。
【請求項3】
前記制御手段は、少なくとも前記送波手段及び前記位相検波手段を休止させる休止モードと前記送波手段及び前記位相検波手段を動作させる検知モードを周期的に切り換えることを特徴とする請求項1又は2記載の移動体検知装置。
【請求項4】
前記発振手段は発振周波数が可変であり、前記検知手段は、前記発振手段から基本周波数の発振信号を前記送波手段に出力させて前記移動体を検知したときに前記基本周波数と異なる1乃至複数種類の周波数の前記発振信号を前記発振手段から前記送波手段に出力させ、前記1乃至複数種類の周波数のすべての前記発振信号について移動体を検知した場合に検知信号を出力することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の移動体検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波や電波などの連続エネルギ波を監視空間に放射し、監視空間内の物体の移動により生じる反射波の周波数偏移を検出することにより、監視空間内の移動体の存在を検知する移動体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来例として特許文献1記載の移動体検知装置を例示する。特許文献1記載の従来例は、発振回路、送波器、受波器、位相検波部、移動体判定部、移相回路などを備える。発振回路は、数十キロヘルツの発振信号を2つの出力端より各別に出力することができる。送波器は、発振回路の片方の出力端から出力される発振信号を受けて発振周波数(数十キロヘルツ)に等しい周波数の超音波を監視空間に送波する。受波器は、監視空間から到来する超音波を受波して電気信号(受波信号)に変換し、変換した受波信号を位相検波部に出力する。移相回路は、発振信号の位相をπ/2だけシフトさせるものである。なお、移相回路で位相シフトされた発振信号を第2発振信号と呼ぶことにする。
【0003】
位相検波部は、ミキサ、フィルタ、増幅回路からなる第1位相検波ブロックと、ミキサ、フィルタ、増幅回路からなる第2位相検波ブロックとを有する。第1位相検波ブロックのミキサは、発振信号と受波信号を混合(乗算)することにより、2つの信号の周波数の差と和の成分(信号)を出力する。同様に第2位相検波ブロックのミキサは、第2発振信号と受波信号を混合(乗算)することにより、2つの信号の周波数の差と和の成分(信号)を出力する。ただし、ミキサに入力する信号(受波信号と混合される信号)は必ずしも発振信号そのものである必要は無く、発振信号と周波数が同一である周期的な信号であればよい。
【0004】
各位相検波ブロックのフィルタはローパスフィルタからなり、それぞれミキサから出力される2種類の信号のうちで発振信号と受波信号及び第2発振信号と受波信号の周波数差成分の信号(ドップラー信号と直流成分の信号)のみを通過させる。ただし、受波信号には移動体に反射して周波数シフトした信号と、静止物に反射して周波数シフトしていない信号とが混在している。故に、周波数差成分の信号には、ドップラー信号だけでなく、直流成分の信号も含まれている。各位相検波ブロックの増幅回路は、各々フィルタを通過したドップラー信号を増幅する。また、各フィルタと増幅回路との間にハイパスフィルタ(直流カット用のコンデンサ)が挿入されている。故に、周波数差成分の信号から直流成分の信号が除去されてドップラー信号のみがハイパスフィルタから出力される。
【0005】
移動体判定部は、各増幅回路で増幅されたドップラー信号が移動成分によるものと判定したときに監視空間に移動体が存在すると判断(検知)して検知信号を出力する。なお、移動体判定部から出力される検知信号は、例えば、自動車のECU(電子制御装置)に送られ、ECUが警報音(クラクション音)を鳴動させるなどして車内への不審者の侵入を報知する。
【0006】
また、特許文献2記載の従来例は、発振回路から2種類の周波数の送波信号を送波して移動体を検知し、全ての周波数の送波信号について移動体を検知したときにのみ、監視空間に移動体が存在していると判定するように構成されている。特許文献2記載の従来例によれば、例えば、監視空間の外(車外)から大きなエネルギ波(音圧レベルが非常に高い音波など)が到来したときでも移動体の誤検知が防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−79855号公報
【特許文献2】特開2008−145255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述のような移動体検知装置が駐車中の自動車内を監視する用途に使用される場合、自動車に搭載されているバッテリから給電されることになる。しかしながら、自動車のエンジンが停止していると車載のバッテリが充電されないので、駐車中のバッテリ上がりを防ぐために移動体検知装置の消費電力を低減することが求められている。例えば、移動体検知装置を間欠的に動作させることにより、連続動作させる場合と比較して単位時間当たりの消費電力の低減を図ることができる。
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の従来例を間欠動作させる場合、回路が安定動作するまでの時間(特にハイパスフィルタの動作が安定するまでの時間)が経過するまで移動体判定部が正しい判定を行うことができない。一方、安定動作までの時間が経過するまで移動体判定部を含む各回路を動作させた場合、消費電力の低減量が小さくなってしまうという問題が生じる。
【0010】
また、動きの遅い移動体を検知しようとした場合、ハイパスフィルタのカットオフ周波数を低くすることが望ましいが、そうすると、安定動作までの時間が長くなってしまうというデメリットがある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、動きの遅い移動体の検知精度の低下を抑えつつ安定動作までの時間短縮を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の移動体検知装置は、所定周波数の発振信号を出力する発振手段と、前記発振手段から出力する発振信号により振幅が周期的に変化する連続エネルギ波を監視空間に送波する送波手段と、前記連続エネルギ波が前記監視空間に存在する物体に反射して生じる反射波を受波して受波信号を出力する受波手段と、前記発振信号と前記受波信号とを混合することで両信号の周波数差に応じたドップラー信号を得る位相検波手段と、前記ドップラー信号を信号処理して前記監視空間における移動体を検知して検知信号を出力する検知手段と、前記各手段を制御する制御手段とを備え、前記位相検波手段は、前記発振信号と前記受波信号とを混合する混合器と、前記混合器の出力信号から前記発振信号の周波数よりも低い周波数成分のみを通過させる低域通過フィルタと、複数の遮断周波数を切り換えて前記低域通過フィルタの出力信号を濾波する高域通過フィルタと、前記高域通過フィルタの出力信号を増幅する増幅器とを有し、前記増幅器の出力信号を前記ドップラー信号とするように構成され、前記制御手段は、前記送波手段が前記連続エネルギ波の送波を開始してから所定の待機期間が経過するまでは前記高域通過フィルタの前記遮断周波数が相対的に高くなり、前記待機期間が経過した後は前記高域通過フィルタの前記遮断周波数が相対的に低くなるように前記高域通過フィルタを制御
し、前記高域通過フィルタは、コンデンサ及び前記コンデンサの一端に並列接続された複数の抵抗器を有し、前記複数の抵抗器のうちの一方の抵抗器にスイッチ要素が直列に接続されて構成され、前記複数の抵抗器の合成抵抗値が可変である微分回路と、前記合成抵抗値が変化することに伴って出力信号の信号レベルが変動することを抑制する抑制回路とを備え、前記抑制回路は、所定の定電圧が印加されるとともに、前記コンデンサに一端が接続された前記抵抗器の他端に接続点が接続された複数の抵抗器の直列回路から構成され、前記制御手段は、前記スイッチ要素を制御して前記合成抵抗値を変化させることで前記遮断周波数を変化させることを特徴とする。
【0016】
この移動体検知装置において、前記位相検波手段は、前記混合器及び前記低域通過フィルタ、前記高域通過フィルタ、前記増幅器をそれぞれ複数有し、全ての前記高域通過フィルタは、複数の前記遮断周波数に切換可能に構成されることが好ましい。
【0017】
この移動体検知装置において、前記制御手段は、少なくとも前記送波手段及び前記位相検波手段を休止させる休止モードと前記送波手段及び前記位相検波手段を動作させる検知モードを周期的に切り換えることが好ましい。
【0018】
この移動体検知装置において、前記発振手段は発振周波数が可変であり、前記検知手段は、前記発振手段から基本周波数の発振信号を前記送波手段に出力させて前記移動体を検知したときに前記基本周波数と異なる1乃至複数種類の周波数の前記発振信号を前記発振手段から前記送波手段に出力させ、前記1乃至複数種類の周波数のすべての前記発振信号について移動体を検知した場合に検知信号を出力することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の移動体検知装置は、制御手段が、前記送波手段が前記連続エネルギ波の送波を開始してから所定の待機期間が経過するまでは前記高域通過フィルタの前記遮断周波数が相対的に高くなり、前記待機期間が経過した後は前記高域通過フィルタの前記遮断周波数が相対的に低くなるように前記高域通過フィルタを制御するので、動きの遅い移動体の検知精度の低下を抑えつつ安定動作までの時間短縮を図ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る移動体検知装置の実施形態を示すブロック図である。
【
図2】同上における高域通過フィルタの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明に係る移動体検知装置の実施形態を詳細に説明する。なお、本実施形態では、従来例と同様に連続エネルギ波として超音波を用いているが、超音波の代わりに電波を用いる場合においても本発明の技術思想が適用可能である。
【0022】
本実施形態の移動体検知装置は、
図1に示すように発振回路1、送波器2、受波器3、移相回路4、位相検波部5、移動体判定部6、制御部7、モード切換部8などを備える。発振回路1は、数十キロヘルツの発振信号(正弦波信号)を出力する。送波器2は、発振回路1から出力される発振信号を受けて発振周波数(数十キロヘルツ)に等しい周波数の超音波を監視空間に送波する。受波器3は、監視空間から到来する超音波を受波して電気信号(受波信号)に変換し、変換した受波信号を位相検波部5に出力する。移相回路4は、発振信号の位相をπ/2だけシフト(移相)させるものである。なお、移相回路4で位相シフトされた発振信号を第2発振信号と呼ぶことにする。
【0023】
位相検波部5は、混合器(ミキサ)50A、低域通過フィルタ51A、高域通過フィルタ52A、増幅器53Aからなる第1位相検波ブロックと、混合器50B、低域通過フィルタ51B、高域通過フィルタ52B、増幅器53Bからなる第2位相検波ブロックとを有する。
【0024】
第1位相検波ブロックの混合器50Aは、発振信号と受波信号を混合(乗算又は加算)することにより、2つの信号の周波数の差と和の成分(信号)を出力する。同様に第2位相検波ブロックの混合器50Bは、第2発振信号と受波信号を混合(乗算又は加算)することにより、2つの信号の周波数の差と和の成分(信号)を出力する。ただし、混合器50A,50Bに入力する信号(受波信号と混合される信号)は必ずしも発振信号そのものである必要は無く、発振信号と周波数が同一である周期的な信号であればよい。
【0025】
低域通過フィルタ(LPF:Low Pass Filter)51A,51Bは、混合器50A,50Bから出力される2種類の信号のうちで発振信号と受波信号及び第2発振信号と受波信号の周波数差成分の信号(ドップラー信号と直流成分の信号)のみを通過させる。ただし、受波信号には移動体に反射して周波数シフトした信号と、静止物に反射して周波数シフトしていない信号とが混在している。故に、周波数差成分の信号には、ドップラー信号だけでなく、直流成分の信号も含まれている。
【0026】
また、高域通過フィルタ(HPF:High Pass Filter)52A,52Bは、LPF51A,51Bの出力信号から所定の遮断周波数(カットオフ周波数)以上の周波数成分のみを通過させる。故に、周波数差成分の信号から直流成分の信号が除去されてドップラー信号のみがHPF52A,52Bから出力される。なお、HPF52A,52Bの遮断周波数は、検知対象である移動体の移動速度に対応した周波数、例えば、移動体が人である場合は数十ヘルツに設定されることが好ましい。
【0027】
移動体判定部6は、増幅器53A,53Bで増幅された信号(ドップラー信号)が移動成分によるものと判定したときに監視空間に移動体が存在すると判断(検知)して検知信号を出力する。ただし、移動体判定部6が行う判定処理については、特許文献1にも開示されているように従来周知であるので、詳細な説明を省略する。なお、移動体判定部6から出力される検知信号は、例えば、自動車のECU(電子制御装置)に送られ、ECUが警報音(クラクション音)を鳴動させるなどして車内への不審者の侵入を報知する。
【0028】
モード切換部8は、発振回路1の出力端と、送波器2の入力端、移相回路4の入力端、混合器50Aの入力端との間にそれぞれ挿入されたスイッチ80,81,82を有する。すなわち、モード切換部8がオフ(全てのスイッチ80,81,82がオフ)しているときは送波器2、移相回路4、混合器50A,50Bが何れも休止状態となる。一方、モード切換部8がオン(全てのスイッチ80,81,82がオン)しているときに送波器2、移相回路4、混合器50A,50Bが動作状態となる。そして、送波器2、移相回路4、混合器50A,50Bが休止状態であれば、送波器2、移相回路4、混合器50A,50Bが動作状態であるときよりも移動体検知装置の消費電力が大幅に減少する。
【0029】
制御部7は、モード切換部8を制御し、モード切換部8をオフさせる休止モードと、モード切換部8をオンさせる検知モードとを周期的に切り換えるように動作する(
図2参照)。また、制御部7は移動体判定部6を動作状態と休止状態に択一的に切り換える機能を有している。そして、移動体判定部6は、動作状態のときに比べて休止状態のときに消費電力が大幅に減少する。
【0030】
ところで、上述のように休止モードと検知モードを周期的に切り換える場合、検知モードの開始直後(時刻t=t0)においては、HPF52A,52Bの出力信号に、直流成分による揺らぎが発生する(
図5における矩形波状の部分参照)。そして、この直流成分による揺らぎが収まった後(時刻t=t1以降)、監視空間に移動体が存在しなければ、HPF52A,52Bの出力信号の信号レベルが一定値に落ち着く(
図5参照)。したがって、後述するように、直流成分による揺らぎが収まる前に、制御部7がドップラー信号の有無を判定すると誤判定の可能性が高くなってしまう。故に、制御部7は、誤判定を抑制するため、直流成分による揺らぎが収まった(収束した)後にドップラー信号の有無を判定することが好ましい。
【0031】
ここで、消費電力を低減するためには、移動体が存在しないときに検知モードの期間をできるだけ短くすることが望ましい。そして、検知モードの期間を短縮するには、回路動作が安定するまでの期間(
図5における時刻t=t0からt=t1までの時間)をできるだけ短くすることが好ましい。この期間を短縮する方法として、HPF52A,52Bの遮断周波数を高くすることが考えられる。例えば、HPF52A,52Bがコンデンサ(容量C)と抵抗器(抵抗値R)からなる微分回路で構成されている場合、遮断周波数fcは、fc=1/(2πRC)と表されるので、抵抗器の抵抗値Rを小さくすれば遮断周波数fcが高くなる。
【0032】
しかしながら、HPF52A,52Bの遮断周波数fcを高くするにつれて、検知可能な移動速度の下限値が高くなるため、動きの遅い(ゆっくりと移動する)移動体の検知精度が低下してしまう。したがって、動きの遅い移動体の検知精度を確保するためには、HPF52A,52Bの遮断周波数fcを低くすることが好ましい。
【0033】
そこで、HPF52A,52Bの遮断周波数fcを可変とし、検知モードの開始時点ではHPF52A,52Bの遮断周波数fcを相対的に高くすることで早期に回路動作を安定させ、その後、HPF52A,52Bの遮断周波数fcを相対的に低くすればよい。
【0034】
例えば、HPF52A,52Bを、
図2に示すようにコンデンサ520と、複数の抵抗器522〜525と、制御部7によってオン・オフされるスイッチ521とで構成すれば良い。抵抗器522がスイッチ521と直列接続され、さらに抵抗器523が抵抗器522及びスイッチ521と並列に接続されている。2つの抵抗器522,523の接続点がコンデンサ520の出力側の一端に接続され、スイッチ521と抵抗器523の接続点が抵抗器524,525の直列回路の中点に接続されている。2つの抵抗器524,525は、制御電源Vccとグランドの間に挿入されている。
【0035】
HPF52A,52Bの入力電圧をVin、出力電圧をVoutとすると、ドップラー信号が無い場合、動作が安定した後の基準電圧(
図5における時刻t=t1以降の電圧)Vaは、Va=Vcc×R4/(R3+R4)となる。ただし、R3は抵抗器524の抵抗値、R4は抵抗器525の抵抗値である。
【0036】
また、スイッチ521が閉じている状態(オン状態)におけるHPF52A,52Bの時定数τ1は、τ1=C×(Ra+Rb)、Ra=R1R2/(R1+R2)、Rb=R3R4/(R3+R4)となる。ただし、R1は抵抗器523の抵抗値、R2は抵抗器522の抵抗値である。
【0037】
ここで、抵抗器523の抵抗値R1に比べて、抵抗器522の抵抗値R2が十分に小さければ、合成抵抗Raは実質的に抵抗器522の抵抗値R2に等しいとみなせる。故に、時定数τ1は、τ1=C×(R2+Rb)とみなすことができる。
【0038】
一方、スイッチ521が開いている状態(オフ状態)におけるHPF52A,52Bの時定数τ2は、τ2=C×(R1+Rb)となる。例えば、抵抗値R1を1MΩ、抵抗値R2を1kΩ、抵抗値R3,R4を100kΩとすれば、合成抵抗の抵抗値Rbが50kΩとなり、時定数τ2が時定数τ1のおよそ20倍となる。
【0039】
次に、
図3及び
図4のタイムチャートを参照しながら制御部7の制御動作を中心に、本実施形態の移動体検知装置の動作を説明する。
【0040】
制御部7は、
図3に示すようにモード切換部8をオンして検知モードを開始した時点から所定の待機時間TAが経過するまでは、HPF52A,52Bのスイッチ521をオンして時定数τをτ1とする。そして、待機時間TAが経過したら、制御部7は、HPF52A,52Bのスイッチ521をオフして時定数τをτ2とし、位相検波部5からドップラー信号が出力されるか否か(ドップラー信号の有無)を判定する。
【0041】
ここで、待機時間TAにおけるHPF52A,52Bの時定数τがτ2であった場合、
図6に破線Yで示すように出力電圧Voutが基準電圧に落ち着くまでに相当長い時間が必要となる。しかしながら、上述のように待機時間TAにおけるHPF52A,52Bの時定数τをτ1に切り換えれば、
図6に実線Xで示すように出力電圧Voutが基準電圧に落ち着くまでの時間を大幅に短縮することができる。しかも、時定数τをτ1とτ2に切り換えても、HPF52A,52Bの動作が安定したときの出力電圧Voutが何れも基準電圧Vaに落ち着くので、抵抗値が変化することに伴って出力信号Voutの信号レベルが変動することを抑制することができる。
【0042】
そして、この直流成分による揺らぎが収まった後(時刻t=t1以降)、監視空間に移動体が存在しなければ、HPF52A,52Bの出力信号の信号レベルが一定値に落ち着く(
図4参照)。一方、監視空間に移動体が存在すれば、HPF52A,52Bの出力信号の信号レベルが移動体の速度に応じて変動し、増幅器53A,53Bからドップラー信号が出力される。
【0043】
したがって、制御部7は、2つの増幅器53A,53Bの出力信号のうち、少なくとも何れか一方の出力信号の信号レベルが下限値(前記一定値よりも大きい値)以上であればドップラー信号有りと判定する。また、制御部7は、2つの増幅器53A,53Bの出力信号の信号レベルが双方とも下限値未満であればドップラー信号無しと判定する。
【0044】
そして、制御部7はドップラー信号無しと判定したら、モード切換部8をオフして検知モードから休止モードに切り換え、所定の休止期間が経過した時点で再度モード切換部8をオンして休止モードから検知モードに切り換える(
図3参照)。なお、制御部7は、検知モードにおいてドップラー信号有りと判定しない限りは、移動体判定部6の休止状態を継続する。
【0045】
一方、制御部7は、ドップラー信号有りと判定したら検知モードを継続し、且つ移動体判定部6を休止状態から動作状態に切り換える(
図4参照)。そして、移動体判定部6は、位相検波部5から出力される2つのドップラー信号を信号処理して移動体の存在を判定(検知)する。ただし、制御部7は検知モードを継続している間もドップラー信号の有無判定を引き続き行っている。そして、ドップラー信号が無いと判定する期間が所定期間TB(≧t1−t0)に達すれば、制御部7は、モード切換部8をオフして休止モードに切り換えるとともに移動体判定部6を休止状態に切り換える。
【0046】
上述のように本実施形態によれば、一部の回路(移相回路4と位相検波部5)を間欠動作させることによって消費電力の低減を図ることができる。さらに、休止モードから検知モードに切り換わった時点では移動体判定部6による移動体の判定を行わず、回路動作が安定するまで待機した後、移動体が存在する可能性がある場合(ドップラー信号有りと判定した場合)にのみ、移動体判定部6を動作させている。そのため、移動体判定部6が移動体の存在を誤判定(誤検知)する可能性を低減することができる。つまり、本実施形態の移動体検知装置によれば、移動体検知の精度低下を抑えつつ消費電力の低減を図ることができる。
【0047】
しかも、本実施形態では、待機期間TAにおけるHPF52A,52Bの遮断周波数fcを相対的に高く(時定数τを短く)することで直流成分による揺らぎの収束時間を短縮しているので、安定動作までの時間短縮を図ることができる。一方、待機期間TAが経過したら、HPF52A,52Bの遮断周波数fcを相対的に低く(時定数τを長く)するので、動きの遅い移動体の検知精度の低下を抑えることができる。ただし、本実施形態では、制御部7が一部の回路を間欠動作させているが、必ずしも間欠動作させる必要は無く、間欠動作させない場合にも本発明の技術思想が適用可能である。
【0048】
ところで、本実施形態では位相検波部5が第1位相検波ブロックと第2位相検波ブロックからなり、各位相検波ブロックがそれぞれ混合器50A,50Bと、LPF51A,51Bと、HPF52A,52Bと、増幅器53A,53Bとを有している。さらに、第1位相検波ブロックの混合器50Aに入力される発振信号に対して、第2位相検波ブロックの混合器50Bに入力される発振信号(第2発振信号)の位相をπ/2だけずらしている。
【0049】
すなわち、増幅器53Aの出力信号を観測するタイミングによっては、出力信号の信号レベルが小さい可能性がある。しかしながら、本実施形態では2つの位相検波ブロックで同時並行してドップラー信号を生成し、且つ各位相検波ブロックで受波信号と混合される信号(発振信号と第2発振信号)の位相をずらしている。そのため、2つの増幅器53A,53Bの出力信号の一方が小さくなっても他方は大きくなるから、ドップラー信号の有無を早期且つ確実に判定することができる。
【0050】
つまり、一方の増幅器53A(又は53B)の出力信号の変曲点(ピーク値)を見つけるためには最大で出力信号の半周期の時間が必要になる。しかしながら、2つの増幅器53A,53Bのうちの何れか一方の出力信号の変曲点を見つけるためには、最大で出力信号の4分の1周期の時間で済む。そのため、制御部7がドップラー信号の有無を判定するまでに要する時間を短縮することができる。ここで、2つの出力信号の二乗和の平方根がドップラー信号の振幅に相当するので、制御部7が、各増幅器53A,53Bの出力信号を個別に下限値と比較する代わりに、2つの出力信号の二乗和をしきい値と比較してドップラー信号の有無を判定しても構わない。このように各増幅器53A,53Bの出力信号の二乗和からドップラー信号の有無を判定すれば、移動体の速度に起因した出力信号の周波数(位相)を考慮する必要がないので、ドップラー信号の有無をより短時間で判定することができる。
【0051】
なお、本発明の技術思想は、特許文献2記載の従来例にも適用可能である。特許文献2記載の従来例は、発振回路から2種類の周波数の送波信号を送波して移動体を検知し、全ての周波数の送波信号について移動体を検知したときにのみ、監視空間に移動体が存在していると判定するように構成されている。そして、このような構成においても、HPFの遮断周波数(時定数)を可変とし、直流成分による揺らぎが生じている期間の遮断周波数を高く(時定数を短く)することで前記期間を短縮することができる。さらに、直流成分による揺らぎが収束したら、HPFの遮断周波数を低く(時定数を長く)することにより、動きの遅い移動体の検知精度の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 発振回路(発振手段)
2 送波器(送波手段)
3 受波器(受波手段)
5 位相検波部(位相検波手段)
6 移動体判定部(検知手段)
7 制御部(制御手段)
50A,50B 混合器
51A,51B 低域通過フィルタ
52A,52B 高域通過フィルタ
53A,53B 増幅器