【実施例】
【0045】
以下に、実施例及び実験例に基づいて、本発明の構成及び効果をより詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例などに拘束されるものではない。
【0046】
(I)実験材料、及びその調製
後述する試験例において被験試料として、大豆ペクチン、醤油多糖類を用いた。以下にこれらの被験試料の調製方法を説明する。
【0047】
(I-1)大豆ペクチン
大豆種皮100gを1000mLの1.5%クエン酸水溶液で加熱抽出(95℃、3時間)し、圧搾後遠心した。得られた遠心上清に対し、等量のエタノールを添加し遠心後、沈殿物を回収し凍結乾燥し、大豆ペクチンの凍結乾燥物5gを取得した。後述の実験方法(II)に記載する方法で測定した分子量は、約500,000であった。
【0048】
(I-2)醤油多糖類
丸大豆と小麦を主原料とした醤油500mLにエタノール1000mLを添加し十分混合後一夜静置し、上清をデカンテーションで除き、さらに66%のエタノール1500mLで十分洗浄した。生成した沈殿物をデカンテーションおよび遠心分離して集め、室温で2時間程度エタノールを飛散させた後、凍結乾燥し、凍結乾燥物25gを取得した。この乾燥物20gを約100mLの水に溶解し、透析チューブ(平均ポアサイズ:25Å、分画分子量(MWCO):12,000-16,000、サイズ:24、幅:32mm、直径:20mm、膜厚:30μm:シームレスセルロースチューブ(Wako))に詰めて一夜流水中で透析した。得られた透析内液にその2倍量のエタノールを加えて混合後、遠心分離し、得られた沈殿物を凍結乾燥して、醤油多糖類の凍結乾燥物2.6gを得た。後述の実験方法(II)に記載する方法で測定した分子量は、約25,000であった。
【0049】
(I-3)フィブロネクチン
約2500アミノ酸残基の単量体2分子からなる二量体のフィブロネクチンは,C末端でジスルフィド結合により結合しているが,これを構成する三つのモジュールのうち,1番目のIII型モジュールのC末端3分の2のペプチド(分子量約7,000)がペクチンとの結合に関与することが明らかとなっている。そこで,このペプチドをアブカム株式会社(Abcam)より購入し,カルボキシメチル基を導入したデキストランを金膜上に固定したBiacoreシステム(Biacore J(GE ヘルスケア(株))のセンサーチップに,アミンカップリング法により固定化した。
【0050】
(II)実験方法
(II-1)分子量の測定
被験試料の分子量は、下記条件のゲルろ過クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。具体的には、標準品として分子量が既知のグルコース(Mw.180)、デキストランT10(Mw.10500)、デキストランT20(Mw.20400)、デキストランT40(Mw.43500)、デキストランT70(Mw.70000)、デキストランT110(Mw.105000)、デキストランT500(Mw.487000)、及びデキストランT2000(Mw.2000000)を用いて同条件HPLCにより検量線を作成し、当該検量線に基づいて被験試料の分子量を求めた。なお、大豆ペクチン、及び醤油多糖類の分子量の測定にはカラム充填剤として、Shodex SUGAR KS-805を用いた。
【0051】
[HPLC条件]
固定相:充填剤 Shodex SUGAR KS-805(昭和電工(株)製)、
カラム内径と長さ:8.0×300 (mm)
移動相:蒸留水
流速:0.5mL/min
カラム温度:45℃
検出方法:示差屈折計JASCO 830-RI detector使用。
【0052】
(II-2)フィブロネクチンとの結合能の測定
上記各被験試料とフィブロネクチンとの相互作用(結合能)の評価は、Biacoreシステム(Biacore J(GE ヘルスケア(株))を使用した。測定は、フィブロネクチンをリガンドとしてセンサーチップに固定化し、それにサンプル流路を通して各被験試料(アナライト)を含むサンプル溶液を流すことで実施した。なお、フィブロネクチンは、N-hydroxysuccinimide(NHS,GEヘルスケア)とcarbodiimidehydrochroride(EDC,GEヘルスケア)を等量混合したものをセンサーチップ CM5(GEヘルスケア)に対して6分間添加し,センサーチップ表面のカルボキシ基をNHS活性化した後,ただちに10 mM酢酸緩衝液(pH 4.5)で希釈した80 μg/mLの濃度のフィブロネクチンfragment III
1-C(分子量約7,000,Abcam)溶液を6分間添加してカップリングさせた。その後,1 Mエタノールアミン溶液(pH 8.5)を6分間添加し,チップ表面に残存している活性型NHS基をブロッキングして,フィブロネクチン固定化センサーチップを作成した。
【0053】
実験例1 各被験試料のフィブロネクチンに対する結合能の評価
各被験試料(大豆ペクチン、醤油多糖類)を蒸留水に溶解し(10mg/mL)、下記条件のBiacoreシステムを用いて、フィブロネクチンに対する相互作用(結合性)を評価した。
【0054】
[Biacoreの測定条件]
ランニングバッファー:HBS-EP (10mM HEPES, 150mM NaCl, 3mM EDTA, 0.005% Tween-20)(pH 7.4)
流速:Medium
温度:25℃
Inject Time:120秒。
【0055】
その結果、大豆ペクチンについては、フィブロネクチンに対する結合が確認されたが、醤油多糖類では結合は確認されなかった。これから大豆ペクチンの解離定数(K
D)は1.13×10
-7Mであると算出された。
【0056】
実験例2 酸処理後の被験試料のフィブロネクチンに対する結合能
(1)実験例1でフィブロネクチンに対する結合性が認められた大豆ペクチン並びに結合性が認められなかった醤油多糖類を用いて、経口摂取後の体内環境を模倣した実験を行った。具体的には、まず大豆ペクチン並びに醤油多糖類を10mg/mLになるようにそれぞれ人工胃液(0.2% NaClを含む塩酸、pH2)に溶解し、次いでMini Dialysis Kit(GE Healthcare社製)を用いて、カルシウム(0.1M)を含むPBSに対して透析を行い中和した。斯くして胃液での酸処理と十二指腸での中和処理を模倣した処理を経て調製した被験試料(大豆ペクチン及び醤油多糖類)を各種濃度(a:1 mg/mL、b:0.5 mg/mL、c:0.25 mg/mL、d:0.17 mg/mL、e:0.125 mg/mL)にBiacoreランニングバッファーHBS-EPで希釈後、実験例1と同じ条件のBiacoreシステムに供して、フィブロネクチンとの結合性を測定した。
【0057】
その結果を
図1((A)大豆ペクチン、(B)醤油多糖類)に示す。
図1中、コントロール(control)とは1 mg/mLの濃度に溶解した大豆ペクチン(A)及び醤油多糖類(B)そのものの試料を意味する。なお、
図1中、120S及び240Sは、被験試料(アナライト)をBiacoreシステムに添加開始(0s)してから、それぞれ120秒後(120s)及び240秒後(240s)の時点(解離開始後120sの時点)での結果(RU値)を示す。120秒後(120s)のRUは単にBiacoreシステムの流路に存在する相互作用物質の量を示しており(後述する参考実験例参照)、リガンドであるフィブロネクチンに対する結合量は240秒後(240s)の時点でのRUで評価することができる(以下の実験においても同じ)。
【0058】
図1に示すように、大豆ペクチンだけでなく、実験例1ではフィブロネクチンに対して結合性を示さなかった醤油多糖類についても、240秒後(240s)の時点でフィブロネクチンとの結合が認められた。酸処理を、塩化ナトリウムを含まない塩酸(pH2)で行い、且つ中和処理としてカルシウムを含まないPBSを用いて透析した場合は、どの被験試料もフィブロネクチンに対して結合性を示さなかった(結果示さず)。このことから、大豆由来水溶性多糖類のフィブロネクチンに対する結合には、ナトリウムやカルシウムの存在が重要であると考えられた。
【0059】
(2)フィブロネクチンへの結合力に対するカルシウムの影響
上記(1)で行った中和処理で使用した透析外液(カルシウム(0.1M)を含むPBS)に代えて、蒸留水を用いて、(1)と同様にして透析を行った。
【0060】
斯くして調製した中和処理後の被験試料を用いて、(1)と同様に、Biacoreシステムを用いてフィブロネクチンとの結合性を測定した。結果を
図1(A:大豆ペクチン、B:醤油多糖類)に併せて示す。
【0061】
この結果からわかるように、酸処理後に、カルシウムを含まない蒸留水での透析によって中和した被験試料よりも、カルシウム(0.1M)を含むPBSで透析中和した被験試料(図中、「PBS+Ca2+」と記載)のほうがフィブロネクチンに対する結合性が格段に強いことから、大豆ペクチン
及び醤油多糖類のフィブロネクチンに対する結合性の大きさには共存するカルシウムの濃度が大きく影響する可能性が示唆された。
【0062】
実験例3 フィブロネクチンへの結合力に対するカルシウムの影響
大豆由来の水溶性多糖類のフィブロネクチンへの結合力に対するカルシウムイオンの影響を確認するために、濃度の異なるCaCl
2溶液(0.01M、0.05M、0.1M)に大豆ペクチン(10mg/mL)をそれぞれ溶解し、Biacoreシステムを用いてフィブロネクチンとの結合力を測定した。
【0063】
結果を
図2に示す。
【0064】
図2の「240S」に示すように、大豆ペクチンはいずれもカルシウムの濃度依存的にフィブロネクチンに対する結合性が増加することが確認された。この結果から、大豆由来の水溶性多糖類である大豆ペクチンのフィブロネクチンに対する結合性(結合能)はカルシウムイオンの存在で増強することが認められた。
【0065】
実験例4 大豆ペクチンのフィブロネクチンとの結合力に対するアルカリ金属およびアルカリ土類金属の影響
0.1M KCl水溶液及び0.1M MgCl
2水溶液に、大豆ペクチンを10mg/mlになるように溶解し、各種濃度(a:1 mg/mL、b:0.5 mg/mL、c:0.25 mg/mL、d:0.17 mg/mL、e:0.125 mg/mL)に希釈後、実験例1と同じ条件のBiacoreシステムに供して、フィブロネクチンとの結合力を測定した。KCl水溶液及びMgCl
2水溶液にそれぞれ溶解した大豆ペクチンのフィブロネクチンに対する結合力を、それぞれ
図3(A)及び(B)に示す。この結果から,カリウムまたはマグネシウムの存在下でフィブロネクチンに対する大豆ペクチンの結合量が増加することが確認された。
【0066】
実験例5 醤油多糖類とフィブロネクチンとの結合に対するカルシウムの影響
(1)酸処理醤油多糖類とフィブロネクチンとの結合に対するカルシウムの影響
酸処理によりフィブロネクチンに結合するようになった醤油多糖類に対し、カルシウムを反応させた後、蒸留水を外液とする透析によりカルシウムを除去した際のフィブロネクチンへの結合力を調べた。
【0067】
具体的には、0.2%NaClを含む塩酸(pH 2)に醤油多糖類を10mg/mLになるように溶解した後、カルシウムを含むPBSを外液として透析を行った。さらに外液を蒸留水に交換し、透析を続けて溶液中の塩を除去した。この試料を、各種濃度(a:1 mg/mL、b:0.5 mg/mL、c:0.3 mg/mL)に希釈した後,アナライトとしてフィブロネクチンとの結合性をBiacoreシステムにて調べた。結果を
図4に示す。
【0068】
図4に示すように、醤油多糖類はフィブロネクチンに対して濃度依存的な結合を示したことから、醤油多糖類中に一旦カルシウムが取り込まれると、透析によっても消失しない可能性が高いことが示唆された。
【0069】
(2)醤油多糖類に対する酸処理の必要性の検討
これまで醤油多糖類を蒸留水に溶解しただけではフィブロネクチンとの結合はみられないが、0.2%NaClを含む酸溶液によって処理すると、フィブロネクチンとの結合がみられるようになることから、酸処理は結合に対して必要な操作と考えてきた。しかし、カルシウムイオンがフィブロネクチンとの結合に大きく影響することを考慮すると、カルシウムが存在すれば酸処理を行わなくても結合を示す可能性がある。
【0070】
そこで、醤油多糖類を、0.2%NaClを含む0.1M CaCl
2水溶液に10mg/mLの濃度で溶解したサンプル溶液を調製し、各種濃度に希釈後,フィブロネクチンとの結合力をBiacoreシステムで調べた。その結果、いずれもフィブロネクチンと強く結合し、その解離定数は2.297×10
−6Mであった。
【0071】
このことから、醤油多糖類などの大豆由来水溶性多糖類がフィブロネクチンと強く結合するためには、酸処理は必須の処理ではなく、カルシウムイオンの存在が重要であることが示唆された。
【0072】
(3)透析によるカルシウムの除去における醤油多糖類のフィブロネクチンとの結合力に対する影響
0.2% NaClを含む0.1M CaCl
2溶液(0.2% NaCl/0.1 M CaCl
2)、及び0.2% NaClを含む0.1M KCl溶液(0.2% NaCl/0.1 M KCl)に、醤油多糖類を10mg/mLになるように溶解し、蒸留水に対して透析を行った後に、各種濃度(a:1 mg/mL、b:0.5 mg/mL、c:0.25 mg/mL、d:0.17 mg/mL、e:0.125 mg/mL)に希釈後、フィブロネクチンとの結合力をBiacoreシステムにて調べた。結果を
図5に示す。
図5(A)は、前処理として0.2% NaCl/0.1 M CaCl
2に溶解した醤油多糖類の結果を、
図5(B)は、前処理として0.2% NaCl/0.1 M KClに溶解した醤油多糖類の結果を、それぞれ示す。
図5に示すように、0.1M CaCl
2溶液に溶解後透析した場合、及び0.1M KCl溶液に溶解後透析した場合のいずれについても醤油多糖類はフィブロネクチンと結合することが認められ、解離定数はそれぞれ1.51×10
−4M及び9.62×10
−5Mであった。
【0073】
この結果から、カルシウムイオンもカリウムイオンもいずれも醤油多糖類分子内に取り込まれ、フィブロネクチンとの結合に関与していることが示された。
【0074】
参考実験例 溶媒中のミネラルのフィブロネクチンの結合への影響
被験試料中に含まれるミネラルそのものがフィブロネクチンとの結合力測定にどのように影響するかを調べるために、各種濃度のCaCl
2溶液、KCl溶液、及びMgCl
2溶液(いずれも、a:10 mM、b:5 mM、c:0.25 mM)をそれぞれBiacoreシステムに供して、フィブロネクチンとの結合力を調べた。CaCl
2溶液、KCl溶液、及びMgCl
2溶液についてフィブロネクチンとの結合力を経時的に測定した結果を、それぞれ
図6(A)、(B)及び(C)に示す。
【0075】
図6(B)の結果から、カリウムイオン及び塩化イオンはほとんどフィブロネクチンに作用しないことが確認された。
図6(A)と(C)の結果から、カルシウムイオンとマグネシウムイオンは、添加開始(0s)から120秒まではフィブロネクチンに作用し、それとの結合が濃度依存的に上昇することが確認されたが、解離後(添加開始(0s)から120秒経過後)には結合がみられないことが確認された。このことから、前述する実験例で示した解離後(240s)時点での測定結果は、溶液中に含まれる金属イオン(カルシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン)ではなく、大豆ペクチンまたは
醤油多糖類そのもののフィブロネクチンに対する結合力を示したものといえる。