【実施例】
【0021】
図1は、本発明の一実施例としての裁断機1、特に裁断ヘッド2の主要部分の概略的な構成を示す。裁断機1および裁断ヘッド2の基本的な構成は、特許文献1に記載されている構成と同等である。すなわち、裁断ヘッド2は、水平なテーブル3の表面に沿うX軸方向およびY軸方向に二次元に移動するベース部分に支持され、テーブル3の表面に垂直なZ軸方向に昇降移動しながら、テーブル3上に載置されるシート状の生地4の裁断を行う。テーブル3は、剛性樹脂製の剛毛ブラシ3aを並べて、下方から直立する剛毛で形成され、通気性を有する表面を有し、剛毛ブラシ3aの下方から吸引して生地4を保持することができる。生地4は、1枚、または複数枚を積層し、表面は非通気性の合成樹脂フィルムで覆う。
【0022】
本実施例の裁断ヘッド2には、裁断刃としてナイフ状の裁断刃5が取付けられている。裁断刃5は、下方に突出する刃先5aを有し、側方の刃縁5bを生地4に当てて裁断する。裁断刃5の昇降移動を行うために、Z軸昇降機構6が備えられている。Z軸昇降機構6に対する制御は、制御部7で行われる。制御部7は、裁断ヘッド2のX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向への移動を含む裁断機1の全体的な制御を行うために備えられている。裁断刃5が裁断を行う生地4の表面は、生地4に臨むように裁断ヘッド2に設けるフットプレッサー8で押えることができる。裁断刃5の刃縁5bの向きは、R軸ユニット9で、テーブル3の表面に垂直な軸線まわりに変えることができる。
【0023】
Z軸昇降機構6は、リフトモータ10で駆動するボールねじ機構を含む。ボールねじ機構には、プーリ11,タイミングベルト12、プーリ13、およびねじ棒14が設けられる。プーリ11はリフトモータ10の出力軸に取付けられ、プーリ13はねじ棒14に取付けられる。タイミングベルト12は、プーリ11,13間に掛け渡される。ねじ棒14は、上下を、裁断ヘッド2のフレーム15,16で回転可能に支持される。フレーム15,16は、裁断ヘッド2を支持するベース部分に含まれる。裁断ヘッド2では、ベース部分がテーブル3の表面に沿ってX軸方向およびY軸方向の二次元に移動する。リフトモータ10も、ベース部分に取付けられる。ねじ棒14には、ナット部材17が螺合し、ねじ棒14の回転で、ナット部材17が昇降移動する。
【0024】
裁断ヘッド2は、ナット部材17で支持され、フレーム15,16に対してZ軸方向に昇降移動する。ナット部材17には、Z軸シリンダ18が取付けられており、Z軸シリンダ18は、レシプロ機構19をボールねじ機構に対してZ軸方向に昇降させる。レシプロ機構19は、裁断刃5を、予め機械的に設定される振動ストロークの範囲で、上下に往復振動させるために設けられる。
【0025】
ナット部材17には、押圧手段20も取付けられている。押圧手段20は、フットプレッサー8に対し、生地4を押圧する作用状態と、生地4の表面から離れる不作用状態とを切換えるために用いられる。レシプロ機構19のZ軸方向の昇降は、上下の両端が裁断ヘッド2のフレームで支持されるリフトガイド軸21で案内される。R軸ユニット9からは、案内軸22が下方に延びている。フットプレッサー8は、案内軸22に案内され、案内軸22の上部に設けられるばね23で上方に引上げるように付勢されている。ばね23の位置は、調整ねじ23aで若干の調整が可能である。
【0026】
押圧手段20には、アクチュエータとして、エアシリンダ24が含まれる。エアシリンダ24の出力ロッド24aは、下方に突出し、先端に接続ユニット25が取付けられている。接続ユニット25は、エアシリンダ24が出力ロッド24aを突出させるように作動すると、ばね23の付勢に抗して、フットプレッサー8を下降させる。エアシリンダ24が作動する状態では、フットプレッサー8は生地4の表面を押える状態となり、テーブル3の表面から、生地4の厚さ分だけ浮く状態となる。エアシリンダ24の出力ロッド24aが作動するストロークの範囲は、機構的に予め設定される。押圧手段20として、フットプレッサー8で生地4の表面を押圧する際に、裁断ヘッド2に対してフットプレッサー8が昇降変位する昇降ストロークの範囲は、エアシリンダー24のストローク範囲となる。ただし、エアシリンダー24のストローク範囲内でも、たとえば、案内軸22にストッパが設けられているような場合は、昇降ストロークの範囲は制限される。
【0027】
生地4の厚さに対応してフットプレッサー8の高さが変化すると、裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置が変位し、接続ユニット25の上方に設けられるラック26、ラック26の歯に噛合するピニオン27を介して、変位量がエンコーダ28で検出される。
【0028】
R軸モータ29は、出力軸にプーリ30を備える。プーリ30にはタイミングベルト31が掛けられ、タイミングベルト31は、R軸ユニット9のプーリ32に掛けられている。R軸モータ29の出力は、R軸ユニット9を回転駆動する。
【0029】
制御部7は、変位判定手段33および昇降制御手段34を含む。変位判定手段33は、変位量検出手段としてのエンコーダ28によって検出する変位量を監視し、変位の有無を予め定める基準に基づいて判定する。昇降制御手段34は、変位判定手段33の判定結果に応じて、裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置が昇降ストローク範囲内で予め設定される基準位置となるように設定し、Z軸昇降機構6を制御し、裁断ヘッド2をZ軸方向の新たな位置を目標として昇降させる。
【0030】
裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置が基準位置になった後、裁断刃5の周囲でシート状の生地4を押圧するフットプレッサー8は、昇降ストロークで許容される範囲で、生地4の表面の高さ変化に追随可能となる。生地4の表面の高さ変化が大きくなると、裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置の基準位置からの変位量も大きくなる。この変位量を監視して、変位量が判定範囲を超えると判定すれば、裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置が基準位置となる新たなZ軸方向の位置を目標として設定、裁断ヘッド2を昇降させる。このような基準位置の再設定の繰返しで、押圧手段20によるフットプレッサー8の押圧は、追随可能な昇降ストロークの範囲を超える生地4の表面の高さ変動にも対応し得て、生地4の表面を適切に押圧することが可能となる。
【0031】
図2は、
図1の押圧手段20の構成について示す。押圧手段20は、アクチュエータとして、二つのエア入力ポートを有し、ポート間の差圧に基づいて駆動されるピストンの出力でフットプレッサー8を昇降させるエアシリンダ24と、エアシリンダ24の少なくとも一方のポートに電気的に制御可能な設定圧力のエアを供給する電空レギュレータ35とを含む。本実施例では、エアシリンダ24で内部のピストンを下方に押圧するポートに電空レギュレータ35を、ピストンを上方に押圧するポートに精密レギュレータ36を、圧力制御管路37および圧力一定管路38を介して、それぞれ接続する。電空レギュレータ35および精密レギュレータ36へは、裁断ヘッド2の外部、たとえばテーブル3の下方から、フレキシブルなエア供給管路39を介して圧縮エアを供給する。
【0032】
精密レギュレータ36は、一定の圧力のエアをエアシリンダ24の他方のポートに供給する。電空レギュレータ35の設定圧力を、精密レギュレータ36の設定圧力に対して変化させれば、エアシリンダ24によるフットプレッサー8の押圧力を調整することができる。フットプレッサー8の押圧力を、フットプレッサー8の自重によるものよりも小さい範囲に設定することもでき、軟らかい素材の生地4を適切に押圧しながら裁断することが可能になる。
【0033】
なお、押圧手段20としては、精密レギュレータ36に替えて、電空レギュレータを用いることもできる。上下とも電空レギュレータを用いれば、フットプレッサー8の押圧力を、より細かく設定することが可能となる。また、必要な押圧力がフットプレッサー8の自重よりも大きいような場合、エアシリンダ24の二つのポートを切換えて、一方を大気圧に開放し、他方に大気圧よりも高い圧力の圧縮エアを供給するようにしてもよい。
【0034】
また、押圧手段20としては、エアシリンダ24に替えて、他のアクチュエータ、たとえば油圧やリニアモータなどを用い、押圧力に対応する駆動力を制御して、押圧力を一定に保つように制御してもよい。さらに、アクチュエータを用いずに、ばね23の圧縮力を用いたり、フットプレッサー8の自重や、追加の荷重で、押圧力を付加したりしてもよい。
【0035】
いずれにしても、押圧手段20は、フットプレッサー8で生地4の表面に適切な範囲の押圧力を付加可能な昇降ストロークの範囲に制限がある。この範囲を広くすると、装置が大型化してしまう。本実施例では、以下のような考え方で裁断ヘッド2を昇降させる制御を行い、生地4の表面の高さが変動しても、適切な押圧力が印加されるようにしている。
【0036】
図3は、
図1で裁断ヘッド2を昇降させる制御の基本的な考え方を示す。
図3(a)に示す状態と、
図3(b)に示す状態とで、生地4の表面の高さがΔHだけ変動すると、裁断ヘッド2をΔDだけ昇降させ、裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の距離を、予め設定される距離となるように制御する。エンコーダ28は、ΔHに常時追随して変化するけれども、変位判定手段33は、予め設定されるタイミング、たとえば5〜30ms、好ましくは10msなどの一定周期毎や、パーツの裁断毎など、間欠的に監視し、昇降制御手段34は、監視結果に応じて、裁断ヘッド2の昇降を制御する。
【0037】
図4は、
図1で裁断ヘッド2を下降させ、フットプレッサー8で生地4の表面を押圧する動作を示す。裁断ヘッド2がテーブル3の上方に上昇している状態で、押圧手段20により可能となるフットプレッサー8の昇降ストロークは、
図4(a)に示す上限から
図4(b)に示す下限まで、Smaxの範囲となる。Smaxは、たとえば30mmとすることができる。裁断を行う際には、昇降制御手段34がZ軸昇降機構6を制御し、
図4(c)に示すように裁断ヘッド2を、フットプレッサー8の底面が生地4の表面に当接するまで下降させる。当接すると、エンコーダ28の出力が変化し始めるので、検知することができる。昇降制御手段34は、Z軸昇降機構6をさらに制御し、裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置が昇降ストローク内に予め設定される基準位置まで、下降させる。
【0038】
基準位置は、フットプレッサー8の昇降ストロークの中間付近に対応するように設定することが好ましい。たとえばSmaxが30mmの場合、この中間に基準位置を設定すれば、フットプレッサー8の位置の変位としては、±10mmが許容される範囲となる。このように、基準位置を昇降ストロークの範囲内で中間付近に設定すれば、生地4の凹凸に対して上下いずれの方向にもマージンをとることができる。
【0039】
なお、変位量が許容される範囲を超えたときに設定される次の基準位置として、必ずしも許容範囲を超えた位置から許容範囲の半分の距離にある位置を設定しなくてよい。たとえば、上限の+10mmを超えたときや、下限の−10mmを超えたときに、それぞれの位置から絶対値が10mmではなく、Smaxの範囲内で、10mmよりも大きい距離だけ離れた位置を次の基準位置に設定してもよい。たとえば、生地4の高さが連続的に増していく場合に、裁断ヘッド2を予め高めに位置させて、次に変位量が上限に達するまでのストロークを大きく取れるようになる。
【0040】
図5は、生地4から一つのパーツを裁断する際に、
図1の裁断機1の制御部7でフットプレッサー8の昇降制御を行う全体的な考え方を示す。制御部7は、予め設定されたプログラムに従って、変位判定手段33および昇降制御手段34を含む制御を行う。なお、裁断ヘッド2は、
図4(a),(b)に示すように、テーブル3の上方に上昇している状態から制御を開始する。
【0041】
制御開始後、ステップs1では、エアシリンダ24によるフットプレッサー8から生地4への押圧力を設定する。この設定は、電空レギュレータ35へ、精密レギュレータ36による一定の圧力のとの差圧を設定することで行う。ステップs2では、裁断ヘッド2を下降させる。ステップs3では、フットプレッサー8が
図4(c)に示すように、生地4の表面に当接したか否かを判断する。当接するまで下降を続け、フットプレッサー8が生地4の表面に当接したと判断すると、ステップs4で、
図4(d)に示す基準位置まで裁断ヘッド2を下降させる。基準位置では、エンコーダ28によって検出する変位量が0に初期化される。
【0042】
ステップs5以下は、Z軸シリンダ18を作動させて裁断刃5を下降させ、刃先5aから生地4に突刺し、レシプロ機構19で裁断刃5を上下に往復動させながら、裁断ヘッド2をテーブル3の表面に沿って移動させて、裁断を行う。裁断は、予め設定される裁断データに従って行い、ステップs6で、裁断データから一つのパーツについての裁断が終了したと判断すると、終了する。ステップs6で、裁断が終了しないと判断すると、ステップs7で、変位判定手段33は、エンコーダ28によって検出される基準位置からの変位量を監視し、ステップs8で、変位量が判定範囲外となっているか否かを判定する。この判定は、前述のように間欠的に行う。前述のように、±10mmの変位を許容する場合は、この10mmが判定範囲となる。変位量が判定範囲内であると判定すると、ステップs5に戻り、裁断を続ける。変位量が判定範囲外であると判定すると、ステップs9で昇降制御手段34は裁断ヘッド2に対するフットプレッサー8の位置が基準位置となるように、Z軸昇降機構6を制御して、裁断ヘッド2を昇降移動させ、ステップs5に戻り裁断を続ける。
【0043】
なお、複数のパーツを連続して裁断する際には、裁断ヘッド2を生地4から上昇させない場合もある。そのような場合、ステップs7での変位量の監視からステップs9での基準位置となるまで裁断ヘッド2を昇降させる制御は、パーツ毎に行うようにしてもよい。