【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (ウェブサイトのアドレス)http://www.ap.t.u−tokyo.ac.jp/util/m20130614.htm (公開者) 木林駿介 (掲載日) 平成25年6月14日 (学術研究集会名)日本物理学会2013年秋季大会、(発表者) 高橋 陽太郎、木林 駿介、関 真一郎、十倉 好紀 (発表日) 平成25年9月25日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度 独立行政法人 科学技術振興機構 さきがけ「磁気バブルメモリの刷新に向けたスキルミオンの結晶学と電磁気学の構築」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プロパースクリュー磁気構造に基づくコニカル構造が誘起されている絶縁体に対して、互いに異なる伝搬方向から電磁波を伝搬させ、当該伝搬方向間で透過率を互いに異ならせること
を特徴とし、
上記コニカル構造のスピン方向、又は上記コニカル構造のスピンのカイラリティに応じて上記伝搬方向間の透過率の差分値を変化させる電磁波の透過率制御方法。
上記コニカル構造のスピン方向の和に応じた伝搬方向で、かつ互いに180°異なる伝搬方向から上記絶縁体中を伝搬する電磁波の透過率を、当該伝搬方向間で互いに異ならせること
を特徴とする請求項1に記載の電磁波の透過率制御方法。
上記コニカル構造のスピン方向は、上記伝搬方向と略平行に印加する磁場に応じて、上記コニカル構造のスピンのカイラリティは、上記伝搬方向に対して略垂直に印加する電場に応じて制御すること
を特徴とする請求項5に記載の電磁波の透過率制御方法。
上記絶縁体は、上記コニカル構造のスピン方向の和に応じた伝搬方向で、かつ互いに180°異なる伝搬方向から伝搬する電磁波の透過率を、当該伝搬方向間で互いに異ならせること
を特徴とする請求項7に記載の電磁波の透過率制御デバイス。
上記コニカル構造のスピン方向を上記伝搬方向と略平行に印加される磁場に応じて、上記コニカル構造のスピンのカイラリティを上記伝搬方向に対して略垂直に印加される電場に応じて、制御する手段を更に備えること
を特徴とする請求項11に記載の電磁波の透過率制御デバイス。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このエレクトロマグノンは、これを好適に誘起させるための条件が過酷であり、またこれが予め好適に誘起されている材料も希少である。このため、上述した高速通信用デバイスや簡易センサ等の量産に関する社会的要請に応えることができないという問題点があった。
【0008】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、数百GHz〜THzもの高周波からなる電磁波の透過率を制御する上で、量産性をも考慮し生産性に優れた電磁波の透過率制御デバイス、並びにこれを利用した電磁波の透過率制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の電磁波の透過率制御方法は、プロパースクリュー磁気構造に基づくコニカル構造が誘起されている絶縁体に対して、互いに異なる伝搬方向から電磁波を伝搬させ、当該伝搬方向間で透過率を互いに異ならせることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の電磁波の透過率制御方法は、請求項1記載の発明において、上記コニカル構造のスピン方向に応じた伝搬方向で、かつ互いに180°異なる伝搬方向から上記絶縁体中を伝搬する電磁波の透過率を、当該伝搬方向間で互いに異ならせることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の電磁波の透過率制御方法は、請求項1又は2記載の電磁波の発明において、Cu
2Fe
1-xGa
xO
2からなる絶縁体に上記コニカル構造を誘起させることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の電磁波の透過率制御方法は、請求項1〜3のうち何れか1項記載の発明において、上記コニカル構造のスピン方向、又は上記コニカル構造のスピンのカイラリティに応じて上記伝搬方向間の透過率の差分値を変化させることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の電磁波の透過率制御方法は、プロパースクリュー磁気構造に基づくコニカル構造が誘起されている絶縁体に対して電磁波を伝搬させ、上記コニカル構造のスピン方向、又は上記コニカル構造のスピンのカイラリティに応じて上記電磁波の透過率を変化させることを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の電磁波の透過率制御方法は、請求項4又は5項記載の発明において、上記コニカル構造のスピン方向は、上記伝搬方向と略平行に印加する磁場に応じて、上記コニカル構造のスピンのカイラリティは、上記伝搬方向に対して略垂直に印加する電場に応じて制御することを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の電磁波の透過率制御デバイスは、プロパースクリュー磁気構造に基づくコニカル構造が誘起されている絶縁体を備え、互いに異なる伝搬方向から上記絶縁体に伝播させる電磁波の透過率を当該伝搬方向間で互いに異ならせることを特徴とする。
【0016】
請求項8記載の電磁波の透過率制御デバイスは、請求項7記載の発明において、上記絶縁体は、上記コニカル構造のスピン方向に応じた伝搬方向で、かつ互いに180°異なる伝搬方向から伝搬する電磁波の透過率を、当該伝搬方向間で互いに異ならせることを特徴とする。
【0017】
請求項9記載の電磁波の透過率制御デバイスは、請求項7又は8記載の発明において、上記絶縁体は、Cu
2Fe
1-xGa
xO
2であることを特徴とする。
【0018】
請求項10記載の電磁波の透過率制御デバイスは、請求項7〜9のうち何れか1項記載の発明において、上記絶縁体は、上記コニカル構造のスピン方向、又は上記コニカル構造のスピンのカイラリティに応じて上記伝搬方向間の透過率の差分値を変化させることを特徴とする。
【0019】
請求項11記載の電磁波の透過率制御デバイスは、プロパースクリュー磁気構造に基づくコニカル構造が誘起されている絶縁体を備え、上記絶縁体に伝搬させる電磁波を、上記コニカル構造のスピン方向、又は上記コニカル構造のスピンのカイラリティに応じて変化させることを特徴とする。
【0020】
請求項12記載の電磁波の透過率制御デバイスは、請求項10又は11項記載の発明において、上記コニカル構造のスピン方向を上記伝搬方向と略平行に印加される磁場に応じて、上記コニカル構造のスピンのカイラリティを上記伝搬方向に対して略垂直に印加される電場に応じて、制御する手段を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
上述した構成からなる本発明によれば、電磁波を整流素子中に伝搬させる上で、整流素子に負荷する外部磁場Hを制御し、或いは整流素子に負荷する電場Eを制御する。これにより、外部磁場Hが制御されることで、整流素子内のコニカル構造のスピン方向を制御することができ、電場Eが制御されることでコニカル構造のカイラリティが制御される。その結果、電磁波の整流素子における透過率を制御することが可能となる。
【0022】
また、上述した構成からなる本発明では、サイクロイド型スピン構造におけるエレクトロマグノンと比較して作製が容易で、入手しやすいプロパースクリュー磁気構造が誘起された絶縁体を、整流素子の材料として活用することができる。このため、本発明を高速通信用デバイスや各種センサ等に応用する場合においても、量産に関する社会的要請に応えることができる。
【0023】
また、本発明では、特に数百GHz〜数THzにも及ぶ超高帯域の電磁波についても、その透過率を制御することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を適用した電磁波の透過率制御デバイスの実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明を適用した電磁波の透過率制御デバイス1の模式図であり、
図2は、その具体的な構成例を示している。この電磁波の透過率制御デバイス1は、A側、B側の間に配置された整流素子2とを備えている。
【0027】
透過率制御デバイス1は、整流素子2と、整流素子2に接続される電場制御部3及び磁場制御部4とを備えている。整流素子2を挟んで一端をA側が、他方側をB側とする。このとき、A側からB側に向けて伝搬する電磁波を電磁波M
ABといい、B側からA側に向けて伝搬する電磁波を電磁波M
BAという。この電磁波M
ABの伝搬方向と電磁波M
BAの伝搬方向とは互いに相対する方向に、換言すれば180°異なる伝搬方向となるように、反平行の関係となるように伝搬させる。但し、係る場合に限定されるものではなく、電磁波M
ABの伝搬方向と電磁波M
BAの伝搬方向とが異なるものであれば、本発明を適用することができることは勿論である。
【0028】
整流素子2は、A側からの電磁波M
ABが伝播してきた場合に、これをB側に伝搬させる上での整流を行う。また整流素子2は、B側からの電磁波M
BAが伝播してきた場合に、これをA側に伝搬させる上での整流を行う。
【0029】
電場制御部3は、
図2に示すように、整流素子2の上端に設けられた電極31と、下端に設けられた電極32に接続される。この電場制御部3は、電極31、32間に電圧を印加することができる。また電場制御部3は、この電極31、32間に印加する電圧を具体的に制御することも可能となる。その結果、電場制御部3により制御された電場Eが、電極31、32間に負荷されることとなるが、当該電場の向きは、電磁波M
AB、M
BAの伝播方向に対して略垂直となるように設計されることとなる。
【0030】
磁場制御部4は、
図2に示すように整流素子2の周囲において巻回されたコイル41に接続される。この磁場制御部4は、コイル41に通電することにより、当該コイル41から外部磁場Hを負荷することができる。また磁場制御部4は、コイル41に通電する電力を制御することにより、外部磁場Hを具体的に制御することも可能となる。コイル41を介して負荷される外部磁場Hは、電場Eに対して略直交する方向であり、かつ電磁波M
AB、M
BAの伝播方向に対して略平行となるように設計されることとなる。
【0031】
整流素子2は、電気分極可能な絶縁体である。仮にこの整流素子2を金属等で構成した場合には、これに照射される電磁波が素子の表面で反射してしまうため、この整流素子2は、絶縁体で構成する。また整流素子2は、プロパースクリュー磁気構造が誘起されている。このプロパースクリュー磁気構造とは、隣り合ったスピンが互いに有限の角度を持って配列したノンコリニア磁気構造の1つである。プロパースクリュー磁気構造は、
図3(a)に示すように、スピンの回転面51と配列方向Wが垂直となっている。
【0032】
これに対して、このプロパースクリュー磁気構造に対して
図3(b)に示すように外部磁場Hを負荷した場合、この各スピンの方向は、印加された外部磁場
Hにより支配される。
図3(b)の例では、外部磁場Hが紙面右方向に向けて印加された場合の例である。この印加された外部磁場Hの方向に向けてスピンが配列することとなる。逆に外部磁場Hが紙面左方向に向けて印加された場合には、当該方向に向けてスピンが配列することとなる。即ち、この外部磁場Hの方向を制御することにより、スピンの配列方向を制御することが可能となる。
【0033】
このような外部磁場Hが印加されると、プロパースクリュー磁気構造は、コーンの形状となる、いわゆるコニカル構造7へと変化する。このコニカル構造7では、スピンの回転面51に対して、スピンがコーン形状となるように配列する。そして、スピンの方向が徐々に時計回りに向けて、又は反時計回りに向けてシフトしている。即ち、
図3(b)に示すように、スピンが外部磁場
Hの方向に向けてそれぞれ位置k、l、mと整列している場合において、位置kからmに向けてスピンの方向は徐々に時計回りに向けてシフトして固定されている。一方、反時計回りにシフトする場合も同様に、スピンが外部磁場Hの方向に向けてそれぞれ位置k、l、mと整列している場合において、位置kからmに向けてスピンの方向は徐々に反時計回りに向けてシフトして固定されている。
【0034】
以下、時計回りに向けてシフトするか、或いは反時計回りにシフトするかを示すものを、いわゆるカイラリティという。このようなカイラリティを持つ物質では、マグネトカイラル効果を発現する。このマグネトカイラル効果とは、磁化が誘起されたカイラルな物質に生じ、磁化の方向やカイラリティ、光の進行方向に依存して吸収係数が変化する現象であるが、時計回りのスピン、反時計回りのスピンが共存している場合には、マグネトカイラル効果が互いに打ち消しあってしまう。しかしながら、スピンを時計回り、反時計回りの何れにシフトさせるかが、上述した強誘電分極の正負に支配されることを利用することにより、電場を印加することで、そのカイラリティ自体を制御することが可能となる。
【0035】
本発明では、上述したコンセプトの下で、外部磁場
Hと強誘電分極Pを制御することで、マグネトカイラル効果そのものを制御する。即ち、整流素子2にプロパースクリュー磁気構造に基づくコニカル構造7を誘起させ、これに対して印加すべき外部磁場
Hと強誘電分極Pを制御する。その結果、プロパースクリュー磁気構造によるマグネトカイラル効果そのものがコントロールされる。そして、このコントロールされたプロパースクリュー磁気構造におけるマグネトカイラル効果を活用することで、これが誘起されている整流素子2に伝搬させる電磁波の透過率を変化させる。
【0036】
ちなみに、このコニカル構造7は、上述したように外部磁場Hを印加することにより初めて絶縁体中に生成される場合もあれば、外部磁場Hを印加しなくても、当初から絶縁体中において生成されている場合もある。本発明では、プロパースクリュー磁気構造が形成されている絶縁体に対して、外部磁場Hを印加することで意図的にコニカル構造7を生成して、これを整流素子2として活用するようにしてもよいし、当初からプロパースクリュー磁気構造に基づくコニカル構造7が誘起されている絶縁体を探し出してこれを整流素子2として活用するようにしてもよい。また当初からコニカル構造7が誘起されていなくても、外部磁場以外の電場や温度条件を制御することでこれを意図的に誘起させるようにしてもよい。
【0037】
整流素子2を構成する絶縁体としては、例えば、Cu
2Fe
1-xGa
xO
2(例えばx=0.035)を7.1K以下まで冷却するようにしてもよい。これにより、プロパースクリュー磁気構造においてヘリカルなコニカル構造7を生成することが可能となる。また、この絶縁体の他の例としては、例えばヘキサフェライトにおける(Ba
2Mg
2Fe
12O
22, Sr
3Co
2Fe
24O
21)、スピネルにおける(ZnCr
2Se
4)、ランガサイトにおける(Ba
3NbFe
3Si
2O
14)、CsCuCl
3、MnI
2, NiI
2、MnO
2等がある。
【0038】
ちなみに、このスピンの方向を時計回りにシフトさせるか、反時計回りにシフトさせるかは、強誘電分極Pの正負に依存する。
【0039】
上述した構成からなる透過率制御デバイス1の動作について説明をする。
【0040】
透過率制御デバイス1は、A側からB側に向けて伝搬される電磁波M
ABと、B側からA側に向けて伝搬される電磁波M
BAをそれぞれ伝搬させる場合において、所期の機能を発現させるものである。通常であれば、電磁波M
AB、電磁波M
BAの何れを伝搬させても透過率は原理的に同一となる。これに対し、本発明を適用した透過率制御デバイス1における整流素子2に対してこのような電磁波M
AB、電磁波M
BAを伝搬させた場合、電磁波M
ABの透過率S
ABと、電磁波M
BAの透過率S
BAとを互いに異ならせることが可能となる。
【0041】
実際にこれら電磁波M
AB、M
BAを整流素子2に対して伝搬させることにより、整流素子2において誘起されているプロパースクリュー磁気構造に基づくコニカル構造7と、各電磁波の振動磁場成分とが相互作用を引き起こすことで、いわゆる動的ME効果(マグネトカイラル効果)を引き起こし、これに基づく電磁波の吸収特性を発揮させる。
【0042】
図4は、この電磁波M
AB、電磁波M
BAを模式的に示した図である。電磁波M
ABの進行方向をk
1とし、その電場E
1、磁場をH
1とする。電磁波M
BAの進行方向をk
2とし、その電場E
2、磁場H
2とする。このように整流素子2に入射する電磁波M
AB、電磁波M
BAは、互いに磁場H
1、H
2の方向が同一方向であったとしても、電場E
1、E
2の方向が互いに異なるものとなる。逆に電場E
1、E
2の方向を同一方向に揃えた場合には、磁場H1、H
2の方向は互いに異なる方向となる。本発明では、このような整流素子2に入射される電磁波M
AB、電磁波M
BAについて電場、磁場の方向の差異により、整流素子2中に誘起されたコニカル構造7と関係において電磁波M
AB、電磁波M
BA間のマグネトカイラル効果の差異を発現させる。
【0043】
具体的には、電磁波M
BAを整流素子2に入射させた場合、微視的には、
図5に示すように整流素子2内部に誘起されているプロパースクリュー磁気構造に基づくコニカル構造7に到達する。コニカル構造7における各スピンが電磁波M
BAの進行方向k
2に対して逆方向に向けて配列しているものとする。このとき、各スピンには、電磁波M
BAにおける磁場H
2が更に負荷されることになるため、当該磁場H
2の振動の方向に応じて、各スピン自体が振動することになる。その結果、このコニカル構造7は、磁場H
2の方向に応じて磁化され、磁化成分ΔMを持つこととなる。その磁化ΔMの方向に応じてコニカル構造7も当然傾くこととなる。その結果、電磁波M
BAによる磁場H
2が負荷される前には、コニカル構造7自体の強誘電分極Pが0であったのに対し、磁場H
2による各スピンの振動、ひいては磁化ΔMの方向に応じたコニカル構造7の傾きに応じて、コニカル構造7のカイラリティ自体が変化し、電気分極ΔP(≠0)が発生する。
【0044】
この電気分極ΔPの方向が
図5に示すように電磁波M
BAの電場E
2の方向と同一である場合、プロパースクリュー磁気構造のスピンとの間で互いに共鳴することとなる。その結果、電磁波M
BAの電場E
2に基づくエネルギーは、これと同一方向の強誘電分極ΔPを生成するカイラリティを持つコニカル構造7に吸収される。このため、電磁波M
BAは、コニカル構造7にそのエネルギー吸収される結果、整流素子2を通過する過程で透過率が減少することとなる。
【0045】
なお、この電気分極ΔPが発生する過程では、電磁場M
BAの持つ磁場H
2の振動のみならず、電磁場M
BAの持つ電場E
2が、直接的に電気分極ΔPを誘発させるたに作用する場合もある。
【0046】
これに対して、上述と全く同一のプロパースクリュー磁気構造に基づくコニカル構造7が配列された整流素子2に対して、電磁波M
ABを整流素子2に入射させた場合、微視的には、
図5に示すように整流素子2内部に誘起されているプロパースクリュー磁気構造に基づくコニカル構造7に到達する。コニカル構造7における各スピンが電磁波M
ABの進行方向k
1に向けて配列しているものとする。このとき、各スピンには、電磁波M
ABにおける磁場H
1が更に負荷されることになる。この磁場H
1の方向は、磁場H
2の方向と同一であるが、当該磁場H
1の振動の方向に応じて、各スピン自体が振動することになる。
【0047】
その結果、このコニカル構造7は、磁場H
1の方向に応じて磁化され、磁化成分ΔMを持つこととなる。その磁化ΔMの方向に応じてコニカル構造7も当然傾くこととなる。その結果、電磁波M
ABによる磁場H
1が負荷される前には、コニカル構造7自体の強誘電分極Pが0であったのに対し、磁場H
1による各スピンの振動、ひいては磁化ΔMの方向に応じたコニカル構造7の傾きに応じて、コニカル構造7のカイラリティ自体が変化し、電気分極ΔP(≠0)が発生する。
【0048】
この電気分極ΔPの方向が
図5に示すように電磁波M
ABの電場E
1の方向と異なるものである場合、プロパースクリュー磁気構造のスピンとの間で互いに共鳴が無くなる。その結果、電磁波M
ABの電場E
1に基づくエネルギーは、これと同一方向の電気分極ΔPを生成するカイラリティを持つコニカル構造7に吸収されることなく、そのまま通過する。このため、電磁波M
ABは、コニカル構造7にそのエネルギー吸収されないため、整流素子2を通過する過程で透過率が減少することはなくなる。
【0049】
このように、全く同一のプロパースクリュー磁気構造に基づくコニカル構造7が配列された整流素子2に対しても、電磁波M
AB、M
BAのように照射する方向が互いに略180°異なる場合には、全く異なる吸収特性を示す。その結果、整流素子2により、電磁波M
AB、M
BA間で透過率を互いに変化させる、いわゆる方向二色性を発現させることが可能となる。
【0050】
仮に、このコニカル構造7について、磁場制御部4により外部磁場Hを
図6に示すように電磁波M
BAの伝搬方向k
2と同一方向となるように印加することで、当該コニカル構造7は、そのコーン形状を構成するスピンが外部磁場Hの方向に向けて反転した状態で配列することになる。
【0051】
このような状態に制御された整流素子2に対して、電磁波M
BAを整流素子2に入射させた場合には、各スピンには、同様に電磁波M
BAにおける磁場H
2の方向に応じて磁化され、磁化成分ΔMを持つこととなり、コニカル構造7も当然傾くこととなる。その結果、強誘電分極ΔP(≠0)が発生する。
【0052】
この強誘電分極ΔPの方向が
図6に示すように電磁波M
BAの電場E
2の方向と異なるものであるため、電磁波M
BAの電場E
2に基づくエネルギーは、これに吸収されることなく、そのまま通過する。その結果、電磁波M
BAは、整流素子2を通過する過程で透過率が特段減少しない。
【0053】
これに対して、電磁波M
ABを整流素子2に入射させた場合においても同様に、各スピンには、同様に電磁波M
ABにおける磁場H
1の方向に応じて磁化され、磁化成分ΔMを持つこととなり、コニカル構造7も当然傾くこととなる。その結果、コニカル構造7のカイラリティ自体が変化し、強誘電分極ΔP(≠0)が発生する。
【0054】
この強誘電分極ΔPの方向が
図6に示すように電磁波M
ABの電場E
1の方向と同一であるため、電磁波M
ABの電場E
1に基づくエネルギーは、これに吸収される。その結果、電磁波M
ABは、整流素子2を通過する過程で透過率が減少する。
【0055】
このようにして、外部磁場Hを印加することにより、コニカル構造7を構成するスピンの向きを制御することができる。このスピンの向きが、各電磁波M
AB、M
BAの整流素子2の透過特性に影響を及ぼすことを利用し、電磁波M
AB、M
BA間の方向二色性を制御することも可能となる。
【0056】
また整流素子2に対して、電場制御部3により電場を印加することにより、整流素子2内のコニカル構造7のカイラリティを制御することもできる。即ち、電極31、32間に負荷される電場の向きを電場制御部3を介して制御する。これにより、コニカル構造7のカイラリティを時計回りとするか、或いは反時計回りとするかを自在に制御することができる。コニカル構造7のカイラリティを制御することで、
図7に示すように電磁波M
AB、M
BAが照射された場合に生成する強誘電分極ΔPや磁化Mを制御することができる。
【0057】
図7の例では、強誘電分極ΔPの向きを時計回りとした場合には、これと同一方向の電場E
2成分を持つ電磁波M
BAと共鳴して、これを吸収することで透過率を低下させることができる。また、強誘電分極ΔPの向きを時計回りとした場合には、これと異なる電場E
1成分を持つ電磁波M
ABと共鳴せず、これを吸収することはないため、透過率は特段低下しない。強誘電分極ΔPの向きを反時計回りとした場合には、これと同一方向の電場E
1成分を持つ電磁波M
ABと共鳴して、これを吸収することで透過率を低下させることができる。また、強誘電分極ΔPの向きを反時計回りとした場合には、これと異なる電場E
2成分を持つ電磁波M
BAと共鳴せず、これを吸収することはないため、透過率は特段低下しない。
【0058】
このようにして、外部から電場Eを印加することにより、コニカル構造7を構成するスピンのカイラリティを制御することができる。このカイラリティが、各電磁波M
AB、M
BAの整流素子2の透過特性に影響を及ぼすことを利用し、電磁波M
AB、M
BA間の方向二色性を制御することも可能となる。
【0059】
なお、本発明では、互いに180°異なる伝搬方向から整流素子2中を伝搬する電磁波M
AB、M
BAを例にとり説明をしたが、これに限定されるものではなく、電磁波M
AB、M
BAの伝搬方向が180°からずれる場合も上述とほぼ同様の効果が期待できる。
【0060】
また、上述した実施の形態では、コニカル構造7のスピン方向(又はその和)が、電磁波M
AB、M
BAの進行方向と平行又は反平行となっている場合を例にとり説明をした。電磁波M
AB、M
BA間の方向二色性は、かかる場合に最も好適に発現させることが可能となるが、コニカル構造7のスピン方向(又はその和)と、電磁波M
AB、M
BAの伝搬方向とが平行でない場合であっても、方向二色性をある程度発現させることは可能となる。但し、コニカル構造7のスピン方向と、電磁波M
AB、M
BAの伝搬方向が直交する場合は殆ど方向二色性は発現しないため、電磁波M
AB、M
BAの伝搬方向は、コニカル構造7のスピン方向にある程度対応していることが望ましい。
【0061】
また、本発明を適用した電磁波の透過率制御デバイス1は、伝搬方向の異なる電磁波M
AB、M
BA間で方向二色性を発現させるためのデバイスに限定されるものではない。例えば、
図8に示すように、A側からB側へ伝搬する電磁波M
ABのみ、整流素子2により透過率を制御する透過率制御デバイス1´に応用するようにしてもよい。この
図8に示すデバイス透過率制御デバイス1´において、上述したデバイス透過率制御デバイス1と同一の構成要素、部材に関しては、同一の符号を付すことにより、以下での説明を省略する。
【0062】
このデバイス透過率制御デバイス1´では、電磁波M
ABを整流素子2に伝搬させる上で、上述と同様に、磁場制御部4により整流素子2に負荷する外部磁場Hを制御し、或いは電場制御部3により整流素子2に負荷する電場Eを制御する。これにより、外部磁場Hが制御されることで、整流素子2内のコニカル構造7のスピン方向を制御することができ、電場Eが制御されることでコニカル構造7のカイラリティが制御される。その結果、電磁波M
ABの整流素子2における透過率を制御することが可能となる。
【0063】
上述した構成からなる本発明では、エレクトロマグノンと比較して作製が容易で、入手しやすいプロパースクリュー磁気構造が誘起された絶縁体を、整流素子2の材料として活用することができる。このため、本発明を高速通信用デバイスや各種センサ等に応用する場合においても、量産に関する社会的要請に応えることができる。
【0064】
また、本発明では、特に数百GHz〜数THzにも及ぶ超高帯域の電磁波についても、その透過率を制御することが可能となる。
【実施例1】
【0065】
以下、本発明を適用した電磁波の透過率制御デバイス1の実施例について説明をする。上述した透過率制御デバイス1の効果を確認するため、以下の検証実験を行った。
【0066】
この検証実験では、
図2に示すように整流素子2を配置して電磁波M
AB、M
BAの何れか、又は両方を伝搬させ、それぞれの透過率を測定した。その透過率を測定する過程で、磁場制御部4により整流素子2に印加する外部磁場Hを制御し、電場制御部3により整流素子2に印加する電場Eを制御した。ちなみに、実験で使用した整流素子2を構成する絶縁体は、Cu
2Fe
1-xGa
xO
2(x=0.035)を7.1K以下まで冷却してプロパースクリュー磁気構造を誘起させたものを使用している。
【0067】
図9は、電磁波M
ABを整流素子2に照射した場合における吸収係数の測定結果を示している。横軸は周波数(GHz)としており、縦軸は整流素子2における吸収係数としている。
図9(a)に示すように、外部磁場Hとして正磁場、負磁場を負荷した場合において、吸収係数は互いに大きな差異として現れている。また
図9(b)に示すように、電場Eを制御することで、コニカル構造7のカイラリティを時計回り、反時計回りにそれぞれ制御した場合においても、吸収係数は互いに大きな差異として現れている。
【0068】
図10は、電磁波M
ABを整流素子2に照射した場合における吸収係数の測定結果を示している。横軸はエネルギー(meV)であり、縦軸は、何れも整流素子2における吸収係数としている。整流素子2は、Cu
2Fe
1-xGa
xO
2(x=0.035)を4.6Kまで冷却してプロパースクリュー磁気構造を誘起させ、いずれも時計回りのカイラリティを持たせている。この
図10の実施例では、磁場の強さを3T、5T、7Tの場合について、吸収係数の測定をそれぞれ行っている。その結果、磁場の強さを高くするにつれて、正磁場と負磁場との間における吸収係数の差異が大きくなることが示されていた。
【0069】
図11は、各偏光成分について、電磁波M
ABを整流素子2に照射した場合における吸収係数の測定結果を示している。横軸はエネルギー(meV)であり、縦軸は、何れも整流素子2における吸収係数としている。整流素子2は、Cu
2Fe
1-xGa
xO
2(x=0.035)を4.6Kまで冷却してプロパースクリュー磁気構造を誘起させ、いずれも時計回りのカイラリティを持たせている。この
図11(a)の例と
図11(b)の例との間で、直線偏光の方向を90°ずらしている。
【0070】
これらの結果から、何れの偏光方向においても、正磁場と負磁場との間における吸収係数の差異が明確に現れている。このため、本発明では、偏光方向に依存することなく、整流素子2における透過率を変化させることが可能となることが示されている。