(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項14に記載の塵埃除去装置と撮像素子ユニットを有する撮像装置であって、前記塵埃除去装置の振動板を前記撮像素子ユニットの受光面側に設けたを特徴とする撮像装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0023】
本発明に係る圧電材料は、下記一般式(1)
(Ba
1−xCa
x)
a(Ti
1−y−zSn
yZr
z)O
3 (1)(1.00≦a≦1.01、0.125≦x≦0.300、0<y≦0.020、0.041≦z≦0.069)
で表わされるペロブスカイト型金属酸化物を主成分とした圧電材料であって、前記金属酸化物にMnが含有されており、前記Mnの含有量が前記金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.12重量部以上0.40重量部以下であることを特徴とする。
【0024】
(ペロブスカイト型金属酸化物)
本発明において、ペロブスカイト型金属酸化物とは、岩波理化学辞典 第5版(岩波書店 1998年2月20日発行)に記載されているような、理想的には立方晶構造であるペロブスカイト構造(ペロフスカイト構造とも言う)を持つ金属酸化物を指す。ペロブスカイト構造を持つ金属酸化物は一般にABO
3の化学式で表現される。ペロブスカイト型金属酸化物において、元素A、Bは各々イオンの形でAサイト、Bサイトと呼ばれる単位格子の特定の位置を占める。例えば、立方晶系の単位格子であれば、A元素は立方体の頂点、B元素は体心に位置する。O元素は酸素の陰イオンとして立方体の面心位置を占める。
【0025】
前記一般式(1)で表わされる金属酸化物は、Aサイトに位置する金属元素がBaとCa、Bサイトに位置する金属元素がTi、ZrとSnであることを意味する。ただし、一部のBaとCaがBサイトに位置してもよい。同様に、一部のTiとZrがAサイトに位置してもよい。しかし、圧電特性が低下するという観点で、SnがAサイトに位置することは好ましくない。
【0026】
前記一般式(1)における、Bサイトの元素とO元素のモル比は1対3であるが、元素量の比が若干ずれた場合(例えば、1.00対2.94〜1.00対3.06)でも、前記金属酸化物がペロブスカイト構造を主相としていれば、本発明の範囲に含まれる。
【0027】
前記金属酸化物がペロブスカイト構造であることは、例えば、X線回折や電子線回折による構造解析から判断することができる。
【0028】
本発明に係る圧電材料の形態は限定されず、セラミックス、粉末、単結晶、膜、スラリーなどのいずれの形態でも構わないが、セラミックスであることが好ましい。本明細書中において「セラミックス」とは、基本成分が金属酸化物であり、熱処理によって焼き固められた結晶粒子の凝集体(バルク体とも言う)、いわゆる多結晶を表す。焼結後に加工されたものも含まれる。
【0029】
(圧電材料の主成分)
本発明の圧電材料は、前記一般式(1)において、AサイトにおけるBaとCaのモル量とBサイトにおけるTi、ZrおよびSnのモル量の比を示すaは、1.00≦a≦1.01の範囲である。aが1.00より小さいと異常粒成長が生じ易くなり、材料の機械的強度が低下してしまう。一方で、aが1.01より大きくなると粒成長に必要な温度が高くなり過ぎ、一般的な焼成炉で焼結ができなくなる。ここで、「焼結ができない」とは密度が充分な値にならないことや、前記圧電材料内にポアや欠陥が多数存在している状態を指す。より好ましくは1.004≦a≦1.009である。
【0030】
前記一般式(1)において、AサイトにおけるCaのモル比を示すxは、0.125≦x≦0.300の範囲である。xが0.125より小さいと構造相転移が実用温度で発生して、耐久性に悪影響を及ぼす。一方で、xが0.300より大きいと圧電特性が充分でなくなる。より好ましくは0.155≦x≦0.240である。
【0031】
前記一般式(1)において、BサイトにおけるZrのモル比を示すzは、0.041≦z≦0.069の範囲である。zが0.041より小さいと、圧電特性が充分でなくなる。一方で、zが0.069より大きいとキュリー温度(T
C)が100℃未満と低くなり、高温において圧電特性が消失する。
【0032】
前記一般式(1)において、BサイトにおけるSnのモル比を示すyは、0<y≦0.020の範囲である。yが0.020より大きいとキュリー温度(T
C)が100℃未満と低くなり、高温において圧電特性が消失する。より好ましくは0.005≦y≦0.020である。
【0033】
BサイトにおけるZrのモル比zとSnのモル比yは、関係式z≦−2y+0.100を満たすことがより好ましい。Z>−2y+0.100の領域ではキュリー温度(T
C)が105℃未満と低くなり、高温において圧電特性が低下する恐れがある。
【0034】
本明細書においてキュリー温度(T
C)とは、材料の強誘電性が消失する温度をいう。通常T
C以上で圧電材料の圧電特性も消失する。T
Cの特定方法は、測定温度を変えながら強誘電性が消失する温度を直接測定する方法に加えて、微小交番電界を用いて測定温度を変えながら比誘電率を測定し比誘電率が極大を示す温度から求める方法がある。
【0035】
本発明に係る圧電材料の組成を測定する手段は特に限定されない。手段としては、X線蛍光分析、ICP発光分光分析、原子吸光分析などが挙げられる。いずれの手段においても、前記圧電材料に含まれる各元素の重量比および組成比を算出できる。
【0036】
本発明の圧電材料は、Mnの含有量が前記金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.12重量部以上0.40重量部以下である。本発明の圧電材料は、前記範囲のMnを含有すると、絶縁性や機械的品質係数が向上する。ここで、機械的品質係数とは圧電材料を振動子として評価した際に振動による弾性損失を表す係数であり、機械的品質係数の大きさはインピーダンス測定における共振曲線の鋭さとして観察される。つまり振動子の共振の鋭さを表す定数である。絶縁性や機械的品質係数が向上すると、前記圧電材料を圧電素子として電圧を印加し駆動させた際に、圧電素子の長期信頼性が確保できる。
【0037】
ここで、Mnの含有量を示す「金属換算」とは、前記圧電材料から蛍光X線分析(XRF)、ICP発光分光分析、原子吸光分析などにより測定されたBa、Ca、Ti、Zr、MgおよびMnの各金属の含有量のうち、前記一般式(1)で表わされる金属酸化物に含まれる元素を酸化物換算し、その総重量を100としたときに対するMn金属の重量との比によって求められた値を表す。Mnの含有量が0.12重量部未満であると、機械的品質係数が400未満と小さくなる。機械的品質係数が小さいと、前記圧電材料を用いた圧電素子を共振デバイスとして駆動した際に、消費電力が大幅に増大してしまう。共振素子に用いる圧電材料として好ましい機械的品質係数は、800以上であり、より好ましくは1000以上である。この範囲であれば、実用的な駆動において、消費電力の大幅な増大は発生しない。一方、Mnの含有量が0.40重量部より大きくなると、圧電特性に寄与しない六方晶構造の結晶の発現等の要因で圧電特性が大幅に低下する。より好ましいMnの含有量は一般式(1)で表される金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.18重量部以上0.40重量部以下である。Mnは、Bサイトのみに存在することが好ましい。
【0038】
また、Mnの価数は4+であることが好ましい。Mnの価数は一般に4+、2+、3+を取ることができる。結晶中に伝導電子が存在する場合(例えば結晶中に酸素欠陥が存在する場合や、Aサイトをドナー元素が占有した場合等)、Mnの価数が4+から3+または2+などへと低くなることで伝導電子をトラップし、絶縁抵抗を向上させることができるからである。イオン半径の観点からも、Mnの価数が4+であるとBサイトの主成分であるTiを容易に置換できるので好ましい。
【0039】
一方でMnの価数が2+など、4+よりも低い場合、Mnはアクセプタとなる。アクセプタとしてMnがペロブスカイト構造結晶中に存在すると、結晶中にホールが生成されるか、結晶中に酸素空孔が形成される。
【0040】
圧電材料に含まれるMnの大部分の価数が2+や3+であると、酸素空孔の導入だけではホールが補償しきれなくなり、絶縁抵抗が低下する。よってMnの大部分は4+であることが好ましい。ただし、ごくわずかのMnは4+よりも低い価数となり、アクセプタとしてペロブスカイト構造のBサイトを占有し、酸素空孔を形成してもかまわない。価数が2+あるいは3+であるMnと酸素空孔が欠陥双極子を形成し、圧電材料の機械的品質係数を向上させることができるからである。
【0041】
(Mgの含有量)
本発明に係る圧電材料は、前記圧電材料100重量部に対して、副成分としてMgを金属換算で0.10重量部以下含有することが好ましい。前記圧電材料が前記範囲のMgを含有することで、機械的品質係数が向上する。
【0042】
ここで、Mgの含有量を示す「金属換算」とは、前記圧電材料から蛍光X線分析(XRF)、ICP発光分光分析、原子吸光分析などにより測定されたBa、Ca、Ti、Zr、MnおよびMgの各金属の含有量のうち、前記一般式(1)で表わされる金属酸化物に含まれる元素を酸化物換算し、その総重量を100としたときに対するMg金属の重量との比によって求められた値を表す。
【0043】
Mgの含有量が0.10重量部より大きくなると、機械的品質係数が600未満と小さくなる。機械的品質係数が小さいと、前記圧電材料を圧電素子にして共振デバイスとして駆動した際に、消費電力が増大してしまう。好ましい機械的品質係数は、800以上であり、より好ましくは1000以上である。より好ましい機械的品質係数を得るという観点において、Mgの含有量は0.05重量部以下であることが好ましい。
【0044】
MgはMg成分として圧電材料に含まれていれば良く、その含有の形態は金属Mgに限らない。例えば、ペロブスカイト構造のAサイトまたはBサイトに固溶していても良いし、粒界に含まれていてもかまわない。または、金属、イオン、酸化物、金属塩、錯体などの形態でMg成分が圧電材料に含まれていても良い。
【0045】
本発明に係る圧電材料は、前記一般式(1)およびMn、Mg以外の成分(以下、副成分)を特性が変動しない範囲で含んでいてもよい。前記副成分は、前記一般式(1)で表現される金属酸化物100重量部に対してその合計が1.2重量部以下であることが好ましい。前記副成分が1.2重量部を超えると、前記圧電材料の圧電特性や絶縁特性が低下する恐れがある。また、前記副成分のうち前記Ba、Ca、Ti、Sn、Zr、Mn、Mg以外の金属元素の含有量は、前記圧電材料100重量部に対して酸化物換算で1.0重量部以下、または金属換算で0.9重量部以下であることが好ましい。本明細書中において「金属元素」とはSi、Ge、Sbのような半金属元素も含む。前記副成分のうち前記Ba、Ca、Ti、Sn、Zr、Mn、Mg以外の金属元素の含有量が、前記圧電材料100重量部に対して酸化物換算で1.0重量部、または金属換算で0.9重量部を超えると、前記圧電材料の圧電特性や絶縁特性が著しく低下する恐れがある。前記副成分のうち、Li、Na、Al元素の合計は、前記圧電材料100重量部に対して金属換算で0.5重量部以下であることが好ましい。前記副成分のうち、Li、Na、Al元素の合計が、前記圧電材料に対して金属換算で0.5重量部を超えると、焼結が不十分となる恐れがある。前記副成分のうち、Y、V元素の合計は、前記圧電材料100重量部に対して金属換算で0.2重量部以下であることが好ましい。前記副成分のうち、Y、V元素の合計が前記圧電材料100重量部に対して金属換算で0.2重量部を超えると、分極処理が困難になる恐れがある。
【0046】
前記副成分の例として、SiやCuといった焼結助剤が挙げられる。また、BaおよびCaの市販原料に不可避成分として含まれる程度のSrは、本発明の圧電材料に含んでいてもよい。同じく、Tiの市販原料に不可避成分として含まれる程度のNbと、Zrの市販原料に不可避成分として含まれる程度のHfは、本発明の圧電材料に含んでいてもよい。
【0047】
前記副成分の重量部を測定する手段は特に限定されない。手段としては、X線蛍光分析、ICP発光分光分析、原子吸光分析などが挙げられる。
【0048】
(相転移点)
本発明の圧電材料は、−25℃から100℃において構造相転移点を有さないことが好ましい。
【0049】
一般的に知られているチタン酸バリウムは、結晶構造が斜方晶から正方晶へ転移する温度(以下、T
o→tという)が17℃付近に、正方晶から斜方晶へと転移する温度(T
t→o)が5℃付近に存在する。これらの結晶構造の転移温度を構造相転移点と称する。圧電材料が周囲の温度変化によって、これらの構造相転移点を往き来すると、単位格子の体積と分極軸方向が繰り返し変化するために、次第に脱分極が起こり、圧電特性が劣化する恐れがある。この理由によりチタン酸バリウムは広い温度域での使用が困難であった。一方、本発明の圧電材料は、T
o→tが−25℃より低いため、上述の課題を有さない。また、正方晶から立方晶に転移するキュリー温度(T
c)が100℃より高い温度に存在することにより、夏季の車中で想定される80℃という過酷な状況下においても、圧電性を維持することができる。さらに、−25℃から100℃において正方晶構造を維持するため、機械的品質係数を高く維持することができる。また、相対的に機械的品質係数の小さい斜方晶領域を使用することを避けることができるため、広い実用温度域で良好かつ安定な圧電定数と機械的品質係数を有することが可能となる。
【0050】
(粒径)
本発明に係る圧電材料は、前記圧電材料を構成する結晶粒の平均円相当径が1μm以上10μm以下であることが好ましい。平均円相当径をこの範囲にすることで、本発明の圧電材料は、良好な圧電特性と機械的強度を有することが可能となる。平均円相当径が1μm未満であると、圧電特性が充分でなくなる恐れがある。一方で、10μmより大きくなると機械的強度が低下する恐れがある。本発明における「円相当径」とは、顕微鏡観察法において一般に言われる「投影面積円相当径」を表し、結晶粒の投影面積と同面積を有する真円の直径を表す。本発明において、この円相当径の測定方法は特に制限されない。例えば圧電材料の表面を偏光顕微鏡や走査型電子顕微鏡で撮影して得られる写真画像を画像処理して求めることができる。対象となる粒子径により最適倍率が異なるため、光学顕微鏡と電子顕微鏡を使い分けても構わない。材料の表面ではなく研磨面や断面の画像から円相当径を求めても良い。
【0051】
(密度)
本発明の圧電材料は、前記圧電材料の相対密度が93%以上100%以下であることが好ましい。
【0052】
相対密度が93%より小さくなると、圧電特性や機械的品質係数が充分でなかったり、機械的強度が低下したりする恐れがある。
【0053】
(製法)
本発明に係る圧電材料の製造方法は特に限定されない。
【0054】
(原料)
圧電材料を製造する場合は、構成元素を含んだ酸化物、炭酸塩、硝酸塩、蓚酸塩などの固体粉末を常圧下で焼結する一般的な手法を採用することができる。原料としては、Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Sn化合物、Zr化合物、Mg化合物およびMn化合物といった金属化合物から構成される。
【0055】
使用可能なBa化合物としては、酸化バリウム、炭酸バリウム、蓚酸バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム、チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウムなどが挙げられる。これらBa化合物は商業的に入手可能である高純度タイプ(例えば、純度99.99%以上)の化合物を用いる事が好ましい。純度の低いBa化合物には、Mgが多く含まれており、圧電材料の機械的品質係数が低下するおそれがある。
【0056】
使用可能なCa化合物としては、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、蓚酸カルシウム、酢酸カルシウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムなどが挙げられる。これらCa化合物は商業的に入手可能である高純度タイプ(例えば、純度99.99%以上)の化合物を用いる事が好ましい。純度の低いCa化合物には、Mgが多く含まれており、圧電材料の機械的品質係数が低下するおそれがある。
【0057】
使用可能なTi化合物としては、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸カルシウムなどが挙げられる。
【0058】
使用可能なSn化合物としては、酸化スズ、スズ酸バリウム、チタン酸スズ酸バリウム、スズ酸カルシウムなどが挙げられる。
【0059】
使用可能なZr化合物としては、酸化ジルコニウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウムなどが挙げられる。
【0060】
使用可能なMn化合物としては、炭酸マンガン、酸化マンガン、二酸化マンガン、酢酸マンガン、四酸化三マンガンなどが挙げられる。
【0061】
使用可能なMg化合物としては、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、過酸化マグネシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられる。
【0062】
また、本発明に係る前記圧電材料のAサイトにおけるBaとCaの存在量とBサイトにおけるTiとSn、Zrのモル量の比を示すaを調整するための原料は特に限定されない。Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Sn化合物、Zr化合物のいずれでも効果は同じである。
【0063】
(造粒粉)
圧電材料の原料粉を造粒する方法は特に限定されないが、造粒粉の粒径をより均一に出来るという観点において、最も好ましい造粒方法はスプレードライ法である。
【0064】
造粒する際に使用可能なバインダーの例としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、アクリル系樹脂が挙げられる。添加するバインダーの量は、前記圧電材料の原料粉100重量部に対して1重量部から10重量部が好ましく、成形体の密度が上がるという観点において2重量部から5重量部がより好ましい。
【0065】
(焼結)
本発明の一実施形態に係る圧電材料の焼結方法は特に限定されない。
【0066】
焼結方法の例としては、電気炉による焼結、ガス炉による焼結、通電加熱法、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法、HIP(熱間等方圧プレス)などが挙げられる。電気炉およびガス炉による焼結は、連続炉であってもバッチ炉であっても構わない。
【0067】
前記焼結方法における圧電材料の焼結温度は特に限定されないが、各化合物が反応し、充分に結晶成長する温度であることが好ましい。好ましい焼結温度としては、圧電セラミックスの粒径を1μmから10μmの範囲にするという観点で、1200℃以上1550℃以下であり、より好ましくは1300℃以上1480℃以下である。上記温度範囲において焼結した圧電セラミックスは良好な圧電性能を示す。
【0068】
焼結処理により得られる圧電材料の特性を再現よく安定させるためには、焼結温度を上記範囲内で一定にして2時間以上24時間以下の焼結処理を行うとよい。また、二段階焼結法などの焼結方法を用いてもよいが、生産性を考慮すると急激な温度変化のない方法が好ましい。
【0069】
前記圧電セラミックスを研磨加工した後に、1000℃以上の温度で熱処理することが好ましい。機械的に研磨加工されると、圧電セラミックスの内部には残留応力が発生するが、1000℃以上で熱処理することにより、残留応力が緩和し、圧電セラミックスの圧電特性がさらに良好になる。また、粒界部分に析出した炭酸バリウムなどの原料粉を排除する効果もある。熱処理の時間は特に限定されないが、1時間以上が好ましい。
【0070】
(圧電素子)
次に、本発明の圧電素子について説明する。
【0071】
図1は本発明の圧電素子の構成の一実施形態を示す概略図である。本発明に係る圧電素子は、第一の電極1、圧電材料部2および第二の電極3を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電材料部2が本発明の圧電材料であることを特徴とする。
【0072】
本発明に係る圧電材料は、少なくとも第一の電極と第二の電極を有する圧電素子にすることにより、その圧電特性を評価できる。前記第一の電極および第二の電極は、厚み5nmから10μm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの化合物を挙げることができる。
【0073】
前記第一の電極および第二の電極は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また、第一の電極と第二の電極が、それぞれ異なる材料であっても良い。
【0074】
前記第一の電極と第二の電極の製造方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成しても良いし、スパッタ、蒸着法などにより形成してもよい。また第一の電極と第二の電極とも所望の形状にパターニングして用いても良い。
【0075】
(分極)
前記圧電素子は一定方向に分極軸が揃っているものであると、より好ましい。分極軸が一定方向に揃っていることで前記圧電素子の圧電定数は大きくなる。
【0076】
前記圧電素子の分極方法は特に限定されない。分極処理は大気中で行ってもよいし、シリコーンオイル中で行ってもよい。分極をする際の温度は60℃から150℃の温度が好ましいが、素子を構成する圧電材料の組成によって最適な条件は多少異なる。分極処理をするために印加する電界は800V/mmから2.0kV/mmが好ましい。
【0077】
(共振−反共振法)
前記圧電素子の圧電定数および機械的品質係数は、市販のインピーダンスアナライザーを用いて得られる共振周波数及び反共振周波数の測定結果から、電子情報技術産業協会規格(JEITA EM−4501)に基づいて、計算により求めることができる。以下、この方法を共振−反共振法と呼ぶ。
【0078】
(積層圧電素子)
次に、本発明の積層圧電素子について説明する。
【0079】
本発明に係る積層圧電素子は、圧電材料層と、内部電極を含む電極層とが交互に積層された積層圧電素子であって、前記圧電材料層が本発明の圧電材料よりなることを特徴とする。
【0080】
図2は本発明の積層圧電素子の構成の一実施形態を示す断面概略図である。本発明に係る積層圧電素子は、圧電材料層54と、内部電極55を含む電極とで構成されており、圧電材料層と層状の電極とが交互に積層された積層圧電素子であって、前記圧電材料層54が上記の圧電材料よりなることを特徴とする。電極は、内部電極55以外に第一の電極51や第二の電極53といった外部電極を含んでいても良い。
【0081】
図2(a)は2層の圧電材料層54と1層の内部電極55が交互に積層され、その積層構造体を第一の電極51と第二の電極53で狭持した本発明の積層圧電素子の構成を示しているが、
図2(b)のように圧電材料層と内部電極の数を増やしてもよく、その層数に限定はない。
図2(b)の積層圧電素子は9層の圧電材料層504と8層の内部電極505(505aもしくは505b)が交互に積層され、その積層構造体を第一の電極501と第二の電極503で狭持した構成であり、交互に形成された内部電極を短絡するための外部電極506aおよび外部電極506bを有する。
【0082】
内部電極55、505および外部電極506a、506bの大きさや形状は必ずしも圧電材料層54、504と同一である必要はなく、また複数に分割されていてもよい。
【0083】
内部電極55、505、外部電極506a、506b、第一の電極51、501および第二の電極53、503は、厚み5nmから10μm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの化合物を挙げることができる。内部電極55、505および外部電極506a、506bは、これらのうちの1種からなるものであっても2種以上の混合物あるいは合金であってもよく、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また複数の電極が、それぞれ異なる材料であっても良い。電極材料が安価という観点において、内部電極55、505はNiを主成分とすることが好ましい。
【0084】
図2(b)に示すように、内部電極505を含む複数の電極は、駆動電圧の位相をそろえる目的で互いに短絡させても良い。例えば内部電極505a、第一の電極501を外部電極506aで短絡させても良い。内部電極505bと第二の電極503を外部電極506bで短絡させても良い。内部電極505aと内部電極505bは交互に配置されていても良い。また電極どうしの短絡の形態は限定されない。積層圧電素子の側面に短絡のための電極や配線を設けてもよいし、圧電材料層504を貫通するスルーホールを設け、その内側に導電材料を設けて電極どうしを短絡させてもよい。
【0085】
本発明に係る積層圧電素子の製造方法は、特に限定されないが、以下にその作製方法を例示する。一例として、少なくともBa、Ca、Ti、Zr、SnおよびMnを含んだ金属化合物粉体を分散させてスラリーを得る工程(A)と、前記スラリーを基材上に設置し成形体を得る工程(B)と、前記成形体に電極を形成する工程(C)と前記電極が形成された成形体を焼結して、積層圧電素子を得る工程(D)とを有する方法を説明する。
【0086】
本明細書における粉体とは、固形粒子の集合体を意図している。Ba、Ca、Ti、Sn、Zr、Mnを同時に含んだ粒子の集合体であっても良いし、任意の元素を含んだ複数種類の粒子の集合体であっても良い。
【0087】
本明細書における成形体とは前記粉末を成形した固形物である。成形方法としては、一軸加圧加工、冷間静水圧加工、温間静水圧加工、鋳込成形と押し出し成形を挙げることができる。
【0088】
成形体を作製する際には、造粒粉を用いることが好ましい。造粒粉を用いた成形体を焼結すると、焼結体の結晶粒の大きさの分布が均一になり易いという利点がある。
【0089】
前記工程(A)における金属化合物粉体としては、Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Sn化合物、Zr化合物およびMn化合物、Mg化合物をあげることができる。使用可能なBa化合物としては、酸化バリウム、炭酸バリウム、蓚酸バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム、チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウムなどが挙げられる。これらBa化合物は商業的に入手可能である高純度タイプ(例えば、純度99.99%以上)の化合物を用いる事が好ましい。純度の低いBa化合物には、Mgが多く含まれており、圧電材料の機械的品質係数が低下するおそれがある。
【0090】
使用可能なCa化合物としては、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、蓚酸カルシウム、酢酸カルシウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムなどが挙げられる。これらCa化合物は商業的に入手可能である高純度タイプ(例えば、純度99.99%以上)の化合物を用いる事が好ましい。純度の低いCa化合物には、Mgが多く含まれており、圧電材料の機械的品質係数が低下するおそれがある。
【0091】
使用可能なTi化合物としては、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸カルシウムなどが挙げられる。
【0092】
使用可能なSn化合物としては、酸化スズ、スズ酸バリウム、チタン酸スズ酸バリウム、スズ酸カルシウムなどが挙げられる。
【0093】
使用可能なZr化合物としては、酸化ジルコニウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウムなどが挙げられる。
【0094】
使用可能なMn化合物としては、炭酸マンガン、酸化マンガン、二酸化マンガン、酢酸マンガン、四酸化三マンガンなどが挙げられる。
【0095】
使用可能なMg化合物としては、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、過酸化マグネシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられる。
【0096】
前記工程(A)におけるスラリーの作成方法を例示する。前記金属化合物粉の1.6〜1.7倍の重量の溶媒を加え、混合する。溶媒には、例えば、トルエン、エタノール、または、トルエンとエタノールの混合溶媒、酢酸n−ブチル、水を用いることができる。ボールミルで24時間混合した後にバインダーと可塑剤を加える。バインダーとしてはPVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、アクリル系樹脂が挙げられる。バインダーにPVBを用いる場合、溶媒とPVBの重量比は例えば88:12となるように秤量する。可塑剤としてはジオクチルセバケート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレートが挙げられる。可塑剤にジブチルフタレートを用いる場合、バインダーと等重量を秤量する。そして、再度ボールミルを一晩行う。スラリーの粘度が、300〜500mPa・sとなるように溶媒やバインダーの量を調整する。
【0097】
前記工程(B)における成形体とは、前記金属化合物粉、バインダーと可塑剤のシート形状の混合物である。前記工程(B)における成形体を得る方法としては、例えば、シート成形がある。シート成形には、例えば、ドクターブレード法を用いることができる。ドクターブレード法とは、ドクターブレードを用いて、前記スラリーを前記基材上に塗布し、乾燥させることで、シート形状の成形体を形成する方法である。基材としては、例えば、ペットフィルムを用いることができる。ペットフィルムのスラリーを設置する面には例えばフッ素コートすると成形体を剥離するのが容易になるので望ましい。乾燥は自然乾燥でも熱風乾燥でもよい。前記成形体の厚みは特に制限されることはなく、積層圧電素子の厚みに合わせて調整することができる。成形体の厚みは例えばスラリーの粘度を高くすると厚くすることができる。
【0098】
前記工程(C)における電極すなわち内部電極505および外部電極506a、506bの製造方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成しても良いし、スパッタ、蒸着法、印刷法などにより形成してもよい。駆動電圧を小さくする目的で、圧電材料層504の層厚およびピッチ間隔を小さくすることがある。その際には圧電材料層504の前駆体と内部電極505a、505bを含む積層体を形成した後に、前記積層体を同時に焼成するプロセスが選択される。その場合には、圧電材料層504の焼結に必要な温度により形状変化や導電性劣化を起こさないような内部電極の素材が求められる。Ag、Pd、Au、Cu、NiといったPtと比べて低融点かつ安価である金属又はその合金を内部電極505a、505bおよび外部電極506a、506bに用いることができる。ただし、外部電極506a、506bは、前記積層体の焼成後に設けても良く、その場合はAg、Pd、Cu、Niに加え、Alや炭素系電極材料を使用する事ができる。
【0099】
前記電極の形成方法としてはスクリーン印刷法が望ましい。スクリーン印刷法とは基材上に設置された成形体上に、スクリーン版を設置した上から、ヘラを用いて、金属ペーストを塗布する方法である。前記スクリーン版には少なくとも一部にスクリーンメッシュが形成されている。よって、前記スクリーンメッシュの形成されている部分の金属ペーストが成形体上に塗布される。前記スクリーン版中のスクリーンメッシュは、パターンが形成されていていることが望ましい。金属ペーストを用いて前記パターンを前記成形体に転写することで、前記成形体上に電極をパターニングすることができる。
【0100】
前記工程(C)における電極を形成後、前記基材から剥離した後に、前記成形体を一枚または複数枚積み重ね圧着する。圧着方法としては、一軸加圧加工、冷間静水圧加工と温間静水圧加工が挙げられる。温間静水圧加工は等方的に均一に圧力をかけることができるので、望ましい。圧着中にバインダーのガラス転移点温度近傍まで加熱するとより良好に圧着できるので望ましい。前記成形体は所望の厚さになるまで複数枚積みかさねて圧着することができる。例えば、前記成形体を10〜100層積み重ねた後に、50〜80℃で10〜60MPaの圧力を積層方向に10秒から10分かけて熱圧着することで、前記成形体を積層することができる。また、電極にアライメントマークを付けることで、複数枚の成形体をアライメントして精度よく積み重ねることができる。もちろん、位置決め用のスルーホールを成形体に設けることでも精度よく積み重ねることができる。
【0101】
前記工程(D)における成形体の焼結温度は特に限定されないが、各化合物が反応し、充分に結晶成長する温度であることが好ましい。好ましい焼結温度としては、圧電セラミックスの粒径を1μmから10μmの範囲にするという観点で、1200℃以上1550℃以下であり、より好ましくは1300℃以上1480℃以下である。上記温度範囲において焼結した積層圧電素子は良好な圧電性能を示す。
【0102】
前記工程(C)において電極にNiを主成分とした材料を用いたときは、工程(D)を雰囲気焼成が可能な炉で行うことが好ましい。大気雰囲気中においてバインダーを200℃から600℃の温度で燃焼除去した後に、還元性雰囲気に変えて1200℃から1550℃の温度で焼結する。ここで還元性雰囲気とは、主に水素(H
2)と窒素(N
2)の混合気体から成る雰囲気のことをいう。水素と窒素の体積割合は、H
2:N
2=1:99からH
2:N
2=10:90の範囲が好ましい。また、前記混合気体には酸素が含まれていても良い。その酸素濃度は、10
−12Pa以上10
−4Pa以下である。より好ましくは10
−8Pa以上10
−5Pa以下である。酸素濃度はジルコニアの酸素濃度計で測定可能である。Ni電極を用いることにより、本発明の積層圧電素子は安価に製造することが可能となる。還元性雰囲気で焼成した後に、600℃まで降温し、雰囲気を大気雰囲気(酸化性雰囲気)におきかえて、酸化処理を行うことが好ましい。焼成炉から取り出した後に、内部電極の端部が露出する素体の側面に導電性ペーストを塗布して乾燥し、外部電極を形成する。
【0103】
(液体吐出ヘッド)
次に、本発明の液体吐出ヘッドについて説明する。
【0104】
本発明に係る液体吐出ヘッドは、前記圧電素子または前記積層圧電素子を配した振動部を備えた液室と、前記液室と連通する吐出口を少なくとも有することを特徴とする。
【0105】
図3は、本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施形態を示す概略図である。
図3(a)(b)に示すように、本発明の液体吐出ヘッドは、本発明の圧電素子101を有する液体吐出ヘッドである。圧電素子101は、第一の電極1011、圧電材料1012、第二の電極1013を少なくとも有する圧電素子である。圧電材料1012は、
図3(b)の如く、必要に応じてパターニングされている。
【0106】
図3(b)は液体吐出ヘッドの模式図である。液体吐出ヘッドは、吐出口105、個別液室102、個別液室102と吐出口105をつなぐ連通孔106、液室隔壁104、共通液室107、振動板103、圧電素子101を有する。図において圧電素子101は矩形状だが、その形状は、楕円形、円形、平行四辺形等の矩形以外でも良い。一般に、圧電材料1012は個別液室102の形状に沿った形状となる。
【0107】
本発明の液体吐出ヘッドに含まれる圧電素子101の近傍を
図3(a)で詳細に説明する。
図3(a)は、
図3(b)に示された圧電素子の幅方向での断面図である。圧電素子101の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形でもよい。
【0108】
図中では、第一の電極1011が下部電極、第二の電極1013が上部電極として使用されている。しかし、第一の電極1011と、第二の電極1013の配置はこの限りではない。例えば、第一の電極1011を下部電極として使用しても良いし、上部電極として使用しても良い。同じく、第二の電極1013を上部電極として使用しても良いし、下部電極として使用しても良い。また、振動板103と下部電極の間にバッファ層108が存在しても良い。なお、これらの名称の違いはデバイスの製造方法によるものであり、いずれの場合でも本発明の効果は得られる。
【0109】
前記液体吐出ヘッドにおいては、振動板103が圧電材料1012の伸縮によって上下に変動し、個別液室102の液体に圧力を加える。その結果、吐出口105より液体が吐出される。本発明の液体吐出ヘッドは、プリンタ用途や電子デバイスの製造に用いる事が出来る。
【0110】
振動板103の厚みは、1.0μm以上15μm以下であり、好ましくは1.5μm以上8μm以下である。振動板の材料は限定されないが、好ましくはSiである。振動板のSiにホウ素やリンがドープされていても良い。また、振動板上のバッファ層、電極層が振動板の一部となっても良い。バッファ層108の厚みは、5nm以上300nm以下であり、好ましくは10nm以上200nm以下である。吐出口105の大きさは、円相当径で5μm以上40μm以下である。吐出口105の形状は、円形であっても良いし、星型や角型状、三角形状でも良い。
【0111】
(液体吐出装置)
次に、本発明の液体吐出装置について説明する。本発明の液体吐出装置は、被転写体の載置部と前記液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とする。
【0112】
本発明の液体吐出装置の一例として、
図4および
図5に示すインクジェット記録装置を挙げることができる。
図4に示す液体吐出装置(インクジェット記録装置)881の外装882〜885及び887を外した状態を
図5に示す。インクジェット記録装置881は、被転写体としての記録紙を装置本体896内へ自動給送する自動給送部897を有する。更に、自動給送部897から送られる記録紙を所定の記録位置へ導き、記録位置から排出口898へ導く、被転写体の載置部である搬送部899と、記録位置に搬送された記録紙に記録を行う記録部891と、記録部891に対する回復処理を行う回復部890とを有する。記録部891には、本発明の液体吐出ヘッドを収納し、レール上を往復移送されるキャリッジ892が備えられる。
【0113】
このようなインクジェット記録装置において、コンピューターから送出される電気信号によりキャリッジ892がレール上を移送され、圧電材料を挟持する電極に駆動電圧が印加されると圧電材料が変位する。この圧電材料の変位により、
図3(b)に示す振動板103を介して個別液室102を加圧し、インクを吐出口105から吐出させて、印字を行う。
【0114】
本発明の液体吐出装置においては、均一に高速度で液体を吐出させることができ、装置の小型化を図ることができる。
【0115】
上記例は、プリンタとして例示したが、本発明の液体吐出装置は、ファクシミリや複合機、複写機などのインクジェット記録装置の他、産業用液体吐出装置として使用することができる。
【0116】
加えてユーザーは用途に応じて所望の被転写体を選択することができる。なお載置部としてのステージに載置された被転写体に対して液体吐出ヘッドが相対的に移動する構成をとっても良い。
【0117】
(超音波モータ)
次に、本発明の超音波モータについて説明する。本発明に係る超音波モータは、前記圧電素子または前記積層圧電素子を配した振動体、前記振動体と接触する移動体とを少なくとも有することを特徴とする。
【0118】
図6は、本発明の超音波モータの構成の一実施形態を示す概略図である。本発明の圧電素子が単板からなる超音波モータを、
図6(a)に示す。超音波モータは、振動子201、振動子201の摺動面に不図示の加圧バネによる加圧力で接触しているロータ202、ロータ202と一体的に設けられた出力軸203を有する。前記振動子201は、金属の弾性体リング2011、本発明の圧電素子2012、圧電素子2012を弾性体リング2011に接着する有機系接着剤2013(エポキシ系、シアノアクリレート系など)で構成される。本発明の圧電素子2012は、不図示の第一の電極と第二の電極によって挟まれた圧電材料で構成される。
【0119】
本発明の圧電素子に位相がπ/2の奇数倍異なる二相の交番電圧を印加すると、振動子201に屈曲進行波が発生し、振動子201の摺動面上の各点は楕円運動をする。この振動子201の摺動面にロータ202が圧接されていると、ロータ202は振動子201から摩擦力を受け、屈曲進行波とは逆の方向へ回転する。不図示の被駆動体は、出力軸203と接合されており、ロータ202の回転力で駆動される。
【0120】
圧電材料に電圧を印加すると、圧電横効果によって圧電材料は伸縮する。金属などの弾性体が圧電素子に接合している場合、弾性体は圧電材料の伸縮によって曲げられる。ここで説明された種類の超音波モータは、この原理を利用したものである。
【0121】
次に、積層構造を有した圧電素子を含む超音波モータを
図6(b)に例示する。振動子204は、筒状の金属弾性体2041に挟まれた積層圧電素子2042よりなる。積層圧電素子2042は、不図示の複数の積層された圧電材料により構成される素子であり、積層外面に第一の電極と第二の電極、積層内面に内部電極を有する。金属弾性体2041はボルトによって締結され、積層圧電素子2042を挟持固定し、振動子204となる。
【0122】
積層圧電素子2042に位相の異なる交番電圧を印加することにより、振動子204は互いに直交する2つの振動を励起する。この二つの振動は合成され、振動子204の先端部を駆動するための円振動を形成する。なお、振動子204の上部にはくびれた周溝が形成され、駆動のための振動の変位を大きくしている。
【0123】
ロータ205は、加圧用のバネ206により振動子204と加圧接触し、駆動のための摩擦力を得る。ロータ205はベアリングによって回転可能に支持されている。
【0124】
(光学機器)
次に、本発明の光学機器について説明する。本発明の光学機器は、駆動部に前記超音波モータを備えたことを特徴とする。
【0125】
図7は、本発明の撮像装置の好適な実施形態の一例である一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の主要断面図である。また、
図8は本発明の撮像装置の好適な実施形態の一例である一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の分解斜視図である。カメラとの着脱マウント711には、固定筒712と、直進案内筒713、前群鏡筒714が固定されている。これらは交換レンズ鏡筒の固定部材である。
【0126】
直進案内筒713には、フォーカスレンズ702用の光軸方向の直進案内溝713aが形成されている。フォーカスレンズ702を保持した後群鏡筒716には、径方向外方に突出するカムローラ717a、717bが軸ビス718により固定されており、このカムローラ717aがこの直進案内溝713aに嵌まっている。
【0127】
直進案内筒713の内周には、カム環715が回動自在に嵌まっている。直進案内筒713とカム環715とは、カム環715に固定されたローラ719が、直進案内筒713の周溝713bに嵌まることで、光軸方向への相対移動が規制されている。このカム環715には、フォーカスレンズ702用のカム溝715aが形成されていて、カム溝715aには、前述のカムローラ717bが同時に嵌まっている。
【0128】
固定筒712の外周側にはボールレース727により固定筒712に対して定位置回転可能に保持された回転伝達環720が配置されている。回転伝達環720には、回転伝達環720から放射状に延びた軸720fにコロ722が回転自由に保持されており、このコロ722の径大部722aがマニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bと接触している。またコロ722の径小部722bは接合部材729と接触している。コロ722は回転伝達環720の外周に等間隔に6つ配置されており、それぞれのコロが上記の関係で構成されている。
【0129】
マニュアルフォーカス環724の内径部には低摩擦シート(ワッシャ部材)733が配置され、この低摩擦シートが固定筒712のマウント側端面712aとマニュアルフォーカス環724の前側端面724aとの間に挟持されている。また、低摩擦シート733の外径面はリング状とされマニュアルフォーカス環724の内径724cと径嵌合しており、更にマニュアルフォーカス環724の内径724cは固定筒712の外径部712bと径嵌合している。低摩擦シート733は、マニュアルフォーカス環724が固定筒712に対して光軸周りに相対回転する構成の回転環機構における摩擦を軽減する役割を果たす。
【0130】
なお、コロ722の径大部722aとマニュアルフォーカス環のマウント側端面724bとは、波ワッシャ726が超音波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、加圧力が付与された状態で接触している。また同じく、波ワッシャ726が超音波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、コロ722の径小部722bと接合部材729の間も適度な加圧力が付与された状態で接触している。波ワッシャ726は、固定筒712に対してバヨネット結合したワッシャ732によりマウント方向への移動を規制されており、波ワッシャ726が発生するバネ力(付勢力)は、超音波モータ725、更にはコロ722に伝わり、マニュアルフォーカス環724が固定筒712のマウント側端面712aを押し付け力ともなる。つまり、マニュアルフォーカス環724は、低摩擦シート733を介して固定筒712のマウント側端面712aに押し付けられた状態で組み込まれている。
【0131】
従って、不図示の制御部により超音波モータ725が固定筒712に対して回転駆動されると、接合部材729がコロ722の径小部722bと摩擦接触しているため、コロ722が軸720f中心周りに回転する。コロ722が軸720f回りに回転すると、結果として回転伝達環720が光軸周りに回転する(オートフォーカス動作)。
【0132】
また、不図示のマニュアル操作入力部からマニュアルフォーカス環724に光軸周りの回転力が与えられると、マニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bがコロ722の径大部722aと加圧接触しているため、摩擦力によりコロ722が軸720f周りに回転する。コロ722の径大部722aが軸720f周りに回転すると、回転伝達環720が光軸周りに回転する。このとき超音波モータ725は、ロータ725cとステータ725bの摩擦保持力により回転しないようになっている(マニュアルフォーカス動作)。
【0133】
回転伝達環720には、フォーカスキー728が2つ互いに対向する位置に取り付けられており、フォーカスキー728がカム環715の先端に設けられた切り欠き部715bと嵌合している。従って、オートフォーカス動作或いはマニュアルフォーカス動作が行われて、回転伝達環720が光軸周りに回転させられると、その回転力がフォーカスキー728を介してカム環715に伝達される。カム環が光軸周りに回転させられると、カムローラ717aと直進案内溝713aにより回転規制された後群鏡筒716が、カムローラ717bによってカム環715のカム溝715aに沿って進退する。これにより、フォーカスレンズ702が駆動され、フォーカス動作が行われる。
【0134】
ここで本発明の光学機器として、一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒について説明したが、コンパクトカメラ、電子スチルカメラ等、カメラの種類を問わず、駆動部に超音波モータを有する光学機器に適用することができる。
【0135】
(振動装置および塵埃除去装置)
粒子、粉体、液滴の搬送、除去等で利用される振動装置は、電子機器等で広く使用されている。以下、本発明の振動装置の一つの例として、本発明の圧電素子を用いた塵埃除去装置について説明する。
【0136】
本発明に係る塵埃除去装置は、前記圧電素子または前記積層圧電素子を振動板に配した振動体を少なくとも有することを特徴とする。
【0137】
図9(a)および
図9(b)は本発明の塵埃除去装置の一実施形態を示す概略図である。塵埃除去装置310は板状の圧電素子330と振動板320より構成される。圧電素子330は、本発明の積層圧電素子であっても良い。振動板320の材質は限定されないが、塵埃除去装置310を光学デバイスに用いる場合には透光性材料や光反射性材料を振動板320として用いることができる。
【0138】
図10は
図9における圧電素子330の構成を示す概略図である。
図10(a)と(c)は圧電素子330の表裏面の構成、
図10(b)は側面の構成を示している。圧電素子330は
図9に示すように圧電材料331と第1の電極332と第2の電極333より構成され、第1の電極332と第2の電極333は圧電材料331の板面に対向して配置されている。
図9と同様に圧電素子330は、本発明の積層圧電素子であっても良い。その場合、圧電材料331は圧電材料層と内部電極の交互構造をとり、内部電極を交互に第一の電極332または第二の電極333と短絡させることにより、圧電材料の層ごとに位相の異なる駆動波形を与える事が出来る。
図10(c)において圧電素子330の手前に出ている第1の電極332が設置された面を第1の電極面336、
図10(a)において圧電素子330の手前に出ている第2の電極333が設置された面を第2の電極面337とする。
【0139】
ここで、本発明における電極面とは電極が設置されている圧電素子の面を指しており、例えば
図10に示すように第1の電極332が第2の電極面337に回りこんでいても良い。
【0140】
圧電素子330と振動板320は、
図9(a)(b)に示すように圧電素子330の第1の電極面336で振動板320の板面に固着される。そして圧電素子330の駆動により圧電素子330と振動板320との間に応力が発生し、振動板に面外振動を発生させる。本発明の塵埃除去装置310は、この振動板320の面外振動により振動板320の表面に付着した塵埃等の異物を除去する装置である。面外振動とは、振動板を光軸方向つまり振動板の厚さ方向に変位させる弾性振動を意味する。
【0141】
図11は本発明の塵埃除去装置310の振動原理を示す模式図である。上図は左右一対の圧電素子330に同位相の交番電圧を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。左右一対の圧電素子330を構成する圧電材料の分極方向は圧電素子330の厚さ方向と同一であり、塵埃除去装置310は7次の振動モードで駆動している。下図は左右一対の圧電素子330に位相が180°反対である逆位相の交番電圧を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。塵埃除去装置310は6次の振動モードで駆動している。本発明の塵埃除去装置310は少なくとも2つの振動モードを使い分けることで振動板の表面に付着した塵埃を効果的に除去できる装置である。
【0142】
(撮像装置)
次に、本発明の撮像装置について説明する。本発明の撮像装置は、前記本発明の塵埃除去装置と撮像素子ユニットとを少なくとも有する撮像装置であって、前記塵埃除去装置の振動板を前記撮像素子ユニットの受光面側に設けた事を特徴とする。
図12および
図13は本発明の撮像装置の好適な実施形態の一例であるデジタル一眼レフカメラを示す図である。
【0143】
図12は、カメラ本体601を被写体側より見た正面側斜視図であって、撮影レンズユニットを外した状態を示す。
図13は、本発明の塵埃除去装置と撮像ユニット400の周辺構造について説明するためのカメラ内部の概略構成を示す分解斜視図である。
【0144】
カメラ本体601内には、撮影レンズを通過した撮影光束が導かれるミラーボックス605が設けられており、ミラーボックス605内にメインミラー(クイックリターンミラー)606が配設されている。メインミラー606は、撮影光束をペンタダハミラー(不図示)の方向へ導くために撮影光軸に対して45°の角度に保持される状態と、撮像素子(不図示)の方向へ導くために撮影光束から退避した位置に保持される状態とを取り得る。
【0145】
カメラ本体の骨格となる本体シャーシ300の被写体側には、被写体側から順にミラーボックス605、シャッタユニット200が配設される。また、本体シャーシ300の撮影者側には、撮像ユニット400が配設される。撮像ユニット400は、撮影レンズユニットが取り付けられる基準となるマウント部602の取付面に撮像素子の撮像面が所定の距離を空けて、且つ平行になるように調整されて設置される。
【0146】
ここで、本発明の撮像装置として、デジタル一眼レフカメラについて説明したが、例えばミラーボックス605を備えていないミラーレス型のデジタル一眼カメラのような撮影レンズユニット交換式カメラであってもよい。また、撮影レンズユニット交換式のビデオカメラや、複写機、ファクシミリ、スキャナ等の各種の撮像装置もしくは撮像装置を備える電子電気機器のうち、特に光学部品の表面に付着する塵埃の除去が必要な機器にも適用することができる。
【0147】
(電子機器)
次に、本発明の電子機器について説明する。本発明の電子機器は、前記圧電素子または前記積層圧電素子を備えた圧電音響部品を配することを特徴とする。
【0148】
図14は本発明の電子機器の好適な実施形態の一例であるデジタルカメラの本体931の前方から見た全体斜視図である。本体931の前面には光学装置901、マイク914、ストロボ発光部909、補助光部916が配置されている。マイク914は本体内部に組み込まれているため、破線で示している。マイク914の前方には外部からの音を拾うための穴形状が設けられている。
【0149】
本体931上面には電源ボタン933、スピーカ912、ズームレバー932、合焦動作を実行するためのレリーズボタン908が配置される。スピーカ912は本体931内部に組み込まれており、破線で示してある。スピーカ912の前方には音声を外部へ伝えるための穴形状が設けられている。
【0150】
本発明の圧電音響部品は、マイク914とスピーカ912の少なくとも一方に用いることができる。また本発明の圧電音響部品には、表面弾性波フィルタ(SAWフィルタ)も含まれる。
【0151】
ここで、本発明の電子機器としてデジタルカメラについて説明したが、本発明の電子機器は、音声再生機器、音声録音機器、携帯電話、情報端末等各種の圧電音響部品を有する電子機器にも適用することができる。
【0152】
本発明の圧電材料は、広い実用温度領域で良好かつ安定な圧電定数と機械的品質係数を有する。また、鉛を含まないために、環境に対する負荷が少ない。よって、本発明の圧電材料は、液体吐出ヘッド、液体吐出装置、超音波モータ、光学機器、振動装置、塵埃除去装置、撮像装置および電子機器などの圧電材料を多く用いる機器にも問題なく利用することができる。
【実施例】
【0153】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0154】
本発明の圧電材料を作製した。
【0155】
(圧電材料)
(実施例1の圧電材料)
(Ba
1−xCa
x)
a(Ti
1−y−zSn
yZr
z)O
3の一般式において、x=0.155、y=0.008、z=0.050、a=1.004で表わすことができる組成((Ba
0.845Ca
0.155)
1.004(Ti
0.942Sn
0.008Zr
0.050)O
3)に相当する原料を以下で述べる要領で秤量した。
【0156】
固相法により、平均粒径100nm、純度99.999%以上のチタン酸バリウム、平均粒径300nm、純度99.999%以上のチタン酸カルシウム、平均粒径300nm、純度99.999%以上のジルコン酸カルシウム、平均粒径500nm、純度99.999%以上のスズ酸バリウムの原料粉末を作製した。これらのチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウム、スズ酸バリウムをモル比で81.7対10.5対5.0対0.8になるように秤量した。また、AサイトにおけるBaとCaのモル量とBサイトにおけるTiとSnとZrのモル量との比を示すaを調整するために蓚酸バリウムを用いた。これらの秤量粉は、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合した。得られた混合粉を造粒するために、混合粉100重量部に対してMn重量が金属換算で0.18重量部となる酢酸マンガン(II)と混合粉100重量部に対して3重量部となるPVAバインダーを、それぞれスプレードライヤー装置を用いて、混合粉表面に付着させた。
【0157】
次に、得られた造粒粉を金型に充填し、プレス成型機を用いて200MPaの成形圧をかけて円盤状の成形体を作製した。金型の表面には非マグネシウム系の離型剤を塗布しておいた。この成形体は冷間等方加圧成型機を用いて、更に加圧しても良く、同様の結果が得られた。
【0158】
得られた成形体を電気炉に入れ、1380℃の最高温度で5時間保持し、合計24時間かけて大気雰囲気で焼結して、セラミックス状の本発明の圧電材料を得た。
【0159】
そして、得られた圧電セラミックスを構成する結晶粒の平均円相当径と相対密度を評価した。結果、平均円相当径は2.2μm、相対密度は98.3%であった。なお、結晶粒の観察には、主に偏光顕微鏡を用いた。小さな結晶粒の粒径を特定する際には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた。この観察結果より平均円相当径を算出した。また、相対密度はアルキメデス法を用いて評価した。
【0160】
次に、得られた圧電セラミックスを厚さ0.5mmになるように研磨し、X線回折により結晶構造を解析した。その結果、ペロブスカイト型構造に相当するピークのみが観察された。
【0161】
また、蛍光X線分析により組成を評価した。その結果、前記本発明の圧電材料は(Ba
0.845Ca
0.155)
1.004(Ti
0.942Sn
0.008Zr
0.050)O
3の化学式で表わすことができる金属酸化物を主成分としており、前記主成分100重量部に対してMnが0.18重量部、Mgが0.0001重量部含有されていることが分かった。Mg成分は高純度原料に含まれていたものに由来すると考えられる。その他の金属成分については、秤量した組成と焼結後の組成が一致していた。また、Ba、Ca、Ti、Sn、Zr、およびMn、Mg以外の元素は検出限界以下であった。焼結後と研磨後で、平均円相当径に大きな違いは無かった。
【0162】
(実施例2から23の圧電材料)
実施例1で用いたものと同じチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウム、スズ酸バリウムを表1に示すモル比になるように秤量した。また、AサイトにおけるBaとCaのモル量とBサイトにおけるTiとSnとZrのモル量との比を示すaを調整するために蓚酸バリウムを表1の値になるように秤量した。これらの秤量粉は、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合した。得られた混合粉を造粒するために、混合粉100重量部に対してMn重量が金属換算で表1の重量部になるように酢酸マンガン(II)と、混合粉100重量部に対して3重量部となるPVAバインダーを、それぞれスプレードライヤー装置を用いて混合粉表面に付着させた。なお、実施例20から23には、Mg重量が金属換算でそれぞれ0.0049、0.0099、0.0499、0.0999重量部になるように酸化マグネシウムを混合した。
【0163】
実施例1と同様に得られた造粒粉を金型に充填し、プレス成型機を用いて200MPaの成形圧をかけて円盤状の成形体を作製した。金型の表面には非マグネシウム系の離型剤を塗布しておいた。この成形体は冷間等方加圧成型機を用いて、更に加圧しても良く、同様の結果が得られた。
【0164】
得られた成形体を電気炉に入れ、1380℃の最高温度で5時間保持し、合計24時間かけて大気雰囲気で焼結して、セラミックス状の本発明の圧電材料を得た。
【0165】
そして実施例1と同様に、得られた圧電セラミックスを構成する結晶粒の平均円相当径と相対密度を評価した。その結果を表2に示す。
【0166】
次に実施例1と同様に、得られた圧電セラミックスを厚さ0.5mmになるように研磨し、X線回折により結晶構造を解析した。その結果、いずれのサンプルにおいてもペロブスカイト型構造に相当するピークのみが観察された。
【0167】
また実施例1と同様に、蛍光X線分析により組成を評価した。その結果を表3に示す。Ba、Ca、Ti、Sn、Zr、MnおよびMg以外の元素である副成分は検出限界以下であった。また実施例2から19においては、Mgが0.0001重量部、実施例20から23においては、Mgがそれぞれ0.0050、0.0100、0.0500、0.1000重量部含有されていることが分かった。いずれのサンプルにおいても秤量した組成と焼結後の組成は一致していた。
【0168】
さらに、結晶粒の観察を再度行ったが、焼結後と研磨後において、結晶粒のサイズや状態に大きな違いは無かった。
【0169】
(比較例1から7の圧電材料)
実施例1から23と同様の工程で、主成分を表1に示すモル比になるように秤量し、ボールミルを用いて乾式混合を24時間行った。得られた混合粉を造粒するために、混合粉100重量部に対してMn重量が金属換算で表1の重量部となる酢酸マンガン(II)と、混合粉100重量部に対して3重量部となるPVAバインダーを、それぞれスプレードライヤー装置を用いて混合粉表面に付着させた。なお、比較例9には副成分としてMgを金属換算で0.4999重量部になるように酸化マグネシウムを混合した。
【0170】
得られた造粒粉を用いて、実施例1から23と同様の条件でセラミックス状の本発明の圧電材料を作製した。そして、得られた圧電セラミックスを構成する結晶粒の平均円相当径と相対密度を評価した。その結果を表2に示す。なお、結晶粒および相対密度の評価は実施例1から23と同様の手法で行った。
【0171】
次に、得られた圧電セラミックスを厚さ0.5mmになるように研磨し、X線回折により結晶構造を解析した。その結果、いずれのサンプルにおいてもペロブスカイト構造に相当するピークのみが観察された。
【0172】
また、蛍光X線分析により組成を評価した。その結果を表3に示す。Ba、Ca、Ti、Sn、Zr、MnおよびMg以外の元素である副成分は検出限界以下であった。また比較例1から6においては、Mgが0.0001重量部、比較例7においては、Mgが0.5000重量部含有されていることが分かった。いずれのサンプルにおいても秤量した組成と焼結後の組成は一致していた。
【0173】
また、実施例1から23、比較例1から7の圧電材料のy値とz値の関係を
図15に示す。点線の範囲はペロブスカイト型金属酸化物を表す一般式(1)におけるy、zの範囲を示す。
【0174】
【表1】
【0175】
【表2】
【0176】
【表3】
【0177】
次に、本発明の圧電素子を作製した。
【0178】
(圧電素子の作製と特性評価)
(実施例1から23の圧電素子)
続いて、実施例1から23の圧電材料を用いて圧電素子を作製した。
【0179】
前記円盤状の圧電セラミックスの表裏両面にDCスパッタリング法により厚さ400nmの金電極を形成した。なお、電極と圧電セラミックスの間には、密着層として30nmのチタンを成膜した。この電極付きの圧電セラミックスを切断加工し、10mm×2.5mm×0.5mmの短冊状圧電素子を作製した。
【0180】
得られた圧電素子を、ホットプレートの表面を60℃から150℃になるように設定し、前記ホットプレート上で1.4kV/mmの電界を30分間印加し、分極処理した。
【0181】
以下では、本発明の圧電材料及び比較例に対応する圧電材料を有する圧電素子の特性として、分極処理した圧電素子のキュリー温度、圧電定数d
31及び機械的品質係数(Qm)を評価した。その結果を表4に示す。表中の「相転移点」は、−25℃から100℃の間に相転移点が存在しているか否かを調べた結果を表わす。周波数1kHzの微小交流電界を用いて測定温度を−25℃から100℃まで変えながら誘電率を測定し極大点があったものを「有」、なかったものを「無」と記載した。キュリー温度は、周波数1kHzの微小交流電界を用いて測定温度を変えながら誘電率を測定し誘電率が極大を示す温度から求めた。また、圧電定数d
31は共振−反共振法によって求め、表中にはその絶対値を記載した。機械的品質係数Qmは共振−反共振法によって求めた。
【0182】
【表4】
【0183】
実施例11と実施例20から23を比較する。いすれの組み合わせもx、y、zおよびMn含有量が同じ組成であるが、副成分であるMgを添加した実施例20から22の方がQmが優れていた。
【0184】
また、全ての実施例において、電極を銀ペーストの焼き付けに変更しても、金電極と同等の特性であった。
【0185】
実施例10に関しては相転移点が−20℃であった。しかし−25℃から100℃の温度範囲のうち、低温側の端に相当するため、圧電素子の安定的な駆動には特に問題はなかった。
【0186】
(比較例1から7の圧電素子)
次に、比較例1から7の圧電材料を用いて圧電素子を実施例1から23と同様の方法で作製した。
【0187】
実施例1から23と同様の方法で圧電素子の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0188】
Snを含まず、かつZr量を示すzが0.041を下回る比較例1〜2の圧電素子は実施例1〜23と比較して|d31|が50 [pm/V]以下と低い。
【0189】
zが0.069を上回る比較例3の圧電素子は実施例1〜23と比較して相転移点が−25℃〜100℃の温度にあるため、圧電素子の耐久性が低い。
【0190】
yが0.020を上回る比較例4の圧電素子は実施例1〜23と比較して相転移点が−25℃〜100℃の温度にあるため、圧電素子の耐久性が低い。
【0191】
Mn重量部が0.12を下回る比較例5の圧電素子は実施例1〜23と比較してQmが800を下回るので駆動時に効率が著しく低下する。
【0192】
Mn重量部が0.40を上回る比較例6の圧電素子は実施例1〜23と比較して|d31|が50 [pm/V]以下と低い。
【0193】
Mg重量部が0.100を上回る比較例7の圧電素子は実施例1〜23と比較して|d31|が50 [pm/V]以下と低く、かつQmが800を下回るので駆動時に効率が著しく低下する。
【0194】
(圧電素子の耐久性評価)
次に圧電素子の耐久性を確認するため、実施例1〜9、比較例3〜4の圧電素子を恒温槽に入れ、25℃→−25℃→50℃→25℃を1サイクルとした温度サイクルを100サイクル繰り返す、サイクル試験を行った。サイクル試験前後の圧電定数d
31を評価し、圧電定数の変化率を表5にまとめた。
【0195】
【表5】
【0196】
比較例3および4の圧電素子は、圧電特性の減少変化率が10%を大きく上回り耐久性が不足していた。比較例3および4の圧電素子は、相転移点がそれぞれ4℃、40℃と、実用温度領域の温度範囲の真ん中に存在するため、サイクル試験を繰り返すに従って圧電特性は著しく低下した。
【0197】
(積層圧電素子の作製と評価)
本発明の積層圧電素子を作製した。
【0198】
(実施例24)
(Ba
1−xCa
x)
a(Ti
1−y−zSn
yZr
z)O
3の一般式において、x=0.155、y=0.0075、z=0.05、a=1.004で表わすことができる組成((Ba
0.845Ca
0.155)
1.004(Ti
0.942Sn
0.008Zr
0.050)O
3)に相当する原料を以下に述べる要領で秤量した。
【0199】
主成分の原料として純度99.99%以上の炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウムをBa、Ca、Ti、Sn、Zrが上記の組成((Ba
0.845Ca
0.155)
1.004(Ti
0.942Sn
0.008Zr
0.050)O
3)の比率になるように秤量した。
【0200】
これらの秤量粉100重量部に対して、Mn重量が金属換算で0.18重量部となる酸化マンガン(IV)と3重量部となるPVBバインダーを加えて混合した。この混合粉を用いて、ドクターブレード法によりシート形成して厚み50μmのグリーンシートを得た。
【0201】
上記グリーンシートに内部電極用の導電ペーストを印刷した。導電ペーストには、Niペーストを用いた。導電ペーストを塗布したグリーンシートを9枚積層して、その積層体を熱圧着した。
【0202】
熱圧着した積層体を管状炉中で焼成した。焼成は300℃まで大気中で行い、脱バインダーを行った後、雰囲気を還元性雰囲気(H
2:N
2=2:98、酸素濃度2×10
−6Pa)に切り替え、1380℃で5時間保持した。降温過程においては、1000℃以下から酸素濃度を30Paに切り替えて室温まで冷却した。
【0203】
このようにして得られた焼結体を10mm×2.5mmの大きさに切断した後にその側面を研磨し、内部電極を交互に短絡させる一対の外部電極(第一の電極と第二の電極)をAuスパッタにより形成し、
図3(b)のような積層圧電素子を作製した。
【0204】
得られた積層圧電素子の内部電極を観察したところ、電極材であるNiが圧電材料層と交互に形成されていた。得られた積層圧電素子を、ホットプレートの表面を60℃から100℃になるように設定し、前記ホットプレート上で1kV/mmの電界を30分間印加し、分極処理した。
【0205】
得られた積層圧電素子の圧電特性を評価したところ、十分な絶縁性を有し、実施例1の圧電素子と同等の良好な圧電特性を得ることができた。
【0206】
(比較例8)
実施例24と同様の工程で積層圧電素子を作製した。ただし、組成は比較例1と同様のものである。
【0207】
得られた積層圧電素子の圧電材料層を観察したところ、結晶粒の粒径が30から40μmの大きさのものが複数個観察された。そのため、素子の強度が非常に脆く、圧電特性を評価することが出来なかった。
【0208】
(デバイスの作製と評価)
(実施例1による液体吐出ヘッド)
実施例1の圧電素子を用いて、
図3に示される液体吐出ヘッドを作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。
【0209】
(実施例1による液体吐出ヘッドを用いた液体吐出装置)
実施例1と同じ圧電素子を用いた
図3に示される液体吐出ヘッドを用いて、
図4に示される液体吐出装置を作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が被転写体上に確認された。
【0210】
(実施例24による液体吐出ヘッド)
実施例24と同じ積層圧電素子を用いて、
図3に示される液体吐出ヘッドを作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。
【0211】
(実施例24による液体吐出ヘッドを用いた液体吐出装置)
実施例24と同じ積層圧電素子を用いた
図3に示される液体吐出ヘッドを用いて、
図4に示される液体吐出装置を作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が被転写体上に確認された。
【0212】
(実施例11による超音波モータ)
実施例11と同じ圧電素子を用いて、
図6(a)に示される超音波モータを作製した。交番電圧の印加に応じたモータの回転挙動が確認された。
【0213】
(実施例11による超音波モータを用いたレンズ鏡筒)
実施例11と同じ圧電素子を用いた超音波モータを用いて、
図8に示される光学機器を作製した。交番電圧の印加に応じたオートフォーカス動作が確認された。
【0214】
(実施例24による超音波モータ)
実施例24の積層圧電素子を用いて、
図6(b)に示される超音波モータ作製した。交番電圧の印加に応じたモータの回転が確認された。
【0215】
(実施例11による振動装置の一例である塵埃除去装置)
実施例11と同じ圧電素子を用いて、
図9に示される塵埃除去装置を作製した。プラスチック製ビーズを散布し、交番電圧を印加したところ、良好な塵埃除去が確認された。
【0216】
(実施例24による振動装置の一例である塵埃除去装置)
実施例24と同じ積層圧電素子を用いて、
図9に示される塵埃除去装置を作製した。プラスチック製ビーズを散布し、交番電圧を印加したところ、良好な塵埃除去が確認された。
【0217】
(実施例11による塵埃除去装置を備えた撮像装置)
実施例11と同じ圧電素子を用いた塵埃除去装置と撮像素子ユニットを用いて、
図13に示される撮像装置を作製した。動作させたところ撮像素子ユニットの表面の塵を良好に除去し、塵欠陥の無い画像が得られた。
【0218】
(実施例11による圧電音響部品を用いた電子機器)
実施例11と同じ圧電素子を用いた圧電音響部品を用いて、
図14に示される電子機器を作製した。交番電圧の印加に応じたスピーカ動作が確認された。