(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、車両用エアコンを作動させる際に使用する圧縮機に適用した場合を例に挙げて説明する。
図1は、実施の形態にかかる吸着式熱交換器100を適用した圧縮機1を説明する図である。なお、
図1では、圧縮機1の形状を、説明の便宜上、模式的に示している。
【0011】
圧縮機1は、吸着式熱交換器100の吸着材が、水分などの吸着質を吸着する力(吸着力)を利用して、吸着式熱交換器100を収容した容器10内の圧力を変化させる装置であり、例えば車両用の空調装置に採用されている。
【0012】
この圧縮機1では、円筒形状の容器10の一端側に、図示しないエバポレータ(蒸発器)に接続された供給管12が接続されており、他端側に、図示しないコンデンサ(凝縮器)に接続される排出管14が接続されている。
【0013】
圧縮機1では、エバポレータ側から供給管12を介して供給された流体が、容器10内を通過したのち、排出管14を介してコンデンサ側に供給されるようになっている。
そして、流体が容器10内を通過する際に、容器10内に配置された吸着式熱交換器100で、流体に含まれる吸着質の吸着、または吸着式熱交換器100の吸着材に吸着されている吸着質の放出を行うことで、容器10内の圧力が減圧、または加圧されるようになっている。
【0014】
以下、吸着式熱交換器100の具体的な構成を説明する。
図2は、実施の形態にかかる吸着式熱交換器100を説明する図であり、(a)は、吸着式熱交換器100の平面図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面の拡大図である。
図3は、
図2の(a)における領域Pの拡大図である。
なお、
図2および
図3では、吸着式熱交換器100および混合材200を、説明の便宜上、模式的に示している。
【0015】
吸着式熱交換器100は、分岐用タンク120と合流用タンク140との間で互いに並列に配置した伝熱管130と伝熱管130の間隙L1に、高分子系の吸着材210と繊維状の伝熱促進部材220の混合材200を充填した基本構成を有している。
【0016】
吸着式熱交換器100では、熱交換媒体B(温水または冷水)が供給される供給管110と、複数の伝熱管130の一端とが、分岐用タンク120を介して接続されており、供給管110を介して供給された熱交換媒体Bが、分岐用タンク120で分岐されて、各伝熱管130に供給されるようになっている。
さらに、複数の伝熱管130の一端と、排出管150とが、合流用タンク140を介して接続されており、各伝熱管130を通流した熱交換媒体Bが、合流用タンク140を通って、排出管150から排出されるようになっている。
【0017】
伝熱管130は、熱伝導率の高いアルミニウムまたは銅で形成された筒状の部材であり、内部を流れる熱交換媒体Bの高温/低温の熱を、隣接する伝熱管130との間隙L1に充填された混合材200に伝達するために複数設けられている。
【0018】
吸着式熱交換器100は、複数の伝熱管130を容器10の長手方向に対してほぼ直交させた向きで容器10内に配置されており、複数の伝熱管130は、容器10内を通過する流体の移動方向を横切る向きで配置されている(
図1参照)。
【0019】
この吸着式熱交換器100では、伝熱管130内を通流させた高温/低温の熱交換媒体Bにより伝熱管130を加熱/冷却することで、伝熱管130と伝熱管130との間隙L1に充填された混合材200が加熱/冷却されて、混合材200に含まれる吸着材210が、容器10内を通過する流体に含まれる吸着質の吸着、または吸着式熱交換器100の吸着材210に吸着されている吸着質の流体への放出を行うようになっている。
【0020】
ここで、例えば、圧縮機1の容器10内を通過する流体が水分(吸着質)を含む気体である場合には、混合材200(吸着材210)を冷却すると、気体中の水分が吸着材210に吸着されて、容器10内の圧力が低下し、混合材200(吸着材210)を加熱すると、吸着材210に吸着されていた水分が放出されて、容器10内の圧力が上昇することになる。
【0021】
以下、混合材200について説明する。
図2の(b)および
図3に示すように、混合材200は、各々の伝熱管130と伝熱管130の間隙L1を含む想像線Sで示す範囲に設けられている。
【0022】
実施の形態では、粒子状の吸着材210に、繊維状の伝熱促進部材220を混合したものを混合材200として採用している。
【0023】
吸着材210は、高分子系の吸着材(収着剤)であり、水との親和性の高い官能基を有する高分子系の材料を粒子状にしたものや、表面に多くの微細孔が形成された多孔質構造の球状の架橋高分子材料などを採用している。
このようなものとして、例えば、三菱化学製のダイヤイオン(登録商標)やセパビーズ(登録商標)が挙げられる。
【0024】
ここで、高分子材料から成る吸着材210は熱伝導率が低いので、伝熱管130から伝熱された熱が、伝熱管130から離れた位置にある吸着材210まで伝わり難くなっている。
特に、実施の形態では、粒子状の吸着材210を採用しており、粒子状の吸着材210は、隣接する他の粒子状の吸着材210との接触面積が小さいので、伝熱管130、130の間隙L1に充填した混合材200を、粒子状の吸着材210のみにすると、伝熱管130から離れた位置にある粒子状の吸着材210への熱の伝わりがさらに悪くなる。
【0025】
そのため、実施の形態では、吸着材210に、伝熱材としての役割を果たす繊維状の伝熱促進部材220を混ぜており、伝熱管130から離れた位置にある吸着材210であっても、伝熱促進部材220を介して、熱を伝えることができるようにしている。
【0026】
伝熱促進部材220は、吸着材210よりも高い熱伝導率の材料で形成されており、実施の形態では、銅(銅合金を含む)やアルミニウム(アルミニウム合金を含む)などの非鉄系の金属材料や、鉄系の金属材料(鉄)から、伝熱促進部材220を構成している。
【0027】
なお、伝熱促進部材220を構成する材料は、伝熱管130を構成する材料との電位差が小さいものであることが好ましい。
圧縮機1の容器10内を通流する流体が水である場合には、伝熱促進部材220を構成する材料と、伝熱管130を構成する材料との電位差が大きいと、一方の材料が腐食する虞れがあるからである。
【0028】
伝熱促進部材220は、上記の金属材料を繊維状にしたものであり、実施の形態では、平均長さが伝熱管130と伝熱管130の間隙L1の1/2以上であるものを、伝熱促進部材220として採用している。
【0029】
図3に示すように、実施の形態において伝熱促進部材220は、伝熱管130の近傍領域(第1領域Q1)での密度のほうが、隣接する伝熱管130と伝熱管130の中間領域(第2領域Q2)での密度よりも高くなるように設けられており、伝熱管130に近づくにつれて、伝熱促進部材220の密度が高くなっている。これは、伝熱材としての役割を果たす伝熱促進部材220と伝熱管130との接触機会を増やすためである。
【0030】
ここで、伝熱促進部材220は、長手方向における一端側が、伝熱管130の表面と接触し、他端側が、隣接する伝熱管130、130の間の領域(第2領域Q2)内に位置するように設けられていることが好ましい。
そして、伝熱促進部材220は、伝熱管130の径方向に延びるように配置されており、伝熱管130周りの周方向で、放射状に配置されることが好ましい。
【0031】
このように伝熱促進部材220を設けると、伝熱促進部材220が、伝熱管130、130の間隙L1に充填された混合材200内の略全域に行き渡るので、伝熱管130から離れた位置にある吸着材210であっても、伝熱促進部材220と接触している限り、伝熱管130の高温/低温の熱を伝達できるようになる。
【0032】
つまり、伝熱管130が加熱/冷却されると、伝熱管130の表面と接触している伝熱促進部材220が始めに加熱/冷却されたのち、この加熱/冷却された伝熱促進部材220に接触している吸着材210が全長に亘って加熱/冷却されるので、伝熱管130から離れた位置にある吸着材210であっても、伝熱促進部材220に接触している限り、伝熱促進部材220を介して伝達された熱により加熱/冷却されることになる。
よって、伝熱管130から離れた位置にある吸着材210を、応答性良く加熱/冷却することができるので、吸着材210への吸着質の脱離/吸着を適切に制御できることになる。
【0033】
前記したように、伝熱促進部材220は、隣接する伝熱管130、130の間隙L1の1/2以上の長さのものが用いられている。
そのため、伝熱促進部材220が、複雑に屈曲した状態で間隙L1内に配置された場合であっても、伝熱促進部材220の他端側が、隣接する伝熱管130、130の間の中間領域(第2領域Q2)まで到達できるようになっている。これにより、伝熱管130から離れた位置にある吸着材210に、伝熱管130の高温/低温の熱を確実に伝達できるようになっている。
【0034】
また、伝熱促進部材220の長さを、隣接する伝熱管130、130の間の間隙L1の1/2以上の長さにすることで、隣接する伝熱管130、130のうちの一方から延びる伝熱促進部材220と、他方から延びる伝熱促進部材220とが、伝熱管130、130の間の中間領域(第2領域Q2)で絡み合うように設けられるようになっている。
そのため、伝熱材(熱媒体)としての役目を果たす伝熱促進部材220により、伝熱管130、130の間の中間領域(第2領域Q2)の略全域に亘って、伝熱管130の高温/低温の熱を伝達できるようになる。
【0035】
なお、伝熱促進部材220を、隣接する伝熱管130、130の両方に接触するように設けるようにしても良い。このようにすると、1本の伝熱促進部材220に対して、ふたつ伝熱管130、130から熱が伝わるようになるので、伝熱管130、130を加熱/冷却した際に、伝熱促進部材220をより迅速に加熱/冷却できるようになることが期待されるからである。
【0036】
次に、吸着材210と伝熱促進部材220の混合および間隙L1への充填方法の一例について説明する。
【0037】
初めに、隣接する伝熱管130、130の間の間隙L1に、伝熱促進部材220を充填する。
ここで、伝熱管130、130の間での伝熱促進部材220の保持は、(a)伝熱促進部材220を伝熱管130の外周に絡めるように設ける、(b)伝熱管130の外周に塗布した接着剤に接着させる、などの伝熱管130、130の間に伝熱促進部材220を保持させることのできる任意の方法にて行うことができる。
【0038】
(b)の方法にて、伝熱促進部材220を伝熱管130に保持させる場合には、伝熱管130の外周の全周に亘って接着剤を塗布するのではなく、伝熱促進部材220の端部のみを接着するように設けることが好ましい。
この場合には、端部側が伝熱管130に保持された繊維状の伝熱促進部材220の端部側を、伝熱管130の外周のうち接着剤が塗布されていない領域に巻き付けるようにして設けることで、伝熱管130を加熱/冷却した際の熱を、伝熱管130の外周に巻き付けた部分から伝熱促進部材220に伝えることができるので、接着剤が熱伝導性の低い材料で構成されている場合であっても、伝熱促進部材220の加熱/冷却が阻害されないようにすることが可能だからである。
【0039】
続いて、伝熱促進部材220が配置された伝熱管130、130の間の間隙L1に、粒子状の吸着材210を充填する。
この際に、伝熱促進部材220の上に吸着材210を散布したのち、いわゆるタッピングによる振動を加えて、絡み合った伝熱促進部材220の間に吸着材210が入り込むようにすることが好ましい。
【0040】
なお、吸着材210の脱落を防止するために、気体透過性の材料から成るシートであって、吸着材210の粒子径よりも小さい開口を有するものを、吸着式熱交換器100で並列に配置された伝熱管130を囲むように設けて、このシートの内側に、吸着材210と伝熱促進部材220との混合材である混合材200を収容して、混合材200と、伝熱管130、130の間隙L1と、伝熱管130の周囲に配置するようにしても良い。
【0041】
このようにして、吸着材210と伝熱促進部材220との混合材である混合材200を、伝熱管130の間隙L1に充填すると、伝熱管130、130の間隙L1と、伝熱管130の周囲に混合材200が配置された吸着式熱交換器100を得ることができる。
【0042】
さらに、吸着材210と伝熱促進部材220の混合材に、吸着材210の吸着性能が大きく損なわれない程度の圧力をかけることで、混合材200を所定の形状を保持できる程度で成型し、成型した混合材を伝熱管130の間隙L1に充填するようにしても良い。
【0043】
以上の通り、実施の形態では、
伝熱管130の加熱/冷却により混合材200を加熱/冷却して、混合材200への水分(吸着質)の脱離/吸着を行うように構成した吸着式熱交換器において、伝熱管130を、間隙L1を空けて複数設けると共に、間隙L1に、粒子状の吸着材210(高分子系の吸着材)と、吸着材210よりも熱伝導性の高い繊維状の伝熱促進部材220を混ぜた混合材を充填する構成とした。
【0044】
吸着材210は、熱伝導性が低いので、伝熱管130の間隙L1に充填した混合材200を粒子形状の吸着材210のみにすると、伝熱管130から離れた位置にある吸着材210への熱の伝わりが悪くなる。そうすると、伝熱管130を加熱/冷却した際に、吸着材210を応答性よく加熱/冷却することが難しくなるので、吸着材210への水分(吸着質)の脱離/吸着の制御が難しくなる。
上記のような構成にすると、混合材200には、吸着材210の他に、吸着材210よりも熱伝導性の高い繊維状の伝熱促進部材220が混ぜられているので、この伝熱促進部材220が伝熱材の役割を果たすことで、伝熱管130の熱を、伝熱促進部材220を介して高分子系の吸着材210の全体に確実に伝えることができる。
【0045】
繊維状の伝熱促進部材220は、少なくとも長手方向の一端側が伝熱管130に接触して設けられている構成とした。
【0046】
このような構成にすると、繊維状の伝熱促進部材220は、伝熱管130の熱を長手方向の他端側まで伝達できるので、伝熱管130から離れた位置にある吸着材210であっても、伝熱促進部材220に接触している限り熱を伝えることができるので、伝熱管130を加熱/冷却した際に、伝熱管130から離れた位置にある混合材200を応答性良く加熱/冷却して、混合材200に含まれる吸着材210への水分(吸着質)の脱離/吸着を適切に制御できるようになる。
【0047】
前記した実施の形態では、伝熱促進部材220は、銅やアルミ二ウムなどの非鉄金属や鉄などの金属である場合を例示したが、吸着材210よりも熱伝導率が高い材料や、熱伝導率が高く、さらに吸着材としても機能する材料であれば、これらの非鉄金属や金属の代わりに採用することが可能である。
このような材料として、例えば、鉄などの金属繊維、銅やアルミニウムなどの非鉄金属繊維、炭素繊維、活性炭繊維、またはこれらの混合材料も好適に使用可能である。
また、グラファイト、シリカゲル、活性アルミナ、活性ボーキサイト、合成シリカゲルなどを繊維形状とした材料や、またはこれらの材料を組み合わせた繊維材料も好適に使用可能である。
【0048】
このように構成することによっても、前記した実施の形態の場合と同様の効果が奏されることになる。
【0049】
さらに、前記した実施の形態では、高分子系の吸着材が粒子状である場合を例に挙げて説明をしたが、繊維状に形成した高分子系の吸着材を用いるようにしても良い。
このようにすると、混合材200を、繊維状の高分子系の吸着材と繊維状の伝達促進部材とを絡めて構成すると、混合材200に特定の形状を持たせることが可能となるので、伝熱管130、130の間隙への混合材の充填を容易に行えるようになることが期待される。
【0050】
なお、前記した実施の形態では、伝熱促進部材220が高分子吸着材210よりも高い熱伝導率の金属材料である場合を例に挙げて説明をしたが、伝熱促進部材220は、伝熱管130との電位差が小さい金属材料から構成することが好ましい。
このように構成すると、圧縮機1の容器10内を通流する流体が水である場合には、伝熱促進部材220を構成する材料と、伝熱管130を構成する材料との電位差が小さいので、電位差に起因する腐食を防止することができる。
【0051】
なお、前記した粒子状の高分子系の吸着材と繊維状の伝達促進部材との混合材を、熱導電性の高い繊維を編み込んで形成した袋に収容し、混合材を収容した袋を、伝熱管130、130の間隙L1に充填するようにしても良い。
このように得することによっても、伝熱管130、130の間隙への混合材の充填を容易に行えるようになることが期待されると共に、伝熱管130、130の熱を、袋の内部に収容された混合材に迅速に伝えることができる。
【0052】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれる。