(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、粗悪燃料など重質油焚きボイラ等から排出される排ガスのダスト中には数%のバナジウム(V)が含まれており、排ガスのバナジウムが運転中に脱硝触媒の表面にオキシ硫酸バナジウム(VOSO
4)などのV化合物として堆積する。バナジウムは脱硝触媒の活性成分であるとともに、副反応のSO
2の酸化反応も促進する物質であるため、脱硝触媒のSO
2酸化反応率が経時的に上昇し、後流側に排出される腐食性のSO
3の量が増加する。また、脱硝触媒の表面にVOSO
4の膜が析出すると、排ガスのガス拡散を抑制するため、脱硝触媒の触媒性能の低下も生じる。
【0007】
しかしながら、従来の脱硝触媒の触媒性能を回復する方法は、石炭焚ボイラから排出される排ガス中に含まれるヒ素(As)に起因して触媒表面に蓄積したヒ素化合物(As
2O
3)は有効に除去できるが、VOSO
4の除去は十分に行えない。そのため、脱硝触媒の触媒表面に蓄積されたVOSO
4を除去して脱硝触媒の触媒性能を回復して再生する場合、脱硝触媒が劣化し、脱硝触媒の強度が低下し易いため、再利用するのが困難である。
【0008】
そこで、排ガス中に存在するバナジウムに起因して生じたVOSO
4などのV化合物の蓄積による脱硝性能が低下した脱硝触媒の再生にあたり、脱硝触媒の強度の低下を抑制しつつ再生できる排ガス処理再生触媒及び排ガス処理触媒の再生方法が求められている。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであって、触媒の強度の低下を抑制しつつ再生することができる排ガス処理再生触媒及び排ガス処理触媒の再生方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、重質油炊きボイラから排出される硫黄酸化物、バナジウムを含む排ガスを脱硝する排ガス処理再生触媒であって、チタンの酸化物及び珪素の酸化物を含有し、珪素の酸化物の含有量が10重量%以上である担体と、前記担体に担持され、バナジウム、タングステンよりなる群より選ばれる一種を含む活性成分と、を有することを特徴とする排ガス処理再生触媒である。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、排ガス処理再生触媒の表面にコート層を有することを特徴とする排ガス処理再生触媒である。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、排ガス処理再生触媒表面のコート層が、シリカライト及びメタロシリケートよりなる群のうちの少なくとも1種の成分で形成されるコート層であることを特徴とする排ガス処理再生触媒である。
【0013】
第
4の発明は、重質油炊きボイラから排出される排ガス中に含まれる硫黄酸化物、バナジウムにより脱硝性能が低下した排ガス処理触媒を再生する排ガス処理触媒の再生方法であって、排ガス処理触媒として、チタンの酸化物及び珪素の酸化物を含有し、珪素の酸化物の含有量が10重量%以上である担体に、バナジウム、タングステンよりなる群より選ばれる一種を含む活性成分を担持した触媒を用い、前記排ガス処理触媒を、濃度が0.5N以上2.0N以下のアルカリ洗浄液に浸漬し、前記排ガス処理触媒の表面のオキシ硫酸バナジウムを除去するアルカリ処理工程と、前記排ガス処理触媒を前記アルカリ洗浄液で洗浄した後、酸水溶液で触媒の活性化処理を行う活性化処理工程と、を有することを特徴とする排ガス処理触媒の再生方法である。
【0014】
第
5の発明は、第
4の発明において、前記排ガス処理触媒として、その表面にコート層を有することを特徴とする排ガス処理触媒の再生方法である。
【0015】
第
6の発明は、第
5の発明において、排ガス処理触媒表面のコート層が、シリカライト及びメタロシリケートよりなる群のうちの少なくとも1種の成分で形成されるコート層を有することを特徴とする排ガス処理触媒の再生方法である。
【0016】
第
7の発明は、第
4から第
6のいずれか1の発明において、前記アルカリ洗浄液が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸カリウムの水溶液であり、前記酸水溶液が、塩酸、硝酸、フッ化水素又は硫酸の水溶液であることを特徴とする排ガス処理触媒の再生方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、強度の低下を抑制しつつ再生することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明の下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
<排ガス処理触媒>
本発明の実施形態に係る排ガス処理触媒ついて、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る排ガス処理触媒を示す概略図である。
図1に示すように、本実施形態に係る排ガス処理触媒10は、重質油炊きボイラから排出される硫黄酸化物(SOx)、バナジウム(V)を含む排ガスを脱硝する排ガス処理触媒であり、活性成分11と担体12とを有し、活性成分11を担体12に担持させた触媒である。本実施形態に係る排ガス処理触媒10は、排ガスにアンモニア(NH
3)を添加しておくことで、排ガス中のNO、NH
3、SOx、V(例えば、V化合物)が触媒内部に拡散すると、NOはNO
2に還元され、脱硝される。
【0021】
活性成分11としては、バナジウム(V)、タングステン(W)よりなる群より選ばれる一種を含むものを挙げることができる。活性成分11は、V、W以外に、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)等を少なくとも一種含んでもよい。活性成分11はこれらの単体又はこれらの混合物などを挙げることができる。
【0022】
担体12は、チタン(Ti)及び珪素(Si)から構成されている。担体12は、チタン(Ti)及び珪素(Si)の他に、さらにアルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)などを含んで構成されていてもよい。担体12は、TiO
2、SiO
2、Al
2O
3、ZrO
2、CeO
2の酸化物であるのが好ましい。また、担体12は、これらの少なくとも二種又は二種以上の元素が存在する複合酸化物を含むようにしてもよい。三種の複合酸化物としては、例えばTiO
2−SiO
2−Al
2O
3、TiO
2−SiO
2−ZrO
2、TiO
2−SiO
2−CeO
2等が挙げられる。また、担体12は、複合酸化物と混合物とを併存するものを用いてもよい。
【0023】
担体12のSiO
2の含有量は10重量%以上20重量%以下であり、更に好ましくは10重量%以上15重量%以下である。更に好ましくは11重量%以上13重量%以下である。
ここで10重量%未満の場合には、後述する試験例に示すように、触媒の再生処理の際、アルカリ条件でSiO
2が溶解し、担体12への残留率が少なくなり、再生触媒の圧縮強度が低下するので好ましくない。また、20重量%を超えると、例えばハニカム触媒を成型する際、押し出し後の保形性が良好とならず、好ましくない。
このように、担体12に上記範囲内のSiO
2を含むことで、本実施形態に係る排ガス処理触媒10を再生する際に、本実施形態に係る排ガス処理触媒10をアルカリ溶液に浸漬しても強度を低下させることなく再生することができる。なお、本実施形態に係る排ガス処理触媒10の強度は、たとえば、木屋式硬度計などの硬度計を用いて圧縮強度などを測定することで求められる。
図4は、SiO
2含有量(重量%)と、再生触媒のSO
2酸化率との関係を示す図である。
図4に示すように、SiO
2が10重量%を超える場合、触媒を再生してV
2O
5、WO
3の活性成分を再担持した際、SO
2酸化率が向上する。なお、20重量%以上は成形性が悪いものとなる。
【0024】
よって、本実施形態に係る排ガス処理触媒は、担体に所定量のSiを含有することで、再生時に用いる水酸化ナトリウム水溶液による劣化を抑制できるため、強度の低下を抑制しつつ再生することができる。このため、本実施形態に係る排ガス処理触媒によれば、粗悪燃料など重質油焚きボイラ等の燃焼装置から排出される排ガス中に含まれるNOxの除去性能を維持しつつ、良好な状態で再度使用することができる。
【0025】
また、本実施形態に係る排ガス処理触媒10は、
図2に示すように、その表面にシリカライト及びメタロシリケートよりなる群のうちの少なくとも1種の成分で形成されるコート層13を有するようにしてもよい。排ガス処理触媒10の表面にコート層13を形成することで、排ガス中のNO、NH
3、SOxは触媒内部に拡散させ、NOはNO
2に還元され、脱硝されると共に、V(例えば、V化合物)は触媒内部に浸透するのを抑制することができる。
【0026】
ここで、本実施形態に係る排ガス処理触媒10を用いて排ガス中に含まれるNOを脱硝する際、排ガスが重質油を用いてボイラで燃焼させて生じた燃焼排ガスである場合、重質油中にはV成分が多く含まれている。そのため、このV成分は五酸化バナジウム(V
2O
5)の状態でボイラから本実施形態に係る排ガス処理触媒10に飛来して付着すると、排ガス中に含まれる二酸化硫黄(SO
2)及び三酸化硫黄(SO
3)と下記の反応式(1)のように反応して、オキシ硫酸バナジウム(VOSO
4)の状態となって本実施形態に係る排ガス処理触媒10に蓄積する。この蓄積量は、重質油中の硫黄(S)分の含有量にもよるが、1質量%以上含まれる場合には、このオキシ硫酸バナジウム(VOSO
4)の蓄積が顕著となる。そのため、重質油をボイラ燃料して用いて生じた排ガス中に含まれるNOを本実施形態に係る排ガス処理触媒10で脱硝した際、本実施形態に係る排ガス処理触媒10の表面に蓄積したVOSO
4を除去し、再生する。
V
2O
5+SO
2+SO
3→2VOSO
4 ・・・(1)
【0027】
<排ガス処理触媒の再生方法>
上述したような構成を有する本発明の実施形態に係る排ガス処理触媒の再生方法の一例について図面を用いて説明する。
図3は、本実施形態に係る排ガス処理触媒の再生方法の一例を示すフローチャートである。
図3に示すように、本実施形態に係る排ガス処理触媒の再生方法は、以下の工程を有する。
(a) 排ガス処理触媒を、濃度が0.7N以上2.0N以下のアルカリ洗浄液に浸漬し、排ガス処理触媒の表面のVOSO
4を除去するアルカリ処理工程(ステップS11)。
(b) 排ガス処理触媒をアルカリ洗浄液で洗浄した後、酸水溶液で触媒の活性化処理を行う活性化処理工程(ステップS12)。
(c) 排ガス処理触媒を活性化処理を行った後、排ガス処理触媒を水で洗浄する水洗工程(ステップS13)。
(d) 排ガス処理触媒を水洗した後、排ガス処理触媒を乾燥する乾燥工程(ステップS14)。
(e) 排ガス処理触媒を乾燥した後、排ガス処理触媒を焼成する焼成工程(ステップS15)。
【0028】
(アルカリ処理工程:ステップS11)
ボイラの運転を停止して脱硝装置から本実施形態に係る排ガス処理触媒を取り出し、取り出した本実施形態に係る排ガス処理触媒を水で予備洗浄した後、本実施形態に係る排ガス処理触媒をアルカリ洗浄液に浸漬し、排ガス処理触媒の表面に蓄積したVOSO
4を除去する(アルカリ処理工程:ステップS11)。
【0029】
本実施形態に係る排ガス処理触媒を水で予備洗浄する際には、水は常温のものを用い、本実施形態に係る排ガス処理触媒は所定時間(例えば、30分程度)浸漬する。水の温度は、10℃〜80℃であると好ましい。これは、10℃よりも低いと、水を冷却するために無駄な熱エネルギーを生じてしまう虞があり、80℃より高くても、無駄な熱エネルギーを生じてしまうからである。水への浸漬時間は、30分〜5時間であると好ましい。これは、30分より短いと、排ガス処理触媒に付着した煤塵等が十分除去できない虞があり、5時間より長くても、その間までに十分触媒に付着した煤塵等が除去されているため、それ以上の洗浄効果はほとんどないからである。
【0030】
アルカリ洗浄液としては、アルカリ水溶液が用いられる。アルカリ水溶液としては、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)又は炭酸カリウム(K
2CO
3)の水溶液などを用いることができ、中でも、使用のし易さ及びコストの観点から、NaOHが好ましい。
【0031】
アルカリ洗浄液の濃度は、通常、0.05〜20重量%の範囲とするのが好ましい。これは、アルカリ洗浄液の濃度が0.05重量%未満では、洗浄効果が十分でない場合があり、アルカリ洗浄液の濃度が20重量%より大きい場合では、処理設備のコストが高くなる場合が生じるからである。また、アルカリ洗浄液としてNaOH水溶液を用いる場合、NaOH水溶液の濃度は、0.5N以上2.0N以下であることが好ましく、0.7N以上1.5N以下であることがより好ましく、0.8N以上1.2N以下であることが更に好ましい。NaOH水溶液の濃度が0.5N未満の場合には、触媒の洗浄効果が十分でない場合があり、NaOH水溶液の濃度が2.0Nより大きい場合には、処理設備のコストが高くなる場合が生じるからである。
【0032】
アルカリ洗浄液の温度は、10℃以上90℃以下であることが好ましく、20℃以上75℃以下であることがより好ましく、40℃以上65℃以下であることが更に好ましい。アルカリ洗浄液の温度が10℃未満の場合には、触媒の洗浄効果が十分でない場合があり、アルカリ洗浄液の温度が90℃より高い場合には、処理設備のコストが高くなる場合が生じるからである。
また、アルカリ洗浄時間としては、アルカリ条件によっても左右されるが例えば30〜120分程度とするのが良い。
【0033】
本実施形態では、触媒の洗浄方法として、本実施形態に係る排ガス処理触媒をアルカリ洗浄液に浸漬し、排ガス処理触媒の表面のVOSO
4を除去するようにしているが、洗浄方法は特に限定されることはなく、アンモニア洗浄液中に脱硝触媒を静置する方法、アルカリ洗浄液を触媒に噴霧してアルカリ洗浄液を触媒に接触等させて触媒を洗浄するようにしてもよい。
【0034】
また、アルカリ洗浄液に空気を供給する空気供給手段を設け、アルカリ洗浄液中に空気を供給してバブリングさせ、強制対流を発生させて、触媒の洗浄の効率を促進するようにしてもよい。
【0035】
(活性化処理工程:ステップS12)
排ガス処理触媒をアルカリ洗浄液で洗浄した後、排ガス処理触媒を酸水溶液に浸漬し、触媒の活性化処理を行う(活性化処理工程:ステップS12)。
【0036】
アルカリ処理工程S11で本実施形態に係る排ガス処理触媒の表面からVOSO
4を洗浄除去することができるが、洗浄除去に用いたアルカリ洗浄液が触媒中に残存すると、アルカリ成分のイオン(アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンなど)が本実施形態に係る排ガス処理触媒に残留しうることになり、本実施形態に係る排ガス処理触媒はアルカリ成分のイオンにより被毒されることになる。アルカリ成分のイオンは本実施形態に係る排ガス処理触媒の劣化原因になりうるため、本実施形態に係る排ガス処理触媒の強度の低下を生じてしまう。
【0037】
そこで、本実施形態に係る排ガス処理触媒をアルカリ洗浄液で洗浄した後、本実施形態に係る排ガス処理触媒を酸水溶液に浸漬する。これにより、触媒上に残留して触媒の被毒物質となりうるアルカリ成分のイオン(アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンなど)は、HCl等の酸水溶液の水素イオン(H+)にイオン変換される。この結果、触媒中のアルカリ成分のイオンが除去されて、本実施形態に係る排ガス処理触媒の活性を回復させることができる。
【0038】
また、酸水溶液としては、有機酸、無機酸のいずれかを含む酸水溶液を用いてもよいが、後処理の負担等を考慮すると、無機酸を用いた酸水溶液を用いることが好ましい。そして、ナトリウムやカリウムとイオン交換可能な無機酸であれば、強酸、弱酸を問わず使用できる。
【0039】
酸水溶液としては、例えば、塩酸(HCl)、硝酸(HNO
3)、フッ化水素(HF)又は硫酸(H
2SO
4)の水溶液などを用いることができる。
【0040】
酸水溶液の濃度は用いる酸水溶液にもよるが、酸水溶液がH
2SO
4溶液の場合、H
2SO
4溶液の濃度は、0.5N以上2.0N以下であることが好ましく、0.7N以上1.5N以下であることがより好ましく、0.8N以上1.2N以下であることが更に好ましい。H
2SO
4溶液の濃度が0.5N未満の場合には、イオン交換が十分でない場合があり、H
2SO
4溶液の濃度が2.0Nより大きい場合には、処理設備のコストが高くなる場合が生じるからである。
【0041】
酸水溶液の温度は、10℃以上90℃以下であることが好ましく、20℃以上75℃以下であることがより好ましく、25℃以上50℃以下であることが更に好ましい。酸水溶液の温度が10℃未満の場合には、イオン交換が十分でない場合があり、酸水溶液の温度が40℃より高い場合には、処理設備のコストが高くなる場合が生じるからである。
【0042】
(水洗工程:ステップS13)
排ガス処理触媒に対して活性化処理を行った後、排ガス処理触媒を水で洗浄する(水洗工程:ステップS13)。本実施形態に係る排ガス処理触媒は所定時間(例えば、30分程度)浸漬する。これにより、排ガス処理触媒中に残留する酸を排ガス処理触媒から除去できる。本実施形態に係る排ガス処理触媒を水で洗浄する際、水の温度は、10℃〜80℃であると好ましい。これは、10℃よりも低いと、排ガス処理触媒中に残留する酸を水に対して十分に溶解させて除去することができない虞があり、80℃より高くても、無駄な熱エネルギーを生じてしまうからである。水への浸漬時間は、30分〜5時間であると好ましい。これは、30分より短いと、排ガス処理触媒中に残留する酸を水で十分洗浄しきれない虞があり、5時間より長くても、その間までに十分排ガス処理触媒中に残留する酸は除去されているため、それ以上の洗浄効果はほとんどないからである。
【0043】
(乾燥工程:ステップS14)
排ガス処理触媒を水洗した後、排ガス処理触媒を乾燥する(乾燥工程:ステップS14)。本実施形態に係る排ガス処理触媒の乾燥温度は、例えば90℃以上150℃以下であることが好ましい。乾燥温度が90℃未満の場合には、乾燥が十分でない場合があり、乾燥温度が150℃より高い場合には、処理設備のコストが高くなる場合が生じるからである。乾燥時間は、例えば1時間以上10時間以下であることが好ましい。乾燥時間が1時間未満の場合には、乾燥が十分でない場合があり、乾燥時間が10時間を越える場合には、処理設備のコストが高くなる場合が生じるからである。
【0044】
(焼成工程:ステップS15)
排ガス処理触媒を乾燥した後、排ガス処理触媒を焼成する(焼成工程:ステップS15)。本実施形態に係る排ガス処理触媒の焼成温度は、例えば400℃以上800℃以下であることが好ましく、より好ましくは450℃以上700℃以下であり、更に好ましくは500℃以上600℃以下である。焼成温度が400℃未満の場合には、焼成が十分でない場合があり、焼成温度が800℃より高い場合には、処理設備のコストが高くなる場合が生じるからである。
【0045】
本実施形態に係る排ガス処理触媒の焼成時間は、例えば1時間以上10時間以下であることが好ましく、より好ましくは2時間以上7時間以下であり、更に好ましくは3時間以上5時間以下である。焼成時間が1時間未満の場合には、焼成が十分でない場合があり、焼成時間が10時間を越える場合には、処理設備のコストが高くなる場合が生じるからである。
【0046】
焼成後、再生した本実施形態に係る排ガス処理触媒を脱硝装置に挿入して、再度、使用することができる。
【0047】
このように、本発明の実施形態に係る排ガス処理触媒の再生方法を用いれば、触媒表面に蓄積したVOSO
4を除去することができると共に、触媒表面に蓄積したVOSO
4を除去して触媒を再生する際に用いるアルカリ溶液に起因して生じる触媒の劣化を抑制できる。また、本実施形態に係る排ガス処理触媒の活性化処理を行うことにより、本実施形態に係る排ガス処理触媒中のアルカリ成分のイオンを全て除去することができる。そのため、本実施形態に係る排ガス処理触媒を用いて燃焼排ガス中のNOxを除去する際にその触媒表面に蓄積したVOSO
4を溶解しても、本実施形態に係る排ガス処理触媒を触媒の強度の低下を抑制しつつ再生することができる。
【0048】
なお、アルカリ処理工程S11、活性化処理工程S12を経た後、さらに必要に応じて、活性成分を担体に担持させる含浸担持工程を設けるようにしてもよい。含浸担持工程で活性成分を担体に担持させることで、脱硝触媒を再生させることができる。アルカリ処理および酸による活性化処理を行う際には、触媒の活性成分(V、Wなど)が担体から溶出して、触媒中の活性成分濃度の低下に起因する脱硝性能の低下が起こる場合がある。触媒表面のVOSO
4を洗浄除去し、水洗、乾燥後、触媒中の活性成分濃度が再生前と同じになるように活性成分(V、Wなど)を担体に含浸、担持することもできる。Vの担持法としては、V
2O
5、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸バナジル等のバナジウム化合物を、水、有機酸、アミン溶液で溶解した水溶液中に触媒を浸漬する方法が挙げられる。Wの担持法としては、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、塩化タングステン等のタングステン化合物を、水、塩酸、アミン溶液、有機酸で溶解した水溶液中に触媒を浸漬する方法が挙げられる。
【0049】
以上のように、本実施形態に係る排ガス処理触媒は、担体に所定量のSiを含有しているため、本実施形態に係る排ガス処理触媒を強度の低下を抑制しつつ再生することができる。ボイラ燃焼の際において、未燃分中の高温の排ガス中に存在するVOSO
4等のV化合物が本実施形態に係る排ガス処理触媒の表面を覆い、本実施形態に係る排ガス処理触媒の再生処理が行う場合、アルカリ処理および活性化処理によって、本実施形態に係る排ガス処理触媒の表面を覆うVOSO
4等のV化合物を除去しても、強度の低下が抑制された排ガス処理触媒とすることができる。
【0050】
このため、本実施形態に係る排ガス処理触媒によれば、粗悪燃料など重質油焚きボイラ等の燃焼装置から排出される排ガス中に含まれるNOxの除去性能を維持しつつ、良好な状態で再度使用することができる。また、本実施形態に係る排ガス処理触媒は再生して利用することにより、更に長期間使用することができるため、設備費用の負担低減を図ることができると共に産業廃棄物の排出量を減少することができる。
【0051】
なお、上述のように、アルカリ水溶液によるアルカリ処理により触媒表面に蓄積したVOSO
4は除去されるが、脱硝触媒の活性成分であるV等が溶出し、触媒中に残留する活性成分濃度が低下する場合がある。この場合には、適宜、本実施形態に係る排ガス処理触媒に活性成分(例えば、V、W等)を担体に担持して、触媒性能の回復をはかることが有効である。
【0052】
また、本実施形態に係る排ガス処理触媒を洗浄した後、本実施形態に係る排ガス処理触媒を粉砕し、本実施形態に係る排ガス処理触媒の原料として再利用するようにしてもよい。また、粉砕した本実施形態に係る排ガス処理触媒をスラリー状の原料として粉砕し、本実施形態に係る排ガス処理触媒の表面に再度コーティングして再利用するようにしてもよい。
【0053】
<試験例>
次に、本実施形態に係る排ガス処理触媒を用いた試験結果について説明する。
(試験例1−1〜1−9:圧縮強度の評価)
まず、触媒表面にオキシ硫酸バナジウム(VOSO
4)が堆積されている使用済触媒(6孔×7孔×900mmのハニカム触媒)を準備した。この使用済触媒を9等分して、サンプル1〜9を準備した。その後、表1に示すように、各使用済触媒を表1に示すアルカリ洗浄条件で洗浄した。その後、洗浄した使用済触媒を乾燥し得た再生触媒、又は洗浄した使用済触媒を乾燥して焼成して得た再生触媒の圧縮強度を測定した。圧縮強度の測定は、木屋式硬度計(株式会社藤原製作所製)を用いて行った。表1に示す各使用済触媒のアルカリ洗浄条件、圧縮強度を表1に示す。
ここで、本試験の触媒の担体は、チタン(Ti)と珪素(Si)との複合酸化物触媒であり、SiO
2の割合が11重量%のものを用いた。
ここで、焼成温度は、500℃とした。
【0055】
次に、試験例1−2、1−5、1−8におけるアルカリ洗浄液中にあるV量、SiO
2量、VOSO
4量を測定した。
【0057】
表1に示すように、アルカリ洗浄液で洗浄した使用済触媒は、乾燥後、更に焼成までしておくことで、再生触媒の圧縮強度を向上させることができることが確認された(試験例1−1〜1−9参照)。
【0058】
また、表2に示すように、アルカリ洗浄液で洗浄する際のアルカリ洗浄条件がゆるい方が使用済触媒からアルカリ洗浄液中に抜け出たSiO
2の量は低いことが確認された(試験例1−2、1−5、1−8参照)。
【0059】
よって、使用済触媒から抜け出るSiO
2の量が少ないほど、使用済触媒を、アルカリ洗浄液で洗浄した後、焼成すれば強度が高くなるといえる。
【0060】
(試験例2−1〜2−13:圧縮強度の評価)
また、異なるアルカリ洗浄条件を用いて使用済触媒を洗浄して再生した再生触媒の圧縮強度を測定した。
まず、上述と同様に、使用前の触媒と、触媒表面にオキシ硫酸バナジウム(VOSO
4)が堆積されている使用済触媒(6孔×7孔×900mmのハニカム触媒)を準備した。この使用済触媒を13等分して、サンプル1〜13を準備した。その後、表1に示すように、各使用済触媒を表2に示すアルカリ洗浄条件で洗浄した。その後、洗浄した使用済触媒を乾燥し得た再生触媒、又は洗浄した使用済触媒を乾燥して焼成して得た再生触媒の圧縮強度を測定した。圧縮強度の測定は、上記と同様のものを用いて行った。各触媒のアルカリ洗浄条件、圧縮強度を表3に示す。
【0062】
次に、試験例2−6、2−9、2−12におけるアルカリ洗浄液中にあるV量、SiO
2量、VOSO
4量を測定した。
【0064】
表3に示すように、1N−NaOH水溶液に40℃、15分間浸漬して使用済触媒は、乾燥後でも使用前触媒とほぼ同等の強度を有していたことが確認された(試験例2−1、2−2、2−5〜2−7参照)。また、1N−NaOH水溶液に常温(20℃)、30分間浸漬して使用済触媒、1N−NaOH水溶液に常温(20℃)、120分間浸漬して使用済触媒は、いずれも乾燥後に焼成することで強度が向上したことが確認された(試験例2−8〜2−13参照)。
【0065】
また、表4に示すように、使用済触媒を常温(20℃)、30分間、浸漬した1N−NaOH水溶液中のVOSO
4の量が少ないことから、触媒表面にVOSO
4が残っているといえる(試験例2−9参照)。また、使用済触媒を1N−NaOH水溶液に常温で120分間、浸漬すれば、使用済触媒からSiO
2の分離量を許容範囲内に抑えつつVOSO
4を分離することができるといえる(試験例2−12参照)。
また、1N−NaOH水溶液に20℃、30分間、浸漬した使用済触媒、1N−NaOH水溶液に常温、120分間、浸漬した使用済触媒は、乾燥後、更に焼成までしておくことで、再生した排ガス処理触媒の圧縮強度を向上させることができることが確認された(試験例2−8〜2−13参照)。
【0066】
よって、NaOH水溶液を40℃、15分浸漬した場合、常温(20℃)のNaOH水溶液に浸漬した場合でも排ガス処理触媒からSiO
2が分離する量を許容範囲内としつつVOSO
4を使用済触媒から十分分離でき、再生できるといえる。また、排ガス処理触媒から抜け出るSiO
2の量が少ないほど、使用済触媒を、アルカリ洗浄液で洗浄した後、焼成すれば強度は高くできるといえる。
【0067】
<排ガス処理装置>
本実施形態に係る排ガス処理触媒を排ガス処理装置に用いた好適な実施形態について説明する。
図5は、重質油焚きボイラの排ガス処理装置の概略図である。
図5に示すように、重質油Fを用いた重質油焚きボイラ20中で燃焼ガス21は、火炉22内の蒸発管で蒸気を発生させ(発生した蒸気は蒸気ドラム23で気液分離され、蒸気はスーパーヒータ24に導かれ、過熱水蒸気となり、蒸気タービンの駆動に使用された後、凝縮した水は火炉22内の水管に還流し再蒸発される。)、スーパーヒータ24により蒸気を過熱した後、エコノマイザ25で重質油焚きボイラ20への供給水を加熱し、エコノマイザ25出口から燃焼排ガス26として排出される。前記エコノマイザ25から排出された燃焼排ガス26は、燃焼排ガス中の窒素酸化物(NOx)を脱硝する脱硝装置27に供給され、その後エアヒータ(AH)28で熱交換により空気29を加熱した後、集塵装置30に供給され、更に、燃焼排ガス中の硫黄酸化物(SOx)を脱硫する脱硫装置31に供給された後、浄化ガス32として大気に排出される。
【0068】
また、脱硝装置27は、重質油焚きボイラ20からの燃焼排ガス26に対し、脱硝装置27の前流側にアンモニウム(NH
3)を噴霧して還元脱硝するものである。脱硝装置27手前においては、アンモニアが噴霧され、脱硝装置27においてアンモニア脱硝されている。脱硝装置27には脱硝触媒27aが備えられており、脱硝触媒27aには、本実施形態に係る排ガス処理触媒が用いられる。そのため、脱硝触媒27aの再生時にNaOH水溶液を用いてもNaOH水溶液による劣化を抑制できるため、強度の低下を抑制しつつ再生することができる。このため、本実施形態に係る排ガス処理触媒によれば、粗悪燃料など重質油焚きボイラ20から排出される燃焼ガス21中に含まれるNOxの除去性能を維持しつつ、良好な状態で再度使用することができる。