特許第6249715号(P6249715)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249715
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】X線診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20171211BHJP
   G01T 7/00 20060101ALI20171211BHJP
   G01T 1/17 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   A61B6/00 330Z
   G01T7/00 C
   G01T1/17 E
   A61B6/00 320M
   A61B6/00 390A
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-223362(P2013-223362)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-84805(P2015-84805A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 高敬
(72)【発明者】
【氏名】花岡 茂
(72)【発明者】
【氏名】足立 龍太郎
【審査官】 安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−271437(JP,A)
【文献】 特開平11−326528(JP,A)
【文献】 特表2009−516845(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/060561(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00−6/14
G01T 1/17
G01T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の特性値を測定するために、前記被検体に対してX線を照射するX線診断装置であって、
間隔を開けて正対配置されたX線照射器およびX線検出器と、
前記X線照射器およびX線検出器を連動して移動させる移動機構と、
前記X線照射器およびX線検出器、移動機構の駆動を制御する制御手段と、
前記被検体にX線を走査照射する領域である走査領域に隣接する遮蔽領域に位置してX線を散乱させる散乱物質と前記X線照射器との間に位置し、前記X線を遮蔽して、前記X線の前記散乱物質への到達を阻害する遮蔽体と、
を備えることを特徴とするX線診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線診断装置であって、
前記遮蔽体は、暗電流測定のために前記X線照射器からX線が照射される暗電流測定用物質としても用いられる、ことを特徴とするX線診断装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のX線診断装置であって、
前記制御手段は、前記X線照射器およびX線検出器を前記遮蔽体に正対する位置において静止させて暗電流測定を行った後、前記X線照射器およびX線検出器を前記遮蔽体よりも被検体から離れる方向に位置する初期位置まで移動させて、その後、前記X線照射器およびX線検出器を、被検体に近づく方向に移動させながら規定の走査速度まで加速させる、ことを特徴とするX線診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載のX線診断装置であって、
前記遮蔽体と初期位置との間に、装置較正のために前記X線照射器からX線が照射される較正用物質が1以上設けられており、
前記制御手段は、前記暗電流測定してから前記初期位置に移動させる間に、前記X線照射器およびX線検出器を各較正用物質に正対する位置に静止させて、装置較正のための測定を行わせる、
ことを特徴とするX線診断装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のX線診断装置であって、
前記X線照射器は、走査方向に直交する面内において、前記X線照射器から離れるほど幅広になるファンビーム状のX線を照射する、ことを特徴とするX線診断装置。
【請求項6】
請求項5に記載のX線診断装置であって、さらに、
装置較正のために前記X線照射器からX線が照射される1以上の較正用物質を有し、
前記複数の較正用物質は、前記ファンビーム状のX線の形状に対応した形状である、
ことを特徴とするX線診断装置。
【請求項7】
請求項6に記載のX線診断装置であって、
前記1以上の較正用物質は、走査方向に直交する面内において、前記X線の形状に合わせて、前記X線照射器から離れるほど幅広となる形状である、ことを特徴とするX線診断装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載のX線診断装置であって、
前記X線照射器は、前記X線照射器から離れるほど走査方向の幅が広くなる形状のX線を照射し、
前記較正用物質の走査方向の幅は、前記X線照射器から離れる側の端部におけるX線の走査方向の幅に応じて決定される、
ことを特徴とするX線診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の特性値、例えば、骨塩量等を測定するために、被検体に対してX線を照射するX線診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において、X線を利用して被検体の特性値を測定する装置としては、例えば、X線骨塩量測定装置等が知られている(例えば特許文献1,2など)。かかる装置では、一次元のペンシルビーム状のX線を二次走査、あるいは、二次元のファンビーム状のX線を一次元走査または二次元走査して、被検体に照射する。
【0003】
X線診断装置では、特性値の測定精度を維持するために、被検体に対するX線照射の直前に、鉛や較正用物質に対してX線照射を行い、暗電流やX線検出器の感度等の測定を行ない、装置の較正を行っている。なお、特許文献3,4には、校正用物質(ファントム)の構成に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−179号公報
【特許文献2】特開平10−192265号公報
【特許文献3】実開昭59−147503号公報
【特許文献4】特表2002−528216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうしたX線診断装置では、測定精度を下げない範囲で、被検体の被曝量を極力低減することが望まれている。特に、被検体の特性値測定の前に行われる、暗電流や感度の測定(事前測定)時における被検体の被曝は、極力低減することが望まれている。しかし、特許文献1−4等の従来のX線診断装置では、こうした事前測定時における被検体の被曝量低減に関して十分には考慮されていなかった。
【0006】
そこで、本発明では、事前測定時における被検体の被曝量をより低減でき得るX線診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のX線診断装置は、被検体の特性値を測定するために、前記被検体に対してX線を照射するX線診断装置であって、間隔を開けて正対配置されたX線照射器およびX線検出器と、前記X線照射器およびX線検出器を連動して移動させる移動機構と、前記X線照射器およびX線検出器、移動機構の駆動を制御する制御手段と、前記被検体にX線を走査照射する領域である走査領域に隣接する遮蔽領域に位置してX線を散乱させる散乱物質と前記X線照射器との間に位置し、前記X線を遮蔽して、前記X線の前記散乱物質への到達を阻害する遮蔽体と、を備えることを特徴とする。
【0008】
好適な態様では、前記遮蔽体は、暗電流測定のために前記X線照射器からX線が照射される暗電流測定用物質としても用いられる。
【0009】
他の好適な態様では、前記制御手段は、前記X線照射器およびX線検出器を前記遮蔽体に正対する位置において静止させて暗電流測定を行った後、前記X線照射器およびX線検出器を前記遮蔽体よりも被検体から離れる方向に位置する初期位置まで移動させて、その後、前記X線照射器およびX線検出器を、被検体に近づく方向に移動させながら規定の走査速度まで加速させる。この場合、前記遮蔽体と初期位置との間に、装置較正のために前記X線照射器からX線が照射される較正用物質が1以上設けられており、前記制御手段は、前記暗電流測定してから前記初期位置に移動させる間に、前記X線照射器およびX線検出器を各較正用物質に正対する位置に静止させて、装置較正のための測定を行わせる、ことが望ましい。
【0010】
他の好適な態様では、前記X線照射器は、走査方向に直交する面内において、前記X線照射器から離れるほど幅広になるファンビーム状のX線を照射する。この場合、さらに、装置較正のために前記X線照射器からX線が照射される1以上の較正用物質を有し、前記複数の較正用物質は、前記ファンビーム状のX線の形状に対応した形状である、ことが望ましい。さらに、前記1以上の較正用物質は、走査方向に直交する面内において、前記X線の形状に合わせて、前記X線照射器から離れるほど幅広となる形状である、ことが望ましい。さらに、前記X線照射器は、前記X線照射器から離れるほど走査方向の幅が広くなる形状のX線を照射し、前記較正用物質の走査方向の幅は、前記X線照射器から離れる側の端部におけるX線の走査方向の幅に応じて決定される、ことも望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、走査領域のすぐ外側に、遮蔽体が設けられているため、被検体の近傍に位置する散乱物質からの散乱線を効果的に低減でき、ひいては、事前測定時における被検体の被曝量をより低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態であるX線骨塩量測定装置の斜視図である。
図2】X線骨塩量測定装置の構成を示すブロック図である。
図3】X線骨塩量測定装置の要部の模式図である。
図4】X線の照射領域を説明する図である。
図5】X線と遮蔽体および較正用物質の形状の関係を示す図である。
図6】X線照射器およびX線検出器の移動の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態であるX線骨塩量測定装置10の斜視図である。また、図2は、X線骨塩量測定装置10の構成を示すブロック図である。
【0014】
このX線骨塩量測定装置10は、キャスターで自由に移動できる移動式であり、被検体102が横たわる撮影台100、例えば、ブッキーテーブル等とともに用いられる。X線骨塩量測定装置10は、側面視で略コ字状となっており、水平方向に延びる下部12および上部14の片側端部が、垂直方向に延びる接続部16により接続されている。骨塩量を測定する際には、被検体102が横たわる撮影台100が、この下部12および上部14の間の空間に位置するように配置される。
【0015】
下部12には、測定用のX線を照射するX線照射器20が内蔵されている。モータや伝達機構等を含む移動機構24は、このX線照射器20を、所定の走査方向に移動させる。本実施形態では、下部12の長尺方向が走査方向となっている。以下では、このX線の走査方向をX軸方向、このX軸方向に直交かつ水平な方向をY軸方向、X軸およびY軸方向に直交する方向(垂直方向)をZ軸方向と呼ぶ。
【0016】
X線照射器20は、上方に向かって、X線を照射する。X線は、X線照射器20から離れるほどY軸方向の幅(走査方向に直交する面内での幅)が大きくなるファンビーム状となっている。このX線の広がり角度(ファン角)は、撮影台高さにおけるX線の幅が、被検体102の測定範囲をカバーできる程度の幅となるように設定されている。なお、後に詳説するように、本実施形態のX線は、Y軸方向の幅だけでなく、X軸方向の幅も、X線照射器20から離れるほど大きくなっている。ただし、このX軸方向における広がり角度は、Y軸方向における広がり角度よりも十分に小さい。
【0017】
下部12には、さらに、暗電流測定のために、X線の透過を阻害する遮蔽体32が設けられている。遮蔽体32は、X線を遮蔽する物質、例えば鉛等からなる。この遮蔽体32は、後述する較正用物質40の収容ボックス42の側壁の直下であって、X線照射器20より高い位置に設けられている。被検体102の骨塩量を測定する際には、被検体102へのX線照射に先だって、この遮蔽体32に対してX線を照射し、そのとき、X線検出器22で得られる検出値に基づいて、暗電流を測定する。
【0018】
下部12の上面には、X線の照射範囲を示す窓34が形成されている。この窓34は、暗電流やX線検出器22の感度測定(装置の較正)のためにX線が照射されるキャリブレーション領域E4(図1において濃墨ハッチング箇所)と、被検体102の骨塩量測定のためにX線が照射される走査領域E1(図1において薄墨ハッチング箇所)と、に大別され、走査領域E1には、その走査方向中心を示す中心ラインが施されている。
【0019】
測定装置の上部14には、X線照射器20から照射されたX線を検出するX線検出器22が内蔵されている。移動機構24は、このX線検出器22を、X線照射器20と連動して走査方向に移動させる。したがって、X線検出器22とX線照射器20は、常に、間隔をあけて正対し続けることになる。
【0020】
接続部16は、垂直方向に延びる柱状物で、上部14と下部12の片側端部に連結している。この接続部16のうち、被検体側の側面には、収容ボックス42が取り付けられている。収容ボックス42の内部には、X線検出器22の感度測定(装置較正)のために使用される較正用物質40が複数収容されている。また、収容ボックス42の被検体側の側面には、ファンビーム状のX線の広がり範囲を示すマーカー44が形成されており、収容ボックス42の内部には、このマーカー44を照射するLEDや、その配線等も収容されている。
【0021】
較正用物質40は、X線検出器22の経年変化等に起因する測定値誤差を補正するために用いられる。一般にX線検出器22の動作特性は、徐々に変化しており、同じ物質を測定した場合でも、得られる減衰率が異なることがある。そこで、測定装置10の測定精度を維持するために、従来から、較正用物質40にX線を照射し、そのとき得られる減衰率と、予め記憶部28に記憶している当該較正用物質40の基準減衰率との比較から、測定値を補正することが行われていた。かかる較正用物質40としては、骨を模した物質、例えば、ポリ塩化ビニル等を用いることができる。また、較正用物質40は、単一である必要はなく、高骨密度を模した物質、中骨密度を模した物質、低骨密度を模した物質のように、異なる材料からなる複数の較正用物質40を設けてもよい。さらに、体厚の違いによる骨塩量の測定誤差を補正するために、複数の軟部組織の厚み(高さ)を模した較正用物質40を設けてもよい。本実施形態では、較正用物質40として、高さの異なる三つの板材を設けている。これらの板材は、アクリル、またはアクリルとポリ塩化ビニルの複合体から構成されている。各板材は、X線照射器20から照射されるX線の形状に対応した幅および厚みを有している。被検体102の骨塩量を測定する際には、被検体102へのX線照射に先だって、これら三つの較正用物質40に対してX線を照射し、そのとき得られるX線減衰量および基準減衰量等に基づいて、被検体102にX線照射したときに得られる測定値を補正する。
【0022】
制御部26は、本装置の動作制御を行うものであり、各種演算処理等も行う。記憶部28には、各種のデータが保存され、その中には、上記した測定値補正のための基準減衰量も含まれる。記憶部28は、例えば、EEPROM等で構成される。表示器30には、制御部26における演算結果等が表示される。
【0023】
以上の構成のX線骨塩量測定装置10において、被検体102の骨塩量を測定する場合には、まず、被検体102を撮影台100に横たわらせる。このとき、被検体102の体は、走査領域内に収まるように位置調整される。そして、その後、移動機構24によって、X線照射器20およびX線検出器22を走査方向にスキャンさせながら所定周期でX線の照射を行う。このとき、X線検出器22で得られた検出値に基づいて、各座標毎のX線の減衰量が算出され、その減衰量に基づいて、従来同様に骨塩量が演算される。
【0024】
ところで、既述した通り、X線検出器22は、周辺環境(温度や湿度等)の変化や、経年変化により、暗電流やX線検出器22の感度等が変化する。そのため、良好な測定精度を維持するためには、骨塩量の測定に先だって、暗電流やX線検出器22の感度の測定を行い、その測定結果に基づいて、被検体102の測定結果を補正する必要がある。こうした暗電流やX線検出器22の感度の測定(以下「事前測定」という)においては、走査領域E1の外に設けられたキャリブレーション領域E4において、X線の照射および検出を行う。しかし、この事前測定でX線を照射する範囲に、X線を散乱させる散乱物質があると、当該散乱物質からの散乱線により、被検体102が被曝することになる。特に、近年では、ファンビーム状のX線のファン角を広げて1パスで照射できる範囲を広げることで、骨塩量の測定時間を短縮することが望まれている。しかし、X線のファン角が広げて照射範囲が広がれば、その分、事前測定に起因して生じる散乱線量も増えることになる。かかる問題を避けるためには、被検体102の近傍には散乱物質を極力配置しないことが考えられる。しかし、被検体102が横たわる撮影台100や、各種配線、装置筐体等も散乱物質であるため、被検体102の近傍から、これら散乱物質を完全に排除することは困難であった。
【0025】
そこで、本実施形態では、事前測定時に利用する遮蔽体32や較正用物質40の配置、形状を特殊なものとし、事前測定時のX線に起因する被検体102の被曝量を低減している。これについて、図3図5を参照して説明する。図3は、X線骨塩量測定装置10の要部の模式図であり、図4は、X線の照射領域を説明する図である。また、図5は、X線と遮蔽体32および較正用物質40の形状の関係を示す図である。
【0026】
既述した通り、本実施形態では、X線骨塩量測定装置10の下部12に、X線を遮蔽する遮蔽体32を設置している。この遮蔽体32は、下部12の筐体の内部、かつ、収容ボックス42の側壁の直下、かつ、X線照射器20よりも高い位置に設けられている。かかる位置は、被検体102の近傍に位置する散乱物質(装置の筐体、撮影台100、収容ボックス42の側壁)とX線照射器20との間である。また、この遮蔽体32の位置は、較正用物質40へX線を照射する補正領域E3と、骨塩量測定のためにX線を被検体102に照射する走査領域E1の間であるともいえる(図4参照)。
【0027】
かかる位置に遮蔽体32を設けることにより、補正領域E3と走査領域E1との間に、X線が照射されない遮蔽領域E2が形成されることになる。その結果、被検体102の近傍である遮蔽領域E2に存在する散乱物質には、X線が到達しないことになり、これら散乱物質からの散乱線の発生を大幅に低減でき、ひいては、被検体102の被曝量を低減できる。
【0028】
また、本実施形態では、この遮蔽体32を、X線照射器20に近い高さ位置に設けている。これは、遮蔽体32の体積を低減するためである。すなわち、本実施形態で照射するX線は、図5に示すように、X線照射器20から離れるほど幅広になるファンビーム状である。そのため、このX線を遮蔽するために必要な遮蔽体32の幅も、X線照射器20から離れるほど幅広となる。換言すれば、遮蔽体32は、X線照射器20から離れるほど、幅広になり、体積・重量が増加する。特に、遮蔽体32として機能する物質は、鉛等のように質量の高い材料からなる。かかる遮蔽体32の体積増加は、装置全体の重量増加につながる。そこで、本実施形態では、遮蔽体32を、X線照射器20に近い高さ位置に設け、遮蔽体32の体積低減を図っている。
【0029】
また、本実施形態では、散乱線低減のために設置した遮蔽体32を、暗電流測定にも利用している。すなわち、暗電流を測定するためには、X線を鉛等の遮蔽物質に照射した状態(照射したX線がX線検出器22に到達しない状態)で、X線検出器22での検出値を取得する必要がある。散乱線低減のための遮蔽体32を、この暗電流測定のために利用する遮蔽物質としても利用することにより、暗電流測定のために別途、遮蔽物質を設ける必要がなく、コストや重量をより低減できる。
【0030】
較正用物質40は、X線検出器22の感度測定のために、X線が照射される物質である。これら較正用物質40も、散乱線を生じさせるが、本実施形態では、これら較正用物質40を、遮蔽体32よりも被検体102から離れた位置に設けているため、これら較正物質から生じた散乱線による被検体102の被曝量を低減できる。
【0031】
なお、較正用物質40は、図5に示すように、ファンビーム状のX線の形状に合わせて台形にしてもよい。すなわち、較正用物質40は、X線照射器20から照射されたX線全てが通る形状でなければならない。しかし、ファンビーム状のX線は、X線照射器20から離れるほどY軸方向幅が広がる。そこで、較正用物質を、このX線の形状に合わせて、X線照射器20に近い側の辺が、遠い側の辺よりも小さい台形としてもよい。かかる形状とすることで、較正用物質40の体積を低減でき、装置の重量やコストを低減できる。
【0032】
また、複数の構成用物質は、互いに高さが異なるが、高い較正用物質40ほど、厚み(X軸方向幅)を厚くするようにしてもよい。すなわち、ファンビーム状のX線は、図3に示すように、Y軸方向だけでなく、X軸方向においても、僅かに末広がりの形状となっている。このX線を、較正用物質40からはみ出ないようにするためには、各較正用物質40の厚みを、その上端(X線照射器20から離れる側の端部)高さ位置におけるX線のX軸方向幅以上にしなければならない。逆に言えば、高さの低い較正用物質40は、その上端高さ位置におけるX線のX軸方向幅以上であれば、薄くても問題ないことになる。このように、X線照射器から離れる側の端部におけるX線の走査方向の幅に応じて、較正用物質40の厚みを設定することで、較正用物質40が過剰に厚くなることが防止され、ひいては、装置の重量やコストを低減できる。
【0033】
次に、事前測定の流れについて、図6を参照して説明する。図6は、X線照射器20およびX線検出器22の移動順序を示す模式図である。事前測定の開始時点において、X線照射器20およびX線検出器22は、可動範囲のうち被検体102から最も離れた位置である初期位置P0に位置している。事前測定が開始されると、移動機構24により、X線照射器20およびX線検出器22は、被検体102に近づく方向に進み、遮蔽体32と正対する位置である暗電流測定位置P1まで移動する。暗電流測定位置P1に到達すれば、X線照射器20からX線を遮蔽体32に対して照射する(S1)。制御部26は、このときX線検出器22で検出された検出値に基づいて暗電流を演算する。
【0034】
続いて、X線照射器20およびX線検出器22は、移動機構24により、被検体102から離れる方向に進み、第一の較正用物質40a(複数の較正用物質40のうち最も被検体102に近い較正用物質)と正対する第一較正位置P2まで移動する。なお、この移動は、X線照射およびX線検出を継続した状態で行われる。X線照射器20およびX線検出器22は、第一較正位置P2で一時停止し、このときX線検出器22での検出値を一時記憶しておく(S2)。第一較正位置P2での検出値取得が出来れば、再び、被検体102から離れる方向に進み、第一の較正用物質40aに隣接する第二の較正用物質40bと正対する第二較正位置P3まで移動する。そして、その場においても、X線照射器20・X線検出器22を一時停止し、当該位置での検出値を取得する(S3)。これらの動作を、全ての較正用物質40a〜40cに対して行えば、制御部26は、各較正物質に対応する位置で得られた検出値、および、記憶部28に予め記憶された基準減衰量等に基づいて、X線検出器22の感度の補正値を演算する。
【0035】
また、全ての較正用物質40についてX線照射、X線検出が終了すれば、移動機構24により、X線照射器20およびX線検出器22は、被検体102に近づく方向に進ませる。このとき、X線照射器20およびX線検出器22が、走査領域E1に到達するまでの間に、両器20,22の移動速度が規定の走査速度に到達するように、両器20,22を徐々に加速させる。そして、走査領域E1においては、X線照射器20およびX線照射器20が、規定の走査速度で、定速移動し、被検体102へのX線照射、X線検出を行う(S5)。
【0036】
以上の説明で明らかな通り、本実施形態では、被検体102の近傍で暗電流測定を行った後、被検体102から離れる方向に移動し、その後、被検体102に近づく方向に加速しながら移動する。このような流れとする理由について説明する。被検体102へのX線照射する際、X線照射器20および検出器22は、規定の走査速度で定速移動させる必要がある。しかし、両器20,22を走査速度までに加速するためには、有る程度の距離が必要である。この距離を確保するために、キャリブレーション領域E4と走査領域E1の間に、加速用の領域を設けた場合、装置のサイズアップを招く。一方、本発明のように、被検体102から離れる方向に移動する過程で各種事前測定を行った後、被検体102に近づく方向に加速しながら移動すれば、キャリブレーション領域E4を、X線照射器20およびX線検出器22を規定速度まで加速させるための加速領域としても利用することができ、装置のサイズアップを防止できる。
【0037】
また、X線照射器20から照射されるX線は、照射開始直後は安定しておらず、較正用物質40の測定などには適さない。そこで、本実施形態では、照射開始直後には、X線を遮蔽した状態で行う測定、換言すれば、X線の状態に依存しない測定である暗電流測定を行い、その後、較正用物質40の測定を行っている。かかる順序とすることで、X線照射開始直後のX線が不安定な時間も有効に利用(暗電流測定に利用)することができ、事前測定の時間を短縮できる。
【0038】
なお、これまで説明した構成は、いずれも一例であり、走査領域のすぐ外側に位置する遮蔽物質と、X線照射器20との間に、X線を遮蔽する遮蔽体を配置するのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、X線照射器20・X線検出器22の上下関係は、逆でもよく、装置上部14にX線照射器20、装置下部12にX線検出器22を設けてもよい。この場合、遮蔽体は、装置上部14のうち、X線照射器に下方に設置される。
【0039】
また、本実施形態では、ファンビーム状のX線を照射しているが、他の形状、例えば、ペンシルビーム状のX線を照射してもよい。この場合には、ペンシルビーム状のX線を、X方向およびY方向の二方向に二次元走査させればよい。また、本実施形態では、走査領域E1のすぐ外側に設けられた遮蔽体32を、暗電流測定にも利用しているが、当該遮蔽体32とは別に、暗電流測定用の遮蔽物質を設けてもよい。さらに、事前測定時におけるX線照射器20およびX線検出器22の移動順序も適宜、変更されてもよい。例えば、遮蔽領域E2の遮蔽体32の他に、初期位置にも遮蔽物質を設けておき、初期位置で暗電流測定を行い、その後、被検体に近づく方向に移動しながら、較正用物質40の測定を行うようにしてもよい。この場合、補正領域E3(較正用物質40の測定領域)と走査領域E1との間に、十分な加速領域を設けるか、較正用物質40の測定後に、照射器20・検出器22を、初期位置P0側へ移動させて加速領域を確保することが望ましい。
【0040】
また、本実施形態では、被検体102が横たわる撮影台100と、X線骨塩量測定装置と、が別体となっている例を挙げたが、両者は一体であってもよい。また、本実施形態の技術は、X線骨塩量測定装置に限らず、X線を被検体に対して走査照射して、被検体の特性値を取得する装置であれば、他の装置に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0041】
10 X線骨塩量測定装置、12 下部、14 上部、16 接続部、20 X線照射器、22 X線検出器、24 移動機構、26 制御部、28 記憶部、30 表示器、32 遮蔽体、34 窓、40 較正用物質、42 収容ボックス、44 マーカー、100 撮影台、102 被検体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6