(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、車両のエンジンにおいて、クランクシャフトの一端には、当該クランクシャフトの回転変動によって発生する捻り振動を低減するトーショナルダンパが取り付けられている。
【0003】
一般に、車両のエンジンにおいて、トーショナルダンパはダンパプーリとして用いられており、動力伝達用のベルトを介してウォーターポンプやエアコン用コンプレッサ等の補機にエンジンの動力の一部を伝達する。このトーショナルダンパと、クランクシャフトが挿通される例えばフロントカバーの貫通穴との間の空間は、オイルシールによって密封されている。
【0004】
図7は、車両のエンジンにおいて用いられている従来のシングルマスタイプのダンパプーリ100およびオイルシール110を用いた密封構造について、概略的に示すための軸線に沿う断面における部分断面図である。この
図7に示すように、従来のダンパプーリ100は、金属からなる環状のハブ101、ダンパマスとして機能するプーリ102、ハブ101とプーリ102との間に配設されたダンパ弾性体103とを備えている。
【0005】
ハブ101は、内周側のボス部101a、外周側のリム部101b、ボス部101aとリム部101bとを接続する円盤部101cを備えている。ハブ101のボス部101aは、クランクシャフト120の一端の段部に嵌合されて、ボルト121によって固定されている。円盤部101cには、軽量化の目的から、当該円盤部101cを貫通する貫通穴からなる窓部101dが周方向に複数形成されている。
【0006】
クランクシャフト120に取り付けられたハブ101のボス部101aは、エンジンの外側から当該エンジンのフロントカバー122の貫通穴123に挿通された状態にある。
【0007】
ボス部101aとフロントカバー122との間の貫通穴123には、オイルシール110が圧入されている。オイルシール110のシールリップ111は、ボス部101aの外周面に摺動可能に液密に当接し、ダンパプーリ100とフロントカバー122との間を密封している。
【0008】
一方、
図8は、従来のダブルマスタイプのダンパプーリ200およびオイルシール210を用いた密封構造について、概略的に示すための軸線に沿う断面における部分断面図である。
図8に示すように、ダブルマスタイプのダンパプーリ200は、一般的に、クランクシャフト220の回転変動によって発生する捻り振動をシングルマスタイプよりも更に低減する用途に用いられる。
【0009】
このダンパプーリ200においては、金属からなる環状のハブ201のリム部201bの内周側および外周側にそれぞれ板金からなる環状のスリーブ202、203が嵌着され、このスリーブ202、203にそれぞれ環状のゴム状弾性体204、205を介して金属の質量体206、207が取り付けられている。
【0010】
この場合、質量体206が内マスとして機能し、質量体207が外マスとして機能する。すなわち、ダンパプーリ200は、質量体206の内マスおよび質量体207の外マスからなるダブルマス構造である。ゴム状弾性体204、205は、成形と同時にスリーブ202、203および質量体206、207に加硫接着されている。
【0011】
ハブ201のボス部201aとフロントカバー230との間の貫通穴233には、オイルシール210が圧入されている。オイルシール210のシールリップ211は、ボス部201aの外周面に摺動可能に液密に当接し、ダンパプーリ200とフロントカバー230との間を密封している(例えば、特許文献1参照。)。
【0012】
図9は、車両のエンジンにおいて用いられている従来のシングルマスタイプのダンパプーリ1100およびオイルシール1110を用いた密封構造について、概略的に示すための軸線に沿う断面における部分断面図である。この
図9に示すように、従来のダンパプーリ1100は、金属からなる環状のハブ1101と、ダンパマスとして機能するプーリ1102と、ハブ1101およびプーリ1102間に配設されたダンパ弾性体1103とを備えている。
【0013】
ハブ1101は、内周側のボス部1101a、外周側のリム部1101b、ボス部1101aとリム部1101bとを接続する円盤部1101cを備えている。ボス部1101aは、クランクシャフト1120の一端に嵌合されて、ボルト1121によって固定されている。
【0014】
円盤部1101cは、ハブ111の外側(エンジンのフロントカバー1122とは逆方向)に向かって突出した軸線xを中心とする円筒状の円筒部1101d、フロントカバー1122に向かって突出した軸線xを中心とする環状のハブ側突起部1101p、そのフロントカバー1122と対向して形成された断面略U字状の凹部1101eを有している。
【0015】
クランクシャフト1120に取り付けられたハブ1101のボス部1101aは、エンジンの外側からフロントカバー1122の貫通穴1123に挿通された状態にある。
【0016】
ボス部1101aとフロントカバー1122との間の貫通穴1123には、オイルシール1110が圧入されている。オイルシール1110のシールリップ1111は、ボス部1101aの外周面に摺動可能に液密に当接し、ダンパプーリ1100とフロントカバー1122との間を密封している。
【0017】
フロントカバー1122は、ダンパプーリ1100と所定の間隔だけ離間した位置に配置されている。ハブ1101の凹部1101eと対向するフロントカバー1122の部分には、当該ハブ1101に向かって突出した軸線xを中心とする環状のカバー側突起部1122pが形成されている。
【0018】
すなわち、ハブ1101のハブ側突起部1101pよりもカバー側突起部1122pが軸線x寄りの内周側に配置された状態で、かつ、ハブ1101の凹部1101eの内側にカバー側突起部1122pが入り込んだ状態にある。
【0019】
この場合、ハブ1101のハブ側突起部1101pとフロントカバー1122のカバー側突起部1122pとが径方向に対して空間的に重なっており、ラビリンスシールを形成している。このラビリンスシール構造により、ダンパプーリ1100およびオイルシール1110を用いた密封構造では、外部からのダストの侵入経路を複雑化し、当該ダストの侵入抑制対策としている(例えば、特許文献2参照。)。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照し説明する。
【0035】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るダンパプーリおよびオイルシールを用いた密封構造の概略構成を示すための、軸線に沿った断面における部分断面図である。
【0036】
以下、説明の便宜上、
図1において、軸線xに沿った矢印a方向を外側、軸線xに沿った矢印b方向を内側とする。より具体的には、外側とはエンジンから離れる方向であり、内側とはエンジンに近付く方向である。また、軸線xと垂直な方向(以下、これを「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(矢印c方向)を外周側とし、軸線xに近づく方向(矢印d方向)を内周側とする。
【0037】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る密封構造1は、自動車のエンジンに適用されるものである。この密封構造1は、トーショナルダンパとしてのダンパプーリ10と、オイルシール20とを備えている。
【0038】
ダンパプーリ10は、回転軸としてのクランクシャフト51の一端にボルト52によって固定されている。オイルシール20は、被取付対象としてのエンジンのフロントカバー53とダンパプーリ10との間の貫通穴54に圧入して嵌着されており、フロントカバー53とダンパプーリ10との間を密封している。
【0039】
ダンパプーリ10は、ハブ11と、外周側質量体(外マス)としてのプーリ12と、ハブ11およびプーリ12間に配設された外周側ダンパ弾性体13と、内周側質量体(内マス)としての環状リング体14と、ハブ11および環状リング体14間に配設された内周側ダンパ弾性体15とを備えている。
【0040】
ハブ11は、内周側のボス部11a、外周側のリム部11b、ボス部11aの外側(矢印a方向)の端部から外周側(矢印c方向)へ向かって延びる中空円盤状の内周側円盤部11c、当該内周側円盤部11cの外周側(矢印c方向)の端部から外側(矢印a方向)へ向かって延びる円筒部11d、当該円筒部11dの外側(矢印a方向)の端部から外周側(矢印c方向)へ向かって延び、当該円筒部11dの外側(矢印a方向)の端部とリム部11bの外側(矢印a方向)の端部とを接続する中空円盤状の外周側円盤部11eを備えている。
【0041】
ボス部11aは、貫通孔11hを有する軸線xを中心とした環状の部分であり、滑らかな外周側の面(以下、これを「外周面」ともいう。)11agを有している。この外周面11agは、オイルシール20のシール面となる。
【0042】
リム部11bは、軸線xを中心とした環状、より具体的には円筒状の部分であり、ボス部11aと同心かつ当該ボス部11aよりも外周側(矢印c方向)に位置する部分である。リム部11bは、波形状の外周面11bgおよび内周面11bnを有している。リム部11bの外周面11bgには、外周側ダンパ弾性体13が圧着されている。
【0043】
内周側円盤部11cは、ボス部11aと円筒部11dとを接続する中空円盤状の部分であり、当該内周側円盤部11cの外側(矢印a方向)の面(以下、これを「外面」ともいう。)11cgにおいてボルト52の頭部が係合される。
【0044】
円筒部11dは、内周側円盤部11cと外周側円盤部11eとを接続する円筒状の部分である。外周側円盤部11eは、円筒部11dとリム部11bとを接続する中空円盤状の部分であり、フロントカバー53の外側の面(以下、これを「外側面」ともいう。)53aと対向して配置されている。
【0045】
この場合、ハブ11のボス部11a、リム部11b、内周側円盤部11c、円筒部11d、外周側円盤部11eは、内周側ダンパ弾性体15および環状リング体14の大部分を収納可能な空間を形成している。
【0046】
プーリ12は、軸線xを中心とする環状の金属部材であり、一般的に、ねずみ鋳鉄(FC250,JIS G 5501:1995)やアルミニウムが用いられる。プーリ12は、ハブ11の外周側に設けられ、当該ハブ11を外周側から覆う。具体的には、プーリ12の内周側の面(以下、これを「内周面」ともいう。)12aは、ハブ11のリム部11bの外周面11bgに対応した波形状を有している。なお、このダンパプーリ10では、プーリ12が外マスとして機能する。
【0047】
プーリ12は、その内周面12aがリム部11bの外周面11bgと径方向(矢印cd方向)において所定の間隔を空けて対向するように配置されている。プーリ12の外周面12bには、環状のV溝12cが複数形成されており、図示しないタイミングベルトが巻回可能となっている。
【0048】
外周側ダンパ弾性体13は、プーリ12とハブ11のリム部11bとの間に設けられている。外周側ダンパ弾性体13は、ダンパゴムであり、耐熱性、耐寒性、および、疲労強度において優れたゴム状弾性体から架橋(加硫)成形により形成されている。外周側ダンパ弾性体13は、プーリ12とハブ11のリム部11bとの間に圧入されており、当該プーリ12の内周面12aとリム部11bの外周面11bgとの間に嵌着された状態で固定されている。
【0049】
環状リング体14は、軸線xを中心として、ハブ11の内周側に設けられた環状の金属部材であり、プーリ12と同様に、一般的に、ねずみ鋳鉄(FC250,JIS G 5501:1995)やアルミニウムが用いられる。環状リング体14は、ハブ11のリム部11b、外周側円盤部11e、円筒部11d、内周側円盤部11c、およびボス部11aにより形成された収納空間に当該ハブ11と非接触状態で配置されるような断面略矩形状を呈している。
【0050】
具体的には、環状リング体14は、ハブ11のリム部11bの内周面11bnに対応した波形状の外周面14bを有している。なお、このダンパプーリ10では、環状リング体14が内マスとして機能する。
【0051】
環状リング体14における外周側(矢印c方向)かつ内側(矢印b方向)の端部には、フロントカバー53の外側面53aと間隙g1を空けて対向するように突出した環状の突出部14tが形成されている。この場合、フロントカバー53の外側面53aと、突出部14tとの間の環状の間隙g1がダンパプーリ10における第1のラビリンスシールとして機能する。
【0052】
環状リング体14における内周側(矢印d方向)かつ内側(矢印b方向)の端部には、段部D1が形成されている。段部D1は、軸線x方向に沿って平行な段部外周面14u、軸線x方向とは垂直な方向に沿った段部底面14yにより形成されている。
【0053】
段部D1の段部外周面14uおよび段部底面14yが、ハブ11のボス部11aの外周面11agとの間で軸線xを中心とした環状の凹部からなるポケットP1を構成する2面となる。なお、段部外周面14uは、軸線x方向に沿って平行な面であるが、これに限るものではなく、所定の角度で内側(矢印b方向)に向かうに連れて縮径する面であっても良い。
【0054】
すなわちダンパプーリ10では、ハブ11の段部D1を構成する段部外周面14u、段部底面14y、および、ボス部11aの外周面11agによって、ポケットP1が形成されている。ただし、厳密には、段部D1の段部底面14yとボス部11aの外周面11agとは面同士の繋がりはない。
【0055】
内周側ダンパ弾性体15は、環状リング体14とハブ11のリム部11bとの間に設けられている。内周側ダンパ弾性体15は、ダンパゴムであり、外周側ダンパ弾性体13と同様に、耐熱性、耐寒性、および、疲労強度において優れたゴム状弾性体から架橋(加硫)成形により形成されている。内周側ダンパ弾性体15は、環状リング体14とハブ11のリム部11bとの間に圧入されており、当該環状リング体14の外周面14bとリム部11bの内周面11bnとの間に嵌着された状態で固定されている。
【0056】
このダンパプーリ10において、外マスとしてのプーリ12、外周側ダンパ弾性体13、内マスとしての環状リング体14および内周側ダンパ弾性体15がダンパ部を形成している。このダンパ部の捻り方向の固有振動数(以下、これを「捻り方向固有振動数」ともいう。)は、クランクシャフト51の捩れ角が最大となる所定の振動数域である、クランクシャフト51の捻り方向固有振動数と一致するように同調されている。
【0057】
つまり、ダンパ部の捻り方向固有振動数がクランクシャフト51の捻り方向固有振動数と一致するように、プーリ12、環状リング体14の円周方向の慣性質量と、外周側ダンパ弾性体13、内周側ダンパ弾性体15の捻り方向剪断ばね定数とが調整されている。
【0058】
このため、クランクシャフト51の捻り振幅が最大となる所定の振動数域(回転数域)において、ダンパ部が捻り方向に加振されることによって共振し、その振動変位によるトルクがクランクシャフト51の入力振動によるトルクと逆方向へ生じることによって、動吸振効果を発揮することが可能となる。
【0059】
図2に示すように、オイルシール20は、軸線xを中心とした環状の金属性の補強環21と、軸線xを中心とした弾性体からなる弾性体部22とを備えている。弾性体部22は、補強環21に一体に取り付けられている。
【0060】
補強環21の金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。弾性体部22の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。各種ゴム材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。
【0061】
補強環21は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、弾性体部22は成形型を用いて架橋(加硫)成型によって成型される。この架橋成型の際に、補強環21は成形型の中に配置されており、弾性体部22が架橋(加硫)接着により補強環21に接着され、弾性体部22が補強環21と一体に成形される。
【0062】
補強環21は、例えば断面L字状の形状を呈しており、円盤部21aと、円筒部21bとを備えている。円盤部21aは、軸線x方向と垂直な方向に広がる中空円盤状の部分である。円筒部21bは、円盤部21aの外周側(矢印c方向)の端部から軸線x方向に沿って内側(矢印b方向)へ延びる円筒状の部分である。
【0063】
弾性体部22は、補強環21を外側(矢印a方向)および外周側(矢印c方向)から覆うように当該補強環21と一体に成形されている。弾性体部22は、リップ腰部23と、シールリップ24と、ダストリップ25とを備えている。リップ腰部23は、補強環21の円盤部21aにおける内周側(矢印d方向)の端部の近傍に位置する部分である。シールリップ24は、リップ腰部23から内側(矢印b方向)に向かって延びる部分であり、補強環21の円筒部21bと対向して配置されている。ダストリップ25は、リップ腰部23から軸線xに向かって延びている。
【0064】
シールリップ24は、内側(矢印b方向)の端部に、断面形状が内周側(矢印d方向)に向かって凸の楔形状の環状のリップ先端部24aを有している。リップ先端部24aは、ハブ11のボス部11aの外周面11agと摺動可能に密接して接触するように形成され、ダンパプーリ10との間を密封している。シールリップ24の外周側(矢印c方向)には、当該シールリップ24を径方向(矢印cd方向)において内周側(矢印d方向)に押し付けるガータスプリング26が嵌着されている。
【0065】
ダストリップ25は、リップ腰部23から延びる部位であり、外側(矢印a方向)かつ内周側(矢印d方向)に延出している。ダストリップ25により、使用状態におけるリップ先端部24a方向への異物の侵入の防止が図られている。
【0066】
また、弾性体部22は、外側カバー27、および、ガスケット部28を備えている。外側カバー27は、補強環21の円盤部21aを外側(矢印a方向)から覆っている。ガスケット部28は、補強環21の円筒部21bを外周側(矢印c方向)から覆っている。
【0067】
サイドリップ29は、外側(矢印a方向)に延びており、具体的には、軸線x方向に沿って平行に、または、外側(矢印a方向)および外周側(矢印c方向)へ軸線xに対して斜めに延びている。
【0068】
サイドリップ29の外側(矢印a方向)の端部である外側端29aは、径方向(矢印cd方向)において、ポケットP1(
図1参照。)を形成している段部D1の段部外周面14uの内側(矢印b方向)の端部である内側端P1aよりも内周側(矢印d方向)に位置しているとともに、軸線x方向において当該ポケットP1の内部には進入していない。つまり、オイルシール20のサイドリップ29とポケットP1の段部外周面14uとは、軸線x方向(矢印ab方向)において空間的に互いに重なり合っていない非オーバーラップ状態にある。
【0069】
したがって、サイドリップ29の外側端29aとポケットP1を形成している段部外周面14uの内側端P1aとの間には、環状の間隙g2が形成されている。この間隙g2が、ダンパプーリ10における第2のラビリンスシールとして機能する。
【0070】
これにより、環状リング体14の突出部14tとフロントカバー53の外側面53aとの間に形成された間隙g1(第1のラビリンスシール)からダスト等の異物が侵入してきても、サイドリップ29とポケットP1とが形成する間隙g2(第2のラビリンスシール)によって、侵入してきた異物をシールリップ24側へ侵入することを更に抑制している。
【0071】
ただし、これに限るものではなく、オイルシール20のサイドリップ29とポケットP1の段部外周面14uとは、軸線x方向(矢印ab方向)において空間的に互いに重なり合ったオーバーラップ状態であっても良い。この場合、異物の侵入抑制性能を更に向上させることが可能となる。さらに、段部外周面14uが、所定の角度で内側(矢印b方向)に向かうに連れて縮径している場合には、オーバーラップ状態により、更に異物の侵入抑制性能を向上させることが可能となる。
【0072】
このような構成のダンパプーリ10は、ハブ11のボス部11aの外周面11agと、環状リング体14の段部D1を形成している段部外周面14uと段部底面14yとの3面によりポケットP1を画成しているので、ハブ11に直接ポケットP1を形成する必要がない。
【0073】
ところで、従来の例えばシングルマスタイプのダンパプーリでは、ハブを鋳造する際に当該ハブ自体にハブポケットを形成し、その後、当該ハブポケットとオイルシール20のサイドリップ29との間の間隙を極力狭くするために、ハブポケットの面を切削加工する必要があった。
【0074】
これに対して、ダンパプーリ10では、ポケットP1を形成するに当たり、重量の重いハブ11に対してポケットP1を形成する必要はなく、小型で軽量の取り扱い容易な環状リング体14に段部D1を形成するだけで済むため、製造負荷を軽減することができる。
【0075】
また、ダンパプーリ10は、環状リング体14の2面と、ボス部11aの外周面11agの1面とを使ってポケットP1を2部材により形成するため、リム部11bの内周面11bnからボス部11aの外周面11agまでの空間全てを環状リング体14を設ける内マス用のスペースとして用いることができる。
【0076】
これにより、この空間内で、環状リング体14の体積および重量を自在に設定することができるので、ダンパプーリ10としては、ダンパ部の捻り方向固有振動数がクランクシャフト51の捻り方向固有振動数と一致するように、環状リング体14の円周方向の慣性質量を自在に調整することが可能となる。
【0077】
さらに、ダンパプーリ10は、間隙g1からなる第1のラビリンスシールに加えて、ポケットP1とオイルシール20のサイドリップ29とにより間隙g2からなる第2のラビリンスシールを形成したことにより、従来のダンパプーリ100(
図4)およびダンパプーリ200よりも異物の侵入を更に抑制することができる。
【0078】
かくして、ダンパプーリ10とフロントカバー53との間から侵入する異物にオイルシール20のシールリップ24が曝されることを抑制し、異物の侵入抑制機能を更に向上し得るダンパプーリ10およびオイルシール20を用いた密封構造1を実現することができる。
【0079】
<第2の実施の形態>
図3は、本発明の第2の実施の形態に係るダンパプーリ60およびオイルシール20を用いた密封構造1sの概略構成を示すための、軸線に沿った断面における部分断面図である。この密封構造1sのダンパプーリ60は、第1の実施の形態におけるポケットP1とは異なる構造のポケットP2を有していることが特徴であり、それ以外の構成は第1の実施の形態におけるダンパプーリ10と同様であるので、当該ダンパプーリ10と異なる部分についてのみ説明する。
【0080】
第2の実施の形態において、ダンパプーリ60は、ダンパプーリ10の環状リング体14のような段部D1が設けられているのではなく、段部D1の代わりに、環状リング体14sの内周側(矢印d方向)および内側(矢印b方向)の端部から内周側(矢印d方向)へ突出した突起部14stが形成されている。この突起部14stの内周側(矢印d方向)の内周側端面14snは、ポケットP2を構成する面の1つとなっている。
【0081】
この場合、ハブ11のボス部11aの外周面11agに加えて、内周側円盤部11cの側面11ciがポケットP2を構成する面の一つとして用いられる。すなわち、ポケットP2は、環状リング体14の突起部14stの内周側端面14snと、ハブ11のボス部11aの外周面11agと、内周側円盤部11cの側面11ciとによって画成されている。
【0082】
この場合にも、ポケットP2とオイルシール20のサイドリップ29とにより第2のラビリンスシールを構成し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。さらに、ダンパプーリ60は、第1の実施の形態の環状リング体14のように段部D1を形成する必要がないので、その分、ポケットP2を容易に形成することができる。
【0083】
<第3の実施の形態>
図4は、本発明の第3の実施の形態に係るダンパプーリ70およびオイルシール20を用いた密封構造1zの概略構成を示すための、軸線に沿った断面における部分断面図である。この密封構造1zのダンパプーリ70は、第1の実施の形態におけるポケットP1、第2の実施の形態におけるポケットP2とは異なる構造のポケットP3を有していることが特徴であり、それ以外の構成は第1、第2の実施の形態におけるダンパプーリ10、60と同様であるので、ダンパプーリ10、60と異なる部分についてのみ説明する。
【0084】
第3の実施の形態において、ダンパプーリ70は、環状リング体14zの内側面14zuの内周側(矢印d方向)の任意の部分に断面凹状の環状のポケットP3が形成されている。このポケットP3は、環状リング体14zの内側面14zuにポケットP3を構成する外周面14zg、底面14zy、内周面14znの3面が全て形成されており、ボス部11aの外周面11agを利用していない。
【0085】
この場合にも、ポケットP2とオイルシール20のサイドリップ29とにより第2のラビリンスシールを構成し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0086】
<第4の実施の形態>
図5は、本発明の第4の実施の形態に係るダンパプーリおよびオイルシールを用いた密封構造の概略構成を示すための、軸線に沿った断面における部分断面図である。
【0087】
以下、説明の便宜上、
図5において、軸線xに沿った矢印a方向を外側、軸線xに沿った矢印b方向を内側とする。より具体的には、外側とはエンジンから離れる方向であり、内側とはエンジンに近付く方向である。また、軸線xと垂直な方向(以下、これを「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(矢印c方向)を外周側とし、軸線xに近づく方向(矢印d方向)を内周側とする。
【0088】
図5に示すように、本実施の形態に係る密封構造1000は、自動車のエンジンに適用されるものである。この密封構造1000は、トーショナルダンパとしてのダンパプーリ1010と、オイルシール1020とを備えている。
【0089】
ダンパプーリ1010は、回転軸としてのクランクシャフト1051の一端にボルト1052によって固定されている。オイルシール1020は、被取付対象としてのエンジンのフロントカバー1053とダンパプーリ1010との間の貫通穴1054に圧入して嵌着されており、フロントカバー1053とダンパプーリ1010との間を密封している。
【0090】
ダンパプーリ1010は、ハブ1011、外周側質量体(外マス)としてのプーリ1012、ハブ1011とプーリ1012との間に配設された外周側ダンパ弾性体1013、ハブ1011と一体に固定された板金部材1015、当該板金部材1015と一体に固定された内周側ダンパ弾性体1016、当該内周側ダンパ弾性体1016と一体に固定された内周側質量体(内マス)としての環状リング体1014を備えている。なお、内周側ダンパ弾性体1016は、本発明のダンパ弾性体を構成し、環状リング体1014は、本発明の質量体を構成する。
【0091】
ハブ1011は、内周側のボス部1011a、外周側のリム部1011b、ボス部1011aの外側(矢印a方向)の端部から外周側(矢印c方向)へ向かって延び、当該ボス部1011aとリム部1011bとを接続する中空円盤状の円盤部1011cを備えている。
【0092】
ボス部1011aは、貫通孔1011hを有する軸線xを中心とした環状の部分であり、滑らかな外周側の面(以下、これを「外周面」ともいう。)1011agを有している。この外周面1011agは、オイルシール1020のシール面となる。
【0093】
リム部1011bは、軸線xを中心とした環状より具体的には円筒状の部分であり、ボス部1011aと同心かつ当該ボス部1011aよりも外周側(矢印c方向)に位置する部分である。
【0094】
リム部1011bは、波形状の外周面1011bgおよび平坦な内周面1011bnを有している。リム部1011bの外周面1011bgには、外周側ダンパ弾性体1013が圧着されている。このリム部1011bの内周面1011bnには、内側(矢印b方向)の端部に、軸線xを中心とした環状の板金部材1015が一体に固定されている。
【0095】
円盤部1011cは、ボス部1011aと円筒部1011dとを接続する中空円盤状の部分であり、環状リング体1014とは所定の距離だけ離間した位置に配置されている。この場合、ハブ1011のボス部1011a、リム部1011b、および、円盤部1011cは、板金部材1015、内周側ダンパ弾性体1016および環状リング体1014を収納可能な空間を形成している。
【0096】
プーリ1012は、軸線xを中心とする環状の金属部材であり、ハブ1011の外周側を覆っている。具体的には、プーリ1012の内周側の面(以下、これを「内周面」ともいう。)1012aは、ハブ1011のリム部1011bの外周面1011bgに対応した波形状を有している。なお、このダンパプーリ1010では、プーリ1012が外マスとして機能する。
【0097】
プーリ1012は、その内周面1012aがリム部1011bの外周面1011bgと径方向(矢印cd方向)において所定の間隔を空けて対向するように配置されている。プーリ1012の外周面1012bには、環状のV溝1012cが複数形成されており、図示しないタイミングベルトが巻回可能となっている。
【0098】
外周側ダンパ弾性体1013は、プーリ1012とハブ1011のリム部1011bとの間に設けられている。外周側ダンパ弾性体1013は、ダンパゴムであり、耐熱性、耐寒性、および、疲労強度において優れたゴム状弾性体から架橋(加硫)成形により形成されている。外周側ダンパ弾性体1013は、プーリ1012とハブ1011のリム部1011bとの間に圧入されており、当該プーリ1012の内周面1012aとリム部1011bの外周面1011bgとの間に嵌着された状態で固定されている。
【0099】
板金部材1015は、断面略L字状に折り曲げられた環状の金属からなる薄板状部材である。板金部材1015は、軸線xを中心とした円筒状の円筒部1015aと、当該円筒部1015aの外側(矢印a方向)の端部から内周側(矢印d方向)に向かって延びる中空円盤状の円盤部1015bとを備えている。この場合、板金部材1015の円筒部1015aがリム部1011bの内周面1011bnと一体に固定される。
【0100】
板金部材1015では、円筒部1015aとリム部1011bの内周面1011bnとが接続されているが、当該円筒部1015aおよび円盤部1015bがフロントカバー1053の外側面1053aとは非接触状態にある。
【0101】
ここで、フロントカバー1053の外側面1053aは、うねり形状を有しており、板金部材1015とフロントカバー1053の外側面1053aとの間には、曲がりくねった流路が形成されている。
【0102】
環状リング体1014は、軸線xを中心として、ハブ1011の内周側に設けられた環状の金属部材である。環状リング体1014は、断面略矩形状を呈しており、ハブ1011のリム部1011b、円盤部1011c、およびボス部1011aにより形成された収納空間に当該ハブ1011と非接触状態で配置されている。
【0103】
具体的には、環状リング体1014は、軸線x方向(矢印ab方向)における長さL1よりも、径方向(矢印cd方向)における長さL2の方が長くなるような断面矩形状を有し、断面矩形状の各角部がR状に面取りされている。なお、このダンパプーリ1010では、環状リング体1014が内マスとして機能する。
【0104】
内周側ダンパ弾性体1016は、板金部材1015と環状リング体1014との間に設けられた環状の部材である。内周側ダンパ弾性体1016は、ダンパゴムであり、外周側ダンパ弾性体1013と同様に、耐熱性、耐寒性、および、疲労強度において優れたゴム状弾性体から架橋(加硫)成形により形成されている。内周側ダンパ弾性体1016は、板金部材1015および環状リング体1014とともに架橋(加硫)成形により一体化された状態で固定されている。
【0105】
内周側ダンパ弾性体1016は、板金部材1015および環状リング体1014と接続されているが、ハブ1011のリム部1011b、円盤部1011c、ボス部1011a、および、フロントカバー1053とは非接触状態に配置されている。
【0106】
内周側ダンパ弾性体1016は、本体1016a、延長部1016b、および、突出部1016cを備えている。本体1016aは、断面略矩形状の環状部分であり、板金部材1015と環状リング体1014とを接続する部分である。
【0107】
延長部1016bは、本体1016aの内周側(矢印d方向)かつ外側(矢印a方向)の端部から当該本体1016aよりも薄く内周側(矢印d方向)へ延びた中空円盤状の部分である。突出部1016cは、延長部1016bの内周側(矢印d方向)の端部から内側(矢印b方向)かつ内周側(矢印d方向)へ僅かに傾斜した状態でオイルシール1020に向かって突出した円筒状の部分である。
【0108】
このダンパプーリ1010において、プーリ1012、外周側ダンパ弾性体1013、環状リング体1014および内周側ダンパ弾性体1016がダンパ部を形成している。このダンパ部の捻り方向の固有振動数(以下、これを「捻り方向固有振動数」ともいう。)は、クランクシャフト51の捩れ角が最大となる所定の振動数域である、クランクシャフト51の捻り方向固有振動数と一致するように同調されている。
【0109】
つまり、ダンパ部の捻り方向固有振動数がクランクシャフト51の捻り方向固有振動数と一致するように、プーリ1012、環状リング体1014の円周方向の慣性質量と、外周側ダンパ弾性体1013、内周側ダンパ弾性体1016の捻り方向剪断ばね定数とが調整されている。このため、クランクシャフト51の捻り振幅が最大となる所定の振動数域(回転数域)において、ダンパ部が捻り方向に加振されることによって共振し、その振動変位によるトルクがクランクシャフト51の入力振動によるトルクと逆方向へ生じることによって、動吸振効果を発揮することが可能となる。
【0110】
図6に示すように、オイルシール1020は、軸線xを中心とした環状の金属性の補強環1021と、軸線xを中心とした弾性体からなる弾性体部1022とを備えている。弾性体部1022は、補強環1021に一体に取り付けられている。補強環1021の金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。弾性体部1022の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。各種ゴム材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。
【0111】
補強環1021は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、弾性体部1022は成形型を用いて架橋(加硫)成型によって成型される。この架橋成型の際に、補強環1021は成形型の中に配置されており、弾性体部1022が架橋(加硫)接着により補強環1021に接着され、弾性体部1022が補強環1021と一体に成形される。
【0112】
補強環1021は、例えば断面L字状の形状を呈しており、円盤部1021aと、円筒部1021bとを備えている。円盤部1021aは、軸線x方向に略垂直な方向に広がる中空円盤状の部分である。円筒部1021bは、円盤部1021aの外周側(矢印c方向)の端部から軸線x方向において内側(矢印b方向)に延びる円筒状の部分である。
【0113】
弾性体部1022は、補強環1021を外側(矢印a方向)および外周側(矢印c方向)から覆うように当該補強環1021と一体に成形されている。弾性体部1022は、リップ腰部1023、シールリップ1024、ダストリップ1025、および、サイドリップ1029を備えている。リップ腰部1023は、補強環1021の円盤部1021aにおける内周側(矢印d方向)の端部の近傍に位置する部分である。シールリップ1024は、リップ腰部1023から内側(矢印b方向)に向かって延びる部分であり、補強環1021の円筒部1021bと対向して配置されている。ダストリップ1025は、リップ腰部1023から軸線x方向に向かって延びている。
【0114】
シールリップ1024は、内側(矢印b方向)の端部に、断面形状が内周側(矢印d方向)に向かって凸の楔形状の環状のリップ先端部1024aを有している。リップ先端部1024aは、ハブ1011のボス部1011aの外周面1011agと摺動可能に密接して接触するように形成され、ダンパプーリ1010との間を密封している。シールリップ1024の外周側(矢印c方向)には、当該シールリップ1024を径方向(矢印cd方向)において内周側(矢印d方向)に押し付けるガータスプリング1026が嵌着されている。
【0115】
ダストリップ1025は、リップ腰部1023から延びる部位であり、外側(矢印a方向)かつ内周側(矢印d方向)に延出している。ダストリップ1025により、使用状態におけるリップ先端部1024a方向への異物の侵入の防止が図られている。
【0116】
また、弾性体部1022は、外側カバー1027、および、ガスケット部1028を備えている。外側カバー1027は、補強環1021の円盤部1021aを外側(矢印a方向)から覆っている。ガスケット部1028は、補強環1021の円筒部1021bを外周側(矢印c方向)から覆っている。
【0117】
サイドリップ1029は、外側(矢印a方向)の内周側ダンパ弾性体1016に向かって延びており、具体的には、軸線x方向に沿って平行に、または、外側(矢印a方向)および外周側(矢印c方向)に軸線xに対して斜めに延びている。
【0118】
この場合、サイドリップ1029は、内周側ダンパ弾性体1016の突出部1016cよりも内周側(矢印d方向)に位置し、径方向(矢印cd方向)において、当該突出部1016cと、空間的に互いに重なり合ったオーバーラップ状態にある。但し、これに限るものではなく、サイドリップ1029と内周側ダンパ弾性体1016の突出部1016cとが、径方向(矢印cd方向)において空間的に互いに重なり合っていない非オーバーラップ状態であってもよい。
【0119】
このように、サイドリップ1029と内周側ダンパ弾性体1016の突出部1016cとの間には、環状の間隙g1が形成されている。この間隙g1は、ダンパプーリ1010とフロントカバー1053との間におけるラビリンスシールとして機能する。
【0120】
これにより、板金部材1015とフロントカバー1053の外側面1053aとの間に形成された流路を介してダスト等の異物が侵入してきても、内周側ダンパ弾性体1016の突出部1016cとオイルシール1020のサイドリップ1029とが形成する間隙g1(ラビリンスシール)によって、侵入してきた異物をシールリップ1024側へ侵入することを抑制している。
【0121】
このような構成のダンパプーリ1010は、従来のように、ハブ1101のハブ側突起部1101pおよびフロントカバー1122のカバー側突起部1122pを設ける必要がなく、軽量の内周側ダンパ弾性体1016に突出部1016cを一体に形成するだけで、オイルシール1020のサイドリップ1029との間にラビリンスシール構造を構築することができる。
【0122】
これにより、ダンパプーリ1010は、ラビリンスシール構造を構築するための専用の部材を用いる必要がなく、従来に比して大幅に軽量化することができるとともに、フロントカバー1053およびオイルシール1020との間に設けたラビリンスシール構造により、従来よりも格段に異物の侵入を抑制することができる。
【0123】
かくして、ダンパプーリ1010とフロントカバー1053との間から侵入する異物にオイルシール1020のシールリップ1024が曝されることを抑制し、異物の侵入抑制機能を更に向上し得るダンパプーリ1010およびオイルシール1020を用いた密封構造1000を実現することができる。
【0124】
また、ダンパプーリ1010は、ハブ1011のボス部1011a、リム部1011b、および、円盤部1011cに囲まれた空間内で、径方向(矢印cd方向)にわたって環状リング体1014の体積および重量を自在に設定することができる。これにより、ダンパプーリ1010としては、ダンパ部の捻り方向固有振動数がクランクシャフト51の捻り方向固有振動数と一致するように、環状リング体1014の円周方向の慣性質量を自在に調整することが可能となる。
【0125】
さらに、ダンパプーリ1010およびオイルシール1020を用いた密封構造1000では、従来のラビリンス構造よりも内周側(矢印d方向)寄りのオイルシール1020の近傍に間隙g1からなるラビリンスシールを構築しているので、従来に比して、ラビリンス部分の開口面積が小さくなり、異物の侵入抑制機能を更に向上することができる。
【0126】
<他の実施の形態>
なお、上述した第1乃至第3の実施の形態においては、ポケットP1乃至P3を環状リング体14の内周側(矢印d方向)寄りの部分に形成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、環状リング体14の外周側(矢印c方向)寄りの部分に形成するようにしても良い。ポケットP1乃至P3の位置を変更することにより、クランクシャフト51の捻り方向の振動の動吸振効果を微調整することができる。
【0127】
また、上述した第1乃至第3の実施の形態においては、外周側円盤部11eと内周側円盤部11cとを円筒部11dにより接続した形状のハブ11を用いるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ボス部11aとリム部11bとを単一の円盤部だけで接続した形状のハブを用いるようにしても良い。
【0128】
さらに、上述した第4の実施の形態においては、軸線x方向(矢印ab方向)における長さL1よりも、径方向(矢印cd方向)における長さL2の方が長くなるような断面矩形状を有する環状リング体1014を用いるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、軸線x方向(矢印ab方向)における長さL1の方が、径方向(矢印cd方向)における長さL2よりも長くなるような断面矩形状を有する環状リング体を用いてもよく、また、長さL1、L2が等しい断面正方形状を有する環状リング体を用いるようにしてもよい。
【0129】
さらに、上述した第4の実施の形態においては、外周側質量体(外マス)としてのプーリ1012、外周側ダンパ弾性体1013、ハブ1011と一体に固定された板金部材1015、当該板金部材1015と一体に固定された内周側ダンパ弾性体1016、内周側質量体(内マス)としての環状リング体1014を備えるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、内周側質量体(内マス)としての環状リング体1014だけでクランクシャフト51の回転変動によって発生する捻り振動を低減することができるのであれば、外周側質量体としてのプーリ1012、外周側ダンパ弾性体1013を備えることなく、質量体として環状リング体1014だけを備えるようにしてもよい。
【0130】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に係る密封構造1に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題および効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせても良い。例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
ダンパ(10)およびオイルシール(20)を用いた密封構造(1)は、ハブ(11)、外周側質量体(12)、外周側ダンパ弾性体(13)、内周側質量体(14)、内周側ダンパ弾性体(15)とを備えている。ハブ(11)は被取付対象(53)の貫通穴(54)に挿通された状態で被取付対象(53)の回転軸(51)の一端に取り付けられる。オイルシール(20)は、軸線(x)を中心とした環状のシールリップ(24)、軸線(x)を中心として内周側質量体(14)へ指向した環状のサイドリップ(29)を備え、被取付対象(53)の貫通穴(54)に取り付けられ、ハブ(11)と被取付対象(53)との間を密封する。内周側質量体(14)は、環状の凹部からなるポケット(P1)の少なくとも一部を形成し、サイドリップ(29)はポケット(P1)との間に環状の間隙(g2)からなるラビリンスシールを形成している。