(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249622
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】土留壁構造及び土留壁構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/04 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
E02D5/04
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-77399(P2013-77399)
(22)【出願日】2013年4月3日
(65)【公開番号】特開2014-201915(P2014-201915A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141521
【氏名又は名称】株式会社技研製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】北村 精男
(72)【発明者】
【氏名】石原 行博
【審査官】
大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭51−096145(JP,A)
【文献】
特開2009−013611(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0195693(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/02−5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を掘削して形成する掘削空間の周囲の地盤を支持するための土留壁構造の構築方法であって、
下方が前記掘削空間に向かって進出するように傾斜した姿勢となる斜め土留壁を前記地盤内に設置する工程と、
前記斜め土留壁の前面側の地盤を所定の深度まで掘削して前記掘削空間を形成する工程と、
前記斜め土留壁に荷重をかけ、前記斜め土留壁の上部を前記掘削空間側に弾性変形させて、前記斜め土留壁の前面側の受動土圧領域を増やすとともに、前記斜め土留壁の背面と前記地盤の間に空間を形成する工程と、
前記空間に裏込め材を投入する工程と、
前記荷重を除去し、前記斜め土留壁が復元する力によって背面側で前記裏込め材および地盤を押圧させる工程と、
を備え、
前記斜め土留壁の背面側で前記裏込め材および地盤を押圧している土留壁構造を構築することを特徴とする土留壁構造の構築方法。
【請求項2】
複数の杭を前記地盤内に傾斜した姿勢で設置し、その複数の杭を連結してなる前記斜め土留壁を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の土留壁構造の構築方法。
【請求項3】
地盤を掘削して形成する掘削空間の周囲の地盤を支持するための土留壁構造であって、
下方が前記掘削空間に向かって進出するように傾斜した姿勢を有し、その背面側で地盤を覆う斜め土留壁を備え、
前記斜め土留壁は荷重をかけられ、前記斜め土留壁の上部を前記掘削空間側に弾性変形されて、前記斜め土留壁の前面側の受動土圧領域が増やされるとともに、前記斜め土留壁の背面と前記地盤の間に形成された空間に裏込め材が投入されており、前記荷重が除去された後、前記斜め土留壁が復元する力によって、前記斜め土留壁の背面側で前記裏込め材および地盤を押圧していることを特徴とする土留壁構造。
【請求項4】
前記斜め土留壁は、前記地盤内に傾斜した姿勢で設置された複数の杭が連結されて壁面状に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の土留壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留壁構造及び土留壁構造の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤掘削時の地山崩壊を防ぐために、掘削する地盤の周囲に土留壁を構築する土留め工が行われている。「土留め工」としては「自立式土留め」の他、より大きな土圧に抗することができる「切梁式土留め」「アンカー式土留め」「控え杭タイロッド式土留め」などの支保工形式が知られている。
【0003】
また、土留壁に作用する土圧を低減させるように、土留壁を傾斜させて構築する「自立式斜め土留壁」の技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
また、背面側に張力部材を予め設置した杭を打設して土留壁を構築し、その張力部材によって土圧のかかる方向とは逆向きの力を作用させることで、土圧による変位を防ぐ技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−229626号公報
【特許文献2】特開2002−363977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術の「切梁式土留め」「アンカー式土留め」「控え杭タイロッド式土留め」を行う場合、それぞれ切梁、アンカー、控え杭及びタイロッドを設置するために、工費や工期が増大してしまうという問題があった。
また、上記特許文献1の場合、「自立式斜め土留壁」のみでは掘削完了後の荷重変化(土圧等)による、土留壁への水平変位を十分に抑えることができないことがあり、必要に応じて、控え杭及び連結部材(タイロッド)を設置したり、上記特許文献2の張力部材を用いたりする対策を講じることがある。このような対策を実行するには、土留壁の背面側に控え杭及び連結部材や張力部材を設置するスペースをとらなければならず、そのスペースのために土留壁の背後で使用できる用地の範囲が限られてしまうことがあった。
【0006】
本発明の目的は、土圧や背面側地表面に付加される荷重による水平変位を簡易な構成で抑えることができる土留壁構造及び土留壁構造の構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
地盤を掘削して形成する掘削空間の周囲の地盤を支持するための土留壁構造の構築方法であって、
下方が前記掘削空間に向かって進出するように傾斜した姿勢となる斜め土留壁を前記地盤内に設置する工程と、
前記斜め土留壁の前面側の地盤を所定の深度まで掘削して前記掘削空間を形成する工程と、
前記斜め土留壁に荷重をかけ、前記斜め土留壁の上部を前記掘削空間側に弾性変形させて、
前記斜め土留壁の前面側の受動土圧領域を増やすとともに、前記斜め土留壁の背面と前記地盤の間に空間を形成する工程と、
前記空間に裏込め材を投入する工程と、
前記荷重を除去し、前記斜め土留壁が復元する力によって背面側で前記裏込め材および地盤を押圧させる工程と、
を備え、
前記斜め土留壁の背面側で前記裏込め材および地盤を押圧している土留壁構造を構築することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の土留壁構造の構築方法において、
複数の杭を前記地盤内に傾斜した姿勢で設置し、その複数の杭を連結してなる前記斜め土留壁を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、
地盤を掘削して形成する掘削空間の周囲の地盤を支持するための土留壁構造であって、
下方が前記掘削空間に向かって進出するように傾斜した姿勢を有し、その背面側で地盤を覆う斜め土留壁を備え、
前記斜め土留壁は荷重をかけられ、前記斜め土留壁の上部を前記掘削空間側に弾性変形されて、
前記斜め土留壁の前面側の受動土圧領域が増やされるとともに、前記斜め土留壁の背面と前記地盤の間に形成された空間に裏込め材が投入されており、前記荷重が除去された後、前記斜め土留壁が復元する力によって、前記斜め土留壁の背面側で前記裏込め材および地盤を押圧していることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の土留壁構造であって、
前記斜め土留壁は、前記地盤内に傾斜した姿勢で設置された複数の杭が連結されて壁面状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、土圧や背面側地表面に付加される荷重による水平変位を簡易な構成で抑えることができる土留壁構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る土留壁構造を示す概略図である。
【
図2】土留壁構造の構築過程における、複数の矢板を地盤内に設置する方法として圧入を採用した場合の工程を示す説明図である。
【
図3】土留壁構造の構築過程における、傾斜した姿勢で地盤内に設置された斜め土留壁を形成した工程を示す説明図である。
【
図4】土留壁構造の構築過程における、斜め土留壁の前面側の地盤を所定の深度まで掘削して掘削空間を形成した工程を示す説明図である。
【
図5】土留壁構造の構築過程における、斜め土留壁を弾性変形させ、斜め土留壁の背面と地盤の間に空間を形成した工程を示す説明図である。
【
図6】土留壁構造の構築過程における、斜め土留壁の背面側に形成した空間に裏込め材を投入した工程を示す説明図である。
【
図7】土留壁構造の構築過程における、弾性変形された斜め土留壁が復元する力によって、その背面側で裏込め材および地盤を押圧する工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る土留壁構造及び土留壁構造の構築方法の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態の土留壁構造100は、地盤Gを掘削して形成した掘削空間Sの周囲の地盤Gを支持するための構造体である。
土留壁構造100は、
図1に示すように、下方が掘削空間Sに向かって進出するように傾斜した姿勢を有し、その背面側で地盤Gを覆う斜め土留壁10を備えている。また、斜め土留壁10の背面側に埋め込まれた裏込め材20も土留壁構造100の一部を成すと見なすことができる。
土留壁である斜め土留壁10は、一旦荷重をかけられて、その上部が掘削空間S側に弾性変形されており、その荷重が除去された後、斜め土留壁10が復元する力によって、その背面側で裏込め材20および地盤10を押圧している。つまり、斜め土留壁10は、その背面側で裏込め材20および地盤10を押圧する付勢力を有している土留壁であるといえる。
そして、斜め土留壁10が背面側で裏込め材20および地盤Gを押圧することによって、背面側の地盤Gを押し固めるようにして、地盤Gの緩みを生じ難くしている。
【0015】
この斜め土留壁10は、地盤G内に傾斜した姿勢で設置された複数の杭である矢板1が連結されて壁面状に形成されたものである。
つまり、土留壁を設ける地盤G内の所望の範囲に複数の矢板1を設置し、その矢板1の継手を繋いでなる矢板壁を形成することで、任意の長さに延在する斜め土留壁10を形成することができる。
なお、鋼製の矢板1を用いて形成した斜め土留壁10であれば、好適に弾性変形させることができるので、その背面側で裏込め材20および地盤10を押圧し付勢することが可能なものとなる。
【0016】
次に、斜め土留壁10を備えた土留壁構造100の構築方法について説明する。
【0017】
まず、
図2に示すように、杭圧入装置Mを用いて、複数の矢板1を地盤Gに傾斜した姿勢で圧入し、その複数の矢板1を継手で連結してなる斜め土留壁10を形成する。
杭圧入装置Mは、所定の杭(例えば、矢板1)をチャック装置で掴んで地中に圧入する機器であり、既に地中に圧入された既設の矢板1の上端側を挟んで支持する複数のクランプ装置を備えたサドルと、サドルに対して前後動可能なスライドベースと、スライドベース上で左右に旋回可能なリーダーマストと、リーダーマストの前面に昇降可能に取り付けられたチャック装置と、リーダーマストに対してチャック装置を昇降駆動するメイン油圧シリンダ等を備えている。この杭圧入装置Mが複数の矢板1を地盤Gに圧入して連設する動作は周知であるので、ここでは詳述しない。
なお、杭圧入装置Mを用いて複数の矢板1を地盤Gに圧入することに限らず、他の杭打ち装置や他の方法(例えば、打撃や振動、埋込み等の手段)によって、複数の矢板1を地盤G内に傾斜した姿勢で連設し、斜め土留壁10を形成するようにしてもよい。
【0018】
そして、斜め土留壁10が所定長となるまで矢板1の圧入を繰り返し、
図3に示すように、掘削空間Sが形成される側に向かって下方が進出するように傾斜した姿勢で地盤G内に設置された斜め土留壁10を形成する。
【0019】
次いで、
図4に示すように、斜め土留壁10の前面側の地盤Gを所定の深度まで掘削して掘削空間Sを形成する。ここでは、斜め土留壁10の上部が約半分露出する程度の深度まで掘削している。
【0020】
次いで、
図5に示すように、斜め土留壁10の上端側にプレロード荷重Fをかけ、斜め土留壁10の上部を掘削空間S側に弾性変形させて、斜め土留壁10の背面と地盤Gの間に空間2を形成する。例えば、シリンダジャッキなどを用いて、斜め土留壁10にプレロード荷重Fをかけることで、斜め土留壁10を弾性変形させることができる。
【0021】
次いで、
図6に示すように、斜め土留壁10の背面側に形成した空間2に裏込め材20を投入し、さらに必要な場合にはその裏込め材20を硬化させる。
なお、斜め土留壁10の背面側の空間2に投入する裏込め材20としては、土、コンクリート、木材、プラスチック、金属、或いはこれらの混合体などが挙げられる。
【0022】
次いで、
図7に示すように、プレロード荷重Fを除去し、斜め土留壁10を復元させる。そして、斜め土留壁10が復元する力によって、斜め土留壁10の背面側で裏込め材20および地盤Gを押圧させる。
こうして、斜め土留壁10の背面側で裏込め材20および地盤Gを押圧している土留壁構造100を構築することができる。
そして、斜め土留壁10の背面側の地盤Gは、この土留壁構造100によって支持されており、安定した地盤強度を有しているので、
図1に示すように、その地盤G上に建物Hなどの建築物を建設することができる。
【0023】
このように、本発明に係る土留壁構造100は、弾性変形された斜め土留壁10が復元することに伴い、その背面側で裏込め材20および地盤Gを押圧することによって、背面側の地盤Gの緩みを生じ難くしている。つまり、この土留壁構造100の斜め土留壁10は、その復元力を利用して、土圧や背面側地表面に付加される荷重等による土留壁の水平変位を抑制することができるので、従来の「自立式斜め土留壁」よりも好適に、土圧等による水平変位を抑えることができる。
このような土留壁構造100であれば、土圧等による水平変位を簡易な構成の斜め土留壁10で抑えることができる。その結果、切梁、アンカー、控え杭及びタイロッドなどによる補助対策工を施さなくても、背面側地盤の地耐力、支持力を向上させることができるので、切梁、アンカー、控え杭及びタイロッドが不要になり、工費や工期を削減することができる。
【0024】
また、斜め土留壁10にプレロード荷重Fをかけたことにより、斜め土留壁10の掘削側(前面側)および背面側ともに受動土圧領域が増える。その結果、土要素に作用する拘束圧(平均主応力)が増えるので、土要素がせん断破壊しにくくなり、土留壁構造100の剛性が向上し、斜め土留壁10の背面側の地盤Gを良好に支持することが可能になる。
また、斜め土留壁10近傍の地盤Gの緩みが生じ難くなったことでパイピングの発生を抑えることができる。また、斜め土留壁10が支持している地盤G内の拘束圧が増加することによって、地盤Gの液状化を抑止することができる。
こうして斜め土留壁10が背面側で押圧して支持している地盤Gの強度は良好に保たれているので、斜め土留壁10の背後の地盤G上の用地に建築物や道路、線路などを好適に建設し、維持することができる。
【0025】
また、この土留壁構造100の斜め土留壁10であれば、その背面側に控え杭及びタイロッドなどの部材を設置することがないので、斜め土留壁10の背後で使用できる用地の面積をより広く確保することができる。
特に、この土留壁構造100の斜め土留壁10は、プレロード荷重Fによって弾性変形された後、その背面側に形成された空間に裏込め材20が詰められたことで、斜め土留壁10の上部が直立した状態に近い姿勢になっているため、従来の「自立式斜め土留壁」よりも壁体としての占有面積を減らすことができるので、斜め土留壁10の背後の用地の面積をより広く確保することができる。
【0026】
なお、以上の実施の形態においては、鋼製の矢板1を用いて弾性変形可能な斜め土留壁10を形成するとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、弾性変形可能な斜め土留壁10を形成することができる素材であれば、その他の任意の素材、材料を用いることができる。
【0027】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0028】
1 矢板(杭)
2 空間
10 斜め土留壁
20 裏込め材
100 土留壁構造
F プレロード荷重(荷重)
G 地盤
S 掘削空間
M 杭圧入装置