(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249438
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】口腔衛生改善活性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20171211BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20171211BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20171211BHJP
A61K 8/35 20060101ALI20171211BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20171211BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20171211BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20171211BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20171211BHJP
A61K 31/045 20060101ALI20171211BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20171211BHJP
A61K 31/20 20060101ALI20171211BHJP
A61K 31/23 20060101ALI20171211BHJP
A61K 31/11 20060101ALI20171211BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20171211BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K8/49
A61K8/34
A61K8/35
A61K8/36
A61K8/37
A61Q11/00
A61K31/353
A61K31/045
A61P1/02
A61K31/20
A61K31/23
A61K31/11
A61P43/00 121
A61P31/10
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-127416(P2013-127416)
(22)【出願日】2013年6月18日
(65)【公開番号】特開2015-868(P2015-868A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】安部 茂
(72)【発明者】
【氏名】羽山 和美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 美貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基文
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 喜哉
(72)【発明者】
【氏名】來住 明宣
(72)【発明者】
【氏名】松川 泰治
(72)【発明者】
【氏名】松居 雄毅
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰正
(72)【発明者】
【氏名】山田 一郎
【審査官】
駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−238375(JP,A)
【文献】
特開2013−040156(JP,A)
【文献】
特開2007−269789(JP,A)
【文献】
安部 茂 ほか,口腔カンジダ症に対して改善効果が期待される機能食品,Medical Mycology Research,2011年,Vol.2 No.1,p.15-20
【文献】
TAGUCHI Yuuki et al.,Therapeutic Effects of Cinnamaldehyde and Potentiation of its Efficacy in Combination with Methylcellulose on Murin Oral Candidiasis,Med. Mycol. J,2011年,Vol.52,p.145-152
【文献】
羽山 和美 ほか,口腔カンジダ症に対するOligonolの効果,Jpn. J. Med. Mycol.,2010年,Vol.51,p.137-142
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 31/00−31/327
A61K 31/33−33/44
A61K 36/00−36/05
A61K 36/07−36/9068
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シナモン、モノマー、ダイマー、トリマーのプロアントシアニジンを主成分とする低分子プロアントシアニジン、及びメントールの3種の成分を含有する、抗カンジダ活性組成物。
【請求項2】
炭素数5〜12の中鎖脂肪酸、前記中鎖脂肪酸と、炭素数1〜4の低級アルコールとのエステルである中鎖脂肪酸エステル、シトラールから選ばれる、1種以上の成分を更に含有する、請求項1に記載の抗カンジダ活性組成物。
【請求項3】
更に、資化性のない増粘剤を含む、請求項1又は2に記載の抗カンジダ活性組成物。
【請求項4】
1回の投与量当たり、シナモンを0.28mg以上、低分子プロアントシアニジンを0.5mg以上、メントールを0.2mg以上含有し、シナモン、低分子プロアントシアニジン、及びメントールの総重量として、抗カンジダ組成物の重量に対して、99%以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗カンジダ活性組成物。
【請求項5】
1回の投与量当たり、中鎖脂肪酸又は中鎖脂肪酸エステルを0.008mg以上、シトラールを0.14mg以上、増粘剤を0.09mg以上、更に含有し、シナモン、低分子プロアントシアニジン、メントール、中鎖脂肪酸又は中鎖脂肪酸エステル、シトラール、及び増粘剤の総重量として、抗カンジダ組成物の重量に対して、99%以下である、請求項4に記載の抗カンジダ活性組成物。
【請求項6】
シナモンが、シンナムアルデヒドを含む組成物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗カンジダ活性組成物。
【請求項7】
低分子プロアントシアニジンがオリゴノール(登録商標)である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗カンジダ活性組成物。
【請求項8】
中鎖脂肪酸又は中鎖脂肪酸エステルがデカン酸又はデカン酸エチルである、請求項2〜7のいずれか一項に記載の抗カンジダ活性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔衛生改善活性組成物および抗カンジダ活性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に口腔内やその粘膜の表面は、健全な状態では湿潤しており、粘膜を形成する上皮細胞や唾液などを分泌する腺細胞が様々な複合糖質やタンパク質などを生成してその環境を保全している。また、そこには常在菌として、通常は特に病原性を発現することなく生息している様々な微生物がいる。しかし、高齢者や免疫力が低下した者や、あるいは薬物治療によって菌交代症を起こしたり、日和見感染症を招来した場合は、通常は病原性の低い菌であっても、口腔粘膜上で増殖し、持続する症状により長期間にわたって疼痛や不快感を生じて生活の質が低下する。
【0003】
このような口腔衛生悪化の一因として口腔カンジダ症があり、非特許文献1には、各種の植物由来物質がカンジダ症の治療に有効であること、また、その具体的物質として、低分子プロアントシアニジン(商品名:オリゴノール(登録商標)、アミノアップ化学)、シンナムアルデヒドを主成分とするシナモン、炭素数10の直鎖脂肪酸であるデカン酸(カプリン酸)、オイゲノール等が開示されている。
非特許文献2には、前記オリゴノールが、インビトロでのカンジダ菌糸形発育を313μg/mL以上で阻害(80%阻害)すること、また、口腔カンジダ症マウスモデルにおいて、20mg/mLのオリゴノール溶液(1回につき50μL)を3回口腔内に投与したところ、舌の症状が改善されたことが開示されている。なお、オリゴノールは、20mg/mLといった高濃度では、渋みが強く、著しく風味が損なわれる欠点がある。
非特許文献3には、前記シンナムアルデヒドが、口腔カンジダ症マウスモデルにおいて、19.5mg/mLのシンナムアルデヒド溶液(1回につき50μL)を3回口腔内に投与したところ、舌の症状が改善されたことが開示されている。
非特許文献4には、前記デカン酸が、インビトロでのカンジダ菌糸形発育を12.5μg/mL以上で90%阻害、3.13μg/mL以上で50%阻害することが開示されている。
これらの文献から明らかなとおり、各種植物由来物質の中でも、少量で抗カンジダ活性を示す点で、デカン酸が有望であると考えられていた。
【0004】
更に、デカン酸の優位性を示す文献として、特許文献1には、インビトロでのカンジダ菌糸形発育に関して、デカン酸、ゲラニオール、オイゲノール、シトラールが、それぞれ単独で、3.13μg/mL、25μg/mL、200μg/mL、50μg/mL以上で95%阻害すること、また、デカン酸をゲラニオール、オイゲノール、又はシトラールのいずれかと併用した場合、高い相乗効果が認められたことが開示されている。また、特許文献1には、口腔カンジダ症マウスモデルにおいて、1%(=10mg/mL)デカン酸溶液、3%ジンジャー精油溶液、又は1%デカン酸及び3%ジンジャー精油含有溶液(いずれも1回につき50μL)を3回口腔内に投与したところ、舌の症状が改善されたこと、また、デカン酸とジンジャー精油との併用が最も効果が高かったことが開示されている。なお、前記ジンジャー精油は、組成比として、シトラール24.9%、ゲラニオール4.7%を含むものである。
【0005】
これらの文献は、非特許文献1が本発明者の成果を含む総説的文献であることを除いて、いずれも、本発明者およびその共同研究者による成果を公表したものである。本発明者は、非特許文献1に開示されたものも含め、多数の植物由来物質の抗カンジダ活性を鋭意検討する中で、少量でも活性を示すデカン酸に着目して研究を続けたところ、前記特許文献1に示すとおり、他の植物由来物質(例えば、シトラール)と併用することにより、デカン酸が更に高い効果を示すことを見出し、デカン酸の優位性を確信するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−40156号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Abe S, et al. Medical Mycology Research. 2011;2(1):15-20.
【非特許文献2】Hayama K, et al. Jpn J Med Mycol. 2010;51:137-142.
【非特許文献3】Taguchi Y, et al. Med Mycol J. 2011;52:145-152.
【非特許文献4】Inoue S, et al. Med Mycol J. 2012;53:33-40.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況下、これまで、主にインビトロ試験で優位性を示していたデカン酸に関して、本発明者は、口腔カンジダ症マウスモデルによる評価を実施する中で、デカン酸を含有しない組成物であっても、デカン酸含有組成物と同等の口腔衛生改善活性を示すものがあることを見出した。
すなわち、本発明の課題は、デカン酸を含有しなくても、同等またはそれ以上の活性を示す口腔衛生改善活性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、以下に記載の本発明により解決することができる:
[1]シナモン、低分子プロアントシアニジン、及びメントールの3種の成分を含有する、口腔衛生改善活性組成物。
[2]中鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸エステル、シトラールから選ばれる、1種以上の成分を更に含有する、[1]の口腔衛生改善活性組成物。
[3]更に増粘剤を含む、[1]又は[2]の口腔衛生改善活性組成物。
[4]1回の投与量当たり、シナモンを0.28mg以上、低分子プロアントシアニジンを0.5mg以上、メントールを0.2mg以上含有する、[1]〜[3]のいずれかの口腔衛生改善活性組成物。
[5]1回の投与量当たり、中鎖脂肪酸又は中鎖脂肪酸エステルを0.008mg以上、シトラールを0.14mg以上、増粘剤を0.09mg以上、更に含有する、[4]の口腔衛生改善活性組成物。
[6]シナモンが、シンナムアルデヒドを含む組成物である、[1]〜[5]のいずれかの口腔衛生改善活性組成物。
[7]低分子プロアントシアニジンがオリゴノールである、[1]〜[6]のいずれかの口腔衛生改善活性組成物。
[8]中鎖脂肪酸又は中鎖脂肪酸エステルがデカン酸又はデカン酸エチルである、[2]〜[7]のいずれかの口腔衛生改善活性組成物。
[9]シナモン、低分子プロアントシアニジン、及びメントールの3種の成分を含有する、抗カンジダ活性組成物。
【0010】
本明細書において「口腔衛生改善活性」とは、以下に限定されるものではないが、例えば、カンジダ属などの真菌類を抑制・減少させる活性、歯周病菌などの病原性細菌類を抑制・減少させる活性、ヘルペスなどのウイルスを抑制・減少させる活性、細菌や真菌および細胞の分泌物や食物滓などで形成された舌苔を減少・除去する活性、口臭を抑制・消去する活性、唾液の分泌を促し口腔を湿潤させる活性、快い風味や適当な刺激を与えることによる抗ストレス活性、ネバネバ感などを減少させることにより爽快感を与える活性、腫脹や疼痛を軽減する抗炎症活性などを意味し、好ましくは、この内、2つ以上を発揮することを意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、デカン酸を含有しなくても、3種の特定成分(すなわち、シナモン、低分子プロアントシアニジン、及びメントール)を同時に含有することにより、同等またはそれ以上の活性を示す口腔衛生改善活性組成物を提供することができる。
また、単独使用では充分な抗カンジダ活性を示すために高濃度で使用することが必要であった低分子プロアントシアニジンについて、渋みが強く、著しく風味が損なわれ、口腔衛生改善活性組成物としての使用は難しいと考えられていたが、本発明によれば、低分子プロアントシアニジンの量を減少させることができるため、風味を向上させることができる。
なお、本発明は、デカン酸を含有しなくても、シナモン、低分子プロアントシアニジン、及びメントールの3種の特定成分を含有することにより、前記効果を発揮するものであるが、デカン酸を添加することにより、更なる効果を期待することもできるため、デカン酸を添加する態様を本発明から除外するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】口腔カンジダ症マウスモデルを用いた口腔衛生改善効果の評価(実施例1)において、組成物Aまたは組成物Bの2倍希釈液を投与した場合の舌症状スコアの改善結果を示すグラフである。
【
図2】同評価(実施例1)において、組成物Bの2倍希釈液または4倍希釈液を投与した場合の舌症状スコアの改善結果を示すグラフである。
【
図3】ボランティア試験(実施例3)において、ボランティア13名の組成物Bを摂取した前後の舌苔量の変化を示すグラフである。
【
図4】同試験(実施例3)において、カンジダ陽性ボランティア5名における、組成物摂取前後のカンジダ(C. albicans)生菌数の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の口腔衛生改善活性組成物は、有効成分として、シナモン、低分子プロアントシアニジン、及びメントールの3種の成分(以下、本発明における特定成分と称することがある)を少なくとも含有することを特徴とする。また、本発明の口腔衛生改善活性組成物は、前記の特定成分に加えて、所望により、中鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸エステル、シトラールから選ばれる1種以上の成分、及び/又は、増粘剤を更に含有することができる。
【0014】
本発明に用いるシナモンは、フェニルプロパノイド骨格をもつ芳香族アルデヒドであるシンナムアルデヒドを香り成分として含有する香辛料である。前記シナモンとして、例えば、シナモンパウダー、桂皮油、桂皮粉末、シナモン抽出物を用いることもできるし、あるいは、化学合成または天然物から精製したシンナムアルデヒド、あるいは、シンナムアルデヒドを含む組成物(例えば、シンナムアルデヒド含有香料やシンナムアルデヒド含有オイル)を用いることもできる。
【0015】
本発明に用いる低分子プロアントシアニジンは、低分子のモノマー、ダイマー、トリマーのプロアントシアニジンを主成分とするものであればよく、株式会社アミノアップ化学(北海道札幌市)から市販されている、果実であるライチに含まれるポリフェノールの一種である高分子プロアントシアニジンを化学的に低分子化したものであるオリゴノール(登録商標)が好ましい。また、低分子プロアントシアニジンにはこの他にもピクノジェノール(登録商標、ホーファー・リサーチ・リミテッド)、フラバンジェノール(登録商標、株式会社東洋新薬)等があり、これらを用いることもできる。
【0016】
本発明に用いるメントールは、ハッカ臭を持つ、揮発性の無色結晶であり、菓子類、口中清涼剤などに多用されるほか医薬品にも用いられる。メントールにはいくつかの異性体や誘導体があり天然物にもこれらが含まれている。本発明の実施例で用いたL−メントール以外にこれら異性体や誘導体も化学合成または天然物からの抽出(例えば、メントール含有香料)により用いることができる。
【0017】
本発明において所望により用いることのできる中鎖脂肪酸としては、炭素数5〜12(好ましくは8〜12)の直鎖又は分岐の飽和脂肪酸を用いることができ、好ましくは同炭素数の直鎖飽和脂肪酸を用いることができる。前記中鎖脂肪酸としては、例えば、ペンタン酸(別称:吉草酸、炭素数5)、ヘキサン酸(カプロン酸、炭素数6)、ヘプタン酸(エナント酸、炭素数7)、オクタン酸(カプリル酸、炭素数8)、ノナン酸(ペラルゴン酸、炭素数9)、デカン酸(カプリン酸、炭素数10)、ドデカン酸(ラウリン酸、炭素数11)、テトラデカン酸(ミリスチン酸、炭素数12)を挙げることができる。
【0018】
本発明において所望により用いることのできる中鎖脂肪酸エステルとしては、前記中鎖脂肪酸と、炭素数1〜4(好ましくは1〜2)の低級アルコールとのエステルを用いることができる。例えば、中鎖脂肪酸がデカン酸である場合には、中鎖脂肪酸エステルとして、デカン酸メチル、デカン酸エチル、デカン酸プロピル、デカン酸ブチルを挙げることができる。また、中鎖脂肪酸がオクタン酸である場合には、中鎖脂肪酸エステルとして、オクタン酸メチル、オクタン酸エチル、オクタン酸プロピル、オクタン酸ブチルを挙げることができる。
【0019】
これらの中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸エステルは、いずれか1種を単独で用いることもできるし、あるいは、中鎖脂肪酸および/または中鎖脂肪酸エステルの2種以上を適宜組み合わせて使用することもできる。また、中鎖脂肪酸および/または中鎖脂肪酸エステルとして、天然物から精製した精油(例えば、デカン酸含有香料)を用いることもできるし、あるいは、化学合成したものを用いることもできる。
【0020】
本発明において所望により用いることのできるシトラールは、モノテルペン系のアルデヒドで、強いレモン臭をもち、レモングラスなどのハーブや柑橘系の果物や山椒、ショウガなどに含まれる精油成分である。前記シトラールとしては、天然の植物由来の精油(例えば、シトラール含有香料)を用いることもできるし、あるいは、化学合成または天然物から精製したシトラールを用いることもできる。
【0021】
本発明において所望により用いることのできる増粘剤は、資化性のない増粘剤である限り、特に限定されるものではなく、例えば、メチルセルロース、プロピレングリコール、アラビノキシラン、カラギナン、ペクチン、キサンタンガム等を挙げることができる。資化性のない増粘剤を添加すると、増粘剤以外の有効成分が、カンジダをはじめとする病原菌と反応する時間を延ばすことができ、病原菌の成育をより効果的に阻害することができる。
【0022】
本発明の口腔衛生改善活性組成物は、シナモン、低分子プロアントシアニジン、及びメントールの3種の特定成分を、口腔衛生改善に必要な量で含む。
本明細書において「口腔衛生改善に必要な量」とは、後述の実施例1に示す口腔カンジダ症マウスモデルにおいて、舌症状スコア(0〜4)が3以下(好ましくは2.5以下)に改善されること、若しくは、対照(水投与)と比較して改善傾向が認められること;後述の実施例2に示すインビトロ・カンジダ菌糸形発育抑制試験において、50%以上の菌糸形発育阻害能を示すこと;又は、後述の実施例3に示すボランティア試験において、舌苔量の減少、カンジダ生菌数の減少、口腔内のネバネバ感の改善に関して、少なくとも1つの改善効果が認められることを意味する。
客観的な定量化が可能である点で、口腔カンジダ症マウスモデルを用いることが好ましい。
【0023】
本発明の口腔衛生改善活性組成物は、シナモン、低分子プロアントシアニジン、及びメントールを、口腔内に投与した際に効果を期待する局所(例えば、舌上、舌下等の口腔内粘膜上)における濃度が、それぞれ、70μg/mL以上、125μg/mL以上、50μg/mL以上となる量で含有することができる。
【0024】
より具体的には、本発明の口腔衛生改善活性組成物は、1回の投与量(以下、投与単位と称する)当たり、シナモンを、例えば0.28mg以上、好ましくは0.56mg以上、より好ましくは1.12mg以上、更に好ましくは2.24mg以上、更に好ましくは5.6mg以上、特に好ましくは11.2mg以上、含有することができる。
また、本発明の口腔衛生改善活性組成物は、投与単位当たり、シンナムアルデヒドを、例えば0.018mg以上、好ましくは0.036mg以上、より好ましくは0.072mg以上、更に好ましくは0.14mg以上、更に好ましくは0.36mg以上、特に好ましくは0.72mg以上、含有することができる。
本発明の口腔衛生改善活性組成物は、投与単位当たり、低分子プロアントシアニジンを、例えば0.5mg、好ましくは1.0mg以上、より好ましくは2.0mg以上、更に好ましくは4.0mg以上、更に好ましくは10.0mg以上、特に好ましくは20.0mg以上、含有することができる。
本発明の口腔衛生改善活性組成物は、投与単位当たり、メントール(例えば、L−メントール)を、例えば0.2mg以上、好ましくは0.4mg以上、より好ましくは0.8mg以上、更に好ましくは1.6mg以上、更に好ましくは4.0mg以上、特に好ましくは8.0mg以上、含有することができる。
【0025】
本発明の口腔衛生改善活性組成物は、投与単位当たり、中鎖脂肪酸(例えば、デカン酸)又は中鎖脂肪酸エステルを、例えば0.008mg以上、好ましくは0.016mg以上、より好ましくは0.032mg以上、更に好ましくは0.064mg以上、更に好ましくは0.16mg以上、特に好ましくは0.32mg以上、含有することができる。
本発明の口腔衛生改善活性組成物は、投与単位当たり、シトラールを、例えば0.14mg、好ましくは0.28mg以上、より好ましくは0.56mg以上、更に好ましくは1.12mg以上、更に好ましくは2.8mg以上、特に好ましくは5.6mg以上、含有することができる。
本発明の口腔衛生改善活性組成物は、投与単位当たり、増粘剤(例えば、メチルセルロース)を、例えば0.09mg以上、好ましくは0.18mg以上、より好ましくは0.36mg以上、更に好ましくは0.72mg以上、更に好ましくは1.8mg以上、特に好ましくは3.6mg以上、含有することができる。
【0026】
これらの各成分における含有量の上限は、例えば、風味の阻害や過度の刺激などの悪影響、共存する他成分の含有量、費用対効果などにより適宜決定されるが、例えば、これらの有効成分の総重量として、本発明の口腔衛生改善活性組成物の重量に対して、或る態様として99%以下、別の態様として90%以下、更に別の態様として80%以下、更に別の態様として50%以下であることができる。
【0027】
本発明の口腔衛生改善活性組成物の投与形態は、口腔内貯留後、飲み込むか、はき出すかを問わず、口腔内に所定時間留めておくことにより口腔衛生効果を発揮することができるものである限り、特に限定されるものではなく、通常の医薬品(例えば、含嗽剤、液剤、軟膏、洗浄剤)として投与することができるだけでなく、例えば、食品、化粧品、口腔衛生用品などの形態で使用することができる。前記食品としては、例えば、飴、ガム、トローチ、グミ等の菓子、飲料、ヨーグルト、ドレッシング、サプリメントを挙げることができる。前記化粧品又は口腔衛生用品としては、例えば、洗口液、歯磨き、うがい液、ジェル、スプレーを挙げることができる。これらの各投与形態では、前記の各有効成分に加えて、各投与形態において使用される公知の担体、希釈剤、補助助剤などを添加することができる。
【0028】
本発明の口腔衛生改善活性組成物を飴として製造する場合には、例えば、ハードキャンディ又はソフトキャンディを挙げることができ、特に口腔内に長く保持される水分値が5重量%以下のハードキャンディであることが好ましい。また、口腔衛生改善という目的上、砂糖ベースの飴よりも、う蝕性の低い、マルチトール、パラチノース等の糖アルコールベースのノンシュガーキャンディの方が好ましい。味としても限定はなくミントキャンディの他、レモンやミルク等様々な風味付けが可能であり、目的に合わせ適宜選択すればよい。また、各有効成分の量も、任意の濃度調整が可能であり、喫食者が無理なく各有効成分の目的摂取量を摂取できる程度の濃度に調整すれば良い。
【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0030】
《実施例1:口腔カンジダ症マウスモデルによる口腔衛生改善効果の評価》
本発明の口腔衛生改善活性組成物として、還元麦芽糖水飴(組成物重量に対して67.2%)及び還元水飴(組成物重量に対して31.3%)に、表1に示す含有量の各種添加物と、甘味料及び乳化剤(組成物重量に対して各々0.1%)を添加することにより、2種類の粘性液状組成物(飴)を調製した。なお、表1に示す各種添加物の含有量の単位は、組成物1mL当たりの添加物重量(mg/mL)である。
表1に示す各種添加物としては、シナモンパウダー(エスビー食品株式会社)、オリゴノール(株式会社アミノアップ社)、L−メントール(大阪香料株式会社)、デカン酸含有香料(ヴェ・マン・フィス香料株式会社)、シトラール含有香料(ヴェ・マン・フィス香料株式会社)、メチルセルロース(信越化学工業株式会社)を使用した。今回使用したシナモンパウダー中のシンナムアルデヒド含有量は6.4%であった。
【0031】
【表1】
【0032】
ICR系マウス(雌、6週齢)を用い、カンジダ菌(Candida albicans;帝京大学医真菌研究センター保存のTIMM1768株)接種前日に、免疫抑制を目的にプレドニゾロン100mg/kgを皮下注射した。また、その日から塩酸クロルテトラサイクリン4.125mg/mLを含有した水道水を自由に摂取させた。接種当日、マウスを安静状態に保つため、予めクロルプロマジン塩酸塩14.4mg/kgを筋肉内投与した。菌数を2×10
8cells/mLに調整したカンジダ菌懸濁液に綿棒を漬け、それを安静になったマウス口腔に擦り付けて接種した。評価対象組成物は、滅菌水で2倍または4倍希釈したものを、カンジダ菌接種3時間後、24時間後、及び27時間後に、マウス用胃ゾンデを用い、口腔内の舌背に50μL滴下して投与した。なお、対照として、滅菌水を投与した。接種2日後にマウスを安楽死させ、表2に示す基準に従って舌症状スコア(0〜4)を評価した。
【0033】
【表2】
【0034】
組成物Aおよび組成物Bをそれぞれ2倍希釈して投与した結果を
図1に示す。また、組成物Bを2倍希釈したもの、組成物Bを4倍希釈したものを投与した結果を
図2に示す。
図1に示すように、水のみを投与した場合と比較して、本発明の組成物A又はBを2倍希釈して投与した場合には、有意差は認められないものの、舌症状改善の傾向が確認された。特に、組成物Aは、これまで抗カンジダ治療薬の候補として有望と考えられていたデカン酸を含有せず、また、デカン酸と併用することにより相乗効果を示すことが知られていたシトラールも含有しないにもかかわらず、意外にも、これらを含む組成物Bと同等の改善効果を示した。
また、組成物Aの2倍希釈液中のシナモン及びオリゴノールの濃度は、それぞれ、1.4mg/mL及び2.5mg/mL(表1に示す含有量の1/2)であり、従来知られていた、これらの単独投与時の有効濃度が、それぞれ、19.5mg/mL(非特許文献3)及び20mg/mL(非特許文献2)であったことと比較して、極めて少量で充分な改善効果が得られることが判明した。特にオリゴノールについては、20mg/mLといった高濃度では、渋みが強く著しく風味が損なわれ、口腔衛生改善活性組成物としての使用は難しいと考えられていたため、少量で改善効果が得られることは実用化の上で極めて重要である。
【0035】
一方、
図2に示すように、水のみを投与した場合と比較して、本発明の組成物Bを2倍または4倍希釈して投与した場合には、スコア値が2付近まで低下し、有意な舌症状改善効果が認められた。
これらの結果より、本発明の組成物は、舌に付着したカンジダ菌による白苔の形成を阻害し、症状を改善させる傾向があり、口腔内環境を改善または衛生状態を保持する可能性があることが示唆された。
【0036】
《実施例2:インビトロ・カンジダ菌糸形発育抑制試験による抗カンジダ活性の評価》
実施例1で調製した組成物Aを用いて、そのカンジダ菌糸形発育の抑制活性をクリスタル染色法で評価した。この方法は、菌糸形で発育したカンジダ菌(Candida albicans;帝京大学医真菌研究センター保存のTIMM1768株)をクリスタル紫液で染色した場合の染色量が発育コロニー数または[H
3]−グルコースの細胞内の取り込み量と相関することに基づいて、その染色量をカンジダ菌糸形発育度の指標とするものである。ウシ胎児血清(FCS)含有RPMI1640培地で調製したカンジダの生菌を、96穴平底プレートに5×10
2cells/wellの濃度で注入した。これに各濃度に希釈した組成物Aを加え、37℃、5%CO
2の条件下で約20時間培養した。その後、ウェル底部に付着した菌糸形カンジダをクリスタル紫液で染色した後、イソプロピルアルコール溶液で、染色されたカンジダ菌体よりクリスタル紫を抽出した。その色素量を分光光学的に測定(620nm)することにより、発育阻止量(相対値)を求めた。
【0037】
試験の結果、組成物Aは、約40倍に希釈しても50%の菌糸形発育阻害能を有することが確認された。組成物Aの40倍希釈液中の各有効成分の濃度を表3に示す。
この結果は、口腔内の衛生状態を損なう舌苔の原因の一つであるカンジダの菌糸形発育を阻害することで、カンジダの口腔内粘膜への付着が阻止され、口腔衛生の保持に有効性を示す可能性を示唆するものである。なお、実施例1で調製した組成物Bを用いて同様の試験を行ったところ、約1000倍希釈しても50%の菌糸形発育阻害能を有することが確認された。
【0038】
【表3】
【0039】
《実施例3:ボランティア試験による口腔衛生改善効果の評価》
本発明の口腔衛生改善活性組成物として、還元麦芽糖水飴(組成物重量に対して67.2%)及び還元水飴(組成物重量に対して31.3%)に、表1の組成物Bに示す含有量のオリゴノールとメチルセルロース、更に甘味料及び乳化剤(組成物重量に対して各々0.1%)を添加することにより、粘性液状組成物を調製した。この粘性液状組成物を水分値0.5%になるように炊き上げ、更に表1の組成物Bに示す含有量のシナモンパウダー、L−メントール、デカン酸、シトラールを混練した後、1粒4gの飴を調製した。
【0040】
ボランティアを募り、調製した飴(組成物B)を2日間摂取してもらい、摂取前後の舌苔量、カンジダ(C. albicans)生菌数、アンケートにて、口腔衛生改善効果を評価した。なお、渋みが強い低分子プロアントシアニジンを含んでいたが、特に不快な渋味は感じられなかった。試験初日の朝起きてすぐに市販舌ブラシで舌を3回擦り、生理食塩水の入ったチューブに回収した。採取したサンプルは、冷蔵にて移送し、遠心後、沈殿を回収して重さを測定し、これを舌苔量とした。また、沈殿は、よく分散してRPMI1640培地に再懸濁させ、カンジダ選択用培地に塗布し、37℃で3日間培養してカンジダ生菌数を測定した。ボランティアは毎食後1日3回、1回当たり約4g(1粒)の組成物Bを2日間摂取させた。1粒当たりの各有効成分の含有量を表4に示す。3日目の朝に、同様の方法で、舌苔を回収・移送し、舌苔量、カンジダ生菌数を測定した。また、ボランティアには、アンケートにて組成物摂取前後での口腔生理状態の変化を5段階で評価してもらった。
【0041】
【表4】
【0042】
図3に、ボランティア13名の組成物B摂取前後の舌苔量の変化を示す。試験結果は、剥離した上皮細胞、細菌や真菌、食物残渣などを含む舌苔量が、組成物摂取後に減少していることを示している。
【0043】
図4に、カンジダ選択用培地にてコロニーが認められたカンジダ陽性ボランティア5名における、組成物摂取前後のカンジダ(C. albicans)生菌数の変化を示す。
図4は、5名中4名が組成物摂取後に舌苔中のカンジダ(C. albicans)数が低下したことを示している。なお、低下が認められなかった1名は、C. albicans以外のカンジダ種(Candida sp.)の生菌数の低下が認められている(摂取前:2,970CFU/tongue、摂取後:1,452CFU/tongue)。
【0044】
表5に、ボランティア13名の組成物摂取前後での口腔生理状態の変化を示す。この結果は、口腔内のネバネバ感の改善という項目で、50歳以上のボランティア8名の改善効果が高いことを示している。
以上の結果より、本発明の組成物が、舌苔量、カンジダ生菌数の減少、口腔内のネバネバ感を改善させることにより、口腔衛生改善活性組成物として有効であり、ヒトへの使用が可能であることが確認された。
【0045】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、口腔衛生改善の分野に利用することができ、カンジダ症の治療用途にも利用できる。