特許第6249613号(P6249613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249613
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】免震建造物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
   E04H9/02 331Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-42726(P2013-42726)
(22)【出願日】2013年3月5日
(65)【公開番号】特開2014-169592(P2014-169592A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2016年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】510049735
【氏名又は名称】日東商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100126413
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 太亮
(74)【代理人】
【識別番号】100120570
【弁理士】
【氏名又は名称】中 敦士
(72)【発明者】
【氏名】馬場 克彦
(72)【発明者】
【氏名】飯田 拓治
【審査官】 兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−002047(JP,A)
【文献】 特開平09−177373(JP,A)
【文献】 特開平01−235778(JP,A)
【文献】 特開平09−071955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の揺れを伝えないように構成された免震建築物であって、
前記地盤に設けられ、水平に形成された底面及び前記底面から立ち上がるように形成された内側面を有する凹部により形成され、前記凹部に対して所定の深さに液体が満たされたプールと、
前記プール内に設置された浮遊建築体と、を備え、
前記浮遊建築体は、
前記浮遊建築体の下部において前記プール内に収容可能に形成され、前記底面と当接可能な下面を有する底壁部と、前記底壁部に対して下端が交わるようにして立ち上がるように形成された側壁部とを有し、これら前記底壁部及び前記側壁部とにより囲まれて形成された空洞部と、
前記空洞部に貯留用液体の量を調整可能な状態で前記貯留用液体を貯留させるための貯留槽とを有し
前記貯留槽内の前記貯留用液体の量を調節することによって平面方向における重心の位置を調整し、前記液体からの浮力を受けながら、自重により前記底面に作用する鉛直方向下向きの力と、前記下面に作用する鉛直方向上向きの力とが前記平面方向において均一に互いに相殺された状態で前記下面が前記底面と接するように配置されていることを特徴とする免震建築物。
【請求項2】
前記プールの内周面の少なくとも一部に、前記内周面を保護するための内周面保護層を形成した、請求項1記載の免震建築物。
【請求項3】
前記免震建築物の重心が前記免震建築物の下部となるように形成されている、請求項1又は2記載の免震建築物。
【請求項4】
前記空洞部の外周面の少なくとも一部に、前記外周面を保護するための外周面保護層を形成した、請求項1〜3のいずれかに記載の免震建築物。
【請求項5】
前記プールの深さを変更可能にした、請求項1〜4のいずれかに記載の免震建築物。
【請求項6】
前記浮遊建築体における前記空洞部の底面に開口部を形成し、この開口部を開閉するための扉状部材を設けた、請求項1〜5のいずれかに記載の免震建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造を有する免震建造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、我が国においては地震が発生することが多く、特に近年は、1995年に発生した阪神淡路大震災や2011年に発生した東日本大震災というような、非常に大規模な地震災害が発生している。建築物や構築物に関する耐震構造や免震構造については従来から注目されている事項ではあったが、近年の大規模な地震災害の発生等に伴い、この耐震構造や免震構造に関する関心は従来に比べて非常に高まっている。
【0003】
従来から知られている建築物や構築物の耐震又は免震の構造に関しては、例えば、建築物の布基礎構造を改良したものや、建築物と基礎との間に免震ゴムを介在させる基礎構造を有するものが存在する。例えば、特許文献1には、建築物の基礎構造材と建築物との間に免震ゴム板を挟設した免震基礎構造が開示されている。また、特許文献2には、地面を掘削して設けた根切り部に栗石を埋設して、この栗石上に液状の粘弾性材料を含浸した不織布からなるクッション材を配置して、このクッション材の上に布基礎を施工するように構成した耐震布基礎構造が開示されている。また、これら以外にも、例えば建築物自体を軽量化することで地震発生時に建築物が受けるエネルギーを低減し、地震による建築物の損壊等を防止することも考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−303792号公報
【特許文献2】特開2000−1861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、建築物には、相当の強度が必要とされるため、この強度を確保するためにはある程度の重量を有することが必要とされる。そのため、建築物自体を軽量化しすぎると建築物の強度が落ちてしまい、地震発生時に建築物が受けるエネルギーは低減されても、その受けたエネルギーによって建築物の損壊等が発生しやすくなり、却って建築物の耐震性能を低下させてしまうという問題があった。また、建築物自体を軽量化しつつ耐震強度を上げるために特殊な材料を用いることも考えられるものの、この場合には建築物の建築時におけるコストが大幅に上がってしまうという問題もあった。
【0006】
また、特許文献1及び2において開示された免震構造及び耐震構造の場合に用いられる免震ゴムやクッション材は、建築物の総重量、粘弾性物質や加硫ゴム等の重量等を考慮するのみならず、発生すると思われる地震の周波数を予測した上で大きさ及び厚さ等を設計しなければならず、設計時における解析が非常に高度なものになってしまうという問題があった。特に免震ゴムやクッション材の場合、振動を吸収する振動数の範囲が形状や厚さ等のような物理的な形状、また免震ゴム等の製造に用いられる原材料の配合等によって決まってしまう一方、発生すると予測される地震の周波数が設計時に想定した周波数とは異なる場合も考えられ、この場合には地震に対する免震及び耐震の効果を得ることも難しくなってしまうという問題もあった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、発生する地震の周波数等の影響を受けず、確実に免震及び耐震の効果を得ることが可能な免震建造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1)地盤の揺れを伝えないように構成された免震建築物であって、前記地盤に設けられ、水平に形成された底面及び前記底面から立ち上がるように形成された内側面を有する凹部により形成され、前記凹部に対して所定の深さに液体が満たされたプールと、前記プール内に設置された浮遊建築体と、を備え、前記浮遊建築体は、前記浮遊建築体の下部において前記プール内に収容可能に形成され、前記底面と当接可能な下面を有する底壁部と、前記底壁部に対して下端が交わるようにして立ち上がるように形成された側壁部とを有し、これら前記底壁部及び前記側壁部とにより囲まれて形成された空洞部と、前記空洞部に貯留用液体の量を調整可能な状態で前記貯留用液体を貯留させるための貯留槽とを有し前記貯留槽内の前記貯留用液体の量を調節することによって平面方向における重心の位置を調整し、前記液体からの浮力を受けながら、自重により前記底面に作用する鉛直方向下向きの力と、前記下面に作用する鉛直方向上向きの力とが前記平面方向において均一に互いに相殺された状態で前記下面が前記底面と接するように配置されていることを特徴とする免震建築物、
(2)前記プールの内周面の少なくとも一部に、前記内周面を保護するための内周面保護層を形成した、上記(1)記載の免震建築物、
(3)前記免震建築物の重心が前記免震建築物の下部となるように形成されている、上記(1)又は(2)記載の免震建築物、
(4)前記空洞部の外周面の少なくとも一部に、前記外周面を保護するための外周面保護層を形成した、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の免震建築物、
(5)前記プールの深さを変更可能に構成した、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の免震建築物、
(6)前記浮遊建築体における前記空洞部の底面に開口部を形成し、この開口部を開閉するための扉状部材を設けた、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の免震建築物、
を要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地盤に設けられたプールと、プール内に入れられた液体と、液体中に設置された浮遊建築体と、を備え、浮遊建築体は、プールの上面と接するように形成されたはね出し部と、浮遊建築体の下部であってはね出し部の下方においてプール内に収容可能に形成された空洞部と、を有するので、浮遊建築体と地盤との間に液体が介在することになる。浮遊建築体は、液体中に設置されるので、液体中においてこの液体により生ずる浮力によって浮き上がる方向の力が生じ、浮遊建築体がプールに加える力の大きさを大幅に低減することができる。したがって、地震等によって地盤が揺れた場合に、地盤の揺れが浮遊建築体に伝達するのを効果的に防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る免震建築物の概略構成を表した概念図である。
図2図1におけるA−A線断面図である。
図3図1におけるプール及び空洞部の構成を示す部分拡大図である。
図4】浮遊建築体を設置する際の手順を説明するための説明図である。
図5】浮遊建築体を設置した時の状態を説明するための説明図である。
図6】浮遊建築体を設置した時に地盤が揺れた時の作用効果について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る免震建築物の実施の形態の構成について説明する。図1は、本発明に係る免震構造物の実施の形態の概略構成を示す概念図である。なお、本実施の形態に係る上下左右は、図1において示す方向を示すものとする。
【0012】
[免震建築物1の構成について]
図1に示すように、本発明に係る免震建築物1は、地盤2に形成されたプール3と、浮遊建築体4とを有し、内部に液体5を入れたプール3の中に浮遊建築体4が配置されるように構成されている。
【0013】
プール3は、地盤2に対して所定深さを有する凹状に形成されており、浮遊建築体4を設置することができ、かつ内部に液体5を満たすことができるように形成されている。なお、本実施の形態では、プール3は、地盤2を掘削することにより、地盤2に対して所定深さを有する凹状に形成されている例を用いて説明しているが、これに限定されるものではない。例えば、地盤2から立設するように側壁を設けることでプール3を形成してもよいし、地盤2を掘削するとともに地盤2から側壁を立設させてプール3を形成してもよい。また、これら以外の構成でプール3を形成してもよい。また、本実施の形態では、図2に示すように、平面視したプール3の形状は四角形状になるように形成されているが、浮遊建築体4を設置することができれば四角形状以外の他の形状であってもよい。
【0014】
プール3の内周面には、内周面防水層6及び内周面保護層7が設けられている。内周面防水層6は、プール3中に満たした液体5がプール3の外部(本実施の形態の場合には、地盤2)に染み出ていくのを防止するためのものである。この内周面防水層6を形成する材料としては、例えば、合成高分子ルーフィング、アスファルトルーフィング又はゴム材料等を用いることができるが、これに限定されるものではない。ただし、上記した材料のうち、内周面防水層6での防水性能を長期間に亘って維持する観点、内周面防水層6の耐久性の観点から、合成高分子ルーフィングを用いることが好ましい。また、内周面防水層6の厚さとしては、0.5〜10mmのものを用いることができ、1〜4mmのものを用いることが、経済性の観点から好ましい。なお、本明細書において「プール3の内周面」とは、プール3の底面3a及び内側面3bを含む、プール3としての凹部を形成する全ての面を意味するものである。なお、プール3は、従来から知られている方法で形成すればよい。
【0015】
内周面保護層7は、内周面防水層6の傷つきや内周面防水層6の破損等を防止し、該内周面防水層6を保護するためのものであり、プール3の内周面であって、内周面防水層6の内周面に設けられている。この内周面保護層7を形成する材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリスチレン等のような樹脂材料、ポリウレタン、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等のようなゴム材料、これら樹脂材料又はゴム材料の発泡体により形成される。また、樹脂材料としては、「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)」に従い収集される容器包装用廃プラスチックを10〜100%使用していることもできる。なお、内周面保護層7の強度や耐久性の観点から、内周面保護層7を形成するのに用いる材料としては、「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)」に従い収集される容器包装用廃プラスチックを10〜100%使用していることが好ましい。また、内周面保護層7の厚さとしては、2〜30mmのものを用いることができ、3〜15mmのものを用いることが、施工性及び経済性の観点から好ましい。なお、本明細書において「内周面防水層6の内周面」とは、内周面防水層6が形成されている底面3a及び内側面3bを含む全ての面を意味するものである。
【0016】
なお、本実施の形態では、プール3に内周面防水層6及び内周面保護層7を形成した例を用いて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、プール3に内周面防水層6のみを形成したもの、プール3に内周面保護層7のみを形成したものであってもよいし、プール3に内周面防水層6及び内周面保護層7のいずれをも形成しなくてもよい。
【0017】
なお、本明細書における「底面3a」とは、プール3に内周面防水層6及び内周面保護層7のいずれもが形成されていない場合には、プール3として形成された凹部の底面を意味し、プール3に内周面防水層6のみが形成されている場合には、内周面防水層6の底面を意味し、またプール3に内周面保護層7のみが形成されている場合、又は内周面防水層6及び内周面保護層7が形成されている場合には、内周面保護層7の底面を意味する。また、本明細書における「内側面3b」とは、プール3に内周面防水層6及び内周面保護層7のいずれもが形成されていない場合には、プール3として形成された凹部の内側面3bを意味し、プール3に内周面防水層6のみが形成されている場合には、内周面防水層6の内側面3bを意味し、またプール3に内周面保護層7のみが形成されている場合、又は内周面防水層6及び内周面保護層7が形成されている場合には、内周面保護層7の内側面3bを意味する。
【0018】
浮遊建築体4は、建築体本体8と、空洞部9とはね出し部10とを有している。建築体本体8は、例えば柱や壁、天井等で構成された建築物である。本実施の形態では、生活空間が形成された住居等のような家屋を用いた例を用いているが、建築体本体8としては、例えば各種設備や機器等が内部に配置された建屋であってもよい。また、例えば橋梁等のような構造物であってもよい。また、建築体本体8の構成は上記したものに限定されず、他の構成であってもよい。
【0019】
空洞部9は、建築体本体8の下に形成されており、平面視した場合に四角形状になるように形成されている。図2に示すように、空洞部9には、該空洞部9を平面視した場合に、格子状に梁部材11,12が設けられており、また梁部材11と梁部材12とが交わる位置には上下方向に延びる柱部材13が設けられている。また、空洞部9は、該空洞部9の側周囲を囲むように形成された側壁部14と、該空洞部9の下側を覆うように設けられ、側壁部14の下側端において交わるように形成された底壁部15を有している。底壁部15には下面15aが形成されており、この下面15aは水平面となるように形成されている。この空洞部9は、該空洞部9の体積が、『浮遊建築体4の総重量÷プール3内に満たされた液体5の密度(トン/立方メートル)』の式によって求められる値よりも大きなものであることが好ましい。この求められた体積の値よりも実際の空洞部9の体積の値が小さいと、浮遊建築体4が地盤2の揺れの影響を受けて揺れやすくなり、免震建築物1の免震性能を低下させるおそれがあるからである。
【0020】
側壁部14及び底壁部15(以下、これら側壁部14及び底壁部15のことを「外壁部16」と言うこともある。)の外周面には、外周面防水層17及び外周面保護層18が設けられている。外周面防水層17は、プール3中に満たした液体5が側壁部14又は/及び底壁部15に浸み込んだり、その結果空洞部9の内部に液体5が流入するのを防止するためのものである。この外周面防水層17を形成する材料としては、例えば、合成高分子ルーフィング、アスファルトルーフィング又はゴム材料等を用いることができるが、これに限定されるものではない。ただし、上記した材料のうち、外周面防水層17での防水性能を長期間に亘って維持する観点、外周面防水層17の耐久性の観点から、合成高分子ルーフィングを用いることが好ましい。また、この外周面防水層17の厚さとしては、0.5〜10mmのものを用いることができ、1〜4mmのものを用いることが、経済性の観点から好ましい。なお、本明細書において「外壁部16の外周面」とは、外壁部16を構成する全ての面を意味するものである。なお、外周面防水層17としては、先に説明したプール3の内周面に形成された内周面防水層6と同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。また、外壁部16を形成する材料としては、例えば繊維強化プラスチック材料(FRP)や金属材料を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0021】
外周面保護層18は、外周面防水層17の傷つきや外周面防水層17の破損等を防止し、該外周面防水層17を保護するためのものである。この外周面保護層18は、外周面防水層17の外周面に設けられている。この外周面保護層18を形成する材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリスチレン等のような樹脂材料、ポリウレタン、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等のようなゴム材料、これら樹脂材料又はゴム材料の発泡体により形成される。また、樹脂材料としては、「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)」に従い収集される容器包装用廃プラスチックを10〜100%使用していることもできる。なお、外周面保護層18の強度や耐久性の観点から、外周面保護層18を形成するのに用いる材料としては、「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)」に従い収集される容器包装用廃プラスチックを10〜100%使用していることが好ましい。また、外周面保護層18の厚さとしては、2〜30mmのものを用いることができ、3〜15mmのものを用いることが、施工性及び経済性の観点から好ましい。なお、本明細書において、「外周面防水層17の外周面」とは、外周面防水層17が形成されている下面15a及び外側面15bを含む全ての面を意味するものである。
【0022】
なお、本明細書における「下面15a」とは、底壁部15に外周面防水層17及び外周面保護層18のいずれもが形成されていない場合には、底壁部15の下面15aを意味し、底壁部15に外周面防水層17のみが形成されている場合には、外周面防水層17の下面15aを意味し、また底壁部15に外周面保護層18のみが形成されている場合、又は外周面防水層17及び外周面保護層18が形成されている場合には、外周面保護層18の下面15aを意味する。また、本明細書における「外側面15b」とは、側壁部14に外周面防水層17及び外周面保護層18のいずれもが形成されていない場合には、側壁部14の外側面を意味し、側壁部14に外周面防水層17のみが形成されている場合には、外周面防水層17の外側面を意味し、また、側壁部14に外周面保護層18のみが形成されている場合、又は側壁部14に外周面防水層17及び外周面保護層18が形成されている場合には、外周面保護層18の外側面を意味する。
【0023】
また、図1及び図2に示すように、この空洞部9の四隅には、貯留槽19が設けられている。この貯留槽19は、内部に貯留用液体としての水20を貯留することができるように形成されている。この貯留槽19は、少なくとも2立方メートル以上の容積を有することが好ましく、さらには5立方メートルの容積を有することが好ましい。なお、本実施の形態では、平面視四角形状に形成された空洞部9の四隅に貯留槽19を設けたが、空洞部9が平面視四角形状でない場合には、他の場所に貯留槽19を設けてもよい。また、本実施の形態では、4つの貯留槽19を空洞部9に設けているが、貯留槽19の数も4つに限定されるものではない。
【0024】
はね出し部10は、建築体本体8と空洞部9との間において、該建築体本体8及び空洞部9から平面方向(すなわち、左右方向及び前後方向)に延出するように設けられている。このはね出し部10は、該はね出し部10の下面10aがプール3の上面3cと対向するように形成されている。即ち、はね出し部10は、該はね出し部10の外周形状がプール3の平面視形状よりも大きくなるように形成されている。なお、このはね出し部10の材質は、建築体本体8又は空洞部9と同じものを使用してもよいし、異なる材質のものを使用してもよい。また、はね出し部10を平面方向に延出するための延出長さは任意に決定してよい。
【0025】
図1及び図3に示すように、プール3中に浮遊建築体4を配置すると、この空洞部9の外周面とプール3の内周面との間に空間部21が形成される。この空間部21には、プール3の中に満たされた液体5が存在するための空間として形成される。この空間部21における液体5は、従来から公知のものを任意に使用することができ、例えば真水や海水等のような水、硫酸バリウム水溶液等を用いることができ、コストや取扱いのしやすさ等の観点から真水を用いることが好ましい。
【0026】
なお、本実施の形態では、平面視した時の空洞部9の形状が四角形状となるように形成されているが、これに限定されるものではない。また、空洞部9の大きさは、後述するように、プール3の内部に配置することができ、かつプール3内に満たされた液体5から浮力を受けながら浮遊建築体4の建築体本体8を支えることができるものであればよく、上記した構成に限定されるものではない。
【0027】
[免震建築物1の作用効果について]
次に、本実施の形態に係る免震建築物1において、プール3内に浮遊建築体4を設置する手順について説明する。なお、本明細書では、免震建造物のうちの浮遊建築体4が完成しており、この浮遊建築体4をプール3内に設置する際の手順として説明するが、最初に浮遊建築体4を建築して、その浮遊建築体4をプール3内に設置する場合等も同様の手順で行うことができる。また、図4図6においては、プール3内の内周面防水層6及び内周面保護層7、並びに建築体本体8の外周面防水層17及び外周面保護層18を省略して記載する。また、浮遊建築体4の下部に点線で記載したのは、浮遊建築体4の貯留槽19である。
【0028】
図4に示すように、プール3には所定深さH分だけの水が満たされている。また、図4(a)において示すように、浮遊建築体4は、プール3の上面3c(本実施の形態では地盤2の上面)とはね出し部10の下面10aとの間に介在するジャッキ等の支持部材23によって持ち上げられている。この状態において、支持部材23を操作して浮遊建築体4をA方向へ下げていくと、該浮遊建築体4の空洞部9はプール3内に進入する。そして、さらに浮遊建築体4をA方向に下げていくと、図4(b)に示すように、空洞部9がプール3内に満たされた水の中に進入し、空洞部9における底壁部15の下面15aの位置がプール3内に満たされた水の水面よりも下に位置する。このように、空洞部9がプール3内の水中に進入すると、底壁部15の下面15aには、図4(b)に示すB方向、即ち、浮遊建築体4の重量等によって作用する鉛直方向の力F1と反対方向の力F2が浮力として作用する。この浮力F2の大きさは、下面15aの位置が水面の位置よりも低くなるに従って大きくなる。
【0029】
そして、最終的に、図5(a)に示すように、下面15aとプール3の底面3aとが接触し合い、浮遊建築体4の設置が完了する。この時、浮遊建築体4がプール3内に進入することで、プール3内の容積が減少する。そのため、プール3内に満たされた液体5の水位が上昇したり、該液体5がプール3の外部に溢れ出たりすることも生じる。この時の浮遊建築体4の自重等により作用する鉛直方向の力F1と浮力F2によって下面15aに作用する力の関係は、図5(b)に示すようになる。即ち、浮遊建築体4の自重等によりプール3の底面3aに作用する力は、鉛直方向に作用し、その大きさはF1となる。一方、空洞部9の下面15aに作用する力は、鉛直方向とは反対の方向に作用し、その大きさはF2となる。これら力F1と力F2は、大きさが同じで、力の作用する方向が反対となるため、F1=F2の関係になり、プール3の底面3aと空洞部9の下面15aとの間に生じる力相殺される。即ち、プール3の底面3aと空洞部9の下面15aとは、接触はしているものの、これら底面3aと下面15aとの間には、互いに作用しあう力が相殺されることになる。なお、必要に応じて、プール3内において浮遊建築体4との間に形成された空間部21における液体5の水位を調整することにより、浮力F2の大きさを任意に調整してもよい。
【0030】
なお、この時に底面3aと下面15aとの間に作用しあう力を相殺させるためには、これら底面3aと下面15aとの間に作用する力が、該免震建築物1を平面視した時に、平面方向において均一であることが必要とされる。即ち、底面3aは水平面として形成されているので、設置される浮遊建築体4の下面15aも水平であることが必要とされる。この調整は、空洞部9の内部に設けられている4つの貯留槽19にて行うことができる。即ち、貯留槽19の内部には所定量の水20が溜められているので、これら4つの貯留槽19における水20の量を調整することによって平面方向における重心の位置を調整することができる。この調整によって浮遊建築体4の重心を調整してバランスをとり、下面15aを水平面とした上でプール3内に設置する。このように、浮遊建築体4の重心の位置を調整した上でプール3内に設置することで、設置後に底面3aと下面15aとの間に作用する力を平面方向において均一にすることができる。即ち、本実施の形態の場合には、底面3aと下面15aとの間に作用する力を平面方向において均一に相殺させることが可能になる。
【0031】
このように、底面3aと下面15aとの間に作用する力を平面方向に均一に相殺させるようにして設置すると、揺れが生じて、地盤2が図6(a)に示すC方向に移動したり、図6(b)に示すD方向に移動した場合であっても、底面3aと下面15aとの間においては滑りが生じる。したがって、地盤2のみがC方向又はD方向に移動しても、移動浮遊建築体4はその地盤2の移動による影響を受けることがなく、該浮遊建築体4が揺れることを防止することが可能になる。
【0032】
また、本実施の形態に係る免震建築物1は、浮遊建築体4が水等の液体5を介して設置されるので、空洞部9等における害虫等の発生を確実に防止することも可能になる。さらに、人間が避難することができる程度の空間に空洞部9を形成し、貯留槽19に水を貯留しておくことで、地震等の災害時に断水等が発生しても、貯留槽19に貯留してある水20を飲料水等として使用することもできる。即ち、通常は浮遊建築体4の重心のバランスをとるために使用される貯留槽19の水20を災害時には非常用水として使用することも可能になる。
【0033】
なお、空洞部9の下面15aには、開口部を形成し、この開口部を開閉するための扉状部材を設けてもよい。この扉状部材を設けることによって、図4(a)に示す状態にまで浮遊建築体4を上昇させた時に、空洞部9の下面15aの状態や、プール3の内部の状態等を点検することができるようにしてもよい。このような開口部及び扉状部材を設けることによって、上記した点検が可能になるほか、点検の結果修理等を行う必要が生じた場合には、その開口部からプール3の内部へ侵入し、修理等を行うことも可能になる。
【0034】
また、本実施の形態ではプール3の深さを所定深さとして一定にしているが、このプール3の深さを任意に変更することができるようにしてもよい。このように、プール3の深さを変更することによって、浮遊建築体4の重量等が大幅に変更されたような場合であっても、それにより必要とされる浮力の大きさを浮遊建築体4に作用させることが可能になり、上記した効果をあらゆる浮遊建築物に対しても適用することが可能になる。
【0035】
また、プール3の深さとともに、該プール3内に満たされた水の水位も任意に変更することができるように形成してもよい。例えば、プール3を形成する際に、地盤2よりも上に側壁部14に相当する壁部を形成しておき、この壁部に排水用の溝等を設け、この溝に嵌合可能な仕切り部材を設けることにより、プール3内の水位を任意に調整することができる。このように、水位を調整することによっても、空洞部9に作用する浮力の大きさを調整することが可能になる。
【0036】
以上、本実施の形態に係る免震建築物について詳細に説明したが、本発明に係る免震建築物は、上記したものに限定されず、本発明に関わる思想を逸脱しない範囲において、適宜変更してもよい。また、明細書では、プールを一つ形成し、その中に浮遊建築体を配置した例を用いて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、第1のプールを有する第1プール体を形成するほかに、外形形状が第1のプールよりも小さくなるように形成され、内側に第2のプールを形成した第2プール体を形成し、この第2プール体を第1プール体の中で浮遊させつつ配置し、第2プール体の中に浮遊建築体を配置するようにしてもよい。このプール体の数は施工する者が任意に決定してよい。
【符号の説明】
【0037】
1 免震建築物
2 地盤
3 プール
3a 底面
4 浮遊建築体
5 液体
6 内周面防水層
7 内周面保護層
8 建築体本体
9 空洞部
15a 下面
17 外周面防水層
18 外周面保護層
19 貯留槽
20 水
21 空間部
図1
図2
図3
図4
図5
図6