(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249591
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】マイクロニードル
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
A61M37/00
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-39078(P2012-39078)
(22)【出願日】2012年2月24日
(65)【公開番号】特開2013-172847(P2013-172847A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2015年1月21日
【審判番号】不服2016-15899(P2016-15899/J1)
【審判請求日】2016年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃嗣
【合議体】
【審判長】
内藤 真徳
【審判官】
高木 彰
【審判官】
根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−509634(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/135530(WO,A2)
【文献】
特開2004−229886(JP,A)
【文献】
特開2010−46476(JP,A)
【文献】
特開2011−83484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系溶液を充填液として使用する50μm〜1000μmの針長さ寸法を有した空洞状の複数の中空針が設けられた中空針状体を備えるマイクロニードルにおいて、
前記中空針は、中空断面平均直径が40〜70μmであり、
前記中空針の中空内壁は、親水性処理層が設けられており純水の接触角が0〜20°であり、かつ、
前記中空針の中空外壁は、疎水性処理層が設けられており純水の接触角が80〜120°であり、かつ、
前記充填液の吐出は、指先でおこなわれる
ことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚内に薬液を供給するのに用いられるマイクロニードルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、皮膚や粘膜等の生体表面から体内に薬剤を投与する方法として、経皮吸収法が知られている。この方法は、非侵襲的であり、人体に痛みを与えることなく簡易に薬剤を投与する事が可能である。しかし、発汗や外部接触などによる薬剤の除去の可能性、長期間の使用時には皮膚障害が発生する、対象薬剤の分子量が大きい場合や水溶性薬剤を用いた場合などには表皮の角質層がバリアとなり薬剤がほとんど吸収されない、などといった問題を有する。
【0003】
これらの問題を解決し、薬剤を効率よく体内に吸収させるために、ミクロンオーダーの多数のニードルを有するマイクロニードルアレイを皮膚に穿刺し、表皮下に直接薬剤を投与する方法が注目されている。マイクロニードルには、いわゆる塗布タイプ、中空タイプが知られている。塗布タイプは、針表面に薬剤を塗布したものであり、中空タイプは、極小の注射針である。中空タイプのマイクロニードルは、塗布タイプに比べ、一度に大量の薬剤を投与できるとして注目を浴びている。
【0004】
このマイクロニードルは、皮膚を穿刺するための細さと先端角、角質層を貫通する以上の長さが必要である。一般的にマイクロニードルのニードル直径は数μm〜数百μm、長さは100μm〜1000μmが望ましい。
【0005】
そして、マイクロニードルに使用される材料としては、一般的にシリコンが用いられている。シリコンは、MEMSデバイスや半導体製造に広く使用されており、安価でかつ微細加工性に優れる。シリコン製のマイクロニードルの作成方法としては、シリコンウェハの両面にシリコン酸化膜を形成してパターニングを施し、その表面から結晶異方性エッチング加工を施し、裏面から等方性エッチングを施す方法が提案されている。
【0006】
この方法により、例えば長さ500μm以上、幅200μm以下のマイクロニードルを作成することができる。また、そのマイクロニードルをアレイ状にすることによって採血の確実性を増す事ができる(特許文献1)。
【0007】
同様に、シリコン基板にウェットエッチングを行い、シリコンの単結晶材料の結晶面方位ごとのエッチングレート差を利用した製造方法が提案されている(特許文献2)。
【0008】
シリコン以外の材料によるマイクロニードルの作成方法も提案されている。マイクロニードルを構成する材料は、仮に破損したマイクロニードルが体内に残留した場合でも、人体に悪影響を及ぼさないことが必要である。このような材料として医療用シリコーン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン等の生体適合材料が有望視されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−369816号公報
【特許文献2】特開2004−58265号公報
【特許文献3】特開2005−21677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、前記マイクロニードルは、角質層を貫通する程度の長さがあれば良いので、一般的な注射器と比べると、突き刺し深さは1000μm未満と短い。そのため、角質層を完全に貫通していない場合や、皮膚自体によって加えられる背圧ならびに薬液注入時に皮膚内に薬液が留まることにより発生する圧力が大きいと、薬液が皮膚外に流出・逆流する虞を有する。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、穿刺後に薬液を注入する際に、吐出された薬液が皮膚内に確実に残留し得るようにしたマイクロニードルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、水系溶液を充填液として使用する50μm〜1000μmの針長さ寸法を有した空洞状の複数の中空針が設けられた中空針状体を備えるマイクロニードルにおいて、前記中空針は、中空断面平均直径が40〜70μm
であり、前記中空針の中空内壁は、
親水性処理層が設けられており純水の接触角が0〜20°であり、かつ、前記中空針の中空外壁は、
疎水性処理層が設けられており純水の接触角が80〜120°であり、かつ、前記充填液の吐出は、指先でおこなわれることを特徴としたマイクロニードル。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、中空断面の平均直径の大きさを限定することで、穿刺後の薬液注入時に、無理な荷重を必要とせず、効率よく薬剤を針先端から皮膚内に供給することが出来る。また、中空部分の内壁に親水処理を施すことで、内部で気泡が発生したとしても、注入効率を害することなく、容易に気泡を排出することが可能である。また、針表面に疎水処理または粗化処理を施すことで、針上への薬液の濡れ上がりを防止し、皮膚内に薬液を留めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るマイクロニードルを断面して示した断面図である。
【
図2】
図1を上面側から見た状態を示した平面図である。
【
図3】本発明の一実施の形態に係るマイクロニードルによる実施例1を説明するために示した断面図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係るマイクロニードルによる実施例2を説明するために示した断面図である。
【
図5】本発明の一実施の形態に係るマイクロニードルによる実施例3を説明するために示した断面図である。
【
図6】本発明の一実施の形態に係るマイクロニードルによる実施例4を説明するために示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るマイクロニードルについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態に係るマイクロニードルの概略構成を示すもので、中空針状体1は、生体適合材料(針成形後の純水接触角40°程度)で形成され、詳細を後述する軸方向が空洞状の中空針7が、例えば25本、縦横に1mmの間隔を有して等間隔に立設されている(
図2参照)。この中空針状体1には、例えばシリコンで形成される基板3が5mmの間隔を有して対設されて支持体4を介して矢印8方向に移動自在に組付け配置される。そして、この中空針状体1と基板3との間には、充填液として、水系溶液である薬液2が充填される。
【0021】
中空針状体1は、その中空針7の針長さ寸法が50μm〜1000μmに形成される。この中空針7の針長さ寸法の範囲は、マイクロニードルを皮膚に穿刺し、皮内のどの部位に薬液2を注入するかによって定義される。具体的には、中空針7は、最外皮層である角質層を貫通することが求められる。角質層の厚さ寸法は、人体の部位によっても若干異なるが、平均して20μm程度である。また、角質層の下には、およそ200μmから350μm程度の厚さ寸法の表皮が存在し、さらにその下層には毛細血管が張りめぐる真皮層が存在する。例えば、角質層を貫通させ薬液2を浸透させるためには、少なくとも20μm以上の針長さ寸法が必要となる。
【0022】
この中空針7を有する中空針状体1、基板3は、それぞれ適宜公知のリソグラフィ、エッチング、機械加工等の微細加工技術を用いて作製される。例えば、微細加工技術を用いマイクロニードル原版を作製し、これを用いて公知の複製技術により、樹脂製のマイクロニードルを作製することが可能である。
【0023】
本発明のマイクロニードルは、樹脂材料で形成することが好ましい。この樹脂材料としては、任意の樹脂から選んでよく、例えばポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、トリメチレンカーボネート、ポリヒドロキシブチレート、セルロース、キトサン、でんぷんなどが挙げられる。更にこれらの中から選択される複数種の材料の混合体や任意の材料の共重合体であってもよい。更に中空針状体1は、熱可塑性樹脂であることが望ましく、更に生体適合性材料であることがより望ましい。
【0024】
中空針状体1には、その中空針7の中空内壁に親水処理層5が設けられ、その中空針7の中空外壁に疎水処理層6が設けられる。この中空内壁の親水処理層5及び中空外壁の疎水処理層6の処理にあっては、公知の方法を用いることができる。例えば、親水処理層5にあっては、プラズマ処理や、コロナ処理、オゾン処理や、親水性の液体をコーティングすることによっても実現できる。また、疎水処理層6にあっては、フッ素系のガスを用いて真空成膜する方法や、疎水性の液体をコーティングすることによっても実現できる。また、親水処理、疎水処理にあっては、予め親水性の材料もしくは疎水性の材料を用いてマイクロニードルを形成することによっても実現できる。
【0025】
前記中空針7は、親水処理層5によって中空内壁の純水の接触角を0〜20°とすることが好ましい。一方、疎水処理層6によって中空外壁表面の純水の接触角を80〜120°とすることが好ましい。この親水処理層5、疎水処理層6は、それぞれ表面の接触角により測定することができ、親水処理、疎水処理の有無を判断することができる。
【0026】
ここで、本件発明者は、中空針7の中空断面平均直径が40〜70μmの場合には、中空内壁に親水処理層5を設けることで容易に気泡を排出することができ、一方、中空外壁に疎水処理層6を設けることにより針上への薬液2の濡れ上がりを防止し、皮膚内に薬液2を留める効果を備えることを見出し、本件発明にいたった。また、中空断面平均直径が5〜30μmの場合には、中空内壁に親水処理層5を設けることで容易に気泡を排出することができ、一方、中空外壁には、撥水処理を施さなくても薬液の濡れ上がりを防止することができることを見出し、本件発明にいたった。
【0027】
すなわち、中空針7の針長さ寸法が50μm〜1000μm、中空断面平均直径が40〜70μmを有したマイクロニードルにあっては、中空内壁表面の純水の接触角が0〜20°、中空外壁表面の純水の接触角が80〜120°であることが好ましい。一方、針長さ寸法が50μm〜1000μm、中空断面平均直径が40〜70μmのマイクロニードルにあっては、中空内壁表面の純水の接触角が0〜20°であることが好ましく、中空外壁表面の純水の接触角は80°未満であってもかまわない。
【0028】
このように、中空針状体1の中空針7の中空断面の平均直径の大きさを限定することで、穿刺後の薬液注入時に、無理な荷重を必要とせず、効率よく薬液を針先端から皮膚内に供給することが出来る。また、中空針7の中空内壁に親水処理層5を設けることで、内部で気泡が発生したとしても、注入効率を害することなく、容易に気泡を排出することが可能である。また、中空針の中空外壁に疎水処理層6または粗化処理を施すことで、針上への薬液の濡れ上がりを防止し、皮膚内に薬液を留める効果を有する。
【0029】
次に、本発明の実施の形態に係るマイクロニードルに用いられる中空針状体1の具体例として実施例1〜4を作製して確認する。
【0030】
[実施例1]
実施例1として、中空針7の内径を50μmとし、その中空内壁に親水化処理(処理後の純水接触角10°)を施して親水処理層5を設け、気体が接している中空外壁に疎水化処理(処理後の純水接触角90°)を施して疎水処理層6を設けて中空針状体1を作製した。
【0031】
この実施例1において、その中空針状体1に対して基板3を支持体4を用いて接離可能に組付け、基板3を矢印8方向に速度0.5mm/Sで空気中に0.08秒間押し出した際の、吐出された薬液2の形状を確認した。
【0032】
ここで、薬液2は、
図3に示すように針上を濡れ上がることなく、針先端で表面張力により液滴を形成する。この条件で液を押し出す際に必要な荷重値は、摩擦を考慮しない場合25g程度であるため、指先で容易に押し出すことができ、内部の気泡を容易に排出することができることが確認された。
【0033】
[実施例2]
実施例2として、中空針7の内径を20μmとし、中空内壁に親水化処理(処理後の純水接触角10°)を施して親水処理層5を設け、中空外壁に純水接触角が60°の疎水処理層6を設けて中空針状体1を作製した。
【0034】
この実施例2において、その中空針状体1に対して基板3を支持体4を用いて接離可能に組付け、基板3を矢印8方向に速度0.5mm/Sで空気中に0.08秒間押し出した際の、吐出された薬液2の形状を確認した。
【0035】
ここで、薬液2は、
図4に示すように中空外壁に疎水化をおこなっていない場合、内径を20μm程度に小さくすることで、針上に濡れ上がりなく吐出することが確認された。この時の必要な荷重値は、1.2kg程度であり、内部の気泡を容易に排出することができるものの、中空針7の内径を更に小さくしていくと必要な荷重値が指数関数的に上昇するため、内径を小さくするのには限界がある。
【0036】
[実施例3]
実施例3として、中空針7の内径を50μm、中空内壁に親水化処理(処理後の純水接触角10°)を施して親水処理層5を設け、中空外壁に純水接触角が40°の疎水処理層6を設けて中空針状体1を作製した。
【0037】
この実施例3において、その中空針状体1に対して基板3を支持体4を用いて接離可能に組付け、基板3を矢印8方向に速度0.5mm/Sで空気中に0.08秒間押し出した際の、吐出された薬液2の形状を確認した、この薬液2は、
図5に示すように針上を薬液2が濡れ上がり、液を上手く吐出させることができていないことが確認された。
【0038】
[実施例4]
実施例4として、中空針7の内径を100μm、中空内壁に親水化処理(処理後の純水接触角10°)を施して親水処理層5を設け、中空外壁の純水接触角が60°の疎水処理層6を設けて中空針状体1を作製した。
【0039】
この実施例4において、その中空針状体1に対して基板3を支持体4を用いて接離可能に組付け、基板3を矢印8方向に速度0.5mm/Sで空気中に0.2秒間押し出した際の、吐出された薬液2の形状を確認した。この薬液2は、
図6に示すように中空外壁の疎水処理層6の純水接触角が同じ実施例2の結果に比べると、中空内壁を大きくしたことで濡れ上がり量が増えていることが確認された。
【0040】
以上のように、実施例1、2によれば、中空針7の先端に液が集められるため、皮膚へ薬液2を効率よく供給することができる。これに対して、実施例3、4の場合には、中空外壁への薬液2の濡れ上がりにより皮膚へ薬液2の供給が若干低下されることが確認された。
【0041】
本発明は、上記各実施の形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記実施形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより、種々の発明が抽出され得る。
【0042】
例えば実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0043】
1 … 中空針状体
2 … 薬液
3 … 基板
4 … 支持体
5 … 親水処理層
6 … 疎水処理層
7 … 中空針
8 … 矢印