(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249396
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】ドリルリング及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B23B 49/00 20060101AFI20171211BHJP
B29C 45/78 20060101ALI20171211BHJP
B29C 45/77 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
B23B49/00 A
B29C45/78
B29C45/77
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-209529(P2013-209529)
(22)【出願日】2013年10月4日
(65)【公開番号】特開2015-74033(P2015-74033A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100157185
【弁理士】
【氏名又は名称】吉野 亮平
(72)【発明者】
【氏名】川村 健一
(72)【発明者】
【氏名】小林 広章
(72)【発明者】
【氏名】比留川 仁
【審査官】
山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−105132(JP,A)
【文献】
実開昭61−172718(JP,U)
【文献】
特表2002−511027(JP,A)
【文献】
特開平02−243212(JP,A)
【文献】
特開2006−116639(JP,A)
【文献】
特開平10−337605(JP,A)
【文献】
特開昭59−008175(JP,A)
【文献】
特開平04−299113(JP,A)
【文献】
特開2004−001553(JP,A)
【文献】
特開昭58−002376(JP,A)
【文献】
特開平08−244132(JP,A)
【文献】
特開2000−158505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 39/00−39/28,49/00−49/06,
47/34,51/12,
B23C 9/00,
B29C 45/77−45/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形体からなり、径方向中央に円柱状の孔が形成された肉厚の円筒形状を有するドリルリングであって、
前記射出成形体内部に、該射出成形体の径方向の変形を吸収するための空洞を備え、
前記空洞は、前記円筒の高さ方向ほぼ中央の高さ位置、且つ前記円筒の壁の厚さ方向のほぼ中央の径方向位置に形成されている、
ことを特徴とするドリルリング。
【請求項2】
前記空洞は、射出成形体と同心のリング状に延びている、
請求項1に記載のドリルリング。
【請求項3】
前記空洞は、射出成形体内部に点在している複数の空間によって形成されている、
請求項1に記載のドリルリング。
【請求項4】
所定形状の金型を摂氏100〜150度に加熱する工程と、
前記温度に加熱された金型内に溶融ポリアセタール樹脂を100〜130mm/secの射出速度で射出する工程と、
溶融ポリアセタール樹脂を金型内で600kgf/CM2 で保持しながら10〜30秒冷却する工程と、を備え、
成形された射出成形体内部にこの射出成形体の変形を吸収するための空洞を形成すること、
を特徴とするドリルリングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルリング及びその製造方法に関し、特に、プリント配線基板用の孔あけ機で使用されるドリルの位置決めをするためのドリルリング及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プリント配線基板等に孔をあけるために使用される孔あけ機が知られている。このような孔あけ機は、螺旋状の溝が切られたドリルを備えている。そして、孔あけ機でプリント配線基板に孔をあけるときには、ドリルを旋回させながらプリント配線基板に押し当て、ドリルを押し進める。
【0003】
またこのような孔あけ機で孔あけを行う場合、ドリルとプリント配線基板との相対的な位置決めをするためのドリルリングを用いることが知られている。ドリルリングは、ドリルが圧入されるOリングであり、ドリルの穿設深さ、即ちプリント配線基板に対する相対距離を決定するために使用される。一般的なドリルリングは、硬質の合成樹脂を環状に成形したものであり、ドリルの外径よりも僅かに小さい内径を有している。そしてドリルをドリルリング内に圧入することでドリルによる穿設時にドリルリングがドリルに対して移動できないようにしている。このようなドリルリングを備える孔あけ機としては特許文献1に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4840897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ドリルをドリルリングに嵌め込み穿設時に相対移動できないようにするためには、ドリルリングの内径をドリルの外径よりも小さくしてドリルリングをドリルに嵌め込んだときに、ドリルリングが所定の圧力でドリルを締め付けている状態にする必要がある。しかしながら、このようにドリルリングの内径をドリルの外径よりも小さくすると、ドリルの圧入時にドリルリングを拡張する応力が発生し、場合によっては、ドリルリングが割れてしまうという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、ドリルをドリルリングに圧入したときに、ドリルリングが割れるのを抑制することができるドリルリング及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、射出成形体からなるドリルリングであって、射出成形体内部にこの射出成形体の径方向の変形を吸収するための空洞を備えていることを特徴とする。
【0008】
このように構成された本発明によれば、射出成形体内部に空洞を形成することにより、ドリルをドリルリングに圧入するときに、ドリルリング内の空洞を圧縮して変形させることができる。これにより、ドリルをドリルリングに圧入したときにドリルリングが割れるのを防止することができる。
【0009】
また本発明において好ましくは、空洞は、射出成形体と同心のリング状に延びているか、射出成形体内部に点在している複数の空間によって形成されている。
【0010】
また本発明において好ましくは、空洞は、高さ方向及び壁の厚さ方向のほぼ中央に形成されている。このように構成された本発明によれば、ドリルリングの壁厚が不均一になるのを防止することができる。
【0011】
また、上述した課題を解決するために、本発明は、所定形状の金型を加熱する工程と、溶融樹脂を加熱された金型内に射出する工程と、加熱した溶融樹脂を金型内で所定時間冷却する工程とを備える、射出成形体からなるドリルリングの製造方法であって、金型の加熱温度、溶融樹脂の射出温度、及び冷却時間を調整することにより射出成形体内部にこの射出成形体の径方向の変形を吸収するための空洞を形成することを特徴とする。
【0012】
このように構成された本発明によれば、金型の加熱温度、溶融樹脂の射出速度、及び冷却時間を調整して溶融樹脂の硬化時にひけを発生させ、これにより射出成形体内部に空洞を形成することができる。そしてこのようにドリルリング内に空洞を作ることでドリルをドリルリングに挿入するときに生じるドリルリングの変形を、空洞によって吸収することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明によれば、ドリルをドリルリングに圧入したときに、ドリルリングが割れるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態によるドリルリングを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態によるドリルリング及びその製造方法について説明する。
図1は、本実施形態によるドリルリングを示す斜視図であり、
図2は、
図1のA−A断面の断面図である。なお、A−A断面は、ドリルリングの高さ方向中央における断面である。
【0016】
まず、
図1及び
図2に示すように、ドリルリング1は、円筒形状を有しており、その直径は約7〜8mmであり、高さは約4〜6mmであり、側壁の厚さは約2〜3mmである。ドリルリング1の径方向中央には、例えばプリント配線基板に孔を穿設するためのドリルを嵌め込むための孔3が形成されている。この種の一般的なドリルの直径は、約3.175mmであるのに対して、ドリルリングの孔3の大きさはドリルの直径よりも小さい、約3.00mmである。このように孔3をドリルの直径よりも小さくすることによりドリルリング1をドリルに嵌めたときに、ドリルリング1をドリルに対して固定することができる。
【0017】
ドリルリング1は、例えばポリオキシメチレン樹脂やポリアセタール樹脂のような熱可塑性樹脂を射出成形することで製造されている。様々な径のドリルに対応したドリルリング1を製造する場合には、ドリルの内径毎に着色を施し、ドリルリング1を装着したドリルの径を容易に見分けられるようにしてもよい。
【0018】
また、ドリルリング1は、内部に、射出成形体内部にこの射出成形体の径方向の変形を吸収するための空洞5を備えている。具体的には空洞5は、ドリルリング1をドリルに嵌めてドリルリングにおける空洞よりも内側の部分7が外側に向けて押されたときに、その内側の部分7のみの変形を許容してその変形を吸収し、応力が空洞よりも外側の部分9に伝達されないようにしている。
【0019】
空洞5は、ドリルリング1と同心のリング状に延びている。そしてこの高さ位置は、ドリルリング1の高さ方向ほぼ中央であり、径方向の位置は、ドリルリング1の側壁のほぼ中央である。また、空洞5の幅は、ドリルリング1の側壁の厚さの1/3程度であることが好ましく、この場合、空洞5は、ドリルリング1の側壁を厚さ方向に3分割したときに、中央の領域内に収まっている。これは、空洞5の幅が狭すぎると、空洞5よりも内側の部分7の変形を吸収する空間が無くなってしまい、また、空洞5の幅が広すぎると、ドリルリング1の側壁部分が薄くなってしまうからである。また、空洞5の位置が側壁の厚さ方向の何れかの方向に偏っていると、壁厚が不均一になってしまい、ドリルリング1の強度が不均一になってしまうため、空洞5の位置は、ドリルリング1の側壁の厚さ方向中央であることが好ましい。
【0020】
また、空洞5は、一つの空間によって形成されたものに限らず、複数の空間を点在させたものでもよい。この場合、複数の微小空間を、ドリルリング1と同心の輪に沿って点在させることが好ましい。そしてこの場合も、上述したリング状の空洞5と同様に、空洞はドリルリング1の高さ方向及び壁の厚さ方向のほぼ中央に形成されている。
【0021】
このような構成を有するドリルリング1は、上述したように、プリント配線基板に孔をあけるときにドリルに装着される。ドリルによって穿設を行うときには、ドリルは、プリント配線基板の面方向に向かって回転しながら押し進められる。ドリルにドリルリング1を装着することによって、ドリルの装着位置を一定になるよう決めることができる。ドリルが一定の距離だけ進んだときにドリルリング1の低面がプリント配線基板に接触してドリルがそれ以上進めないようにする。
【0022】
次に、ドリルリング1の製造方法について説明する。
【0023】
ドリルリング1を製造する場合には、まず、一般的な射出成形と同様に所定形状の金型を準備する。そして金型を加熱して樹脂を受け入れる準備を行う。次いで樹脂を加熱溶融して金型内に射出する。その後、樹脂を金型内で冷却する。そして本発明の実施形態によるドリルリング1の製造方法においては、射出の速度、金型の温度を調整、冷却時間等の成形条件を所定の範囲に設定することにより射出成形体からなるドリルリング1内に空洞を形成することができる。
【0024】
具体的には、ドリルリング1内に空洞を形成するためには、射出の速度を100〜150mm/secに設定し、金型の温度を100〜150℃に調整し、冷却時間を10〜30秒に設定することが好ましい。成形条件をこの範囲に設定することにより、樹脂の収縮硬化時に生じる樹脂のひけを利用してドリルリング1内に空洞5を形成することができる。即ち、樹脂の収縮硬化時には、ドリルリング1の外表面から内側に向けて硬化するため、外側から内側に向けて未硬化の樹脂を引っ張る負圧が発生する。そして負圧が発生すると、未硬化の樹脂があるドリルリング1の側壁の中心部に空間が形成される。そしてこのとき形成される空間を残したまま樹脂を硬化することによりドリルリング1内に空洞5を形成することができる。
【0025】
発明者等は、様々な条件でドリルリングを製造し、その内部に空洞が出来ていることを確認した。以下にその製造方法の一例として、樹脂としてポリアセタール樹脂を用いた場合を説明するが、本発明は下記の実施例に特に限定されるものではない。
【0026】
実施例として、旭化成社製のポリアセタール樹脂であるテナックC3510、及びポリプラスチック社製のジュラコンM90−44を準備し、樹脂を190〜220℃で加熱し、100〜150℃に加熱された所定形状の金型に100〜130mm/secの射出速度で射出した。そして金型内600kgf/CM
2で保持しながら樹脂を10〜30秒冷却した。その結果、内部に空洞を有するドリルリングを6個得た。このときの製造条件を表1に示し、得られたドリルリングの寸法を表2に示す。
【0028】
また、比較例として、同様に樹脂を準備し、樹脂を180〜190℃で加熱し、70〜90℃に加熱された所定形状の金型に50〜80mm/secの射出速度で射出した。そして金型内1000kgf/CM
2で保持しながら樹脂を10〜20秒冷却した。その結果、内部に空洞を有していない中実なドリルリングを6個得た。このときの製造条件を表1に示し、得られたドリルリングの寸法を表2に示す。
【0029】
そして得られたドリルリングに対してシリンダー径50mmのエアシリンダーを備える試験機を用いて3.5mmのゲージに嵌め込む割れ試験を行った。ドリルリングをゲージに嵌め込むときの空気圧は0.55〜0.6MPaであり、推力は1050〜1178Nであった。そして試験の結果、得られたドリルリングについて実施例によるドリルリングについては割れが発生しなかった。しかし、比較例によるドリルリングについては、同様の試験によって割れが発生した。
【0030】
以上のように本実施形態によるドリルリングによれば、ドリルをドリルリングに圧入したときに、ドリルリングに加わる径方向外向きの応力を空洞によって吸収することができるのでドリルリングが割れるのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 ドリルリング
3 孔
5 空洞