(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面上に配置された前記非ダイヤモンド炭素サイトの配列は、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の表面上にパターン加工されている、請求項1から3までのいずれか1項に記載の電気化学センサ。
前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面上に配置された前記非ダイヤモンド炭素サイトの配列は、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極を形成する前記ホウ素ドープダイヤモンド材料内に配置された内在性非ダイヤモンド炭素である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の電気化学センサ。
【背景技術】
【0002】
溶液の電気化学的特性を測定するためのダイヤモンドベースセンサを提供することは、すでに先行技術に提案されている。ダイヤモンドにホウ素をドープし、電極として使用するための、半伝導性材料または金属様伝導性材料を形成することができる。さらに、導電性ダイヤモンドは、硬く、不活性であり、かつ非常に広い電位窓を有するため、とりわけ標準的な金属ベース電気化学センサを劣化させるような過酷な化学的、物理的、および/または温熱環境における、電気化学セルの感知電極としての使用に非常に望ましい材料である。
国際公開第2013/135783号は、広い溶媒窓、高い可逆性、および小さい電気容量を有する、ホウ素ドープダイヤモンド電極を形成するために使用することができる、ホウ素含有量が多く、かつsp2炭素含有量が少ない、電気化学的感知用途向けに最適化されたホウ素ドープダイヤモンド(BDD:boron doped diamond)材料を開示している。この文献には、所望のレベルの導電性を達成するために、合成中に高濃度のホウ素をダイヤモンド格子中へ導入することで、結果として著しく多量のsp2炭素(非ダイヤモンド炭素、またはNDC:Non−Diamond Carbonとも呼ばれる)もダイヤモンド材料中へ導入されることが記載されている。高含有量のsp2炭素、すなわち非ダイヤモンド炭素は、とりわけ対象種の濃度レベルが非常に低いとき、対象種の電気化学的感知と干渉し得るバックグラウンド電流をもたらすことが記載されている。ホウ素含有量が多く、かつsp2炭素含有量が少ない、電気化学的感知用途向けに最適化されたホウ素ドープダイヤモンド材料を提供する合成方法および生産材料が記載される。そのような材料は、溶媒窓が広く、バックグラウンド電流が低く、信号分解能が高く、電気容量が小さく、かつ外圏酸化還元種への可逆性が高い。
【0003】
そのような材料は、特定の対象種の感知、および溶液伝導度といったパラメータの測定に優れることが示されているが、最適化ダイヤモンド材料は、電気化学的に不活性であり、溶液中で特定の対象種に関する信号を生成できない。この点に関し、電極に近接する溶液中で特定の種を感知するよう、ホウ素ドープダイヤモンド電極表面を官能化し得ることが知られている。例えば、国際公開第2010/029277号に記載されているように、例えば酸素などの対象種を感知するよう、金属ナノ粒子を用いてホウ素ドープダイヤモンド電極を官能化することができる。その感知表面に著しく高濃度の非ダイヤモンド炭素を含むホウ素ドープダイヤモンド電極は、感知表面に非ダイヤモンド炭素を実質的に有さないよう最適化されたホウ素ドープダイヤモンド材料によって信号が生成されない、遊離塩素といった対象種の感知にも使用することができる。例えば、Murata et al., “Electrochemical detection of free chlorine at highly boron-doped diamond electrodes”, Journal of Electroanalytical Chemistry, Volume 612, Issue 1, 1 January 2008, Pages 29-36を参照されたい。
【0004】
したがって、金属ナノ粒子または非ダイヤモンド炭素といった種を用いて官能化されたホウ素ドープダイヤモンド電極は、非官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極を用いて検出および測定することができない対象種の感知に使用することができる。しかし、本発明の発明者らは、そのような官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極に伴う多くの課題を認めた。
(1)金属ナノ粒子といった種を用いるホウ素ドープダイヤモンド電極の官能化は、特定の対象種の検出および測定を可能にするものの、官能化表面は頑丈さに欠け、使用時に不安定である。例えば、測定と測定の間に電極を洗浄する必要があり、その結果、官能化材料が除去される可能性があり、ひいては電極の性能が低下し得る。さらに、酸化電位が印加される場合、その後これが金属ナノ粒子の溶解の原因となり得、徐々に官能化が電極表面から消失する原因となる。
(2)ホウ素ドープダイヤモンド電極の官能化は、非官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極によって生成されない対象種に関する信号の生成を可能にするものの、バックグラウンド信号も増大させる可能性があり、結果として信号対ノイズを減少させ、非常に低い濃度における対象種の確実な検出を妨げる。
(3)ホウ素ドープダイヤモンド電極の官能化は、非官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極によって生成されない対象種に関する信号の生成を可能にするものの、当該信号は安定性を欠く傾向があり、経時的に個々の電極について、および電極間についても、いずれにおいても変化しやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の特定の実施形態は、前述の課題の1つまたは複数を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によると、
ホウ素ドープダイヤモンド材料から形成されるホウ素ドープダイヤモンド電極、
ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面上に配置された非ダイヤモンド炭素サイトの配列、
非ダイヤモンド炭素サイトに結合した、対象種に関連する酸化還元ピークを生成するための電気化学的に活性な表面基であって、対象種は、使用時に当該対象種を含有する溶液が感知表面と接触するよう配置された際、非ダイヤモンド炭素サイトに結合した電気化学的に活性な表面基と反応する、電気化学的に活性な表面基、
ある電位範囲に亘ってホウ素ドープダイヤモンド電極をスキャンして酸化還元ピークを生成するよう構成されている電気制御装置、および
酸化還元ピークの位置および強度の一方、または両方に基づいて、電気化学的測定値を与えるよう構成されている処理装置を含む、電気化学センサが提供される。
【0007】
本発明の他の態様によると、前述の電気化学センサに使用するためのダイヤモンド電気化学センサヘッドが提供される。本発明のダイヤモンド電気化学センサヘッドは、
ホウ素ドープダイヤモンド材料から形成されるホウ素ドープダイヤモンド電極、
ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面上に配置された非ダイヤモンド炭素サイトの配列、および
非ダイヤモンド炭素サイトに結合した、対象種に関連する酸化還元ピークを生成するための電気化学的に活性な表面基であって、対象種は、使用時に当該対象種を含有する溶液が感知表面と接触するよう配置された際、非ダイヤモンド炭素サイトに結合した電気化学的に活性な表面基と反応する、電気化学的に活性な表面基を含み、
ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面に過剰量の非ダイヤモンド炭素が付与されることなく、ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面に、対象種に関連する酸化還元ピークの生成するのに十分な電気化学的に活性な表面基が付与されており、それにより下記の特性の1つまたは複数が達成され、
電気化学センサは、狭すぎない溶媒窓を示し、当該溶媒窓は、少なくとも1.5eVであり、かつ3.5eV以下(例えば、少なくとも1.75eV、2.0eV、または2.25eV、および/または3.25eV以下、3.0eV以下、または2.75eV以下、および/またはこれらの上限値および下限値のあらゆる組み合わせ)の電位範囲を有し、ここで溶媒窓は、±0.4mAcm
-2の間の電流密度を有すると定義され、
電気化学センサは、大きすぎない電気容量を示し、当該電気容量は、10μFcm
-2から50μFcm
-2(例えば、少なくとも12μFcm
-2、15μFcm
-2、または18μFcm
-2、および/または40μFcm
-2以下、30μFcm
-2以下、または25μFcm
-2以下、および/またはこれらの上限値および下限値のあらゆる組み合わせ)の範囲内にあり、
電気化学センサは、対象種に関連する酸化還元ピークの位置に1つまたは複数の干渉ピークを生成せず(例えば、感知表面は、酸化還元ピークが生じる位置で酸素は還元されないように十分に少ない量の非ダイヤモンド炭素を含む)、
電気化学センサは、対象種に関連する酸化還元ピークに関し、(例えば、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、0.1%、1%、2%、3%、4%、7%、または13%の溶液中の対象種の濃度で)少なくとも2.5の、好ましくは少なくとも3、4、5、6、7、または8の、信号対バックグラウンド比を示す。
【0008】
本発明は、制御された量の非ダイヤモンド炭素を、ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面に備えることに基づく。非ダイヤモンド炭素サイトに結合した電気化学的に活性な表面基は、対象種に関連する酸化還元ピークを生成するために備えられ、対象種は、使用時に当該対象種を含有する溶液が感知表面と接触するよう配置された際、非ダイヤモンド炭素サイトに結合した電気化学的に活性な表面基と反応する。酸化還元ピークの位置および強度の一方、または両方に基づいて、さまざまな異なる種類の電気化学測定を、良好な信号対ノイズ比で、容易かつ正確に行うことが可能である。驚くべきことに、そのような電気化学センサ構造は、電気化学的に不活性なホウ素ドープダイヤモンド材料と、電気化学的に活性な表面基を有する電気化学的活性のより高い非ダイヤモンド炭素という、有益な特徴を効果的に兼ね備えることが見出された。当該構造の、溶媒窓および電気容量パラメータといった電気化学的特性は、ホウ素ドープダイヤモンド材料とガラス状炭素の中間である。そのような構造は、不要なバックグラウンド信号、および/または溶存酸素といった種に由来する干渉ピークを伴うことなく、酸化還元ピークを生成することができる。
【0009】
本電気化学センサ技術の1つの用途は、pH感知である。この場合、pHと共に電位が変化する酸化還元ピークを有する、電気化学的に活性な表面基が付与される。電気化学センサは、電気化学的に活性な表面基の酸化還元ピークの位置に基づいて、pH測定値を与えるよう構成されている処理装置を備える。例えば、ホウ素ドープダイヤモンド電極を処理して、キノン基といった電気化学的に活性なカルボニル含有基で官能化された非ダイヤモンド炭素サイトの配列を、形成することができることが見出された。キノン基が十分に付与されると、その結果、少なくとも2から10に亘るpH範囲で、ネルンスト応答または近ネルンスト応答(すなわち、応答勾配は−0.059±0.01)であり得る、線形なpH応答を達成することができる。そのようなpHセンサは、正確で、かつ再現性のあるpH測定値(例えば、少なくとも1、0.5、または0.1のpH単位までのpH精度)が得られるよう構成することができる。
【0010】
同様のpH官能性は、非官能化ガラス状炭素電極に関してすでに報告されている。しかし、ガラス状炭素上に自然に存在するキノン基の触媒活性は、キノンの還元が起こる電位範囲内で酸素の還元が起こるような触媒活性であり、したがって、溶存酸素由来の干渉を防ぐために、ガラス状炭素電極を用いて測定を行う前に、試料を完全に脱気(例えば、少なくとも20分間)しなければならない。一方、ホウ素ドープダイヤモンド材料の触媒活性は低く、キノンの還元が起こる電位範囲内で酸素の還元は起こらない。さらに、驚くべきことに、制御された少量の非ダイヤモンド炭素を触媒活性のないホウ素ドープダイヤモンド電極の表面へ導入し、非ダイヤモンド炭素材料上にキノン基といった触媒活性表面基を形成するよう処理すると、そのような電極は、依然として十分に不活性であり、依然として線形なpH応答を与えつつ、キノンの還元が起きる関心領域内で酸素の還元が起きないことが見出された。この開発により、例えば、少なくとも20分間の試料の脱気を必要とせず、数秒間のうちにpH測定値を得ることができるpHセンサが提供される。さらに、試料の脱気が不可能な分野で使用可能なpHセンサも提供される。さらに、壊れやすく、継時的に電位ドリフトの影響を受け、かつNa
+およびLi
+といった干渉イオンがpH応答に影響を与えるアルカリ誤差(これは、例えば、とりわけ海水飼料で問題となる)の影響を受ける標準的なガラスpHセンサに対し、新規のダイヤモンドベースpHセンサは、いくつかの利点を有する。したがって、新規のダイヤモンドベースpHセンサ技術は、例えば下記の利点:
溶存酸素と無関係であり、脱気工程を必要としないこと、
例えばNa
+、Li
+、ならびに微量のCd
2+、Pb
2+、Hg
2+、Ca
2+、Ba
2+、および/またはMg
2+のアルカリ金属誤差による干渉がないこと、
標準的なpH測定と同じ計測方法で機能し、この場合、電位軸上の電流のピーク電位は、基準電極に対して測定される溶液のpHに比例すること、
少なくとも200℃を超える温度に対し、高い安定性および再現性を有すること、
pH発生電極を使用する局所的/その場測定において、本技術自体を基準として使用することができること
を含む、いくつかの主要な利点を有する。
【0011】
前述したpHセンサ用途に加え、本発明の官能化ダイヤモンド電気化学センサは、さまざまな対象種(例えばClO
-)の電気化学的な検出および測定に使用することができる。例えば、非ダイヤモンド炭素サイトの配列は、酸化還元ピークを生成することができ、ここで酸化還元ピークの強度は、溶液中の対象種の濃度に比例する。この場合、電気化学センサは、酸化還元ピークの強度に基づいて、関心のある対象種の濃度の測定値を与えるよう構成されている処理装置を備えることができる。さらに、そのような感知用途は、pHセンサ用途に関連して前述したものと同様の、有益な技術的効果による利益を享受する。すなわち、本明細書に記載されている電気化学センサ構造は、電気化学的に不活性なホウ素ドープダイヤモンド材料と、電気化学的に活性な表面基を有する電気化学的活性のより高い非ダイヤモンド炭素という、有益な特徴を効果的に兼ね備え、結果として、不要なバックグラウンド信号および/または干渉ピークを伴うことなく、関心のある対象種の酸化還元ピークを生成することを可能にする。したがって、低濃度であっても容易に対象種を検出かつ測定できるような、溶液中の対象種に関する高い信号対バックグラウンド比を達成することが可能である。sp2/sp3ハイブリッド炭素センサ構造も、非官能化ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極によって信号が生成されない対象種を、低濃度で、容易に、検出かつ測定することができる。
【0012】
本明細書に記載されているsp2/sp3ハイブリッド炭素BDD電極構造も、電気絶縁性ダイヤモンド支持マトリクス中に配置されることによる利益を享受する。sp2/sp3ハイブリッド炭素BDD電極を非ダイヤモンド支持マトリクス中に配置すると、特定の用途での使用時に、信号対バックグラウンド比が変動し得ることが見出されている。これは、非ダイヤモンド支持マトリクスを(例えば、研磨、または化学的に腐食性のある液体へさらすことによって)継時的に分解し、ホウ素ドープダイヤモンド電極の側部を露出させ、過剰な非ダイヤモンド炭素が露出するよう、感知表面に露出する非ダイヤモンド炭素量を増加させことができ、結果として、バックグラウンド信号が増加し、信号対バックグラウンド比が減少するためである。この問題は、sp2/sp3ハイブリッド炭素BDD電極構造を、電気絶縁性ダイヤモンド支持マトリクス中に埋め込むことにより、避けることができる。そのような構成は、非官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極によって信号が生成されない対象種を、容易に検出および測定するための、次の2つの有益な特徴:(i)ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面における、制御/最適化された非ダイヤモンド炭素濃度によって、対象種に関する高い信号対バックグラウンド比が得られること、および(ii)ホウ素ドープダイヤモンド電極の側面が使用時に露出されず、その結果非ダイヤモンド炭素の露出量が変化するよう、ホウ素ドープダイヤモンド電極を電気絶縁性ダイヤモンド支持マトリクス中へ埋め込むことを兼ね備える。
【0013】
ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面において必要とされる非ダイヤモンド炭素は、主に次の2つの方法で与えられ得る:(i)ダイヤモンド成長時にホウ素ドープダイヤモンド材料中に取り込まれた、内在性非ダイヤモンド炭素(ここで、ダイヤモンドの成長は、感知表面において所望のレベルの非ダイヤモンド炭素を達成するよう制御される)、または(ii)例えばレーザパターニングにより、合成後にホウ素ドープダイヤモンド材料を表面処理し、制御された少量の非ダイヤモンド炭素を感知表面に与える。
信号対バックグラウンド比の最適化を達成するために、感知表面において必要とされる非ダイヤモンド炭素の具体的な量は、検出および測定されるべき、具体的な対象種および濃度範囲に依存する。個別の対象種に対する非ダイヤモンド炭素の必要量は、さまざまな異なる濃度の非ダイヤモンド炭素を感知表面に備えるホウ素ドープダイヤモンド材料を製造し、かつそれらを検査して、関心のある対象種に対する最適な組成を決定することによって、容易に決定することができる。
【0014】
本発明の上記の態様は、使用時にホウ素ドープダイヤモンド電極の端部が露出して、その結果、非ダイヤモンド炭素の露出量を変化させることがないことを確実にするように、電気絶縁性ダイヤモンド支持マトリクスを利用する。ホウ素ドープダイヤモンド電極基材の非ダイヤモンド炭素含有量が非常に少ない場合、電気絶縁性ダイヤモンド支持マトリクスを必要とすることなく、この問題は軽減されることは言うまでもない。これは、そのような電極基材を用いる側端部の露出は、非ダイヤモンド炭素の露出量を著しく増加させないためである。すなわち、ベースのホウ素ドープダイヤモンド電極が、関心のある対象種に対し不活性であり、非ダイヤモンド炭素パターンが、そのような不活性ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面上に導入される場合、結果としてそのような電極は、必ずしも電気絶縁性支持マトリクス中に封入される必要はない。なお、レーザカッティングといった、非ダイヤモンド炭素が生じる方法によってBDD電極が形成される場合、結果としてそのような方法は、使用時の露出を避けるために除去しなければならないか、または確実に封入しなければならない非ダイヤモンド炭素を、電極側面にも発生させ得る。
【0015】
非ダイヤモンド炭素の表面パターンが配置されたホウ素ドープダイヤモンド電極の多くは、ホウ素含有量がホウ素原子1×10
20個cm
-3からホウ素原子7×10
21個cm
-3の範囲内(例えば、ホウ素原子1×10
20個cm
-3からホウ素原子2×10
21個cm
-3の範囲内)で、かつ少なくとも露出表面のsp2炭素含有量が、材料のラマンスペクトルで非ダイヤモンド炭素ピークを示さないように十分に少ない、ホウ素ドープダイヤモンド材料を含んでもよい。そのような不活性BDD電極基材を用い、制御された少量の非ダイヤモンドsp2炭素を、触媒不活性なsp3炭素バックグラウンド上に導入することが可能である。
本発明をより良く理解し、かつ本発明が如何にして実施され得るかを示すため、添付の図面を参照し、本発明の実施形態をほんの一例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】4種の異なる材料:Element Six Ltdから入手可能な、非ダイヤモンド炭素含有量が非常に少ないEAグレード多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料;Element Six Ltdから入手可能な、EAグレードよりも非ダイヤモンド炭素含有量が高いEPグレード多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料;ガラス状炭素;および白金に関する、電流密度と印加電位の関係を示す図表である。
【
図2】非ダイヤモンド炭素含有量の少ない多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料の13%NaOCl中での応答を示し、まったく官能化されていない高品質なホウ素ドープダイヤモンド材料によっては信号が得られない(溶媒窓端に近接して信号が発生し得るにもかかわらず、表面が電気化学的に非常に不活性であるという事実に起因して、信号は外側へ押し出される)ことを示唆する図である。
【
図3】少量の非ダイヤモンド炭素を含有するよう、意図的に成長させた多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料のラマンスペクトルを示す図である。
【
図4】レーザパターニングにより処理し、制御された量の非ダイヤモンド炭素を材料表面上に導入した、非ダイヤモンド炭素含有量の少ない多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料のラマンスペクトルを示す図である。
【
図5】5種の異なる電極:制御された量の非ダイヤモンド炭素を含有するよう、意図的に成長させた多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料;レーザパターニングにより処理し、制御された量の非ダイヤモンド炭素を材料表面上に導入した、非ダイヤモンド炭素含有量の少ない多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料;ガラス状炭素;著しく多量の非ダイヤモンド炭素を含有するナノダイヤモンド;および多量の非ダイヤモンド炭素を含有するグラファイトペーストに関する、対象種ClO
-に対する応答を示す図であり、制御された量の非ダイヤモンド炭素を含有するよう、意図的に成長させた多結晶ホウ素ドープダイヤモンド電極の信号対バックグラウンド比が5であることを説明する図である。
【
図6】
図5と同じデータを示す図であり、レーザパターニングにより処理し、制御された量の非ダイヤモンド炭素を材料表面上に導入した、非ダイヤモンド炭素含有量の少ない多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料の信号対バックグラウンド比が8.3であることを説明する図である。
【
図7】
図5と同じデータを示す図であり、ガラス状炭素電極の信号対バックグラウンド比が0.8であることを説明する図である。
【
図8】
図5と同じデータを示す図であり、著しく多量の非ダイヤモンド炭素を含有するナノダイヤモンド電極の信号対バックグラウンド比が2であることを説明する図である。
【
図9】
図5と同じデータを示す図であり、多量の非ダイヤモンド炭素を含有するグラファイトペースト電極の信号対バックグラウンド比が1.8であることを説明する図である。
【
図10】NaOClのスペシエーションがpHと共にどのように変化するかを示す図である。
【
図11(a)】アルミナ研磨した酸素終端多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料表面のX線光電子スペクトル、および異なる表面基による寄与を示す図である。
【
図11(b)】アルミナ研磨した酸素終端多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料をさらに0.1MのH
2SO
4中、+3Vで60秒間分極処理した材料表面のX線光電子スペクトルを示す図である。
【
図12(a)】アルミナ研磨したホウ素ドープダイヤモンド電極の開回路電位測定データを示す図である。
【
図12(b)】0.1MのH
2SO
4中、+3Vで60秒間分極させたホウ素ドープダイヤモンド電極の開回路電位測定データを示す図である。
【
図13】さまざまな種類のカルボニル含有基を含む、ガラス状炭素電極上に存在するさまざまな表面官能基を示す図である。
【
図14】0.1MのH
2SO
4中、+3Vで10秒間分極させたガラス状炭素の開回路電位測定結果を示す図であり、挿入図はpHと開回路電位の関係を示す図表である。
【
図15】ガラス封止多結晶ホウ素ドープダイヤモンドマクロ電極へ導入されるレーザ特性を示す図である。
【
図16(a)】1mmの多結晶ホウ素ドープダイヤモンド電極中のレーザパターンを示す図である。
【
図16(b)】1mmの多結晶ホウ素ドープダイヤモンド電極中のレーザパターンを示す図である。
【
図16(c)】ホウ素ドープダイヤモンド電極の干渉分光データを示し、幅が約45μmで、深さが約50μmのレーザ加工されたピットを示唆する図である。
【
図17(a)】3種の異なる電極:レーザ加工された多結晶ホウ素ドープダイヤモンド電極;非レーザ加工多結晶ホウ素ドープダイヤモンド電極;およびガラス状炭素電極の溶媒窓を示す図である。
【
図17(b)】3種の異なる電極:レーザ加工された多結晶ホウ素ドープダイヤモンド電極;非レーザ加工多結晶ホウ素ドープダイヤモンド電極;およびガラス状炭素電極の電気容量を示す図である。
【
図18(a)】レーザ加工および酸洗浄された電極に関するOCP応答を示す図である。
【
図18(b)】電極を0.1MのH
2SO
4中、+3Vで10秒間分極させた後のOCP応答を示す図である。
【
図19】キノンのpH感応性電子移動特性を説明する図である。
【
図20(a)】ガラス状炭素ベア電極について、異なるpHの溶液中で矩形波ボルタンメトリーを実施した結果を示す図である。
【
図20(b)】ガラス状炭素ベア電極について、キノン還元ピークのネルンストpH応答を説明する図である。
【
図21】X線光電子分光法を実施して、レーザパターニングの前および後に多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料の上部3nmを分析した結果を示し、レーザ加工後にsp2ピークが発生することを示唆する図である。
【
図22】レーザパターン加工されたホウ素ドープダイヤモンド電極のC=O基に関する、データ点分解能が3μmの高分解能X線光電子分光画像法を示し、C=O基がレーザピット中により多く見られ、したがってより多くのキノン基が存在する可能性が高いことを示す図である。
【
図23】非レーザ加工ホウ素ドープダイヤモンド材料と比較した、レーザピットのラマンスペクトル分析を示し、sp2に明らかな増加がないことを示唆し、したがってレーザパターン領域においても電極の大部分がsp3ダイヤモンドとして残存することを示唆する図である。
【
図24(a)】レーザパターン加工された多結晶ホウ素ドープダイヤモンド表面に対する、キノン還元の矩形波ボルタンメトリーの結果を示す図である。
【
図24(b)】酸性pH溶液に関してネルンスト応答からのずれを示唆する図である。
【
図25(a)】レーザパターン加工され、かつアノード分極した多結晶ホウ素ドープダイヤモンド表面に対する、キノン還元の矩形波ボルタンメトリーの結果を示す図である。
【
図25(b)】少なくとも2から10のpH範囲に亘るネルンストpH応答を示唆する図である。
【
図26】レーザパターン加工され、かつ0.1Mの硫酸中、7mAで60秒間アノード分極させた、直径1mmの複数の多結晶ホウ素ドープダイヤモンドマクロ電極に関する結果を示し、全ての電極が類似のpH応答を示す再現性を示唆する図である。
【
図27】1つの電極について20回反復測定した、pH2におけるpH測定結果を示し、一旦分極させたダイヤモンドベースpH感知電極は安定であることを説明する図である。
【
図28(a)】ガラス状炭素電極に関する、溶存鉛(Pb
2+)の存在中での、pH3におけるpH応答を示し、ガラス状炭素電極と比較し、ダイヤモンドベース電極の、信号対ノイズおよびピーク安定性は、この環境において著しく向上することを示唆する図である。
【
図28(b)】ダイヤモンドベース電極に関する、溶存鉛(Pb
2+)の存在中での、pH3におけるpH応答を示し、ガラス状炭素電極と比較し、ダイヤモンドベース電極の、信号対ノイズおよびピーク安定性は、この環境において著しく向上することを示唆する図である。
【
図28(c)】ガラス状炭素電極に関する、溶存鉛(Pb
2+)の存在中での、pH7におけるpH応答を示し、ガラス状炭素電極と比較し、ダイヤモンドベース電極の、信号対ノイズおよびピーク安定性は、この環境において著しく向上することを示唆する図である。
【
図28(d)】ダイヤモンドベース電極に関する、溶存鉛(Pb
2+)の存在中での、pH7におけるpH応答を示し、ガラス状炭素電極と比較し、ダイヤモンドベース電極の、信号対ノイズおよびピーク安定性は、この環境において著しく向上することを示唆する図である。
【
図28(e)】ガラス状炭素電極に関する、溶存鉛(Pb
2+)の存在中での、pH11におけるpH応答を示し、ガラス状炭素電極と比較し、ダイヤモンドベース電極の、信号対ノイズおよびピーク安定性は、この環境において著しく向上することを示唆する図である。
【
図28(f)】ダイヤモンドベース電極に関する、溶存鉛(Pb
2+)の存在中での、pH11におけるpH応答を示し、ガラス状炭素電極と比較し、ダイヤモンドベース電極の、信号対ノイズおよびピーク安定性は、この環境において著しく向上することを示唆する図である。
【
図29(a)】ガラス状炭素電極に関する、溶存カドミウム(Cd
2+)の存在中での、pH3および11におけるpH応答を示し、ガラス状炭素電極と比較し、ダイヤモンドベース電極の、信号対ノイズおよびピーク安定性は、この環境においても向上することを示唆する図である。
【
図29(b)】ダイヤモンドベース電極に関する、溶存カドミウム(Cd
2+)の存在中での、pH3および11におけるpH応答を示し、ガラス状炭素電極と比較し、ダイヤモンドベース電極の、信号対ノイズおよびピーク安定性は、この環境においても向上することを示唆する図である。
【
図29(c)】ガラス状炭素電極に関する、溶存カドミウム(Cd
2+)の存在中での、pH3および11におけるpH応答を示し、ガラス状炭素電極と比較し、ダイヤモンドベース電極の、信号対ノイズおよびピーク安定性は、この環境においても向上することを示唆する図である。
【
図29(d)】ダイヤモンドベース電極に関する、溶存カドミウム(Cd
2+)の存在中での、pH3および11におけるpH応答を示し、ガラス状炭素電極と比較し、ダイヤモンドベース電極の、信号対ノイズおよびピーク安定性は、この環境においても向上することを示唆する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、電気化学分析に関して、なぜ他の材料よりも、高品質で、非ダイヤモンド炭素含有量の少ないダイヤモンド材料が有利であるかを説明する。電流密度と印加電位の関係を示す図表からわかるように、より低いグレードのホウ素ドープダイヤモンド材料、ガラス状炭素、または白金といった金属の電極と比較すると、そのような材料は、広くて平坦な溶媒窓を有する。これにより、大きな検出窓、低いバックグラウンド電流、および優れた信号分解能が得られるだけでなく、耐腐食性および耐汚染性、ならびに過酷な環境中で動作する能力ももたらされる。
【0018】
しかし、この安定性および不活性特性の欠点は、電極触媒活性の欠如であり、電極材料は、OCl
-といった特定の対象種を検出することができない。
図2に示される、13%のNaOcl中の、非ダイヤモンド炭素含有量の少ない多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料に関する応答の欠如がこれを説明し、高品質のホウ素ドープダイヤモンド材料は、官能化なしでは信号をもたらさないことを示唆する(溶媒窓端の近傍に信号が生成し得るにもかかわらず、表面が電気化学的に非常に不活性であるという事実に起因して信号は外側へ押し出される)。
非ダイヤモンド炭素は、ダイヤモンドが成長する間に、ダイヤモンド格子中に取り込まれ得ることが知られている。
図3は、少量の非ダイヤモンド炭素を含有するよう、意図的に成長させた多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料のラマンスペクトルを示す。sp3ダイヤモンド格子、ホウ素ドープ、および非ダイヤモンド炭素に起因するピークが明確に見える。
【0019】
非ダイヤモンド炭素は、レーザパターニングといった合成後の処理により、ダイヤモンド材料表面上に導入され得ることも知られている。
図4は、レーザパターニングにより処理し、制御された量の非ダイヤモンド炭素を材料表面上に導入した、非ダイヤモンド炭素含有量の少ない、多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料のラマンスペクトルを示す。ダイヤモンドの波形は、大きなsp3炭素のピークを示すが、上に重なる波形は、レーザの作用による表面の黒鉛化に起因する非ダイヤモンド炭素のピークを示す。なお、レーザパターニング後の酸洗浄により、sp2炭素を除去することで、非ダイヤモンド炭素のピークを減少させることができ、残存する非ダイヤモンド炭素は強固にダイヤモンド電極に結合する。
例えばMurata et al., “Electrochemical detection of free chlorine at highly boron-doped diamond electrodes”, Journal of Electroanalytical Chemistry, Volume 612, Issue 1, 1 January 2008, Pages 29-36に記載されているように、ホウ素ドープダイヤモンド電極は、ClO
-といった種を検出可能であることも知られている。高品質で、非ダイヤモンド炭素含有量の少ないホウ素ドープダイヤモンド材料を電極に使用する場合、当該電極は、触媒活性が欠如するため、そのような対象種に対して不活性であることが
図2から明らかなように、ここで、ClO
-に関する信号の生成は、ホウ素ドープダイヤモンド電極中の非ダイヤモンド炭素に起因し得る。
【0020】
本発明の発明者らは、著しく多量の非ダイヤモンド炭素を含むホウ素ドープダイヤモンド電極を用いて、ClO
-といった種に関する信号を生成することができるが、非ダイヤモンド炭素の存在により、著しいバックグラウンド信号も生成され、これがそのような対象種の検出感度および測定感度の減少を導くことに気が付いた。驚くべきことに、本発明の発明者らは、制御された非常に少量の非ダイヤモンド炭素をホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面に付与すると、その結果十分な非ダイヤモンド炭素が付与され、バックグラウンドが過度に増大することなく、ClO
-といった種に関して良好な信号が生成されることを見出した。すなわち、高品質で、非ダイヤモンド炭素含有量の少ないホウ素ドープダイヤモンド材料によって対象種を検出することができない、そのような感知用途を目的とする非ダイヤモンド炭素含有量には、適切な範囲が存在する。電気化学的に活性な、適切な表面基を感知表面の非ダイヤモンド炭素上に付与することで、酸化的前処理(例えば、電気化学的酸化処理)が、そのような非ダイヤモンド炭素官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極に関し、安定でかつ再現性のある信号を得る助けとなることも見出された。
【0021】
本発明の仕組みを検討するための別の方法は、ホウ素ドープダイヤモンド電極の溶媒窓への非ダイヤモンド炭素の効果に関するものである。
図1に示されるように、非ダイヤモンド炭素濃度が増大するにつれ、ホウ素ドープダイヤモンド材料の溶媒窓の幅は縮小し、かつ平坦さは損なわれる。溶媒窓端の近傍に電気化学的ピークを有する対象種に関し、ホウ素ドープダイヤモンド材料の感知表面に過剰量の非ダイヤモンド炭素が付与されると、溶媒窓は過度に縮小し、かつ対象種に関する信号は、水電解のバックグラウンド信号中に埋もれて見えなくなる。反対に、付与される非ダイヤモンド炭素量が少なすぎると、溶媒窓は十分に広いが、非ダイヤモンド炭素をわずかしか含まないか、または非ダイヤモンド炭素を含まないホウ素ドープダイヤモンド材料に対して、不活性な対象種に関する信号は生成されない。水よりもやや反応性が高いだけの、ClO
-といった対象種に関しては、同じ電位において、ホウ素ドープダイヤモンド電極の反応性を、ホウ素ドープダイヤモンド電極が水と反応するほど過剰に増大させずに、ホウ素ドープダイヤモンド電極の対象種に対する反応性を増大させ、対象種由来の信号をマスクするという、微妙なバランスを取らなければならない。
【0022】
最適化された信号対バックグラウンド比を達成するために、感知表面において必要とされる非ダイヤモンド炭素の具体的な量は、検出および測定するべき具体的な対象種に依存する。特定の対象種を目的として必要とされる非ダイヤモンド炭素の量は、さまざまな異なる濃度の非ダイヤモンド炭素を感知表面に備えるホウ素ドープダイヤモンド材料を製造し、かつそれらを検査して、関心のある対象種に対する最適な組成を決定することによって、容易に決定することができる。例えば、信号対バックグラウンド比、およびバックグラウンド電流密度は、対象種の濃度が0.1%、1%、2%、3%、4%、7%、または13%の溶液を用いて測定され得る。そのような対象種の試験溶液は、本明細書に記載されているホウ素ドープダイヤモンド電極の官能性を明らかにするために使用することができるが、本明細書に記載されている官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極は、100万分の1まで、さらには10億分の1の濃度レベルまで、対象種を容易に検出および測定することができることに留意すべきである。したがって、実際の適用においては、本明細書に記載されている官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極は、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、または100ppmの対象種濃度(多くの用途で0から10ppmの間が特に関心のある範囲である)における、バックグラウンド信号レベルおよび信号対バックグラウンド比に適合し得る。
【0023】
図5は、5種の異なる電極:制御された量の非ダイヤモンド炭素を含有するよう、意図的に成長させた多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料;レーザパターニングにより処理し、制御された量の非ダイヤモンド炭素を材料表面上に導入した、非ダイヤモンド炭素含有量の少ない多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料;ガラス状炭素;著しく多量の非ダイヤモンド炭素を含有するナノダイヤモンド;および多量の非ダイヤモンド炭素を含有するグラファイトペーストに関する、対象種ClO
-に対する応答を示す。信号対バックグラウンド比は、
図5に示されるように算出することができ、制御された量の非ダイヤモンド炭素を含有するよう、意図的に成長させた多結晶ホウ素ドープダイヤモンド電極の信号対バックグラウンド比は、5であることが見出される。なお、多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料は、信号対バックグラウンド比をより高い値に増大させるよう、さらに最適化されてもよい。なお、ClO
-は、従来の感知システムを用いて適切な信号対ノイズ比を得ることが難しい、非常に難しい対象種の一例である。
【0024】
図6は、
図5と同じデータを示し、レーザパターニングにより処理し、制御された量の非ダイヤモンド炭素を材料表面上に導入した、非ダイヤモンド炭素含有量の少ない多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料の信号対バックグラウンド比が、8.3であることを説明する。
【0025】
したがって、
図5および
図6は、合成中に、または合成後の処理により、制御された量の非ダイヤモンド炭素を、非ダイヤモンド炭素含有量の少ないホウ素ドープダイヤモンド材料の感知表面上に付与するよう、ホウ素ドープダイヤモンド材料中へ導入された、内在性非ダイヤモンド炭素によって、高い信号対バックグラウンド比が達成され得ることを説明した。
【0026】
一方、
図7から
図9は、
図5と同じデータを示し、信号対バックグラウンド比が、ガラス状炭素電極でわずか0.8、著しく多量の非ダイヤモンド炭素を含有するナノダイヤモンド電極で2、かつ多量の非ダイヤモンド炭素を含有するグラファイトペースト電極で1.8であることを説明する。
上記を踏まえると、ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面における非ダイヤモンド炭素含有量を制御することにより、信号対バックグラウンド比を大幅に改善することができ、その結果、ClO
-といった対象種に関して、より高い感度を達成できることが明らかである。著しく多量の炭素を含むダイヤモンドが達成することができる信号対バックグラウンド比は2であるが、制御された少量の非ダイヤモンドを付与することにより達成することができる信号対バックグラウンド比は、少なくとも2.5であり、より好ましくは少なくとも3、4、5、6、7、または8である。さらに、他の電極材料に関するバックグラウンド信号およびピーク電流密度は±10mA/cm
2を超えるが、制御された少量の非ダイヤモンドを付与することにより、対象種に関し、±10mA/cm
2、±8mA/cm
2、±6mA/cm
2、±4mA/cm
2、または±3mA/cm
2以下の、ピーク電流密度におけるバックグラウンド電流密度を達成することができる。
【0027】
前述の効果は、対象種ClO
-について説明された。従来の遊離塩素の検出は、時間がかかり、かつオフラインで実施される複数の工程が関与する、滴定分析またはUV分析を含む。一方、電気化学検出は、オンラインで実施することができ、安価であり、速く、かつ信頼性がある。原理上、遊離塩素は、次の反応により、電気化学的に容易に検出される。
【化1】
【0028】
しかし、溶液中で遊離塩素と単純に接触することにより酸化物を形成するため、従来の電極材料は適しておらず、電極は、不動態化しやすく、かつ汚染されやすい。さらに、自然に存在する酸素の還元も問題となり得る。一方、本発明の官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極は、そのような問題が起こりにくく、そのような電極の非ダイヤモンド炭素含有量が適切に制御されると、優れた信号対バックグラウンド応答をもたらすことが示された。
前述の効果は、ClO
-対象種に関して、特に−0.5から−1.5ボルトの間におけるこの種の単一のピークを利用して説明されたが、非ダイヤモンド炭素による触媒作用を受けるが、非ダイヤモンド炭素をわずかに含むかまたは非ダイヤモンド炭素を含まないホウ素ドープダイヤモンド材料に対して不活性な、他の対象種に関しても当該効果を利用することができることは理解されるだろう。
【0029】
前述の発見は、それ自体が電気化学感知技術への重要な貢献である。また、本発明の発明者らは、本明細書に記載されている、低く制御された非ダイヤモンド炭素含有量を含むホウ素ドープダイヤモンド電極の官能性は、徐々に分解する可能性があり、かつ電極間で変化する可能性があることも見出した。これらの問題は、ガラス封止またはエポキシ封止されたセンサ構成中に組み込まれた官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極で特に見られた。ガラスまたはエポキシを備える材料は、使用時に、より多くの非ダイヤモンド炭素が官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極の端部周囲に露出する、官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極の端部を中心に、分解し得ると考えられる。ホウ素ドープダイヤモンド電極を同一平面で非ダイヤモンド支持体中に封止することは難しく、繰り返される研磨および/または強いエッチング液は、ホウ素ドープダイヤモンド電極の側壁がより広範に露出する原因となる。最適な応答を達成するために必要とされる非ダイヤモンド炭素量は、少量であるため、感知表面において露出する非ダイヤモンド炭素の最適量から著しく逸脱する原因となり得、信号対バックグラウンド比が低下する原因となる。したがって、本発明の発明者らは、この問題を防ぐためには、官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極を電気絶縁性ダイヤモンド支持マトリクスに埋め込むことが有益であることに気が付いた。電気絶縁性ダイヤモンド支持マトリクスは、ホウ素ドープダイヤモンド電極材料を劣化させず、その結果、露出する非ダイヤモンド炭素の量は安定な状態を維持する。
【0030】
ホウ素ドープダイヤモンド電極を電気絶縁性ダイヤモンド支持マトリクス中に埋め込む方法は、本分野で知られている(例えば、WO2005/012894およびWO2012/156203を参照)。理想的には、ホウ素ドープダイヤモンド電極は、電気絶縁性ダイヤモンド支持マトリクスと同一平面になるよう埋め込まれる。sp2結合非ダイヤモンド炭素は、ダイヤモンド中で触媒の活性化を実現することが示されており、過硫酸塩、オゾン、次亜塩素酸、および次亜塩素酸塩といった種の検出を可能にする。本明細書における新しい発見は、ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面における、低く制御された非ダイヤモンド炭素含有量と、ダイヤモンド封入の組み合わせにより、低濃度のそのような対象種を容易に検出および測定可能な、電極の構成を提供できることである。例えば、本発明のダイヤモンドセンサヘッドの構成は、0から10ppmの範囲の遊離塩素を検出するために使用することができる。さらに、そのような官能化ホウ素ドープダイヤモンド電極は、使用時に安定であることが見出された。
【0031】
本明細書に記載されているダイヤモンド電気化学センサヘッドを製造するために、下記の1つまたは複数が例として挙げられる、さまざまな製造技術を利用することができる。
1.NDCの、ドット、バンド、または他の形状のマイクロアレイを、高品質ホウ素ドープダイヤモンド支持マトリクス中に備え、例えばレーザパターニングにより、信号電流を最大化してもよい。官能化領域は、バックグラウンド反応に対する検体信号を最大化するよう制御されてもよい。
2.ホウ素ドープダイヤモンド電極にくぼみまたは溝を形成してsp2が豊富なダイヤモンド層を過成長させることにより、sp2が豊富なダイヤモンド領域を与えることができ、次いで、ホウ素ドープダイヤモンド電極中に形成された元のくぼみまたは溝中に、分離したsp2が豊富なダイヤモンド領域が残るよう、再びsp2が豊富なダイヤモンド層を加工する。
3.ダイヤモンド合成条件、形態、およびメタン濃度を制御し、当該グレードのダイヤモンド材料に固有なsp2が豊富なダイヤモンドを実現することができる。
4.制御された合成後の表面加工を目的として、ホウ素ドープダイヤモンド材料中のsp2炭素領域を露出させることができる。
5.熱処理、レーザマイクロマシニング、または溶銑処理(例えば、金属ナノ粒子の蒸着と、それに続く加熱により黒鉛化を引き起こす)といった合成後の黒鉛化技術をホウ素ドープダイヤモンド基材に適用してもよい。
6.残存する非ダイヤモンド炭素が頑丈となるよう、合成後の酸化処理を適用し、出発材料が露出する非ダイヤモンド炭素を過剰に有する場合に、余剰の非結合sp2炭素を除去すること、および/またはダイヤモンド電極に弱く結合したsp2炭素を除去することができる。
【0032】
前述の方法の一部は、合成中に形成した内在性非ダイヤモンド炭素を一部含むホウ素ドープダイヤモンド材料を利用するが、WO2013/135783に記載されているように、制御された少量の非ダイヤモンドを、再現性の高い方法で後に導入することを可能にし、かつ必要な量の非ダイヤモンド炭素をダイヤモンド合成工程から切り離すため、いくつかの方法は、ホウ素含有量が多く、sp2炭素含有量が少ないホウ素ドープダイヤモンド基材を出発材料とする。したがって、非ダイヤモンド炭素表面パターンが配置されたホウ素ドープダイヤモンド電極の多くは、ホウ素含有量がホウ素原子1×10
20個cm
-3からホウ素原子7×10
21個cm
-3の範囲であり、かつ材料のラマンスペクトルにおいて非ダイヤモンド炭素のピークを示さないほどsp2炭素含有量が十分に少ない、ホウ素ドープダイヤモンド材料を含んでもよい。
【0033】
非ダイヤモンド炭素をわずかに含むか、または非ダイヤモンド炭素を含まない、不活性なホウ素ドープダイヤモンドを出発材料とすることの、さらなる利点は、非ダイヤモンド炭素濃度の制御に加え、非ダイヤモンド炭素領域間の間隔が良好に制御されるよう、材料を、次いで非ダイヤモンド炭素でパターン加工することができることである。例えば、非ダイヤモンド炭素領域がマクロ電極アレイとして機能するよう、非ダイヤモンド炭素領域は、おおよそ拡散経路の長さと等しい間隔を隔てることができる。これは、ホウ素ドープダイヤモンド基材は対象種と相互作用しないが、非ダイヤモンド炭素の分離領域は対象種と相互作用する場合に可能になる。この点に関し、不活性ホウ素ドープダイヤモンド材料への非ダイヤモンド炭素のパターン領域は、例えばダイヤモンド合成工程によって供給されるものなど、非ダイヤモンド炭素分布がより制御されていない場合と比べ有益である。
【0034】
非ダイヤモンド炭素をわずかに含むか、または非ダイヤモンド炭素を含まない、不活性なホウ素ドープダイヤモンドを出発材料とすることの、他の利点は、そのような電極基材を用いる側端部の露出は、(レーザカッティングによりsp2炭素で被覆されていない限り)非ダイヤモンド炭素の露出量を著しくは増大させない。すなわち、ベースのホウ素ドープダイヤモンド電極が関心のある対象種に対して不活性であり、かつそのような不活性ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面上に非ダイヤモンド炭素パターンが導入される場合、必ずしもそのような電極を電気絶縁性ダイヤモンド支持マトリクス中に封入する必要はない。したがって、必ずしもダイヤモンド支持マトリクスを必要としないダイヤモンド電気化学センサヘッドを提供することができる。そのようなダイヤモンド電気化学センサヘッドは、
溶液中の対象種に対して電気化学的に不活性なホウ素ドープダイヤモンド材料から形成されるホウ素ドープダイヤモンド電極、および
ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面上に配置された非ダイヤモンド炭素サイトの配列を含み、ここでホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面上の非ダイヤモンド炭素サイトの大きさおよび分布は、
少なくとも2.5、3、4、5、6、7、または8である、溶液中の対象種の電流密度に関する信号対バックグラウンド比、および
±10mA/cm
2、±8mA/cm
2、±6mA/cm
2、±4mA/cm
2、または±3mA/cm
2以下の、対象種のピーク電流密度におけるバックグラウンド電流密度
のうちの一方または両方をダイヤモンド電気化学センサヘッドがもたらすような大きさおよび分布である。
【0035】
例えば、非ダイヤモンド炭素表面パターンが配置されたホウ素ドープダイヤモンド電極の多くは、ホウ素含有量がホウ素原子1×10
20個cm
-3から7×10
21個cm
-3の範囲内であり、かつsp2炭素含有量が、少なくとも露出表面において、材料のラマンスペクトルにおいて非ダイヤモンド炭素のピークを示さないように十分に少ない、ホウ素ドープダイヤモンド材料を含んでもよい。研磨された感知主面を用意することに加え、そのようなホウ素ドープダイヤモンド材料の端部を研磨してもよい。そのような電極基材の感知表面上に配置された非ダイヤモンド炭素サイトの配列は、それぞれ10nmから100μmの範囲内の大きさを有する、複数の分離した非ダイヤモンド炭素サイトを含んでもよい。
【0036】
本明細書に記載されているダイヤモンド電気化学センサヘッドは、1つまたは複数のさらなるホウ素ドープダイヤモンド電極を含んでもよい。例えば、ダイヤモンド電気化学センサヘッドは、非ダイヤモンド炭素で官能化されたホウ素ドープダイヤモンド電極よりも少量の非ダイヤモンド炭素を含む、1つまたは複数のさらなるホウ素ドープダイヤモンド電極を含んでもよい。非官能化電極は、官能化電極で感知すべき対象種を生成するため、および/または局所環境のpHを変化させて感知すべき対象種の濃度を最適化するために使用することができる。例えば、
図10は、NaOClのスペシエーションがpHと共にどのように変化するかを示し、高pHでClO
-が生成されることを示唆する。したがって、ClO
-の感知では、ClO
-形態が電気化学的に活性であるため、pHを10よりも高くすることが有益である。この点に関し、官能化ディスク電極周囲のリング電極といった、二次的な非官能化電極を使用し、官能化感知電極表面のpHを変化させることができる。
【0037】
センサ技術は、さまざまな用途で、関心のあるさまざまな対象種に対して使用することができる。例えば、本明細書に記載されているダイヤモンドセンサ技術は、例えば、バラスト水処理システムにおいて、1+/−0.5ppmといった狭い範囲に、塩素濃度を維持するための衛生投薬システムの一部として使用することができる。発明の概要に示され、かつ下記でより詳細に説明されるように、センサ技術は、さらにpH感知に利用することができる。
【0038】
pHは、化学的環境の調査に必須であり、そのため医薬、廃棄物管理、ならびに水および環境モニタリングを含む、多くの産業で普及している。最も普及しているpHセンサは、pH範囲が−1から12のガラスpHセンサである。ガラスpHセンサは、プロトンへの高い感度、広い分析可能なpH範囲、短い応答時間を含む、多くの有益な特徴を有し、容易に商業化できる。しかし、ガラスpHセンサは、壊れやすいこと、経時的な電位ドリフト、Na+、Li+といった妨害イオンがpH応答に影響を及ぼすアルカリ誤差(これは、例えば海水で特に問題となる)を含む、多くの欠点を有する。
【0039】
本発明の発明者らは、ホウ素ドープダイヤモンド電極をpHセンサとして使用することができるか否かを検討した。特に、キノンといったカルボニルは、水素イオンと相互作用することができ、pH依存性の還元応答を示すため、酸素終端ホウ素ドープダイヤモンド表面上のカルボニルの存在が、ホウ素ドープダイヤモンドをpHセンサとして使用するための方法の1つであることを、本発明の発明者らは明らかにした。この点に関し、
図11(a)は、アルミナ研磨した酸素終端多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料表面のX線光電子スペクトル、および異なる表面基による寄与を示す。
図11(b)は、アルミナ研磨した酸素終端多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料を、さらに0.1MのH
2SO
4中、+3Vで60秒間分極処理した材料表面のX線光電子スペクトルを示す。
図11(a)および
図11(b)に示されるスペクトルは、いずれも1mmの多結晶ホウ素ドープダイヤモンド電極に対する、スポットサイズ50μmの、C1sXPSスペクトルである。スペクトルは、アノード分極によりカルボニル基の数が増大することを示す。
【0040】
異なるpHの緩衝液中で開回路電位測定を行うことにより、電位pHセンサとしてホウ素ドープダイヤモンド電極を試験した。異なる種類のホウ素ドープダイヤモンド電極について検討を行い、かつさまざまな分極時間で検討を行った。しかし、アノード処理されたホウ素ドープダイヤモンドを用いても、明確なpH感受性は観察されず、データに再現性はなかった。この点に関し、
図12(a)および
図12(b)は、アルミナ研磨したホウ素ドープダイヤモンド電極(
図12(a))、および0.1MのH
2SO
4中、+3Vで60秒間分極させたホウ素ドープダイヤモンド電極(
図12(b))の、開回路電位測定データを示す。したがって、ホウ素ドープダイヤモンド電極によるpH感知を目的として、この開回路測定法は、少なくともこれらの種類のホウ素ドープダイヤモンド材料を用いて、実行可能な手段ではないと結論付けられる。
【0041】
ホウ素ドープダイヤモンド材料と対照的に、ガラス状炭素電極形態の非ダイヤモンド炭素をpHセンサとして使用できることが文献に提案される。この点に関し、
図13に示されるさまざまな種類のカルボニル含有基(例えば、Lu, M., Compton, G. R., Analyst, 2014, 139, 2397、およびLu, M., Compton, G. R., Analyst, 2014, 139, 4599-4605参照)を含む、さまざまな表面官能基がガラス状炭素電極上に存在する。
図14は、0.1MのH
2SO
4中、+3Vで10秒間分極させたガラス状炭素のOCPを示し、挿入図はpHとOCPの関係を示す。この点に関し、ネルンストの理論方程式は、298Kにおいて、59mVでpH単位が1変化することを定める。グラス状炭素に関し、勾配は58mVであり、ネルンスト応答を示唆する。
【0042】
ガラス状炭素の形態の非ダイヤモンド炭素は、pHセンサとして使用することができるため、本発明の発明者らは、pHの感知において、sp
2炭素をホウ素ドープダイヤモンド電極に導入する効果を検討した。この点に関し、pHを測定するために、意図的なsp
2炭素をホウ素ドープダイヤモンド電極に導入する方法として、レーザアブレーションを検討した。
図15は、ガラス封止多結晶ホウ素ドープダイヤモンドマクロ電極へ導入されるレーザ特性を示す。
図16(a)および
図16(b)も、1mmの多結晶ホウ素ドープダイヤモンド電極中のレーザパターンを示す。レーザ特性による六角形配列が形成され、続いてレーザパターニングの後に酸洗浄および超音波処理を行い、あらゆる弱いsp
2をダイヤモンド材料の表面から除去する。熱酸処理も、非ダイヤモンド炭素表面を活性化させる働きだけでなく、弱いsp
2炭素を除去する働きを有し得る。
図16(c)は、収集された干渉分光データを示し、幅が約45μm、深さが約50μmのピットを示す。
次いで、レーザパターン加工された多結晶ホウ素ドープダイヤモンド電極の電気化学を、未修飾の多結晶ホウ素ドープダイヤモンドおよびガラス状炭素と対比して試験した。
図17(a)および
図17(b)は、3種の異なる電極の溶媒窓および電気容量を示す(溶媒窓の範囲は±0.4mAcm
-2の間で規定される)。レーザパターン加工されたホウ素ドープダイヤモンド電極は、加工されていないホウ素ドープダイヤモンド材料とガラス状炭素の、中間の溶媒窓および電気容量応答を有することがわかる。レーザパターン加工された多結晶ホウ素ドープダイヤモンドは、ホウ素ドープダイヤモンドに起因するより低いバックグラウンド電流という好条件とともに、ガラス状炭素に関連する、より高い触媒活性という利点を示すことがわかる。
【0043】
次いで、レーザパターン加工されたホウ素ドープダイヤモンド電極の開回路電位を検討した。
図18(a)は、レーザアブレーションを行い、かつ酸洗浄された電極に関するOCP応答を示し、
図18(b)は、電極を、0.1MのH
2SO
4中、+3Vで10秒間分極させた後のOCP応答を示す。加工されていないホウ素ドープダイヤモンド材料と比較すると、より直線的な応答が得られる。しかし、OCP応答の安定化に長時間を要し、分極は改善をもたらすにもかかわらず、電極は依然としてネルンスト応答を達成していない(
図18(b)の挿入図に示されるように、OCPとpHの関係に関し43mVの勾配しか達成されない)という問題点が依然として存在する。望まれるネルンスト応答を達成するためには、電極表面上に存在するC=O基が不十分である可能性があると仮定された。
【0044】
レーザパターンによりsp2炭素を導入したとしても、ホウ素ドープダイヤモンド電極を用いて、開回路電位を利用する手段により、十分なpH測定方法を達成できないことを踏まえ、他の電気化学的pH検出方法を検討した。この点に関し、先に述べたとおり、sp
2表面上にはキノンが存在し、その電子移動特性は、
図19に示されるように[H
+]依存性である。ガラス状炭素電極表面上のキノンの還元電位は、pH依存性であり、この事実は、pH測定に使用されることが示された。
図20(a)および
図20(b)は、ガラス状炭素ベア電極について、異なるpHの溶液中で矩形波ボルタンメトリーを実施した結果を示し、キノン還元ピークのネルンストpH応答(59mV)を説明する。したがって、本発明の発明者らは、同様の官能化をホウ素ドープダイヤモンド電極に適用可能な場合、これがダイヤモンドベースpHセンサへの手段を提供できるかについて検討した。
【0045】
上記に続き、多結晶ホウ素ドープダイヤモンド材料の上部3nmを分析するため、先の記載に従うレーザパターニングの前後でX線光電子スペクトルを実施した。
図21は、レーザパターニング後のsp2ピークの発現を示唆する結果を示す。レーザパターン加工されたホウ素ドープダイヤモンド電極上のC=O基に関する、データ点分解能が3μmの高分解能XPS画像法は、レーザピット中でC=O基がより優勢であり、ひいてはより多くのキノン基が存在する可能性が高いことを示す(
図22参照)。しかし、
図23に示されるように、未修飾ホウ素ドープダイヤモンド材料と比較したレーザピットのラマンスペクトル分析は、sp2(Gピーク)に明確な増大はないことを示唆する。これは、ラマンは侵入深さが数100nmのバルク測定であり、かつピットをレーザアブレーションしても、アモルファス炭素を含有することを示唆するため、電極の大部分は依然としてsp3ダイヤモンドであると理解することができる。これは、レーザ加工されたホウ素ドープダイヤモンドが、ガラス状炭素と加工されていないホウ素ドープダイヤモンドの、中間の電気化学特性を有する理由も説明する。
【0046】
続いて、多結晶ホウ素ドープダイヤモンド表面のキノンの還元を検討した。多結晶ホウ素ドープダイヤモンド表面上のキノン還元の矩形波ボルタンメトリーの結果を
図24に示す。結果は、アルカリ性のpHにおいてネルンストpH応答が観察されたが、酸性のpHに関しては、ネルンスト応答からのずれが存在することを示す。これは、pH感知のためには、官能化ホウ素ドープダイヤモンド表面上に存在するキノンが十分でないことを意味する。次いで、レーザパターン加工された多結晶ホウ素ドープダイヤモンド電極を、7mA(約+3V)で60秒間アノード分極させた。次いで、キノン還元測定を、異なるpHで再測定した。酸処理され、かつアノード分極した多結晶ホウ素ドープダイヤモンド表面についての、キノン還元の矩形波ボルタンメトリーの結果を
図25(a)および
図25(b)に示す。ネルンストpH応答(約59mV)が、少なくとも2から10のpH範囲に亘って観測される。
【0047】
直径1mmの多結晶ホウ素ドープダイヤモンドマクロ電極を多数用意し、電極にレーザパターン加工を施し、0.1Mの硫酸中、7mAで60秒間、電極を分極させて、前述の結果の再現性を試験した。次いで、全ての電極についてpH測定を行い、結果を
図26に示す。
図26からわかるように、全ての電極は同様のpH応答を示し、良好な再現性が示唆される。
【0048】
前述したように、本発明のダイヤモンドベースpHセンサ手法は、反応性に関するガラス状炭素電極の有益な性質と、不活性特性に関するダイヤモンド電極の有益な性質を効果的に兼ね備え、pH測定において干渉が問題となるほどには活性が高くなりすぎず、pH測定を行うための十分に高い活性を有する電極を実現する。例えば、Comptonの論文(Lu, M., Compton, G. R., Analyst, 2014, 139, 2397、およびLu, M., Compton, G. R., Analyst, 2014, 139, 4599-4605)は、いずれも、ガラス状炭素を用いて正確な測定を行うために、少なくとも20分間の溶液の脱気を必要とする。本明細書に記載されているダイヤモンドベース電極は、より低い触媒活性に起因して、(キノンの還元が起こる)関心領域内の酸素の還元は優先して起こらない。さらに、本明細書に記載されているように、ダイヤモンドベースpH感知電極は、一旦分極すると、安定な応答が得られる。例えば、
図27は、20回反復測定したpH2におけるpH測定結果を示し、より高いpH測定値よりも小さいピークを有するpH値であっても応答は安定であることを説明する。
【0049】
上記に続き、酸化還元活性金属の干渉の可能性を検討し、ガラス状炭素電極と比較した。
図28は、ガラス状炭素電極(
図28(a)、
図28(c)、
図28(e))、および本発明に従って製造されたダイヤモンドベース電極(
図28(b)、
図28(d)、
図28(f))に関する、溶存鉛(Pb
2+)の存在中でのpH3、7、および11におけるpH応答を示す。結果からわかるように、ガラス状炭素電極と比較し、ダイヤモンドベース電極の、信号対ノイズおよびピーク安定性は、この環境において著しく向上する。
【0050】
図29は、ガラス状炭素電極(
図29(a)、
図29(c))、および本発明に従って製造されたダイヤモンドベース電極(
図29(b)、
図29(d))に関する、溶存カドミウム(Cd
2+)の存在中でのpH3および11におけるpH応答を示す。結果からわかるように、ガラス状炭素電極と比較し、ダイヤモンドベース電極の、信号対ノイズおよびピーク安定性は、この環境においても向上する。
【0051】
上記を踏まえ、ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面に、(例えば、制御されたダイヤモンド成長、またはレーザパターニングといった合成後処理によって)制御された量のsp2炭素を付与することで、ホウ素ドープダイヤモンド基材の不活性特性を、少なくともある程度維持しつつ、ホウ素ドープダイヤモンド電極の触媒活性を増大させることが可能であることが見出された。これは、sp2炭素含有量の少ないホウ素ドープダイヤモンド材料を用いて検出不可能な、塩素といった対象種を感知するために使用することができ、過剰なsp2が感知表面に付与されない限り、低いバックグラウンド信号を保つことができる。また、そのようなダイヤモンド電極を(電極をアノード分極することにより)処理し、特定の種類の表面終端を付与する、特にキノンといったカルボニル含有基を付与することで、pH感知といったさらなる感知性能を提供することも可能である。この場合、ダイヤモンド電極が設置される溶液のpHに従って、再現可能な方法でシフトする、カルボニル含有表面種の酸化還元ピーク電位に基づいて、pH測定値が得られるよう、センサを調整することができる。
【0052】
実施形態を参照して、本発明を具体的に示し、かつ説明したが、添付の特許発明の範囲で規定される発明の範囲を逸脱することなく、形態および詳細のさまざまな変更が可能であることを当業者は理解するだろう。
次に、本発明の好ましい態様を示す。
1. ホウ素ドープダイヤモンド材料から形成されたホウ素ドープダイヤモンド電極、
前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面上に配置された非ダイヤモンド炭素サイトの配列、
前記非ダイヤモンド炭素サイトに結合した、対象種に関連する酸化還元ピークを生成するための電気化学的に活性な表面基であって、前記対象種は、使用時に前記対象種を含有する溶液が前記感知表面と接触するよう配置された際、前記非ダイヤモンド炭素サイトに結合した前記電気化学的に活性な表面基と反応する、電気化学的に活性な表面基、
ある電位範囲に亘って前記ホウ素ドープダイヤモンド電極をスキャンして前記酸化還元ピークを生成するよう構成されている電気制御装置、および
前記酸化還元ピークの位置および強度の一方、または両方に基づいて、電気化学的測定値を与えるよう構成されている処理装置
を含む、電気化学センサ。
2. 前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面に過剰な非ダイヤモンド炭素が付与されることなく、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面に、前記対象種に関連する前記酸化還元ピークを生成するのに十分な電気化学的に活性な表面基が付与されており、前記電気化学センサは狭すぎない溶媒窓を示し、前記溶媒窓は、少なくとも1.5eVで、かつ3.5eV以下の電位範囲を有し、前記溶媒窓は、±0.4mAcm-2の間の電流密度を有すると規定される、上記1に記載の電気化学センサ。
3. 前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面に過剰な非ダイヤモンド炭素が付与されることなく、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面に、前記対象種に関連する前記酸化還元ピークを生成するのに十分な電気化学的に活性な表面基が付与されており、前記電気化学センサは高すぎない電気容量を示し、前記電気容量は、10μFcm-2から50μFcm-2の範囲内にある、上記1または2に記載の電気化学センサ。
4. 前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面に過剰な非ダイヤモンド炭素が付与されることなく、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面に、前記対象種に関連する前記酸化還元ピークを生成するのに十分な電気化学的に活性な表面基が付与されており、前記対象種に関連する前記酸化還元ピークの位置に、1つまたは複数の干渉ピークが生成する、上記1から3までのいずれか1項に記載の電気化学センサ。
5. 前記感知表面は、前記酸化還元ピークが発生する位置で酸素が還元されないように十分に少ない量の非ダイヤモンド炭素を含む、上記4に記載の電気化学センサ。
6. 前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面に過剰な非ダイヤモンド炭素が付与されることなく、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面に、前記対象種に関連する前記酸化還元ピークを生成するのに十分な非ダイヤモンド炭素が付与されており、前記酸化還元ピークの信号対バックグラウンド比は、少なくとも2.5、3、4、5、6、7、または8である、上記1から5までのいずれか1項に記載の電気化学センサ。
7. 前記信号対バックグラウンド比は、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、0.1%、1%、2%、3%、4%、7%、または13%の溶液中の前記対象種の濃度を用いて測定される、上記6に記載の電気化学センサ。
8. 前記電気化学的に活性な表面基は、電位がpHと共に変化する酸化還元ピークを有し、前記処理装置は、前記電気化学的に活性な表面基の前記酸化還元ピークの位置に基づいてpH測定値を与えるよう構成されている、上記1から7までのいずれか1項に記載の電気化学センサ。
9. 前記電気化学的に活性な表面基は、カルボニル含有基である、上記8に記載の電気化学センサ。
10. 前記カルボニル含有基は、キノン基である、上記8または9に記載の電気化学センサ。
11. 前記感知表面に、少なくとも2から10のpH範囲に亘って線形なpH応答をもたらすのに十分な電気化学的に活性な表面基が付与されている、上記8から10までのいずれか1項に記載の電気化学センサ。
12. 前記線形なpH応答は、−0.059+/−0.01の勾配を有する、上記11に記載の電気化学センサ。
13. バックグラウンドノイズが前記酸化還元ピークと干渉する、過剰な非ダイヤモンド炭素を付与することなく、前記酸化還元ピークを生成するのに十分な電気化学的に活性な表面基を付与することにより、前記pHセンサは、少なくとも1、0.5、または0.1のpH単位までのpH精度をもたらすよう構成されている、上記8から12までのいずれか1項に記載の電気化学センサ。
14. 前記精度は少なくとも2から10のpH範囲に亘る、上記13に記載の電気化学センサ。
15. 電位がpHと共に変化しない酸化還元ピークを有する、さらなる電気化学的に活性な表面基が前記感知表面上に付与されており、前記処理装置は、前記さらなる電気化学的に活性な表面基に対する、前記電気化学的に活性な表面基の前記酸化還元ピークの相対的な位置に基づいて、pH測定値を与えるよう構成されている、上記8から14までのいずれか1項に記載の電気化学センサ。
16. 前記酸化還元ピークの強度は、溶液中の前記対象種の濃度に比例し、前記処理装置は、前記酸化還元ピークの前記強度に基づいて、前記対象種に関する濃度測定値を与えるよう構成されている、上記1から7までのいずれか1項に記載の電気化学センサ。
17. 前記処理装置は、ClO-対象種に関する濃度測定値を与えるよう構成されている、上記16に記載の電気化学センサ。
18. 前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面上に配置された前記非ダイヤモンド炭素サイトの配列は、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の表面上にパターン加工されている、上記1から17までのいずれか1項に記載の電気化学センサ。
19. 前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面上に配置された前記非ダイヤモンド炭素サイトの配列は、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極を形成する前記ホウ素ドープダイヤモンド材料内に配置された内在性非ダイヤモンド炭素である、上記1から17までのいずれか1項に記載の電気化学センサ。
20. 上記1から19までのいずれか1項に記載の電気化学センサに使用されるダイヤモンド電気化学センサヘッドであって、前記ダイヤモンド電気化学センサヘッドは、
ホウ素ドープダイヤモンド材料から形成されたホウ素ドープダイヤモンド電極、
前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の感知表面上に配置された非ダイヤモンド炭素サイトの配列、および
前記非ダイヤモンド炭素サイトに結合した、対象種に関連する酸化還元ピークを生成するための電気化学的に活性な表面基であって、前記対象種は、使用時に前記対象種を含有する溶液が前記感知表面と接触するよう配置された際、前記非ダイヤモンド炭素サイトに結合した前記電気化学的に活性な表面基と反応する、電気化学的に活性な表面基を含み、
ここで、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面に過剰な非ダイヤモンド炭素が付与されることなく、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の前記感知表面に、前記対象種に関連する前記酸化還元ピークを生成するのに十分な電気化学的に活性な表面基が付与されており、下記の特性:
前記電気化学センサは、狭すぎない溶媒窓を示し、ここで前記溶媒窓は、少なくとも1.5eVで、かつ3.5eV以下の電位範囲を有し、前記溶媒窓は、±0.4mAcm-2の間の電流密度を有すると規定されること、
前記電気化学センサは、高すぎない電気容量を示し、ここで前記電気容量は、10μFcm-2から50μFcm-2の範囲内にあること、
前記電気化学センサは、前記対象種に関連する前記酸化還元ピークの位置に1つまたは複数の干渉ピークを生成しないこと、および
前記電気化学センサは、少なくとも2.5の、前記対象種に関連する前記酸化還元ピークに関する信号対バックグラウンド比を示すこと
のうちの1つまたは複数が達成される、ダイヤモンド電気化学センサヘッド。
21. 前記非ダイヤモンド炭素サイトの配列が配置された前記ホウ素ドープダイヤモンド材料は、ホウ素ドープダイヤモンド材料を含み、ホウ素含有量がホウ素原子1×1020個cm-3からホウ素原子7×1021個cm-3の範囲内であり、かつ少なくとも露出表面のsp2炭素含有量が、材料のラマンスペクトルで非ダイヤモンド炭素ピークを示さないように十分に少ない、上記20に記載のダイヤモンド電気化学センサヘッド。
22. 前記ホウ素ドープダイヤモンド電極は、電気絶縁性ダイヤモンド支持マトリクス中に配置されている、上記20または21に記載のダイヤモンド電気化学センサヘッド。
23. 前記非ダイヤモンド炭素サイトの配列は、それぞれ10nmから100μmの範囲内の大きさを有する、複数の分離した非ダイヤモンド炭素サイトを含む、上記20から22までのいずれか1項に記載のダイヤモンド電気化学センサヘッド。