(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ジルコニウム(Zr)合金は、耐食性に優れることから、化学製品製造装置・機器用材料に用いられている。また、Zr合金は、熱中性子吸収断面積が小さいことから、燃料被覆管、チャンネルボックスなどの原子炉内機器用材料として用いられている。
【0003】
例えば、加圧水型や沸騰水型に代表される軽水炉の核燃料被覆管、スペーサ及びチャネルボックスには、ASTM規格のB811に既定されるR60802若しくはR60804、又はJIS規格のH4751に既定されるZrTN802D若しくはZrTN804Dなど、質量%で1.2%以上1.7%以下の錫(Sn)を含有するZr合金が使用されている。
【0004】
原子炉内機器用材料の使用環境においては、Zr合金といえども長時間の使用により腐食が進行する。例えば燃料棒においては、ウランペレットの温度の上昇によりFPガス(気体状態の核分裂生成物(Fission Product:FP)放出を加速し、内圧を上昇させて被覆管の破壊を招く可能性や、腐食の進行に伴い、水素吸収量が増加して水素脆化の原因にもなりうる。このことから、腐食は、Zr合金から構成される機器の使用寿命を決める一つの要因と考えられている。
【0005】
Zr合金で構成された機器を長時間使用するためには、耐食性の更なる向上が望まれる。このため、Zr合金の耐食性を向上させることを目的として、製造プロセスの改良、合金組成の改良等が検討されている。
【0006】
Zr合金は、常温で安定なα相(六方最密充填構造:HCP)に対して、合金組成によって変態温度が変化するものの、約950℃以上の高温で安定なβ相領域が存在し、その中間にα+βの2相領域が存在する。
【0007】
Zr合金材料の製造工程においては、溶解に続いて鍛造を行って作製したビレットに対して、耐食性向上や材質全体の均質化を目的としてβ単相領域に保持後急冷するβ焼入れと呼ばれる溶体化処理を施す。β焼入れ後、必要であれば熱間加工を行い、それに続いて、α+β相領域若しくはα相領域における焼鈍しを挟みながら冷間加工を繰り返して、所定の部材の形状に成形する。なお、上記の溶体化処理は、α+β相領域に保持して急冷する場合もある。
【0008】
β焼入れ後の形状成形工程においては、合金の集合組織形成及び析出物の生成・成長を考慮して、適正な条件になるように加工度や焼鈍し条件を制御している。集合組織は、合金の照射成長、水素脆化などに関わり、析出物は耐食性に関わる。析出物が大きく成長すると、耐食性を損なうため、β焼入れ後の形状成形工程における熱履歴は、高温に長時間保持されることを避けるように制御されている。一般にβ焼入れの冷却速度が高いと耐食性が向上する。これは、析出物の大きさと相関があると考えられている。
【0009】
Zr合金の耐食性向上の技術として、例えば特許文献1(特開平7‐90521号公報)には、微細な析出物を含有する外部領域と粗大な析出物を含有する内部領域とから成るジルカロイ(Zr合金)製被覆管が開示されており、被覆管の軸方向の亀裂成長、亀裂の発生および腐食に対して抵抗性を向上できるとされている。微細な析出物が管の外部領域のみに限定されるような不均一な析出物分布状態を実現する方法として、1つの工程に際して管の外部領域および内部領域を相異なる温度に維持する方法がある。これは、誘導加熱処理操作によって簡便に達成される。一般に、管の内部に冷却水を流しながら誘導コイル内において管が加熱される。その結果、外部領域の温度は十分に上昇してβ相への転移が起こるのに対し、内部領域の温度は低いレベルに維持され、従って粗大な析出物を含有する組織が保存される。次いで、管を急速に冷却すれば、外部領域中のみに小さい析出物が得られる。
【0010】
また、特許文献2(特開2012‐102349号公報)には、質量%でSn:0.001〜1.9%、Fe:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.3%、Ni:0.001〜0.3%、Nb:0.001〜3.0%、0.027%以下のC、0.025%以下のN、4.5%以下のHf及び0.16%以下のOを含み、残部が不可避不純物とZrとからなるZr合金で形成され、少なくとも表面部に塑性ひずみ3以上又はビッカース硬さで260HV以上となる冷間加工を施工し、前記冷間加工を施工した層を残した状態でその表面を機械的又は化学的な研磨手法によって平坦化したものであることを特徴とする高耐食Zr合金材料が開示されている。特許文献2によれば、高い耐食性を有するZr合金材料を提供できるとされている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について、より具体的に説明する。ただし、本発明は、ここで取り上げた実施の形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
【0017】
(本発明の基本思想)
一般に、Zr合金の母材中に存在するFe、Cr及びNiの成分は、母材には固溶せず、母材と異なる化学組成を有する結晶構造を有する析出物を生成することが知られている。これらの析出物は化学式Zr(Fe,Cr)
2およびZr
2(Fe,Ni)によって表わされる。
【0018】
腐食や水素吸収に及ぼすFe、CrおよびNiの影響について、そのメカニズムは明確にはなっていないが、Fe、CrおよびNiの添加の有無や添加量により腐食や水素吸収の挙動が変化するので、腐食や水素吸収にはFe、CrおよびNiの金属間化合物が関係していることは明らかである。
【0019】
本発明者らは、Zr合金材料における上記析出物と耐食性の関係について鋭意研究を行った。その結果、Zr合金において、Zr、Cr及びFeを含有する結晶性析出物と、Zr、NiおよびFeを含有する非晶質性析出物とが混在した層を外表面に設けることで、使用初期の耐食性を向上させ、かつ高い耐食性を長期間維持できることを見出した。本発明は、該知見に基づくものである。
【0020】
上記特許文献1のように、外側層の析出物を微細化すると、十分な耐食性を長時間得ることができない可能性があることが知られている。また上記特許文献2では、特定の組成のZr合金において、腐食の起点となる析出物をZr合金基材に固溶させることで高耐食性を得ており、析出物を非晶質化させるものではない。
【0021】
(Zr合金材料)
図1は本発明に係るZr合金材料の一例を示す断面模式図である。
図1に示したように、本発明に係るZr合金材料100は、基材101と、基材101の外表面に設けられた外表面層102とを有する。
【0022】
外表面層102は、Zr、Cr及びFeを含有する結晶性析出物と、Zr、NiおよびFeを含有する非晶質性析出物とが混在した層である。本発明者らが析出物と水素吸収低減効果について調査したところ、Zr、NiおよびFeを含有する析出物がZr合金の水素吸収に影響を及ぼしていること、及びZr、NiおよびFeを含有する析出物を非晶質化することにより、水素吸収を低減できることを見出した。
【0023】
水素吸収低減効果のメカニズムについては明らかにされていないが、Zr、NiおよびFeを含有する析出物を非晶質化することにより、Zr合金表面の酸化皮膜(ZrO
2)にFeが拡散することが関係しているものと考えられる。さらに、全ての析出物が非晶質化していると酸化皮膜に拡散するFeが欠乏してしまい、水素吸収の抑制効果が無くなるため、非晶質性析出物に結晶性析出物が混在している必要があると考えられる。このように、本発明では結晶性析出物と非晶質性析出物とを意図的に混在させることに特徴がある。
【0024】
結晶性析出物及び非晶質性析出物の総数に占める非晶質性析出物の存在比は、20%以上80%以下
とする。結晶性析出物及び非晶質性析出物がこのバランスにあるときに、より大きな水素吸収低減効果を得ることができる。
【0025】
なお、ここで「結晶性析出物及び非晶質性析出物の総数」は、Zr合金材料表面をTEMで観察を行った際に、ある一定の視野を占める結晶性析出物の数(a)と非晶質性析出物の数(b)の和(a+b)であり、「非晶質性析出物の存在比」は、非晶質性析出物の数(b)を総数(a+b)で割って100を掛けた値である。上記存在比(20%以上80%以下)は、複数の視野において(b/(a+b))×100を算出し、平均した値である。
【0026】
本発明に係るZr合金材料
は、1.2質量%以上2質量%以下のSn、0.07質量%以上0.55質量%以下のFe、0.05質量%以上0.15質量%以下のCr、0.03質量%以上0.16質量%以下のNiとを含み、残部が
不可避不純物とZrであ
る。また本発明は、ジルカロイ‐2の合金組成に好適である。
【0027】
外表面層102は、厚さ1μm以上50μm以下の強加工層であることが好ましい。ここで、強加工層とは加工により極度に変形した層のことである。基材101に強加工を施すことによって、上述した結晶性析出物と非晶質性析出物とが混在する外表面層102を得ることができる。強加工の方法については、追って詳述する。
【0028】
水素吸収抑制反応は、酸化皮膜とZr合金材料との境界近傍にて起きるものと推測される。実環境では、健全な状態においては、最大で50μmの厚さの酸化皮膜が形成されることから、1μm以上50μmの範囲の厚さの外表面層(強加工層)を形成することが望ましい。
【0029】
図2は本発明に係る燃料被覆管の一例を示す断面模式図である。
図2に示したように、本発明に係る燃料被覆管20は、基材21と、基材21の外表面に設けられた外表面層22と、基材21の内表面に設けられたZrライナー23とを有する。すなわち、本発明に係る燃料被覆管20は、
図1の構成に加えてZrライナー23が設けられている。
【0030】
Zrライナー23は、本発明に係るZr合金材料を沸騰水型原子炉の燃料被覆管に適用する場合に設けられるものである。これは燃料被覆管においてPCI(Pellet‐Clad‐Interaction)を防止するために基材21の内面にライニングされるもので、ペレットと燃料被覆管との相互作用を軽減するためのものである。本発明に係るZr合金材料は、上述したとおり外表面層22がZr、Cr及びFeを含有する結晶性析出物と、Zr、Ni及びFeを含有する非晶質性析出物とを含むことにあり、Zrライナー23には特に限定は無く、従来のものを用いることができる。材質としては純Zrが好適である。
【0031】
(Zr合金材料の作製方法)
次に、上述したZr合金材料の作製方法について説明する。
図3は本発明に係るZr合金材料を作製するための加工装置の一例を示す模式図である。
図3に示したように、加工装置200は、切削工具201、送り機構202、マンドレル203から構成される。切削工具として例えば、φ20mmのエンドミルを用いることができる。切削工具は突出量の調節により、切り込み深さを変えることが可能である。送り機構202は、Zr合金材料100´を支持すると共に、所定の速度で回転させながら軸方向(
図2中左端にある矢印方向)に送り出す。マンドレル203は、Zr合金材料100´の内側に挿入して使用する。加工時の歪みを防止し、効率的に外表面層102(加工層)を付与するのに必要なものである。
【0032】
上記の構成により、Zr合金材料100´を切削加工することにより、外表面層102を形成することができる。施工条件に特に限定は無いが、過度の加工は硬度を上昇させ製造過程および使用中のき裂発生の原因となる。そこで、最表層の硬さが、ビッカース硬さで300HV以下、好ましくは260HV以下となるように加工層を付与することが好ましい。ここで、硬さ260HVは相対ひずみ3に相当する。また、切削工具の回転速度が過小になったり、切り込み深さや管の回転速度および送り速度が過大になったりすると表面の粗さが増加し、適正な施工が難しくなるので、これらを適宜調整することが必要である。
【0033】
また、外表面層102を作製すると同時に平坦な表面を得る加工を行うこともできる。
図4は本発明係るZr合金材料を作製するための加工装置の他の一例を示す模式図である。
図4に示したように、加工装置300は、バニシング工具301、送り機構302、マンドレル303から構成される。バニシング工具301は、市販のもので良く、例えば、スパロールヘッド(株式会社スギノマシン社の登録商標)を用いることができる。
【0034】
バニシング工具301は、フランジ部、プーリーおよびローラーの主要な要素から構成される(図示せず)。フランジ部を固定し、プーリーを回転させることにより、内部のローラーが回転し、Zr合金材料100´´にバニシング加工をすると同時にZr合金材料100´´を軸方向(
図3中左端にある矢印方向)に送り出す。
【0035】
支持機構302は、軸方向に送りだされるZr合金材料100´´を支持する。マンドレル303は、Zr合金材料100´´の内側に挿入して使用する。加工時の歪みを防止し、効率的に析出物を非晶質化するのに必要である。
【0036】
上記の構成により、Zr合金材料100´´を切削加工して外表面層102を形成するとともに、外表面層を平坦化(表面粗さRa=1.0μm以下)することができる。表面を平坦化することにより、燃料被覆管100´´の表面への腐食生成物の付着を低減できる。
【0037】
なお、上記の施工条件は一例である。バニシング工具の回転速度が過小であったり、バニシング深さや送り速度が過大であったりすると、適正な施工が難しくなるので、これらを適宜調整することが必要である。
【0038】
上記作製方法の説明では管状のZr合金材料を作製する場合について述べたが、フライス盤を用いて板状のZr合金材料を作製することも可能である。前述した本発明に係るZr合金材料が得られるものであれば、加工方法や基材の形状は問わない。
【0039】
(燃料被覆管)
本発明に係る燃料被覆管の適用例について説明する。
図8は本発明に係る燃料被覆管を用いた燃料集合体の部分切欠斜視図である。
図8に示したように、燃料集合体500には燃料棒501が配置されている。燃料棒501は本発明に係るZr合金材料を使用した燃料被覆管が設けられ、内部にウランペレットを密封している。
【0040】
また、燃料集合体500はチャンネルボックス502で覆われており、チャンネルボックス502はその内側に冷却水の流路を形成したり、燃料集合体500に剛性を付与したりする。
【0041】
さらに、燃料集合体500にはスペーサ503が配置されている。スペーサ503は燃料棒501やウォーターロッド(図示せず)を支持すると共に、それらの間隔を一定に保つ。また、燃料棒501の曲がりや燃料被覆管におけるフレッティング腐食の原因となる過大な振動を防止する。
【0042】
図9は本発明に係る燃料被覆管を用いた燃料集合体の一例を示す断面模式図である。
図9に示したように、燃料集合体500の内部にはウォーターロッド504が配置されている。燃料集合体では、その外周側において燃料棒501の出力が高くなる特性があるが、ウォーターロッド504の設置により、中性子の減速材としての水が流入する領域が形成され、燃料集合体内の出力分布を平坦化できる。
【0043】
(チャンネルボックス)
本発明に係るチャンネルボックスについて説明する。
図10は本発明に係るチャンネルボックスの断面模式図である。
図10に示したように、チャンネルボックス502は角管形状をしており、U字状にした本発明に係るZr合金材料505を2つ突き合わせ、突き合わせ部506を溶接して製造される。U字状のZr合金材料505はZr合金板を折り曲げて製造される。Zr合金板として、表面および裏面を切削加工したものを用いることができる。
【0044】
(スペーサ)
本発明に係るスペーサ503は、本発明に係るZr合金材料の板材(Zr合金板)を格子状に折り曲げて製造される。Zr合金板として、Zr合金板の表面および裏面を切削加工して、表面及び裏面の両方に外表面層を形成したものを用いることができる。
【0045】
(ウォーターロッド)
図9に示したように、ウォーター504は、中空管の形状をしている。本発明に係るウォーターロッド504として、本発明に係るZr合金材料の中空管を用いることができる。Zr合金材料の中空管として、外表面および内表面を切削加工して、該表面及び内表面の両方に外表面層を形成したものを用いることができる。
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
本実施例では、上述した
図3の加工装置を用いて本発明に係るZr合金材料を作製し、水素吸収低減効果について調査した。
【0048】
(Zr合金材料の作製)
まず、基材として、その組成が質量%でSn:1.5%、Fe:0.15%、Cr:
0.1%、Ni:0.05%、0.027%以下のC、0.008%以下のN、0.010%以下のHf及び0.16%以下のOを含み、残部が不可避不純物とZrとからなるZr合金材料の原料を用意し、溶解に続いて鍛造を行って作製したビレットに対して、1000℃に保持後急冷する溶体化処理を施した。熱間加工を行った後、それに続いて、600℃における3hの焼鈍を挟みながら冷間加工を繰り返して、所定の部材の形状に成形した。最終仕上げとして、センタレス研磨を行い、外径:11.2mmに仕上げた。
【0049】
次に、
図3に示した加工装置を用いて外表面層を加工した。切込深さが0.2mmとなるように切削工具の突出量を調整し、切削工具を200rpmで回転させ、送り機構202により管材を1.5rpmで回転させながら27mm/minの速度で送り出し、切削加工を行って、本実施例の管状のZr合金材料を得た。
【0050】
(Zr合金材料の表面状態評価)
図5は本実施例のZr合金材料の表面近傍の断面SEM写真である。
図5に示したように、SEMにて表面近傍の断面を観察したところ、基材101´では結晶粒が明瞭に観察された。一方、表面から深さ約30μmまでにおいて、結晶粒の不明瞭な領域が観察された。本発明では、この結晶粒の不明瞭な領域を外表面層(強加工層)401と定義する。
【0051】
図6A〜6Dは実施例1で作製したZr合金材料の表面近傍の断面の元素マップである。
図6A〜6Dに示したように、外表面層(強加工層)401の部分をSTEM/EDXにて元素マッピングした結果、Zr‐Fe‐Cr析出物411と、Zr‐Fe‐Ni析出物412とを確認した。また、基材の析出物の平均サイズは0.1μmであることが確認された。
【0052】
図7A及び7Bは実施例1で作製したZr合金材料の表面の析出物のTEM写真である。
図7A及び7Bに示したように、結晶性析出物421と非晶質性析出物422とが確認された。結晶構造を有していたものは大半がZr‐Cr‐Fe析出物で、非晶質化していた析出物はZr‐Fe‐Ni析出物であった。また、Zr、Fe、CrおよびNiを含有している非晶質析出物もみられた。これは、Zr‐Fe‐Ni析出物が強加工により非晶質化する過程で、Zr‐Fe‐Cr析出物を巻き込んだものと推測される。調査した観察視野によりバラツキがあるものの、全析出物のうち、非晶質化していた析出物の存在比は20〜80%であった。
【0053】
(腐食試験(水素吸収抑制効果の評価))
上記で作製したZr合金材料に対して腐食試験を実施した。Zr合金材料より長さ2cm採取し、試験片とした。Zr合金材料の両端を封止し、試験に供した。また比較材として、本実施例と組成が同じZr合金材料に対して、外表面層(強加工層)を設けず、センタレス研磨のみを施した基材の試験片を用意した。これらの試験片に対して、288℃の高温高圧純水中にて1000hの浸漬試験を実施した。試験前後の水素含有量を比較した結果、比較材では水素含有量が5wtppm増加した。これに対して本発明のZr合金材料の水素含有量の増加はみられなかった。
【0054】
なお、比較材のSEM観察及びTEM観察では、表面のほとんどの析出物は結晶性のもので、本実施例の外表面層のような組織(結晶性析出物と非晶質性の析出物とが混在する層)は観察されなかった。
【実施例2】
【0055】
本実施例では、上述した
図3の加工装置を用いて本発明に係るZr合金材料からなる燃料被覆管を作製し、水素吸収低減効果について調査した。
【0056】
基材として、その組成が質量%でSn:1.5%、Fe:0.15%、Cr:
0.1%、Ni:0.05%、0.027%以下のC、0.008%以下のN、0.010%以下のHf及び0.16%以下のOを含み、残部が不可避不純物とZrとからなるZr合金材料の原料を用意し、溶解に続いて鍛造を行って作製したビレットに対して、1000℃に保持後急冷する溶体化処理を施した。熱間加工を行った後、それに続いて、600℃における3hの焼鈍を挟みながら冷間加工を繰り返して、所定の部材の形状に成形した。最終仕上げとして、センタレス研磨を行い、外径:11.2mmに仕上げた。
【0057】
次に、
図3に示した加工装置を用いて外表面層を加工した。はじめに、バニシング深さが0.05mmとなるように、バニシング工具301の突出量を調整した。続いて、プーリーを600rpmで回転させ、切削加工を行って管状のZr合金材料を得た。管の外表面の粗さRaを計測したところ、1.0μm以下であり、施工前よりも表面粗さが減少した。
【0058】
上記Zr合金材料より長さ2cm採取し、試験片とした。該試験片に対して実施例1と同様にして浸漬試験を実施したところ、水素含有量の増加はみられなかった。
【0059】
以上、説明したように、本発明に係るZr合金材料は、1000hの浸漬試験における水素含有量の増加は検出限界以下であり、Zr合金材料の耐食性(水素吸収抑制)について顕著な効果を有し、Zr合金材料の耐食性(水素吸収抑制)を長期間維持可能であることが示された。
【0060】
なお、上述した実施形態や実施例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。