(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249739
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】移動体端末、装置、制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 5/02 20100101AFI20171211BHJP
H04W 64/00 20090101ALI20171211BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
H04W64/00 110
【請求項の数】19
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-244054(P2013-244054)
(22)【出願日】2013年11月26日
(65)【公開番号】特開2015-102461(P2015-102461A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100131886
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100170667
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】花野 博司
(72)【発明者】
【氏名】難波 忍
(72)【発明者】
【氏名】林 高弘
【審査官】
▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−508993(JP,A)
【文献】
特表2010−534858(JP,A)
【文献】
特表2008−547355(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0149415(US,A1)
【文献】
国際公開第2013/034585(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00 − G01S 5/14
H04B 7/24 − H04B 7/26
H04W 4/00 − H04W 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体端末における観測値と、前記複数の通信装置を含むネットワークにおいて記憶された、複数の参照位置のそれぞれにおける前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号の観測値または予測値である参照値とを比較して、自らの位置を判定する前記移動体端末であって、
前記移動体端末が存在する位置を含む地理的領域に対応する前記参照値を、前記複数の通信装置の少なくともいずれかから取得する取得手段と、
取得した前記地理的領域に対応する前記参照値と、前記移動体端末における前記観測値とを比較して前記移動体端末の位置を判定する判定手段と、
を有し、
前記取得手段は、前記複数の通信装置の少なくともいずれかに対して、判定された前記移動体端末の位置を含めた要求信号を送信することにより、前記地理的領域に対応する前記参照値を前記複数の通信装置の少なくともいずれかから取得する、
ことを特徴とする移動体端末。
【請求項2】
前記取得手段は、前記複数の通信装置の少なくともいずれかがブロードキャストしている前記参照値を、前記地理的領域に対応する前記参照値として取得する、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動体端末。
【請求項3】
判定された前記移動体端末の位置に基づいて、前記移動体端末の移動速度を推定する推定手段をさらに有し、
前記取得手段は、前記移動速度を前記要求信号に含め、前記移動体端末の位置と前記移動速度に応じた前記地理的領域に対応する前記参照値を前記複数の通信装置の少なくともいずれかから取得する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の移動体端末。
【請求項4】
前記推定手段は、さらに、判定された前記移動体端末の位置に基づいて、前記移動体端末の移動方向を推定し、
前記取得手段は、前記移動方向をさらに前記要求信号に含め、前記移動体端末の位置と前記移動速度と前記移動方向とに応じた前記地理的領域に対応する前記参照値を前記複数の通信装置の少なくともいずれかから取得する、
ことを特徴とする請求項3に記載の移動体端末。
【請求項5】
位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体端末における観測値と、複数の参照位置のそれぞれにおける前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号の観測値または予測値である参照値とを比較して、前記移動体端末が自らの位置を判定するシステムにおける装置であって、
複数の前記参照値を記憶する記憶手段と、
前記移動体端末が存在する位置を含む地理的領域に対応する前記参照値を、複数の前記参照値から選択する選択手段と、
選択された前記参照値を、前記複数の通信装置の少なくともいずれかを介して、前記移動体端末へ通知する通知手段と、
を有し、
前記選択手段は、前記複数の通信装置の少なくともいずれかを介して前記移動体端末から、前記移動体端末の位置を取得した場合、当該移動体端末の位置に基づいて、前記地理的領域を特定し、当該地理的領域に対応する前記参照値を選択する、
ことを特徴とする装置。
【請求項6】
前記移動体端末の位置の時間変化に基づいて、前記移動体端末の移動速度を推定する推定手段をさらに有し、
前記選択手段は、前記移動体端末の位置と前記移動速度に基づいて、前記地理的領域を特定し、当該地理的領域に対応する前記参照値を選択する、
ことを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記推定手段は、さらに、前記移動体端末の位置の時間変化に基づいて、前記移動体端末の移動方向を推定し、
前記選択手段は、前記移動体端末の位置と前記移動速度と前記移動方向とに基づいて、前記地理的領域を特定し、当該地理的領域に対応する前記参照値を選択する、
ことを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記選択手段は、前記複数の通信装置の少なくともいずれかを介して前記移動体端末から、さらに、前記移動体端末の移動速度を取得し、前記移動体端末の位置と前記移動速度に基づいて、前記地理的領域を特定し、当該地理的領域に対応する前記参照値を選択する、
ことを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項9】
前記選択手段は、前記複数の通信装置の少なくともいずれかを介して前記移動体端末から、さらに、前記移動体端末の移動方向を取得し、前記移動体端末の位置と前記移動速度と前記移動方向とに基づいて、前記地理的領域を特定し、当該地理的領域に対応する前記参照値を選択する、
ことを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体端末における観測値と、複数の参照位置のそれぞれにおける前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号の観測値または予測値である参照値とを比較して、前記移動体端末が自らの位置を判定するシステムにおける装置であって、
複数の前記参照値を記憶する記憶手段と、
前記移動体端末が存在する位置を含む地理的領域に対応する前記参照値を、複数の前記参照値から選択する選択手段と、
選択された前記参照値を、前記複数の通信装置の少なくともいずれかを介して、前記移動体端末へ通知する通知手段と、
を有し、
前記選択手段は、前記複数の通信装置の少なくともいずれかから、前記移動体端末における前記無線信号の観測値を取得し、前記観測値に基づいて、前記地理的領域を特定し、当該地理的領域に対応する前記参照値を選択する、
ことを特徴とする装置。
【請求項11】
前記選択手段は、前記移動体端末が、所定の通信装置と通信したかに応じて、前記地理的領域を特定し、当該地理的領域に対応する前記参照値を選択する、
ことを特徴とする請求項5から10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記選択手段は、前記複数の通信装置に含まれる1つの通信装置から、当該1つの通信装置の位置の情報を取得した場合、当該1つの通信装置の位置に基づいて、当該1つの通信装置がブロードキャストすべき前記参照値を選択する、
ことを特徴とする請求項5から11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記装置は、前記複数の通信装置における1つの通信装置の内部に備えられる、
ことを特徴とする請求項5から12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体端末における観測値と、前記複数の通信装置を含むネットワークにおいて記憶された、複数の参照位置のそれぞれにおける前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号の観測値または予測値である参照値とを比較して、自らの位置を判定する前記移動体端末の制御方法であって、
取得手段が、前記移動体端末が存在する位置を含む地理的領域に対応する前記参照値を、前記複数の通信装置の少なくともいずれかから取得する取得工程と、
判定手段が、取得した前記地理的領域に対応する前記参照値と、前記移動体端末における前記観測値とを比較して前記移動体端末の位置を判定する判定工程と、
を有し、
前記取得工程では、前記複数の通信装置の少なくともいずれかに対して、判定された前記移動体端末の位置を含めた要求信号が送信されることにより、前記地理的領域に対応する前記参照値が前記複数の通信装置の少なくともいずれかから取得される、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項15】
位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体端末における観測値と、複数の参照位置のそれぞれにおける前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号の観測値または予測値である参照値とを比較して、前記移動体端末が自らの位置を判定するシステムにおける、複数の前記参照値を記憶する記憶手段を有する装置の制御方法であって、
選択手段が、前記移動体端末が存在する位置を含む地理的領域に対応する前記参照値を、複数の前記参照値から選択する選択工程と、
通知手段が、選択された前記参照値を、前記複数の通信装置の少なくともいずれかを介して、前記移動体端末へ通知する通知工程と、
を有し、
前記選択工程では、前記複数の通信装置の少なくともいずれかを介して前記移動体端末から、前記移動体端末の位置を取得した場合、当該移動体端末の位置に基づいて、前記地理的領域が特定され、当該地理的領域に対応する前記参照値が選択される、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項16】
位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体端末における観測値と、複数の参照位置のそれぞれにおける前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号の観測値または予測値である参照値とを比較して、前記移動体端末が自らの位置を判定するシステムにおける、複数の前記参照値を記憶する記憶手段を有する装置の制御方法であって、
選択手段が、前記移動体端末が存在する位置を含む地理的領域に対応する前記参照値を、複数の前記参照値から選択する選択工程と、
通知手段が、選択された前記参照値を、前記複数の通信装置の少なくともいずれかを介して、前記移動体端末へ通知する通知工程と、
を有し、
前記選択工程では、前記複数の通信装置の少なくともいずれかから、前記移動体端末における前記無線信号の観測値を取得し、前記観測値に基づいて、前記地理的領域を特定し、当該地理的領域に対応する前記参照値が選択される、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項17】
位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体端末における観測値と、前記複数の通信装置を含むネットワークにおいて記憶された、複数の参照位置のそれぞれにおける前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号の観測値または予測値である参照値とを比較して、自らの位置を判定する前記移動体端末に備えられたコンピュータに、
前記移動体端末が存在する位置を含む地理的領域に対応する前記参照値を、前記複数の通信装置の少なくともいずれかから取得する取得工程と、
取得した前記地理的領域に対応する前記参照値と、前記移動体端末における前記観測値とを比較して前記移動体端末の位置を判定する判定工程と、
を実行させるプログラムであって、
前記取得工程では、前記複数の通信装置の少なくともいずれかに対して、判定された前記移動体端末の位置を含めた要求信号が送信されることにより、前記地理的領域に対応する前記参照値が前記複数の通信装置の少なくともいずれかから取得される、
ことを特徴とするプログラム。
【請求項18】
位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体端末における観測値と、複数の参照位置のそれぞれにおける前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号の観測値または予測値である参照値とを比較して、前記移動体端末が自らの位置を判定するシステムにおける、複数の前記参照値を記憶する記憶手段を有する装置に備えられたコンピュータに、
前記移動体端末が存在する位置を含む地理的領域に対応する前記参照値を、複数の前記参照値から選択する選択工程と、
選択された前記参照値を、前記複数の通信装置の少なくともいずれかを介して、前記移動体端末へ通知する通知工程と、
を実行させるプログラムであって、
前記選択工程では、前記複数の通信装置の少なくともいずれかを介して前記移動体端末から、前記移動体端末の位置を取得した場合、当該移動体端末の位置に基づいて、前記地理的領域が特定され、当該地理的領域に対応する前記参照値が選択される、
ことを特徴とするプログラム。
【請求項19】
位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体端末における観測値と、複数の参照位置のそれぞれにおける前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号の観測値または予測値である参照値とを比較して、前記移動体端末が自らの位置を判定するシステムにおける、複数の前記参照値を記憶する記憶手段を有する装置に備えられたコンピュータに、
前記移動体端末が存在する位置を含む地理的領域に対応する前記参照値を、複数の前記参照値から選択する選択工程と、
選択された前記参照値を、前記複数の通信装置の少なくともいずれかを介して、前記移動体端末へ通知する通知工程と、
を実行させるプログラムであって、
前記選択工程では、前記複数の通信装置の少なくともいずれかから、前記移動体端末における前記無線信号の観測値を取得し、前記観測値に基づいて、前記地理的領域を特定し、当該地理的領域に対応する前記参照値が選択される、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体端末の位置推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチパス環境や、見通し外環境において、移動体通信装置の位置を特定するための手法として、フィンガープリント測位方式が存在する(特許文献1参照)。この方式では、事前に位置が既知の装置において、フィンガープリントとなり得るパラメータを取得し、そのパラメータを位置と関連付けて記憶することによりデータベースを構築する。具体的には、例えば、広範な地理的領域の多数の既知の位置(参照位置)において、基地局等の複数の固定の通信装置からの無線信号の特徴量を予め観測又は予測し、その特徴量と送信元の通信装置と参照位置とに関する情報をデータベース内に記憶しておく。なお、ここでの無線信号の特徴量は、例えば、電波伝搬損失、受信信号強度(Received Signal Strength Indication、RSSI)などである。
【0003】
そして、フィンガープリント測位方式では、例えば基地局を介して移動体端末における無線信号の観測値が取得され、データベースに記憶されている情報とのパターンマッチングが行われることにより、その移動体通信装置の位置が推定される。フィンガープリント測位方式では、このようにして、予め参照位置における無線信号の特徴量に関する値を指紋として記憶しておき、記憶された指紋と、観測した無線信号の特徴量(判定対象の指紋)とを比較して、判定対象の移動体端末の位置を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2012−512404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィンガープリント測位を移動体端末において実行する場合、移動体端末は、メモリなどの記憶装置を十分に確保できない場合があり、したがって、すべての参照位置における無線信号の特徴量を記憶しておくことができない場合がある。また、移動体端末は、すべての参照位置における無線信号の特徴量と、観測した無線信号の特徴量とのマッチングなどの演算を行うためのCPUやバッテリなどのリソースを十分に確保できない場合がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、移動体端末において、少ない記憶容量及び演算量でフィンガープリント測位方式により、移動体端末自身の位置を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明による移動体端末は、位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体端末における観測値と、前記複数の通信装置を含むネットワークにおいて記憶された、複数の参照位置のそれぞれにおける前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号の観測値または予測値である参照値とを比較して、自らの位置を判定する前記移動体端末であって、前記移動体端末が存在する位置を含む地理的領域に対応する前記参照値を、前記複数の通信装置の少なくともいずれかから取得する取得手段と、取得した前記地理的領域に対応する前記参照値と、前記移動体端末における前記観測値とを比較して前記移動体端末の位置を判定する判定手段と、を有
し、前記取得手段は、前記複数の通信装置の少なくともいずれかに対して、判定された前記移動体端末の位置を含めた要求信号を送信することにより、前記地理的領域に対応する前記参照値を前記複数の通信装置の少なくともいずれかから取得する、ことを特徴とする。
【0008】
また、上記目的を達成するため、本発明による装置は、位置が固定された複数の通信装置からの無線信号の移動体端末における観測値と、複数の参照位置のそれぞれにおける前記複数の通信装置のそれぞれからの無線信号の観測値または予測値である参照値とを比較して、前記移動体端末が自らの位置を判定するシステムにおける装置であって、複数の前記参照値を記憶する記憶手段と、前記移動体端末が存在する位置を含む地理的領域に対応する前記参照値を、複数の前記参照値から選択する選択手段と、選択された前記参照値を、前記複数の通信装置の少なくともいずれかを介して、前記移動体端末へ通知する通知手段と、を有
し、前記選択手段は、前記複数の通信装置の少なくともいずれかを介して前記移動体端末から、前記移動体端末の位置を取得した場合、当該移動体端末の位置に基づいて、前記地理的領域を特定し、当該地理的領域に対応する前記参照値を選択する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、移動体端末において、少ない記憶容量及び演算量でフィンガープリント測位方式により、移動体端末自身の位置を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】位置指紋提供装置と移動体端末とのハードウェア構成例を示す図。
【
図3】位置指紋提供装置の機能構成例を示すブロック図。
【
図5】位置指紋提供装置が実行する処理の流れを示すフローチャート。
【
図6】移動体端末が実行する処理の流れを示すフローチャート。
【
図7】位置指紋提供装置が参照位置を提供すべき地理的領域の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
(無線通信システム)
図1に、本実施形態に係る無線通信システムを示す。本無線通信システムは、例えば、セルラネットワークに基づくシステムであり、基地局A、基地局B、基地局C及び移動体端末を含む。また、本無線通信システムにおいては、基地局A、基地局B及び基地局Cにネットワークを介して接続される位置指紋提供装置が存在する。なお、以下では、位置指紋提供装置を基地局A〜基地局Cと独立したネットワークノードとして説明するが、位置指紋提供装置は、これらの基地局の内部に備えられてもよい。また、本例では、説明の簡略化のため、3つの基地局と1つの移動体端末とを含むシステムについて説明するが、4つ以上の基地局が存在してもよいし、2つ以上の移動体端末が存在してもよい。
【0013】
移動体端末は、移動可能であり位置が不定の無線通信装置である。移動体端末は、基地局A〜基地局Cの少なくともいずれかとの間で無線信号を送信または受信する。基地局A〜基地局Cは、位置が(少なくとも一定の期間)固定された無線通信装置であり、自らの通信可能範囲(セル)において、移動体端末との間で通信を行う。なお、基地局A〜基地局Cは、セルラネットワークの基地局装置であってもよいし、無線LANのアクセスポイントなどのような無線通信装置であってもよい。本実施形態においては、基地局A〜基地局Cから送信され、各位置において観測された無線信号の特徴量の観測値が指紋として使用され、移動体端末の位置が判定される。
【0014】
図1には、さらに、移動体端末が自らの位置を判定するのに使用する、複数の参照位置が示されている。
図1では、黒塗りの丸により参照位置が示されている。本実施形態では、参照位置のそれぞれにおける複数の基地局からの無線信号の特徴量の観測値または計算によって得られる予測値である参照値が、予め位置指紋提供装置内に存在するデータベースに記憶される。なお、無線信号の特徴量は、例えば、電波伝搬損失、信号の受信電力(Reference Signal Received Power、RSRP)、信号対干渉及び雑音電力比(SINR)などを含む。ここで、複数の参照位置のそれぞれについての観測値は、例えば、その参照位置における無線信号の特徴量を示す値と、その値が生じた頻度(割合)とによって表される分布として記憶されてもよい。なお、無線信号の特徴量は、特徴量の平均値、上述の分布の中央値、または最頻値として表されてもよい。
【0015】
参照位置における無線信号の特徴量の観測は、例えば、GPS測位機能又はA−GPS測位機能を有する移動体端末によって実行される。この場合、GPS測位機能又はA−GPS測位機能による測位結果を参照位置として、その参照位置における無線信号の特徴量の観測値を観測値の参照値として、データベースに蓄積する。なお、この場合、移動体端末が完全に同じ位置で観測できるとは限らない。このため、例えば、地理的領域を例えば5m四方の領域に区切り、1つの領域内において観測されたデータは、同じ場所で観測されたものとして取り扱ってもよい。すなわち、5m四方の領域内で観測された特徴量をまとめて分布を生成し、その領域における1点を参照位置として、その分布をその参照位置に対応させてデータベースに蓄積するようにしてもよい。
【0016】
本実施形態では、位置指紋提供装置は、上述のようにして蓄積した、参照位置に対応する無線信号の特徴量の参照値との中から、フィンガープリント測位を実行する移動体端末に対して通知すべき参照値を選択する。このとき、位置指紋提供装置は、移動体端末が存在することが想定される位置を含む地理的領域を特定して、その地理的領域に対応する参照値を、移動体端末へ通知すべき参照値として選択する。このようにして、位置指紋提供装置は、蓄積された全参照値のうち、一部の参照値のみを、複数の基地局の少なくともいずれかを通じて移動体端末へと通知する。移動体端末は、基地局A〜基地局Cのそれぞれからの無線信号の特徴量を観測し、その観測値と、通知された参照値とに基づいて、移動体端末自身の位置を判定する。これにより、移動体端末においては、広範な領域に対応する全参照値を記憶しておくことなく、一部の参照値のみの提供を受けて、フィンガープリント測位を実行することができる。この結果、移動体端末は、少ない記憶容量と演算量とで、フィンガープリント測位により、自らの位置を特定することが可能となる。
【0017】
以下では、このような位置指紋提供装置と移動体端末との構成及び処理について説明する。
【0018】
(位置指紋提供装置及び移動体端末のハードウェア構成)
位置指紋提供装置及び移動体端末は、一例において、
図2に示すようなハードウェア構成を有し、例えば、CPU201、ROM202、RAM203、外部記憶装置204、及び入出力装置205を有する。位置指紋提供装置及び移動体端末では、例えばROM202、RAM203及び外部記憶装置204のいずれかに記録された、上述の各機能を実現するプログラムがCPU201により実行される。なお、CPU201は、位置指紋提供装置及び移動体端末の全体の機能を制御する制御装置でもある。そして、位置指紋提供装置は、入出力装置205を用いて、例えば、ネットワークを介して接続された基地局に対して、さらには移動体端末へ、参照位置と参照値に関する情報を通知し、また、基地局から、移動体端末の位置の情報などを取得する。同様に、移動体端末は、基地局を介して、位置指紋提供装置からフィンガープリント測位のための情報を取得し、判定した自らの位置を、位置指紋提供装置へ送信する。
【0019】
なお、位置指紋提供装置及び移動体端末は、上述の各機能を実行する専用のハードウェアを備えてもよいし、一部をハードウェアで実行し、プログラムを動作させるコンピュータでその他の部分を実行してもよい。また、上述の全機能をコンピュータとプログラムにより実行させてもよい。
【0020】
(位置指紋提供装置の機能構成)
図3は、位置指紋提供装置の機能構成例を示すブロック図である。位置指紋提供装置は、その機能として、例えば、情報取得部301、提供情報選択部302、情報通知部303、及び参照位置情報データベース(DB)304を有する。参照位置情報DB304には、全参照位置と、その参照位置における、各基地局からの無線信号の測定値または予測値である参照値とが、対応付けられて記憶される。なお、位置指紋提供装置は、通信相手となる基地局が、どの地理的領域に対応するかに応じて、一部の参照位置についてのみ、その参照位置と参照値とを記憶しておいてもよい。すなわち、複数の位置指紋提供装置を用意し、ある位置指紋提供装置の通信相手ではない基地局に対応する地理的領域については、別の位置指紋提供装置が、基地局を通じて、移動体端末へ、参照位置と参照値の情報を提供するものとしてもよい。
【0021】
情報取得部301は、例えば、移動体端末から、各基地局及びネットワークを介して、その移動体端末において判定した位置の情報、移動速度、移動方向などの情報を取得する。また、情報取得部301は、基地局が、例えば無線LANのアクセスポイントなどのように可搬式である場合は、その基地局自身が測定した位置を取得してもよい。なお、情報取得部301は、移動体端末の位置を取得して、その時間変化に基づいて、その移動体端末の移動速度、及び移動方向を推定してもよい。
【0022】
提供情報選択部302は、例えば、各基地局がブロードキャストすべき、参照値の情報を選択する。ここで、各基地局がブロードキャストすべき参照値の情報は、例えば、各基地局を中心とする所定の大きさの円、多角形形状の地理的領域に含まれる参照位置に関する参照値の情報として定められる。これにより、移動体端末は、例えばサービング基地局などの、所定の品質以上で受信可能な無線信号の送信元の基地局から、参照値の情報を取得することで、移動体端末自身の位置を含む地理的領域に対応する参照位置についての参照値を取得することができる。
【0023】
また、提供情報選択部302は、例えば、移動体端末の位置を取得した場合、その位置を含む円または多角形形状の地理的領域を特定し、その地理的領域に含まれる参照位置に関する参照値の情報を、移動体端末に通知すべき参照値の情報として選択する。このようにして、移動体端末は、移動体端末自身の位置を含む地理的領域に対応する参照位置についての参照値のみを取得することができるため、少ない記憶容量及び演算量で、フィンガープリント測位を実行することが可能となる。提供情報選択部302は、例えば、
図7(a)のように、移動体端末の位置(p)から半径dの円で囲まれる範囲を、通知する参照位置を特定するための地理的領域として定める。なお、この地理的領域は
図7(a)のように真円形状でなくてもよく、例えば楕円でもよい。また、地理的領域が多角形により特定される場合も、例えば長方形形状など、正多角形形状でなくてもよい。
【0024】
なお、この地理的領域は、移動体端末の移動速度に応じて、拡大または縮小されてもよい。例えば、移動体端末の移動速度が高速になるほど、この地理的領域を拡大し、一方で、移動速度が低速になるほど、この地理的領域を縮小する。提供情報選択部302は、例えば、
図7(b)の破線の円で示すように、移動体端末が高速移動している時には、
図7(a)で定められた半径dの円より大きい半径d’の円で囲まれる範囲を、通知する参照位置を特定するための地理的領域として定める。逆に言えば、提供情報選択部302は、移動体端末の移動速度が遅くなった場合は、半径d’の円より小さい半径dの円で囲まれる範囲を、通知する参照位置を特定するための地理的領域として定める。これにより、フィンガープリント測位の実行前に移動体端末が高速移動することにより、移動体端末が、測位の実行時において取得した情報に対応する地理的領域に存在しなくなることを防ぐことが可能となる。また、移動体端末が低速移動している場合には、通知する情報の量を削減することにより、移動体端末における測位における演算量を低減することが可能となる。
【0025】
また、地理的領域は、移動体端末の移動方向に応じて、特定されてもよい。例えば、移動体端末が一定の方向に進行している場合は、その方向に地理的領域を拡大してもよい。また、移動しない場合に特定される地理的領域を、例えば、
図7(c)の破線の円で示すように、移動方向に向けてシフトしてもよい。これにより、測位の実行時に、移動体端末が、取得した情報に対応する地理的領域から外れた位置に存在することとなる確率を低減することができる。
【0026】
さらに、地理的領域は、移動体端末が存在する位置の属性に基づいて特定されてもよい。例えば、移動体端末の位置から、あるビルに入ったことが想定される場合は、例えば、そのビルの各階を含むように、地理的領域が特定されてもよい。同様に、移動体端末の移動方向及び移動速度から、例えば鉄道等に乗車したと考えられる場合は、その路線に沿った地理的領域が特定されてもよい。このように、位置の属性に応じて、移動体端末に通知する参照値に対応する地理的領域を限定することができ、この結果、移動体端末は、測位に要する記憶容量及び演算量を削減することができる。
【0027】
なお、この属性は、例えば、移動体端末の位置、移動速度及び移動方向から特定されてもよいし、移動体端末が、特定の通信装置と通信したことに基づいて特定されてもよい。例えば、移動体端末が、高速道路のインターチェンジのゲート等に設置された基地局と通信した場合、高速道路に乗ったこと、または降りたことを特定することができる。同様に、移動体端末が、ビルの入り口に設置された無線LANのアクセスポイントと通信した場合、移動体端末が、そのビル内に入ったまたはそのビルから出たことを特定することができる。また、移動体端末が、店舗での電子決済などに使用された場合に、その決済に係る通信が行われた相手装置の位置から、移動体端末が、その店舗内に存在すること、そして、その店舗から出ることを予想することができる。
【0028】
また、位置指紋提供装置は、移動体端末から、移動体端末が受信した無線信号の特徴量の観測値の情報を取得してもよい。この場合、位置指紋提供装置は、例えば、予め参照位置をその地理的位置に応じてグループ化しておき、そのグループにおける代表の参照位置における特徴量の値と、取得した観測値の値との違いが所定値以下となる代表の参照位置を有するグループを特定する。そして、位置指紋提供装置は、そのグループに属する参照位置と、その対応する参照値とを、移動体端末へ通知する。
【0029】
以上のように、移動体端末に対しては、特定の地理的領域に対応する参照位置と、その参照位置における無線信号の観測値または予測値である参照値のみが通知される。なお、この通知される情報の量は、移動体端末の記憶容量ごとに特定されてもよい。例えば、移動体端末の記憶容量が少ない場合は、通知される情報量が削減され、一方で、記憶容量が十分である場合は、十分な情報量が通知される。このとき、情報量の削減は、上述の地理的領域の縮減、または、参照位置の間引きなどにより行われてもよい。
【0030】
このようにして提供情報選択部302が選択した参照位置及びその参照位置に対応する参照値の情報は、情報通知部303によって、参照位置情報DB304から抽出され、基地局を通じて、移動体端末へ通知される。
【0031】
(移動体端末の機能構成)
図4は、移動体端末の機能構成例を示すブロック図である。移動体端末は、例えば、情報取得部401、参照情報記憶部402、信号観測部403、位置判定部404、及び位置情報送信部405を有する。なお、移動体端末は、不図示の表示部を有してもよく、例えば、判定された位置を、地図上などに表示してもよい。
【0032】
情報取得部401は、基地局を介して位置指紋提供装置から、参照位置と、その参照位置における複数の基地局からの無線信号の観測値又は予測値である参照値とを取得する。なお、情報取得部401は、各基地局がブロードキャストしている参照位置及びその参照位置における参照値の情報を取得してもよい。情報取得部401は、取得した情報を、参照情報記憶部402に記憶させる。
【0033】
参照情報記憶部402は、情報取得部401から受け取った情報を記憶する。なお、参照情報記憶部402は、各参照情報(参照位置及びその対応する参照値の情報)に対して、情報取得部401から情報を受け取った時間を関連付けて記憶しておいてもよい。そして、参照情報記憶部402は、例えば、受け取ってから所定時間以上経過した参照情報を削除してもよく、又は、記憶している参照情報の量が所定量を超える場合に、受け取った時刻が古い順から削除して、記憶している参照情報を更新してもよい。また、参照情報記憶部402は、情報取得部401から情報を受け取るごとに、全参照情報を上書きしてもよい。すなわち、古い参照情報はすべて削除してもよい。さらに、参照情報記憶部402は、移動体端末の移動速度に応じて、参照情報の削除方法を切り替えてもよい。例えば、移動体端末が高速移動している場合は、最新の参照情報以外の参照情報に対応する地理的領域から外れた位置に存在する確率が高い。したがって、参照情報記憶部402は、移動体端末が所定の速度以上で移動している場合は、情報取得部401から受け取った情報で過去の情報を上書きし、移動速度が所定値未満である場合は、受け取った時刻が古い順から情報を削除するようにしてもよい。また、移動速度に応じて、削除される情報を定める時刻を変動させてもよい。すなわち、高速移動中は、現在時刻に近い時刻を、削除される情報を定める時刻として設定し、低速移動中は、現在時刻から遠い時刻を、削除される情報を定める時刻として設定してもよい。
【0034】
信号観測部403は、複数の基地局からそれぞれ受信した無線信号(電波)の特徴量を観測により取得する。ここで、特徴量は、例えば、移動体端末と通信を行った基地局(サービング基地局)又はその隣接基地局などの移動体端末の周囲の基地局の識別子と、各基地局に対する電波伝搬損失、受信信号強度(RSSI、RSRP)、SINRなどを含む。
【0035】
位置判定部404は、観測により得られた無線信号の特徴量と、参照情報記憶部402に記憶された参照値とを比較して、フィンガープリント測位によって、移動体端末の位置を判定する。
【0036】
ここで、具体的な位置の判定方法の例について、観測値及び参照値として、特徴量の分布が用いられる場合について説明する。分布は、特徴量の値が、複数に区分された値域のうちのどの値域に含まれるかの頻度(度数をサンプル数で除算したもの)として表される。位置判定部404は、例えば、参照位置がI個存在する場合、それぞれの参照位置に対して以下のd
i(1≦i≦I)を、
のように計算する。ここで、Pは判定に用いる基地局の個数である。ここで、複数の基地局のそれぞれが送信した信号について、受信点において観測された特徴量の分布が存在する。このため、上述の式は、複数の基地局についてそれぞれ存在する分布のうち、P個の基地局についての分布のみを判定において考慮することを示す。Pは1以上の整数である。Jは、例えば、参照情報記憶部402に記憶される分布における、特徴量(例えばRSRP)の値域の個数である。例えば、分布において、全体で30dBmの幅を1dBmの幅で区切って、その区切られた区間(値域)に含まれる特徴量が生じた度数をカウントした場合は、J=30となる。また、ρ
i,p,jは、i番目の参照位置についての、p番目の基地局についての分布に関する、j番目の値域に含まれる特徴量が生じた頻度(確率)を示す。また、r
p,jは、測位対象の移動体端末における、p番目の基地局からの無線信号の特徴量の観測値が、j番目の特徴量の値域に含まれる確率を示している。
【0037】
上述のd
iの計算により、参照位置に関して予め生成された、各基地局からの無線信号の特徴量の分布と、測位対象の移動体端末において観測された各基地局からの無線信号の特徴量の分布とがどれほど異なるかを判定することができる。そして、位置判定部404は、移動体端末において観測された分布との相違が最小となる分布に対応する参照位置を、移動体端末が存在する位置と判定する。すなわち、位置判定部404は、算出したI個のd
i(1≦i≦I)のうち、値が最小となるi
0を判定し、i
0番目の参照位置に移動体端末が存在すると判定する。なお、上述の方法は一例であり、分布ではなく、例えば、参照位置における無線信号の特徴量の平均値を参照値として記憶しておき、その参照値と、移動体端末で測定した無線信号の特徴量の観測値との差分に基づいて、位置判定が行われてもよい。
【0038】
位置情報送信部405は、例えば、判定された位置の情報を、基地局を介して位置指紋提供装置へ通知する。また、位置情報送信部405は、各基地局の少なくともいずれかに対して、参照位置と参照値に関する情報を要求する要求信号を送信してもよい。この場合、各基地局は、自らが有する参照位置と参照値とを、この要求信号に応じて、移動体端末へ通知する。なお、要求信号に、それまでの移動体端末における測位の結果が含まれてもよい。なお、ここで通知される測位の結果は、フィンガープリント測位の結果に限らず、例えばGPSなどの他の測位方法による測位の結果が通知されてもよい。このような測位の結果を通知することにより、移動体端末は、自らの位置を含む地理的領域に対応する参照位置及び参照値の情報を取得することができる。なお、移動体端末が、各基地局がブロードキャストした情報のみを使用する場合など、位置情報の通知と、参照位置及び参照値の要求とをする必要がない場合は、位置情報送信部405はなくてもよい。
【0039】
なお、移動体端末は、自らの位置の時間変化に基づいて、自らの移動速度と移動方向とを推定し、位置情報送信部405は、これらの情報の少なくともいずれかを、基地局または位置指紋提供装置へ通知してもよい。また、これらの情報は、上述の要求信号に含まれてもよい。移動速度の情報を通知することにより、移動体端末は、高速移動中であっても、フィンガープリント測位を実行する時点で、取得した情報に対応する地理的領域の外に位置することとなることを防ぐことが可能となる。また、低速移動中は、取得する情報を抑えながらも、高精度なフィンガープリント測位を実行することが可能となる。同様に、移動方向の情報を通知することにより、移動方向に対して広い地理的領域に対応する参照位置と参照値を取得することができるため、移動体端末は、測位時に、取得した情報に対応する地理的領域の外に位置することとなることを防ぐことが可能となる。
【0040】
さらに、移動体端末は、自らの位置の属性の情報を推定し、位置情報送信部405は、この情報を位置指紋提供装置へ通知することができる。例えば、高速道路のインターチェンジのゲートに備えられた通信装置と通信したことに応じて、高速道路上に位置することを、位置指紋提供装置へ通知してもよい。同様に、移動体端末は、ビル内へ入ったこと、鉄道に乗車したことなどを推定することができる場合は、それを位置指紋提供装置へ通知することができる。これにより、移動体端末は、例えば高速道路若しくは線路沿いの地理的領域、又はビルの各階に対応する参照位置と参照値などの、適切な情報を取得することができ、取得する情報量を抑えながら、高精度なフィンガープリント測位を実行することができる。
【0041】
(位置指紋提供装置と移動体端末が実行する処理)
図5に、位置指紋提供装置が実行する、提供する参照位置の特定と、参照値の通知処理の流れを示す。位置指紋提供装置は、まず、基地局がブロードキャストする参照位置の範囲または移動体端末の位置を含む地理的領域を特定する(S501)。このとき、基地局がブロードキャストする参照位置の範囲は、例えば、その基地局が展開するセルの地理的領域、またはそれより大きい地理的領域として特定される。このようにすることにより、その基地局からブロードキャストされた参照位置と参照値との情報を受信できる移動体端末であれば、その位置が通知された情報に対応する地理的領域に含まれることとなる。なお、基地局が無線LANのアクセスポイントなどの可搬装置である場合は、位置指紋提供装置は、基地局の位置の情報を、その基地局から取得して、その取得した位置に応じて、地理的領域を特定することもできる。
【0042】
また、位置指紋提供装置は、移動体端末の位置を含む地理的領域を特定する場合は、例えば、移動体端末からの参照情報の要求信号に含まれた位置の情報に基づいて、その位置を含む円または多角形の地理的領域を特定する。このとき、位置指紋提供装置は、要求信号に移動体端末の移動速度と移動方向とのいずれかが含まれている場合は、これらを考慮して、地理的領域の拡大と縮小、及び変形を行ってもよい。なお、位置指紋提供装置は、移動体端末の位置の情報の時間変化に応じて、移動速度及び移動方向を推定してもよい。また、位置指紋提供装置は、移動体端末から、移動体端末が受信した無線信号の特徴量の観測値の情報を取得して、その観測値に基づいて、地理的領域(例えば参照位置のグループ)を特定してもよい。さらに、位置指紋提供装置は、例えば、移動体端末が所定の通信装置と通信したことを把握し、高速道路若しくは鉄道に乗ったことまたはビルへ入ったことなどを特定することができる。そして、位置指紋提供装置は、その特定結果に応じて、道路若しくは線路沿いの領域またはビルの各階などを、参照情報を提供する対象となる地理的領域として特定することができる。
【0043】
次に、位置指紋提供装置は、特定した地理的領域に対応する参照位置と、その参照位置に対応する参照値とを、DBから抽出する(S502)。そして、抽出された参照位置及び参照値の情報が、移動体端末へ通知される(S503)。このようにして、位置指紋提供装置は、DBに記憶された参照情報の一部のみを、移動体端末へ通知することができる。
【0044】
図6に、移動体端末が実行する、参照情報の取得と、位置の判定処理の流れを示す。まず、移動体端末は、位置指紋提供装置から、複数の基地局の少なくともいずれかを介して、移動体端末自身の位置を含む地理的領域に対応する参照位置と、その参照位置における参照値の情報とを取得する(S601)。移動体端末は、例えば、まだ測位を実行しておらず、自らの位置の情報が不明である場合は、基地局からブロードキャストされる情報から、この参照位置と対応する参照値の情報とを取得する。また、移動体端末は、すでにフィンガープリント測位を実行している場合はその結果を、又は、GPS等による測位が可能である場合は、その測位結果を、参照情報を要求するための要求信号に含めて、基地局を通じて位置指紋提供装置へ送信してもよい。また、移動体端末は、測位結果の時間変化に応じて、自らの移動速度と移動方向とを推定して、その推定結果を位置指紋提供装置へ通知してもよい。また、移動体端末は自らの位置等に代えて、受信した無線信号の特徴量の観測値を、位置指紋提供装置へ通知してもよい。
【0045】
その後、移動体端末は、無線信号の特徴量を観測し、取得した参照値と、無線信号の特徴量の観測値とを比較して、その比較の結果、例えば最も近い値の参照値に対応する参照位置を移動体端末自身の位置として判定する(S602)。このとき、比較対象の参照位置及びその対応する参照値は、移動体端末の位置を含む部分的な地理的領域に関するものに限定されているため、移動体端末は、演算量と記憶容量とを抑えながら位置を判定することが可能となる。なお、比較の結果、参照値と観測値との差の絶対値が所定値以上となるような場合、すなわち、観測値と近い参照値がない場合は、移動体端末は、位置指紋提供装置に対して、参照値を再度要求する要求信号を送信してもよい。
【0046】
以上のように、位置指紋提供装置は、全参照情報(参照位置及びその対応する参照値の情報)のうち、一部の参照位置に対応するもののみを移動体端末へ通知する。そして、移動体端末は、その通知された参照情報のみを記憶し、その記憶された情報のみを用いてフィンガープリント測位を実行するため、少ない記憶容量と演算量とで、高精度な測位を実行することが可能となる。