(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249406
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】顕微鏡観察方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G02B 21/06 20060101AFI20171211BHJP
G02B 21/36 20060101ALI20171211BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
G02B21/06
G02B21/36
G01N21/64 E
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-74162(P2014-74162)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-197493(P2015-197493A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年1月19日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔刊行物名〕 生物物理 第51回年会プログラム集 〔開催場所〕 国立京都国際会館 〔主催者名〕 日本生物物理学会 〔公開日〕 平成25年10月28日〜10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】501086714
【氏名又は名称】学校法人 学習院
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】西坂 崇之
(72)【発明者】
【氏名】三上 渚
【審査官】
森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−284243(JP,A)
【文献】
実開平5−11006(JP,U)
【文献】
特開2003−114388(JP,A)
【文献】
特開平10−281876(JP,A)
【文献】
特開2004−198970(JP,A)
【文献】
特開2004−138735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 − 21/74
G02B 21/00 − 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料面に配置される蛍光物質にレーザー光を照射し、その蛍光物質からの輝点信号を受光することで、蛍光物質またはそれに結合した組織を観察する顕微鏡装置において、
照射するレーザー光を円偏光の光に変換する円偏光化変換部材と、
照射するレーザー光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、円偏光化変換部材からの円偏光の光を直線偏光の光に変換すると共に、全ての角度から試料面にs偏光の光を照射する直線偏光化変換部材及び偏向部材と、
受像部の前に、試料面からの受光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、試料面に照射した光のs偏光の回転に同期させて試料面からの画像を回転させる偏向部材とを備える
ことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項2】
円偏光化変換部材が、
照射するレーザー光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、90°単位で回転をする
請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
円偏光化変換部材及び直線偏光化変換部材が、1/4波長板である
請求項1または2に記載の顕微鏡装置。
【請求項4】
偏向部材が、プリズムである
請求項1ないし3のいずれかに記載の顕微鏡装置。
【請求項5】
偏向部材が、ガラス基板である
請求項1ないし3のいずれかに記載の顕微鏡装置。
【請求項6】
照射するレーザー光を円偏光の光に変換する円偏光化変換部材と、
照射するレーザー光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、円偏光化変換部材からの円偏光の光を直線偏光の光に変換すると共に、全ての角度から試料面にs偏光の光を照射する直線偏光化変換部材及び偏向部材と、
受像部の前に、試料面からの受光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、試料面に照射した光のs偏光の回転に同期させて試料面からの画像を回転させる偏向部材とを備え、
試料面に配置される蛍光物質にレーザー光を照射し、その蛍光物質からの輝点信号を受光することで、蛍光物質またはそれに結合した組織を観察する顕微鏡装置を用い、
直線偏光化変換部材と偏向部材とを同期させて回転することで、全ての角度から試料面にs偏光の光を照射し、
試料面に照射した光のs偏光の回転に同期させて、偏向部材を回転することで、試料面からの画像を回転させて、試料のリアルタイムでの観察を可能にする
ことを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項7】
照射するレーザー光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、照射するレーザー光を円偏光の光に変換する円偏光化変換部材と、
照射するレーザー光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、円偏光化変換部材からの円偏光の光を直線偏光の光に変換すると共に、全ての角度から試料面にs偏光の光を照射する直線偏光化変換部材及び偏向部材と、
受像部の前に、試料面からの受光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、試料面に照射した光のs偏光の回転に同期させて試料面からの画像を回転させる偏向部材とを備え、
試料面に配置される蛍光物質にレーザー光を照射し、その蛍光物質からの輝点信号を受光することで、蛍光物質またはそれに結合した組織を観察する顕微鏡装置を用い、
直線偏光化変換部材と偏向部材とを同期させて回転することで、全ての角度から試料面にs偏光の光を照射して、s偏光による信号を受光し、
円偏光化変換部材を回転させ、直線偏光化変換部材と偏向部材とを同期させて回転することで、全ての角度から試料面にp偏光の光を照射して、p偏光による信号を受光し、
得られたs偏光による信号とp偏光による信号とから、試料の試料面に平行な向き及び垂直な向きを測定する
ことを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項8】
円偏光化変換部材を90°単位で連続的に回転させることで、s偏光による信号とp偏光による信号とを取得する
請求項7に記載の顕微鏡観察方法。
【請求項9】
s偏光及びp偏光による画像信号強度を、それぞれ下記式によって表し、
試料の試料面に対する傾斜角Φを算出する
【数1】
【数2】
(ただし、
【数3】
r,θ=極座標、α=試料の試料面に平行な方位角、I
SO=s偏光による蛍光物質の明るさを示す指数、I
PO=p偏光による蛍光物質の明るさを示す指数、p=偏光度を示す指数、R=信号画像の半径、s=信号画像の広がりを示す指数)
請求項7または8に記載の顕微鏡観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡下の微細物質の3次元方位をリアルタイムで検出する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光学顕微鏡に関する技術の発展はめざましく、現在は水溶液中の1個の蛋白質を対象に研究ができる段階にまで到達している。この発展を可能にしたのは、全反射照明など光学系の新技術、様々なタイプの高感度カメラの開発、光学フィルターの特性の向上などである。数多くの実験的手法があみ出され、今や「1分子生理学」という新しい流れが生まれつつある。
例えば、分子モーターや蛋白質分解酵素は、基質の結合によりダイナミックな構造変化を伴い、それが機能に密接に関係すると考えられている。
このような1個の生体分子の中で起こる構造変化を、分子レベルで生きたままリアルタイムで可視化できるようにする技術が求められている。特に、顕微鏡下で運動する原子分子の3次元位置情報が得られれば、蛋白質1分子の動態の解明など、飛躍的な進歩が望める。
【0003】
蛋白質1分子を観察するには、蛋白質を蛍光色素分子等の蛍光物質で特異的にラベルし、その1個の蛍光物質からの信号を蛍光顕微鏡でとらえられる。蛍光顕微鏡は、ある特定の波長の光が当たると、その光の波長より長い波長の光を出す色素を利用し、蛍光物質を光らせるための励起光を照射するための光学系と、それにより発生した蛍光を観察する光学顕微鏡とを組み合わせた構成を備える。観察したい細胞内の構造に蛍光物質を有する試薬を結合させ、所定波長の光をその蛍光物質に照射すると、目的の細胞内の構造が暗黒を背景にして蛍光を発する。
【0004】
蛍光物質1個の観察のためには、エバネッセント場による照明が有用である。対象試料を含む水溶液とガラスとの境界面に対して、ガラス側から全反射角以上の角度でレーザー光を全反射照明し、境界面近傍に発生する非伝播光であるエバネッセント場によって対象試料を照明することで、蛍光物質に蛍光を発生させる。
エバネッセント場は、境界面に垂直な方向に対して指数関数的に減衰し、その減衰度合は屈折率とレーザー光の入射角に依存している。そのため、エバネッセント場は、境界面から水溶液中約150nmの深さの局所領域のみを照明することになるので、全反射照明は、通常光による照明と比較して、背景光が極端に少ない利点がある。
また、試料水溶液中に多数の蛍光物質が存在するような条件下でも、境界面近傍の水溶液側に蛍光物質が存在する確率は小さいので、境界面上に固定されている1個の標的蛍光物質以外から発せられる蛍光は少ない。そのため、背景光や他の蛍光物質の蛍光によるノイズが極端に少ないので、所望の標的蛍光物質1個からの蛍光を観察することが可能となる。
【0005】
全反射照明による1分子観察では、例えば、蛍光物質で標的した蛋白質や、DNA、基質のATPなどの生体分子をガラス面に結合させ、1個1個の分子を独立した輝点として観察する。蛍光物質を励起する場合、色素分子の振動面と励起光の偏光方向が一致していることが必要である。
【0006】
しかし、従来の全反射照明では、色素分子の振動面と励起光の偏光方向が一致した分子は明るくて観察できるが、一致しない分子は暗くて観察できないという問題点があった。
また、1分子からの微弱な信号を、2次元の映像として画像化するためには、イメージインテンシファイアーやクールドCCDなどの高感度カメラが用いられる。これらのカメラは、ビデオ信号、もしくはそれより遅いデジタルの信号を出力するため、データの時間分解能は、ビデオの時間分解能の数十ミリ秒を超えることはできない。この時間分解能の上限が、1分子レベルでの研究を進めるうえで障害となっている。
【0007】
このような状況において、本発明者は、1個の生体分子の特定部分の構造変化をリアルタイムで検出するために、独自の全反射型蛍光顕微鏡を作製し観察を行っている。
特許文献1は、偏光を回転させることにより蛍光物質1個の向きをその明滅の位相として検出する全反射型蛍光顕微鏡に関し、特許文献2は、蛍光物質と結合した試料の振動モーメントの方向によらず、その対象色素分子を観察できる全反射蛍光顕微鏡に関し、特許文献3は、受像側の映像を偏光と同期させて回転させることにより、蛍光物質1個の向きをリング状のパターンとして検出する全反射型蛍光顕微鏡に関する。
【0008】
図1は、特許文献3による全反射型蛍光顕微鏡の要部構成を示す説明図である。
照射するレーザー光を直線偏光の光に変換する偏光変換部材と、蛍光物質からの輝点信号の進行方向を変える回転可能な偏向部材とを備え、その偏向部材の回転により、蛍光物質からの輝点信号を受像面上で2次元的にスキャンすることで時間分解能を上げている。
【0009】
しかし、特許文献1〜3においては、蛍光物質1個の向きとして検出可能なのは、試料面に平行な向きまでであり、試料面に垂直な向きはわからず、また、リアルタイムでの検出はできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許3577514号「全反射型蛍光顕微鏡」
【特許文献2】特許第3671227号「全反射型蛍光顕微鏡および照明光学系」
【特許文献3】特許第4448471号「全反射型蛍光顕微鏡」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、顕微鏡下の微細物質の3次元方位をリアルタイムで検出する方法と、それを実施する装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の顕微鏡装置は、試料面に配置される蛍光物質にレーザー光を照射し、その蛍光物質からの輝点信号を受光することで、蛍光物質またはそれに結合した組織を観察する顕微鏡装置において、照射するレーザー光を円偏光の光に変換する円偏光化変換部材と、照射するレーザー光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、円偏光化変換部材からの円偏光の光を直線偏光の光に変換すると共に、全ての角度から試料面にs偏光の光を照射する直線偏光化変換部材及び偏向部材と、受像部の前に、試料面からの受光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、試料面に照射した光のs偏光の回転に同期させて試料面からの画像を回転させる偏向部材とを備えることを特徴とする。なお、蛍光物質としては、蛍光色素分子や量子ドットなど、蛍光を発する微小な単一物質が使用可能である。
【0013】
ここで、円偏光化変換部材を、照射するレーザー光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、90°単位で回転をする構成にしてもよい。
【0014】
円偏光化変換部材及び直線偏光化変換部材としては、1/4波長板が好適である。
【0015】
偏向部材としては、プリズムが簡便で好適である。
【0016】
偏向部材に、ガラス基板を用いて、受像面での回転半径縮小に寄与させてもよい。
【0017】
本発明の顕微鏡観察方法は、照射するレーザー光を円偏光の光に変換する円偏光化変換部材と、照射するレーザー光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、円偏光化変換部材からの円偏光の光を直線偏光の光に変換すると共に、全ての角度から試料面にs偏光の光を照射する直線偏光化変換部材及び偏向部材と、受像部の前に、試料面からの受光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、試料面に照射した光のs偏光の回転に同期させて試料面からの画像を回転させる偏向部材とを備え、試料面に配置される蛍光物質にレーザー光を照射し、その蛍光物質からの輝点信号を受光することで、蛍光物質またはそれに結合した組織を観察する顕微鏡装置を用い、直線偏光化変換部材と偏向部材とを同期させて回転することで、全ての角度から試料面にs偏光の光を照射し、試料面に照射した光のs偏光の回転に同期させて、偏向部材を回転することで、試料面からの画像を回転させて、試料のリアルタイムでの観察を可能にすることを特徴とする。
【0018】
同様に、本発明の顕微鏡観察方法は、照射するレーザー光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、照射するレーザー光を円偏光の光に変換する円偏光化変換部材と、照射するレーザー光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、円偏光化変換部材からの円偏光の光を直線偏光の光に変換すると共に、全ての角度から試料面にs偏光の光を照射する直線偏光化変換部材及び偏向部材と、受像部の前に、試料面からの受光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、試料面に照射した光のs偏光の回転に同期させて試料面からの画像を回転させる偏向部材とを備え、試料面に配置される蛍光物質にレーザー光を照射し、その蛍光物質からの輝点信号を受光することで、蛍光物質またはそれに結合した組織を観察する顕微鏡装置を用い、直線偏光化変換部材と偏向部材とを同期させて回転することで、全ての角度から試料面にs偏光の光を照射して、s偏光による信号を受光し、円偏光化変換部材を回転させ、直線偏光化変換部材と偏向部材とを同期させて回転することで、全ての角度から試料面にp偏光の光を照射して、p偏光による信号を受光し、得られたs偏光による信号とp偏光による信号とから、試料の試料面に平行な向き及び垂直な向きを測定することを特徴とする。
【0019】
円偏光化変換部材を90°単位で連続的に回転させることで、s偏光による信号とp偏光による信号とを取得してもよい。
【0020】
s偏光及びp偏光による画像信号強度を、それぞれ下記式によって表し、試料の試料面に対する傾斜角Φを算出してもよい。
【0021】
【数1】
【0022】
【数2】
【0023】
(ただし、
【数3】
r,θ=極座標、α=試料の試料面に平行な方位角、I
SO=s偏光による蛍光物質の明るさを示す指数、I
PO=p偏光による蛍光物質の明るさを示す指数、p=偏光度を示す指数、R=信号画像の半径、s=信号画像の広がりを示す指数)
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、顕微鏡下の微細物質の3次元方位をリアルタイムで検出することができ、微細物質の動態の解明に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】先行技術による全反射型蛍光顕微鏡の要部構成を示す説明図
【
図2】本発明による顕微鏡装置の要部構成を示す説明図
【
図6】試料面に平行及び垂直な方位での分解能を評価した結果を示す写真及びグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、図面を基に本発明の実施形態を説明する。
ここでは、観察対象としてF
1-ATPaseを挙げて説明するが、任意の微細物質を対象とすることができる。また、実施形態は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記従来技術など従来公知の技術を援用して適宜設計変更可能である。
【0027】
ATP合成酵素は分子量約50万の蛋白質複合体であり、その膜中に存在するFo部分(a
1b
2c
10−14)と、膜外に存在するF1部分(α
3β
3γ
1δ
1ε
1 )とから成る。水素イオンがFo部分を通過する際のエネルギーを利用して、F1部分がATPを合成し、また可逆的に、F1部分でのATPの加水分解により、Fo部分で水素イオンを駆動するポンプとして作用する。
F1-ATPaseは、3つのαサブユニットと3つのβサブユニットとが交互に並んでリング状の構造をとり、棒状のγサブユニットを囲んだ形状をし、大きさ約10nmである。ATPの加水分解はβサブユニットで行われ、α
3β
3γ
1のみでATP加水分解活性を有する。
【0028】
本発明者は、上記特許文献の技術を利用して、F1-ATPaseの化学状態に対応した構造の変化を確認している。
γにビーズを付け、ビーズの方位を観察することで、βの化学状態を検知した。すなわち、βがATPが付いたclosedの状態か、ATPが付いていないopenの状態か、それとも、すでにADPとリン酸に分解した後かが、ビーズの方位からわかる。
βの構造変化は、βに蛍光物質を付け偏光したレーザー光を照射して、蛍光顕微鏡で明滅を観察することで検知できた。
図1に示した装置を利用し、レーザー光を1/4波長板で円偏光の光にし、再度1/4波長板を通して直線偏光の光にする際に、1/4波長板をプリズムと一緒に回転させることによって、一定速度で回るs偏光の光を形成して、すべての角度から試料面にs偏光の光を照射する。これによって、構造変化に伴う蛍光物質の方位変化がわかる。
【0029】
この研究の発展として、試料面(xy)に垂直な方位(Z)での変化を、リアルタイムで観察するために、装置に改良を加えた。
図2は、本発明による顕微鏡装置の要部構成を示す説明図である。
本装置は、従来の蛍光顕微鏡等の顕微鏡装置に、1/4波長板等の偏光変換部材と、プリズムやガラス基板等の偏向部材と、CCDカメラ等の受光素子での入力画像データ処理する画像処理手段と、画像処理手段から出力される立体視用画像データを表示する表示装置などを組み込むことによって構成される。
【0030】
詳しくは、照射するレーザー光を円偏光の光に変換する円偏光化変換部材と、照射するレーザー光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、円偏光化変換部材からの円偏光の光を直線偏光の光に変換すると共に、全ての角度から試料面にs偏光の光を照射する直線偏光化変換部材及び偏向部材と、受像部の前に、試料面からの受光の光軸を回転軸として回転可能に設けられ、試料面に照射した光のs偏光の回転に同期させて試料面からの画像を回転させる偏向部材とを備える。
これによって、直線偏光化変換部材と偏向部材とを同期させて回転することで、全ての角度から試料面にs偏光の光を照射し、次いで、試料面に照射した光のs偏光の回転に同期させて偏向部材を回転することで、試料面からの画像を回転させて、試料のリアルタイムでの観察が可能になる。
すなわち、明滅している画像が回転によって、
図3の写真に示すように、コーヒー豆状の静止画像になり、そのコーヒー豆状の濃淡の方位によって、蛍光物質の方位が表される。そのため、コーヒー豆状の画像の動きによって、試料の変化がリアルタイムで検知できる。なお、
図3において、αは試料面(xy)における方位角を表す。
【0031】
円偏光化変換部材及び直線偏光化変換部材としては、1/4波長板が好適に使用でき、偏向部材としては、プリズムやガラス基板が好適に使用できる。
また、偏向部材は、輝点信号の進行方向を変える作用を有するものであればよく、プリズムやガラス基板の代わりに、ミラーや、光の方向を電磁気的に制御する素子も利用できる。
また、円偏光化変換部材や直線偏光化変換部材や偏向部材は、中空モーターに取り付けて、光の光軸を回転軸として回転可能に設置してもよい。
【0032】
図4は、偏光のスイッチングを行う様態を示す説明図である。
円偏光化変換部材を回転させ、直線偏光化変換部材と偏向部材とを同期させて回転すると、全ての角度から試料面にp偏光の光が照射され、p偏光による信号が受光される。
そのため、円偏光化変換部材を90°単位で連続的に回転させると、s偏光とp偏光とがスイッチングされ、s偏光による信号とp偏光による信号とを取得できる。
p偏光の光による信号画像は、Z方向の蛍光物質の射影が映るため、一定の明るさのドーナッツ状の静止画像になる。
xy方向の射影であるコーヒー豆状の画像と、z方向の射影であるドーナッツ状の画像を比較すると、試料の試料面に垂直な向きも測定できる。
【0033】
s偏光の光によるxy方向の射影であるコーヒー豆状の画像信号強度を、下記式によってフィットさせ、
【0034】
【数1】
【0035】
p偏光によるz方向の射影であるドーナッツ状の画像信号強度を、下記式によってフィットさせると、
【0036】
【数2】
【0037】
試料の試料面に対する傾斜角Φを、下記式によって算出できる。
【0038】
【数3】
【0039】
上式において、r,θは極座標、αは試料の試料面に平行な方位角、I
SOはs偏光による蛍光物質の明るさを示す指数、I
POはp偏光による蛍光物質の明るさを示す指数、pは偏光度を示す指数、Rは信号画像の半径、sは信号画像の広がりを示す指数である。偏光度pは、0≦p≦1の値をとり、
図5の写真に示すように、値が小さいほどワブルが激しいことを示す。
【0040】
本発明装置の分解能を評価した。
KOH処理したガラスに、蛍光ラベルを付けたF
1-ATPaseのβ(EDKCDC-BSR)をまき、褪色防止剤を含んだ溶液を流し、532nm、500μW/(10mW)
2のレーザーを照射し、試料面に当てる光の偏光を100及び500msおきにs偏光とp偏光を切り替えて観察した(Nikon TE2000-E、Nikon×100 NA1.49)。
【0041】
図6は、βの試料面に対する傾斜角50°、露光時間500msでの測定結果であり、上のグラフにおける丸が、試料面に平行な方位、下のグラフにおける三角が、試料面に垂直な方位での測定値を示す。
試料面に平行な方位も、試料面に垂直な方位も、6°の精度で観測できたため、20°程度回転するβに対して十分な分解能が認められた。なお、露光時間100msでは、試料面に平行な方位は3°の精度で観測できた。
【0042】
本評価試験では、受像部の前の偏向部材に、厚さ1mmのガラス基板を用いた。
ガラス基板によると、受像面での回転半径を極端に小さくすることができる。本実施例では、像の回転半径は約50μmであった。
なお、ガラス基板の厚さは、特に限定されず0.1〜10mm程度のものが使用でき、ガラス基板にプリズムを接合させた部材も使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によると、従来の装置を利用し、それに改変を加えるのみで、微細物質の3次元動態をリアルタイムで観測できる。そのため、例えば、微生物個体や器官の3次元動態観察、外乱を加えた時の3次元微細構造の変化観察、光ピンセットと組み合わせた3次元ナノマニピュレーション技術、感染や発症のメカニズム解明、タンパク質の動作メカニズム解明による創薬など、様々な用途があり、産業上非常に有用である。