(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249435
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】アルミニウム−亜鉛系合金押出材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/10 20060101AFI20171211BHJP
B22D 27/04 20060101ALI20171211BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20171211BHJP
C22F 1/00 20060101ALI20171211BHJP
C22F 1/053 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
C22C21/10
B22D27/04 E
C22C1/02 503J
C22F1/00 602
C22F1/00 612
C22F1/00 613
C22F1/00 630A
C22F1/00 640A
C22F1/00 671
C22F1/00 681
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/053
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-178996(P2012-178996)
(22)【出願日】2012年8月10日
(65)【公開番号】特開2014-37557(P2014-37557A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年1月27日
【審判番号】不服2016-13044(P2016-13044/J1)
【審判請求日】2016年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502444733
【氏名又は名称】日軽金アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】ケイ カツ
(72)【発明者】
【氏名】藤田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】谷津倉 政仁
(72)【発明者】
【氏名】入之内 豊
(72)【発明者】
【氏名】岡庭 茂
(72)【発明者】
【氏名】松元 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】白井 秀友
(72)【発明者】
【氏名】穴見 敏也
【合議体】
【審判長】
板谷 一弘
【審判官】
長谷山 健
【審判官】
金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−13479(JP,A)
【文献】
特開平4−333548(JP,A)
【文献】
特開2007−308769(JP,A)
【文献】
特開2010−179363(JP,A)
【文献】
特公平7−39622(JP,B2)
【文献】
社団法人日本アルミニウム協会,現場で生かす金属材料シリーズ アルミニウム,株式会社興業調査会,2007年11月9日,第185頁〜第194頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成が、Zn:7〜12質量%、Mg:1.0〜3.0質量%、Cu:0.5〜3.0質量%、Cr:0.03〜0.30質量%、Zr:0.05〜0.20質量%を含み、残部がAlおよび不可避不純物であり、水素ガスの含有量が0.2cc/100g以下、酸化皮膜である介在物数が破断面観察法における破断面において0.005個/mm2以下であり、表層部に直径10〜100μm、深さ0.5〜100mmのピット状の空隙がないことを特徴とするアルミニウム−亜鉛系合金の押出材。
【請求項2】
成分組成が、Zn:7〜12質量%、Mg:1.0〜3.0質量%、Cu:0.5〜3.0質量%、Cr:0.03〜0.30質量%、Zr:0.05〜0.20質量%を含み、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム−亜鉛系合金溶湯から前記成分組成の鋳塊を鋳造する際に、
前記溶湯に対して脱ガス処理を施して、前記鋳塊に含まれる水素ガス含有量を0.2cc/100g以下とし、
前記溶湯に対して介在物除去処理を施して、前記鋳塊に含まれる酸化皮膜である介在物含有量を、破断面観察法の破断面における介在物数において0.005個/mm2以下とし、
さらに鋳塊を鋳造する際の凝固速度が、鋳造全体にわたって、55〜170mm/minとなるように鋳造を行い、
得られた鋳塊を押出加工することを特徴とするアルミニウム−亜鉛系合金の押出材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で、なおかつ高強度であるとともに、陽極酸化処理などの表面処理を施すことにより、水蒸気が存在する環境下でも優れた耐食性を発揮するとともに、その表面を色調の整った美麗なものとすることができるアルミニウム−亜鉛系合金の押出材およびその製造方法に関する。
ただし、本発明にかかるアルミニウム−亜鉛系合金が熱処理型合金であることに鑑み、本発明において、押出材とは、押出加工後に溶体化のための熱処理および時効硬化のための熱処理を施したものをいうものとする。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム−亜鉛系合金は、軽量、かつ高強度であることを特徴とする、いわゆる高力アルミニウム合金であって、その特徴のもと、特許文献1による本系合金の発明以来、航空機、自動車の部品等に利用されている。
しかしながら、合金元素にZnとともにMgおよびCuを添加することにより、一層の強度向上を図ることができること、およびZrを添加することにより靱性および耐応力腐食割れ性などを向上させることができることなどが多くの文献に開示されている。
【0003】
すなわち特許文献1には、アルミニウム−亜鉛系合金において、最も強度が高くなる成分組成は、Zn:8.0〜12.0質量%、Cu:2.0〜3.0質量%、Mg:1.0〜2.0質量%、Mn:約0.5質量%、であるが、そのような合金は割れが生じやすいこと、および前記割れを防止するためには0.1〜2.0質量%のCrの添加が有効であることが開示されている。
【0004】
また例えば、特許文献2および特許文献3では、航空機の翼および胴体補剛材に利用されるアルミニウム合金として、Zn:8.3〜14.0質量%、Mg:0.5〜4.5質量%、Cu:0.3〜4.0質量%、Zr:0.03〜0.15質量%、FeとSiの和が0.25質量%以下およびSc、Hf、La、Ti、Ce、Nd、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Y、Ybのいずれか1種以上を0.02〜0.7質量%含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなる成分組成について、Zn、Mg、Cuの成分組成C
Zn、C
Mg、C
Cuが、C
Mg/C
Cu>2.4、(7.9−0.4C
Zn)>(C
Cu+C
Mg)>(6.4−0.4C
Zn)を満足するように調整することにより引張試験特性と成形性を両立させる技術、およびC
Mg/C
Cu<2.4、(7.7−0.4C
Zn)>(C
Cu+C
Mg)>(6.4−0.4C
Zn)を満足するように調整することにより引張試験特性と靱性を両立させる技術を、それぞれ開示している。
【0005】
他方アルミニウムは、化学的には水素よりも卑であるから、アルミニウム−亜鉛合金を含むアルミニウム合金は、水蒸気が存在する環境下では容易に腐食される。
そのため、腐食性の環境下で使用されるアルミニウム合金には、陽極酸化処理などの表面処理を施して使用することが望ましく、そのような表面処理を施すことによって、単に耐食性の向上が図れるのみならず、色調の整った美麗な表面を得ることも可能となる。
【0006】
例えば、特許文献4には、Zn:8.5〜12.0質量%、Mg:1.5〜3.0質量%、Cu:2.1〜3.0質量%、およびZr:0.05〜0.3質量%を含有するとともに、Mn:0.1〜0.8質量%、Cr:0.12〜0.30質量%、およびV:0.01〜0.15質量%、Ti:0.1質量%以下、B:0.08質量%以下を選択的に含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、不純物としてのSiおよびFeが、それぞれ0.15質量%以下および0.08質量%以下である合金について、鋳造されたビレットを押出加工し、溶体化処理、焼入れ、時効処理することにより、引張強さ、疲労強度に優れる高力アルミニウム合金押出管を得るとともに、得られた高力アルミニウム合金押出管に対し、さらに陽極酸化皮膜を形成することにより、耐応力腐食割れ性、耐剥離腐食性を向上させ、オートバイのフロントフォークなどとして利用が好適な、高力アルミニウム合金押出管に関する技術が提案されている。
【0007】
また例えば、特許文献5には、Zn:1.0〜5.5質量%、Mg:0.5〜2.0質量%、およびMn:0.5〜2.0質量%、ならびに結晶粒微細化剤としてTi:0.003〜0.15質量%を単独もしくはB:1〜100質量ppmと組み合わされて含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、陽極酸化処理後の色調が落ち着いた質感の無彩色の灰色である、アルミニウム−亜鉛系の高強度アルミニウム合金展伸材を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第135036号公報
【特許文献2】特開2005−530032号公報
【特許文献3】特開2005−528521号公報
【特許文献4】特開平8−295977号公報
【特許文献5】特開平4−45241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、特許文献2および特許文献3に開示されるアルミニウム−亜鉛系合金の押出材に陽極酸化処理を施したところ、その陽極酸化処理後の陽極酸化皮膜は色調も不均一で、斑模様があるうえ、耐食性も不十分であることを知見した。
さらに、本発明者らによる、その押出材表面の顕微鏡拡大観察によれば、当該表面には数多くの直径10〜100μmのピット状の空隙が存在し、当該ピット状の空隙の存在が前述のような陽極酸化処理後の陽極酸化皮膜の不均一な斑模様および不十分な耐食性の原因となっていることを見出した。
そこで本発明者らは、その押出材の表面を研削することにより、前述のようなピット状の空隙の除去を試行したが、ピット状の空隙は、その深さが0.5〜100mmに及び、研削による除去は容易ではなく、陽極酸化処理などの表面処理後に十分な耐食性を有し、斑模様のない、均一な色調のアルミニウム−亜鉛系合金の押出材を得るには、ピット状の空隙のない鋳塊を予め得ておく必要があることに至った。
【0010】
即ち本発明は、ピット状の空隙がなく、軽量かつ高強度であり、さらに陽極酸化処理などの表面処理を施すことにより、水蒸気が存在する環境下でも優れた耐食性を発揮するとともに、その表面を色調の整った美麗なものとすることができる、アルミニウム−亜鉛系合金の押出材およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を解決する、本発明の第1の発明は、成分組成が、Zn:7〜12質量%、Mg:1.0〜3.0質量%、Cu:0.5〜3.0質量%、Cr:0.03〜0.30質量%、Zr:0.05〜0.20質量%を含み、残部がAlおよび不可避不純物であり、水素ガスの含有量が0.2cc/100g以下、酸化皮膜である介在物の数が、破断面観察法の破断面において0.005個/mm
2以下で
あり、表層部に直径10〜100μm、深さ0.5〜100mmのピット状の空隙がないことを特徴とするアルミニウム−亜鉛系合金の押出材である。
【0013】
本発明の第
2の発明は、成分組成がZn:7〜12質量%、Mg:1.0〜3.0質量%、Cu:0.5〜3.0質量%、Cr:0.03〜0.30質量%、Zr:0.05〜0.20質量%を含み、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム−亜鉛系合金溶湯から前記成分組成の鋳塊を鋳造する際に、その溶湯に対して脱ガス処理を施して、鋳塊に含まれる水素ガス含有量を0.2cc/100g以下とし、またその溶湯に対して介在物除去処理を施して、鋳塊に含まれる酸化皮膜である介在物含有量を、破断面観察法の破断面における介在物数において0.005個/mm
2以下とし、さらに鋳塊を鋳造する際の凝固速度が、鋳造全体にわたって、55〜170mm/minとなるように鋳造を行い、得られた鋳塊を押出加工することを特徴とするアルミニウム−亜鉛系合金の押出材の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るアルミニウム−亜鉛系合金の押出材には、ピット状の空隙は見られず、また本発明のアルミニウム−亜鉛系合金の押出材の製造方法によれば、ピット状の空隙のないものを得ることができることから、陽極酸化処理後において、十分な耐食性を有するとともに、斑模様のない均一な色調の陽極酸化皮膜を有するアルミニウム−亜鉛系合金の押出材を得ることができる。
【0015】
即ち、本発明のアルミニウム−亜鉛系合金の押出材は、軽量で、なおかつ高強度であるとともに、陽極酸化処理などの表面処理を施されることにより、水蒸気が存在する環境下でも優れた耐食性を発揮し、またその表面を色調の整った美麗なものとする効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るアルミニウム−亜鉛系合金押出材の陽極酸化処理後の外観を示す図である。
【
図2】従来のアルミニウム−亜鉛系合金の押出材の陽極酸化処理後の外観を示す図である。
【
図3】従来のアルミニウム−亜鉛系合金の押出材に存在するピット状の空隙の縦断面図である。
【
図4】従来のアルミニウム−亜鉛系合金の押出材に存在するピット状の空隙の縦断面図である。
【
図5】酸化皮膜である介在物数測定用試験片の形状を示す模式図で、(a1)は正面図、(a2)は平面図、(b)はノッチ部を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、特許文献2および特許文献3に開示されるアルミニウム−亜鉛系合金の押出材について、水蒸気が存在する環境下での使用を企図し、腐食防止を目的として、その表面に陽極酸化処理を施した。しかしながら、その結果として得られた陽極酸化処理後の外観は、
図2に示すように色調も不均一で、斑模様があるうえ、耐食性も不十分であった。
【0018】
そこで本発明者らは、その原因を解明すべく、その表面の詳細な観察、調査を行った。
顕微鏡による拡大観察の結果によれば、その押出材の表面には、その縦断面を
図3および
図4に示すような数多くの直径10〜100μmのピット状の空隙が存在しており、さらなる調査の結果によれば、そのピット状の空隙の存在が前述のような陽極酸化処理後の陽極酸化皮膜の不均一な斑模様および不十分な耐食性の原因であることを確認した。
【0019】
そのため、本発明者らは押出材の表面を研削することにより、ピット状の空隙の除去を試行したが、そのピット状の空隙は、深さが0.5〜100mm(その縦断面の様子は
図3及び
図4を参照。)に及ぶため、研削による除去は容易ではなく、陽極酸化処理などの表面処理後に十分な耐食性を有する、斑模様のない、均一な色調のアルミニウム−亜鉛系合金の押出材を得るには、予めピット状の空隙のないものを得ておく必要があることを見出した。
【0020】
さらに、本発明者らによる詳細な調査によれば、このピット状の空隙は、アルミニウム−亜鉛系合金の押出加工後の溶体化のための熱処理中に発生すること、およびピット状の空隙の内面の一端に酸化皮膜である介在物が存在することを明らかにした。
詳細には、ピット状の空隙は、アルミニウム−亜鉛系合金の鋳造時に、溶融アルミニウム−亜鉛合金中に溶解していた水素原子が、凝固したアルミニウム−亜鉛合金中では過飽和に含有された後、押出加工にともなう応力の負荷によって酸化皮膜である介在物との界面に剥離が発生、その後の溶体化のための熱処理において、その剥離の発生した酸化皮膜である介在物との界面に、過飽和に含有されていた水素原子が水素ガスとして析出、気泡を生成し、ピット状の空隙の形成に至るとともに時効硬化のための熱処理においても残留したものと推定された。
【0021】
そこで本発明者らは、アルミニウム−亜鉛系合金溶湯を鋳造する際に、脱ガス処理するとともに介在物除去処理することにより前述のようなピット状の空隙の形成の防止を図ることに想到した。このようにすれば、凝固したアルミニウム−亜鉛合金中に水素原子が過飽和に含有されることも、押出加工にともなう応力の負荷によって酸化皮膜である介在物との界面に剥離が発生することもないから、水素ガスの気泡が生成されることもなく、結果的にピット状の空隙は形成されない。
【0022】
その結果、アルミニウム−亜鉛系合金の成分組成を、Zn:7〜12質量%、Mg:1.0〜3.0質量%、Cu:0.5〜3.0質量%、Cr:0.03〜0.30質量%、Zr:0.05〜0.20質量%を含み、残部がAlおよび不可避不純物とし、鋳造の際の脱ガス処理により鋳塊中の水素ガスの含有量を0.2cc/100g以下、介在物除去処理により鋳塊中の酸化皮膜である介在物の含有量を破断面観察法における当該破断面内の介在物数を0.005個/mm
2以下としたうえで、鋳塊の全体にわたって凝固速度が20〜300mm/minとなるように鋳造すれば、前述のようなピット状の空隙は形成されないことを見出して本発明の完成に至ったものである。
【0023】
すなわち、本発明品の陽極酸化処理後の外観は、
図1に示すような斑模様のない均一な色調のもので、耐食性も十分であった。
図1は、本発明に係るアルミニウム−亜鉛系合金押出材の陽極酸化処理後の外観を示す図である。
【0024】
さらに、不可避不純物の量は、FeおよびSiについては、各0.2質量%以下、その他の本発明のアルミニウム−亜鉛系合金の成分組成以外の元素については、1元素あたり0.05質量%以下で、合計量0.2質量%以下に限定するが、必要とされる表面の色調によっては、本発明のアルミニウム−亜鉛系合金に対し、不可避不純物以外にさらに選ばれる特定元素を添加して、陽極酸化処理などの表面処理を施すことも可能である。
【0025】
通常、本発明と同じ成分組成のアルミニウム−亜鉛系合金は、溶融アルミニウム−亜鉛合金の密度と、酸化皮膜である介在物の密度が、ほぼ等しいため、アルミニウム−亜鉛系合金中に酸化皮膜である介在物が分散しやすく、そのために、押出加工にともなう応力の負荷によって発生する介在物との界面の剥離箇所も多く、後工程の溶体化処理を行うための熱処理によって形成されるピット状の空隙が、
図2に示すように陽極酸化処理後に斑模様がある不均一な色調の外観となり、耐食性も低下するほどに、多くなる。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0026】
[脱ガス処理方法]
脱ガス処理方法として、塩素ガス処理法、不活性ガス処理法、フラックス処理法などの方法が公知であるが、本発明においては、これらの処理方法のいずれもが好適に利用可能である。
これら各脱ガス処理方法による脱ガスの効果は、ランズレー法、LECO法などの公知の水素定量方法により測定することができる。
【0027】
なお、すべての原料中の水素ガスの含有量が、0.2cc/100g以下であって、不活性ガス中で、その原料を溶解、溶製および鋳造する場合など、溶解、溶製および鋳造中の溶湯内に水素が含有されることがなく、脱ガス処理を実施しなくても鋳塊中の水素ガスの含有量を0.2cc/100g以下とすることができることが明らかであるときには、脱ガス処理を省略できることはいうまでもない。
【0028】
[介在物除去処理方法]
介在物処理方法として、セラミックフォームフィルター、ポーラスチューブフィルターなどのフィルターによる濾過方法が公知であるが、本発明においては、これらのフィルターによる濾過方法が好適に利用可能である。
介在物除去処理方法による酸化皮膜である介在物除去の効果は、例えば破断面観察法などの方法により測定することができる。
【0029】
この破断面観察法では、
図5(a1、a2)に示す形状の試験片1を用意し、ノッチ部2の両側をペンチで把持して繰返し曲げる方法、或いはノッチ部2の片側を万力(図示せず)に挟んだうえで、もう片側をハンマーで叩いて曲げる方法などにより破断させる。
図5(b)は、ノッチ部2の拡大図であり、1破断面あたりの有効観察面積は80mm
2となる。
なお、
図5(a1)は試験片1の正面図、(a2)は平面図である。
【0030】
このような破断の態様においては、破断の亀裂は酸化皮膜のような薄膜状の介在物との界面に沿って進展しやすいから、破断個所付近に酸化皮膜である介在物が存在すれば、その酸化皮膜である介在物は破断面に出現する。破断面に出現した介在物の例を
図6に示す。
そこで、1試料あたり5以上の箇所で前述のように破断させ、それらの破断面に出現した介在物数を計数し、その計数値を有効観察面積の総和で除し、破断面観察法における単位破断面面積当たりの介在物数として、酸化皮膜である介在物を定量する。
【0031】
なお、すべての原料中の酸化皮膜である介在物の含有量が、破断面観察法で測定された介在物数が、0.005個/mm
2以下であって、不活性ガス中で、原料を溶解、溶製および鋳造する場合など、溶解、溶製および鋳造中の溶湯内に酸化皮膜である介在物が生成することがなく、介在物除去処理を実施しなくても鋳塊中の酸化皮膜である介在物の含有量を破断面観察法を用いた測定における介在物数を0.005個/mm
2以下とすることができることが明らかであるときには、介在物除去処理を省略できることはいうまでもない。
【0032】
なお、本発明における介在物を構成する酸化皮膜とは、本発明のアルミニウム−亜鉛系合金の溶解時に発生した合金成分の酸化物である溶湯残滓を主とするものであるが、介在物中には、合金成分の酸化物のほか、合金成分の硫化物、炭化物、窒化物等が含まれることもある。
【0033】
[鋳造方法]
本発明では鋳造方法に制限はなく、汎用されている鋳造方法を利用できるが、DC鋳造法が押出加工用の鋳塊を鋳造する方法として好ましい。ここで、DC鋳造法とは内壁面を水冷した急冷鋳型内に樋で導いた溶湯を注ぎ、その溶湯を急冷鋳型の内壁面で冷却凝固させるとともに、凝固直後の鋳塊を下方または側方へ順次引き出し、さらに当該鋳塊に冷却水を噴射して急冷するという鋳造法で、アルミニウム合金の鋳造法としては生産性に優れたものとして公知のものである。
【0034】
また、その急冷鋳型の上部に断熱湯溜部を設け、該断熱湯溜部に溶湯を樋で導いて鋳造する、ホットトップDC鋳造もアルミニウム合金の鋳造法として公知のものであるが、このような鋳造法もDC鋳造の範疇であり、本発明の実施にあたっては好適に使用できる。
【0035】
この鋳造の際には、鋳塊を作製する鋳造全体にわたって、凝固速度を20〜300mm/minとなるように鋳造する。鋳造全体に、わたって凝固速度が20〜300mm/minとなっていれば、鋳塊の形状および寸法には制限はないが、押出加工用の鋳塊は、円柱形状で直径50〜500mmとすることが好ましい。直径50〜500mmの円柱形状の鋳塊を、20〜300mm/minの凝固速度で鋳造する際の冷却速度は、1〜50℃/s程度である。
【0036】
しかし、前述の脱ガス処理方法を用いてもアルミニウム−亜鉛系合金溶湯内に溶解している水素を皆無にすることはできず、また前述の介在物除去処理方法を用いてもアルミニウム−亜鉛系合金溶湯内の酸化皮膜である介在物の含有量を皆無にすることはできない。
【0037】
即ち、アルミニウム−亜鉛系合金溶湯内の水素ガスの含有量が0.2cc/100g以下の場合でも、その凝固速度が20mm/min未満の部分があると、その凝固速度で鋳造された鋳塊部分では、アルミニウム−亜鉛系合金溶湯と雰囲気中の水蒸気との反応により水素原子の過飽和度が過大となり、また酸化皮膜である介在物の発生量が増加することにより、ピット状の空隙が形成されることがある。
他方、アルミニウム−亜鉛系合金溶湯内の水素ガスの含有量が0.2cc/100g以下の場合でも、その凝固速度が300mm/minを超過する部分があると、その凝固速度で鋳造された鋳塊部分では、溶融金属表面からの水素ガスの放出が妨げられて水素原子の過飽和度が過大となり、また酸化皮膜である介在物の鋳塊への巻込が増加することにより、ピット状の空隙を形成されることがある。
【0038】
[押出加工・熱処理]
本発明では鋳造後の鋳塊の押出加工方法に制限はなく、汎用されている押出方法が利用できる。押出加工方法には直接押出法および間接押出法があるが、そのいずれの方法も利用可能である。押出比、押出温度、押出速度等の押出加工条件にも制限はないが、押出比は5.0〜200、押出温度は300〜500℃が好適である。
【0039】
また、押出加工に続いて溶体化のための熱処理および時効硬化のための熱処理が施されるが、これらの熱処理の条件にも制限はなく、アルミニウム−亜鉛系合金について公知の条件を採用することができる。
例えば、溶体化のための熱処理として、420℃〜500℃の温度で、1時間〜25時間の加熱後に急冷する熱処理条件を採用することができる。急冷は、水焼入れなどの公知の方法を採用することができる。
時効硬化のための熱処理として、90℃〜180℃で、1時間〜50時間の条件を採用することができるほか、時効硬化のための熱処理の途中において、前記温度範囲内において温度を変化させる、いわゆる2段階時効熱処理を採用してもよい。
【0040】
なお、陽極酸化処理などの表面処理を施すことにより、水蒸気が存在する環境下でも優れた耐食性を発揮するとともに、その表面を色調の整った美麗なものとすることができる、アルミニウム−亜鉛系合金の押出材およびその製造方法を提供するものであるが、他の用途であって、軽量で、なおかつ高強度であるとともに、ピット状の空隙がないことが必要とされるものにも応用可能である。
【実施例】
【0041】
アルミニウム、亜鉛、およびその他の合金元素を溶解、混合して表1に示す成分組成のアルミニウム−亜鉛系合金溶湯を作製した。作製したアルミニウム−亜鉛系合金溶湯に対し、脱ガス処理方法として不活性ガス回転吹込法、介在物処理方法として#30のセラミックフォームフィルターによる濾過方法を採用して、それぞれ脱ガス処理および介在物処理を実施した。
脱ガス処理及び介在物処理を施したアルミニウム−亜鉛系合金溶湯の一部を採取して、脱ガス処理および介在物処理の効果を、それぞれLECO法および破断面観察法により測定した。
【0042】
破断面観察法における1試料あたりの観察破断面は、22〜40箇所である。その測定結果を、表2に示す。
なお、水素ガスの含有量が0.2cc/100gを超える比較例は、脱ガス処理を実施しない、または実施時間を短縮することにより作製した。
また、介在物数が0.005個/mm
2を超える比較例は、介在物処理を実施しない、または実施時間を短縮することにより作製した。
【0043】
続いて脱ガス処理及び介在物処理を施したアルミニウム−亜鉛系合金溶湯を、DC鋳造法により鋳造、その後、間接押出法により押出加工して押出材を作製した。
鋳造条件を表3に、押出条件を表4に示す。
それから、溶体化のための熱処理および時効硬化のための熱処理を施して、供試材を作製し、ピット上の空隙個数、及び介在物数を測定した。
溶体化のための熱処理の条件および時効硬化のための熱処理の条件を表5に示す。
【0044】
得られた供試材(押出材[時効硬化処理済])の単位表面積あたりのピット状の空隙の個数を表6に示す。
表6によれば、表2において、水素ガスの含有量が0.2cc/100g以下で、かつ介在物数が0.005個/mm
2以下であった、本発明例1から本発明例5までより作製した供試材には、ピット状の空隙は認められないのに対し、水素ガスの含有量、または介在物数が前記の各値を超過する比較例1から比較例4までより作製した供試材には、ピット状の空隙が存在することがわかる。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、軽量かつ高強度であるとともに、陽極酸化処理などの表面処理を施すことにより、水蒸気が存在する環境下でも優れた耐食性を発揮し、その表面が色調の整った美麗なアルミニウム−亜鉛系合金の押出材を得ることができる。