【実施例1】
【0027】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0028】
[試験例1:TRPV1アンタゴニストによるTRPV1活性の抑制率測定方法]
(1)ヒトTRPV1安定発現株の作製
ヒトTRPV1遺伝子は、ヒト新生児表皮角化細胞(東洋紡社)から全配列を増幅し、エントリーベクターとしてpENTR/D−TOPO(インビトロジェン社)に導入した。配列がヒトTRPV1遺伝子と一致していることを確認した後、エントリーベクターよりTRPV1遺伝子を発現用ベクターpcDNA3.2−V5/DEST(インビトロジェン社)へサブクローニングし、リポフェクトアミン2000(インビトロジェン社)によりHEK293細胞へ形質導入した。形質導入された細胞をG−418(450μg/ml;プロメガ社)を含有するDMEM培地中で増殖させることにより選抜した。なおHEK293細胞は内在性TRPV1を発現しないため、TRPV1形質導入株に対する対照(コントロール)として使用できる。
【0029】
(2)カルシウムイメージング
蛍光カルシウムイメージング法を用いてHEK293細胞へ形質導入したTRPV1活性の測定を行った。まず培養したTRPV1発現細胞をポリ−D−リジンコートされた96ウェルプレート(BDファルコン社)に播種(30000細胞/ウェル)し、37℃で一晩、インキュベートした後、培養液を除去し、リンガー液に溶解させたFluo4−AM(2μg/ml;同仁化学社)を添加し、37℃で60分間インキュベートした。その後、Fluo4−AM液を除去し、ウェルにリンガー液を添加して蛍光プレートリーダー(FDSS3000;浜松ホトニクス社)にセットした。装置庫内温度24℃にした状態で励起波長480nmで励起させたときの蛍光イメージを検出波長520nmにてCCDカメラで検出した。測定は1秒毎に4分間行い、測定開始15秒後にFDSS3000内蔵の分注器により、最終濃度30nMのTRPV1刺激物質であるカプサイシン、及び最終濃度0.001質量%のTRPV1アンタゴニストを添加し、その後の蛍光強度の変化によりTRPV1活性を評価した。TRPV1活性は刺激物質添加後の蛍光強度のピーク(Fpeak)を刺激物質添加前の蛍光強度(F0)で除算した蛍光強度比(Ratio;Fpeak/F0)で表した。対照としてTRPV1を形質導入していないHEK293細胞に同様の物質を添加し、その際の蛍光強度比(Ratio293)を算出し、刺激物質による活性がTRPV1活性化に由来することを確認した。
(3)カプサイシンのTRPV1活性に対する抑制評価
カプサイシンによるTRPV1活性化に対する、本発明で用い得るTRPV1アンタゴニストの抑制効果を検証するため、カプサイシン(30nM)およびエタノール(0.001%;溶媒コントロール)を添加した際における、TRPV1アンタゴニストのTRPV1活性の抑制作用(抑制率;%)を評価した。具体的には、下記の式に従い、カプサイシン(刺激物質)(30nM)とTRPV1アンタゴニスト(0.001質量%)を添加し混合することによるTRPV1活性の抑制率(%)を算出した。
TRPV1活性抑制率(%)=(1−((カプサイシン+TRPV1アンタゴニスト添加によるRatio)−(カプサイシン+TRPV1アンタゴニスト添加によるRatio293))/((カプサイシン+エタノール添加によるRatio)−(カプサイシン+エタノール添加によるRatio293)))×100
なお、カプサイシン以外の刺激物質によるTRPV1活性化に対するTRPV1アンタゴニストの抑制効果についても、上記式に従って同様に求めることができる。
結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示すように、カプサイシンによるTRPV1活性の抑制率50%以上のTRPV1アンタゴニストとして、以下のものが見出された。
4−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール(CYCLEMAX;アイ・エフ・エフ日本(株))、アントラニル酸cis−3−ヘキセニル(cis−3−HEXENYL ANTHRANIRATE;信越化学工業(株))、及びサリチル酸イソブチル(iso−BUTYL SALICYLATE;豊玉香料(株))。
なお、今回の測定方法により、trans−4−tert−ブチルヘキサノールを含有するSymSitive 1609(シムライズ(株))、P−T−BUTYL CYCLOHEXANOL(高砂香料工業(株))についても、同等のTRPV1活性の抑制率を示すことが確認された。
【0032】
[試験例2]
表2に示すように、SymSitive 1609(シムライズ(株)製、trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール含有量33質量%)を3質量%(trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール含有量1質量%相当)、残部をエタノールとする体感温度低減用外用剤(実施例1)を調整した。温度22℃、湿度50%RHの部屋で30分順化してから、温度30℃、湿度60%RHの部屋に入室し、入室20分後に一旦上半身のみ脱衣してから、得られた外用剤を5g上半身(頚部、胸部、腹部、背部、腋窩、上腕)に塗布し、再び着衣して、以降は座位で安静にしていた。下記基準にしたがって、入室直後の体感温度から入室後に所定の時間が経過したときの体感温度までの低下の程度を評価した。なお、着衣状態での全衣服の保湿性能はおよそ0.55cloであった。
なお、上半身に何も塗付しない場合を対照(比較例1)とし、上記と同様の試験を行った。
得られた結果を
図1に示す。
【0033】
《温度低下の評価基準》
暑くない:温度26℃、湿度60%RHの部屋で70分順化したときの感覚(体感温度が4℃程度低下したときに感じられる感覚)と同じであり、暑さを感じなかった。
あまり暑くない:温度27℃、湿度60%RHの部屋で70分順化したときの感覚(体感温度が3℃程度低下したときに感じられる感覚)と同じであり、あまり暑さを感じなかった。
和らぐ:温度28℃、湿度60%RHの部屋で70分順化したときの感覚(体感温度が2℃程度低下したときに感じられる感覚)と同じであり、暑さが和らいだ。
和らいだ気がする:温度29℃、湿度60%RHの部屋で70分順化したときの感覚(体感温度が1℃程度低下したときに感じられる感覚)と同じであり、暑さが多少和らいだ感じがした。
暑い:温度30℃、湿度60%RHの部屋で70分順化したときの感覚と同じであり、体感温度の低下は実感できなかった。
【0034】
[試験例3]
表2に示すように、SymSitive DPG(シムライズ(株)製、trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール含有量20質量%)を1質量%(trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール含有量0.2質量%相当)、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール1重量%、ミリスチルアルコール0.1質量%、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル1.5質量%、グリセリン6質量%、メチルパラベン0.2質量%、残部を水とする体感温度低減用外用剤(実施例2)を調整した。入室10分後に塗布し、得られた外用剤塗布後も上半身が脱衣状態のままである以外は、試験例1と同様にして、体感温度低下の程度を評価した。なお、評価時の全衣服の保湿性能はおよそ0.27cloであった。
得られた結果を
図2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
[試験例4−1]
表3に示すように、SymSitive 1609或いはP-T-BUTYL CYCLOHEXANOL(高砂香料工業(株)製、trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール含有量70質量%)を1質量%、残部を水として懸濁させ、体感温度低減用外用剤(実施例3、4)を得た。また、SymSitive 1609或いはP-T-BUTYL CYCLOHEXANOLを1質量%、ポリオキシエチレンステアリルエーテル2質量%、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット2質量%、残部を水として乳化させ、体感温度低減用外用剤(実施例5、6)を得た。
得られた外用剤を各々5cm×5cmに成形したスパンレース不織布(ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレン複合繊維:レーヨン繊維=50:50質量%;目付100g/m2)に十分量含浸させ、前腕内側に貼着してからさらに上からポリ塩化ビニリデンフィルムで覆い、30分間放置した。フィルムおよび含浸不織布を取り除いて適用部位をティッシュで軽く拭き取ってから、38℃加温体(経皮血液ガスモニタPO−850A(新生電子(株))のセンサー部分)を適用部に接触させ、以下の基準に従って温感の低下を評価した。
なお、対照として、水のみの液(比較例2)、或いはポリオキシエチレンステアリルエーテル2質量%、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット2質量%、残部を水として乳化させた液(比較例3)を用いて同様の実験を行った。
結果を表3に示す。
【0037】
《温度低下の評価基準》
1 温かい:非適用部に38℃設定した加温体を接触させたときと同等の温感(体感温度低下なし)
2 わずかに温感低下:非適用部に37.5℃設定した加温体を接触させたときと同等の温感(体感温度0.5℃低下に相当)
3 少し温感低下:非適用部に37℃設定した加温体を接触させたときと同等の温感(体感温度1℃低下に相当)
4 かなり温感低下〜温感を感じない:「少し温感低下」より低い温感(体感温度1℃以上低下に相当)
【0038】
【表3】
【0039】
上記試験例4−1の結果によれば、実施例3,4,5,6では、いずれも「かなり温感低下〜温感を感じない」の評価が得られ、貼付前の体感温度と30分間貼付した後の体感温度との差が1℃以上であったことが確認された。
一方で、TRPV1アンタゴニストを含まない比較例2,3では、いずれも「温かい」の評価が得られ、温感低下は認められなかった。
【0040】
[試験例4−2]
試験例4−1と同様にして、表4に示すように、CYCLEMAX(アイ・エフ・エフ日本(株)製;4−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール)、cis−3−HEXENYL ANTHRANIRATE(信越化学工業(株)製;アントラニル酸cis−3−ヘキセニル)、iso−BUTYL SALICYLATE(豊玉香料(株)製;サリチル酸イソブチル)を用いて、体感温度低減用外用剤(実施例7、8、9、10)を作成し、試験例4−1と同様の実験を行った。
結果を表4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
上記試験例4−2の結果によれば、実施例7、8、9、10では、いずれも、貼付前の体感温度と30分間貼付した後の体感温度との差が0.5℃〜1℃以上であったことが確認された。
【0043】
[試験例5−1]
まず、ペルチェ素子を装備した温度制御可能なクールプレート(アズワン(株)SCP−85)のプレート部に、あらかじめ2.5cm×3.5cm×0.3cm厚アルミ板をアルミテープで貼り付けて、クールプレート改造品を作製した。次いで、表5に示すように、SymSitive DPGを1質量%、残部を水として懸濁させた体感温度低減用外用剤(実施例11)を得、これを用いて実施例4と同様にして5cm×5cmに成形した積層不織布に含浸させ、前腕内側に貼着しフィルムで覆い30分放置した。次いで、フィルムおよび含浸不織布を取り除いて適用部位をティッシュで軽く拭き取ってから、クールプレート改造品のアルミ板部分を該適用皮膚に接触させ、最初に25℃で1分間保持した後、直ちに33℃まで昇温し、下記基準にしたがって、昇温直後からの体感温度の変化を評価した。
また、水のみを含浸させた不織布を用いた場合(比較例4)、及び、上記フィルム積層不織布を貼付しなかった場合(比較例5)についても、上記と同様の評価を行った。得られた結果を
図3に示す。
【0044】
《温度低下の評価基準》
あたたかい:25℃1分間保持後33℃まで昇温したときに感じる最大温感(体感温度低下なし)
少し:25℃1分間保持後31.5℃まで昇温したときに感じる最大温感(体感温度1.5℃低下に相当)
わずか:25℃1分間保持後29.5℃まで昇温したときに感じる最大温感(体感温度3.5℃低下に相当)
ごくわずか:25℃1分間保持後28℃まで昇温したときに感じる最大温感(体感温度5℃低下に相当)
±:あたたかくも冷たくも感じない
【0045】
[試験例5−2]
表5に示すように、SymSitive DPGを1質量%、残部を水として懸濁させた体感温度低減用外用剤(実施例12)を得、これを用い、最初に前腕を25℃で5分間保持した以外、試験例5−1と同様にして昇温直後からの体感温度の低下の程度を評価した。
また、水のみを含浸させた不織布を用いた場合(比較例6)、及び上記フィルム積層不織布を貼付しなかった場合(比較例7)についても、上記と同様の評価を行った。得られた結果を
図4に示す。
【0046】
【表5】
【0047】
上記試験例1〜試験例5−2の結果より、TRPV1アンタゴニストを有効成分として含有する体感温度低減用外用剤を用いると、体感温度を0.5〜5℃下げることができ、暑熱感が効果的に低減されることがわかる。