【実施例】
【0039】
[参考例1]
1.光遅延線バッファ
1.1.光統合ネットワークでのパケット通信
下記文献に開示されている光パケット・光パス統合ネットワークノードを例に光遅延線バッファを用いた光パケットスイッチ機能を説明する。
(文献:H. Furukawa, T. Miyazawa, N. Wada, and H. Harai, "Moving the
Boundary between Wavelength Resources in Optical Packet and Circuit Integrated
Ring Network," Optics Express, vol. 22, no. 1, pp. 47-54, Jan. 2014.)
エッジノードにおいて外部ネットワークから受信したイーサネット(登録商標)フレームを10分割し,それぞれを光パケットにカプセル化して転送する。
図3は,イーサネット(登録商標)フレームと光パケット変換を示す概念図である。この例のイーサネット(登録商標)フレームは,MACヘッダ,IPヘッダ,ペイロード及びFCS(フレームチェックシークエンス)を含む。この例は,1波長あたり10Gbpsの通信を行い,10波長の多重転送により100Gbpsの通信を実現する。この例では,一つの波長のパケット先頭に送受信ノードの情報などが記載された8バイトのルートヘッダを付加する。統合ネットワーク内のノードはルートヘッダに記載された情報を読み取り,次にパケットを渡す隣接ノードを選択する。
N×N光パケットスイッチは,N個の1×Nスイッチと,N入力1出力・遅延線数B本の光遅延線バッファが,フルメッシュに接続され構成される。
【0040】
図4は,4入力1出力の8遅延線バッファ(N=4,B=8)の構成例を示すブロック図である。例えば,4×4出力スイッチの場合は,この光遅延線バッファを4基搭載すればよい。各入力ポートにて,光パケットスイッチに到着したパケットのルートヘッダを読み取り,スイッチコントローラ (図中SW Controller) が出力するポートを選択する。
【0041】
以下の文献に示されるアルゴリズムに基づいてパケット衝突回避のために与える遅延時間を算出した。
(文献:H. Harai and M. Murata, "High-Speed Buffer Management for 40
Gb/s-Based Photonic Packet Switches," IEEE/ACM Transactions on Networking, vol. 14, pp. 191-204, Feb. 2006.)
それらの結果を用いて,パケットをどのポートに出力し,どの遅延線を経由させるかを決定した。B本の遅延線は,長さD[ns]を単位長として,0, D, 2D, …, (B-1)D の離散的な遅延を与える。ある出力ポートに到着した複数のパケットが遅延線バッファを経由して衝突を回避するときの動作例を
図5に示す。
図5は,光遅延線バッファの振る舞いを示す概念図である。
図5(a)は,パケット到着時の様子を示す図である。
図5(b)は,パケットの相対位置を示す図である。
図5(c)は,光遅延バッファからの出力の論理的な位置関係の例を示す図である。4入力4遅延線バッファ (N = 4, B = 4) において,ある時刻に
図5(a) のように4つのパケットが到着したとする。ここで時間Tは,コントローラがパケットの到着状況を観測する周期を表し(内部クロック周波数は1/T),T は最小パケット長より短い。コントローラはパケット到着時刻とパケット長を取得し,ポート1, 2, …, N の順に到着パケットが通過する遅延線を決め,光パケットの出力先を切り替える。
図5(a) のように到着したパケットのそれぞれに遅延を与えた結果,パケットAが遅延線d0 に到着した直後のパケットの相対位置は
図5(b) のようになり,AからCの3 パケットが衝突なく出力され,パケットD は棄却される。
図5(c) はこのときの光遅延線バッファからの出力の論理的な位置を示しており,図のように光遅延線バッファの離散特性上,出力には空き(Void)が発生する。
【0042】
1.2.光遅延線バッファの性能評価
光遅延線バッファにおける遅延線数Bがネットワークの性能に与える影響を評価するため,ネットワークシミュレータns−3に光遅延線バッファ等の光パケットスイッチの機能を実装し,シミュレーション評価を行った。
【0043】
1.2.1.シミュレーション環境
まずシミュレーションで用いたトポロジと各パラメータの設定,およびトラヒックモデルについて述べる。ネットワークトポロジは,
図6に示すダンベル型トポロジを用いた。
図6は,ダンベル型トポロジの構成概念を示すブロック図である。100Gbpsの光パケット回線で接続されたスイッチの両端にそれぞれ10のイーサネット(登録商標)スイッチが接続する。各イーサネット(登録商標)スイッチには10の端末が接続する。トポロジの両端にそれぞれ100の端末が接続する。端末とイーサネット(登録商標)スイッチの間は伝播遅延1ms,回線速度10Gbps,イーサネット(登録商標)スイッチと光パケットスイッチの間は伝播遅延0.5ms,回線速度40Gbpsの回線で接続され,いずれもMTUは1500Byteである。最小パケット長は64Byteであり,光パケットに変換すると19.2nsとなるので,光パケットスイッチの観測周期Tは19nsとしている。遅延線の単位長Dは100nsとする。なおトラヒック発生モデルはUDPおよびTCPを用いて評価した。
【0044】
UDPトラヒックによる評価
時刻[0,0.5]の間に1Gbpsのフローを到着率λ(フロー/秒)のポアソン過程に従い発生させる。送受信端末の組み合わせは端末の中からランダムに選び,図左端の端末から右端の端末へトラヒックが流れる。
【0045】
TCPトラヒックによる評価
フロー制御プロトコルとしてTCP NewRenoを使用した。到着率λのポアソン過程に従いフローを発生させる点はUDPの場合と同様である。ただし左端から右端,もしくは右端から左端の端末へ向かいトラヒックを流すフローを同時に発生させ,様々な大きさのパケットがボトルネックを行き交う状況を与える。また,ファイル転送を想定し個々のフローに転送量の上限を定義する。フロー発生時の平均が780KByte前後となるようにα=0.5,X
m=90としたパレート分布を用いた。シミュレーション時間は5秒間とした。また,時刻[0,0.01]に発生したフローの転送量を無制限とし,それらのフローは終始バックグラウンドトラヒックを流し続けた。
【0046】
1.2.2.光遅延線バッファの遅延線数とネットワーク性能
上記のシミュレーション環境において,遅延線数Bを4,8,16,32,64とし性能評価を行った。また,比較のためにダンベル型トポロジのOPS部分を100Gbpsのイーサネット(登録商標)スイッチに置換した場合の性能評価(Ether)も同時に行った。ここで100Gbpsスイッチのバッファ容量は長さ63Dの遅延線と同等の20.48KByteとし,FIFO,DropTail方式でパケットを格納した。また,光遅延線バッファと同程度の高速処理ができると仮定し,パケット処理遅延は2T=38nsとした。総受信バイト数(UDP)トラヒック下でのフロー到着率λと端末が受信したデータ量の関係を
図7に示す。
図7は,端末の総受信バイト数(UDP)を示すグラフである。
図7において,X軸はフロー到着率を表し,Y軸は右端端末が受信したパケットの総バイト数を表す。時刻[0,0.5]でフローを発生させることで,λ/2×1Gbpsのフローがボトルネックリンクに流入する。λ=200の時点で流入フローが100Gbpsになる。一方,λ=150を超えた段階で,多量のパケットが棄却されるようになり光パケットスイッチの転送量は上がらない。遅延線数を4本から8本に増やすことで転送量は約10%向上するものの,16本以上に増やしても転送量はほとんど増えず,イーサネット(登録商標)スイッチの転送量とは大きな差が開いている。
【0047】
UDPトラヒック下では,パケットが間を置かずに到着し続け,大半のパケットが最長もしくはその付近の遅延線にのみ格納されるため,遅延線数の拡張が性能向上に直接結びつかない。TCPによる通信でも同様に,遅延線数を増やすことで性能向上が実現できるが,イーサネット(登録商標)スイッチの場合に比べるとその性能は劣る。
図8はフロー到着率λ=10
5のときのボトルネックリンクにおける片方向の回線スループットを示す。
図9はフロー到着率に対するTCPフローのグッドプット(アプリケーション層レベルのスループット)の平均値を示す。なおグッドプットの計測は時刻の間に発生したTCPフローを対象としている。遅延線数を4本から8本に増やすことで,回線スループットは1.5倍,平均グッドプットは1.3倍程度に向上する。しかし,16本以上に拡張しても,4本から8本に増やした場合に比べると性能向上の度合いは小さく,64本の場合でも回線スループットは60Gbps程度である。TCPトラヒック下ではACKパケットなどの小さなパケットも多数到着する。光遅延線バッファの離散特性により,それらは余剰な遅延を与えられやすく,出力回線の利用効率が低下する。イーサネット(登録商標)スイッチとの性能差はフロー到着率が増すほどに大きくなり,トラヒック負荷が高いほどイーサネット(登録商標)スイッチに近い性能を得ることは難しい。
【0048】
[実施例1]
1.光・電子融合型バッファ
参考例1にて,光遅延線バッファの遅延線数Bを増やすことで光パケットスイッチの通信性能が向上することが示された。一方,数十本程度の遅延線数で高速なイーサネット(登録商標)スイッチと同等の性能を得ることは難しいことも示された。先述の通り,光遅延線バッファの拡張は経済的・技術的観点から難しいと考えられるため,光遅延線バッファと安価な電子バッファを組み合わせることで光パケットバッファの性能向上を目指す。
【0049】
特性の異なるバッファを組み合わせて,収容能力の拡張と低消費電力を両立させる仕組みについては既に議論されており,以下の文献では,GE−PONのONUにおいて,平常時は低消費電力・低容量バッファ,混雑発生時には高消費電力・大容量バッファを使用し低消費電力の維持とパケット棄却の軽減を両立する仕組みが提案されている。
(文献:H. Uzawa, K. Terada, N. Ikeda, A. Miyazaki, M. Urano, and T. Shibata,
"Energy-efficient Frame-buffer Architecture and It’s Control Schemes for
ONU Power Reduction," in Proceedings of IEEE GLOBECOM, Dec. 2011.)
二種のバッファを組み合わせ,各々を適切に用いることで,光遅延線バッファの低遅延・低消費電力という特色を活かしつつ,電子バッファによりパケット収容能力を拡張することが可能となる。
【0050】
1.1.スライス化メモリバッファ
電子メモリの稼働領域を必要に応じて増減させることが,電子バッファの低消費電力化に繋がる。融合型バッファの低消費電力化には電子バッファの非稼働時の待機電力を最小限に抑えることが求められる。
そのためには,電子メモリの稼働領域を制御でき,かつ,稼働・停止の遷移時間が短いことが望ましい。以下の文献で提案されているスライス化メモリは,メモリを複数のスライスに分割し,スライス毎に個別に電源を制御することで,メモリの効率的な運用を実現する。スライス化メモリにおいて,各スライスは以下の3状態に遷移する。
(文献:K. Okuda, S. Ata, Y. Kuroda, Y. Yano, I. Iwamoto, K. Inoue, and I.
Oka, "2D Sliced Packet Buffer with Traffic Volume and Buffer Occupancy
Adaptation for Power Saving," in Proceedings of Consumer Communications
and Networking Conference, pp. 97-105, Jan. 2013.)
【0051】
アクティブ(Act.)状態…読み書き可能かつ高消費電力な状態。
ホット(ホットスタンバイ)(Hot)状態…CLK入力を遮断し待機電力はAct.状態の43%に抑える。Act.状態へ1μsで遷移可能な状態。
コールド(コールドスタンバイ)(Cold)状態…電力供給を遮断した状態で消費電力を0にできるがHot状態への遷移に100μsを要する状態。
Act.およびHot状態のいずれからも即時にCold状態に遷移可能。
例えばAct.状態の領域が不足するとHot状態の領域をAct.に切り替え,メモリの占有率が下がるとAct.の領域の一部をHotに切り替えるなど,スライス単位で状態を制御することで,メモリの容量制御が可能となる。スライス化メモリの柔軟かつ高速な電源制御機能に着目し,光・電子融合型バッファの電子メモリへ組み込む。
【0052】
1.2.融合型バッファの構成と動作概要
光・電子融合型バッファを,
図4の光遅延線バッファへ新たに電子バッファを併設した形で構成した(
図10)。
図10は,融合型バッファの構成例を示すブロック図である。融合型バッファでは,光遅延線バッファからの出力と電子バッファからの出力を光カプラで束ね隣接ノードに伝送する。カプラは束ねられる入力信号の数に限りがある。このため,電子バッファ起動時には遅延線のうちの1本,今回は最大長の遅延線は利用しないように制御することが好ましい。このようにすることで,比較的安価なカプラを用いても効果的にバッファ機能を達成できる。カプラの性能が非常に高い場合は,電子バッファを起動した場合でも,全ての遅延線を利用し続けてもよい。
【0053】
電子バッファ部分は,例えば,
図10下部のような部品で構成され,各入力ポートに対応するO/E変換レシーバとスライス化メモリを持つ。各ポートの混雑状況に応じてそれぞれのメモリのAct.領域の大きさ,すなわちメモリ容量を切り替える。メモリコントローラはパケットを到着順に管理し,光遅延線バッファからの出力に空きが生じた際にE/O変換トランスミッタを介しパケットを出力する。
【0054】
融合型バッファは,平常時は光遅延線バッファのみを用い,電子バッファは利用しない。その間は電子バッファへの電力供給を遮断し消費電力を低減することが可能となる。レシーバやトランスミッタへの電力供給も削減でき,さらなる消費電力低減が期待される。ただし,スライス化メモリはColdからAct.への状態遷移時間が101μsと長く,突発的なトラヒック増加に対応できない。そこで電子バッファは少なくとも1スライスをHot状態に保ち待機する。
【0055】
混雑発生時には,融合型バッファは電子バッファを起動し利用することでパケット収容能力を拡張する。光遅延線バッファと電子バッファでは遅延特性が異なり,光遅延線バッファは電子バッファに比べて低遅延である。そのため,パケットをランダムに光遅延線バッファ,電子バッファに振り分けると順序の逆転が生じる。特にTCP RenoやNewRenoなど重複ACKの検出により送信レートを下げるプロトコルでは順序の逆転が起こるとスループットが低下する。そこでフロー単位で光遅延線バッファ,電子バッファのいずれを利用するかを決め,あるフローは全て光遅延線へ,別のフローは全て電子メモリへと,利用するバッファを固定することが好ましい。光パケットのルートヘッダに送受信ノードの情報が記載されており,これを用いることで,フロー単位で使用するバッファを切り替えることが可能である。
【0056】
光遅延線バッファはパケットに与えられる遅延が離散的であり,パケットの送出タイミングを微調整することができない。そこで電子バッファ側で出力タイミングを調整し,光遅延線バッファと電子バッファの出力の衝突を避ける。元来,光遅延線バッファ制御装置は,各入力ポートへのパケット到着時刻,パケット長,および与える遅延を管理している。本発明のバッファ制御部(特に電子バッファ制御部)は,これらの情報から,光遅延線バッファからの出力状況を把握できる。電子バッファ制御部は,光遅延線バッファの出力状況を常時監視し,電子バッファ先頭のパケット長より長い空白があればパケットを送出する。
【0057】
混雑が解消され,光遅延線バッファの占有率が低い状態が続くと,融合型バッファは電子バッファを停止し,光遅延線バッファのみの状態へ戻るか,又はトラヒックが閾値以下になれば電子バッファ部を停止してもよい。
【0058】
1.3.光・電子融合型バッファの消費電力
前節で述べた融合型バッファが全てのパケットを電子バッファに格納する場合と比較してどの程度省電力化が見込めるかについて試算する。
【0059】
図10では,融合型バッファの構成に加えて,各装置の消費電力についても記載している。O/E,E/O変換送受信器などの光デバイスの消費電力については,先に説明した光統合ネットワークノードの構成部品の消費電力に基づく。ただし現行の4×4SOAスイッチは,1基あたり200Wの電力を消費する。これは100GHz間隔で入力された信号をインターリーバにより400GHz間隔へ変換する電力消費を含んでいるためで,将来はこれを省略することで消費電力を1/4程度に軽減できる可能性がある。この点を考慮してSOAスイッチ1基の消費電力は50Wとしている。電子メモリの消費電力はCisco CRSラインカードの消費電力のうちメモリが占める割合は19%であること及び,Cisco CRS−3ラインカード(140Gbps,1GByte)の消費電力が446Wであることから85Wとした。これを4ポート×16スライスに分割したときの各スライス単位の消費電力は図に示した通りである。なお,電子メモリのコントローラの消費電力は電子メモリの半分としている。
【0060】
以下,まず,4×4光パケットスイッチの消費電力について議論する。表1に融合型バッファを用いた場合と電子バッファのみを用いた場合の光パケットスイッチの最大および最小消費電力の詳細と合計を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
全てのパケットを電子バッファのみで収容する場合,SOAスイッチや光遅延線バッファコントローラなどの光デバイスを取り除き,消費電力を削減できる。しかしパケット到着に備え,O/E変換レシーバは常に稼働させ,電子メモリは4スライスをAct.状態,4スライスをHot状態に保つ必要がある。これらの条件を考慮すると電子バッファ1基あたりの消費電力は約325Wとなる。光パケットスイッチ1基は,4基のバッファを擁するため,アンプなどを含めた光パケットスイッチ全体の消費電力は最小で1478W,メモリを全てAct.状態にした最大値は1786Wとなる。
【0063】
一方,融合型バッファでは,SOAスイッチやバッファコントローラなどのデバイスが増えるものの,電子バッファのO/E変換レシーバの電源を切ることができ(トランスミッタは起動に要する時間を考慮し常時起動),メモリは各ポートに対して1スライスだけをHotに保てば十分であるため,電子バッファ部の消費電力を削減できる。このとき融合型バッファの平常時の消費電力は,光遅延線バッファ部と電子バッファ部を合わせて219Wとなり,電子バッファのみの場合と比べて2/3に軽減できる。ただし,電子部品を全て起動した時の融合型バッファの消費電力は534Wと電子バッファのみの場合より大きい。
【0064】
上記の通り融合型バッファの平常時での消費電力削減の効果は明らかである。一方,全ての電子バッファ部品を使用した場合の最大消費電力は2314Wと,電子バッファのみの場合の1.3倍の電力を要する。しかしこれは融合型バッファ運用の効率化により解決できると考えられる。例えば4基ある融合型バッファのうち,1基だけが電子バッファ部を使用すると,スイッチ全体の消費電力は1369Wである。つまり,2基以上同時に電子バッファ部を起動しない限り,融合型バッファは電子バッファのみの場合より少ない消費電力で運用できる。電子バッファ部の使用を必要最小限に留め,複数の電子バッファ部が同時に起動する機会を極力減らすことで,スイッチ全体の消費電力量を電子バッファのみの場合に比べて大幅に削減できる。
【0065】
2.性能評価
2.1.融合型バッファの動作モデル
前述の光遅延線と電子メモリを組み合わせた融合型バッファの性能を示すため,シミュレーションによる評価を行う。融合型バッファの大まかな性能特性を示すため,融合型バッファにおける電子バッファ部の電源制御やスライス化メモリ内部のAct.状態やHot状態の切り替え制御に関しては,非常に単純な動作モデルを定義し評価する。融合型バッファにおける電子バッファ部の電源制御モデルについては以下の通りである。
【0066】
電子バッファ部の電源制御
利用された遅延線の数が遅延線総数の50%を超えると電子バッファ部を起動する。なお,利用された遅延線の数が,遅延線総数の30%以上80%以下のある値を越えた場合に,電子バッファを起動するようにしてもよく,40%以上60%以下のある値でもよい。このように利用された遅延線の数に応じて,電子バッファ部を起動するか又は起動しないかを制御してもよい。
【0067】
利用された遅延線数が遅延線総数の25%の状態が1ms続くと電子バッファを停止する。すなわち,電子バッファ部を起動した後,利用されている遅延線の数が,遅延線総数の15%以上40%以下の状態が0.1ms以上3ms以下,又は遅延線総数の20%以上30%以下の状態が0.5ms以上2ms以下続いた場合に,起動させていた電子バッファを停止するように制御してもよい。このようにいったん電子バッファを起動した後も,遅延線の利用率が所定の値を下回った場合や,所定の利用率を下回る期間が所定期間以上生じた場合は,電子バッファを停止するように制御してもよい。
【0068】
スライス化メモリの状態制御
Act.領域の利用率が75%を超えた際に,Hot領域(Hot状態にある領域)をAct.領域に遷移させ,拡張後のAct.領域と同じ大きさのCold領域をHot状態に遷移させる。また,Act.領域の利用率が25%を下回ると,Hot領域をColdの状態に,Act.領域の半分をHotに遷移させる。すなわち,スライス数の上限に達するまでは,利用率75%を超える度にAct.領域を2倍に拡張し,利用率25%を下回る度にAct.領域を半分に縮小するように振る舞う。本発明は,上記の具体的な数値を特定の値又は特定の範囲と読み替えた制御を行うことができる。
【0069】
電子バッファ起動時にパケットを光遅延線と電子バッファのどちらに振り分けるかについては,こちらも単純化のため,入力ポート1〜5は光遅延線バッファ,ポート6〜10は電子バッファへと,入力ポート単位で使用するバッファの種類を固定した。この方法は,一つのフローが経由するバッファは常に同じであるという点で,フロー毎に使用バッファを切り替える場合と本質的には同じである。電子バッファは光遅延線バッファの出力状況を監視して出力タイミングを調整する。加えて輻輳回避のために入力ポート単位でRandom Early Detection (RED)による動的キュー制御を導入した。光パケットのプリアンブル,SFD は取り除かれた状態で電子バッファに格納され,電子バッファからの出力の際に改めて付加されるものとする。
【0070】
2.2シミュレーション環境
ネットワークトポロジは先の参考例1と同じダンベル型トポロジを用いた。トラヒックモデルとしてTCPモデルを用いた評価,および融合型バッファの電源制御がトラヒック需要の変動に十分に対応可能であるかを確認するため,フロー到着率が2秒ごとに増減する場合の評価を行った。電子メモリは1ポート当たり約1MByte,16スライスに分割し1スライスあたりの容量は約64Kbyteであった。また,メモリの読み書きには10.66GByte/sの遅延がかかる。REDのパラメータは,max
p=20%,min
th=12.5%,max
th=80%, w
q=0.002としている。
【0071】
2.3 融合型バッファのスループット
図11は,TCPモデルを用いたときの,融合型バッファの平均グッドプットを示す。
図11は,時刻[3,4]に発生したフローの平均グッドプットを計測した図である。
図11において,X軸・Y軸は
図9と同様である。図より8本の遅延線からなる光遅延線バッファに電子バッファを組み合わせた融合型バッファの平均グッドプットは,混雑時(λ=8×10
4程度)では光遅延線バッファのみの場合に比べて20%近くグッドプットが向上している。更にこのとき,融合型バッファの平均グッドプットは,遅延線数64本の光遅延線バッファのグッドプットを上回る。このことから融合型バッファは遅延線数の拡張によらない収容能力の向上を達成していると言える。また,λ=10
5のときの出力回線スループットは約75Gbps程度に向上しており(
図8),これはB=8の光遅延線バッファのみの場合と比べて約70%の性能向上である。一方,融合型バッファは,特に混雑時において,イーサネット(登録商標)スイッチに比べると性能が劣る。しかしこの点は電子バッファに収容するパケットの割合を上げることで解決できると考えられる。メモリ読み書きの頻度が上がると電子部品の消費電力が増すため,電子バッファの使用は極力抑えることが望ましい。光遅延線バッファと電子バッファの利用比は混雑状況に応じた調整が好ましい。
図12は,2秒おきにフロー到着率,すなわちトラヒック需要が変動する状況下での光遅延線バッファと融合型バッファの出力回線スループットを比較したグラフである。X軸は時刻を表し,左のY軸は出力回線のスループットを,右のY軸はフロー到着率λを表す。時刻[2,4],および[6,8]でフロー到着率が上昇し,トラヒック負荷が高まっているが,融合型バッファは光遅延線バッファを上回るスループットを得られる。二種のバッファを組み合わせることで,棄却率の軽減と回線利用効率の向上が実現できる。