特許第6249710号(P6249710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6249710裁断機およびその裁断ヘッド昇降制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249710
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】裁断機およびその裁断ヘッド昇降制御方法
(51)【国際特許分類】
   B26D 7/02 20060101AFI20171211BHJP
   B26D 5/00 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   B26D7/02 B
   B26D5/00 F
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-208553(P2013-208553)
(22)【出願日】2013年10月3日
(65)【公開番号】特開2015-71210(P2015-71210A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101638
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 峰太郎
(72)【発明者】
【氏名】宇治田 良博
(72)【発明者】
【氏名】中井 健司
【審査官】 塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−060686(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/084093(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 7/01−7/04
B26D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裁断すべきシート状材料の生地を載置するテーブルと、
生地を裁断する裁断刃を備え、テーブルの表面に沿ってX軸方向およびY軸方向の二次元に移動可能で、テーブルの表面に垂直なZ軸方向に昇降移動可能な裁断ヘッドと、
テーブルに臨むように、裁断ヘッドに設けられ、裁断ヘッドに対して予め設定される昇降ストロークの範囲内の位置でZ軸方向への変位が可能なフットプレッサーと、
を有する裁断機において、
フットプレッサーを生地の表面に接触させて、予め設定する押圧力で生地を押圧する押圧手段と、
裁断時の生地の表面変動に伴う裁断ヘッドに対するフットプレッサーの変位量を、予め設定される基準位置に基づいて検出する変位量検出手段と、
変位量検出手段によって検出する変位量を監視し、変位の有無を予め定める判定基準に基づいて判定する変位判定手段と、
生地を裁断しながら、変位判定手段の判定結果に応じて、変位量が判定基準から外れると、裁断ヘッドに対するフットプレッサーの位置が該昇降ストローク範囲内で次に設定される基準位置となるように、裁断ヘッドを昇降させるように制御する昇降制御手段と、
を含むことを特徴とする裁断機。
【請求項2】
前記変位判定手段は、
前記変位量を、予め設定されるタイミングで監視する、
ことを特徴とする請求項1記載の裁断機。
【請求項3】
前記変位判定手段は、
前記変位量が予め定める判定範囲を超えると変位有りと判定する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の裁断機。
【請求項4】
前記押圧手段は、
二つのエア入力ポートを有し、ポート間の差圧に基づいて駆動されるピストンの出力で前記フットプレッサーを押圧するエアシリンダと、
エアシリンダの少なくとも一方のポートに電気的に制御可能な設定圧力のエアを供給する電空レギュレータと、
を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の裁断機。
【請求項5】
裁断すべきシート状材料の生地をテーブル上に載置し、
生地を裁断する裁断刃を備える裁断ヘッドを、テーブルの表面に沿ってX軸方向およびY軸方向の二次元に移動可能で、テーブルの表面に垂直なZ軸方向に昇降移動可能にして、
裁断ヘッドで、テーブルに臨む側に、裁断ヘッドに対して予め設定される昇降ストロークの範囲内の位置でZ軸方向への変位が可能なフットプレッサーを設ける、
裁断機の裁断ヘッド昇降制御方法において、
生地を裁断しながら、
フットプレッサーを生地の表面に接触させて、予め設定する押圧力で生地を押圧させ、
裁断時の生地の表面変動に伴う裁断ヘッドに対するフットプレッサーの変位量を、予め設定される基準位置に基づいて検出し、
検出する変位量を監視し、変位の有無を予め定める判定基準に基づいて判定し、
判定結果に応じて、変位量が判定基準から外れると、裁断ヘッドに対するフットプレッサーの位置が該昇降ストローク範囲内で次に設定される基準位置となるように、裁断ヘッドを昇降させるように制御する、
ことを特徴とする裁断機の裁断ヘッド昇降制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裁断ヘッドに裁断刃とフットプレッサーとを備え、シート状の生地を裁断する際に、フットプレッサーが裁断刃の周囲で生地の表面を押えるように、裁断ヘッドを昇降させる裁断機、および裁断機の裁断ヘッド昇降制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、裁断機は、シート状の布帛などを、予め設定される裁断データに従って裁断するために用いられている(たとえば、特許文献1参照)。この裁断機は、裁断すべきシート状材料を載置する裁断テーブルと、裁断テーブル上を移動可能な裁断ヘッドとしてのカッターヘッドとを備える。カッターヘッドには、ナイフをシート状材料に突き差して上下に往復動させる機構とともに、裁断テーブルに臨んで、ナイフの周囲で、シート状材料の表面を押えるフットプレッサーとしての押圧盤が設けられている。押圧盤は、カッターヘッドに対して、使用部品や構造などから予め設定される昇降ストロークの範囲内で変位が可能である。カッターヘッドの上昇位置で、押圧盤は、昇降ストローク範囲の下限で、ばねを介して吊下げられる状態となり、押圧盤の底面はシート状材料の表面から上方に離れている。カッターヘッドを下降させると、押圧盤の底面がシート状材料の表面に接触する。さらにカッターヘッドを下降させると、押圧盤は昇降ストローク範囲の下限から上限までの間で変位することができ、カッターヘッドに対して押圧盤が接近し、ばねが圧縮され、押圧盤を下方に付勢して、押圧盤の底面はシート状材料の表面を押圧するようになる。
【0003】
シート状材料をナイフで裁断する際には、シート状材料の表面でナイフの周囲となる領域を押圧盤で押圧しながら行う。これによって、ナイフが上下に往復動して、特に上昇時に、シート状材料が浮上がるのを防ぎ、安定した裁断を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平4−33595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
裁断効率を高めるため、シート状材料は、複数枚を積層する状態で裁断する場合がある。軟らかい素材のシート状材料を積層して裁断する場合などでは、裁断テーブル上に載置されるシート状材料の厚みが変動しやすい。シート状材料の表面を押える押圧盤は、押圧力が大きければ、シート状材料の厚みの変動を押え込むことができるけれども、押圧盤が押圧する部分のみが圧縮される。押圧盤が押圧しない周囲の部分は圧縮されないので、シート状材料に部分的な変形が生じる状態での裁断となり、押圧解除後に、裁断位置がずれてしまうおそれがある。
【0006】
押圧盤の押圧力が小さければ、シート状材料の表面がナイフの上昇時に浮上がってしまい、裁断位置がずれてしまうおそれがある。このため、押圧盤は、シート状材料の特性に応じて、適正な押圧力でシート状材料の表面を押圧する必要がある。また、そのような押圧状態で、シート状材料の厚みの変動が生じても、押圧盤の位置が変動に追随しうることが望ましい。
【0007】
このような押圧盤が、シート状材料の表面の変動に追随可能な昇降ストローク範囲は、押圧盤を支持し、シート状材料の表面に押付ける機構の構成に応じて定まる。範囲を広くとることができれば、シート状材料の表面の変動に対応して、適切な押圧力を押圧盤からシート状材料の表面に作用させやすい。しかしながら、押圧盤を適切な押圧力でシート状材料表面を押圧する昇降ストローク範囲を広くとることができる機構は、大型化してしまう。また、カッターヘッドを上昇させて押圧盤をシート状材料の表面から浮かすようにするための上昇量も大きくなり、裁断効率を低下させてしまう。
【0008】
本発明の目的は、裁断刃の周囲でシート状の生地を押圧するフットプレッサーが表面の高さ変化に追随可能な昇降ストローク範囲を小さくしても、この昇降ストローク範囲を超える変動にも対応し得て押圧することが可能な裁断機、およびその裁断ヘッド昇降制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、裁断すべきシート状材料の生地を載置するテーブルと、
生地を裁断する裁断刃を備え、テーブルの表面に沿ってX軸方向およびY軸方向の二次元に移動可能で、テーブルの表面に垂直なZ軸方向に昇降移動可能な裁断ヘッドと、
テーブルに臨むように、裁断ヘッドに設けられ、裁断ヘッドに対して予め設定される昇降ストロークの範囲内の位置でZ軸方向への変位が可能なフットプレッサーと、
を有する裁断機において、
フットプレッサーを生地の表面に接触させて、予め設定する押圧力で生地を押圧する押圧手段と、
裁断時の生地の表面変動に伴う裁断ヘッドに対するフットプレッサーの変位量を、予め設定される基準位置に基づいて検出する変位量検出手段と、
変位量検出手段によって検出する変位量を監視し、変位の有無を予め定める判定基準に基づいて判定する変位判定手段と、
生地を裁断しながら、変位判定手段の判定結果に応じて、変位量が判定基準から外れると、裁断ヘッドに対するフットプレッサーの位置が該昇降ストローク範囲内で次に設定される基準位置となるように、裁断ヘッドを昇降させるように制御する昇降制御手段と、
を含むことを特徴とする裁断機である。
【0010】
また本発明で、前記変位判定手段は、
前記変位量を、予め設定されるタイミングで監視する、
ことを特徴とする。
【0011】
また本発明で、前記変位判定手段は、
前記変位量が予め定める判定範囲を超えると変位有りと判定する、
ことを特徴とする。
【0012】
また本発明で、前記押圧手段は、
二つのエア入力ポートを有し、ポート間の差圧に基づいて駆動されるピストンの出力で前記フットプレッサーを押圧するエアシリンダと、
エアシリンダの少なくとも一方のポートに電気的に制御可能な設定圧力のエアを供給する電空レギュレータと、
を含むことを特徴とする。
【0013】
さらに本発明は、裁断すべきシート状材料の生地をテーブル上に載置し、
生地を裁断する裁断刃を備える裁断ヘッドを、テーブルの表面に沿ってX軸方向およびY軸方向の二次元に移動可能で、テーブルの表面に垂直なZ軸方向に昇降移動可能にして、
裁断ヘッドで、テーブルに臨む側に、裁断ヘッドに対して予め設定される昇降ストロークの範囲内の位置でZ軸方向への変位が可能なフットプレッサーを設ける、
裁断機の裁断ヘッド昇降制御方法において、
生地を裁断しながら、
フットプレッサーを生地の表面に接触させて、予め設定する押圧力で生地を押圧させ、
裁断時の生地の表面変動に伴う裁断ヘッドに対するフットプレッサーの変位量を、予め設定される基準位置に基づいて検出し、
検出する変位量を監視し、変位の有無を予め定める判定基準に基づいて判定し、
判定結果に応じて、変位量が判定基準から外れると、裁断ヘッドに対するフットプレッサーの位置が該昇降ストローク範囲内で次に設定される基準位置となるように、裁断ヘッドを昇降させるように制御する、
ことを特徴とする裁断機の裁断ヘッド昇降制御方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、テーブル上に載置されるシート状材料の生地を裁断する際に、生地の表面を押えるフットプレッサーは、生地の表面変動に伴って変位する。変位量検出手段は、裁断ヘッドに対するフットプレッサーの変位量を検出する。変位判定手段は、変位量を監視し、変位の有無を予め定める判定基準に基づいて判定する。変位判定手段による判定結果に応じて、昇降制御手段は、裁断ヘッドに対するフットプレッサーの位置が昇降ストロークの範囲内で予め設定される基準位置となるように制御する。裁断刃の周囲でシート状の生地を押圧するフットプレッサーが生地表面の高さ変化に追随可能な昇降ストロークの範囲を小さくしても、変位量を監視して、変位が有ると判定すれば、裁断ヘッドを昇降させるので、追随可能な昇降ストロークの範囲を超える変動にも対応し得て、フットプレッサーで生地を押圧することが可能となる。また転機構は、クランク部材とアーム部材との組合せで構成するので、部品点数を少なくしてコンパクト化することができ、省スペースで低コスト化を図ることができる。
【0015】
また本発明によれば、変位判定手段は、予め設定されるタイミングで変位量を監視するので、小さな周期の変動はフットプレッサーの押圧手段で吸収し、裁断ヘッドを昇降させる頻度を低減することができる。
【0016】
また本発明によれば、変位判定手段は、変位量が予め定める判定範囲を超えると変位有りと判定するので、大きな変位が生じたときのみ、裁断ヘッドを昇降させて、裁断ヘッドに対するフットプレッサーの位置を適切に制御することができる。
【0017】
また本発明によれば、フットプレッサーの押圧をエアシリンダの出力で行い、エアシリンダの少なくとも一方のポートには、電空レギュレータから電気的に制御可能な設定圧力のエアを供給する。フットプレッサーの押圧力を、フットプレッサーの自重によるものよりも小さい範囲に設定することもでき、軟らかい素材の生地を適切に押圧しながら裁断することが可能になる。
【0018】
さらに本発明によれば、テーブル上に載置されるシート状材料の生地を裁断する際に、生地の表面を押えるフットプレッサーの生地の表面変動に伴って変位する裁断ヘッドに対する位量を監視し、変位の有無を予め定める判定基準に基づいて判定する。判定結果に応じて、裁断ヘッドを、裁断ヘッドに対するフットプレッサーの位置が昇降ストロークの範囲内で予め設定される基準位置となるように、昇降させるように制御する。フットプレッサーが生地表面の高さ変化に追随可能な昇降ストローク範囲を小さくしても、追随可能な昇降ストローク範囲を超える変動には裁断ヘッドの昇降で対応し得て、フットプレッサーで生地の表面を適切に押圧することが可能となる。

【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施例としての裁断機1の概略的な構成を示す図である。
図2図2は、図1の押圧手段20の構成を示す配管系統図である。
図3図3は、図1で裁断ヘッド2を昇降させる制御の基本的な考え方を示す図である。
図4図4は、図1で裁断ヘッド2を下降させ、フットプレッサー8で生地4の表面を押圧する動作を示す図である。
図5図5は、図1の裁断機1でフットプレッサー8の昇降制御を行う考え方を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1図5で本発明の一実施例を説明する。各図の説明では、当該図面には存在せずに、先に説明する図には存在する符号を用いて説明したり、先に説明する図に示す部分と対応する部分には同一の参照符を付したり、重複する説明を省略する場合がある。
【実施例】
【0021】
図1は、本発明の一実施例としての裁断機1、特に裁断ヘッド2の主要部分の概略的な構成を示す。裁断機1および裁断ヘッド2の基本的な構成は、特許文献1に記載されている構成と同等である。すなわち、裁断ヘッド2は、水平なテーブル3の表面に沿うX軸方向およびY軸方向に二次元に移動するベース部分に支持され、テーブル3の表面に垂直なZ軸方向に昇降移動しながら、テーブル3上に載置されるシート状の生地4の裁断を行う。テーブル3は、剛性樹脂製の剛毛ブラシ3aを並べて、下方から直立する剛毛で形成され、通気性を有する表面を有し、剛毛ブラシ3aの下方から吸引して生地4を保持することができる。生地4は、1枚、または複数枚を積層し、表面は非通気性の合成樹脂フィルムで覆う。
【0022】
本実施例の裁断ヘッド2には、裁断刃としてナイフ状の裁断刃5が取付けられている。裁断刃5は、下方に突出する刃先5aを有し、側方の刃縁5bを生地4に当てて裁断する。裁断刃5の昇降移動を行うために、Z軸昇降機構6が備えられている。Z軸昇降機構6に対する制御は、制御部7で行われる。制御部7は、裁断ヘッド2のX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向への移動を含む裁断機1の全体的な制御を行うために備えられている。裁断刃5が裁断を行う生地4の表面は、生地4に臨むように裁断ヘッド2に設けるフットプレッサー8で押えることができる。裁断刃5の刃縁5bの向きは、R軸ユニット9で、テーブル3の表面に垂直な軸線まわりに変えることができる。
【0023】
Z軸昇降機構6は、リフトモータ10で駆動するボールねじ機構を含む。ボールねじ機構には、プーリ11,タイミングベルト12、プーリ13、およびねじ棒14が設けられる。プーリ11はリフトモータ10の出力軸に取付けられ、プーリ13はねじ棒14に取付けられる。タイミングベルト12は、プーリ11,13間に掛け渡される。ねじ棒14は、上下を、裁断ヘッド2のフレーム15,16で回転可能に支持される。フレーム15,16は、裁断ヘッド2を支持するベース部分に含まれる。裁断ヘッド2では、ベース部分がテーブル3の表面に沿ってX軸方向およびY軸方向の二次元に移動する。リフトモータ10も、ベース部分に取付けられる。ねじ棒14には、ナット部材17が螺合し、ねじ棒14の回転で、ナット部材17が昇降移動する。
【0024】
裁断ヘッド2は、ナット部材17で支持され、フレーム15,16に対してZ軸方向に昇降移動する。ナット部材17には、Z軸シリンダ18が取付けられており、Z軸シリンダ18は、レシプロ機構19をボールねじ機構に対してZ軸方向に昇降させる。レシプロ機構19は、裁断刃5を、予め機械的に設定される振動ストロークの範囲で、上下に往復振動させるために設けられる。
【0025】
ナット部材17には、押圧手段20も取付けられている。押圧手段20は、フットプレッサー8に対し、生地4を押圧する作用状態と、生地4の表面から離れる不作用状態とを切換えるために用いられる。レシプロ機構19のZ軸方向の昇降は、上下の両端が裁断ヘッド2のフレームで支持されるリフトガイド軸21で案内される。R軸ユニット9からは、案内軸22が下方に延びている。フットプレッサー8は、案内軸22に案内され、案内軸22の上部に設けられるばね23で上方に引上げるように付勢されている。ばね23の位置は、調整ねじ23aで若干の調整が可能である。
【0026】
押圧手段20には、アクチュエータとして、エアシリンダ24が含まれる。エアシリンダ24の出力ロッド24aは、下方に突出し、先端に接続ユニット25が取付けられている。接続ユニット25は、エアシリンダ24が出力ロッド24aを突出させるように作動すると、ばね23の付勢に抗して、フットプレッサー8を下降させる。エアシリンダ24が作動する状態では、フットプレッサー8は生地4の表面を押える状態となり、テーブル3の表面から、生地4の厚さ分だけ浮く状態となる。エアシリンダ24の出力ロッド24aが作動するストロークの範囲は、機構的に予め設定される。押圧手段20として、フットプレッサー8で生地4の表面を押圧する際に、裁断ヘッド2に対してフットプレッサー8が昇降変位する昇降ストロークの範囲は、エアシリンダー24のストローク範囲となる。ただし、エアシリンダー24のストローク範囲内でも、たとえば、案内軸22にストッパが設けられているような場合は、昇降ストロークの範囲は制限される。
【0027】
生地4の厚さに対応してフットプレッサー8の高さが変化すると、裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置が変位し、接続ユニット25の上方に設けられるラック26、ラック26の歯に噛合するピニオン27を介して、変位量がエンコーダ28で検出される。
【0028】
R軸モータ29は、出力軸にプーリ30を備える。プーリ30にはタイミングベルト31が掛けられ、タイミングベルト31は、R軸ユニット9のプーリ32に掛けられている。R軸モータ29の出力は、R軸ユニット9を回転駆動する。
【0029】
制御部7は、変位判定手段33および昇降制御手段34を含む。変位判定手段33は、変位量検出手段としてのエンコーダ28によって検出する変位量を監視し、変位の有無を予め定める基準に基づいて判定する。昇降制御手段34は、変位判定手段33の判定結果に応じて、裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置が昇降ストローク範囲内で予め設定される基準位置となるように設定し、Z軸昇降機構6を制御し、裁断ヘッド2をZ軸方向の新たな位置を目標として昇降させる。
【0030】
裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置が基準位置になった後、裁断刃5の周囲でシート状の生地4を押圧するフットプレッサー8は、昇降ストロークで許容される範囲で、生地4の表面の高さ変化に追随可能となる。生地4の表面の高さ変化が大きくなると、裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置の基準位置からの変位量も大きくなる。この変位量を監視して、変位量が判定範囲を超えると判定すれば、裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置が基準位置となる新たなZ軸方向の位置を目標として設定、裁断ヘッド2を昇降させる。このような基準位置の再設定の繰返しで、押圧手段20によるフットプレッサー8の押圧は、追随可能な昇降ストロークの範囲を超える生地4の表面の高さ変動にも対応し得て、生地4の表面を適切に押圧することが可能となる。
【0031】
図2は、図1の押圧手段20の構成について示す。押圧手段20は、アクチュエータとして、二つのエア入力ポートを有し、ポート間の差圧に基づいて駆動されるピストンの出力でフットプレッサー8を昇降させるエアシリンダ24と、エアシリンダ24の少なくとも一方のポートに電気的に制御可能な設定圧力のエアを供給する電空レギュレータ35とを含む。本実施例では、エアシリンダ24で内部のピストンを下方に押圧するポートに電空レギュレータ35を、ピストンを上方に押圧するポートに精密レギュレータ36を、圧力制御管路37および圧力一定管路38を介して、それぞれ接続する。電空レギュレータ35および精密レギュレータ36へは、裁断ヘッド2の外部、たとえばテーブル3の下方から、フレキシブルなエア供給管路39を介して圧縮エアを供給する。
【0032】
精密レギュレータ36は、一定の圧力のエアをエアシリンダ24の他方のポートに供給する。電空レギュレータ35の設定圧力を、精密レギュレータ36の設定圧力に対して変化させれば、エアシリンダ24によるフットプレッサー8の押圧力を調整することができる。フットプレッサー8の押圧力を、フットプレッサー8の自重によるものよりも小さい範囲に設定することもでき、軟らかい素材の生地4を適切に押圧しながら裁断することが可能になる。
【0033】
なお、押圧手段20としては、精密レギュレータ36に替えて、電空レギュレータを用いることもできる。上下とも電空レギュレータを用いれば、フットプレッサー8の押圧力を、より細かく設定することが可能となる。また、必要な押圧力がフットプレッサー8の自重よりも大きいような場合、エアシリンダ24の二つのポートを切換えて、一方を大気圧に開放し、他方に大気圧よりも高い圧力の圧縮エアを供給するようにしてもよい。
【0034】
また、押圧手段20としては、エアシリンダ24に替えて、他のアクチュエータ、たとえば油圧やリニアモータなどを用い、押圧力に対応する駆動力を制御して、押圧力を一定に保つように制御してもよい。さらに、アクチュエータを用いずに、ばね23の圧縮力を用いたり、フットプレッサー8の自重や、追加の荷重で、押圧力を付加したりしてもよい。
【0035】
いずれにしても、押圧手段20は、フットプレッサー8で生地4の表面に適切な範囲の押圧力を付加可能な昇降ストロークの範囲に制限がある。この範囲を広くすると、装置が大型化してしまう。本実施例では、以下のような考え方で裁断ヘッド2を昇降させる制御を行い、生地4の表面の高さが変動しても、適切な押圧力が印加されるようにしている。
【0036】
図3は、図1で裁断ヘッド2を昇降させる制御の基本的な考え方を示す。図3(a)に示す状態と、図3(b)に示す状態とで、生地4の表面の高さがΔHだけ変動すると、裁断ヘッド2をΔDだけ昇降させ、裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の距離を、予め設定される距離となるように制御する。エンコーダ28は、ΔHに常時追随して変化するけれども、変位判定手段33は、予め設定されるタイミング、たとえば5〜30ms、好ましくは10msなどの一定周期毎や、パーツの裁断毎など、間欠的に監視し、昇降制御手段34は、監視結果に応じて、裁断ヘッド2の昇降を制御する。
【0037】
図4は、図1で裁断ヘッド2を下降させ、フットプレッサー8で生地4の表面を押圧する動作を示す。裁断ヘッド2がテーブル3の上方に上昇している状態で、押圧手段20により可能となるフットプレッサー8の昇降ストロークは、図4(a)に示す上限から図4(b)に示す下限まで、Smaxの範囲となる。Smaxは、たとえば30mmとすることができる。裁断を行う際には、昇降制御手段34がZ軸昇降機構6を制御し、図4(c)に示すように裁断ヘッド2を、フットプレッサー8の底面が生地4の表面に当接するまで下降させる。当接すると、エンコーダ28の出力が変化し始めるので、検知することができる。昇降制御手段34は、Z軸昇降機構6をさらに制御し、裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置が昇降ストローク内に予め設定される基準位置まで、下降させる。
【0038】
基準位置は、フットプレッサー8の昇降ストロークの中間付近に対応するように設定することが好ましい。たとえばSmaxが30mmの場合、この中間に基準位置を設定すれば、フットプレッサー8の位置の変位としては、±10mmが許容される範囲となる。このように、基準位置を昇降ストロークの範囲内で中間付近に設定すれば、生地4の凹凸に対して上下いずれの方向にもマージンをとることができる。
【0039】
なお、変位量が許容される範囲を超えたときに設定される次の基準位置として、必ずしも許容範囲を超えた位置から許容範囲の半分の距離にある位置を設定しなくてよい。たとえば、上限の+10mmを超えたときや、下限の−10mmを超えたときに、それぞれの位置から絶対値が10mmではなく、Smaxの範囲内で、10mmよりも大きい距離だけ離れた位置を次の基準位置に設定してもよい。たとえば、生地4の高さが連続的に増していく場合に、裁断ヘッド2を予め高めに位置させて、次に変位量が上限に達するまでのストロークを大きく取れるようになる。
【0040】
図5は、生地4から一つのパーツを裁断する際に、図1の裁断機1の制御部7でフットプレッサー8の昇降制御を行う全体的な考え方を示す。制御部7は、予め設定されたプログラムに従って、変位判定手段33および昇降制御手段34を含む制御を行う。なお、裁断ヘッド2は、図4(a),(b)に示すように、テーブル3の上方に上昇している状態から制御を開始する。
【0041】
制御開始後、ステップs1では、エアシリンダ24によるフットプレッサー8から生地4への押圧力を設定する。この設定は、電空レギュレータ35へ、精密レギュレータ36による一定の圧力のとの差圧を設定することで行う。ステップs2では、裁断ヘッド2を下降させる。ステップs3では、フットプレッサー8が図4(c)に示すように、生地4の表面に当接したか否かを判断する。当接するまで下降を続け、フットプレッサー8が生地4の表面に当接したと判断すると、ステップs4で、図4(d)に示す基準位置まで裁断ヘッド2を下降させる。基準位置では、エンコーダ28によって検出する変位量が0に初期化される。
【0042】
ステップs5以下は、Z軸シリンダ18を作動させて裁断刃5を下降させ、刃先5aから生地4に突刺し、レシプロ機構19で裁断刃5を上下に往復動させながら、裁断ヘッド2をテーブル3の表面に沿って移動させて、裁断を行う。裁断は、予め設定される裁断データに従って行い、ステップs6で、裁断データから一つのパーツについての裁断が終了したと判断すると、終了する。ステップs6で、裁断が終了しないと判断すると、ステップs7で、変位判定手段33は、エンコーダ28によって検出される基準位置からの変位量を監視し、ステップs8で、変位量が判定範囲外となっているか否かを判定する。この判定は、前述のように間欠的に行う。前述のように、±10mmの変位を許容する場合は、この10mmが判定範囲となる。変位量が判定範囲内であると判定すると、ステップs5に戻り、裁断を続ける。変位量が判定範囲外であると判定すると、ステップs9で昇降制御手段34は裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置が基準位置となるように、Z軸昇降機構6を制御して、裁断ヘッド2を昇降移動させ、ステップs5に戻り裁断を続ける。
【0043】
なお、複数のパーツを連続して裁断する際には、裁断ヘッド2を生地4から上昇させない場合もある。そのような場合、ステップs7での変位量の監視からステップs9での基準位置となるまで裁断ヘッド2を昇降させる制御は、パーツ毎に行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 裁断機
2 裁断ヘッド
3 テーブル
4 生地
5 裁断刃
6 Z軸昇降機構
7 制御部
8 フットプレッサー
20 押圧手段
23 ばね
24 エアシリンダ
28 エンコーダ
33 変位判定手段
34 昇降制御手段
35 電空レギュレータ
図1
図2
図3
図4
図5