(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記グラフェンは、ラマンスペクトル測定において、Gバンド(1600cm−1)とDバンド(1350cm−1)とのG/D比が0.5〜10であることを特徴とする請求項1又は2に記載のグラフェン被覆アルミナ。
小さくとも1μmの平均径を持つアモルファス構造を有するアルミナ、小さくとも1μmの平均径を持つアモルファス構造を有するアルミノケイ酸塩、並びに前記アルミナ及び/又はアルミノケイ酸塩を含有するシート状体のいずれか一種以上の表面を、グラフェンで被覆することを特徴とする表面疎水化処理方法。
【背景技術】
【0002】
アルミナ(「酸化アルミニウム」と称されることがある。)は、硬度、機械強度、及び耐熱性が高く、絶縁性及び熱伝導性に優れ、化学的に安定であり、代表的な工業用セラミックスの1つである。これらの優れた化学的性質により、アルミナは各種工業において多量に生産及び使用されている。近年では、これらアルミナ自体の特性とは相反する特性が付与された、又はアルミナの特性がさらに強化されたアルミニウム化合物及びアルミナ複合体の需要が高まっている。
【0003】
例えば、放熱材料として、アルミニウム化合物の一種であり、熱伝導率に優れている窒化アルミニウム又は炭化アルミニウム等が用いられている。しかし、窒化アルミニウム及び炭化アルミニウムのいずれも、加水分解によって可燃性ガスを発生することがあり、引火の恐れのない用途に使用が限られるという問題がある。
【0004】
また、アルミナの表面は親水性であることから、疎水性樹脂とアルミナとは混合性に難があり、アルミナを疎水性樹脂に溶かしたフィラーを得ることが難しい。よって、断熱材及びフィラー等の材料としてアルミナを使用する際には、リン酸化合物、スルホン酸化合物、及びシラン化合物等によってアルミナ表面を疎水化し、疎水化した後のアルミナを疎水性樹脂等と混合させることが行われている。
【0005】
次に、アルミナ複合体は、電池、コンデンサ、キャパシタ、電線等の電子機器を構成する電子材料として使用されることがある。これら電子機器を構成する材料は、電磁波シールド効果、静電気除去機能、及び帯電防止機能等を有することが求められる。一方で、アルミナは、電磁波シールド効果を有しておらず、電気を通しにくい不導体であるという問題がある。よって、電子機器を構成する材料としてアルミナを用いる際には、アルミナを加工し、導電性及び電磁波シールド効果等がアルミナに付与することが求められている。特に、電磁波シールド効果については、例えば10MHz〜1000MHz以下付近の周波数領域における電磁波のシールド材については、従来多数の技術が公開されているが、例えば125KHz〜8MHz付近の低周波領域における電磁波のシールド材はこれまであまり知られていない。近年では、スイッチング端子、サーボモータ、及び隣接ケーブル等から発せられる低周波領域の電磁波ノイズをシールドするシールド材が、特に求められている。
また、固体高分子型燃料電池に使用されるガス拡散層基材もまた電子の集電機能を有するので電子材料と称することができる。ガス拡散層基材には炭素繊維が使用されるものの、ガス拡散層の導電性機能については更に改善の余地がある。
【0006】
アルミナを電子機器の構成材料として用いるために、アルミナ表面をグラフェンで被覆することにより、アルミナの特性を大きく改善させたアルミナ複合体の一種であるグラフェン被覆アルミナの研究が従来行われている。一例として、粒子状のアルミナを化学気相成長法によりグラフェンで被覆したグラフェン被覆アルミナが考案されている。例えば、特許文献1には、「酸化物粒子焼結体の粒界領域に炭素薄膜が形成された導電性セラミックス焼結体であって、前記酸化物粒子は、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物およびアルミノケイ酸塩のうちのいずれか1種以上からなり、前記炭素薄膜は、前記酸化物粒子のそれぞれの表面上に形成され該表面と平行なグラフェン膜からなり、かつ前記焼結体内で3次元的に電気的接続しており、前記焼結体の電気伝導率が、1000S/m以上であることを特徴とする導電性セラミックス焼結体」が開示されている(特許文献1の請求項1)。
【0007】
しかし、従来のグラフェン被覆アルミナは、最大でも100nm以下の大変微小な粒径を有するナノ粒子であり、成形が困難であるという問題がある。具体的に、グラフェン被覆アルミナのナノ粒子から成形品を得るには、グラフェン被覆アルミナをプレス加工した後に放電プラズマ焼結装置で焼成する必要がある。よって、従来のグラフェン被覆アルミナを成形品として実用化するには、煩雑な工程が必要である。従来のグラフェン被覆アルミナを、工業的に利用可能な程度の量を産生し、このグラフェン被覆アルミナの成形体を工作機械部品に用いるには、多大なコストを要し、実用範囲が限られている。さらに、引用文献1に開示された発明では、アルミニウム酸化物として、α−アルミナが例示されている(引用文献1の段落番号0019欄参照)。α−アルミナは、六方晶型の結晶構造を有し、アモルファス構造(「非晶質構造」と称されることがある。)を有さないことが知られている。本発明者らの検討によると、アモルファス構造を有しないアルミナでは、アルミナの表面に層構造を有するグラフェンを形成させることが難しいという問題がある。
【0008】
また、電気回路上にアルミを蒸着し、陽極酸化法等により電気回路上におけるアルミをアルミナとし、化学気相成長法によりアルミナの表面にグラフェンを積層する技術が開示されている(特許文献2及び特許文献3参照)。これらの技術によると、電気回路等の微細構造を作成することは出来るが、機械部品や断熱材量を作成することは出来ない。また、これらの技術によると、アルミの蒸着、陽極酸化、及び化学気相成長という複数の工程を行う必要があり、安価に大量のグラフェン被覆アルミナを生産することが困難である。
【0009】
アルミナを用いた電磁波シールド材としては、熱伝導性素材としてアルミナを含むフィラーと、電磁波吸収層として導電性金属を含む樹脂層と、を複合した材料が提案されている(特許文献4参照)。
しかし、特許文献4において使用されているアルミナは電磁波シールド効果には何ら寄与しておらず、アルミナと導電性金属との2種類の材料を用いており、製造効率に難がある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るグラフェン被覆アルミナは、小さくとも1μmの平均径を持つアモルファス構造を有するアルミナ、及び/又は小さくとも1μmの平均径を持つアモルファス構造を有するアルミノケイ酸塩を有する。アモルファス構造を有するアルミナとしては、例えば、アモルファスアルミナ及びγアルミナ等が挙げられる。アルミノケイ酸塩は、ケイ酸塩中におけるケイ素原子の一部がアルミニウム原子に置換されるとともに、Si及びAl以外のカチオンM
+を有する。アルミノケイ酸塩は、一般に、xM
2O・yAl
2O
3・zSiO
2・nH
2Oという化学式で表される。アモルファス構造を有する限りにおいて、前記x、y、z、及びnの値及び元素Mの種類は特に制限されない。本発明に係るグラフェン被覆アルミナは、前記アルミナと前記アルミノケイ酸塩との一方のみを有していてもよいし、両方を有していてもよい。また、本発明に係るグラフェン被覆アルミナは、一種類の前記アルミナを有していてもよく、複数種類の前記アルミナを有していてもよい。さらに、本発明に係るグラフェン被覆アルミナは、一種類の前記アルミノケイ酸塩を有していてもよく、複数種類の前記アルミノケイ酸塩を有していてもよい。尚、以下において、前記アルミナ及び前記アルミノケイ酸塩のことを総称して、単に「アルミナ等」と称することがある。
【0020】
本発明における前記アルミナ等はアモルファス構造を有していればよく、本発明の効果を奏する限りにおいて結晶化度は特に制限されない。グラフェン被覆アルミナにおける前記アルミナ等がアモルファス構造を有することは、グラフェン被覆アルミナからアルミナ等のみを分離し、このアルミナ等をX線回折法によって分析し、結晶質由来の明確なピークが観察されないことによって確認することができる。また、グラフェン被覆アルミナを製造する際の原料となるアルミナ等がアモルファス構造を有していると、製造後に得られるグラフェン被覆アルミナにおけるアルミナ等もまたアモルファス構造を有する。原料となるアルミナ等にアモルファス構造が含まれていると、アルミナ等の粒子の表面をグラフェンで容易に被覆することができるのに対し、原料となるアルミナ等にアモルファス構造が含まれていないと、アルミナ等の表面におけるグラフェンの形成が困難である。
【0021】
前記アルミナ等の形状は粒子状であっても、また長尺のフィラメント状であってもよく、その形状は特に制限されない。アルミナ等が粒子である場合にその粒子の形状は、例えば、球状体、繊維状体、塊状体、多孔質体等であればよい。前記アルミナ等の粒子が球状体であるときは、球状体の直径を粒子径とする。前記アルミナ等の粒子が繊維状体であるときは、繊維状体における軸線方向の長さを粒子径とする。また、前記アルミナ等の形状が塊状体又は多孔質体であるときは、塊状体又は多孔質体が占める任意の2点間における距離のうち最も大きい距離を粒子径とする。前記アルミナ等が長尺のフィラメント状であるときにはそのアルミナの平均径は長尺状のフィラメントの軸線長さである。前記アルミナ等が前記粒子であるときのその平均径は、前記粒子径を相加平均することによって求められる。例えば、電子顕微鏡によって前記アルミナ等の粒子を観察し、10個以上100個以下、特に好ましくは10個のアルミナ等の粒子の粒径を相加平均することにより、アルミナ等の平均径を求めることができる。なお、この場合の平均径を平均粒子径と称することができる。アルミナ等の平均粒子径は小さくとも1μmの大きさであればよい。アルミナ等の平均粒子径は1μm以上250μm以下であることがより好ましい。
前記アルミナ等の平均粒子径が少なくとも1μm以上であることによって、スタントン−ポッツによって仮説された発がん性に関するリスクを低減することができる。スタントン−ポッツによる仮説は、以下の文献に詳しい。
(1) Pott, F,. Schlipkoter, H. W., Zeim, U., Spurny, K. and Huth, F. : New results fromimplantation experiments with m0neral fibres. In Proceedings of a WHO/IARC Conference : Biological effects of man-made mineral fibres, Vol.2, (Copenhagen, April 20-22, 1982), WHO, Copenhagen(1984)
(2) Pott, F. : Carcinogenicity of fibres in experimental annimals-data and evaluation.
In Bates, D.V., et al. (eds) Assesment of Inhalation Hazards. Spring-Verlag, Berlin(1989)
(3) Stanton, M. F., Layard, M., Tegris, A., et al : Relation of particles dimension to carcinogenicity in amphibole asbestos and other fibrous minerals. Journal of the National Cancer Institute, 65(5) : 965-975(1981)
また、微粉末又は微細繊維の発がん性リスクについては、
(1) セラミックファイバー工業会が公開している“セラミックファイバー製品の取り扱い”の第6頁2.1繊維状物質の健康影響の因子、(1)DIMENSION(サイズ、寸法)の3行目に記載され(以下のURLを参照のこと)、
http://www.rcfa.jp/pdf/rcfa05_01.pdf
また、
(2) 環境省 廃棄物・リサイクル対策 「平成17年度アスベスト含有廃棄物の処理技術調査報告書」の第2章 アスベストの物性 4頁(2)繊維状物質の有害性
図2に示される(以下のURLを参照のこと)。
http://www.env.go.jp/recycle/report/h18-01/index.html
前記アルミナ等が長尺のフィラメント状であるときのその平均径、つまりそのフィラメント状のアルミナ等の軸線方向に直交する断面における径、つまり直径は、10本以上100本以下、特に好ましくは10本のアルミナ等のフィラメントの直径を相加平均することにより、フィラメント状のアルミナ等の平均径を求めることができる。
また、粒子状のグラフェン被覆アルミナの集合体を不織布にする場合には、そのグラフェン被覆アルミナにおけるアルミナ等の平均径は1μm以上250μm以下であることが好ましい。平均粒子径が前記数値範囲内にあることによって、各種形状、特にシート状であるグラフェン被覆アルミナの集合物を容易に製造することができる。
また、グラフェン被覆アルミナの集合体を使用して不織布、織布、編物を形成する場合には、前記長尺状のフィラメントであるグラフェン被覆アルミナを使用することもできる。長尺状のグラフェン被覆アルミナを採用する場合のそのアルミナ等は軸線方向長さについては特に制限がなく、例えば登録商標「ニチビアレフ」にて市販されている、7500mもの繊維長(軸線方向の長さ)を有するアルミナのフィラメントを本発明におけるアルミナに採用することができる。
【0022】
前記アルミナ等の形状は特に制限されないが、アルミナ等の好適な形状はグラフェン被覆アルミナの用途に応じて容易に決定することができる。グラフェン被覆アルミナがこれを強化材とする複合材、グラフェン被覆アルミナの集合体を構造体例えば電線における長尺の導電体とするときなどでは、グラフェン被覆アルミナにおけるアルミナ等は繊維状体又は長尺状のフィラメント状体であることが好ましい。前記繊維状体は、例えば、軸線方向とは垂直な方向における長さ(D)に対する軸線方向における長さ(L)の比(L/D)が、10倍〜100倍程度であればよい。グラフェン被覆アルミナの集合体を用いて形成される構造体の強度及び取扱い時の安全性を向上させることを企図するのであれば、その構造体を使用する際に支障を生じない範囲でアルミナ等の繊維状をなす粒子の繊維長は長いほど好ましい。また、長尺のフィラメント状体であるアルミナ等を用いる場合には、そのアルミナ等の軸線方向長さには特に制限がない。例えば登録商標「ニチビアレフ」にて市販されているアルミナは数千mもの軸線方向長さを有し、このフィラメント状のアルミナも本発明のグラフェン被覆アルミナの原料に好適である。前記した繊維状体及び長尺のフィラメントであるアルミナ等を用いることによって、糸状、シート状、ブロック状、綿状、ブランケット状、ペーパー状、及びフェルト状等の様々な形状を形成するアルミナ等の集合物を得ることができる。このようなアルミナ等の集合物に、グラフェン形成処理を行うことによって、シート状、ブロック状、綿状、ブランケット状、ペーパー状、及びフェルト状等、様々な形状のグラフェン被覆アルミナを容易に得ることができる。
また、グラフェン被覆アルミナの原料であるアルミナ等は微粉末のアルミナ等を用いることもできるし、また、原料となる粒子状又は長尺のフィラメント状のアルミナ等の集合物を公知の手法により粉砕して得られる微粉末のアルミナ等を用いることもできる。グラフェン被覆アルミナを、分散相中に分散されるフィラー乃至充填材に用いる場合、及びグラフェン被覆アルミナをリチウム二次電池における電極集合体に用いる場合には、アルミナ等又はアルミナ等の集合物を粉砕してなる微粉末のアルミナ等が好ましい。なぜならば、グラフェン被覆アルミナの集合体を粉砕すると、粉砕されたグラフェン被覆アルミナの破断面にアルミナが露出することにより、グラフェン被覆アルミナの耐薬品性が低下したり、分散相に対する分散性が低下したりすることがあるからである。予め粉砕して微粉末にしたアルミナ等の表面をグラフェンで被覆してなるグラフェン被覆アルミナは、分散相例えば樹脂及び溶剤への分散性が高いという優れた特性を発揮する。
【0023】
本発明に係るグラフェン被覆アルミナは、前記アルミナ等の表面にグラフェンを有する。グラフェンは、アルミナ等の粒子又は長尺状のフィラメントの表面の一部にのみ存在してもよいし、表面全体に存在してもよい。グラフェン被覆アルミナが電磁波シールド効果を発揮するために、グラフェンはアルミナ等の表面全体に存在することが好ましい。グラフェンは、炭素原子が共有結合することにより六角格子構造を形成し、この六角格子構造が平面上に広がることによってシート状のグラフェン層が形成される。前記アルミナ等が球状体である例においては、アルミナ等の粒子を包み込むように中空球状のグラフェン層がアルミナ等の表面に形成されていればよい。また、前記アルミナ等が繊維状体又はフィラメント状である例においては、アルミナ等の粒子を包み込むように筒状のグラフェン層がアルミナ等の表面に形成されていればよい。
【0024】
グラフェン層における炭素原子は、通常六角格子構造を構成し、この六角格子構造が多数連なって平面網状の構造体を形成する。本発明のグラフェン被覆アルミナにおけるグラフェンは、全ての炭素原子が六角格子構造を構成しておらず、グラフェンの構造に欠陥があってもよい。例えば、グラフェンの一部において、六角格子構造から炭素原子が抜け落ちて五角形等の格子構造が形成されていてもよいし、又は六角格子構造に余分な炭素原子が結合した七角形等の格子構造が含まれていてもよい。このような六角格子構造における欠陥部は、高い反応活性を有する。例えば、六角格子構造の欠陥部には、炭素原子に各種の官能基が結合しやすくなり、この官能基の有する性質によってグラフェン自体の反応活性が高まることがある。また、六角格子構造の欠陥部には、陽イオンが担持されることにより反応活性が高まることもある。グラフェンの六角格子構造に欠陥部が存在することは、グラフェンをラマン分光法によって測定し、六角格子構造に欠陥を有するグラフェンに由来する1350cm
−1前後の波長におけるピークが観察されることによって、確認される。
【0025】
前記アルミナ等の粒子の表面におけるグラフェンは、2層以上10層未満の層構造を有することが好ましい。アルミナ等の粒子の表面にグラフェン層が形成されていることは、透過型電子顕微鏡(「TEM」と称されることがある。)を用いて、粒子の表面を100万倍以上に拡大することにより観察することが出来る。前記TEMの具体例として、例えば、日本電子株式会社製のJEM-2010EXを使用することができる。具体的には、グラフェンに被覆される前のアルミナ等を観察したTEM画像では、アルミナ等の表面に特に何も観察されないが、グラフェンに被覆された後のTEM画像では、アルミナ等の表面に数nm程度の厚みでグラフェンの層が形成されていることが観察される。グラフェンの厚さは、0.335nm/層であることが公知であるため、例えば5nmのグラフェン層がTEMで観察された場合、最大で15層程度のグラフェン層が形成されていることとなる。
【0026】
グラフェンの層数比率、及び不完全なグラフェンの比率等は、グラフェンについてラマンスペクトル測定を行った際の測定結果より判定される。前記ラマンスペクトル測定に用いられる装置として、例えば、日本分光株式会社製のレーザーラマン分光装置「NRS−3300」を用いることができる。グラフェンのラマンスペクトル測定結果において、500〜1000cm
−1の波長におけるピークが単層のグラフェンに由来し、1350cm
−1前後の波長におけるピーク(「Dバンド」と称されることがある。)が六角格子構造に欠陥のあるグラフェンに由来し、1600cm
−1前後の波長におけるピーク(「Gバンド」と称されることがある。)が完全な六角格子構造を有する欠陥のないグラフェンに由来し、2700cm
−1前後の波長におけるピーク(「G´バンド」と称されることがある。)が10層以上のグラフェンに由来する。前記GバンドとDバンドのピーク強度の合計値によって、グラフェン被覆アルミナにおいて存在する全てのグラフェンの相対量が算出される。Gバンドのピーク値とDバンドのピーク値の合計値、500〜1000cm
−1の波長におけるピーク値、及びG´バンドのピーク値を用いて比較することにより、グラフェン被覆アルミナにおけるグラフェンの層数の比率を概算することができる。具体的には、Gバンドのピーク値とDバンドのピーク値との合計に対して、G´バンド(2700cm
−1)のピーク値が1割未満であると、2層以上10層未満のグラフェン層が主に形成されていると判断することができる。
【0027】
グラフェン層におけるG/D比は、前記ラマンスペクトル測定において、グラフェンにおける欠陥部分に由来するDバンドのピーク値に対する、欠陥のないグラフェンに由来するGバンドのピーク値の割合を計算することによって算出される。アルミナ等の粒子が繊維状である場合には、繊維同士が配向性を持って密着することによりG/D比は小さくなり、繊維同士が密着しない場合にG/D比が大きくなることがある。また、アルミナ等の粒子表面における凹凸が多い場合にはG/D比が小さくなり、凹凸が少ない場合にはG/D比が大きくなることがある。これは、グラフェンがアルミナ等の粒子表面を被覆する際に、グラフェン層が粒子表面における凹凸部や粒子表面の端部で鋭角に曲がり、この鋭角に曲がった部分においてグラフェンの六角格子構造が不完全となることに由来すると考えられる。
【0028】
グラフェン被覆アルミナは、優れた導電性を有する。導電性の測定は、テスター等を用いてグラフェン被覆アルミナの電気抵抗値を測定することにより評価することができる。具体的には、グラフェン被覆アルミナからなる固形の集合物にテスターの端子を接触させることにより、グラフェン被覆アルミナの電気抵抗値が測定される。例えば、アルミナ等は10
15Ω以上の電気抵抗値を有する絶縁体であるのに対し、グラフェン被覆アルミナは20〜7KΩ程度にまで電気抵抗値が大きく低下しており、導電性を有することが確認される。また、優れた導電性を有するグラフェン被覆アルミナは、静電気を帯びにくく、帯電防止能が高いという機能を有する。
【0029】
グラフェン被覆アルミナが優れた導電性を有することは、LCRメータを用いた導電率の測定によっても確認される。不導体であるアルミナ等は、チャージアップによって周波数の上昇に応じて導電率が上昇していくのに対して、グラフェン被覆アルミナは電気抵抗が低下したことによって、周波数に関係なく0.1S/m以上の値の高い導電率を示す。
【0030】
本発明に係るグラフェン被覆アルミナから、公知の方法を用いてアルミナを除去することにより、中空の形状を備えたグラフェンを単独で取り出すこともできる。例えば、グラフェン被覆アルミナを過剰量の苛性ソーダ等のアルカリ水溶液中に入れ、常温〜沸騰温度の範囲で加熱することによって、内部のアルミナのみが溶出され、アルミナの形状と対応した形状のグラフェンが得られる。例えば、グラフェン被覆アルミナの原料として繊維状のアルミナ等を用いると、グラフェン被覆アルミナから原料である繊維状のアルミナ等の直径と略同一の内径を有する筒状のグラフェンが遊離される。このように、グラフェン被覆アルミナから遊離されたグラフェンについて、濾取、有機溶媒を用いた抽出、水洗、及び乾燥等の精製操作を行うことにより、より純度の高いグラフェンが得られる。
【0031】
グラフェン被覆アルミナは、アルミナ等の粒子表面にグラフェンを形成させる操作及びグラフェン被覆アルミナの各種用途への使用に際して影響のない範囲において、有機物バインダー、各種無機物等を含んでいても良い。アルミナ等の粒子表面にグラフェンを形成させる際に有機物の熱分解によって多量の煙が発生する可能性があるので、グラフェン被覆アルミナは有機物バインダーを含まないことがより好ましい。
【0032】
グラフェン被覆アルミナは、小さくても1μm、好ましくは1μm以上250μm以下である平均径を有するアルミナ等の1種類以上からなる粒子の表面に、例えば化学気相成長法等の方法を用いて、グラフェンを被覆させることにより得られる。化学気相成長法の具体例について、以下に説明する。
【0033】
化学気相成長法では、石英管等の反応容器にアルミナ等を入れ、この反応容器を加熱炉中に配置し、最適な反応温度となるように加熱炉内を加熱し、各種炭化水素ガスをアルミナ等に接触させることによってアルミナ等の表面にグラフェンが形成される。前記反応温度は、500℃以上1200℃未満であることが好ましく、750℃以上950℃以下の温度であることが特に好ましい。反応温度が前記数値範囲内にあることによって、原料であるアルミナ等の粒子の形状を維持したまま、粒子表面にグラフェンを形成させることができる。これにより、球状のアルミナ等の粒子から球状のグラフェン被覆アルミナが得られ、多孔質体のアルミナ等の粒子から多孔質体のグラフェン被覆アルミナが得られ、繊維状のアルミナ等の粒子から繊維状のグラフェン被覆アルミナが得られる。フィラメント状の長尺のアルミナ等からは長尺のフィラメントであるグラフェン被覆アルミナが得られる。前記反応温度を低くすると、得られるグラフェン被覆アルミナは低周波数側で最大の電磁波シールド効果を持つようになる、一方で、前記反応温度を高くすると、グラフェンの結晶化度が上昇することにより、得られるグラフェン被覆アルミナは高周波数側で最大の電磁波シールド効果を持つと共に、電磁波シールド率も高くなる。よって、得られるグラフェン被覆アルミナにおける所望の特性に合わせて、前記反応温度を適宜選択することが出来る。
【0034】
化学気相成長法において用いられる前記炭化水素ガスは、非加熱状態において炭化水素を有するガスのみならず、加熱炉を加熱した際の反応温度における熱分解により炭素を発生させることのできるガスであってもよく、その種類は特に制限されない。炭化水素ガスの具体例として、メタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブテン、ブタジエン、エチレン、シクロペンタン、シクロヘキサン、エチレン、プロピレン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、ナフタレン、及びアントラセン等の炭化水素、メタノール、エタノール、及びプロパノール等のアルコール類、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒド等のアルデヒド類、並びにアセトン等のケトン類等を含有するガスが挙げられる。炭化水素ガスには、これらのうち2種類以上の物質が含まれていてもよい。炭化水素ガスとしては、市販されている揮発油及び灯油等を使用することもでき、経済性及び入手性にすぐれていることから、特に、メタンガス、プロパンガス、及び天然ガスを使用することが好ましい。炭化水素ガスには、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、及び窒素よりなる群から選ばれる少なくとも1種又は複数の不活性ガスが含まれていてもよい。炭化水素ガスにおける不活性ガスの含有率が増加するにつれて反応時間が長くなるので、反応時間が長くなりすぎない程度に不活性ガスの含有率を調節することが望ましい。また、炭化水素ガスとしてアセチレンを含むガスを用いることにより、500℃程度の反応温度によってもグラフェン被覆を行うことが出来る。反応温度が500℃未満では、グラフェンの成長反応が進行しないためグラフェンが形成されず、反応温度が1200℃以上の高温では、原料のアルミナ等の粒子表面が炭化アルミニウムとなり好ましくない。
【0035】
化学気相成長法における反応時間は、炭化水素ガスの濃度、流速、アルミナ等の大きさにもよるが、300×300×5mmのフェルト形状をしたアルミナ等の集合物を反応原料として用いる場合、800〜900℃の条件下においてメタンガスのみを500sccmの条件で流通させることにより、概ね30分〜2時間程度の反応時間によって、グラフェン被覆アルミナの集合物が得られる。反応時間を4時間程度まで増加させても、形成されるグラフェンは、ラマンスペクトル測定において10層以上のグラフェンのピークが著しく増大しないことがあり、反応時間を2時間よりも多く設けることによる有利な効果は小さい。
【0036】
本発明に係るグラフェン被覆アルミナの集合物を得るには、グラフェン被覆アルミナを溶媒等に分散させた後に成形してもよいし、所望の形状を既に備えたアルミナ等の集合物に化学気相成長法によってグラフェンを被覆させてもよい。アルミナ等の集合物の形状として、例えば、シート状、ブロック状、綿状、ブランケット状、ペーパー状、及びフェルト状等が挙げられる。化学気相成長法の前後において集合物の形状、及び、有機物バインダーを含まない集合物においては、柔軟性が変化しないので、これらアルミナ等の集合物にグラフェンを被覆させることによって、容易に各種形状を備えたグラフェン被覆アルミナの集合物を得ることができる。例えば、シート状であるアルミナ等の集合物に化学気相成長法を用いてグラフェンを形成させることにより、シート状をしたグラフェン被覆アルミナの集合物が得られる。アルミナ等の集合物としては、既に市販されている製品を用いることができる。市販されているアルミナ等の集合物及びこのアルミナ等の集合物から得られるグラフェン被覆アルミナの集合物は、通常、柔らかな素材であり、容易に各種形状へと変形させることができる。
【0037】
本発明のグラフェン被覆アルミナの集合物は、シート状であることが好ましい。シート状をしたグラフェン被覆アルミナの集合物は電磁波吸収体として好適に用いることができる。グラフェン被覆アルミナの集合物は電磁波シールド効果を有しており、シート状であるグラフェン被覆アルミナを電磁波シールド用のシート部材として用いることができる。具体的には、グラフェン被覆アルミナからなる2.5mm又は、3mmの厚さを有するシート状体を、KEC法により、周波数125KHz〜1GHzの間における電磁波シールド効果を測定すると、400KHz〜5MHzの間において、80%以上の最大シールド率で電界を遮断することが測定される。また、グラフェン被覆アルミナからなる2.5mmの厚さを有するシート状体について、ベクトルネットワークアナライザ(VNAと称されることも有る)S21順方向伝送特性により0.5GHz〜26.5GHzの範囲における電磁波シールド効果を測定すると、前記シート状体は80%以上の最大シールド率で電界を遮断することができる。
電磁波シールド効果を前記KEC法により確認するには、一般社団法人KEC関西電子工業振興センターにおける試験方法に準じ、例えばテクノサイエンスジャパン製のTSES−KECを測定機器として用いることができ、また、ベクトルネットワークアナライザ S21順方向伝送特性においては、例えばWiltron製のベクトルネットワークアナライザWiltron37169Aを測定機器として用いることができる。
原料となるアルミナ等の密度が高くなるのに比例し、グラフェン被覆アルミナの集合物における電界のシールド効果も高くなる。また、グラフェンを形成させる際の反応温度が高くなるにつれて、形成されるグラフェンの結晶化度が上昇し、グラフェン被覆アルミナの集合物は高周波数側で最大シールド率を示すようになる。
【0038】
本発明に係るグラフェン被覆アルミナ及びグラフェン被覆アルミナの集合物の原料となる、前記アルミナ等の粒子及びフィラメント並びに前記アルミナ等の集合物は、いずれも表面が親水性を有する。一方、前記化学気相成長法によって、前記アルミナ等の表面及びアルミナ等の集合物の表面を、グラフェンで被覆することによって、表面が疎水化される。表面が疎水化されたグラフェン被覆アルミナ及びグラフェン被覆アルミナの集合物は、カーボンブラックや活性炭等と同様に、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDFと称されることもある。)等の疎水性の樹脂との混和性に優れ、疎水性の樹脂中におけるフィラー、充填材、及びバインダー等の構成成分として用いられることができる。表面が疎水化されたグラフェン被覆アルミナ及びグラフェン被覆アルミナの集合物は、前記各種の樹脂のみならず、トルエン、酢酸エチル、NMP等の有機溶剤への分散性にも優れる。
さらに、本発明のグラフェン被覆アルミナの集合物を断熱材として用いると、断熱材表面に水が吸着しにくくなるので、水の吸着による断熱材におけるカビの発生を抑制することができる。尚、本発明のグラフェン被覆アルミナ及びその集合物は、表面がグラフェンで被覆されることにより、被覆前のアルミナ等に比べて灰色〜黒色の色調が強くなる。
【0039】
次に、本発明に係るグラフェン被覆アルミナ及びその集合物の用途について説明する。
【0040】
本発明に係るグラフェン被覆アルミナの集合物は、ろ過材例えば油水分離フィルターとして用いることができる。ろ過材の形状は特に制限されず、例えば、シート形状であればよい。ろ過材であるグラフェン被覆アルミナの集合物に、水と油とを含む液体を通液すると、ろ過材の表面には油が吸着するが水は吸着されない。よって、ろ過材を通過した後の液体には油分がほとんど含有されず、水のみを分離してこれを得ることができる。
グラフェン被覆アルミナの集合物におけるこのような濾過機能に着目すると、このグラフェン被覆アルミナの集合物を、原油等に汚染された汚染海水を浄化された海水と原油とに分離する汚染海水浄化フィルター又は原油回収フィルターとして、活用することができる。
【0041】
本発明に係るグラフェン被覆アルミナは、触媒の担持体(触媒担体と称されることもある。)として用いることができる。本発明に係るグラフェン被覆アルミナは、六角格子の欠陥が多く、このような六角格子の欠陥部分には各種の官能基が導入されることがある。これら各種の官能基においては、六角格子の欠陥のないグラフェン被覆アルミナに比べて、より強固に触媒金属が保持される。よって、本発明に係るグラフェン被覆アルミナは、触媒の担持体として用いられることによって、強固に触媒金属を保持することのできる、優れた機能を発揮する。
【0042】
本発明に係るグラフェン被覆アルミナは、優れた導電性を有するので、電子材料として好適に使用される。電子材料を含む部材、部品或いは装置として、コンデンサ又はキャパシタ(以下、「コンデンサ等」と称することがある。)、電池例えばリチウム二次電池の電極、燃料電池におけるガス拡散層、電線などを挙げることができる。なお、二次電池の電極は、当業者において集電体と称されることがある。
コンデンサ等は、一対の電極と前記電極の間に存在する誘電体とを有し、一対の電極に外部電源を用いて通電がされることにより、電極間に電荷を蓄えることができる。本発明に係るグラフェン被覆アルミナを有するコンデンサ等は、コンデンサ等における誘電体にグラフェン被覆アルミナを有していればよい。本発明に係るグラフェン被覆アルミナは導電性が優れているので、グラフェン被覆アルミナを有するコンデンサ等は素早く蓄電・放電反応を行うことができるとともに、電気容量が大きいという効果を奏する。電池に用いられる電極、及びコンデンサ等に用いられる誘電体は、例えば、グラフェン被覆アルミナの粒子に溶媒を加えて混合した後に、各種形状に成形し、又は基材表面に塗布することにより製造される。尚、コンデンサ等における誘電体に含有されるグラフェン被覆アルミナの含有量は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されない。なお、前記コンデンサ等及び電極等に本発明のグラフェン被覆アルミナを用いるときには、グラフェン被覆アルミナに含まれるアルミナは1〜2μmの粒子であるのが好ましい。1〜2μmのアルミナを含むグラフェン被覆アルミナは化学的安定性、溶剤への分散性に優れるからである。
さらに、グラフェン被覆アルミナは、導電性が高いことから電気や信号を伝達する電線として用いることができる。電線として用いる際には、必要に応じて表面を不導体で被覆することや、補強のための繊維と共に用いることで、好適に使用することができる。グラフェン被覆アルミナを用いて電線を形成する場合には、そのグラフェン被覆アルミナは連続した糸状又はフィラメント状であることが好ましい。グラフェン被覆アルミナで形成された電線は、従来のような銅線、アルミナ線と言った金属線を使用することがなくなる。
【0043】
本発明に係るグラフェン被覆アルミナは、半導体製造装置、磁気ヘッド製造装置、インバータ、サーボモータ等の電子機器における電磁波シールド部材、及び導電ケーブルの被覆材として用いることができる。本発明においては、この様な電磁波シールド部材、導電ケーブルの被覆材もまた、電子材料の範疇に含められる。
半導体製造装置及び磁気ヘッド製造装置においては、僅かな電磁波によるノイズが製造装置における制御盤等の機能を狂わせ、正確に半導体及び磁気ヘッド等を製造することができないことがある。本発明に係るグラフェン被覆アルミナをその電磁波シールド部材として用いることにより、特に低周波の電磁波による電界の影響を効果的に遮断することができ、低周波の電磁波がノイズとなって半導体製造装置及び磁気ヘッド製造装置等の作動に悪影響を及ぼすことが防止される。また、インバータ及びサーボモータ等もまた電磁波の影響で誤作動を起こすことがあり、本発明に係るグラフェン被覆アルミナを電磁波シールド部材として用いることによって、これらの誤作動を防止することができる。具体的には、本発明に係るグラフェン被覆アルミナを含む材料を用いて、前記半導体製造装置等の電子機器のうち電磁波の影響を受けやすい部品を覆う遮蔽ケースを成形し、この遮蔽ケース内に前記部品を収納することによって、装置外部からの電磁波の影響を遮断することができる。また、さらに、本発明に係るグラフェン被覆アルミナを用いて、シート状の電磁波シールドシートを成形し、この電磁波シールドシートを袋状にして内部に電磁波の影響を受けやすい部品を収納することによって、電磁波の影響を遮断することもできる。
また、本発明に係るグラフェン被覆アルミナは導電ケーブルの被覆材として使用することもできる。例えば、グラフェン被覆アルミナを含むスラリー等を筒状に成形し、この筒状体に各種ケーブルを挿入することにより、導電ケーブルへの電磁波の影響を防止することができる。
尚、グラフェン被覆アルミナを含む電磁波シールド部材を用いることができるのは、上記電子機器の具体例に制限されず、他の電磁波の影響を受ける機器及び他の電磁波を放出する機器等についても、グラフェン被覆アルミナを含む部材を電磁波シールド部材として用いることができる。例えば、IHヒーター、電子レンジ、パソコン、テレビ、ラジオ、ペースメーカー等の電子機器における電磁波シールド部材として、グラフェン被覆アルミナを使用することもできる。
本発明に係るグラフェン被覆アルミナを有する電磁波シールド部材は、0.1MHz〜26.5GHzの周波数を有する電磁波の影響を防止することができ、特に125KHz以上8MHz以下という低周波数の電磁波の影響を防止することができる。また、一般に用いられている5.8GHz帯の電磁波をシールドすることから、DSRC、ETC等に用いられている電磁波の吸収用途に用いることが出来る。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
質量比が、Al:Si=46:53.1となるようにAlとSiとを含有し、軸線方向に対して垂直の方向における平均繊維径が2.8μmであって軸線方向における最大繊維長が250μmである繊維状のアルミノケイ酸塩が集合した集合物(イソライト工業(株)製 イソウール1260ブランケット)を、反応装置内に静置した。前記アルミノケイ酸塩が集合した集合物は、300×300×5mmの大きさのブランケット状であった。反応装置内のガスを十分に窒素ガスで置換した後に、500sccmにてメタンガスを供給しながら800℃で1時間加熱し、上記ブランケット状の集合物と同一形状であり、灰色であるグラフェン被覆アルミナの集合物を得た。
【0046】
前記集合物におけるグラフェン被覆アルミナを、走査型電子顕微鏡(FE-SEM: 日立ハイテクノロジーズ製 S-4800)によって5000倍に拡大して観察した結果、グラフェン被覆アルミナは原料のアルミノケイ酸塩と同様の繊維状の構造を保持していることが確認された。次に、前記集合物におけるグラフェン被覆アルミナの一部を、透過型電子顕微鏡(TEM:JEOL製JEM-2010EX)によって100万倍に拡大して観察した結果、
図1に示されるように、繊維状のアルミノケイ酸塩の粒子表面が厚さ3nm程度のグラフェンで被覆されていることが確認された。
図1において、右下に観察される黒色の部分がアルミノケイ酸塩の粒子を示し、アルミノケイ酸塩の粒子の表面近傍において、膜厚が略均一となるように存在する略透明な部分がグラフェンを示す。グラフェンの1層あたりの厚さは0.335nmであることが公知であるので、TEMにて観察されたグラフェン層は最大で9層程度であると計算された。また、XRD(Rigaku製MiniFlex600)によってグラフェン被覆アルミナを測定すると、原料であるアルミノケイ酸塩と同様に、明確なピークが観測されなかったことから、グラフェン被覆アルミナも、原料のアルミノケイ酸塩と同様にアモルファス構造を有していることが確認された。
【0047】
次に、グラフェン被覆アルミナについて、ラマン分光法(日本分光(株)製 レーザーラマン分光装置NRS−3300)によりラマンスペクトル測定を行った。
図2に示されるように、グラフェン由来のDバンド(1350cm
−1)、Gバンド(1600cm
−1)にはピークが観測されたが、G‘バンド(2700cm
−1)にはピークがほとんど観測されなかった。G/D比は0.8と求められ、単層グラフェンに対するG、Dバンド比率が1%であり、10層以上のグラフェンに由来するピークが観測されないことから、得られたグラフェン被覆アルミナにおけるグラフェンの大部分は、2層以上10層未満の層構造を有することが確認された。
【0048】
さらに、テスターを用いてグラフェン被覆アルミナの集合物の電気抵抗を測定したところ、300Ωであった。また、LCRメータを用いてグラフェン被覆アルミナの導電率を測定したところ、周波数によらず0.1S/mの一定値を示した。
【0049】
KEC法((株)テクノサイエンスジャパン製 TSES−KEC)によって、125KHz〜1GHz間で3mm厚にカットしたグラフェン被覆アルミナの集合物の電磁波シールド効果を測定した。
図3に示される測定結果より、電界は400KHzで19.5dBのピークを持つ(シールド率約90%)ことが確認された。磁界については、原料のアルミナと同様にシールド効果を持たなかった。また、得られたグラフェン被覆アルミナの集合物を1ヵ月水中に保存したが、性状、重量に変化は見られず水層は白濁しなかった。これにより、アルミナの表面が疎水性を有していることが確認された。
【0050】
(実施例2)
アルミノケイ酸塩の集合物として、Al:Si=46:53.1の質量比であり、300×300×2.5mmの大きさを有するアルミノケイ酸塩のシート状体(イソライト工業(株)製 イソウール1260エースペーパー)を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作を行い、灰色、シート状のグラフェン被覆アルミナの集合物を得た。グラフェン被覆アルミナの集合物は、電気抵抗値が80Ωであり、ラマン分光法におけるG/D比が1であり、表面が疎水性であった。また、2.5mmの厚さを有するシート状のグラフェン被覆アルミナの集合物の電磁波シールド効果を測定したところ、600KHzで35dBの最大シールド効果を示した。同様に高周波数領域でのVNA S21順方向伝送特性(ベクトルネットワークアナライザWiltron37169A)による電磁波シールド効果を測定したところ、5.8GHzで18.6dB、18〜26GHzでは20dB以上の電磁波シールド効果を示した。
【0051】
(実施例3)
反応温度を850℃に変更したこと以外は、実施例2と同一の原料を用いて同様に操作を行い、灰色、シート状のグラフェン被覆アルミナの集合物を得た。グラフェン被覆アルミナの電気抵抗値は50Ωであり、2.5mmの厚さを有するシート状のグラフェン被覆アルミナの集合物の電磁波シールド効果を測定したところ、1MHzで44dBの最大シールド効果を示した。
【0052】
(実施例4)
アルミノケイ酸塩の集合物として、Al:Si=35:49.7の質量比であるセラミックファイバーブランケット(イソライト工業(株)製 イソウール1400ブランケット)を使用したこと以外は、実施例1と同様に操作を行い、灰色のグラフェン被覆アルミナの集合物を得た。グラフェン被覆アルミナの集合物は、電気抵抗値が430Ωであり、ラマン分光法でのG/D比が0.7であり、表面が疎水性であった。
【0053】
(実施例5)
アルミノケイ酸塩の集合物として、アモルファスアルミナ(イソライト工業(株)製イソウール1260バルク)を使用したこと以外は、実施例1と同様に操作を行い、灰色のグラフェン被覆アルミナの集合物を得た。グラフェン被覆アルミナの集合物は、電気抵抗値が300Ωであり、ラマン分光法でのG/D比が0.8であり、表面が疎水性であった。
【0054】
(実施例6)
アルミノケイ酸塩の集合物として、300×300×1mmの大きさであるセラミックファイバーのペーパー(イソライト工業(株)製イソウール1260ペーパーS)を使用したこと以外は、実施例1と同様に操作を行い、灰色、ペーパー状のグラフェン被覆アルミナの集合物を得た。グラフェン被覆アルミナの集合物は、電気抵抗値が250Ωであり、ラマン分光法でのG/D比が0.7であり、表面が疎水性であった。また、シート状のグラフェン被覆アルミナの集合物の電磁波シールド効果を測定したところ、400KHzで18.5dBの最大シールド効果を示し、電界のシールド率が約90%であることが確認された。
【0055】
(実施例7)
実施例1で使用したセラミックファイバーのブランケット(イソライト工業(株)製 イソウール1260ブランケット)3gをロッキングミルで粉砕し、平均粒径が1μmであるアルミノケイ酸塩の微粉末を得た。このアルミノケイ酸塩の微粉末について実施例1と同様に操作を行い、粉末状のグラフェン被覆アルミナを得た。このグラフェン被覆アルミナは、電気抵抗値が20Ωであり、ラマン分光法でのG/D比が0.7であり、表面が疎水性であった。
この微粉末1gに、PVDFの12重量%NMP溶液(株式会社クレハ製 KFポリマーL#1120)1gを混合したところ均一なスラリーとなり、1ヵ月経過後でも状態に変化は無かった。したがって、このグラフェン被覆アルミナは、分散相に対する良好な分散性及び長期間に渡る分散維持性を有する。
【0056】
(実施例8)
反応時間を2時間に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、実施例1と同様にグラフェン被覆アルミナの集合物を得た。このグラフェン被覆アルミナの集合物は、電気抵抗値が300Ωであり、ラマン分光法でのG/D比が0.8であり、表面が疎水性であった。また、3mm厚のシート状であるグラフェン被覆アルミナの集合物における電磁波シールド効果を測定したところ、400KHzで20dBの最大シールド効果を示し、電界のシールド率が約90%であることが確認された。
【0057】
(実施例9)
反応温度を650℃とし反応時間を2時間に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、実施例1と同様にグラフェン被覆アルミナの集合物を得た。このグラフェン被覆アルミナの集合物は、電気抵抗値が1500Ωであり、ラマン分光法でのG/D比が0.5であり、表面が疎水性であった。また、3mm厚のシート状であるグラフェン被覆アルミナの集合物における電磁波シールド効果を測定したところ、400KHzで18dBの最大シールド効果を示し、電界のシールド率が約90%であることが確認された。
【0058】
(実施例10)
反応温度を950℃に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、実施例1と同様にグラフェン被覆アルミナの集合物を得た。このグラフェン被覆アルミナの集合物は、電気抵抗値が20Ωであり、ラマン分光法でのG/D比が0.6であり、表面が疎水性であった。また、3mm厚のシート状であるグラフェン被覆アルミナの集合物における電磁波シールド効果を測定したところ、400KHzで38dBの最大シールド効果を示し、電界のシールド率が約99%であることが確認された。
【0059】
(実施例11)
反応温度を500℃、炭化水素ガスをアセチレンに変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、実施例1と同様にグラフェン被覆アルミナの集合物を得た。このグラフェン被覆アルミナの集合物は、電気抵抗値が1800Ωであり、ラマン分光法でのG/D比が0.5であり、表面が疎水性であった。また、3mm厚のシート状であるグラフェン被覆アルミナの集合物における電磁波シールド効果を測定したところ、400KHzで17dBの最大シールド効果を示し、電界のシールド率が約90%であることが確認された。
【0060】
(実施例12)
メタンガスと窒素ガスを1:1の割合にし、反応時間を2時間に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、実施例1と同様にグラフェン被覆アルミナの集合物を得た。このグラフェン被覆アルミナの集合物は、電気抵抗値が300Ωであり、ラマン分光法でのG/D比が0.8であり、表面が疎水性であった。また、3mm厚のシート状であるグラフェン被覆アルミナの集合物における電磁波シールド効果を測定したところ、400KHzで20dBの最大シールド効果を示し、電界のシールド率が約90%であることが確認された。
【0061】
(実施例13)
原料を平均粒径15〜25μmのアルミナ粉末(日本軽金属株式会社製 遷移アルミナC20)に変更した以外は、実施例7と同様に操作を行い、実施例7と同様にグラフェン被覆アルミナの微粉末を得た。このグラフェン被覆アルミナの微粉末は、電気抵抗値が2000Ωであり、ラマン分光法でのG/D比が0.7であり、表面が疎水性であった。この微粉末1gに、PVDFの12重量%NMP溶液(クレハ社製 KFポリマーL#1120)1gを混合したところ均一なスラリーとなり、1ヵ月経過後でも状態に変化は無かった。
(実施例14)
原料をAl:Si=72:28の質量比であり繊維径7μmのアルミナ製の平織クロス((株)ニチビ製、ニチビアルフ 3025−T)300×300×0.35mmとし、反応温度を900℃に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、実施例1と同様にグラフェン被覆アルミナのクロスを得た。得られたグラフェン被覆アルミナのクロスは、原料と同一形状かつ同様の柔軟性を持ち、電気抵抗値が30Ωであり、表面が疎水性であった。
(実施例15)
原料をAl:Si=72:28の質量比であり繊維径7μmのアルミナ製の平織クロス(株式会社ニチビ製 ニチビアルフ 3025−T)をほぐした0.3×1000mmのアルミナ製の撚糸に変更した以外は、実施例14と同様に操作を行い、実施例1と同様にグラフェン被覆アルミナの導電線を得た。得られたグラフェン被覆アルミナの導電線は、光沢のある黒色を呈し、原料と同様の形状かつ同様の柔軟性を持ち、電気抵抗値が30Ωであり、表面が疎水性であった。
(実施例16)
ABS樹脂(ダイセルポリマー(株)製セビアンV-660SF)10gに酢酸エチル((株)ダイセル製)60gを加え溶解した液に、実施例1で得られたグラフェン被覆アルミナの集合物70gを加えた後に、この混合液をステンレス製のバットに流し込み、60℃に加温して酢酸エチルを蒸散させ、アルミナにABS樹脂が均一に浸透した複合体を得た。この複合体の電気抵抗値は、88Ωであった。
【0062】
(比較例1)
反応温度を400℃とし、反応時間を2時間としたこと以外は、実施例1と同様に操作を行ったが、アルミノケイ酸塩の集合物の表面がグラフェンで被覆されず、原料であるアルミノケイ酸塩の集合物が回収された。尚、
図3に示されるように、原料であるアルミノケイ酸塩の集合物に関する電磁波シールド効果の測定においては、ピークが観察されなかった。
【0063】
(比較例2)
原料であるアルミナとして、平均二次粒子径が800nmの結晶性アルミナ粒子(川研ファインケミカル(株)製 アルミゾル−10C)を120℃で10時間乾燥して得られた粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作を行ったが、アルミナの粒子表面がグラフェンで被覆されず、電気抵抗は原料であるアルミナの粒子と差が無かった。
【0064】
(比較例3)
原料であるアルミナとして、結晶性アルミナゾル(日産化学(株)製 アルミゾル520)を120℃で10時間乾燥して得られた粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様に操作を行ったが、グラフェン被覆アルミナは得られなかった。
【0065】
(比較例4)
原料であるアルミナの集合物として、結晶化率の高いアルミナ繊維ブランケット(電気化学工業(株)製デンカアルセンB80)50×50×10mmを使用したこと以外は、実施例1と同様に操作を行ったが、電気抵抗は100KΩでありグラフェン被覆アルミナの集合物は得られなかった。
【0066】
(比較例5)
原料であるアルミナの集合物として、結晶化率の高いアルミナ繊維ブランケット(電気化学工業(株)製デンカアルセンB97N4)50×50×10mmを使用したこと以外は、実施例1と同様に操作を行ったが、電気抵抗は100KΩでありグラフェン被覆アルミナの集合物は得られなかった。
【0067】
(比較例6)
ABS樹脂(ダイセルポリマー(株)製セビアンV-660SF)10gに酢酸エチル((株)ダイセル製)60gを加えて溶解した液に、実施例1で用いたセラミックファイバー1gを加えた後にステンレス製のバットに流し込み、60℃に加温して酢酸エチルを蒸散させたが、セラミックファイバーシートの中心部までABS樹脂が浸透せず内部に多数の空隙を持つ混合物となった。よって、セラミックファイバーとABS樹脂との複合体は得られなかった。