特許第6249691号(P6249691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6249691フィブロネクチン結合性の大豆由来の水溶性多糖類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249691
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】フィブロネクチン結合性の大豆由来の水溶性多糖類
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/732 20060101AFI20171211BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20171211BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20171211BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20171211BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20171211BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20171211BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20171211BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20171211BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171211BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20171211BHJP
   A23L 11/00 20160101ALI20171211BHJP
【FI】
   A61K31/732
   A61K31/715
   A61K36/48
   A61K47/02
   A61K9/20
   A61K9/14
   A61K9/16
   A61K9/48
   A61P43/00 105
   A61P1/00
   A23L11/00 D
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-184102(P2013-184102)
(22)【出願日】2013年9月5日
(65)【公開番号】特開2015-51928(P2015-51928A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年6月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼ 掲載年月日 2013年3月5日 掲載アドレス http://www.jsbba.or.jp/2013/outline.html#a ▲2▼ 集会名 日本農芸化学会2013年度大会 開催日 2013年3月24日から2013年3月28日(公開日は2013年3月26日) 主催者 公益社団法人日本農芸化学会
(73)【特許権者】
【識別番号】000112048
【氏名又は名称】ヒガシマル醤油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】古林 万木夫
(72)【発明者】
【氏名】矢部 富雄
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 洋平
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−235511(JP,A)
【文献】 特開2002−223737(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/026446(WO,A1)
【文献】 特開2010−280620(JP,A)
【文献】 特開2012−162485(JP,A)
【文献】 特開平09−000204(JP,A)
【文献】 特開2013−124247(JP,A)
【文献】 農化,1975年,Vol.49, No.11,p.597-601
【文献】 Journal of Bioscience and Bioengineering,2005年,Vol.100, No.2,p.144-151
【文献】 フィブロネクチンによる大豆ペクチンの構造認識機構の解明,2013年 3月26日
【文献】 日本食品工業学会誌,1986年,Vol.33, No.4,p.37-43
【文献】 日本の伝統的発酵調味料である味噌について,[retrieved on 2017-6-29], Retrieved from the Internet <http://www.aichi-inst.jp/shokuhin/other/shokuhin_news/s_no16_03.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/732
A61K 31/715
A61K 36/48
A23L 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウム、カルシウム及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属を総量で6〜65質量%(乾燥物換算)の割合で含む、経口または経腸組成物である大豆由来の水溶性多糖類含有組成物であって、
前記大豆由来の水溶性多糖類が大豆ペクチンまたは醤油多糖類であり、
フィブロネクチンに対する結合性が増強されてなり、
前記経口組成物は錠剤状、丸剤状、散剤状(粉状)、顆粒状、またはカプセル剤状を有し、前記経腸組成物は胃瘻用飲食物、経腸医薬品、または経腸医薬部外品であることを特徴とする水溶性多糖類含有組成物。
【請求項2】
飲食物、経口医薬品、または経口医薬部外品のいずれかである請求項1に記載する水溶性多糖類含有組成物。
【請求項3】
大豆ペクチンまたは醤油多糖類である大豆由来の水溶性多糖類にカリウム、カルシウム及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属を、上記水溶性多糖類中の上記金属の量が総量で6〜65質量%(乾燥物換算)となるように配合し、錠剤状、丸剤状、散剤状(粉状)、顆粒状、またはカプセル剤状を有する経口組成物、または経腸組成物として胃瘻用飲食物、経腸医薬品、または経腸医薬部外品を調製する工程を有する、フィブロネクチンに対する結合性が増強されてなる水溶性多糖類含有組成物の製造方法。
【請求項4】
醤油多糖類をカリウムイオン、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンとの共存状態であって、当該イオンの濃度が6〜65質量%である半固形状または液状の組成物(但し、醤油を除く)の状態にすることを特徴とする、
前記醤油多糖類のフィブロネクチンに対する結合性を増強する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大豆に由来する水溶性の多糖類について、フィブロネクチンに対する結合性を増強させる方法に関する。また本発明はフィブロネクチンに対する結合性が増強されてなる大豆由来の水溶性多糖類に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食物繊維の摂取により小腸形態や細胞分裂に変化が生じることが明らかとなり、腸管上皮細胞が食物繊維を認識して直接的に相互作用する機構の存在が示唆されている。水溶性食物繊維の一種であるペクチンに関しても、これを腸管に作用させると、小腸絨毛の長さや陰窩の深さが大きくなることが報告されており(非特許文献1及び2)、さらにペクチンの一種であるプルーンペクチンは小腸表面に存在するフィブロネクチンという細胞外マトリクスタンパク質と特異的に結合することが報告されている(非特許文献2及び3)。
【0003】
ペクチンについては、従来から血中コレステロールの上昇を抑制したり大腸がんの発症を抑制するなど、種々の生理作用を有することが報告されているが、上記の知見は、水溶性食物繊維のこうした生理作用が、これまで提唱されてきた物理化学的作用や腸内微生物による発酵作用といった副次的な働きばかりではなく、直接的に腸管組織細胞に働きかけ、細胞がそれに対して応答するという両者の相互作用が存在することを示唆している。特に、プルーンペクチンに関する報告から、ペクチンによる小腸絨毛の形態変化は、ペクチンが小腸表面に存在するフィブロネクチンと特異的に結合した結果、起こると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chun W., Digestion. 1989; 42(1): 22-9
【非特許文献2】岐阜大学応用生物科学科応用生命科学課程食品生命科学コース食成分機能化学研究室ウエブサイト(ペクチン・プロジェクト)http://work.tomioyabe.net/web/research/pectin.html
【非特許文献3】本田明里,富田恭子,中村綾,金丸義敬,加藤宏治,森雄一郎,山元宏貴,伊神孝生,矢部富雄:ペクチンを認識するヒト小腸由来タンパク質の同定,日本農芸化学大会2012年度大会,講演要旨
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の知見から、ペクチンは小腸表面でフィブロネクチンと結合することで小腸絨毛の形態変化を引き起こしていると推察される。ペクチンをより少ない摂取量で用いて、効率的に小腸絨毛の形態変化を引き起こさせ、有益な生理作用を発揮させるためには、ペクチンのフィブロネクチンに対する結合性を増強させることが好ましい。
【0006】
そこで本発明の目的は、大豆ペクチンなどの、大豆由来の水溶性多糖類について、フィブロネクチンに対する結合性を増強させる方法を提供することである。また本発明の目的は、フィブロネクチンに対する結合性が増強されてなる大豆由来の水溶性多糖類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく研究を重ねていたところ、大豆に由来する水溶性多糖類に属する大豆ペクチン及び醤油に含まれる多糖類(醤油多糖類:Shoyu Polysaccharides)は、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属イオンまたはカルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属イオンと共存させることでフィブロネクチンに対する結合性が増強されることを見出した。
【0008】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を備える。
【0009】
(I)フィブロネクチンに対する結合性が増強されてなる大豆由来の水溶性多糖類
(I-1)アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を総量で6〜65質量%の割合で含む大豆由来の水溶性多糖類含有組成物。
(I-2)大豆由来の水溶性多糖類が大豆ペクチンまたは醤油多糖類(Shoyu Polysaccharides)である、(I-1)に記載する大豆由来の水溶性多糖類含有組成物。
(I-3)アルカリ金属及びアルカリ土類金属がカリウム、ナトリウム、カルシウム、及びマグネシウムから選択される少なくとも1種である、(I-1)または(I-2)に記載する大豆由来の水溶性多糖類含有組成物。
【0010】
(II)大豆由来の水溶性多糖類含有組成物を含有する経口または経腸組成物
(II-1)(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する大豆由来の水溶性多糖類含有組成物を含有する経口または経腸組成物。
(II-2)経口または経腸組成物が、飲食物、医薬品または医薬部外品のいずれかである(II-1)に記載する経口または経腸組成物。
【0011】
(III)大豆由来の水溶性多糖類のフィブロネクチンに対する結合性を増強する方法
(III-1)大豆由来の水溶性多糖類にアルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンを共存させることを特徴とする、大豆由来の水溶性多糖類のフィブロネクチンに対する結合能を増強する方法。
(III-2)大豆由来の水溶性多糖類とアルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンとの共存状態において、当該イオンの濃度が6〜65質量%である、(III-1)に記載する結合性増強方法。
(III-3)大豆由来の水溶性多糖類が大豆ペクチンまたは醤油多糖類(Shoyu Polysaccharides)である、(III-1)または(III-2)に記載する結合性増強方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む大豆由来の水溶性多糖類含有組成物は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含まない大豆由来の水溶性多糖類と比較して、小腸表面に存在することが知られているフィブロネクチンに対する結合性が有意に増強している。このため、本発明の大豆由来の水溶性多糖類含有組成物を経口的または経腸的に摂取(投与)することで、大豆由来の水溶性多糖類を効率よくフィブロネクチンに結合させて小腸絨毛の形態変化を生じさせることができ、それを介して有益な生理作用を発揮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実験例2(2)において、様々な方法で中和処理を行った大豆ペクチン(図1(A))及び醤油多糖類(図1(B))について、フィブロネクチンに対する結合に対するカルシウムの影響を、Biacoreシステムを用いて調べた結果を示す。被験試料(アナライト)を添加開始(0s)から120秒後(120s)の時点のRU値と、240秒後(240s)の時点(解離開始後120sの時点)のRU値を示す。図1(A)及び(B)中、横の凡例は、左から順に、「Control:1 mg/mL濃度に溶解した大豆ペクチン水溶液」、「PBS+Ca2+:中和処理としてカルシウムイオンを含むPBSを透析外液として透析を行った試料」、「蒸留水:中和処理として蒸留水を透析外液として透析を行った試料」を示す。
図2】実験例3において、大豆ペクチンについて、フィブロネクチンに対する結合に対するカルシウムイオン濃度(0.01〜0.1M)の影響を、Biacoreシステムを用いて調べた結果を示す。被験試料(アナライト)を添加開始(0s)から120秒後(120s)の時点のRU値と、240秒後(240s)の時点(解離開始後120sの時点)のRU値を示す
図3】実験例4において、(A)塩化カリウム水溶液、及び(B)塩化マグネシウム水溶液に、大豆ペクチンを10mg/mlになるように溶解し、各種濃度(a:1 mg/mL、b:0.5 mg/mL、c:0.25 mg/mL、d:0.17 mg/mL、e:0.125 mg/mL)に希釈後、フィブロネクチンに対する結合性(RU値)を、Biacoreシステムを用いて経時的に測定した結果を示す。
図4】実験例5(1)において、酸処理した醤油多糖類のフィブロネクチンに対する結合性に対するカルシウムイオンの影響を、Biacoreシステムを用いて経時的に測定した結果を示す。図中、a、b及びcは、0.2%NaClを含む塩酸に醤油多糖類を10mg/mLになるように溶解した後、カルシウムイオンを含むPBSで透析し、さらに蒸留水で透析した試料を各種濃度(a:1 mg/mL、b:0.5 mg/mL、c:0.3 mg/mL)に希釈した後、アナライトとして測定したRU値の経時変化を示す。
図5】実験例5(3)において、醤油多糖類を10mg/mLになるように、塩化カルシウム水溶液(図5(A))及び塩化カリウム水溶液(図5(B))にそれぞれ溶解した後、蒸留水に対して透析を行った後に、フィブロネクチンに対する結合性をBiacoreシステムを用いて経時的に測定した結果を示す。図中、a、b、c、d及びeは、醤油多糖類を0.2% NaCl/0.1 M CaCl2(あるいは0.2% NaCl/0.1 M KCl)溶液に溶解した後,蒸留水で透析し、各種濃度(a:1 mg/mL、b:0.5 mg/mL、c:0.25 mg/mL、d:0.17 mg/mL、e:0.125 mg/mL)に希釈した試料をアナライトとして測定したRU値の経時変化を示す。
図6】(A)CaCl溶液、(B)KCl溶液、及び(C)MgCl溶液の各種濃度(いずれも、a:10 mM、b:5 mM、c:2.5 mM)をそれぞれBiacoreシステムに供して、フィブロネクチンとの結合力を経時的に測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(I)フィブロネクチンに対する結合力が増強されてなる大豆由来の水溶性多糖類
(1)大豆由来の水溶性多糖類
本発明が対象とする大豆由来の水溶性多糖類は、大豆に由来する水溶性の多糖類である。
【0015】
大豆由来とは、原料が大豆であればよい。具体的には、生の大豆そのものから得られる多糖類に限らず、加熱処理した大豆、脱脂大豆、大豆皮、大豆粕、おから、及び豆腐などの各種の大豆加工品から得られる多糖類が含まれる。
【0016】
水溶性とは、水に溶解する性質を意味する。当該水溶性は、日本薬局方の規定に準じて評価することができ、具体的には、対象とする大豆由来の多糖類1gを30mL容量の蒸留水の中にいれ、25±5℃で5分毎に強く30秒間振り混ぜるとき、30分以内に溶解する場合に「水溶性である」と評価することができる。溶解するとは、大豆由来の多糖類を添加した蒸留水が不溶物を認めることなく澄明であること、または不溶物を認めても極めてわずかであることをいう。
【0017】
また大豆由来の多糖類は、カルボキシル基を有するガラクツロン酸を含む、分子量2,000以上の多糖類である。ガラクツロン酸の含有割合としては、10質量%以上、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上を挙げることができる。
【0018】
こうした大豆由来の水溶性多糖類としては、具体的には大豆ペクチンおよび醤油多糖類などが例示される。
【0019】
ここで大豆ペクチンとは、大豆に由来するペクチンをいう。大豆ペクチンに限らず「ペクチン」とは一般に、ガラクツロン酸がα-(1→4)結合したポリガラクツロン酸からなるホモガラクツロナンと、ガラクツロン酸とラムノースが交互に結合した2糖の繰り返し単位に,アラビノースやガラクトースからなる側鎖がラムノース残基のC4位に結合した複合多糖で,広い分子量分布をもつラムノガラクツロナン-Iと,重合度9〜12のガラクツロン酸オリゴ糖主鎖に構造の異なる四つの側鎖が結合した,分子量約5000の複合多糖領域であるラムノガラクツロナン-IIの三つの主要な構造領域から構成され,ホモガラクツロナンが大部分を占めている。ガラクツロン酸のカルボキシ基は各々の割合でメチルエステル化またはアセチル化されている。
【0020】
大豆ペクチンは、大豆または大豆加工品から得られる水溶性のペクチンであって、通常、分子量55,000、25,000、及び5,000の3成分から構成されている。柑橘由来のペクチンに比べてガラクツロン酸含量(10-30%)が低いことを特徴とする(参考資料:「大豆のすべて」喜多村啓介ほか、株式会社サイエンスフォーラム発刊 P450、2010年2月18日発行)。
【0021】
大豆ペクチンの製造方法には、大豆または大豆皮から得られる原料を加熱する工程を含んでいることが好ましい。ここで「加熱」とは、例えば、大豆に水を加えて膨潤させた後、煮熟や蒸煮する等の湿熱加熱や、焙煎する等による乾熱加熱が含まれる。
【0022】
製造方法としては、例えば原料(大豆または大豆皮など)に抽出溶媒を加えて蒸煮あるいは煮熟した後に、そのろ液や煮汁を回収する方法;熱処理した原料(大豆または大豆皮など)に抽出溶媒を加えて攪拌し、固液分離してそのろ液を得る方法等の一般的な方法が挙げられる。また、大豆の調理加工において生じる副生成物(大豆の煮汁)や、醤油の製造過程で大豆を発酵する前の工程で発生する副生成物(大豆の蒸煮汁)を抽出対象物として利用することもできる。なおここで、抽出溶媒としては、好適には水を挙げることができる。当該水には、キレート剤が含まれていてもよい。抽出溶媒にキレート剤を含む場合、大豆からの大豆ペクチンの回収率が向上できるため、有用である。キレート剤としては、ヘキサメタリン酸、クエン酸、及びこれらの塩類が例示できる。抽出溶媒におけるキレート剤の使用濃度としては、制限されないものの、通常0.25〜2質量%、好ましくは0.5〜2質量%を例示することができる。より詳細な製造方法を実施例に例示するが、これに限定されることなく、市販の大豆ペクチンを使用することもできる。
【0023】
また醤油多糖類(Shoyu Polysaccharides)は、大豆由来の多糖類が麹菌酵素による分解を受けて可溶化するものの、完全には分解されず、醤油中に約1%の濃度で残存した水溶性多糖類である。分子量は2,000以上でガラクツロン酸を10-20%含む(参考資料:「醤油多糖類SPSの抗アレルギー活性と免疫調節機能」松下裕昭、古林万木夫、築山良一、山本憲二、醤油の研究と技術 Vol.33, No.2, 2007)。その製造方法は、実施例において詳述するが、これに限定されることなく、市販の醤油多糖類を使用することもできる。
【0024】
(2)アルカリ金属及びアルカリ土類金属
アルカリ金属としてはナトリウム及びカリウムを、またアルカリ土類金属としてはカルシウム及びマグネシウムを挙げることができる。
【0025】
好適な金属は、アルカリ金属とアルカリ土類金属のいずれであってもよいが、好ましくはアルカリ土類金属であり、特に好適なものはカルシウムである。
【0026】
なお、これらはいずれも単独で用いてもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。組み合わせる態様も特に制限されないが、アルカリ金属とアルカリ土類金属を併用する態様が好ましく、具体的にはナトリウムとカルシウムとの併用を例示することができる。
【0027】
(3)アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含有する大豆水溶性酸性多糖類
本発明は前述するアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含有することを特徴とする大豆由来の水溶性多糖類である。言い換えると、本発明は、大豆由来の水溶性多糖類に加えて、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含有する組成物である(本発明ではこれを「大豆由来の水溶性多糖類含有組成物」とも称する)。また別の角度から言い換えると、大豆由来の水溶性多糖類に、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が外添されてなる組成物である。
【0028】
大豆由来の水溶性多糖類含有組成物中に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の割合は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が、大豆由来の水溶性多糖類に内在する量を超えて存在することで、大豆由来の水溶性多糖類そのもののフィブロネクチンに対する結合性が増強される割合であればよく、その限りにおいて特に制限されない。大豆由来の水溶性多糖類に添加(外添)するアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の割合として、通常、アルカリ金属については、外添したアルカリ金属の水溶性多糖類含有組成物100質量%中の濃度が乾燥物換算で1〜60質量%となる範囲を挙げることができる。好ましくは5〜50質量%であり、より好ましくは10〜40質量%である。アルカリ土類金属については、外添したアルカリ土類金属の水溶性多糖類含有組成物100質量%中の割合が乾燥物換算で1〜60質量%となる範囲を挙げることができる。好ましくは5〜50質量%であり、より好ましくは10〜40質量%である。
【0029】
なお、大豆由来の水溶性多糖類に内在するアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の割合を考慮すると、大豆由来の水溶性多糖類含有組成物中に含まれるアルカリ金属については、乾燥物換算で、通常6〜65質量%の範囲から、アルカリ土類金属については乾燥物換算で6〜65質量%の範囲で選択設定することができる。アルカリ金属については好ましくは10〜55質量%であり、より好ましくは15〜45質量%である。またアルカリ土類金属については好ましくは10〜55質量%であり、より好ましくは15〜45質量%である。
【0030】
本発明の大豆由来の水溶性多糖類含有組成物は、例えば大豆由来の水溶性多糖類に所望のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有割合が前述する割合になるように添加し混合することで製造することができる。ここでアルカリ金属塩としては、具体的にはナトリウムの塩化物、カリウムの塩化物;ナトリウムの炭酸塩、及びカリウムの炭酸塩;ナトリウムの炭酸水素塩、及びカリウムの炭酸水素塩を挙げることができる。好ましくはナトリウムの塩化物、及びカリウムの塩化物であり、より好ましくは塩化カリウムである。またアルカリ土類金属塩としては、具体的にはカルシウムの塩化物、マグネシウムの塩化物;カルシウムの炭酸塩、及びマグネシウムの炭酸塩;カルシウムの炭酸水素塩、及びマグネシウムの炭酸水素塩を挙げることができる。好ましくはカルシウムの塩化物、及びマグネシウムの塩化物であり、より好ましくは塩化カルシウムである。
【0031】
また本発明の大豆由来の水溶性多糖類含有組成物は、大豆由来の水溶性多糖類をアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンを含む水溶液に溶解することで製造することもできる。
【0032】
大豆由来の水溶性多糖類含有組成物の形態は、特に制限されず、錠剤状、丸剤状、散剤状(粉末)、顆粒状、及びカプセル剤状などの固体形態を有していても良いし、ゲル状液(ゼリー状)やクリーム状などの半固形状の形態、または乳液や溶液などの液状を有していてもよい。
【0033】
斯くして調製される大豆由来の水溶性多糖類含有組成物は、フィブロネクチンに対する結合性が、大豆由来の水溶性多糖類単独の結合性と比較して増強されてなることを特徴とする。フィブロネクチンに対する結合性は、後述する実施例に記載するように、Biacoreシステムを用いて、大豆由来の水溶性多糖類含有組成物をアナライトとし、フィブロネクチンをリガンドとして、両者の相互作用(結合性)を測定することで求めることができる。具体的には、センサーグラムのカーブから結合速度定数(Ka)と解離速度定数(Kd)を算出し、その比から両者のアフィニティーを解離定数(K)として求めることができる。なお,Kがより小さい方が,結合力はより大きいことを示す。
【0034】
例えば大豆由来の水溶性多糖類が分子量25,000の醤油多糖類である場合、それ自体、フィブロネクチンに対する結合力はないのに対して、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を添加(外添)することでフィブロネクチンに対して結合力が生じる。こうしたアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む大豆由来の水溶性多糖類含有組成物の解離定数は、K=2.30×10-6 Mである。
【0035】
(II)大豆由来の水溶性多糖類含有組成物を含有する経口又は経腸組成物
前述するように、大豆由来の水溶性多糖類含有組成物は、フィブロネクチンに対する結合性が増強されてなることを特徴とする。大豆由来の水溶性多糖類含有組成物を経口的または経腸的に摂取(投与)することで、体内に取り込まれた大豆由来の水溶性多糖類は小腸表面に存在するフィブロネクチンと結合し、間接的に様々な生理作用を発現すると考えられる。
【0036】
このため、本発明の大豆由来の水溶性多糖類含有組成物は、小腸を通過するように経口的または経腸的に体内に取り込まれることが好ましく、このため経口投与(摂取)または経腸投与(摂取)の形態を有するように調製される。
【0037】
経口組成物としては、飲食物、経口医薬品、または経口医薬部外品を挙げることができ、各目的に応じて、その割合や形態は適宜設定することができる。
【0038】
経腸組成物としては、胃瘻用飲食物、経腸医薬品、または経腸医薬部外品を挙げることができ、各目的に応じて、その割合や形態は適宜設定することができる。
【0039】
(III)大豆由来の水溶性多糖類のフィブロネクチンに対する結合性を増強する方法
本発明はまた大豆由来の水溶性多糖類について、フィブロネクチンに対する結合性を増強する方法を提供する。
【0040】
当該方法は、大豆由来の水溶性多糖類にアルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンを共存させることで実施することができる。ここで対象とする大豆由来の水溶性多糖類は(I)の項で説明した通りであり、当該記載は、好適な態様も含めて本(III)項において同様に援用される。またアルカリ金属イオンとしてはナトリウムイオン及びカリウムイオンを、アルカリ土類金属イオンとしてはカルシウムイオンやマグネシウムイオンを挙げることができる。アルカリ金属イオンとして好ましくはカリウムイオンであり、アルカリ土類金属イオンとして好ましくはカルシウムイオンである。なお、これらは1種または2種以上を任意に組み合わせて使用することができ、組み合わせの態様としては、アルカリ金属イオン(Naイオン、Kイオン)同士を組み合わせる態様、アルカリ土類金属イオン(Caイオン、Mgイオン)同士を組み合わせる態様、及びアルカリ金属イオン(Naイオン、Kイオン)とアルカリ土類金属イオン(Caイオン、Mgイオン)とをそれぞれ組み合わせる態様を挙げることができる。アルカリ金属イオンとアルカリ土類金属イオンとを組み合わせる場合の組み合わせ態様としては、制限されないもののナトリウムイオンとカルシウムイオンとの組み合わせを好適に例示することができる。
【0041】
大豆由来の水溶性多糖類と共存させるアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンの割合としては、当該イオンの濃度が1〜60質量%となるような割合を挙げることができる。
【0042】
大豆由来の水溶性多糖類とアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンとを共存させる方法としては、大豆由来の水溶性多糖類とアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含有することを特徴とする前述する本発明の大豆由来の水溶性多糖類含有組成物をpH2〜9の溶液に溶解する方法を挙げることができる。なお、ここでいう溶解とは、大豆由来の水溶性多糖類とアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンとの共存状態が形成される限り、本発明の大豆由来の水溶性多糖類含有組成物が完全溶解されることに限定されることはなく、一部溶解する場合も含まれる。例えば、本発明の大豆由来の水溶性多糖類含有組成物が水などの溶媒に一部または全て溶解してなる半固形状または液状の組成物は、大豆由来の水溶性多糖類とアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンとが共存した状態にあるといえる。また、固体形態の本発明の大豆由来の水溶性多糖類含有組成物を水などの溶媒に溶解(一部溶解を含む)させることで、大豆由来の水溶性多糖類とアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンとを共存させた状態をつくることができる。さらに、本発明の大豆由来の水溶性多糖類含有組成物を、必要に応じて水などの飲み物(溶液)とともに、摂取することで、体内では大豆由来の水溶性多糖類とアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンとが共存した状態になる。
【0043】
斯くして処理され、アルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンと共存した状態にある大豆由来の水溶性多糖類は、アルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンと共存しない状態の大豆由来の水溶性多糖類と比較して、フィブロネクチンに対する結合性が増強しており、生体内において小腸表面に存在するフィブロネクチンに対してより強いアフィニティーでもって結合することができる。
【0044】
フィブロネクチンに対する結合性の増加の有無は、後述する実施例に記載するように、Biacoreシステムを用いて、大豆由来の水溶性多糖類をアナライトとし、フィブロネクチンをリガンドとして、アルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンの存在下で、両者の相互作用(結合性)を測定することで求めることができる。具体的には、センサーグラムのカーブから結合速度定数(Ka)と解離速度定数(Kd)を算出し、その比から両者のアフィニティーを解離定数(K)として求めることができる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例及び実験例に基づいて、本発明の構成及び効果をより詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例などに拘束されるものではない。
【0046】
(I)実験材料、及びその調製
後述する試験例において被験試料として、大豆ペクチン、醤油多糖類を用いた。以下にこれらの被験試料の調製方法を説明する。
【0047】
(I-1)大豆ペクチン
大豆種皮100gを1000mLの1.5%クエン酸水溶液で加熱抽出(95℃、3時間)し、圧搾後遠心した。得られた遠心上清に対し、等量のエタノールを添加し遠心後、沈殿物を回収し凍結乾燥し、大豆ペクチンの凍結乾燥物5gを取得した。後述の実験方法(II)に記載する方法で測定した分子量は、約500,000であった。
【0048】
(I-2)醤油多糖類
丸大豆と小麦を主原料とした醤油500mLにエタノール1000mLを添加し十分混合後一夜静置し、上清をデカンテーションで除き、さらに66%のエタノール1500mLで十分洗浄した。生成した沈殿物をデカンテーションおよび遠心分離して集め、室温で2時間程度エタノールを飛散させた後、凍結乾燥し、凍結乾燥物25gを取得した。この乾燥物20gを約100mLの水に溶解し、透析チューブ(平均ポアサイズ:25Å、分画分子量(MWCO):12,000-16,000、サイズ:24、幅:32mm、直径:20mm、膜厚:30μm:シームレスセルロースチューブ(Wako))に詰めて一夜流水中で透析した。得られた透析内液にその2倍量のエタノールを加えて混合後、遠心分離し、得られた沈殿物を凍結乾燥して、醤油多糖類の凍結乾燥物2.6gを得た。後述の実験方法(II)に記載する方法で測定した分子量は、約25,000であった。
【0049】
(I-3)フィブロネクチン
約2500アミノ酸残基の単量体2分子からなる二量体のフィブロネクチンは,C末端でジスルフィド結合により結合しているが,これを構成する三つのモジュールのうち,1番目のIII型モジュールのC末端3分の2のペプチド(分子量約7,000)がペクチンとの結合に関与することが明らかとなっている。そこで,このペプチドをアブカム株式会社(Abcam)より購入し,カルボキシメチル基を導入したデキストランを金膜上に固定したBiacoreシステム(Biacore J(GE ヘルスケア(株))のセンサーチップに,アミンカップリング法により固定化した。
【0050】
(II)実験方法
(II-1)分子量の測定
被験試料の分子量は、下記条件のゲルろ過クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。具体的には、標準品として分子量が既知のグルコース(Mw.180)、デキストランT10(Mw.10500)、デキストランT20(Mw.20400)、デキストランT40(Mw.43500)、デキストランT70(Mw.70000)、デキストランT110(Mw.105000)、デキストランT500(Mw.487000)、及びデキストランT2000(Mw.2000000)を用いて同条件HPLCにより検量線を作成し、当該検量線に基づいて被験試料の分子量を求めた。なお、大豆ペクチン、及び醤油多糖類の分子量の測定にはカラム充填剤として、Shodex SUGAR KS-805を用いた。
【0051】
[HPLC条件]
固定相:充填剤 Shodex SUGAR KS-805(昭和電工(株)製)、
カラム内径と長さ:8.0×300 (mm)
移動相:蒸留水
流速:0.5mL/min
カラム温度:45℃
検出方法:示差屈折計JASCO 830-RI detector使用。
【0052】
(II-2)フィブロネクチンとの結合能の測定
上記各被験試料とフィブロネクチンとの相互作用(結合能)の評価は、Biacoreシステム(Biacore J(GE ヘルスケア(株))を使用した。測定は、フィブロネクチンをリガンドとしてセンサーチップに固定化し、それにサンプル流路を通して各被験試料(アナライト)を含むサンプル溶液を流すことで実施した。なお、フィブロネクチンは、N-hydroxysuccinimide(NHS,GEヘルスケア)とcarbodiimidehydrochroride(EDC,GEヘルスケア)を等量混合したものをセンサーチップ CM5(GEヘルスケア)に対して6分間添加し,センサーチップ表面のカルボキシ基をNHS活性化した後,ただちに10 mM酢酸緩衝液(pH 4.5)で希釈した80 μg/mLの濃度のフィブロネクチンfragment III1-C(分子量約7,000,Abcam)溶液を6分間添加してカップリングさせた。その後,1 Mエタノールアミン溶液(pH 8.5)を6分間添加し,チップ表面に残存している活性型NHS基をブロッキングして,フィブロネクチン固定化センサーチップを作成した。
【0053】
実験例1 各被験試料のフィブロネクチンに対する結合能の評価
各被験試料(大豆ペクチン、醤油多糖類)を蒸留水に溶解し(10mg/mL)、下記条件のBiacoreシステムを用いて、フィブロネクチンに対する相互作用(結合性)を評価した。
【0054】
[Biacoreの測定条件]
ランニングバッファー:HBS-EP (10mM HEPES, 150mM NaCl, 3mM EDTA, 0.005% Tween-20)(pH 7.4)
流速:Medium
温度:25℃
Inject Time:120秒。
【0055】
その結果、大豆ペクチンについては、フィブロネクチンに対する結合が確認されたが、醤油多糖類では結合は確認されなかった。これから大豆ペクチンの解離定数(K)は1.13×10-7Mであると算出された。
【0056】
実験例2 酸処理後の被験試料のフィブロネクチンに対する結合能
(1)実験例1でフィブロネクチンに対する結合性が認められた大豆ペクチン並びに結合性が認められなかった醤油多糖類を用いて、経口摂取後の体内環境を模倣した実験を行った。具体的には、まず大豆ペクチン並びに醤油多糖類を10mg/mLになるようにそれぞれ人工胃液(0.2% NaClを含む塩酸、pH2)に溶解し、次いでMini Dialysis Kit(GE Healthcare社製)を用いて、カルシウム(0.1M)を含むPBSに対して透析を行い中和した。斯くして胃液での酸処理と十二指腸での中和処理を模倣した処理を経て調製した被験試料(大豆ペクチン及び醤油多糖類)を各種濃度(a:1 mg/mL、b:0.5 mg/mL、c:0.25 mg/mL、d:0.17 mg/mL、e:0.125 mg/mL)にBiacoreランニングバッファーHBS-EPで希釈後、実験例1と同じ条件のBiacoreシステムに供して、フィブロネクチンとの結合性を測定した。
【0057】
その結果を図1((A)大豆ペクチン、(B)醤油多糖類)に示す。図1中、コントロール(control)とは1 mg/mLの濃度に溶解した大豆ペクチン(A)及び醤油多糖類(B)そのものの試料を意味する。なお、図1中、120S及び240Sは、被験試料(アナライト)をBiacoreシステムに添加開始(0s)してから、それぞれ120秒後(120s)及び240秒後(240s)の時点(解離開始後120sの時点)での結果(RU値)を示す。120秒後(120s)のRUは単にBiacoreシステムの流路に存在する相互作用物質の量を示しており(後述する参考実験例参照)、リガンドであるフィブロネクチンに対する結合量は240秒後(240s)の時点でのRUで評価することができる(以下の実験においても同じ)。
【0058】
図1に示すように、大豆ペクチンだけでなく、実験例1ではフィブロネクチンに対して結合性を示さなかった醤油多糖類についても、240秒後(240s)の時点でフィブロネクチンとの結合が認められた。酸処理を、塩化ナトリウムを含まない塩酸(pH2)で行い、且つ中和処理としてカルシウムを含まないPBSを用いて透析した場合は、どの被験試料もフィブロネクチンに対して結合性を示さなかった(結果示さず)。このことから、大豆由来水溶性多糖類のフィブロネクチンに対する結合には、ナトリウムやカルシウムの存在が重要であると考えられた。
【0059】
(2)フィブロネクチンへの結合力に対するカルシウムの影響
上記(1)で行った中和処理で使用した透析外液(カルシウム(0.1M)を含むPBS)に代えて、蒸留水を用いて、(1)と同様にして透析を行った。
【0060】
斯くして調製した中和処理後の被験試料を用いて、(1)と同様に、Biacoreシステムを用いてフィブロネクチンとの結合性を測定した。結果を図1(A:大豆ペクチン、B:醤油多糖類)に併せて示す。
【0061】
この結果からわかるように、酸処理後に、カルシウムを含まない蒸留水での透析によって中和した被験試料よりも、カルシウム(0.1M)を含むPBSで透析中和した被験試料(図中、「PBS+Ca2+」と記載)のほうがフィブロネクチンに対する結合性が格段に強いことから、大豆ペクチン及び醤油多糖類のフィブロネクチンに対する結合性の大きさには共存するカルシウムの濃度が大きく影響する可能性が示唆された。
【0062】
実験例3 フィブロネクチンへの結合力に対するカルシウムの影響
大豆由来の水溶性多糖類のフィブロネクチンへの結合力に対するカルシウムイオンの影響を確認するために、濃度の異なるCaCl溶液(0.01M、0.05M、0.1M)に大豆ペクチン(10mg/mL)をそれぞれ溶解し、Biacoreシステムを用いてフィブロネクチンとの結合力を測定した。
【0063】
結果を図2に示す。
【0064】
図2の「240S」に示すように、大豆ペクチンはいずれもカルシウムの濃度依存的にフィブロネクチンに対する結合性が増加することが確認された。この結果から、大豆由来の水溶性多糖類である大豆ペクチンのフィブロネクチンに対する結合性(結合能)はカルシウムイオンの存在で増強することが認められた。
【0065】
実験例4 大豆ペクチンのフィブロネクチンとの結合力に対するアルカリ金属およびアルカリ土類金属の影響
0.1M KCl水溶液及び0.1M MgCl水溶液に、大豆ペクチンを10mg/mlになるように溶解し、各種濃度(a:1 mg/mL、b:0.5 mg/mL、c:0.25 mg/mL、d:0.17 mg/mL、e:0.125 mg/mL)に希釈後、実験例1と同じ条件のBiacoreシステムに供して、フィブロネクチンとの結合力を測定した。KCl水溶液及びMgCl水溶液にそれぞれ溶解した大豆ペクチンのフィブロネクチンに対する結合力を、それぞれ図3(A)及び(B)に示す。この結果から,カリウムまたはマグネシウムの存在下でフィブロネクチンに対する大豆ペクチンの結合量が増加することが確認された。
【0066】
実験例5 醤油多糖類とフィブロネクチンとの結合に対するカルシウムの影響
(1)酸処理醤油多糖類とフィブロネクチンとの結合に対するカルシウムの影響
酸処理によりフィブロネクチンに結合するようになった醤油多糖類に対し、カルシウムを反応させた後、蒸留水を外液とする透析によりカルシウムを除去した際のフィブロネクチンへの結合力を調べた。
【0067】
具体的には、0.2%NaClを含む塩酸(pH 2)に醤油多糖類を10mg/mLになるように溶解した後、カルシウムを含むPBSを外液として透析を行った。さらに外液を蒸留水に交換し、透析を続けて溶液中の塩を除去した。この試料を、各種濃度(a:1 mg/mL、b:0.5 mg/mL、c:0.3 mg/mL)に希釈した後,アナライトとしてフィブロネクチンとの結合性をBiacoreシステムにて調べた。結果を図4に示す。
【0068】
図4に示すように、醤油多糖類はフィブロネクチンに対して濃度依存的な結合を示したことから、醤油多糖類中に一旦カルシウムが取り込まれると、透析によっても消失しない可能性が高いことが示唆された。
【0069】
(2)醤油多糖類に対する酸処理の必要性の検討
これまで醤油多糖類を蒸留水に溶解しただけではフィブロネクチンとの結合はみられないが、0.2%NaClを含む酸溶液によって処理すると、フィブロネクチンとの結合がみられるようになることから、酸処理は結合に対して必要な操作と考えてきた。しかし、カルシウムイオンがフィブロネクチンとの結合に大きく影響することを考慮すると、カルシウムが存在すれば酸処理を行わなくても結合を示す可能性がある。
【0070】
そこで、醤油多糖類を、0.2%NaClを含む0.1M CaCl水溶液に10mg/mLの濃度で溶解したサンプル溶液を調製し、各種濃度に希釈後,フィブロネクチンとの結合力をBiacoreシステムで調べた。その結果、いずれもフィブロネクチンと強く結合し、その解離定数は2.297×10−6Mであった。
【0071】
このことから、醤油多糖類などの大豆由来水溶性多糖類がフィブロネクチンと強く結合するためには、酸処理は必須の処理ではなく、カルシウムイオンの存在が重要であることが示唆された。
【0072】
(3)透析によるカルシウムの除去における醤油多糖類のフィブロネクチンとの結合力に対する影響
0.2% NaClを含む0.1M CaCl溶液(0.2% NaCl/0.1 M CaCl2)、及び0.2% NaClを含む0.1M KCl溶液(0.2% NaCl/0.1 M KCl)に、醤油多糖類を10mg/mLになるように溶解し、蒸留水に対して透析を行った後に、各種濃度(a:1 mg/mL、b:0.5 mg/mL、c:0.25 mg/mL、d:0.17 mg/mL、e:0.125 mg/mL)に希釈後、フィブロネクチンとの結合力をBiacoreシステムにて調べた。結果を図5に示す。図5(A)は、前処理として0.2% NaCl/0.1 M CaCl2に溶解した醤油多糖類の結果を、図5(B)は、前処理として0.2% NaCl/0.1 M KClに溶解した醤油多糖類の結果を、それぞれ示す。図5に示すように、0.1M CaCl溶液に溶解後透析した場合、及び0.1M KCl溶液に溶解後透析した場合のいずれについても醤油多糖類はフィブロネクチンと結合することが認められ、解離定数はそれぞれ1.51×10−4M及び9.62×10−5Mであった。
【0073】
この結果から、カルシウムイオンもカリウムイオンもいずれも醤油多糖類分子内に取り込まれ、フィブロネクチンとの結合に関与していることが示された。
【0074】
参考実験例 溶媒中のミネラルのフィブロネクチンの結合への影響
被験試料中に含まれるミネラルそのものがフィブロネクチンとの結合力測定にどのように影響するかを調べるために、各種濃度のCaCl溶液、KCl溶液、及びMgCl溶液(いずれも、a:10 mM、b:5 mM、c:0.25 mM)をそれぞれBiacoreシステムに供して、フィブロネクチンとの結合力を調べた。CaCl溶液、KCl溶液、及びMgCl溶液についてフィブロネクチンとの結合力を経時的に測定した結果を、それぞれ図6(A)、(B)及び(C)に示す。
【0075】
図6(B)の結果から、カリウムイオン及び塩化イオンはほとんどフィブロネクチンに作用しないことが確認された。図6(A)と(C)の結果から、カルシウムイオンとマグネシウムイオンは、添加開始(0s)から120秒まではフィブロネクチンに作用し、それとの結合が濃度依存的に上昇することが確認されたが、解離後(添加開始(0s)から120秒経過後)には結合がみられないことが確認された。このことから、前述する実験例で示した解離後(240s)時点での測定結果は、溶液中に含まれる金属イオン(カルシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン)ではなく、大豆ペクチンまたは醤油多糖類そのもののフィブロネクチンに対する結合力を示したものといえる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
大豆由来の水溶性多糖類は、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属との共存する大豆由来の水溶性多糖類塩の状態で前述する用途に使用できるほか、アルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンの存在下でフィブロネクチンへの結合力が増強される特性を有するため、フィブロネクチンに対するアフィニティークロマトグラフィー用の担体として利用することができる。具体的には、大豆由来の水溶性多糖類は、共存させるアルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンの濃度に応じて、フィブロネクチンとの結合力をコントロールすることができるので、移動相中のイオン濃度を変えることで、担体にフィブロネクチンを結合させたり、離脱させることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6