特許第6249680号(P6249680)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6249680-サイドエアバッグ装置 図000002
  • 特許6249680-サイドエアバッグ装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249680
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】サイドエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20171211BHJP
   B60R 21/231 20110101ALI20171211BHJP
【FI】
   B60R21/207
   B60R21/231
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-171937(P2013-171937)
(22)【出願日】2013年8月22日
(65)【公開番号】特開2015-39961(P2015-39961A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105980
【弁理士】
【氏名又は名称】梁瀬 右司
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】吉浦 幸平
【審査官】 鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−281968(JP,A)
【文献】 特開2012−025182(JP,A)
【文献】 特開平11−78767(JP,A)
【文献】 特開2010−52562(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0051151(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
B60R 21/231
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の基布を袋状に縫製した縫製ラインおよびガス排出用のベントホールを有するエアバッグに、車両の衝突時にインフレータからガスを充填して膨張させ、前記エアバッグをサイドドアと乗員との間に展開させるとともに、前記エアバッグに充填したガスを前記ベントホールから排出するサイドエアバッグ装置において、
前記ベントホールは、上面視で前記エアバッグの車両前方側の中央部であって車両前後方向の中心線上に形成され、
前記縫製ラインは、前記2枚の基布がほぼ直方体の袋状を成すように直方体の一の長辺およびこの長辺に対角に位置する長辺を通り、かつ、直方体の上面および底面の対角線を通り、少なくとも車両前方側が上面視で前記エアバッグの車両前後方向の中心線からずれるように形成されていることを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員とサイドドアとの間に膨張・展開されるサイドエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の側突時の乗員の安全性の確保を目的としてサイドエアバッグ装置が提案されており、この種のサイドエアバッグ装置は、車両の側突時に、瞬時に乗員とサイドドアとの間にエアバッグを膨張・展開させて乗員を保護するものである。そして近年では、車両内装の意匠性の向上などの理由から、通常走行時にはサイドエアバッグ装置を車両シートの内部に収納する構成が採用されており、膨張・展開前のエアバッグが折り畳まれた状態で車両シートの内部に収納され、車両の側突時に、車両シートの脆弱部を破って膨張・展開されるようになっている。また、エアバッグにはベントホールが設けられており、車両の側突時にエアバッグが膨張・展開して乗員に接触した際、ベントホールからエアバッグ内の膨張用ガスを流出させて乗員への衝撃をより効率良く吸収するように構成されている。
【0003】
このとき、従来のエアバッグは、織布等からなる一対の基布をそれらの周縁において全体として袋状をなすように縫製されて折り畳まれるが、そのときの縫製ラインは、縫製作業を容易にするためにも、前後方向であって袋状のエアバッグの中心線上に位置するように形成(縫製)される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−335208号公報(段落0042および図2図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年、軽自動車等の小型車両にもサイドエアバッグの搭載が要求されるようになってきており、乗員保護性能に関連するエアバッグ自体の素質として車両の大小クラスを問わず同等のものが求められる傾向にあり、軽自動車等の小型車両ほど車体変形による影響を考慮したエアバッグ性能の設計を行わなければならず、非常に難しい設計が要求される。特に、車体変形の早い小型車両の場合、サイドエアバッグ装置におけるインフレータ出力仕様を中型車両と同程度に設定するには、例えば破裂などの機能不具合の防止や乗員の火傷などの危害性といったエアバッグの展開挙動性能と、エアバッグの展開による乗員の拘束性能とを両立させる必要がある。そのため、エアバッグに設けられるベントホールの位置は、車両の側突時にサイドドアにより塞がれないこと、および、インフレータの高温の膨張用ガスが乗員に向けて直接噴出しないことの2点に配慮すると、エアバッグの前面に限られるという制約がある。
【0006】
そして、小型車両の場合、エアバッグの展開挙動性能および乗員拘束性能を両立させつつ、コスト低減も加味してエアバッグの容量を可能な限り小さくすることが望まれているが、実際には、インフレータからのガスの噴出時の圧力により、エアバッグの縫製部分(縫製ライン)にはかなり強い応力がかかるため、上記した位置制約の範囲内でベントホールを設定しようとしたときに、エアバッグの車両前後方向の中心線に形成される縫製ラインと同じ中心線上にベントホールを設定するのが好ましいにも拘らず、中心線(縫製ライン)から離れた位置にベントホールを設定せざるを得ず、エアバッグサイズ大型化し、これに伴うコストの上昇を防止することが困難であった。
【0007】
本発明は、エアバッグの低容量化によるコストの低減を図れるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明のサイドエアバッグ装置は、2枚の基布を袋状に縫製した縫製ラインおよびガス排出用のベントホールを有するエアバッグに、車両の衝突時にインフレータからガスを充填して膨張させ、前記エアバッグをサイドドアと乗員との間に展開させるとともに、前記エアバッグに充填したガスを前記ベントホールから排出するサイドエアバッグ装置において、前記ベントホールは、上面視で前記エアバッグの車両前方側の中央部であって車両前後方向の中心線上に形成され、前記縫製ラインは、前記2枚の基布がほぼ直方体の袋状を成すように直方体の一の長辺およびこの長辺に対角に位置する長辺を通り、かつ、直方体の上面および底面の対角線を通り、車両前方側が上面視で前記エアバッグの車両前後方向の中心線からずれるように形成されていることを特徴としている(請求項1)。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、上面視でエアバッグの車両前方側の中央部であって車両前後方向の中心線上にベントホールを形成し、2枚の基布がほぼ直方体の袋状を成すように直方体の一の長辺およびこの長辺に対角に位置する長辺を通り、かつ、直方体の上面および底面の対角線を通り、車両前方側が上面視でエアバッグの車両前後方向の中心線からずれるように縫製ラインを形成したため、エアバッグの展開挙動性能および乗員拘束性能を両立させることができるとともに、エアバッグの容量を大きくすることなくベントホールを縫製ラインから離れた位置に設定することができ、エアバッグの低容量化によるコストの低減を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態にかかるサイドエアバッグ装置の側面図である。
図2図1のエアバッグの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明に係るサイドエアバッグ装置の一実施形態について、図1および図2を参照して詳細に説明する。なお、以下は左側シートへの適用例を示す。
【0012】
図1に示すように、サイドエアバッグ装置1は、折り畳まれたエアバッグ2と、このエアバッグ2に出力する膨張用ガスを発生させるガス発生器であるインフレータ3とを備え、通常時は車両用シートSのシートバック5の車室外側の側部内に形成された収納空間に配設される。そして、他車両の側方衝突(以下、側突という)時などに、インフレータ3から出力されたガスが折り畳まれた状態のエアバッグ2に充填されることによりエアバッグ2が膨張し、図1に示すように、エアバッグ2が車両用シートSに座ってシートバック5にもたれた状態の乗員Mの脇から腰の範囲に膨張・展開し、車両の側突時などに加わる乗員Mへの衝撃を吸収して乗員を保護する。
【0013】
一方、インフレータ3は、点火装置、伝火剤、ガス発生剤等で構成されており、ガス発生剤は、車両の側突時などに、エアバッグ2を膨張・展開させるための窒素ガス発生源となっている。また、このインフレータ3は、後述するようにシートバック5の内部に固定され、この実施形態では、上端部にガス噴出口3aが配設されるとともに、該ガス噴出口3aの対極に位置する下端部にハーネス3bが配設されている。
【0014】
ところで、エアバッグ2は、織布等からなる2枚の基布2a,2bがそれらの周縁において全体として袋状を成すように縫製されて形成されるが、説明を簡単にするため、図2に示すように、縫製後のエアバッグ2をほぼ直方体の袋状を成すとすると、縫製ラインLは、直方体の一の長辺、およびこの長辺に対角に位置する長辺を通り、かつ、上面および底面の対角線上を通るように、直方体状のエアバッグ2の上面視で車両前後方向の中心線Cからずれて形成される。
【0015】
そして、エアバッグ2にインフレータ3のガスが充填されて膨張・展開し、エアバッグ2が乗員に接触した際にエアバッグ2内のガスを流出させるために、図2に示すように、2個のベントホール6が、上面視でエアバッグ2の車両前方側の中央部であって車両前後方向の中心線C上に位置するように形成される。このように、車両前方側の中央部であって車両前後方向の中心線上にベントホール6を形成することで、車両の側突時にベントホール6がサイドドアにより塞がれることがなく、しかもインフレータ3の高温の膨張用ガスがベントホール6から排出される際に乗員に向けて直接噴出されることがなく、破裂などの機能不具合の防止や乗員の火傷などの危害性といったエアバッグの展開挙動性能と、エアバッグ2の展開による乗員の拘束性能の両方が担保されている。
【0016】
また、インフレータ3からのガスの噴出時の圧力により、エアバッグ2の縫製ラインLにはかなり強い応力がかかるが、ベントホール6が縫製ラインLから離れているため、エアバッグ2の容量を大きくしなくても、縫製ラインLにエアバッグ2の膨張時の強い応力が直接的にかかることがない。
【0017】
ところで、シートバック5は、シートバック5の上部を形成するコ字状のシートパイプとこれに接合されたシートフレームと、これらの回りを覆うウレタンなどで形成された弾性シートパッドと、シートパッドの回りを覆うシートカバーとを備え、シートパッドの側部に形成された収納空間にサイドエアバッグ装置1が収納され、シートカバーにより収納空間が覆われている。このとき、車両の側突時などに、エアバッグ2が膨張・展開し易いように、収納空間の前方位置にはエアバッグ2の膨張力により破断する脆弱な縫製を施した脆弱部が形成されている。
【0018】
続いて、上記したサイドエアバッグ装置1の膨張・展開プロセスについて簡単に説明すると、サイドエアバッグ装置1のエアバッグ2の膨張・展開は、マイクロコンピュータ構成のエアバッグコンピュータ(エアバッグECU)で制御されており、このエアバッグECUが、車両に設けられた加速度センサにより検出された車両の減速度の情報などに基づいて、障害物が車両の側面に衝突したか、すなわち、エアバッグ2を膨張・展開させるか否かを判断する。そして、エアバッグECUがエアバッグ2を膨張・展開させると判断すると、インフレータ3の点火装置に通電を開始する。この通電により点火装置内のフィラメントが加熱し、これにより着火剤に着火する。その後、伝火剤、ガス発生剤へと極めて短時間で火炎が伝播し、ガス発生剤から多量の窒素ガスが発生する。この窒素ガスがフィルタを通過して、冷却および燃えかすの除去が行われてエアバッグ2内に噴出される。
【0019】
そして、インフレータ3から出力されたガスが充填されてエアバッグ2が膨張し、その際の膨張力がシートカバーの脆弱部に作用し、この脆弱部が破断してエアバッグ2がシートパッドの前方に膨出し、エアバッグ2が車両のサイドドアと乗員との間に展開される。
【0020】
したがって、上記した実施形態によれば、上面視でエアバッグ2の車両前方側の中央部であって車両前後方向の中心線C上に2個のベントホール6を形成し、上面視でエアバッグ2の車両前後方向の中心線Cからずれるように縫製ラインLを形成したため、エアバッグ2の展開挙動性能および乗員拘束性能を両立させることができるとともに、エアバッグ2の容量を大きくすることなくベントホール6を縫製ラインLから離れた位置に設定することができ、エアバッグ2の容量を小さくしてコストの低減を図ることができる。
【0021】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能である。
【0022】
例えば実施形態では、縫製後のエアバッグ2をほぼ直方体の袋状を成すと仮定して、縫製ラインLが、直方体の一の長辺、およびこの長辺に対角に位置する長辺を通り、かつ、上面および底面の対角線上を通るように、直方体状のエアバッグ2の上面視で車両前後方向の中心線Cからずれて形成された場合について説明したが、エアバッグ2の形状は直方体状でなくてもよいのは勿論であり、要するに、少なくとも車両前方側が上面視でエアバッグ2の車両前後方向の中心線からずれるように縫製ラインLが形成されていればよい。また、ベントホール6は1個であってもよい。
【0023】
また、上記した本発明を、左側シートに適用した場合について説明したが、右側シートにも同様に適用可能であるのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0024】
1 …エアバッグ装置
2 …エアバッグ
3 …インフレータ
6 …ベントホール
L …縫製ライン
C …中心線
図1
図2