特許第6249517号(P6249517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249517
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】体感温度低減用外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/045 20060101AFI20171211BHJP
   A61K 31/11 20060101ALI20171211BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20171211BHJP
   A61K 31/618 20060101ALI20171211BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   A61K31/045
   A61K31/11
   A61K31/196
   A61K31/618
   A61P43/00 105
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-232206(P2013-232206)
(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公開番号】特開2014-111592(P2014-111592A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2016年9月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-245973(P2012-245973)
(32)【優先日】2012年11月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】森 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】木下 和樹
【審査官】 馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−523381(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/029995(WO,A1)
【文献】 特表2010−525048(JP,A)
【文献】 特表2006−517574(JP,A)
【文献】 The Scientific World Journal[オンライン],2012年 4月 1日,Volume 2012,<DOI:10.1100/2012/982725>
【文献】 Cellular and Molecular Life Sciences,2011年 8月,Volume 68, Issue 15,p.2589-2601
【文献】 The Journal of Pharmacology And Experimental Therapeutics,2012年 8月,Vol.342, No.2,p.416-428
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/045
A61K 31/11
A61K 31/196
A61K 31/618
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY
/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール、4−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール、アントラニル酸cis−3−ヘキセニル、及びサリチル酸イソブチルから選ばれる1種又は2種以上であるTRPV1アンタゴニストを有効成分として含有する体感温度低減用外用剤。
【請求項2】
TRPV1アンタゴニストが、0.001質量%の含有量でカプサイシン30nMのTRPV1活性を50%以上抑制する請求項1に記載の体感温度低減用外用剤。
【請求項3】
TRPV1アンタゴニストの含有量が、0.05質量%以上10質量%以下である請求項1又は2に記載の体感温度低減用外用剤。
【請求項4】
皮膚表面が衣服で覆われている部位に適用する請求項1〜の何れか1項に記載の体感温度低減用外用剤。
【請求項5】
体感温度低減用外用剤の皮膚への適用量が、0.1〜4.8mg/cm2皮膚表面である請求項1〜の何れか1項に記載の体感温度低減用外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体感温度低減用外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体には、周囲の温度を「冷たい」、「寒い」、「涼しい」、「暖かい」、「暑い」、「熱い」等の皮膚感覚で感じとることのできる温度感覚が備わっており、これによって周囲の温度に意識的・無意識的に対応して適切に体温を調整することができる。著しい高温や低温は生命の危険を伴うおそれもあるため、温度感覚が正常に機能することは、非常に重要なことである。
【0003】
こうした温度感覚は、感覚神経細胞の細胞膜等に存在する温度受容体が、外界から与えられた刺激を電気信号に変え、これが神経細胞を介して脳へと伝達されることによって起こる。従来より、具体的な温度受容体としていくつかのものが存在することが知られており、各々固有の活性化温度閾値を有している。
【0004】
例えば、TRPV1(TRANSIENT RECEPTOR POTENTIAL CATION CHANNEL SUBFAMILY V1)なる温度受容体は、43℃の活性化温度閾値を有しており、この温度以上の熱刺激が与えられると活性化されるが、かかる温度閾値は痛みを引き起こす温度閾値とほぼ一致しているため、感覚神経を通じて熱さが知覚されるだけでなく、痛みも惹起する場合がある。そのほか、他の温度受容体の活性化温度閾値としては、TRPV2であれば53℃、TRPV3であれば32〜39℃、TRPV4であれば27〜35℃、TRPM8であれば25〜28℃であることが知られている。
【0005】
こうしたなか、温度受容体によって引き起こされる知覚を緩和又は低減するには、対応する温度受容体のアンタゴニスト(不活性化物質)を作用させればよい。例えば、特許文献1には、TRPV1アンタゴニストとしてtrans−4−tert−ブチルシクロヘキサノールを用いた皮膚刺激低減剤が開示されている。これによって、43℃以上の温度域で活性化されるTRPV1が関与するヒリヒリ感やつっぱり感等の皮膚感覚を低減できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/087242号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
温度受容体アンタゴニストは、対応する温度受容体の活性化温度域で作用するため、環境温度27〜39℃に晒されたとき、例えば夏場の高温多湿下での活動時や日中の室内や車内、或いは寝苦しい夜等に、知覚される暑熱感を低減するには、TRPV3アンタゴニスト(活性化温度域32〜39℃)或いはTRPV4アンタゴニスト(活性化温度域27〜35℃)が有効と考えられる。しかしながら、現状では、暑熱感を低減する効果に関し、TRPV3アンタゴニストおよびTRPV4アンタゴニストの十分な有効性は確認されていない。
【0008】
したがって、本発明は、環境温度27〜39℃のときに体感される暑熱感を効果的に低減することができる外用剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、種々検討したところ、43℃以上の温度域で活性化されるTRPV1が関与する刺激を低減させることが知られているTRPV1アンタゴニストを、27〜39℃の温度域で用いると、予想外にも27〜39℃の温度域で効果的に体感温度を低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、TRPV1アンタゴニストを有効成分とする体感温度低減用外用剤に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の体感温度低減用外用剤によれば、環境温度27〜39℃のときに体感する温度(体感温度)を0.5〜5℃下げることができ、かかる体感温度域で感じる「暑い」という暑熱感を効果的に低減し、夏場等における高温多湿のような過酷な環境下にさらされても、快適に過ごすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】試験例1の結果を示すグラフである。縦軸は入室直後の体感温度と入室後に所定の時間が経過したときの体感温度との差を評価した結果を示し、横軸は入室後の経過時間を示す。
図2】試験例2の結果を示すグラフである。縦軸は入室直後の体感温度と入室後に所定の時間が経過したときの体感温度との差を評価した結果を示し、横軸は入室後の経過時間を示す。
図3】試験例4−1の結果を示すグラフである。縦軸は33℃に昇温する直前の体感温度と33℃に昇温した後に所定の時間が経過したときの体感温度との差を評価した結果を示し、横軸は33℃に昇温した直後からの経過時間を示す。
図4】試験例4−2の結果を示すグラフである。縦軸は33℃に昇温する直前の体感温度と33℃に昇温した後に所定の時間が経過したときの体感温度との差を評価した結果を示し、横軸は33℃に昇温した直後からの経過時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明において、体感温度とは、環境温度27〜39℃のときに体感する温度を意味する。かかる体感温度域では、通常「暑い」と感じるいわゆる暑熱感を伴う。
また、体感温度低減用外用剤とは、体感温度を0.5〜5℃下げる剤であり、本発明の体感温度低減用外用剤は、暑熱感を低減して体感温度が下がることを実感することができる剤である。
【0014】
本発明の体感温度低減用外用剤は、TRPV1アンタゴニストを有効成分として含有する。TRPV1アンタゴニストは、本来TRPV1に対する不活性化物質として作用するものであり、43℃の温度閾値を有するTRPV1によって43℃以上の温度域で引き起こされる「熱い」、「痛い」といった皮膚感覚を低減するものである。しかしながら、本発明の体感温度低減用外用剤は、これを有効成分として含有することにより、環境温度27〜39℃の領域において作用させ、かかる温度域で感じられる暑熱感を効果的に低減することができる。
【0015】
TRPV1アンタゴニストは、このようにTRPV1活性を抑制する成分であり、具体的には、0.001質量%の含有量でカプサイシン30nMのTRPV1活性を好ましくは50%以上抑制し、より好ましくは65%以上抑制することができる成分であることが望ましい。かかるTRPV1活性の抑制率(%)は、具体的には、実施例に記載の方法により求めることができる。
【0016】
TRPV1アンタゴニストとしては、例えば、trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール、4−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール、アントラニル酸cis−3−ヘキセニル、サリチル酸イソブチル、N−[2−(4−クロロフェニル)エチル]−1,3,4,5−テトラヒドロ−7,8−ジヒドロキシ−2H−2−ベンザゼピン−2−カルボチオアミド、N−(4−tert−ブチルベンジル)−N’−[3−フルオロ−4−(メチルスルホニルアミノ)ベンジル]チオウレア、4−(3−クロロ−2−ピリジニル)−N−[4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル]−1−ピペラジンカルボキサミド、1−イソキノリン−5−イル−3−(4−トリフルオロメチル−ベンジル)−ウレア、N−(2−ブロモフェニル)−N’−[2−[エチル(3−メチルフェニル)アミノ]エチル]−ウレア、N−(3−メトキシフェニル)−4−クロロシナミド、(E)−3−(4−t−ブチルフェニル)−N−(2,3−ジヒドロベンゾ[b][1,4]ジオキシン−6−イル)アクリルアミド、(E)−N−(7−ヒドロキシ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−イル)−3−(2−(ピペリジン−1−イル)6−(トリフルオロメチル)ピリジン−3−イル)アクリルアミド、6−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−N−(2−メチルベンゾチアゾール−5−イル)ニコチンアミド、N−(4−[6−(4−トリフルオロメチル−フェニル)−ピリミジン−4−イルオキシ]−ベンゾチアゾール−2−イル)−アセトアミド、1−[3−(トリフルオロメチル)ピリジン−2−イル]−N−[4−(トリフルオロメチルスルホニル)フェニル]−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン−4−カルボキサミド、N−1H−インダゾール−4−イル−N’−[(1R)−5−ピペリジン−1−イル−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−1−イル]ウレア、N−(8−tert−ブチル−3,4−ジヒドロ−2H−1−ベンゾピラン−4−イル)−N’−(1H−インダゾール−4−イル)ウレア、N−(4−[6−(4−トリフルオロメチル−フェニル)−ピリミジン−4−イルオキシ]−ベンゾチアゾール−2−イル)アセトアミド、(R)−(5−tert−ブチル−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−1−イル)−3−(1H−インダゾール−4−イル)−ウレア、N−(2−ブロモフェニル)−N’−[((R)−1−(5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)ピロリジン−3−イル)]ウレア、(E)−N−[(R)−1−(3,5−ジフルオロ−4−メタンスルホニルアミノ−フェニル)−エチル]−3−(2−プロピル−6−トリフルオロメチル−ピリジン−3−イル)−アクリルアミドなどが挙げられる。
【0017】
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、体感温度低減効果および剤の製造コストの観点から、trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール、4−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール、アントラニル酸cis−3−ヘキセニル、及びサリチル酸イソブチルから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノールがより好ましい。例えば、trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノールを含有する市販品としては、SymSitive 1609、SymSitive DPG(いずれもシムライズ(株)製)を好適に用いることができる。また、例えばP-T-BUTYL CYCLOHEXANOL(高砂香料工業(株)製)といった4−tert−ブチルシクロヘキサノールのcis体及びtrans体混合物も使用可能である。4−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナールを含有する市販品としては、CYCLEMAX(アイ・エフ・エフ日本(株)製)を好適に用いることができ、アントラニル酸cis−3−ヘキセニルを含有する市販品としては、cis−3−HEXENYL ANTHRANIRATE(信越化学工業(株)製)を好適に用いることができ、またサリチル酸イソブチルを含有する市販品としては、iso−BUTYL SALICYLATE(豊玉香料(株)製)を好適に用いることができる。
【0018】
TRPV1アンタゴニストの含有量は、体感温度低減効果の観点から、本発明の体感温度低減用外用剤中に、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.15質量%以上である。TRPV1アンタゴニストの含有量は、体感温度低減用外用剤中での溶解性を高め、臭いを抑制する等の観点から、通常本発明の体感温度低減用外用剤中に、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以下である。また、TRPV1アンタゴニストの含有量は、本発明の体感温度低減用外用剤中に、好ましくは0.05〜10質量%であり、より好ましくは0.1〜5質量%であり、さらに好ましくは0.15〜2.5質量%である。
【0019】
本発明の体感温度低減用外用剤は、皮膚に直接塗布してもよく、不織布等に含浸させて塗付又は貼付してもよく、またフィルム状に形成して皮膚に貼付してもよい。本発明の体感温度低減用外用剤の形態としては、皮膚への塗布性の観点から、軟膏、クリーム剤、ゲル(ジェル)剤(以下単にゲル剤という)、ローション剤、フォーム剤、スプレー剤、スティック剤(例えばオイルゲルスティック)、オイル剤(例えばエッセンシャルオイル)、シート剤等が挙げられる。これらの体感温度低減用外用剤を製造するには、各種の形態に対応した基剤中にTRPV1アンタゴニストを含有せしめ、常法により製造すればよい。
【0020】
本発明の体感温度低減用外用剤の具体的な基剤としては、エタノール等の低級アルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルコール;ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール等の脂肪酸エステル;アルキルグリセリルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、脂肪酸塩、N−アシルアミノ酸塩等の界面活性剤;グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、ポリグリセリン等の多価アルコール;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン等の中和剤、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム等のpH調節剤、メチルパラベン、プロピルパラベン等の防腐剤;および水等が挙げられる。
【0021】
本発明の体感温度低減用外用剤を適用する部位としては、体感温度の低下をより感知しやすい部位や比較的皮膚温の高い部位であるのが好ましく、例えば、体感温度の低下を感知しやすい部位としては、頭部、頚部、胸部、腹部、臀部、大腿部、前腕部、腋窩、膝窩、手足(四肢)が挙げられる。また、背部や上腕は、通常衣服で覆われているので、例えば四肢に比べて皮膚温が高いことから、適用部位として好ましい。なかでも、衣服の保湿性能が0.1〜1clo、好ましくは0.2〜0.7cloである場合、四肢に比べて皮膚温が高くなるため、適用部位として好ましい。
【0022】
本発明の体感温度低減用外用剤の皮膚への適用量は、TRPV1アンタゴニストの含有量によっても変動し得るが、通常0.1〜4.8mg/cm2皮膚表面が好ましく、さらに0.2〜2.4mg/cm2皮膚表面であるのが好ましい。
【0023】
以上のとおり、本発明の体感温度低減用外用剤を暑熱を感じる環境下や、衣服で覆われている部位に使用すると、暑熱感が低減され、体感温度が下がることにより、暑くない、不快な暑さが和らぐ、蒸し暑さが抑えられるなどを実感することができる。
【0024】
上述した実施態様に関し、本発明はさらに以下の体感温度低減用外用剤を開示する。
[1]TRPV1アンタゴニストを有効成分として含有する体感温度低減用外用剤。
【0025】
[2]TRPV1アンタゴニストが、0.001質量%の含有量でカプサイシン30nMのTRPV1活性を50%以上、好ましくは65%以上抑制する上記[1]の体感温度低減用外用剤。
[3]TRPV1アンタゴニストが、trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール、4−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール、アントラニル酸cis−3−ヘキセニル、サリチル酸イソブチル、N−[2−(4−クロロフェニル)エチル]−1,3,4,5−テトラヒドロ−7,8−ジヒドロキシ−2H−2−ベンザゼピン−2−カルボチオアミド、N−(4−tert−ブチルベンジル)−N’−[3−フルオロ−4−(メチルスルホニルアミノ)ベンジル]チオウレア、4−(3−クロロ−2−ピリジニル)−N−[4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル]−1−ピペラジンカルボキサミド、1−イソキノリン−5−イル−3−(4−トリフルオロメチル−ベンジル)−ウレア、N−(2−ブロモフェニル)−N’−[2−[エチル(3−メチルフェニル)アミノ]エチル]−ウレア、N−(3−メトキシフェニル)−4−クロロシナミド、(E)−3−(4−t−ブチルフェニル)−N−(2,3−ジヒドロベンゾ[b][1,4]ジオキシン−6−イル)アクリルアミド、(E)−N−(7−ヒドロキシ−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−1−イル)−3−(2−(ピペリジン−1−イル)6−(トリフルオロメチル)ピリジン−3−イル)アクリルアミド、6−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−N−(2−メチルベンゾチアゾール−5−イル)ニコチンアミド、N−(4−[6−(4−トリフルオロメチル−フェニル)−ピリミジン−4−イルオキシ]−ベンゾチアゾール−2−イル)−アセトアミド、1−[3−(トリフルオロメチル)ピリジン−2−イル]−N−[4−(トリフルオロメチルスルホニル)フェニル]−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン−4−カルボキサミド、N−1H−インダゾール−4−イル−N’−[(1R)−5−ピペリジン−1−イル−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−1−イル]ウレア、N−(8−tert−ブチル−3,4−ジヒドロ−2H−1−ベンゾピラン−4−イル)−N’−(1H−インダゾール−4−イル)ウレア、N−(4−[6−(4−トリフルオロメチル−フェニル)−ピリミジン−4−イルオキシ]−ベンゾチアゾール−2−イル)アセトアミド、(R)−(5−tert−ブチル−2,3−ジヒドロ−1H−インデン−1−イル)−3−(1H−インダゾール−4−イル)−ウレア、N−(2−ブロモフェニル)−N’−[((R)−1−(5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)ピロリジン−3−イル)]ウレア、及び(E)−N−[(R)−1−(3,5−ジフルオロ−4−メタンスルホニルアミノ−フェニル)−エチル]−3−(2−プロピル−6−トリフルオロメチル−ピリジン−3−イル)−アクリルアミドから選ばれる1種又は2種以上である上記[1]又は[2]の体感温度低減用外用剤。
【0026】
[4]TRPV1アンタゴニストが、trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール、4−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール、アントラニル酸cis−3−ヘキセニル、及びサリチル酸イソブチルから選ばれる1種又は2種以上である上記[1]〜[3]いずれか1の体感温度低減用外用剤。
[5]TRPV1アンタゴニストの含有量が、0.05質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.15質量%以上であり、10質量%以下であり、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは2.5質量%以下である上記[1]〜[4]いずれか1の体感温度低減用外用剤。
[6]皮膚表面が衣服で覆われている部位に適用する上記[1]〜[5]いずれか1の体感温度低減用外用剤。
[7]衣服の保湿性能が0.1〜1cloであり、好ましくは0.2〜0.7cloである上記[6]の体感温度低減用外用剤。
[8]体感温度低減用外用剤の皮膚への適用量が、0.1〜4.8mg/cm2皮膚表面であり、好ましくは0.2〜2.4mg/cm2皮膚表面である上記[1]〜[7]いずれか1の体感温度低減用外用剤。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0028】
[試験例1:TRPV1アンタゴニストによるTRPV1活性の抑制率測定方法]
(1)ヒトTRPV1安定発現株の作製
ヒトTRPV1遺伝子は、ヒト新生児表皮角化細胞(東洋紡社)から全配列を増幅し、エントリーベクターとしてpENTR/D−TOPO(インビトロジェン社)に導入した。配列がヒトTRPV1遺伝子と一致していることを確認した後、エントリーベクターよりTRPV1遺伝子を発現用ベクターpcDNA3.2−V5/DEST(インビトロジェン社)へサブクローニングし、リポフェクトアミン2000(インビトロジェン社)によりHEK293細胞へ形質導入した。形質導入された細胞をG−418(450μg/ml;プロメガ社)を含有するDMEM培地中で増殖させることにより選抜した。なおHEK293細胞は内在性TRPV1を発現しないため、TRPV1形質導入株に対する対照(コントロール)として使用できる。
【0029】
(2)カルシウムイメージング
蛍光カルシウムイメージング法を用いてHEK293細胞へ形質導入したTRPV1活性の測定を行った。まず培養したTRPV1発現細胞をポリ−D−リジンコートされた96ウェルプレート(BDファルコン社)に播種(30000細胞/ウェル)し、37℃で一晩、インキュベートした後、培養液を除去し、リンガー液に溶解させたFluo4−AM(2μg/ml;同仁化学社)を添加し、37℃で60分間インキュベートした。その後、Fluo4−AM液を除去し、ウェルにリンガー液を添加して蛍光プレートリーダー(FDSS3000;浜松ホトニクス社)にセットした。装置庫内温度24℃にした状態で励起波長480nmで励起させたときの蛍光イメージを検出波長520nmにてCCDカメラで検出した。測定は1秒毎に4分間行い、測定開始15秒後にFDSS3000内蔵の分注器により、最終濃度30nMのTRPV1刺激物質であるカプサイシン、及び最終濃度0.001質量%のTRPV1アンタゴニストを添加し、その後の蛍光強度の変化によりTRPV1活性を評価した。TRPV1活性は刺激物質添加後の蛍光強度のピーク(Fpeak)を刺激物質添加前の蛍光強度(F0)で除算した蛍光強度比(Ratio;Fpeak/F0)で表した。対照としてTRPV1を形質導入していないHEK293細胞に同様の物質を添加し、その際の蛍光強度比(Ratio293)を算出し、刺激物質による活性がTRPV1活性化に由来することを確認した。
(3)カプサイシンのTRPV1活性に対する抑制評価
カプサイシンによるTRPV1活性化に対する、本発明で用い得るTRPV1アンタゴニストの抑制効果を検証するため、カプサイシン(30nM)およびエタノール(0.001%;溶媒コントロール)を添加した際における、TRPV1アンタゴニストのTRPV1活性の抑制作用(抑制率;%)を評価した。具体的には、下記の式に従い、カプサイシン(刺激物質)(30nM)とTRPV1アンタゴニスト(0.001質量%)を添加し混合することによるTRPV1活性の抑制率(%)を算出した。
TRPV1活性抑制率(%)=(1−((カプサイシン+TRPV1アンタゴニスト添加によるRatio)−(カプサイシン+TRPV1アンタゴニスト添加によるRatio293))/((カプサイシン+エタノール添加によるRatio)−(カプサイシン+エタノール添加によるRatio293)))×100
なお、カプサイシン以外の刺激物質によるTRPV1活性化に対するTRPV1アンタゴニストの抑制効果についても、上記式に従って同様に求めることができる。
結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示すように、カプサイシンによるTRPV1活性の抑制率50%以上のTRPV1アンタゴニストとして、以下のものが見出された。
4−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール(CYCLEMAX;アイ・エフ・エフ日本(株))、アントラニル酸cis−3−ヘキセニル(cis−3−HEXENYL ANTHRANIRATE;信越化学工業(株))、及びサリチル酸イソブチル(iso−BUTYL SALICYLATE;豊玉香料(株))。
なお、今回の測定方法により、trans−4−tert−ブチルヘキサノールを含有するSymSitive 1609(シムライズ(株))、P−T−BUTYL CYCLOHEXANOL(高砂香料工業(株))についても、同等のTRPV1活性の抑制率を示すことが確認された。
【0032】
[試験例2]
表2に示すように、SymSitive 1609(シムライズ(株)製、trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール含有量33質量%)を3質量%(trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール含有量1質量%相当)、残部をエタノールとする体感温度低減用外用剤(実施例1)を調整した。温度22℃、湿度50%RHの部屋で30分順化してから、温度30℃、湿度60%RHの部屋に入室し、入室20分後に一旦上半身のみ脱衣してから、得られた外用剤を5g上半身(頚部、胸部、腹部、背部、腋窩、上腕)に塗布し、再び着衣して、以降は座位で安静にしていた。下記基準にしたがって、入室直後の体感温度から入室後に所定の時間が経過したときの体感温度までの低下の程度を評価した。なお、着衣状態での全衣服の保湿性能はおよそ0.55cloであった。
なお、上半身に何も塗付しない場合を対照(比較例1)とし、上記と同様の試験を行った。
得られた結果を図1に示す。
【0033】
《温度低下の評価基準》
暑くない:温度26℃、湿度60%RHの部屋で70分順化したときの感覚(体感温度が4℃程度低下したときに感じられる感覚)と同じであり、暑さを感じなかった。
あまり暑くない:温度27℃、湿度60%RHの部屋で70分順化したときの感覚(体感温度が3℃程度低下したときに感じられる感覚)と同じであり、あまり暑さを感じなかった。
和らぐ:温度28℃、湿度60%RHの部屋で70分順化したときの感覚(体感温度が2℃程度低下したときに感じられる感覚)と同じであり、暑さが和らいだ。
和らいだ気がする:温度29℃、湿度60%RHの部屋で70分順化したときの感覚(体感温度が1℃程度低下したときに感じられる感覚)と同じであり、暑さが多少和らいだ感じがした。
暑い:温度30℃、湿度60%RHの部屋で70分順化したときの感覚と同じであり、体感温度の低下は実感できなかった。
【0034】
[試験例3]
表2に示すように、SymSitive DPG(シムライズ(株)製、trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール含有量20質量%)を1質量%(trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール含有量0.2質量%相当)、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール1重量%、ミリスチルアルコール0.1質量%、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル1.5質量%、グリセリン6質量%、メチルパラベン0.2質量%、残部を水とする体感温度低減用外用剤(実施例2)を調整した。入室10分後に塗布し、得られた外用剤塗布後も上半身が脱衣状態のままである以外は、試験例1と同様にして、体感温度低下の程度を評価した。なお、評価時の全衣服の保湿性能はおよそ0.27cloであった。
得られた結果を図2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
[試験例4−1]
表3に示すように、SymSitive 1609或いはP-T-BUTYL CYCLOHEXANOL(高砂香料工業(株)製、trans−4−tert−ブチルシクロヘキサノール含有量70質量%)を1質量%、残部を水として懸濁させ、体感温度低減用外用剤(実施例3、4)を得た。また、SymSitive 1609或いはP-T-BUTYL CYCLOHEXANOLを1質量%、ポリオキシエチレンステアリルエーテル2質量%、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット2質量%、残部を水として乳化させ、体感温度低減用外用剤(実施例5、6)を得た。
得られた外用剤を各々5cm×5cmに成形したスパンレース不織布(ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレン複合繊維:レーヨン繊維=50:50質量%;目付100g/m2)に十分量含浸させ、前腕内側に貼着してからさらに上からポリ塩化ビニリデンフィルムで覆い、30分間放置した。フィルムおよび含浸不織布を取り除いて適用部位をティッシュで軽く拭き取ってから、38℃加温体(経皮血液ガスモニタPO−850A(新生電子(株))のセンサー部分)を適用部に接触させ、以下の基準に従って温感の低下を評価した。
なお、対照として、水のみの液(比較例2)、或いはポリオキシエチレンステアリルエーテル2質量%、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット2質量%、残部を水として乳化させた液(比較例3)を用いて同様の実験を行った。
結果を表3に示す。
【0037】
《温度低下の評価基準》
1 温かい:非適用部に38℃設定した加温体を接触させたときと同等の温感(体感温度低下なし)
2 わずかに温感低下:非適用部に37.5℃設定した加温体を接触させたときと同等の温感(体感温度0.5℃低下に相当)
3 少し温感低下:非適用部に37℃設定した加温体を接触させたときと同等の温感(体感温度1℃低下に相当)
4 かなり温感低下〜温感を感じない:「少し温感低下」より低い温感(体感温度1℃以上低下に相当)
【0038】
【表3】
【0039】
上記試験例4−1の結果によれば、実施例3,4,5,6では、いずれも「かなり温感低下〜温感を感じない」の評価が得られ、貼付前の体感温度と30分間貼付した後の体感温度との差が1℃以上であったことが確認された。
一方で、TRPV1アンタゴニストを含まない比較例2,3では、いずれも「温かい」の評価が得られ、温感低下は認められなかった。
【0040】
[試験例4−2]
試験例4−1と同様にして、表4に示すように、CYCLEMAX(アイ・エフ・エフ日本(株)製;4−(1−メチルエチル)ベンゼンプロパナール)、cis−3−HEXENYL ANTHRANIRATE(信越化学工業(株)製;アントラニル酸cis−3−ヘキセニル)、iso−BUTYL SALICYLATE(豊玉香料(株)製;サリチル酸イソブチル)を用いて、体感温度低減用外用剤(実施例7、8、9、10)を作成し、試験例4−1と同様の実験を行った。
結果を表4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
上記試験例4−2の結果によれば、実施例7、8、9、10では、いずれも、貼付前の体感温度と30分間貼付した後の体感温度との差が0.5℃〜1℃以上であったことが確認された。
【0043】
[試験例5−1]
まず、ペルチェ素子を装備した温度制御可能なクールプレート(アズワン(株)SCP−85)のプレート部に、あらかじめ2.5cm×3.5cm×0.3cm厚アルミ板をアルミテープで貼り付けて、クールプレート改造品を作製した。次いで、表5に示すように、SymSitive DPGを1質量%、残部を水として懸濁させた体感温度低減用外用剤(実施例11)を得、これを用いて実施例4と同様にして5cm×5cmに成形した積層不織布に含浸させ、前腕内側に貼着しフィルムで覆い30分放置した。次いで、フィルムおよび含浸不織布を取り除いて適用部位をティッシュで軽く拭き取ってから、クールプレート改造品のアルミ板部分を該適用皮膚に接触させ、最初に25℃で1分間保持した後、直ちに33℃まで昇温し、下記基準にしたがって、昇温直後からの体感温度の変化を評価した。
また、水のみを含浸させた不織布を用いた場合(比較例4)、及び、上記フィルム積層不織布を貼付しなかった場合(比較例5)についても、上記と同様の評価を行った。得られた結果を図3に示す。
【0044】
《温度低下の評価基準》
あたたかい:25℃1分間保持後33℃まで昇温したときに感じる最大温感(体感温度低下なし)
少し:25℃1分間保持後31.5℃まで昇温したときに感じる最大温感(体感温度1.5℃低下に相当)
わずか:25℃1分間保持後29.5℃まで昇温したときに感じる最大温感(体感温度3.5℃低下に相当)
ごくわずか:25℃1分間保持後28℃まで昇温したときに感じる最大温感(体感温度5℃低下に相当)
±:あたたかくも冷たくも感じない
【0045】
[試験例5−2]
表5に示すように、SymSitive DPGを1質量%、残部を水として懸濁させた体感温度低減用外用剤(実施例12)を得、これを用い、最初に前腕を25℃で5分間保持した以外、試験例5−1と同様にして昇温直後からの体感温度の低下の程度を評価した。
また、水のみを含浸させた不織布を用いた場合(比較例6)、及び上記フィルム積層不織布を貼付しなかった場合(比較例7)についても、上記と同様の評価を行った。得られた結果を図4に示す。
【0046】
【表5】
【0047】
上記試験例1〜試験例5−2の結果より、TRPV1アンタゴニストを有効成分として含有する体感温度低減用外用剤を用いると、体感温度を0.5〜5℃下げることができ、暑熱感が効果的に低減されることがわかる。
図1
図2
図3
図4