(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249533
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】ナノ複合固体潤滑被膜
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20171211BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20171211BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20171211BHJP
C10M 103/02 20060101ALI20171211BHJP
C10M 125/04 20060101ALI20171211BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20171211BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20171211BHJP
C10N 10/08 20060101ALN20171211BHJP
C10N 10/10 20060101ALN20171211BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20171211BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20171211BHJP
C10N 50/08 20060101ALN20171211BHJP
【FI】
C23C14/06 N
C23C14/06 F
C23C14/14 D
C23C14/34 R
C10M103/02 Z
C10M125/04
F16C33/10 D
C10N10:02
C10N10:08
C10N10:10
C10N30:06
C10N40:02
C10N50:08
【請求項の数】5
【外国語出願】
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-159760(P2015-159760)
(22)【出願日】2015年8月13日
(65)【公開番号】特開2016-145406(P2016-145406A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2015年8月13日
(31)【優先権主張番号】15154160.4
(32)【優先日】2015年2月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515222562
【氏名又は名称】シェフラー バルティック,エスアイエー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナザロフ,パベルス
(72)【発明者】
【氏名】ミチン,バレリー
(72)【発明者】
【氏名】コバレンコ,ブラディミアース
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−237627(JP,A)
【文献】
特開2002−113604(JP,A)
【文献】
特開平03−291379(JP,A)
【文献】
W. GULBINSKI et al.,Phase composition and tribological properties of copper/carbon composite films,Surface & Coatings Technology,2005年,Vol. 200,pp. 2016-2151
【文献】
Thierry CABIOCH et al.,Co-sputtering C-Cu thin film synthesis: microstructural study of copper precipitates encapsulated into a carbon matrix,PHILOSOPHICAL MAGAZINE B,1999年 3月,Volume 79, Number 3,pp. 501-506
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅粒子を含む炭素マトリックスを含んだナノ複合固体潤滑被膜であって、TiまたはZrから成る追加の金属を以下のバルク率at.%で含有しており、
炭素 5〜35
銅 50〜90
追加金属 5〜15
銅粒子を含む前記炭素マトリックスは前記追加金属の中間層で補強されており、
銅粒子を含む前記炭素マトリックスの各層の厚みは30から150ナノメートルの範囲であり、前記追加金属の各中間層の厚みは5から20ナノメートルの範囲であり、
前記ナノ複合固体潤滑被膜の硬度は、200から1000HVの範囲である、
ことを特徴とするナノ複合固体潤滑被膜。
【請求項2】
前記銅粒子の粒径は20から100ナノメートルの範囲であり、前記銅粒子は1から10ナノメートルの範囲の厚みを有した前記炭素マトリックスのナノ層に包まれている、
請求項1記載のナノ複合固体潤滑被膜。
【請求項3】
前記ナノ複合固体潤滑被膜の厚みは、2.5から150マイクロメートルの範囲である、
請求項1または2記載のナノ複合固体潤滑被膜。
【請求項4】
前記ナノ複合固体潤滑被膜の厚みは、5から15マイクロメートルの範囲である、
請求項1から3のいずれか1項に記載のナノ複合固体潤滑被膜。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のナノ複合固体潤滑被膜のマグネトロンスパッタリング物理蒸着法であって、
少なくとも1つの銅−炭素モザイク状ターゲットと、少なくとも1つの追加の金属ターゲットとが、40W/cm2から250W/cm2の範囲の前記銅−炭素モザイク状ターゲットの電力密度で連続的に使用されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械工学、特に、自動車産業、航空機産業、および宇宙産業において、摺動摩擦または回転摩擦を受ける、例えば、ベアリング、チェーン、ピストン、およびジョイントのごとき可動部材の寿命を延長するために使用が可能な固体潤滑マグネトロンスパッタリング物理蒸着(MS PVD)ナノ複合被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
WO2012/078151、US2013/0086881、あるいはUS2013/0085088で開示されているように、通常は、硬質物理蒸着(PVD)被膜、例えば、硬度が2000HV以上の窒化物被膜、炭化物被膜またはダイアモンド様被膜が、可動部材の寿命を延長するために使用される。硬質被膜は対象表面を保護し、その寿命を引き延ばすが、それらは相対物(摩擦相手)の疲労強度を低下させ、摩耗率(摩耗速度)を増加させる。また、劣化する際に、硬質被膜の破損部分が研磨剤となって劣化を速める[“Surface Coatings for Protection Against Wear(摩滅から保護する表面被膜)”B.G.Mellor,Woodhead Publishing Limited,2006]。
【0003】
固体潤滑膜が硬質被膜の代用として利用できる。この数年間、主な注目がアモルファスカーボンと種々な金属(Ti、Ta、Zr、Au、Cu、Ag、等々)とで成るナノコンポジット群に注がれた[“Relationship between mechanical properties and coefficient of friction of sputtered a−C/Cu composite thin films(スパッタリングされたa−C/Cu複合薄膜の物理特性と摩擦係数との関係)”J.Musil et al.,Diam.&Rel.Mat.17(2008)1905−1911]。銅−炭素ナノ複合被膜は、高可塑性、低摩擦力、高接着力および高凝集力を示し、その経済性によって特に注目されている[“Phase composition and tribological properties of copper/carbo composite films(銅/炭素複合膜の位相組成およびトライボロジー的特性)”W.Gulbinwki et al.,Surf.&Coat.Tech.200(2005)2146−2151]。銅/炭素ナノ複合物は炭素マトリックス内にカプセル封入された銅析出物で成るスポンジ様の展開構造を有する[“Co−sputtering C−Cu thin film synthesis:microstructural study of copper precipitates encapsulated into a carbon matrix(同時スパッタリングC/Cu薄膜合成:炭素マトリックス内にカプセル封入された銅析出物の微小構造研究)”T.Cabioch et al.,Phil.Mag.B79(1999)501−516]。結果として、そのような被膜は良好なトライボロジー(摩擦学)的特性を示し、摺動摩擦または回転摩擦を受ける表面の寿命を大きく引き延ばす。純粋銅−炭素ナノ複合被膜の主な弱点はその低硬度であり、それによって高摩耗率であり、重荷重下では利用性が十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2012/078151
【特許文献2】US2013/0086881
【特許文献3】US2013/0085088
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】B.G.Mellor著,「Surface Coatings for Protection Against Wear(摩滅から保護する表面被膜)」,Woodhead Publishing Limited出版,2006年
【非特許文献2】J.Musil et al.著,「Relationship between mechanical properties and coefficient of friction of sputtered a−C/Cu composite thin films(スパッタリングされたa−C/Cu複合薄膜の物理特性と摩擦係数との関係)」,Diam.&Rel.Mat.17(2008),1905−1911
【非特許文献3】W.Gulbinwki et al.著,「Phase composition and tribological properties of copper/carbo composite films(銅/炭素複合膜の位相組成およびトライボロジー的特性)」,Surf.&Coat.Tech.200(2005),2146−2151
【非特許文献4】T.Cabioch et al.著,「Co−sputtering C−Cu thin film synthesis:microstructural study of copper precipitates encapsulated into a carbon matrix(同時スパッタリングC/Cu薄膜合成:炭素マトリックス内にカプセル封入された銅析出物の微小構造研究)」,Phil.Mag.B79(1999),501−516
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明によって解決される技術問題は、その硬度を増加し、その摩耗率を低下させることで、機械工学分野において利用できるようにMS PVD用の銅−炭素ナノ複合被膜を固体潤滑被膜として適応させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、銅粒子を含む炭素マトリックスを含んだナノ複合固体潤滑被膜(ナノコンポジット固体潤滑コーティング)は、Ti、Zr、HfおよびVから成る群から選択される追加の金属を以下のバルク率(at.%)で含有する。
炭素・・・・・・・・・・・5〜35
銅・・・・・・・・・・・・50〜90
追加金属・・・・・・・・・5〜15
銅粒子を含む炭素マトリックスは追加金属の中間層で補強される。銅粒子を含む炭素マトリックスの各層の厚みは30から150ナノメートルの範囲であり、追加金属の各中間層の厚みは5から20ナノメートルの範囲である。
この被膜の硬度は200から1000HVの範囲である。
構成成分の上記バルク率を有したナノ複合固体潤滑被膜が、摩擦係数、摩耗率、凝集力、接着力、および内部応力等の最適なパラメータの組み合わせを提供することが実験的に確認された。被膜の凝集力は、被膜内の炭素バルク濃度が35at.%を超えると十分に低下する。90at.%を超える銅濃度は硬度の低下と摩擦係数の増加に導く。また被膜内の追加の金属バルク濃度が15at.%を超えると、または、炭素バルク濃度が5at.%を下回ると摩擦係数も十分に増加する。被膜内の追加の金属濃度が5at.%を超えると摩耗率の顕著な低下が観察される。
純粋銅−炭素ナノ複合物は低硬度であり、重荷重下では崩壊する。追加金属の中間層の導入は、ナノ複合固体潤滑被膜の硬度を顕著に増加させ、その摩耗率を低下させる。厚みが増加した追加金属の中間層の導入は摩擦係数の増加を導く。厚みが150nmを超える銅−炭素層は硬度と耐摩耗性の低下を導き、30nmより薄い銅−炭素層は摩擦係数の増加を導く。
【0008】
銅粒子の粒径は20から100nmの範囲であり、1から10nmの範囲の厚みを有した炭素マトリックスのナノ層に包まれている。この銅粒子の粒径は、銅−炭素ターゲットの電力密度を介して制御できる。もし銅粒子の粒径が100nmを超えていれば、それは摩擦係数の増加を導く。もし炭素ナノ層が10nmより厚ければ、それは被膜内の凝集力の低下を導く。
得られる被膜の硬度は構成要素のバルク率と追加金属の中間層の厚みとによってほぼ決定される。200HVを下回る硬度を有した被膜は、重荷重下での適用には不向きである。1000HVを超える硬度は高内部応力を有しており、被膜の接着力と可塑性を低下させ、被覆表面の疲労強度を低下させる。
【0009】
ナノ複合固体潤滑被膜の厚みは、好適には2.5から150マイクロメートルの範囲である。2.5マイクロメートル未満の被膜は被覆表面のトライボロジー的特性に顕著な変化を与えない。被膜の厚みを150nm以上に増加させると凝集力は低下する。
【0010】
さらに好適には、固体潤滑被膜の厚みは5から15マイクロメートルの範囲である。この範囲の厚みのナノ複合固体潤滑被膜は、摩擦係数、摩耗率、凝集力、接着力、および内部応力のごときパラメータの最良の組み合わせを提供することが実験的に検証された。
【0011】
本発明のナノ複合固体潤滑被膜は、少なくとも1種の銅−炭素モザイク状ターゲットと少なくとも1種の追加金属ターゲットとを、40W/cm
2を超える銅−炭素モザイク状ターゲットの電力密度で連続的に使用したマグネトロンスパッタリング物理蒸着(MS PVD)法により製造できる。そのような高電力密度は、銅および炭素のごとき異なる材料のスパッタリング率を均等させる可能性を提供し、所望の構造および特性を備えた銅−炭素層を製造するのに必要である。被膜内の銅と炭素との得られるバルク率はモザイク状ターゲットのエロージョン領域の銅と炭素との表面積比と同じであることは実験的に確認されている。モザイク状ターゲットの使用は、グラファイト内へのCu原子注入による炭素のスパッタリング率の増加を導き、結果的に製造効率を高め、コストの低減を導く。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明は図面により図示されている。
【0013】
【
図1】
図1は、ナノ複合固体潤滑被膜の層の概略図である。
【
図2】
図2は、銅粒子を含有した炭素マトリックス層の透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下で本発明を実施例により説明する。
【0015】
<実施例1>
ギヤホイールが、4つの銅−炭素モザイク状ターゲット(14%炭素表面積)および2つのジルコニウムターゲットと共に2回回転真空チャンバ内に入れられた。このギヤホイールは、11マイクロメートル厚のナノ複合固体潤滑被膜で、アルゴン(99.999%)による2.8mTorr(ミリトール)の圧力下において40分間、基板とターゲットとの間の距離を40−60mmにしてMS PVD法により被覆された。蒸着加工時には−100Vのバイアス電圧が使用された。銅−炭素モザイク状ターゲットの電力密度は115W/cm
2であり、ジルコニウムターゲットの電力密度は60W/cm
2であった。被膜内の成分要素はバルク率at.%にて以下のごとくであった(蒸着後に被膜表面周囲から採り込まれた酸素を除く)。
炭素 14
銅 80
追加金属(ジルコニウム) 6
【0016】
ナノ複合固体潤滑被膜は、ジルコニウムと、銅粒子を含んだ炭素のマトリックスとの交互層であった。被膜断面の走査電子顕微鏡(SEM)画像の調査は、それぞれのジルコニウム層の厚みが5から10nmの範囲であり、それぞれの銅−炭素層の厚みが80から90nmの範囲であることを示した。ギヤホイールはナノ複合固体潤滑被膜で被覆され、HF2の接着力、700HVの硬度、10
−16m
3/N・m未満の摩耗率、乾燥条件下で0.21の摩擦係数、オイル環境下で0.07の摩擦係数を示した。
ナノ複合固体潤滑被膜の層は図面(
図1)に概略的に図示されている。そこでは、銅粒子2を含んだ炭素マトリックス1が追加金属の中間層3によって補強されている。
【0017】
<実施例2>
100Cr6製のシムが、2つの銅−炭素モザイク状ターゲット(26%炭素表面積)と1つのチタンターゲットとを使用して、アルゴン(99.999%)による3.0mTorrの圧力下で70分間、基板とターゲットとの間の距離を30−40mmとして、MS PVD法により被覆された。得られたナノ複合固体潤滑被膜は10マイクロメートル厚であり、銅粒子の粒径は40から80nmであった。蒸着加工時には−100Vのバイアス電圧が使用された。銅−炭素モザイク状ターゲットの電力密度は100W/cm
2であり、チタンターゲットの電力密度は60W/cm
2であった。蒸着されたナノ複合固体潤滑被膜は以下のバルク率at.%にて以下の構成要素を含んだ(蒸着後に被膜表面周囲から採り込まれた酸素を除く)。
炭素 23
銅 67
追加金属(チタン) 10
【0018】
この100Cr6製シムはナノ複合固体潤滑被膜で被覆され、摩耗率10
−16m
3/N・m未満、乾燥摩擦係数0.2、およびオイル環境での摩擦係数0.08を有した。
図2は、銅粒子2を含んだ炭素マトリックス層のTEM画像を図示しており、銅粒子2は炭素マトリックス(本縮尺度では非可視)ナノ層で包まれている。
【0019】
<実施例3>
100Cr6製のシムが、アルゴン(99.999%)による2.8mTorrの圧力下において40分間、基板とターゲットとの間の距離を40−60mmにして6.5マイクロメートル厚のナノ複合固体潤滑被膜でMS PVD法により被覆された。蒸着加工時には−100Vのバイアス電圧が使用された。2つの銅−炭素モザイク状ターゲット(18%炭素表面積)と1つのモリブデンターゲットとが使用された。銅−炭素モザイク状ターゲットの電力密度は115W/cm
2であり、モリブデンターゲットの電力密度は50W/cm
2であった。構成要素のバルク率はat.%にて以下のごとくであった(蒸着後に被膜表面周囲から採り込まれた酸素を除く)。
炭素 17
銅 78
追加金属(モリブデン) 5
【0020】
100Cr6製シムはナノ複合固体潤滑被膜で被覆され、非常に高い乾燥摩擦係数0.7と、10
−11m
3/N・mを超える摩耗率を有した。従って、モリブデンは追加金属の役割には不適であることが分かった。
【0021】
<実施例4>
100Cr6製のシムが、2つの銅−炭素モザイク状ターゲット(18%炭素表面積)と1つのチタンターゲットとを使用して、アルゴン(99.999%)による3.0mTorrの圧力下にて70分間、基板とターゲットとの間の距離を30−40mmとしてMS PVD法により被覆された。得られたナノ複合固体潤滑被膜は14マイクロメートル厚であった。蒸着加工時には−100Vのバイアス電圧が使用された。140W/cm
2までの銅−炭素モザイク状ターゲットの電力密度が使用された。そのような高電力密度は、蒸着されたナノ複合物のさらに繊細な構造を導いた。そこでは銅粒子の粒径は20から40nmの範囲であり、炭素マトリックスのナノ層は1から3nmの範囲の厚みを有した。蒸着されたナノ複合固体潤滑被膜は以下のバルク率at.%にて以下の構成要素を含んだ(蒸着後に被膜表面周囲から採り込まれた酸素を除く)。
炭素 18
銅 76
追加金属(チタン) 6
【0022】
被膜断面のSEM画像の調査は、それぞれのチタン層の厚みが5から8nmの範囲であり、それぞれの銅−炭素層の厚みが100から130nmの範囲であることを示した。100Cr6製シムはナノ複合固体潤滑被膜で被覆され、乾燥摩擦係数0.16とオイル環境下での摩擦係数0.05を有した。
本発明は、増加した硬度と低下した摩耗率とを有し、固体潤滑被膜として機械工学で利用できるように適応されたMS PVD法による銅−炭素ナノ複合被膜を提供する。
【0023】
<実施例5>
エンジンンチェーンのピンが2つの銅−炭素モザイク状ターゲット(26%炭素表面積)と2つのチタンターゲットと共に2回回転真空チャンバ内に入れられた。ピンは、ナノ複合固体潤滑被膜がアルゴン(99.999%)による2.8mTorrの圧力にて15分間、基板とターゲットとの間の距離を60−80mmとしてMS PVD法により被覆された。銅−炭素モザイク状ターゲットの電力密度は100W/cm
2であり、チタンターゲットの電力密度は70W/cm
2であった。蒸着されたナノ複合固体潤滑被膜は3マイクロメートルの厚みを有しており、以下のバルク率at.%にて以下の構成要素を含んだ(蒸着後に被膜表面周囲から採り込まれた酸素を除く)。
炭素 17
銅 57
追加金属(チタン) 26
【0024】
エンジンチェーンのピンはナノ複合固体潤滑被膜で被覆され、硬度800HVと乾燥環境下での摩擦係数0.5を有した。その高摩擦係数のためにエンジンチェーンの寿命の延長は微々たるものであるため、15at.%を超えるチタン濃度の被膜は摩擦学的適用には不適であると考えられた。
【0025】
<実施例6>
エンジンンチェーンのブッシュが2つの銅−炭素モザイク状ターゲット(26%炭素表面積)と1つのチタンターゲットと共に2回回転真空チャンバ内に入れられた。ナノ複合固体潤滑被膜が、アルゴン(99.999%)による2.8mTorrの圧力下にて40分間、基板とターゲットとの間の距離を60−80mmにしてブッシュにMS PVD法により被覆された。銅−炭素モザイク状ターゲットの電力密度は100W/cm
2であり、チタンターゲットの電力密度は60W/cm
2であった。蒸着されたナノ複合固体潤滑被膜は5マイクロメートルの厚みを有しており、以下のバルク率at.%にて以下の構成要素を含んだ(蒸着後に被膜表面周囲から採り込まれた酸素を除く)。
炭素 23
銅 67
追加金属(チタン) 10
【0026】
エンジンチェーンのブッシュはナノ複合固体潤滑被膜で被覆され、硬度460HV、摩耗率10
−17m
3/N・m未満、オイル環境下での摩擦係数0.09を有し、チェーンの寿命を2.5倍に延長した(非被覆ブッシュとの比較)。
【0027】
<実施例7>
ベアリングの内側リングと外側リングが、3つの銅−炭素モザイク状ターゲット(18%炭素表面積)と1つのチタンターゲットにより真空チャンバ内で被覆された。ナノ複合固体潤滑被膜が、アルゴン(99.999%)による3mTorrの圧力下にて65分間、銅−炭素モザイク状ターゲットの電力密度120W/cm
2と、チタンターゲットの電力密度60W/cm
2でMS PVD法によりベアリングリングに被覆された。蒸着されたナノ複合固体潤滑被膜は15マイクロメートルの厚みを有し、以下の構成要素を以下のバルク率at.%で含んだ(蒸着後に被膜表面周囲から採り込まれた酸素を除く)。
炭素 17
銅 77
追加金属(チタン) 6
【0028】
ベアリングの内側リングと外側リングはナノ複合固体潤滑被膜で被覆され、硬度310HV、摩耗率10
−16m
3/N・m未満、乾燥摩擦係数0.17、およびオイル環境下での摩擦係数0.06を有した。
【0029】
本発明は増加した硬度と低下した摩耗率を有し、固体潤滑被膜として機械工学で利用できるように適応されたMS PVD法による銅−炭素ナノ複合被膜を提供する。