(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機質肥料は、動植物質に由来する肥料と定義され、様々な植物や動物に由来するもの、発酵工業や食品工業から副産されるものなど非常に多くの種類がある。
その中でも、鶏糞,牛糞,豚糞等の動物糞を乾燥させた乾燥動物糞は、蛋白質,易分解性の炭水化物など、多くの肥料養分を含み、その肥効が高く、有機系の肥料として即効性が期待できる。
しかし、これらの乾燥動物糞には、有機物に含まれる養分の供給による効果は期待されるものの、土壌微生物の活動・増殖を促すことを通じた土壌改良の機能は期待できない。更に、乾燥動物糞は、土壌中で発酵しメタンガス、アンモニア、硫化水素ガス等を発生したり、乾燥動物糞中に含まれる腐敗菌が増殖したりする可能性がある。
そこで、土壌改良の機能を付与するために、動物糞に発酵処理を施した発酵家畜糞が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の家禽糞尿発酵処理方法では、被発酵処理物として採卵用鶏舎から排出される家禽糞尿排泄直後の臭気発生が少ない家禽糞尿だけと、水分調節材料として焼却灰だけ、炭化物だけ又は焼却灰及び炭化物だけとを、水分含量が55〜80重量%となるように混合及び水分調整して配合物とした後、この配合物を好気発酵条件で発酵させて、配合物の水分含量を40重量%以下にする。
特許文献1の発明によれば、処理中の臭気発生を抑えながら、好気発酵処理を施し、発酵家畜糞を製造できる。
【0004】
しかし、特許文献1の発酵家畜糞の製造方法によれば、発酵家畜糞の完成までに10週間程度を要すると共に、1週間に1回の切り返しを必要とし、日々大量に発生する動物糞を処理するためには、広大な敷地と多大な手間が必要である。また、特許文献1の発酵家畜糞の製造方法では、処理中の臭気は若干抑えられているものの、依然として臭気は存在していた。
養鶏経営、養豚経営、牧場経営の観点からは、日々多量に発生する動物糞をできるだけ安価に処理したいという要請があり、また、動物糞を処理する敷地が充分取れない、周辺地域への配慮のため臭気を抑制しなければならないなどの理由から、実際には、若干発酵させて乾燥させただけの発酵の度合いの低いものが、完熟発酵動物糞として販売されている場合も少なくない。発酵の度合いが低いものは、そのまま土壌中に入れると、農産物の根を痛め、植物の成長を妨げるため、購入した農家側で、使用前に野積にする、米ぬか等でぼかす等の前処理を行う必要があり、農家側の負担となっていた。その結果、発酵動物糞の売れ行きは好調ではなく、養鶏場、養豚場、牧場側にとっては、発酵動物糞の製造・販売をしても、日々発生する動物糞を処理しきれなかった。発酵動物糞の製造・販売は、日々発生する動物糞を処理する十分な手段とはなっていなかった。
養鶏経営、養豚経営、牧場経営上許容し得る程度の短期間で、無臭かつ完熟の発酵家畜糞を製造する方法は、知られていなかった。
【0005】
一方、化学肥料中心の肥培管理を続けると、土壌の物理的あるいは生物的性質を良好に維持することが難しくなり、持続的な農業生産のためには、堆肥や有機肥料等の有機質資材を併用することが不可欠である。そこで、環境保全の観点から、化学肥料に代えて有機質肥料等を用いた作物栽培を行う取り組みが進められているが、有機質肥料は、資材が高価であり、入手しにくい等の難点がある。
有機質肥料の有効成分である有機体窒素は、そのままでは植物に吸収できないため、まずは微生物により分解され、無機化してはじめて植物に吸収利用できる形態となり、その肥料としての効果が現れることが古くから知られている。
近年の研究により、アミノ酸は有機体窒素として直接植物に吸収利用されることが分かってきた。有機質肥料の中でも、ある種のアミノ態窒素を含有するアミノ酸肥料が、ある種の作物の成長を促進すると同時に食味を増すことが分かり、化学肥料や従来の有機質肥料の代わりに用いられるようになってきた。
【0006】
アミノ酸肥料を得る方法としては、動植物性のタンパク質を加水分解する方法、化学合成又は発酵によるアミノ酸を合成する方法がある。その中でも、動植物性のタンパク質を加水分解する方法が多用されている(例えば、特許文献2)。
特許文献2のアミノ酸含有肥料の製造方法では、羽毛、蹄角、人毛、獣毛等のケラチン蛋白質を含有するアミノ酸原料を加水分解し、その分解物を乾燥粉砕した後、分解物に酸を加えて酸分解を行って含硫アミノ酸を含むアミノ酸溶液を得、同アミノ酸溶液に、尿素、硝安、燐安、加里、微量要素等の肥料原料を加えて溶解させる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る発酵動物糞を含む天然アミノ酸肥料について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本明細書において、天然アミノ酸肥料とは、有機質肥料のうち、アミノ酸を土壌に供給するために用いられる肥料をいう。
本明細書において、発酵動物糞とは、動物糞を発酵させた動物糞の発酵処理物をいう。本実施形態の天然アミノ酸肥料は、主に、野菜、果物、穀物等の農作物の有機質肥料として用いられ、有機物に含まれる養分の供給の効果と、土壌微生物の活動・増殖を促すことを通じた土壌改良の効果とを併せて奏する。
本明細書において、単位「%」の表記は、特に断らない限り、重量%を意味する。
【0020】
<天然アミノ酸肥料の製造方法>
本実施形態の天然アミノ酸肥料の製造方法は、動物糞に、酸素を利用する通性嫌気性微生物及び/又は好気性微生物、もみ殻等の副資材、鉄を含む鉄ミネラル処理液を添加した後、公知の発酵設備を用いて好気的発酵を施す方法である。
動物糞とは、動物の排泄物をいう。動物には、鶏、豚、牛、馬、羊、山羊等の家畜、犬、猫、齧歯類等のペットや、動物園で飼育されている動物、人等を含み、主に、哺乳類及び鳥類である。
本実施形態では、微生物として、動物糞の堆肥化に一般的に用いられる公知の通性嫌気性微生物及び/又は好気性微生物を用いる。
微生物としては、例えば、通性嫌気性菌である乳酸菌、好気性菌である枯草菌(Bacillus subtilis)等を用いることができる。
乳酸菌としては、例えば、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、リューコノストック属(Leuconostoc)等を用いることができる。
また、好気性菌として、枯草菌(Bacillus subtilis)の代わり又は枯草菌と共に、例えば、こうじ菌、乳酸桿菌、乳酸球菌、他のバチルス属の菌を用いてもよい。アンモニアを窒素源とする細菌類であれば、用いることができる。また、これらの菌を複数組み合わせた複合菌体群をもちいてもよい。
【0021】
鉄ミネラル処理液とは、玄武岩、安山岩等の火成岩由来の残積性土壌に、無機酸を添加して抽出した天然由来のイオン化ミネラル濃縮液である。鉄ミネラル処理液としては例えば、株式会社リオン製のクレイエクストラクトを使用することができる。鉄ミネラル処理液が、請求項の鉄含有ミネラル液に該当する。
鉄ミネラル処理液は、玄武岩、安山岩等の火成岩由来の残積性土壌(赤黄色土、粘土)に、濃度10〜20重量%の硫酸水溶液を添加して酸可溶成分を抽出したものである。なお、硫酸の代わりに、塩酸、硝酸、これらの無機酸を混合したもの、またはその水溶液等を用いてもよいが、濃度10〜20重量%の硫酸水溶液を用いると、鉄ミネラル処理液を効率よく得ることができる。
【0022】
鉄ミネラル処理液は、鉄(Fe)を主要構成成分とし、その他マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のカチオンも含む。ただし、マグネシウム量およびカルシウム量の和は、ミネラル液に含有される鉄の量の30重量%未満である。
鉄ミネラル処理液は、鉄を7000〜13000(ppm)程度含み、pHは、0.1〜0.2程度である。
また、鉄ミネラル処理液に含まれる高分子の径は、3〜5(nm)程度である。
【0023】
鉄ミネラル処理液に含まれる鉄は、pHによって異なる形態で存在する。pH3以下では、鉄は、Fe
3+、pH3〜pH4では、Fe
3+とFe(OH)
2+、pH4〜pH5では、Fe
3+とFe(OH)
2+とFe(OH)
2+、pH5より高いpHでは、Fe(OH)
2+とFe(OH)
2+とFe(OH)
3として存在する。
【0024】
また、鉄ミネラル処理液の母材である土壌を硫酸抽出した残渣は、純鉄(Fe(3+))と、非結晶質の針鉄鉱(α−FeOOH)とを含んでいる。ここで、純鉄(Fe(3+))とは、変化しにくい安定した鉄をいい、酸化されず、溶出しないという性質を有する鉄をいう。
本実施形態の鉄ミネラル処理液の一例の組成を、表1に示す。
【0026】
また、鉄ミネラル処理液の母材である土壌を硫酸で抽出した残渣の一例を、メスバウア分光分析法で測定した結果、常磁性のFe(3+)と、スピネル8面体位置のFe
3O
4、スピネル・4面体位置のFe
3O
4と、α−Fe
2O
3とを含んでいることが分かった。残渣に含まれるFeのうち、6%が常磁性のFe(3+)、38%がスピネル・8面体位置のFe
3O
4、31%がスピネル・4面体位置のFe
3O
4、25%がα−Fe
2O
3であるとの測定結果を得た。
【0027】
鉄ミネラル処理液は、消臭殺菌効果を有する。
これは、Fe(OH)
3からフェリハイドライトの複合体が形成され、複合体形成時、有機物の芳香環や−SH基等が切断されて、糞臭が除去されると考えられる。
また、家畜糞処理液のpH5以上における主成分Fe(OH)
3の鉄が次の化学式(1)により反応して2価になるときに発生するスーパーオキサイドにより、臭い物質を酸化分解すると考えられる。
4Fe(OH)
3+8H
+→4Fe
2++10H
2O+O
2・・・(化学式1)
【0028】
また、一般的に、酸化状態では、O
2が電子受容体となるため、酸化状態における有機物の最終産物はCO
2とH
2Oであるが、還元状態では、NO
3,SO
4,CO
2が電子受容体となるため、有機物の最終産物としてN
2,H
2S,CH
4も発生する。
式1の反応の酸化還元電位は、EH=−0.183Vであり、メタンガスの発生する電位はEH=−0.253Vであるため、嫌気状態になるのを防ぎ、メタンガス等の発生を抑制する。
【0029】
以下、本実施形態の天然アミノ酸肥料の製造方法の各工程について、動物糞として鶏糞を用いた場合を例として、順を追って説明する。なお、他の動物の糞を用いた場合でも、各工程は同様である。
(生糞への微生物添加工程1)
まず、以下の通り、生糞への微生物添加工程1を行う。
採卵鶏(レイヤー)の鶏舎の鶏糞は、定期的に掻き出し、一時保管所であるストックヤードに移動し、ストックヤードに蓄積する。なお、鶏舎の下にベルトコンベアーを設置し、このベルトコンベアーにより、自動で鶏糞をストックヤードに移動してもよい。
一方、食用鶏(ブロイラー)は、飼育日数が45日程度であり、地鶏でも90日程度であるため、鶏を出荷後、鶏舎より鶏糞の掻き出しを行い、ストックヤードで保管する。
また、条件的嫌気性菌である乳酸菌及び好気性菌である枯草菌を、体積比で乳酸菌50%、枯草菌50%となるように混合した粉末状の複合菌体群を、副資材9000kgに対し45〜55L添加して、好気性菌ともみ殻等の副資材との混合物を作製する。
【0030】
菌が混合される副資材としては、もみ殻のほか、稲わら、麦稈、おが屑、バークなど、炭素率が高い副資材を用いることができる。これらの副資材は、発酵中における鶏糞の通気性を高め、発酵を促進する効果、天然アミノ酸肥料中の炭素率(炭素と窒素の混合比)の調整効果を有する。また、稲わら、麦稈は、天然アミノ酸肥料が土壌に施肥されたときにおける土壌中への珪酸成分の補給の効果も有する。
次いで、この複合菌体群と副資材との混合物を、ストックヤードに保管された鶏糞に、鶏糞に対し、50〜100g/m
3添加する。
なお、2〜3時間おきに鶏舎から鶏糞を回収し、その都度、複合菌体群と副資材との混合物を、鶏糞に対し50〜100g/m
3添加してもよい。
後工程の発酵工程3を経た発酵鶏糞を、戻し発酵鶏糞Rとして、ストックヤード中の鶏糞に100〜200kg/m
3添加する場合には、複合菌体群と副資材の混合物の添加量は、30〜50g/m
3程度に減量することができる。
なお、生糞への微生物添加工程1において、複合菌体群を添加しなくても、発酵工程3における発酵は可能であるため、複合菌体群を添加せず、副資材のみを添加してもよい。但し、生糞への微生物添加工程1において、複合菌体群を添加することにより、後工程の発酵工程3の発酵時間を短縮できる。
【0031】
(移送及び鉄ミネラル処理液添加工程2)
次いで、鶏糞の発酵装置への移送及び鉄ミネラル処理液添加工程2を行う。
この工程では、まず、ストックヤードに保管された鶏糞の水分量を、60〜70重量%、好ましくは62〜67重量%、更に好ましくは65重量%に調整する。
水分量が元々高い場合には、後工程の発酵工程3を経た発酵鶏糞を、戻し発酵鶏糞Rとして、ストックヤード中の鶏糞に添加することにより、水分量を低下させる。一方、水分量が低い場合には、ストックヤード中の鶏糞に加水することにより、水分量を上昇させる。初期水分量を65重量%前後に調整することが、本実施形態において重要である。
【0032】
その後、ストックヤードから鶏糞をペイローダーで掬い取り、発酵用の発酵装置に投入すると共に、鶏糞に鉄ミネラル処理液を添加する。鉄ミネラル処理液の添加は、鶏糞をペイローダーで掬い、発酵装置に投入する作業と同時に行うと好適である。
鉄ミネラル処理液の添加量は、水分量を約65重量%に調整した鶏糞700〜800kgに対し、鉄ミネラル処理液10〜110ml、好ましくは、30〜1000ml、更に好ましくは、20〜90mlとする。なお、水分量を約65重量%に調整した鶏糞700〜800kgは、体積1m
3程度である。
【0033】
またこのとき、鉄ミネラル処理液を100〜300倍に水で希釈した鉄ミネラル処理液希釈液を、鉄ミネラル処理液の原液が10〜70ml、好ましくは、30〜70ml、更に好ましくは、30ml添加されるように、鶏糞に添加すると、溶媒である水の拡散性及び浸透性により、水を媒体として拡散、伝導されて、より早く、鶏糞と鉄ミネラル処理液とがよりよく混合することで、フェリハイドライト様反応が促進されるため、好適である。なお、この場合には、鉄ミネラル処理液を希釈する水の量を考慮して、鶏糞の水分量を予め低めに調整しておいてもよい。
鉄ミネラル処理液又は鉄ミネラル処理液希釈液の添加は、ペイローダーで鶏糞を掬う処理によって切返されている状態にある鶏糞に、投入、散布等することにより行う。
また、鉄ミネラル処理液の添加と共に、生糞への微生物添加工程1で調製した複合菌体群と副資材との混合物を、鶏糞に50〜100g/m
3添加してもよい。このように、移送及び鉄ミネラル処理液添加工程2において、複合菌体群と副資材との混合物を添加することにより、より一層均一な発酵を効果的に行うことができる。
【0034】
(発酵工程3)
次いで、発酵装置において、鶏糞の発酵工程3を行う。
発酵工程3で用いる発酵装置は、家畜糞の堆肥化処理において一般的に用いられ、通風又は撹拌による好気的条件の維持、脱臭等を行う装置であって、発酵槽内に撹拌機が設けられた撹拌方式の発酵装置が好適に用いられる。密閉された円筒状の発酵槽に堆肥原料を投入し、発酵槽の回転や内部の攪拌羽根によって堆肥原料を攪拌しながら堆肥化する密閉型、開放された開放型のいずれであってもよい。
また、発酵槽内を攪拌機で攪拌する方式や、切り返しながら少しずつ移動させる方式のものでもよい。
【0035】
また、開放型において、切り返し装置が発酵槽の側壁あるいは上部のレールを直線上に走行しながら、切り返しと移送を行う直線型、直線型とほぼ同様であるが、発酵槽の形状が長円形のドーナツ状である回行型(エンドレス型)、発酵槽の形状が円形状で、切り返し装置の中心が円形発酵槽の中心と偏心している円形型等でもよい。攪拌機は、ロータリー方式、スクープ方式、自走式、スクリュー・オーガ式などを用いることができる。
密閉型では、縦型の発酵槽や横型のロータリーキルンであってもよい。
本実施形態では、縦型で容量60〜80m
3の密閉型コンポスト装置を用いると好適である。
なお、発酵装置の代わりに、堆肥舎に堆積し、切返しによって通気を行う堆積方式により発酵工程3を行ってもよい。
【0036】
発酵工程3では、発酵装置で、5〜10日間、鶏糞を撹拌、通気しながら発酵させる。発酵工程3中の鶏糞の温度は、60〜70℃となる。5日間以上、12日間以下、好ましくは、5日間以上10日間以下の処理後、水分が20重量%程度になった時点で、発酵工程3を終了し、天然アミノ酸肥料を完成する。
なお、発酵工程3では、発酵開始から間もなく、鶏糞の温度が60℃以上となる。これは、発酵開始後、先に分解し易い糖、アミノ酸、デンプンから分解が進み、その後、タンパク質など細胞内部に存在する物質が糸状菌や好気性細菌によって分解され、その呼吸熱によって発熱が起こるためと考えられる。
その後、5日間以上、12日間以下の間発酵を行う間に、鶏糞の温度が徐々に低下してゆく。
この鶏糞の温度が徐々に低下していく過程において、30℃〜50℃程度まで鶏糞の温度が低下すると、細菌による天然アミノ酸の発酵が起こるものと考えられる。この細菌は、主には、鳥類の糞におけるCorynebacterium属の常在細菌(Corynebacterium glutamicum,Corynebacterium efficiens等)と考えられ、鶏糞中に元々含まれていたものである。Corynebacterium glutamicumによるアミノ酸の発酵至適温度は、30℃程度、Corynebacterium efficiensによるアミノ酸の発酵至適温度は、40〜50℃である。
従って、本実施形態の天然アミノ酸肥料に含まれるアミノ酸は、Corynebacterium属の常在細菌による発酵によって生成されたものであり、天然のL-アミノ酸である。
完成した天然アミノ酸肥料は、運搬、計量、包装され、発酵鶏糞由来の天然アミノ酸肥料として出荷される。
【0037】
<天然アミノ酸肥料>
以上の本実施形態の天然アミノ酸肥料の製造方法によって製造された天然アミノ酸肥料は、水分15〜25重量%,好ましくは、水分17〜24重量%で、糞臭が完全に除去されている。
また、粗タンパク質量が、一般の発酵動物糞よりも多く、少なくとも18種の遊離アミノ酸の含有量が、一般の発酵動物糞よりも高い。
本実施形態の天然アミノ酸肥料は、20種の遊離アミノ酸のうちアスパラギン、グルタミンを除く18種の遊離アミノ酸含量の合計が、80mg/100g以上、400mg/100g以下,好ましくは、90mg/100g以上、350mg/100g以下,更に好ましくは、100mg/100g以上、300mg/100g以下,更に好ましくは、120mg/100g以上、270mg/100g以下である。
特に、遊離グルタミン酸含量が、15mg/100g以上、50mg/100g以下、好ましくは、18mg/100g以上、40mg/100g以下である。
また、遊離ロイシン含量が、13mg/100g以上、40mg/100g以下、好ましくは、14mg/100g以上、30mg/100g以下である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の天然アミノ酸肥料及びその製造方法を、実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<実験1>
(実施例1)
上記発酵動物糞を含む天然アミノ酸肥料の製造方法に従い、以下の通り、実施例1の発酵鶏糞を含む天然アミノ酸肥料を製造した。
まず、生糞への微生物添加工程1を行った。この工程では、採卵鶏の鶏舎から、2〜3時間毎に鶏糞を回収してストックヤードに移し、その都度、複合菌体と副資材との混合物を、鶏糞に添加した。このとき、副資材としては、市販のもみ殻を用い、複合菌体群として、乳酸菌生菌粉末と枯草菌生菌粉末とを体積比で1:1になるように混合した複合菌体群50Lを、9000kgのもみ殻に吸着させたものを用い、鶏糞に対する複合菌体群の添加量が、1v/w%となるようにした。
【0039】
その後、移送及び鉄ミネラル処理液添加工程2を行った。この工程ではまず、ストックヤードに保管された鶏糞に井戸水を添加することにより、水分量を65重量%に調整した。
水分量を調整した鶏糞を、ペイローダーで掬い取り、鶏糞1m
3当たりの鉄ミネラル処理液の原液の量が80mlとなるように、鉄ミネラル処理液を井戸水で100倍に希釈した鉄ミネラル処理液希釈液を、鶏糞1m
3当たり3L、ノズルから散布しながら、鶏糞を密閉型の縦型コンポスト装置(三友機械株式会社製、製品名:富士コンポ、容量12m
3)に投入した。
鶏糞の投入が完了すると、密閉型の縦型コンポスト装置の運転を開始して、発酵工程3を行った。このときの鶏糞の量は、7000kg(10m
3)であった。
縦型コンポスト装置では、回転軸に放射状に設けられた撹拌羽根によって鶏糞を撹拌すると共に、撹拌羽根の先端から温風を通気して発酵・乾燥を促進した。
【0040】
縦型コンポスト装置に投入後1〜3日程度で鶏糞の温度は60〜70℃に達した。投入後3日後の鶏糞には、許容できない程度の糞臭があった。投入後5日後には、糞臭が感じられるものの、許容できる範囲まで糞臭が除去されていたが、店頭で販売できる程度までには糞臭は除去されていなかった。
投入後7日後の鶏糞には、糞臭が全く感じられなかった。投入後10日後には、糞臭は全くなく、薬品のような香りがほのかに感じられた。
縦型コンポスト装置での10日間の発酵処理により完成した実施例1の天然アミノ酸肥料は、濃褐色で粒径1〜2mm程度の粒状を呈し、水分18.9重量%であった。糞臭が完全に除去され、動物糞由来であることが想像しにくい程度に、薬品又は植物の臭気に類似した清浄感ある臭気が漂っていた。
実施例1の天然アミノ酸肥料の分析結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
また、実施例1の天然アミノ酸肥料の製造方法により製造した天然アミノ酸肥料の別のサンプルについて、表2と同様の分析方法により分析を行ったところ、水分23.69%、pH(乾物相当量1:10,27℃)8.7、窒素全量(N)2.42%、りん酸全量(P
2O
5)4.71%、加里全量(K
2O)2.66%、石灰全量(CaO)17.36%、炭素窒素比8.5、有機炭素(C)20.52%であった。
【0043】
(実施例2)
移送及び鉄ミネラル処理液添加工程2において、鶏糞1m
3当たりの鉄ミネラル処理液の原液の量が30mlとなるようにしたことを除いては、実施例1と同様の工程を行い、縦型コンポスト装置での10日間の発酵処理を行って、実施例2の天然アミノ酸肥料を得た。
実施例2の天然アミノ酸肥料も、濃褐色で粒径1〜2mm程度の粒状を呈し、水分18.9重量%であった。糞臭が完全に除去され、動物糞由来であることが想像しにくい程度に、薬品又は植物の臭気に類似した清浄感ある臭気が漂っていた。
【0044】
(対比例1)
一方、鉄ミネラル処理液を添加せずに製造された対比例1に係る市販の発酵鶏糞(有限会社棚橋ファーム社製、製品名:地加良(ちから))における全窒素、粗タンパク質、18種類の遊離アミノ酸含量の分析結果を、表3に示す。対比例1の発酵鶏糞は、採卵系の鶏糞に、実施例1と同様の複合菌体と副資材を添加し、密閉型の縦型コンポスト装置(三友機械株式会社製、製品名:富士コンポ、容量18m
3)で、17日発酵、乾燥処理を行った。
【0045】
(対比例2)
また、生糞への微生物添加工程1において、複合菌体を副資材に添加しなかったことを除いては、実施例1と同様の工程を行い、縦型コンポスト装置での10日間の発酵処理を行って、対比例2の発酵鶏糞を得た。
【0046】
(対比例3)
更に、発酵工程3を4日間行ったことを除いては、実施例1と同様の工程を行い、対比例3の発酵鶏糞を得た。
【0047】
(分析結果)
実施例1,2及び対比例1〜3の天然アミノ酸肥料又は発酵鶏糞における全窒素、粗タンパク質、18種類の遊離アミノ酸含量の分析結果を、表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
表3の結果より、複合菌体及び鉄ミネラル処理液を添加し、かつ、10日間の発酵処理を行うことにより、発酵鶏糞は、天然の遊離アミノ酸含量が高くなることが分かった。
表3に示すように、測定した18種の遊離アミノ酸のうち、実施例1の天然アミノ酸肥料で検出されなかった遊離シスチンを除く17種の遊離アミノ酸において、実施例1の天然アミノ酸肥料は、対比例1の発酵鶏糞の遊離アミノ酸含量の2〜10倍の遊離アミノ酸を含むことが分かった。
【0050】
<実験2>
次いで、実施例1の天然アミノ酸肥料及び対比例1の発酵鶏糞を用いて、作物(人参、ネギ)の生育試験を行った。
この試験は、岐阜市御望の農園において、人参(品種:タキイの恋ごころ)の播種を平成26年9月21日、ネギ(平成25年の徳田ネギ)の分けつ定植を平成26年9月15日に行った。人参及びネギを、実施例1の天然アミノ酸肥料投与区と、対比例1の発酵鶏糞投与区とに分け、それぞれ、実施例1の天然アミノ酸肥料又は対比例1の発酵鶏糞を、元肥で、10アールに対し300kg施肥した。
生育試験の初期では、実施例1と対比例1の人参、ネギの生育に格差がみられなかったが、生育試験の半ばから、対比例1の人参、ネギに比べ、実施例1の人参、ネギの成長が良くなった。
【0051】
その後、平成27年1月19日に、収穫した。収穫した人参各3本、ネギ各5本の外観を、
図2の写真に示す。
図2に示すように、外観上、実施例1の人参、ネギの成長が対比例1に比べて大きく、太くなっていた。
実施例1の人参は、対比例1の人参の2倍近くの大きさになっていた。生での官能試験では、対比例1の人参の食味は、人参の味そのものであったが、実施例1の人参では、柿のような甘味が感じられ、糖度も、対比例1では7.2、実施例1では10.3であった。
【0052】
実施例1のネギは、対比例1のネギと比べて、太くなっていた。官能試験では、実施例1のネギは、大きくても柔らかく、白軸の部分に甘さが感じられたが、対比例1のネギでは、実施例1のような柔らかさ、甘さが感じられなかった。
以上のように、実施例1の天然アミノ酸肥料では、鉄ミネラル処理液を用いずに発酵させた対比例1の発酵鶏糞と対比して、人参、ネギの生育を促進し、人参、ネギの食味を改善することが分かった。
【0053】
<実験3>
次いで、実施例1の天然アミノ酸肥料を用いて、ジャガイモの生育試験を行った。
この試験は、北海道桧山郡の圃場(粘土質,栽培面積2500m
2)において、ジャガイモ(メークイン)の播種を2015年4月19日に行った。有機栽培、促成栽培、マルチ栽培にて、株間は30cmとした。2015年8月10−11日に収穫を行った。同圃場における、同じ品種のメークインの栽培を、対照区とした。
対照区よりも若干遅めの植え付けであったが、茎葉の生育は良好であった。黄変期が、対照区に比べ早いように見受けられた。防虫剤等の施用回数は、対照区よりも少なく済んだ。
収穫したメークインは、外観はメークインらしい白い肌に仕上がり、収量も対照区よりも多かった。規格外品の割合も、対照区よりも少なかった。食味は、官能試験の結果、きめが細かく、しっとりした舌触りで、旨味とほのかな甘味があり、美味しいという評価であった。試食したほとんどの人が、「美味い」と回答した。
【0054】
本実験で収穫したジャガイモについて、活性酸素消去活性評価試験として、ESRスピントラッピング法により、スーパーオキシド消去活性、ヒドロキシラジカル消去活性、一重項酸素消去活性の分析試験を行った。
その結果、スーパーオキシド消去活性は、31.7(units SOD/g)、ヒドロキシルラジカル消去活性は、4,060 (μmol DMSO/g)、一重項酸素消去活性は、85.0(μmol Histidine/g)であった。スーパーオキシド消去活性は、一般的なジャガイモの平均値の1.01倍、ヒドロキシルラジカル消去活性は、ジャガイモの平均値の4.77倍、一重項酸素消去活性は、一般的なジャガイモの平均値の0.98倍であった。
また、Brixメーターにて、糖度の測定を行ったところ、8.0%であり、一般的なジャガイモの平均値の1.34倍であった。
以上の測定結果より、実施例1の天然アミノ酸肥料を用いて栽培したジャガイモは、一般的なジャガイモの平均値と比較して、糖度が高く、活性酸素消去活性評価においては、ヒドロキシルラジカル消去活性の高さに特徴があった。ヒドロキシルラジカル消去活性は、糖やアミノ酸、核酸等の様々な有機物が寄与することが知られており、窒素代謝(同化)や、糖代謝の指標となる値である。
【0055】
<実験4>
以下、種々の作物について、実施例1の天然アミノ酸肥料を施肥して生育実験を行った結果について示す。
岐阜県揖斐郡の露地栽培において、実施例1の天然アミノ酸肥料と、一般的な有機肥料を施肥した大根の対照実験を行ったところ、大根の成長促進効果が見られた。
結果を、
図3の写真に示す。
図3のように、実施例1の天然アミノ酸肥料施肥品は、一般有機肥料施肥品に比べて、1.5倍程度の長さとなった。また、食味も、一般有機肥料施肥品に比べて、甘味が向上し、収量も向上した。
【0056】
三重県四日市市の里芋の露地栽培において、実施例1の天然アミノ酸肥料を施肥したところ、例年生じていた連作障害が解消され、実施例1の天然アミノ酸肥料を施肥したことにより、収量向上があった。
【0057】
福井県福井市のミニトマトハウス栽培において、実施例1の天然アミノ酸肥料を施肥したところ、一般有機肥料を施肥した対照区よりも、収穫期間が1か月程度長くなった。食味は、対照区よりも甘いことが実感できた。
【0058】
岐阜県揖斐郡のいちごハウス栽培において、実施例1の天然アミノ酸肥料を施肥したところ、一般有機肥料を施肥した対照区よりも、糖度が1〜1.5度向上した。栽培中において、鶏糞悪臭がなく、安心して施用できた。
【0059】
岐阜県、長野県の大根、キュウリ、葉物野菜の露地栽培において実施例1の天然アミノ酸肥料を施肥したところ、大根、キャベツでは、収量が、例年の約40%向上し、品質門良好であった。過去の他の鶏糞活用時には、近隣からの悪臭の苦情があり、活用を控えていたが、実施例1の天然アミノ酸肥料は、臭いがないため、安心して施用できた。鶏糞施用後の害虫発生も懸念していたが、害虫発生の問題は全くなかった。
【0060】
岐阜県本巣市の富有柿栽培において実施例1の天然アミノ酸肥料を施肥したところ、従来よりも糖度が1.5度程度向上した。
愛知県祖父江市の水田における米栽培において実施例1の天然アミノ酸肥料を施肥したところ、収量が、例年の10aあたり7俵から8.5俵に向上した。
愛知県西尾市における麦栽培において実施例1の天然アミノ酸肥料を施肥したところ、収量が、例年の10aあたり8俵から10俵に向上した。