特許第6249415号(P6249415)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6249415新規光線過敏症抑制剤トレハンジェリン物質及びその製造法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249415
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】新規光線過敏症抑制剤トレハンジェリン物質及びその製造法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/12 20060101AFI20171211BHJP
   C07H 3/04 20060101ALI20171211BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20171211BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171211BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20171211BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20171211BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20171211BHJP
   A61K 31/7016 20060101ALI20171211BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20171211BHJP
   C12R 1/01 20060101ALN20171211BHJP
【FI】
   C12P19/12
   C07H3/04
   C12N1/20 A
   A61P43/00 111
   A61P39/06
   A61P17/18
   A61Q17/04
   A61K31/7016
   A61K8/60
   C12P19/12
   C12R1:01
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-532813(P2014-532813)
(86)(22)【出願日】2013年9月2日
(86)【国際出願番号】JP2013005174
(87)【国際公開番号】WO2014034147
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年7月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-193105(P2012-193105)
(32)【優先日】2012年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-01411
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120293
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 智子
(72)【発明者】
【氏名】大村 智
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋子
(72)【発明者】
【氏名】中島 琢自
(72)【発明者】
【氏名】松本 厚子
(72)【発明者】
【氏名】岩月 正人
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−089036(JP,A)
【文献】 国際公開第99/060849(WO,A1)
【文献】 J. Nutr. Sci. Vitaminol.,1981年,Vol.27, No.6,p.521-527
【文献】 ビタミン,1979年12月25日,Vol.53, No.12,p.543-548
【文献】 Int. J. Syst. Evol. Microbiol.,2006年 8月,Vol.56, No.8,p.1959-1964
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
C12N 1/00− 7/08
A61K 8/60
A61K 31/7016
A61P 17/18
A61Q 17/04
C07H 3/04
C12R 1/01
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で表される化合物。
【化1】
[式中、R〜Rのいずれか一つは2−メチルブタ−2−エノイル基であり、残りの二つは水素原子を示し、かつ、は水素原子を示し、R及びのいずれか一つは2−メチルブタ−2−エノイル基であり、残りのつは水素原子を示す。]
【請求項2】
下記式Iで表される化合物。
【化2】
【請求項3】
下記式IIで表される化合物。
【化3】
【請求項4】
下記式IIIで表される化合物。
【化4】
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を生産する能力を有するポリモーフォスポラ属に属する放線菌に属する微生物を培地で培養し、培養物中に請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を蓄積せしめ、該培養物から請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を採取することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を生産する能力を有する放線菌に属する微生物が、ポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510(NITE BP−1411)株である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
ポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510(NITE BP−1411)株。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を有効成分とする膜脂質障害抑制剤。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を有効成分とする酸化防止剤。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を有効成分とする医薬組成物。
【請求項11】
光線過敏症の治療薬又は予防薬である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を有効成分とする光線過敏症の予防及び/又は改善のための化粧品組成物。
【発明の詳細な説明】
【クロスレファレンス】
【0001】
本願は日本国特許第2012−193105号の優先権を主張する。本願が優先権を主張する日本国特許第2012−193105号記載の内容は全て参照によりそのまま本願に組み込まれる。また、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明はトレハンジェリン、その製造法、並びに、トレハンジェリンを含有する医薬組成物及び化粧品組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
光過敏症(光線過敏性皮膚症)とは、健常皮膚では反応を起こしにくい生理的範囲内の光線の照射によって被照射部に丘疹、紅斑、水疱、膨疹、色素沈着、慢性湿疹様変化等の多彩な皮疹などが認められる皮膚炎のことである。また、急性・亜急性・慢性の経過をとり、慢性化すると苔癬化を示すことが多い。光過敏症は外因性と内因性があり、外因性で発症する機序は,薬剤の直接作用によるもの(光毒性皮膚炎)と免疫学的機序を介するもの(光アレルギー性皮膚炎)に大別される。
【0004】
外因性光線過敏性皮膚症は、光線によって励起される物質(クロモフォア)が、体内に取り込まれて皮膚に到達し、日常的に曝露される線量の光線を受けることで皮膚に炎症を生じたものである。このような非遺伝性光線過敏症は、特発性光線過敏症、光接触皮膚炎、薬剤性光線過敏症などに分類されている。特発性光線過敏症としては、多形日光疹、種痘様水疱症等があげられ、また、光接触皮膚炎としては、光毒性皮膚炎及び光アレルギー性皮膚炎があげられる。さらに、薬剤性光過敏症としては、光毒性皮膚炎、光アレルギー性皮膚炎などがあげられる。
【0005】
これらの疾患は、その共通な発症原因に、可視光線、長波長紫外線、中波長紫外線等の光線照射があるため、フロンガスによるオゾン層破壊等に伴う、紫外線量の増加により、近年増加しつつある。これらの疾患のうち、多形日光疹、種痘様水痘症等の特発性光線過敏症の発症原因に関しては、多くの物理的・化学的因子やアレルギー機序が考えられているものの明らかでない。しかし、光接触皮膚炎及び薬剤性光線過敏症の発症原因に関しては、原因物質である光増感剤が外来的に直接皮膚に付着し、同時に作用波長の光が照射されることにより発症する。クロロフィル分解産物であるフェオフォルバイドなどは光増感剤の代表例であり、あわびのきも、野沢菜漬け、どくだみ茶、クロレラなどの食品中にしばしば存在する。さらに、皮膚疾患治療に用いられる外用剤、日焼け防止のためのサンスクリーンクリーム、香粧品、殺菌・消毒剤、石鹸、植物なども原因物質となりうる。また、薬剤性光線過敏症の発症原因は、外用、内服あるいは注射した薬剤そのもの、あるいは代謝産物が、光増感剤となり、同時に作用波長の光が照射されることにより発症する。
【0006】
これらの疾患の薬物療法には炎症性疾患であるため従来抗炎症剤が使用されており、例えばプロピオン酸クロベタゾール、酢酸ジフロラゾンジフルプレドナート、プロピオン酸デキサメタゾン等の副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤や、ケトプロフェン、ピロキシカム、イブプロフェンピコノール、ウフェナアート、グルチルレチン酸、クロタミトン、スピロフェン等の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が主に外用剤として使用されている。
【0007】
しかし、これらの薬物療法が十分なものではないのが現状である。即ち、ステロイド系薬剤については、その対症療法的な有効性は認められているものの、副作用あるいは一時休止後の再発時の症状悪化など(リバウンド現象)が広く知られている。副作用としては皮膚の感染症、過敏症、下垂体・副腎皮質系機能の抑制、ステロイド褥瘡、眼瞼皮膚への使用による眼圧亢進、緑内障、後嚢白内障等があげられ、眼科については使用が禁じられているものが多い。また、顔面、首等の疾患部位は該部位皮膚での薬物の吸収性が高いためステロイド系薬剤の全身的副作用が発症しやすく、該部位へのステロイド系薬剤の塗布は極力避けられている。一方、ケトプロフェン、ピロキシカム及びスプロフェンの非ステロイド性抗炎症薬は、そのものが光増感剤であり、治療に使用できない。また、その他の非ステロイド性抗炎症薬に関しても、ステロイド系薬剤と比較して有効性が低い、塗布部位にかぶれが生じやすい、眼科には使用できないものが多い等の欠点があり、治療薬としては不十分なものと言える。上記のような副作用、使用上の懸念等がある上に光線過敏症群疾患では、発症部位が顔面等の光線照射部位だけに特定されるため、このような薬剤を一層使用しにくくしている。また、免疫抑制作用を有する薬剤は常在菌の日和見感染や異型白癬やカンジダ症などの感染症の誘発増悪を引き起こすといった問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光線過敏症群患者に対し発症を抑えるもしくは症状を緩和し、安全性が高く、顔面などに使用しやすい薬剤が強く望まれている。具体的には、ステロイドや非ステロイド性抗炎症薬にみられるような副作用を示さない薬剤が望まれている。また常在菌の存在は免疫系を刺激し、免疫応答能力や感染抵抗性の付与に役立っていることから、常在菌に影響を及ぼさない薬剤は、感染症の誘発増悪の問題がないことより望ましい薬剤と考えられる。よって、本発明は、上記の従来技術の問題を解決するために新規の抗光過敏症活性物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、微生物の生産する代謝産物を対象に光線過敏症を抑制する物質を探索した結果、新たに植物から分離した放線菌K07−0510株の培養液中に光により惹起されたフェオフォルバイドaによる細胞障害作用を阻害する物質が産生されていることを見出した。次いで該培養物を精製、単離した結果、光により惹起されたフェオフォルバイドaによる細胞障害作用を阻害する物質としてトレハンジェリンを得た。得られたトレハンジェリンA、トレハンジェリンB及びトレハンジェリンCの化学構造を決定した結果、このような化学構造を有する物質は従来全く知られていないことから、新規物質であることを確認し、本発明を完成するに至った。
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、下記一般式
【0010】
【化1】
[式中、R〜Rのいずれか一つは2−メチルブタ−2−エノイル基であり、残りの二つは水素原子を示し、かつ、R〜Rのいずれか一つは2−メチルブタ−2−エノイル基であり、残りの二つは水素原子を示す。]
で表されるトレハンジェリンに関する。
【0011】
本発明のトレハンジェリンとして、好ましくは、トレハンジェリンA、トレハンジェリンB、及び/又はトレハンジェリンCである。
【0012】
本明細書において、トレハンジェリンAとは、以下の物性を有する化合物である:
(1)性状:透明あるいは白色粉末
(2)分子量:506
(3)分子式:C223413
(4)高分解能質量分析による[M+H] 理論値(m/z)507.2078、実測値(m/z)507.2087
(5)比旋光度:[α]25.3=+167.12°(c=0.1、メタノール)
(6)紫外部吸収極大 λmax(メタノール中):216nm
(7)赤外部吸収極大 νmax(KBr錠):=2919cm−1,1033cm−1に極大吸収を有する。
(8)H NMR(重メタノール中)δ ppm:6.11(1H,m),5.475(1H,dd),5.21(1H,d),3.92(1H,m),3.80(1H,dd),3.714(1H,dd),3.713(1H,dd),3.56(1H,dd),2.00(3H,m),1.95(3H,m)
(9)13C NMR(重メタノール中)δ ppm:169.6,138.2,129.6,95.1,76.5,73.9,71.6,70.0,62.2,20.8,16.0
(10)溶剤に対する溶解性:エタノール、メタノール及び水に易溶。クロロホルムに難溶。
【0013】
あるいは、トレハンジェリンAは下記式Iで表される化合物である。
【0014】
【化2】
【0015】
本明細書において、トレハンジェリンBとは、以下の物性を有する化合物である:
【0016】
(1)性状:透明あるいは白色粉末
(2)分子量:506
(3)分子式:C223413
(4)高分解能質量分析による[M+H] 理論値(m/z)507.2078、実測値(m/z)507.2074
(5)比旋光度:[α]25.3=+13.5°(c=0.1、メタノール)
(6)紫外部吸収極大 λmax(メタノール中):218nm
(7)赤外部吸収極大 νmax(KBr錠):=2942cm−1,1147cm−1に極大吸収を有する。
(8)H NMR(重メタノール中)δ ppm:6.22(1H,m),6.12(1H,m),5.37(1H,d),5.30(1H,dd),5.15(1H,d),4.76(1H,dd),4.13(1H,dd),3.91(1H,ddd),3.82(1H,dd),3.72(1H,dd),3.68(1H,dd),3.67(1H,dd),3.61(1H,dd),3.60(1H,dd),3.59(1H,ddd),3.44(1H,dd),2.08(3H,dd),2.00(3H,dd),1.96(3H,dd),1.94(3H,dd)
(9)13C NMR(重メタノール中)δ ppm:169.6,168.8,141.1,138.4,129.5,128.4,95.6,92.7,76.3,74.3,74.0,73.9,72.1,72.0,71.4,68.9,62.4,61.5,20.9,20.7,16.5,16.0
(10)溶剤に対する溶解性:エタノール、メタノール及び水に易溶。クロロホルムに難溶。
【0017】
又は、トレハンジェリンBは下記式IIで表される化合物である。
【0018】
【化3】
【0019】
本明細書において、トレハンジェリンCとは、以下の物性を有する化合物である:
【0020】
(1)性状:透明あるいは白色粉末
(2)分子量:506
(3)分子式:C223413
(4)高分解能質量分析による[M+H] 理論値(m/z)507.2078、実測値(m/z)507.2074
(5)比旋光度:[α]25.3=+11.4°(c=0.1、メタノール)
(6)紫外部吸収極大 λmax(メタノール中):218nm
(7)赤外部吸収極大 νmax(KBr錠):=2927cm−1,1149cm−1に極大吸収を有する。
(8)H NMR(重メタノール中)δ ppm:6.15(1H,m),5.20(1H,d),4.91(1H,dd),4.07(1H,ddd),4.02(1H,dd),3.59(1H,dd),3.58(1H,dd)3.51(1H,dd),2.00(3H,m),1.91(3H,m)
(9)13C NMR(重メタノール中)δ ppm:168.8,139.5,129.0,95.1,73.4,72.4,72.3,72.0,62.3,20.7,16.1
(10)溶剤に対する溶解性:エタノール、メタノール及び水に易溶。クロロホルムに難溶。
【0021】
又は、トレハンジェリンCは下記式IIIで表される化合物である。
【0022】
【化4】
【0023】
トレハンジェリンは水酸基を有することから、当業者に一般的に知られたアシル化反応を利用することによりエステル化合物であるプロドラッグを得ることができる。本発明はこのようなトレハンジェリンのエステル誘導体をも包含する。本明細書において、トレハンジェリンのエステル誘導体は、薬学的に許容されるものでなければならない。具体的には、本発明は、トレハンジェリンの水酸基と飽和又は不飽和の低級脂肪酸又は高級脂肪酸とがエステル結合したエステル化合物を包含する。本発明のトレハンジェリンのエステル化合物を与える脂肪酸としては、酢酸、ペンタン酸などの脂肪族カルボン酸;安息香酸などのアリールカルボン酸;モノ又はジアルキルカルバミン酸;プロパンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸;ベンゼンスルホン酸などのアリールスルホン酸;モルホリニルカルボン酸、オキサゾリジニルカルボン酸、アゼチジンカルボン酸などの複素環カルボン酸などを挙げることができる。また、本発明のトレハンジェリンは、トレハンジェリンの水和物及び溶媒和物をも含むものである。本発明のトレハンジェリンは不正炭素を有することがあることから、光学異性体が存在することがある。本発明のトレハンジェリンとしては、右旋性(+)又は左旋性(−)の何れの化合物であってもよいし、ラセミ体などのこれらの異性体の混合物であってもよい。また、本発明のトレハンジェリンは、特に断らない限り、いずれの互変異性体、又は幾何異性体(例えば、E体、Z体など)も含むものである。また、本発明において、トレハンジェリンは、結晶又は非結晶のいずれであってもよい。
【0024】
別の態様において、本発明は、トレハンジェリン(好ましくは、トレハンジェリンA、トレハンジェリンB、及び/又はトレハンジェリンC、本段落において以下同じ)を生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養物中にトレハンジェリンを蓄積せしめ、該培養物からトレハンジェリンを採取することを特徴とするトレハンジェリンの製造方法に関する。
【0025】
前記トレハンジェリンを生産する能力を有する放線菌に属する微生物として、好ましくは、ポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510(受託番号 NITE BP−1411)株である。
【0026】
別の態様において、本発明は更に、放線菌である、ポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510株に関する。
【0027】
本明細書において、ポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510株とは、本発明者等によって沖縄県において採取された植物より新たに分離された微生物であり、ポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510として、2012年8月28日付にて独立行政法人製品評価基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に受領された菌株のことである(受託番号 NITE BP−1411)。本発明のポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510株は、本明細書実施例1に記載の菌学的性状を有する。
【0028】
更にまた別の態様において、本発明は、トレハンジェリン(具体的には、トレハンジェリンA、トレハンジェリンB及び/又はトレハンジェリンC)を有効成分として含有する医薬組成物及び/又は化粧品組成物に関する。また、本発明は、トレハンジェリン(具体的には、トレハンジェリンA、トレハンジェリンB及び/又はトレハンジェリンC)を有効成分として含有するフェオフォルバイト(例えば、フェオフォルバイトa)による細胞障害の阻害剤に関する。具体的には、本発明の医薬組成物としては、膜脂質障害抑制剤(細胞膜保護剤)、酸化防止剤(不飽和脂肪酸の酸化防止剤)、並びに、光線過敏症の治療薬又は予防薬を挙げることができる。また、本発明の化粧品組成物としては、光線過敏症の予防及び/又は改善のための化粧品組成物を挙げることができる。本明細書において、光線過敏症は、好ましくはフェオフォルバイトa(例えば、フェオフォルバイトa)による細胞障害に起因する光線過敏症である。
【発明の効果】
【0029】
本発明のトレハンジェリンは、光によって惹起されたフェオホルバイトの赤血球に対する溶血活性を阻害することから、新規の医薬組成物、化粧品組成物及び/又は生化学試薬として使用することができる。具体的には、本発明のトレハンジェリン物質は光線過敏症に対し抑制作用を有することから、光線過敏症の治療薬若しくは予防薬、又は、光線過敏症の予防及び/若しくは改善のための化粧品組成物として用いることができる。また、本発明のトレハンジェリンは、不飽和脂肪酸の酸化を防止し、細胞の膜脂質障害を抑制することから、動物細胞、微生物、ウイルスなど生物材料を保存する際の細胞膜保護材料としても使用することができる他、不飽和脂肪酸の酸化防止剤として使用することができる。特に、本発明のトレハンジェリンは、免疫抑制とは異なるメカニズムで光線過敏症を抑制することから、安全性が高く、顔面などに使用することができる。また、本発明のトレハンジェリンは、菌に対して作用しないため、常在菌の日和見感染や異型白癬やカンジダ症などの感染症の誘発増悪を引き起こしにくい。また、本発明のポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510株は、トレハンジェリンを産生することから、トレハンジェリの製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】光照射フェオホルバイトaによるウサギ赤血球の溶血に対するトレハンジェリンA(○)及びトレハンジェリンB(●)の抑制活性を示すグラフである。縦軸は、トレハンジェリンを添加しないコントロールにおける溶血を100とした場合の溶血率(%)を示し、横軸は、各トレハンジェリンの濃度(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のトレハンジェリンは、トレハンジェリンを生産する能力を有する放線菌に属する微生物を培地で培養し、培養物中にトレハンジェリンを蓄積せしめ、該培養物からトレハンジェリンを採取(分離・抽出・精製)することにより製造することができる。
【0032】
本発明のトレハンジェリンの製造方法において、「トレハンジェリンを生産する能力を有する放線菌に属する微生物」は、放線菌に属する菌であって、トレハンジェリンを生産する能力を有する微生物であれば特に限定されない。本発明のトレハンジェリンの製造方法に用いることのできる菌株には、上記菌株の他、その変異株をはじめ、放線菌に属するトレハンジェリを生産する能力を有する菌すべてが含まれる。微生物が「トレハンジェリンを生産する能力を有する放線菌に属する微生物」であるか否かは、例えば、下記の方法により決定することができる。スターチ2.4%、グルコース0.1%、ペプトン0.3%、カツオエキス0.3%、酵母エキス0.5%、炭酸水素カルシウム0.4%からなる液体培地(pH7.0)が100ml入った500ml容三角フラスコに各1mlずつ植菌し、27℃で3日間振盪培養後、得られた種培養液をスターチ2.0%、グリセロール0.5%、脱脂小麦胚芽1.0%、カツオ肉エキス0.3%、ドライ酵母0.3%、炭酸水素カルシウム0.4%からなる液体培地(pH7.0)が100ml入った500ml容三角フラスコに各1mlずつ植菌し、27℃で9日間振盪培養することにより得られた培養物の中に、トレハンジェリンが存在すれば当該微生物はトレハンジェリンを生産する能力を有する放線菌に属する微生物であると決定することができる。好ましくは、トレハンジェリンを生産する能力を有する放線菌に属する微生物は、上記のポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510株である。
【0033】
本明細書において、「変異株」とは、人工的又は自然界における変異誘発刺激によりポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510株とは異なる菌学的性状又は遺伝子を有する株のことであり、このような変異株にはポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510株から派生した菌株の他、ポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510株を派生させた元の菌株も含まれる。本明細書において、変異株は実際の派生の痕跡の有無を問うものではなく、例えば、ポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510株遺伝子(例えば、16S rRNA遺伝子)と高い相同性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上など)を有する遺伝子を有する菌株もまた変異株に含まれる。また、このような変異株は、トレハンジェリンの産生能を維持している限り、人工的に作製したものであるか、天然から採取したものであるかを問わない。
【0034】
トレハンジェリンを生産する能力を有する放線菌に属する微生物を培養するための培地には、栄養源として、放線菌の栄養源として使用し得るものであればよい。例えば、市販のペプトン、肉エキス、コーン・スティープ・リカー、綿実粉、落花生粉、大豆粉、酵母エキス、NZ−アミン、カゼインの水和物、硝酸ソーダ、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の窒素源、グリセリン、スターチ、グルコース、ガラクトース、マンノース等の炭水化物、あるいは脂肪等の炭素源、及び食塩、リン酸塩、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の無機塩を単独あるいは組み合わせて使用できる。その他必要に応じて微量の金属塩、消泡剤として動・植・鉱物油等を添加することもできる。これらのものは生産菌を利用しトレハンジェリンの生産の役だつものであればよく、公知の放線菌の培養材料はすべて用いることができる。
【0035】
また、トレハンジェリンを生産する能力を有する放線菌に属する微生物の培養は、生産菌が発育しトレハンジェリンを生産できる温度範囲(例えば、10−40℃、好ましくは、25−30℃)で数日〜2週間振盪培養することにより行うことができる。培養条件は、本明細書の記載を参照しながら、使用するトレハンジェリンの生産菌の性質に応じて適宜選択して行なうことができる。
【0036】
トレハンジェリンの採取は、培養液より酢酸エチル等の水不混和性の有機溶媒を用いて抽出することにより行うことができる。本抽出法に加え、脂溶性物質の採取に用いられる公知の方法、例えば吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーよりのかき取り、遠心向流分配クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を適宜組合せるか、あるいは繰返すことによって純粋になるまで精製することができる。
【0037】
本発明の化粧品組成物は、化粧水、乳液、化粧下地、サンスクリーン、ファンデーション、又は美容液であってもよい。本発明の化粧品組成物には、抽出物の効果を損なわない範囲内で、通常の化粧品に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、キレート剤等の成分を配合することもできる。油脂類としては、アーモンド油、アボガド油、サフラワー油、オリーブ油、ひまし油、ひまわり油、やし油、ホホバ油等の植物性油脂類や、スクワラン等の動物性油脂類、流動パラフィン、セタノール、ミツロウ等のロウ類等通常の肌用化粧料組成物に配合される油脂類が挙げられる。他にも、通常の肌用化粧料組成物に配合される成分は、特に制限なく本発明の肌用化粧料組成物においても使用可能である。
【0038】
例えば、本発明の化粧品組成物には、通常、化粧料に配合される保湿剤、防腐剤、殺菌剤、乳化剤、香料、色素等より選ばれる成分を配合することができる。保湿剤としては、1,3−ブチレングリコール(BGと略記する場合もある)、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マルチトール等の多価アルコール類、コラーゲン、エラスチン、ケラチン等の蛋白質類、アルギニン、セリン、ベタイン、ヒドロキシプロリン等のアミノ酸類、ヒアルロン酸(塩)、コンドロイチン硫酸(塩)等のムコ多糖類、各種植物抽出液等の通常の肌用化粧料組成物に使用される物質が挙げられる。防腐・殺菌剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類やフェノキシエタノール、四級アンモニウム塩、レゾルシン等が挙げられる。
【0039】
本発明の医薬組成物は、通常の薬学的に許容される担体を用いて、常法により製剤化することができる。経口用固形製剤を調製する場合は、主薬に賦形剤、更に必要に応じて、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を加えた後、常法により溶剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等とする。注射剤を調製する場合には、主薬に必要によりpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤等を添加し、常法により皮下又は静脈内用注射剤とすることができる。外用剤を調整する場合、例えば、トレハンジェリンを溶解する脂肪酸エステル類、高級アルコール類及び炭酸プロピレンからなる群から選ばれる一種あるいは二種以上の混合物である疎水性・無水性の溶剤と、白色ワセリン、黄色ワセリン、流動パラフィン及び流動パラフィンのポリエチレンゲルから選ばれる一種あるいは二種以上の混合物である親油性基剤とからなる軟膏剤とすることができる。また、クリーム剤としては、トレハンジェリンと、5〜20重量部の白色ワセリン及び5〜15重量部の高級アルコール類からなる固形油分、及び3〜10重量部のスクワランからなる液状油分とからなる油相成分と、水相成分と、及び2.5〜7.5重量部の2種以上からなる界面活性剤とを含んでなるクリーム剤とすることができる。クリーム剤の油相成分には上述した白色ワセリン、高級アルコール類、スクワランの他に、他の固形油分、液状油分を添加しても良い。主薬に必要によりpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤等を添加し、常法により軟膏・クリーム等の半固型剤、ローション等の液剤、あるいはテープ剤のような外用剤とすることができる。
【0040】
本発明のトレハンジェリンを含有する医薬組成物は、全身的あるいは局所的に投与することができる。全身的には注射剤、経口剤、経鼻剤等として血管内、組織内、胃腸管、粘膜等へ水性注射剤、油性注射剤、錠剤、顆粒剤、液剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、経鼻液剤、経鼻粉剤等の剤型で投与される。投与量は症状の程度、年齢、疾患の種類等により異なるが、通常成人1日当たり50−500mgを1日1〜数回に分けて投与する。一方、局所的には外用剤として、軟膏・クリーム等の半固型剤、ローション等の液剤、あるいはテープ剤の剤型で皮膚の疾患部位に直接投与される。また、投与量は症状の程度、年齢、疾患の種類等により異なるが、軟膏・クリーム等の半固型剤、ローション等の液剤、あるいはテープ剤のような外用剤として用いる場合、製剤中にトレハンジェリンが0.01〜25.0重量%であり、より好ましくは0.05〜10.0重量%である。そして、このような外用剤を、疾患の程度により異なるが、外用剤の適用方法は、通常の抗炎症用の皮膚外用剤に準じればよく、具体的には、適当量を症状にあわせて一日一回乃至数回塗布すればよく、症状にあわせて幾度でも塗布できる。
【0041】
本発明のトレハンジェリンを含有する化粧品組成物は、前記医薬組成物を外用剤として用いる場合に準じて使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)ポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510株の菌学的性状
本発明者等によって沖縄県西表島に生息している植物より新たに、ポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510株を分離した。ポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510株の菌学的性状は以下の通りであった。
【0044】
(I)形態的性質
栄養菌糸は各種寒天培地上でよく発達し、分断が観察される。気菌糸はグルコース・肉エキス・ペプトン寒天でわずかに着生する。顕微鏡下の観察では、気菌糸上に短い胞子鎖を着生し、胞子の大きさは約0.7〜1.1×0.5〜1.0μmの円筒状で、その表面は平滑である。胞子のう及び遊走子は見出されない。
【0045】
(II)各種培地上での性状
イー・ビー・シャーリング(E.B. Shirling)とデー・ゴットリーブ(D.Gottlieb)の方法(インターナショナル・ジャーナル・オブ・システィマティック・バクテリオロジー、16巻、313頁、1966年)によって調べた本生産菌の培養性状を次表に示す。色調は標準色として、カラー・ハーモニー・マニュアル第4版(コンテナー・コーポレーション・オブ・アメリカ・シカゴ、1958年)を用いて決定し、色票名とともに括弧内にそのコードを併せて記した。以下は特記しない限り、27℃、3週間目の各培地における観察の結果である。
【0046】
【表1】
【0047】
(III)生理学的諸性質
【0048】
【表2】
【0049】
(IV)化学分類学的性状
細胞壁のジアミノピメリン酸はメソ型である。主要メナキノンはMK−10(H)、MK−9(H)、MK−10(H)及びMK−10(H)でMK−9(H)及びMK−9(H)を少量有する。
【0050】
(V)16S rRNA遺伝子解析
16S rRNA遺伝子のうち約1200塩基配列を決定し、DNAデータベースに登録され公開されている細菌と比較した結果、その配列はポリモーフォスポラ ルブラ (Polymorphospora rubra)TT97−42と100%一致したことから、本菌株はポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)に分類することが妥当である。
【0051】
(VI)結論
以上、本菌の菌学的性状を要約すると次のとおりである。細胞壁中のジアミノピメリン酸はメソ型、主要メナキノンはMK−10(H)、MK−9(H)、MK−10 (H)及びMK−10(H)である。全菌体糖としてガラクトースを含むアラビノースは含まない。気菌糸はほとんどの培地で着生しないがグルコース・肉エキス・ペプトン培地でわずかに着生し短い胞子鎖を形成する。コロニーは赤橙色を呈し、メラニン色素は産生しない。
これらの結果及び16S rRNA遺伝子の解析結果から、本菌株は2006年にインターナショナル・ジャーナル・オブ・システマティック・アンド・エボリューショナリー・ミクロバイオロジー(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology)に発表されたポリモーフォスポラ ルブラに分類される1菌種であると判断された。なお、本菌株はポリモーフォスポラ ルブラ(Polymorphospora rubra)K07−0510として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託が受領されている(受領日2012年8月28日、受託番号 NITE BP−1411)。
【0052】
(実施例2)トレハンジェリンA、トレハンジェリンB及びトレハンジェリンCの取得
スターチ2.4%、グルコース0.1%、ペプトン〔極東製薬工業(株)製〕0.3%、カツオエキス〔極東製薬工業(株)製〕0.3%、酵母エキス〔オリエンタル酵母工業(株)製〕0.5%、炭酸水素カルシウム0.4%からなる液体培地(pH7.0)100mLを含む500mL容三角フラスコに、液体培地で培養したポリモーフォスポラ ルブラ (Polymorphospora rubra) K07−0510(受託番号 NITE BP−1411)を1本に1mL植菌し、27℃で7日間振盪培養した。得られた種培養液をスターチ2.0%、グリセロール0.5%、脱脂小麦胚芽〔日清ファルマ株式会社〕1.0%、カツオ肉エキス〔極東製薬工業(株)製]0.3%、ドライ酵母〔JTフーズ(株)製〕0.3%、炭酸水素カルシウム0.4%からなる液体培地(pH7.0)が100mL入った500mL容三角フラスコに18本に各1mLずつ植菌し、27℃で9日間振盪培養した。
【0053】
培養の終了した500mL容三角フラスコ18本にそれぞれ100mLのエタノールを加えて1時間激しく撹拌した。次にその抽出液中のエタノールを減圧留去し、得られた水溶液に1Lの酢酸エチルを加えよく撹拌後、酢酸エチル層を回収した。エバポレーターを用い、濃縮乾固して662mgの粗精製1を得た。粗物質1をクロロホルムで充填したシリカゲルカラム(φ45×40mm)にのせ、クロロホルム−メタノール(1:1)及び(0:100)でそれぞれ溶出し、減圧濃縮によりトレハンジェリンA、トレハンジェリンB及びトレハンジェリンCを含む粗精製2(470.0mg)を得た。さらに、粗精製2を水で充填したODSカラムにのせ、30%メタノール水溶媒で溶出し、トレハンジェリンA、トレハンジェリンB及びトレハンジェリンCを含む粗精製3(186.4mg)を得た。
【0054】
粗精製3をメタノールに溶解し、高速液体クロマトグラフィーにて逆相カラム(Inertsil ODS−4,φ10×250mm,ジーエルサイエンス(株)製、日本国)に注入し、5%アセトニトリル水溶液、流速4.5mL/分、検出254nmの条件で溶出した。保持時間16分付近及び17分及び18分付近のピークを分取し、減圧濃縮によりそれぞれトレハンジェリンB(4.4mg)及びトレハンジェリンC(1.3mg)及びトレハンジェリンA(48.5mg)を得た。また、同様の方法に準じて培養及び精製することにより、その他のトレハンジェリンを得ることができると考えられる。
【0055】
(実施例3)トレハンジェリンA及びトレハンジェリンBのin vitroでの抗光線過敏症活性
本発明のトレハンジェリンA及びトレハンジェリンBのin vitroでの抗光線過敏症活性を以下の通り調べた。
フェオフォルバイドA(フロンティア・サイエンティフィック社製)は,400μg/mLとなるようにジメチルスルホキシドに溶解し,さらにリン酸緩衝液生理食塩水(PBS,pH=7.4)で希釈し,5μg/mLのフェオフォルバイドa溶液を調製した。トレハンジェリンA又はトレハンジェリンBは、10mg/mLとなるようにPBSに溶解し、さらにPBSで適宜希釈し、サンプル溶液として使用した。赤血球はウサギ赤血球(日本生体材料センター社製)を用いた。赤血球懸濁液の調製は赤血球層に5倍量のPBSを加え、1,500rpm、4℃で10分間遠心分離し、2回洗浄した。上清を除去し,赤血球層にPBSを加えて5%(v/v)赤血球懸濁(RBC)を調製した。光酸化的溶血試験は96穴平底マイクロプレートに、5%RBC 100μL+PBS 100μL(バックグラウンド),5%RBC 100μL+フェオフォルバイドa 20μL+PBS 80μL、5%RBC 100μL+フェオフォルバイドa 20μL+トレハンジェリンA又はトレハンジェリンB溶液20μL(終濃度0.025%〜0.2%)を各3穴(n=3)ずつ準備し、シェイカー上で撹拌しながら光照射した。光源には500Wのアイランプ(岩崎電気)を用いた。光照射後、反応液を直ちに1,500rpm、4℃で5分間遠心分離し、上清100μLを別の96穴マイクロプレートに移し、570nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダー(BIO−RAD社製)で測定した。さらに、5%RBC 100μLを遠心分離して得られた赤血球に,200μLの蒸留水を加えて完全に溶血させ,上清100μLの吸光度を測定して100%溶血の指標とした。溶血率は下式で算出した。
溶血率(%)=[吸光度(サンプル)−吸光度(バックグラウンド)]/[吸光度(フェオフォルバイドa)−吸光度(バックグラウンド)]×100
【0056】
トレハンジェリンA及びトレハンジェリンBの抗光線過敏症活性の指標としての抗溶血活性は、図1に示すとおりであった。フェオフォルバイドaは光に照射されることにより一重項酸素を発生し、細胞膜の脂質を酸化し、細胞障害をもたらす。トレハンジェリンA及びトレハンジェリンBは、光照射されたフェオフォルバイドaによる細胞障害を低減させることから光線過敏症薬として有用であることがわかった。さらに、細胞の膜脂質障害を抑制することから動物細胞、微生物、ウイルスなど生物材料を保存する際の細胞膜保護材料として使用できることが示された。さらに不飽和脂肪酸の酸化を防止することから、酸化防止剤として使用することが期待できる。
【0057】
(実施例3)トレハンジェリンA及びトレハンジェリンBのin vitroでの細胞毒性試験
トレハンジェリンA及びトレハンジェリンBの細胞毒性を以下の方法により測定した。本試験では、ヒト胎児腎由来HEK−293細胞、ヒト膵臓腺癌由来Panc−1細胞、ヒト肺非小細胞癌由来H1299細胞及びヒト結腸癌由来HT−29細胞を用い、並びに、Cell Counting Kit−8(同人化学)を用いた。80%コンフルエントの細胞を血球計算盤で計数して細胞浮遊液を調製した。マルチピペットを用い100μLずつ、96穴マイクロプレートの各ウェルに細胞浮遊液を分注した。ブランク(バックグランド値)用のウェルには培地のみを100μL加えた。炭酸ガスインキュベーター内で72時間培養したのち、培地を吸引により除いた。新たに培地100μLを各ウェルに加え、培地交換を行った。培地で種々濃度に調製したトレハンジェリンA及びトレハンジェリンBを10μLずつ添加した。37℃の炭酸ガスインキュベーター内で24時間培養した。プレートを取り出し、Cell Counting Kit溶液を各ウェルに10μLずつ添加した。プレートを炭酸ガスインキュベーター内に戻し、2時間呈色反応を行った。マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。下記の式により細胞生存率を算出した。
細胞生存率(%)=[(As−Ab)/(Ac−Ab)]×100
As:検体の吸光度(細胞、トレハンジェリンA又はトレハンジェリンB、及び、Cell Counting Kit溶液の入ったウェル)
Ac:陰性対照の吸光度(細胞、及び、Cell Counting Kit溶液の入ったウェル:トレハンジェリン無し)
Ab:ブランク吸光度(培地、及び、Cell Counting Kit溶液の入ったウェル:細胞無し)
【0058】
トレハンジェリンA及びトレハンジェリンBの細胞毒性試験の結果は用いたすべての細胞に対して100μg/mLで全く毒性を示さなかった。よって、動物細胞(特には、ヒト細胞)に対して毒性を示さない安全な物質であることが示された。
【0059】
(実施例4)トレハンジェリンA及びトレハンジェリンB物質のin vitroでの抗菌活性試験
トレハンジェリンA及びトレハンジェリンBの抗菌活性は以下のとおりである。濾紙円板(アドバンテック社製、直径6mm)にトレハンジェリンAの5mg/mLのメタノール溶液をそれぞれ20μL浸漬し、一定時間風乾して溶媒を除去後、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)ATCC 6633、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)ATCC 9341、エシエリヒア・コリ(Escherichia coli)NIHJ KB 213、キサントモナス・カンペストリスpv.オリゼ(Xanthomonas campestris pv. oryzae)KB 88、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)KF1、ムコール・ラセモサス(Mucor racemosus)IFO 4581の試験菌含菌寒天平板に張り付け、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)ATCC 6633、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)ATCC 9341、エシエリヒア・コリ(Escherichia coli)NIHJ KB 213は37℃で24時間培養、キサントモナス・カンペストリスpv.オリゼ(Xanthomonas campestris pv. oryzae)KB 88、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)KF1、ムコール・ラセモサス(Mucor racemosus)IFO 4581は27℃で48時間培養後、濾紙円板の周りにできた生育阻止円の直径を測定した。
【0060】
トレハンジェリンA及びトレハンジェリンBの抗菌活性試験の結果、用いたすべての試験菌に対して抗菌活性を示さなかった。よって、常在菌に対しても悪影響を及ぼさない安全な物質であると考えられる。
【0061】
以上の結果から本発明の新規なトレハンジェリンは、光線過敏症の症状に効果を有する一方、細胞毒性が低く、また微生物に対して増殖抑制作用を示さないことから、光線過敏症の治療薬又は予防薬又は化粧品として優れた効果を有することが示された。
図1