【文献】
TERRACOL et al.,Ultra-High Resolution Gamma-Ray Spectrometer Development for Nuclear Attribution and Non-Proliferation Applications,IEEE Symposium Conference Record Nuclear Science 2004,米国,IEEE,2004年10月20日,Vol. 2,1006-1013
【文献】
HOOVER et al.,Measurement of Plutonium in Spent Nuclear Fuel by Self-Induced X-ray Fluorescence,米国,Los Alamos National Laboratory,2009年 7月,p. 1-10,[平成29年5月26日検索],URL,http://permalink.lanl.gov/object/tr?what=info:lanl-repo/lareport/LA-UR-09-03481
【文献】
廿日出 好,導電性構造材料のためのSQUIDを用いた非破壊検査技術に関する研究:博士論文,日本,学校法人早稲田大学,2003年 3月,p. 114-118,[平成29年5月26日検索],URL,http://hdl.handle.net/2065/380
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記超伝導相転移端温度計型マイクロカロリーメータは、超伝導相転移端温度計(TES)素子、超伝導量子干渉計(SQUID)及び前記TES素子と前記SQUIDを冷却するための冷却装置を有し、前記TES素子及び前記SQUIDは、前記冷却装置から発生する微弱振動の伝搬を抑制するために、前記冷却装置から分離して浮かした状態で設置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の核分裂生成物と混在した超ウラン元素の分析方法。
前記超ウラン元素がU−235、U−238、U−237、Pu−238、Pu−239、Pu−240及びAm−241の群から選ばれる少なくとも一つの元素であり、前記核分裂生成物がEu−154、Eu−155、Cs−137/Ba−137m、Cs−134、Ce−144の群から選ばれる少なくとも一つの元素であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の核分裂生成物と混在した超ウラン元素の分析方法。
請求項3に記載の超ウラン元素の分析方法において使用する分析装置であって、前記超伝導相転移端温度計型マイクロカロリーメータは、超伝導相転移端温度計(TES)素子、超伝導量子干渉計(SQUID)及び前記TES素子と前記SQUIDを冷却するための冷却装置を有し、前記TES素子及び前記SQUIDを搭載する基板が、前記冷却装置に当接するコールドステージから1mm〜20mmの間隔に分離して浮かした状態で設置されることを特徴とする、核分裂生成物と混在した超ウラン元素の分析装置。
【背景技術】
【0002】
使用済み燃料又は燃料集合体が溶融したのち冷えて固まった燃料デブリを再処理又は廃棄するときは、ウラン(U)やプルトニウム(Pu)を始めとする各種の超ウラン元素の濃度及びそれらの核種組成割合や量を確認することが、燃料の核的特性の把握や取扱い上の安全性の確保のためだけでなく、核兵器不拡散条約に基づく国際的な核物質の管理のために必要不可欠である。
【0003】
しかしながら、使用済み燃料中又は燃料デブリ中の核物質は核分裂生成物からの強い放射線の影響により既存の放射線測定器のエネルギー分解能では直接測定することはできない。このため、核分裂生成物からの放射線による燃焼度の推定による核物質量の評価や試料の放射化学分析から核物質量の評価が行われている。例えば、特許文献1には、放射性配位物中に含まれる核種を化学的に分離し、α線スペクトル測定によってウラニウム同位体の同定とその定量分析を行う方法が提案されている。
【0004】
前記の放射化学分析等は、使用済み燃料又は燃料デブリ等の試料を破壊又は溶解によって化学的な分離処理を行うため分析作業に手間がかかるとともに、高線量の物質の取扱いによる分析作業員の被ばく線量が高くなる問題がある。また、燃焼度の推定による評価方法では使用済み燃料集合体など組成や形状の決まったものでしか適用されていない。
【0005】
また、燃料集合体が溶融して燃料デブリの状態になっているものは、セシウム等の揮発性の高い核分裂生成物が原子炉外に飛散し、形状や組成が不均一な状態と思われる。そのため、燃料デブリ中の核物質の推定のために、核物質に随伴すると考えられるユーロピウム等の核分裂生成物からの放射線を測定し、燃焼度を評価して核物質の量を評価することが考えられている。しかしながら、この方法は燃焼度からの核物質量の推定であり、核物質と核分裂生成物の直接的な確認とはなっていない。また、試料ごとの放射化学分析による確認もコストや被ばく線量の増大となるため、簡易かつ可能な限り確実性の高い評価方法が望まれている。
【0006】
前記の課題を解決するものとして試料の外側から非破壊・非接触で測定する方法が考えられる。例えば、本発明者等は、エネルギー分解能が十分でなかった従来の放射線測定器に代えて、高分解能の放射線測定器である超伝導相転移端温度計(TES)型マイクロカロリーメータを超ウラン元素測定用として開発し、具体的にLX線測定を行うことによってプルトニウム(Pu)及びアメリシウム−241(Am−241)を識別できる方法を提案した(特許文献2を参照)。
【0007】
また、特許文献3には、非破壊・非接触の蛍光X線分析において短時間に正確な分析を行うために、計数効率は小さいがエネルギー分解能の優れたセンサと、エネルギー分解能は悪いが計数効率の優れたセンサとを並置させたエネルギー分散型X線検出システムが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の特許文献2に記載の方法は、LX線のエネルギーが近い超ウラン元素の2種類を識別することを目的に、TES型マイクロカロリーメータによって1keV以上30keV未満のエネルギー範囲で観測できる低エネルギーのLX線放射率データに着目したものである。したがって、使用済み燃料中又は燃料デブリ中の超ウラン元素を分析する方法として、そのまま適用することはできない。使用済み燃料中又は燃料デブリ中には、超ウラン元素とともに核分裂生成物が混在しており、この核分裂生成物が低エネルギーLX線の測定感度の大幅な低下とノイズ発生の要因となっているためである。
【0010】
同様に、前記の特許文献3に記載の方法も、使用済み燃料中又は燃料デブリ中の超ウラン元素を分析する方法として具体的に適用した例が何等開示されておらず、そのような目的に適した分析システムとして使用できるものなのか否かが不明である。
【0011】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、高分解能の放射線測定器であるというTES型マイクロカロリーメータの特徴を生かすとともに、使用済み燃料中又は燃料デブリ中に核分裂生成物と混在して含まれる超ウラン元素量の定量分析に最適な分析条件及び解析方法を新たに見出すとともに、測定の低ノイズ化を実現できる装置構成を採用することによって、非破壊・非接触で、且つ、短時間に高精度で分析を行うことができる超ウラン元素の分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、TES型マイクロカロリーメータによる分析において、使用済み燃料中又は燃料デブリ中に混在する核分裂生成物による影響を最小限に抑える条件として、超ウラン元素から発生する低エネルギーのLX線放射ではなく、より高エネルギーのKX線又はγ線に着目してこれらのエネルギー領域の測定を行うことによって上記の課題を解決できることを見出して本発明に到った。さらに、TES型マイクロカロリーメータ測定から求めることができる超ウラン元素と核分裂生成物との正確な組成比に基づいて、ユーロピウム等の核分裂生成物を収納容器に入れた状態で行う高感度の検出方法と併用することによって、より高精度の超ウラン元素の定量分析が行えることが分かり、本発明に到った。
【0013】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]本発明は、使用済み燃料中又は燃料デブリ中に核分裂生成物と混在して含まれる超ウラン元素の分析方法であって、超伝導相転移端温度計(TES)型マイクロカロリーメータを用いて前記使用済み燃料又は燃料デブリからの
γ線を観測するステップと、前記TES型マイクロカロリーメータによる測定において30keV〜150keVのエネルギー範囲内に現れる前記超ウラン元素
及び前記核分裂生成物のそれぞれに起因する
γ線ピーク値を測定するステップと、
前記測定されるγ線ピーク値を用いて、前記超ウラン元素に起因するγ線ピーク値と前記核分裂生成物に起因するγ線ピーク値との比から、前記使用済み燃料中又は燃料デブリ中に含まれる前記超ウラン元素と前記核分裂生成物との組成比を求めるステップと、前記使用済み燃料又は燃料デブリを収納した収納容器内に存在する前記核分裂生成物から放射される1MeV以上の高エネルギーのγ線ピーク値を、センサを用いて計数値として測定することによって前記核分裂生成物の量を求めるステップと、前記核分裂生成物の量を求めるステップによって求められた前記核分裂生成物の量から、前記超ウラン元素と前記核分裂生成物との組成比に基づいて前記超ウラン元素の量を求めるステップとを有する、核分裂生成物と混在した超ウラン元素の分析方法を提供する。
[2]本発明は、前記センサが、ゲルマニウム(Ge)半導体検出器であることを特徴とする前記[1]に記載の核分裂生成物と混在した超ウラン元素の分析方法を提供する。
[3]本発明は、前記TES型マイクロカロリーメータが、TES素子、超伝導量子干渉計(SQUID)及び前記TES素子と前記SQUIDを冷却するための冷却装置を有し、前記TES素子及び前記SQUIDは、前記冷却装置から発生する微弱振動の伝搬を抑制するために、前記冷却装置から分離して浮かした状態で設置されることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の核分裂生成物と混在した超ウラン元素の分析方法を提供する。
[4]本発明は、前記超ウラン元素がU−235、U−238、U−237、Pu−238、Pu−239、Pu−240及びAm−241の群から選ばれる少なくとも一つの元素であり、前記核分裂生成物がEu−154、Eu−155、Cs−137/Ba−137m、Cs−134、Ce−144の群から選ばれる少なくとも一つの元素であることを特徴とする前記[1]〜[3]の何れかに記載の核分裂生成物と混在した超ウラン元素の分析方法を提供する。
[5]本発明は、前記超ウラン元素がPu−239であり、前記核分裂生成物がEu−154であることを特徴とする前記[4]に記載の核分裂生成物と混在した超ウラン元素の分析方法を提供する。
[6]本発明は、前記[3]に記載の超ウラン元素の分析方法において使用する分析装置であって、前記超伝導相転移端温度計型マイクロカロリーメータは、超伝導相転移端温度計(TES)素子、超伝導量子干渉計(SQUID)及び前記TES素子と前記SQUIDを冷却するための冷却装置を有し、前記TES素子及び前記SQUIDを搭載する基板が、前記冷却装置に当接するコールドステージから1mm〜20mmの間隔に分離して浮かした状態で設置されることを特徴とする、核分裂生成物と混在した超ウラン元素の分析装置を提供する。
[発明の効果]
【発明の効果】
【0014】
本発明の分析方法は、使用済み燃料又は燃料デブリの一部をサンプリングした試料を用いてTES型マイクロカロリーメータによって30〜150keVのエネルギー範囲で超ウラン元素から発生するKX線のX線又はγ線を超高分解能で測定することを基本とする。それによって、超ウラン元素に混在される核分裂生成物からの影響をほとんど考慮することなく、超ウラン元素の定量分析を非破壊・非接触で、且つ、短時間に精度良く行うことができる。
【0015】
また、TES型マイクロカロリーメータによる測定から求められる超ウラン元素と核分裂生成物との正確な組成比に基づいて、ユーロピウム等の核分裂生成物を収納容器に入れた状態で分析を行った前記核分裂生成物の高感度の濃度測定結果から超ウラン元素量の定量分析をより高精度に行うことができる。この分析方法は、原子力関連施設等において使用済み燃料又は燃料デブリを収納した実際の容器に含まれる超ウラン元素の量を高精度で分析できるため、現状の使用に即した形で、超ウラン元素の量を正確に把握できるという効果が得られる。
【0016】
以上のように、本発明の分析方法は、前記核分裂生成物から燃焼度を推定して核物質量を評価する従来の方法と比べて、TES型マイクロカロリーメータの超高分解能測定により精度の高い遠隔・非破壊の簡易な核物質の定量評価が可能となり、使用済み燃料中又は燃料デブリ中の核物質の迅速な計量、測定作業の被ばくの低減が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
超伝導相転移端温度計(TES)型マイクロカロリーメータは、Ge半導体検出器よりも高いエネルギー分解能を有する放射線分析装置として周知のものであり、100eV以下のエネルギー分解能を有する。TES型マイクロカロリーメータは、従来から元素分析や不純物検査に利用されており、近年は前記の特許文献1に開示したように、プルトニウム等の超ウラン元素のLX線(10〜20keV)分析にも適用できることが分かった。
【0019】
しかしながら、使用済み燃料のように超ウラン物質及びその同位体だけでなく、他の元素の核物質や核分裂生成物が同時に含まれる場合には、前記の特許文献1に記載の方法では超ウラン元素の量を高精度に測定することが困難である。同様に、燃料集合体が溶融したのち冷えて固まった燃料デブリ分析の場合も測定を非常に難しくしている。特に、燃料デブリは大きく破損した燃料や燃料及び炉内構造物が溶融して冷えて固まったものを含むため、そのような混合状態にある核物質の定量分析手段としてTES型マイクロカロリーメータを使用することは全く認識されていなかった。これは、TES型マイクロカロリーメータは、Ge半導体と比べてエネルギー分解能は高いものの、測定感度を意味する計数効率が非常に小さいことに起因する。測定対象物以外の物質、例えば、前記核分裂生成物等を多く含む試料の測定においては、この核分裂生成物等によって測定感度が低下する傾向にある。特に、10〜20keVの低エネルギーを有するLX線に着目した分析では、測定感度の低下が顕著であり測定対象物である超ウラン元素の測定ピークが非常に小さいものとなるため、高精度で、再現性の良い定量分析結果が得られないというのが実情であった。
【0020】
そこで、使用済み燃料又は燃料デブリを測定試料としたときに、TES型マイクロカロリーメータが有する高いエネルギー分解能という特徴を活かしながら、超ウラン元素の定量分析を可能とする十分な測定感度を検出できる測定条件について検討した。その結果、30〜150keVのエネルギー範囲内で観測できるKX線又はγ線は、前記FPと混在する場合であっても超ウラン元素に起因するピークが明確に観測され、その定量分析を行うに十分なピーク値を示すことが分かった。本発明は、このような従来にない新しい知見に基づいてなされたものである。
【0021】
[本発明の分析方法のフロー]
本発明の分析方法のフローを
図1の概念図に示す。本発明の分析方法は、次の2つの方法が含まれる。
図1において点線で囲まれたS1及びS2の各ステップを有する分析方法が本発明の基本となるものである。
図1の点線で囲まれた分析方法を基にさらに発展させた分析方法が本発明によるもう一つの分析方法であり、
図1に示すS1及びS2のステップ、及びS3〜S5の各ステップを有する。この分析方法は、
図1において点線で囲まれた分析方法(S1〜S2)と比べて、使用済み燃料又は燃料デブリに核分裂生成物と混在して含まれる超ウラン元素の量をより高精度で測定することができるだけでなく、原子力関連施設等において現状の使用に即した形で、超ウラン元素の量を正確に把握できるという利点を有する。
【0022】
使用済み燃料又は燃料デブリ1は、通常、収納容器2に収納されて搬送又は貯蔵されるため、収納容器2から代表的な使用済み燃料又は燃料デブリ3を取出す。これは、使用済み燃料又は燃料デブリ1には溶融したウランや被覆材料等の重金属物質等が含まれており、ある程度の小さな試料でないと、自己の遮蔽能力効果によって中心部の低エネルギーのKX線又はγ線が透過せず精度が悪くなるためである。その場合、代表的な使用済み燃料又は燃料デブリ3は、同じ起源である使用済み燃料又は燃料デブリ1を均一に混合分散された試料から少量採取するものなので、核物質である超ウラン元素の量及び超ウラン元素量と核分裂生成物との割合(組成比)は平均的に同じであるとみなすことができる。本発明の分析方法で使用する代表的な使用済み燃料又は燃料デブリ3の量は、測定精度と安全性の観点から10mg〜1000mgの範囲が好ましく、100mg〜500mgの範囲がより好ましい。
【0023】
図1の点線内に示す各ステップに従い、まず、代表的な使用済み燃料又は燃料デブリ3について、TES型マイクロカロリーメータ4によって超ウラン元素及び核分裂生成物のKX線又はγ線のスペクトル分析を行う(ステップS1)。次いで、30〜150keVのエネルギー範囲内で超高分解能で観測される超ウラン元素に起因するKX線又はγ線のピークについて、それらのピーク値を測定する(ステップS2)。さらに、超ウラン元素に起因するKX線又はγ線のピーク値から、代表的な使用済み燃料又は燃料デブリ3に含まれる超ウラン元素の量を求める。
【0024】
TES型マイクロカロリーメータ4の測定で得られるKX線又はγ線のピーク値は、計数値(カウント数)で得られる。そのため、例えば、超ウラン元素の量をベクレル単位(Bq/kg)等で表したい場合は、予め求めた前記超ウラン元素の既知量から決まるγ線ピーク値又はX線ピーク値を用いて、そのピーク値に相当する計数値とベクレル値との関係式から、必要に応じて換算式を利用して超ウラン元素の量をベクレル値として換算することができる。本発明においては、ベクレル値の他にも、シーベルト(Sv)、グレイ(Gy)又はラド(rad)等の表示によって放射線濃度を換算しても良い。
【0025】
上記で説明したように、本発明の基本となる分析方法は工程数が少なく測定が簡便であるため、短時間で測定結果を得ることができる。TES型マイクロカロリーメータによる測定は一般的に計数効率が低いものの、本発明の目的とする超ウラン元素の定量分析を可能とする程度の精度を得ることができる。さらに、TES型マイクロカロリーメータで使用される冷却器からの微弱振動を抑える方法を採用すれば測定ノイズが少なくなり、高精度の定量分析が可能となる。TES型マイクロカロリーメータの概要及び振動対策方法については後で説明する。
【0026】
しかしながら、TES型マイクロカロリーメータによる測定は、計数効率の高いセンサであるゲルマニウム(Ge)半導体検出器と比べると、
図2の模式図に示すように、超ウラン元素の量に対する計数値の濃度変化の勾配が小さい。
図2の縦軸は対数表示であり、TES型マイクロカロリーメータは計数値の濃度変化の勾配が約2桁以上も小さくなっている。そのため、超ウラン元素の微妙な変化量に対しては測定感度が必ずしも十分とは言えず、加えて、微量の試料で分析を行う場合には定量分析結果の誤差が生じやすくなる。
【0027】
本発明は、上記の技術課題を解決し、より高精度で再現性に優れる定量分析を行うために、基本となる分析方法である
図1に示すS1及びS2のステップに加えて、S3〜S6の各ステップを有する分析方法が含まれる点に大きな特徴がある。以下に、S1〜S6の各ステップによる本発明の分析方法を説明する。
【0028】
まず、
図1のS1及びS2のステップによって、TES型マイクロカロリーメータによる測定から30keV〜150keVのエネルギー範囲内に現れる超ウラン元素及び核分裂生成物のそれぞれに起因するγ線ピーク値を測定する。次に、S3のステップにおいて、前記超ウラン元素に起因するγ線ピーク値と前記FPに起因するγ線ピーク値との比から、使用済み燃料中又は燃料デブリ中に含まれる前記超ウラン元素と前記FPとの組成比を求める。
【0029】
一方で、S4のステップにおいて、前記使用済み燃料又は燃料デブリを収納した収納容器2内に存在する前記核分裂生成物から出射される高エネルギー(1MeV以上)のγ線を、計数効率に優れたセンサ5を用いて測定する。計数効率に優れたセンサ5としては、ゲルマニウム(Ge)半導体検出器、Si半導体検出器及びSi(Li)半導体検出器等が挙げられるが、本発明においては、放射線検出器として高い計数効率を有し、使用実績のあるGe半導体検出器が好適である。それによって、S5のステップで前記核分裂生成物の量を評価し、その量を求める。さらに、S6のステップにおいて、S5のステップで求めた前記核分裂生成物の量から、ステップ3において評価して求めた前記超ウラン元素と前記核分裂生成物との組成比に基づいて、前記超ウラン元素の量を求める。
【0030】
上記のS1〜S6のステップを有する分析方法において、ユーロピウム等のFPの高エネルギーのγ線に着目し、Ge半導体検出器等の高い計数効率を有するセンサによってそのγ線の測定を行う理由は次の通りである。
【0031】
第1に、ユーロピウム等の核分裂生成物は、30〜150keVのエネルギー範囲内だけでなく、1MeV以上という高エネルギー領域においてγ線ピークの観測が可能である。1MeV以上の高エネルギーのγ線は、自己の遮蔽に影響されにくく、収納容器に吸収されることもほとんど無いため、高精度の測定ができる。それに対して、プルトニウム等の超ウラン元素は1MeV以上の高エネルギーを有するγ線はほとんどなく、それらのγ線の放出率も低いため、観測することができない。また、80〜150keVのエネルギー範囲で観測されるプルトニウム等のγ線は、エネルギーが相対的に低いため自己の遮へいによる減衰の影響を無視できない。同様に、30〜60keVのエネルギー範囲で観測される前記FPからのKX線も減衰の影響が避けられず、加えて、1MeV以上という高エネルギー領域でKX線を観測することは無理である。
【0032】
第2に、TES型マイクロカロリーメータではMeVレベルまでの高いエネルギーを測定するには、まだ効率が悪い。そのため、1MeV以上の高エネルギーのγ線の測定を行う場合、Ge半導体検出器等の高い計数効率を有するセンサが好適である。加えて、前記核分裂生成物は収納容器に入れた状態で測定することによって測定試料の量を多くすることができるため、γ線の測定感度が高まる効果がある。また、燃料デブリはその中に含まれる燃料物質の分布や濃度が不均一になるものが多く、従来から重量や濃度等から定量することは困難であった。そのため、収納容器に入れた多くの試料量を測定することによって燃料物質に含まれる前記核分裂生成物の平均的な量を定量化して求める必要がある。
【0033】
このように、上記のS1〜S6のステップを有する分析方法は、高エネルギー(1MeV以上)のγ線を有する核分裂生成物に着目し、Ge半導体検出器等によって高精度の定量測定を行う一方で、超ウラン元素と核分裂生成物との組成比は、エネルギー分解能が非常に高いTES型カロリーメータを用いて測定することによって正確に評価することができる。そして、両者の組成比の正確な測定結果に基づいて、高精度で測定した前記核分裂生成物の量から超ウラン元素の定量分析をより高精度に再現性良く行うことが可能になる。
【0034】
本発明においては、
図1に示すS1及びS2のステップを有する分析方法、及びS1〜S6のステップを有する分析方法のどちらかを、分析に要する手間と時間及び分析精度に応じて選択することができる。本発明の分析方法については、TES型マイクロカロリーメータによる測定スペクトルを例示しながら、後述の実施形態で詳細に説明する。
【0035】
[TES型マイクロカロリーメータの原理]
本発明で使用するTES型マイクロカロリーメータの原理を、
図3を用いて説明する。
【0036】
図3に示すように、TES型マイクロカロリーメータ(TES検出器ともいう。)4は、TES素子6、吸収体(Absorber)7及び超伝導量子干渉計(SQUID)8で構成される。超伝導に転移する状態にTES素子6を極低温に冷却しておくと、X線やγ線などが吸収体に入射すると吸収体の温度(T)が上昇し、TES素子6の電気抵抗(R)が急激に変化する。定電圧バイアス下でTES素子6を駆動させる場合、この急激な電気抵抗の変化によって電流の流れが変化し、この電流を磁場に変換して高感度な磁気センサであるSQUID8で増幅して読出すことにより、高感度かつ低ノイズに放射線入射信号を検出することができる。この信号が取り出され、波高分光器(図示せず)でエネルギーの分析が行われスペクトル表示等が行われる。
【0037】
図3に示すTES型マイクロカロリーメータは、TES素子6及びSQUID8の両者が冷却装置である冷凍機と熱的に接続する冷凍機コールドステージ上に搭載されて、約100mK(ケルビン)まで冷却される。しかしながら、この冷凍機コールドステージには冷凍機のパルス管駆動による機械振動によって微弱な振動が侵入することがあり、それがTES検出器のノイズ発生の原因となっている。そこで、本発明で使用するTES型マイクロカロリーメータは、そのような微弱振動を極力低減できる構成を備えることが好ましい。
【0038】
図4に、本発明で使用するTES型マイクロカロリーメータの極低温ステージ振動抑制システムを示す。
図4の(a)及び(b)は、それぞれ極低温ステージ振動抑制システムの上面図と右側面図である。
図4に示すように、TES素子6及びSQUID8を搭載した基板9は、冷却器として機能する冷凍機に当接する冷凍機コールドステージ10から浮かして分離して設置する。基板9は、冷凍機コールドステージ10からの突起11に細い糸12で釣り上げるようにして固定されている。また、基板9と冷凍機コールドステージ10とは、熱伝導性素材13を介して熱伝達性を確保する。熱伝導性素材13としては、銅、金、等の金属、薄膜の高熱伝導性セラミックス、及び熱伝導性のプラスチックの何れかの素材からなる線又は帯(フィルム)を使用することができる。本発明においては熱伝導性及び強度の点から銅、金がより好ましい。熱伝導性金属は、ビス止め等の機械的な方法、半田等による接合又は接着剤等によって固定することができる。また、前記の細い糸12は、振動の伝搬を抑制する機能を有するものであれば良く、繊維又はゴム等の弾性体を使用できる。
【0039】
図4において、TES素子6及びSQUID8を搭載した基板9は、冷凍機コールドステージ10の上部に配置し、冷凍機コールドステージ10から離して浮かした状態で設置する。そのような配置であれば、冷凍機コールドステージ10からの冷気によって基板9に搭載したTES素子6及びSQUID8を冷却する効果が得られる。そのとき、基板9と冷凍機コールドステージ10との間隔はできるだけ狭くする方が良いが、逆に近すぎると微弱な振動の伝搬を抑制する効果が薄れる。そのため、両者の間隔は1mm〜20mmの範囲に設定するのが実用的である。
【0040】
[超ウラン元素]
本発明で分析する超ウラン元素としては、U−235、U−238、U−237、Pu−238、Pu−239、Pu−240及びAm−241の群から選ばれる少なくとも一つの元素が挙げられる。本発明の超高分解能を有するTES型マイクロカロリーメータによって、これらの元素は明確に識別して分析することができる。
図1に示すS1及びS2のステップを有する本発明の基本となる分析方法においては、これら以外にもプルトニウム(Pu)等のKX線を測定しても良い。また、
図1に示すS1〜S6のステップを有する分析方法では、使用済み燃料又は燃料デブリの核物質量の確認のときに一般的に着目されているPu−239のγ線を測定して分析を行うのが実用的である。
【0041】
[核分裂生成物]
本発明で分析する核生成生成物としては、Eu−154、Eu−155、Cs−137/Ba−137m、Cs−134、Ce−144の群から選ばれる少なくとも一つの元素が挙げられる。これら何れの元素もγ線の測定が可能であるが、Cs−137/Ba−137m、Cs−134及びCe−144は揮発性が高く外部への飛散の可能性がある。そのため、揮発性が小さく、且つ、減衰の影響が少ないために1MeV以上の高エネルギーのγ線ピークが明瞭に観測できるという点で、本発明の分析対象物としてはEu−154が好適である。Eu−154のγ線を分析するときは、1.274MeV又は1.596MeVのγ線に着目するのが実用的である。
【0042】
次に、具体的な実施形態によって本発明を説明するが、本発明は、これらの実施形態に限定されない。
【0043】
〈第1の実施形態〉
第1の実施形態によって、本発明の基本となる
図1のS1及びS2の各ステップを有する分析方法を説明する。
図5に、TES型マイクロカロリーメータで実際に検出したプルトニウムのエネルギースペクトルを示す。
図5には、Ge半導体検出器で検出したプルトニウムのエネルギースペクトルも合わせて示している。
【0044】
図5に示すエネルギースペクトルにおいて観測される超ウラン核種であるプルトニウム(Pu)のKX線とγ線の各ピークは、TES型マイクロカロリーメータの方がGe半導体検出器よりも明確に細かく分離して観測できることが分かる。このように、TES型マイクロカロリーメータは、Ge半導体検出器に比べて非常に高いエネルギー分解能を有している。この高いエネルギー分解能によって、プルトニウム等の超ウラン元素からなる核物質を高精度で検出することが可能である。
【0045】
図5のエネルギースペクトルで観測されるPuに起因するKX線又はγ線のピークからその計数値を求めればPuの量を評価することができる。
図5にはPuに起因するピークとしてKX線とγ線の両者が観測できるが、両者のピークの計数値(カウント数)を使用してそれぞれのPuの分析量を対比すれば、測定の信頼性を高める効果が得られる。
【0046】
図1に示す方法に従って、収納容器2に収納されている使用済み燃料又は燃料デブリ1から代表的な使用済み燃料又は燃料デブリ3を100〜500mgの範囲でサンプリングして、非接触でTES型マイクロカロリーメータによる測定を行う。その結果、
図5に示すものと同じようなエネルギースペクトルが測定され、PuのKX線とγ線の各ピークから、使用済み燃料又は燃料デブリに含まれるPuの量を求める。このようにして測定したPu量は、従来の破壊又は溶解による放射化学分析方法で求めたPu量とは絶対値20%以内で一致する。さらに、TES型マイクロカロリーメータの測定による方法は、処理及び測定のための時間を従来の放射線化学分析方法よりも短縮することができる。このように、本実施形態の方法は、測定時間の短縮化に大きく貢献するともに、使用済み燃料又は燃料デブリに含まれるPuの量を精度良く分析できる。
【0047】
本実施形態は、核物質としてPuの超ウラン元素に注目してそのKX線又はPu−239のγ線について分析を行った結果であるが、それ以外にも、
図5に一部示されたアメリシウム(Am−241)や、さらに、ウラン(U−235、U−238、U−237)又はPu−238、Pu−240に着目した分析からも、同様に超ウラン元素の量の分析を行うことができる。
【0048】
また、超ウラン元素の量を
図5に示すエネルギースペクトルで観測される各ピークの計数値(カウント数)から直接的に求める方法だけでなく、その計数値(カウント数)を、予め求めた超ウラン元素の既知量から決まるγ線ピーク値又はX線ピーク値と対比させて、本実施形態で求めた超ウラン元素の量の妥当性の確認を行うことができる。さらに、上記で述べたように、同じ方法を用いて、本実施形態で得られた計数値を、換算計数を用いて他の放射線単位(例えば、ベクレル単位等)に換算した放射線量として表しても良い。この換算計数を用いて放射線量を表す方法も、前記の各ピークの計数値(カウント数)から直接的に求める方法のひとつとして利用できる。
【0049】
〈第2の実施形態〉
第2の実施形態によって、
図1のS1〜S6の各ステップを有する本発明の分析方法を説明する。
図6及び
図7に、TES型マイクロカロリーメータで検出した核分裂生成物のエネルギースペクトルを、それぞれ25〜65keV及び60〜150keVのエネルギー範囲に分けて示す。
図6及び
図7には、Ge半導体検出器で検出した核分裂生成物のエネルギースペクトルも合わせて示している。
【0050】
図6及び
図7に示すように、TES型マイクロカロリーメータの高いエネルギー分解能によって前記核分裂生成物(Cs−137、Ce−144、Eu−154及びEu−155)の各吸収ピークの識別が可能となる。一方、Ge半導体検出器による検出では、エネルギー分解能が劣るため、前記核分裂生成物の識別が十分にできないことが分かる。
図6及び
図7のエネルギースペクトルで観測される各核分裂生成物のγ線ピークからその計数値を求めれば各核分裂生成物の量を評価することができる。
図5には各核分裂生成物に起因するピークとしてγ線の他にもKX線が観測されているが、KX線は後述する1MeV以上の高エネルギー領域では観測されない。そのため、本実施形態においては各核分裂生成物のγ線に注目する。
【0051】
図1に示すS1及びS2の各ステップに従って、代表的な使用済み燃料又は燃料デブリ3を用いて、超ウラン元素及び前記核分裂生成物の検出を行う。本実施形態は、検出超ウラン元素として
図5に示すPu−239のγ線ピーク、及び代表的な核分裂生成物として
図7に示すEu154のγ線ピークにそれぞれ着目し、それぞれの計数値(カウント数)を測定する。そして、S3のステップにおいて、両者の計数値の比から、Pu−239とEu−154との組成比を求める。
【0052】
次いで、
図1に示すS4及びS5のステップに従って、収納容器2に収納されている使用済み燃料又は燃料デブリ1について、収納容器2の外部から非破壊及び非接触でGe半導体検出器によるγ線検出を行う。その場合、
図8に示すようなエネルギースペクトルが測定される。
図8は、Ge半導体検出器による米国スリーマイルアイランド2号機(TMI−2)の燃料デブリのγ線スペクトル例であるが、1MeV以上の高エネルギー領域で各核分裂生成物に起因するγ線ピークが明瞭に識別して観測される。このように、使用済み燃料又は燃料デブリ1を収納容器2に入れた状態で測定しても、前記核分裂生成物のγ線を高精度に測定することができる。これは、減衰が非常に小さな1MeV以上の高エネルギーを有するγ線を、計数効率の高いGe半導体検出器で検出するためである。
【0053】
引き続き、
図1に示すS6のステップに従って、核分裂生成物としてEu−154に着目し、
図8に示す1.27MeV又は1.59MeVのエネルギーで観測されるEu−154に起因するγ線の計数値(カウント数)を測定してEu−154の量を求める。そして、先のS3のステップで評価して正確に求めたPu−239とEu−154との組成比から、超ウラン元素であるPu−239の量を求める。
【0054】
このようにして測定したPu量は、従来の破壊又は溶解による放射化学分析方法で求めたPuの測定量とは絶対値20%以内で一致し、Pu量が微量であっても同じ精度で測定することができる。本実施形態の方法は、前記の第1の実施形態と同じように測定時間の短縮化に貢献するともに、使用済み燃料又は燃料デブリに含まれるPuの量を微量の場合でも高精度で分析できるという利点を有する。
【0055】
以上のように、本発明によれば、使用済み燃料又は燃料デブリの一部をサンプリングした試料を用いて、TES型マイクロカロリーメータによって超高分解能で測定した30〜150keVのエネルギー範囲で超ウラン元素から発生するKX線又はγ線に着目することによって、超ウラン元素に混在される核分裂生成物からの影響をほとんど考慮することなく、非破壊・非接触で、且つ、短時間に精度良く超ウラン元素の定量分析を行うことができる。また、TES型マイクロカロリーメータによる測定から求められる超ウラン元素と核分裂生成物との正確な組成比に基づいて、ユーロピウム等の核分裂生成物を収納容器に入れた状態で分析を行った前記FP核分裂生成物の高感度の濃度測定結果から超ウラン元素量をより高精度に分析することができる。
【0056】
このように、本発明の分析方法は、TES型マイクロカロリーメータの超高分解能測定により精度の高い遠隔・非破壊の簡易な核物質の定量評価が可能となり、使用済み燃料中又は燃料デブリ中の核物質の迅速な計量、測定作業の被ばくの低減が可能となる。また、原子力関連施設等において使用済み燃料又は燃料デブリを収納した実際の容器に含まれる超ウラン元素の量について現状の使用に即した形で正確に把握できるという点で、その有用性は極めて高い。