(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249798
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】太陽電池付き時計の文字板及び太陽電池付き時計
(51)【国際特許分類】
G04B 19/06 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
G04B19/06 C
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-16878(P2014-16878)
(22)【出願日】2014年1月31日
(65)【公開番号】特開2015-143641(P2015-143641A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2016年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小俣 照幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 元喜
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正明
(72)【発明者】
【氏名】和瀬田 隆行
【審査官】
深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−117815(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0134243(US,A1)
【文献】
特開2007−003356(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第00242088(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池付き時計の文字板であって、
可視光を透過し、裏面に凹凸模様が形成された模様領域を有し、表面のうち前記模様領域と重なる領域の少なくとも一部に平滑面が形成された平滑領域を有する樹脂基板と、
前記太陽電池の発電に寄与する光を透過し、前記模様領域において前記樹脂基板と接着されることなく、前記樹脂基板の裏面側に配置され、前記模様領域と対向する部分の少なくとも一部は非樹脂材料で形成される装飾板と、
を備え、
少なくとも前記装飾板の表面は脆性材料からなることを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽電池付き時計の文字板において、
前記樹脂基板は、前記装飾板よりも厚い、
ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の太陽電池付き時計の文字板において、
前記装飾板よりも前記樹脂基板の方が、前記太陽電池の発電に寄与する光の透過率が大きい、
ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の太陽電池付き時計の文字板において、
前記樹脂基板は、
顔料により着色されている、
ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の太陽電池付き時計の文字板において、
前記装飾板の裏面に設けられ、前記太陽電池と対向する面が凹凸面である補強層を、
さらに備えることを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の太陽電池付き時計の文字板において、
前記樹脂基板は、
表面のうち前記模様領域と重ならない領域に凹凸模様を有する、
ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の太陽電池付き時計の文字板において、
前記樹脂基板と前記装飾板は、周縁において互いに固定される、
ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の太陽電池付き時計の文字板において、
前記凹凸模様の凸部が前記装飾板の表面に接している、
ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の太陽電池付き時計の文字板において、
前記凹凸模様の溝の深さは、200nm〜2μmである、
ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の太陽電池付き時計の文字板において、
前記凹凸模様は、第1模様と、前記第1模様と異なる第2模様を含む、
ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の太陽電池付き時計の文字板において、
少なくとも前記装飾板の表面は貝基材からなる、
ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の太陽電池付き時計の文字板と、
前記太陽電池付き時計の文字板の裏面側に配置されるムーブメントと、
前記太陽電池付き時計の文字板及び前記ムーブメントを収容する外装部品と、を備え、
前記太陽電池付き時計の文字板は、
前記ムーブメントと、前記外装部品とで、周縁を挟まれ固定される、
ことを特徴とする太陽電池付き時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池付き時計の文字板及び太陽電池付き時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、装飾効果を高める目的で時計の文字板を貝等の非樹脂材料で形成することがあった。そのような装飾効果を有する文字板を、文字板の裏側に太陽電池を配置した太陽電池付き時計に適用するためには、光を透過する程度に貝等の非樹脂材料を薄く加工する必要がある。
【0003】
下記特許文献1には、エッチングにより形成された凹部を有する貝基材を備えた装飾品が記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、模様が付与された樹脂基板を貝等の装飾用薄膜部材に接着した表示板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−278737号公報
【特許文献2】特開2002−055621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、貝基材に直接模様を彫ることで装飾効果を高めている。しかし、太陽電池付き時計の文字板に用いられる貝等の非樹脂材料は光を透過する程度に薄く加工されるため、直接模様を彫ることとすると精密な加工を行うための加工コストが必要となる。また、破損による歩留まりの悪化が生じるおそれがある。
【0007】
上記特許文献2では、樹脂基板と貝等の装飾用薄膜部材を接着することとしており、視認側から樹脂基板に入射する光は、樹脂基板と同様な屈折率の接着剤が介在することで、ほとんどが、そのまま装飾用薄膜部材まで透過することとなる。従って、樹脂基板の裏面(接着側の面)に付与された模様は視認できず、樹脂基板の表面に付与された模様のみが視認される。そのため、装飾用薄膜部材の上方に浮いた模様が視認されるという装飾効果が得られるものの、樹脂基板の裏面の模様から、装飾用薄膜部材の表面の外観を向上させる実質的な効果は得られない。
【0008】
そこで、本発明は、貝等の非樹脂材料に模様が彫られているかのように視認され、コストや歩留まりの悪化を改善できる太陽電池付き時計の文字板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく本出願において開示される発明は種々の側面を有しており、それら側面の代表的なものの概要は以下の通りである。
【0010】
(1)太陽電池付き時計の文字板であって、可視光を透過し、裏面に凹凸模様が形成された模様領域を有し、表面のうち前記模様領域と重なる領域の少なくとも一部に平滑面が形成された平滑領域を有する樹脂基板と、前記太陽電池の発電に寄与する光を透過し、前記模様領域において前記樹脂基板と接着されることなく、前記樹脂基板の裏面側に配置され、前記模様領域と対向する部分の少なくとも一部は非樹脂材料で形成される装飾板と、を備えることを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【0011】
(2)(1)において、前記樹脂基板は、前記装飾板よりも厚い、ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【0012】
(3)(1)又は(2)において、前記装飾板よりも前記樹脂基板の方が、前期太陽電池の発電に寄与する光の透過率が大きい、ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【0013】
(4)(1)乃至(3)において、前記樹脂基板は、顔料により着色されている、ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【0014】
(5)(1)乃至(4)のいずれかにおいて、前記装飾板の裏面に設けられ、前期太陽電池と対向する面が凹凸面である補強層を、さらに備えることを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【0015】
(6)(1)乃至(5)のいずれかにおいて、前記樹脂基板は、表面のうち前記模様領域と重ならない領域に凹凸模様を有する、ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【0016】
(7)(1)乃至(6)のいずれかにおいて、前記樹脂基板と前記装飾板は、周縁において互いに固定される、ことを特徴とする太陽電池付き時計の文字板。
【0017】
(8)(1)乃至(7)のいずれかに記載の太陽電池付き時計の文字板と、前記太陽電池付き時計の文字板の裏面側に配置されるムーブメントと、前記太陽電池付き時計の文字板及び前記ムーブメントを収容する外装部品と、を備え、前記太陽電池付き時計の文字板は、前記ムーブメントと、前記外装部品とで、周縁を挟まれ固定される、ことを特徴とする太陽電池付き時計。
【発明の効果】
【0018】
上記本発明の(1)の側面によれば、貝等の非樹脂材料に模様が彫られているかのように視認される太陽電池付き時計の文字板が得られる。
【0019】
また、上記本発明の(2)の側面によれば、装飾板を薄くする場合であっても、模様の視認性が高く、破損のおそれが少ない太陽電池付き時計の文字板が得られる。
【0020】
また、上記本発明の(3)の側面によれば、太陽電池の発電量を確保しつつ、模様の表現の自由度や強度を確保した太陽電池付き時計の文字板が得られる。
【0021】
また、上記本発明の(4)の側面によれば、貝等の非樹脂材料に耐光性を有する着色がされているかのように視認される太陽電池付き時計の文字板が得られる。
【0022】
また、上記本発明の(5)の側面によれば、貝等の非樹脂材料の破損が抑制され、ソーラーセルに貼り付きづらい太陽電池付き時計の文字板が得られる。
【0023】
また、上記本発明の(6)の側面によれば、貝等の非樹脂材料の上方に模様が浮いているかのように視認される太陽電池付き時計の文字板が得られる。
【0024】
また、上記本発明の(7)の側面によれば、樹脂基板と装飾板が分離しない太陽電池付き時計の文字板が得られる。
【0025】
また、上記本発明の(8)の側面によれば、貝等の非樹脂材料に模様が彫られているかのように視認される太陽電池付き時計の文字板が固定された太陽電池付き時計が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係る太陽電池付き時計を示す図である。
【
図2】
図1のII−II線における太陽電池付き時計の断面図である。
【
図4】本発明の実施形態と比較例における、模様の視認性と溝の深さの関係について示す図である。
【
図6】中枠に文字板を重ね合わせた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係る太陽電池付き時計の文字板3を備える太陽電池付き時計1を示す図である。同図には、ベゼル2a、見返しリング2b、文字板3、渦巻き模様4a、放射状模様4b、時字5、日窓6、指針7、竜頭8が示されている。文字板3には、白蝶貝、黒蝶貝、高瀬貝等の生体鉱物や、貴石をはじめとする岩石、セラミック等の非樹脂材料が用いられ、美感を起こさせる外観となっている。本実施形態では、文字板3の全面に白蝶貝が用いられていることとする。なお、貝等の非樹脂材料は、文字板3の全面でなく、一部にのみ用いられていてもよい。また、複数種類の非樹脂材料を組み合わせて用いることとしてもよい。
【0029】
文字板3に用いられている白蝶貝は、渦巻き模様4a及び放射状模様4bが彫刻されているかのように視認される。ただし、渦巻き模様4aは、時字5と重なる部分では視認されない。放射状模様4bは、指針7の軸を基点として全ての方向に放射状に設けられている。ただし、日窓6の部分は、文字板3に貫通孔が形成され、これらの模様は存在しない。また、両模様とも、見る角度や光の当て方によって視認しやすさが変わる。
図1では、渦巻き模様4a全体と、放射状模様4bのうち12時方向、3時方向、7〜8時方向に伸びる部分を図示している。1時方向、5時方向、10時方向に描いた点線は、放射状模様4bの省略を表す。なお、本実施形態で図示した模様は例示にすぎず、任意の模様を任意の箇所に施すこととしてよい。
【0030】
なお、
図1に示した太陽電池付き時計1のデザインは一例にすぎない。ここで示したもの以外にも、例えば、文字板3及び太陽電池付き時計1の外形形状を、丸型でなく角型にしてもよいし、見返しリング2bに秒を表示するインデックスを付けてもよい。また、見返しリング2bは無くてもよい。本実施形態では、指針7を時針、分針の2本としているが、秒針を加えることとしてもよく、日窓6には日付を表示することとするが、それに限らず、曜日を表示することとしてもよい。また、各種の表示を行う補助指針を備えることとしてもよい。その場合、ベゼル2aの外側に、竜頭8の他にボタンを備えることとして、ユーザが種々の操作を行えるようにしてもよい。
【0031】
なお、太陽電池付き時計1には、文字板3を覆うようにガラス等の透明材料により形
成された風防9がベゼル2aに取り付けられている。また、風防9の反対側においては、裏蓋11が胴10に取り付けられている。本明細書では、太陽電池付き時計1の風防9が配置される方向(
図1における紙面手前方向)を表側、裏蓋11が配置される方向(
図1における紙面奥方向)を裏側、及び、これらの方向に対応した面を、それぞれ、表面、裏面と呼ぶこととする。
【0032】
図2は、
図1のII−II線における太陽電池付き時計1の断面図である。胴10の表側には、ベゼル2a及び見返しリング2bが取り付けられ、風防9が設けられている。胴10、ベゼル2a、見返しリング2b、及び風防9が一体となった外装部品には、ムーブメント12及び文字板3が収容されており、裏側は裏蓋11によって閉じられている。ムーブメント12の表側(文字板3と接する側)には、ソーラーセル30が備えられている。
【0033】
文字板3は、可視光を透過する樹脂基板20と、ソーラーセル30の発電に寄与する光を透過し、この光の透過率が厚さに依存する貝等の非樹脂材料からなる装飾板21を重ねた構成となっている。文字板3の周縁は、外装部品とムーブメント12に挟まれて固定されている。より具体的には、見返しリング2bと、後述する中枠(又は、補助リング)40とによって、その周縁を挟まれ固定されている。なお、本実施形態では、見返しリング2bと中枠40で文字板3を挟む構成としたが、ベゼル2aと中枠40で文字板3を挟む構成としてもよいし、他の外装部品とムーブメント12、もしくはムーブメント12に備えられた部品で文字板3を挟んで固定する構成としてもよい。なお、ここで可視光を透過するとは、波長が360〜400nmから760〜830nmの光に対し、透過率が25%以上であることをいうものとする。
【0034】
樹脂基板20と装飾板21は、ソーラーセル30における発電に寄与する光の透過率が、それぞれ、25%以上、及び、10%以上であれば、時計を駆動するための発電量を確保しやすく、好ましい。また、装飾板21は、ソーラーセル30における発電に寄与する光の透過率が70%以下であれば、これに応じて可視光の透過率も制限されることとなり、渦巻き模様4a及び放射状模様4bが彫刻されているかのように視認される効果が得られやすく、好ましい。
【0035】
本実施形態では、樹脂基板20は無色透明の合成樹脂により形成される。樹脂基板20の材料となる合成樹脂は、透光性、耐光性に優れたものが好ましく、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂や、ポリカーボネートが好適である。また、樹脂基板20を顔料により着色してもよい。この場合、材料となる樹脂に適量の顔料を混入することにより所望の色相、色純度を表現するとよい。あるいは、樹脂基板20の表面に顔料層を形成することにより樹脂基板20を着色することとしてもよい。また、樹脂基板20を着色する顔料は、後述する凹凸模様の視認性に影響のない厚さであれば、樹脂基板20の裏面に形成しても良い。
【0036】
ここで、樹脂基板20の着色を顔料によることとしたのは、一般に顔料は染料に比して耐光性に優れ、長期にわたり所望の色彩を保つためである。また、樹脂基板20でなく装飾板21に着色することも考えられるが、ここで想定している装飾板21の材料、例えば貝等の天然材料は、顔料による着色が難しいことが多く、染料による着色を行うと上述の通り耐光性に難を生じる可能性があるため、ここで述べたように樹脂基板20を顔料により着色することが好ましい。
【0037】
そして、樹脂基板20に着色することにより、装飾板21自身が色彩を有するかのような視覚的効果が得られ、多様な美感を持つ文字板3が得られる。これにより、稀少な色彩を有する天然材料を再現したり、天然には存在しない色彩を得る等、多様な意匠を容易に実現することができる。
【0038】
文字板3の総厚は、ソーラーセル30への光の透過率と材料の加工性その他の事情により定まる。樹脂基板20の厚みは、取り扱いの容易さと成形性を考慮して、数百μm程度、より具体的には350μm〜500μmの厚さとすることが望ましい。装飾板21は、ソーラーセル30へ必要な光を透過し得る程度の厚みとすることが必要である一方、あまりに薄くするとその装飾効果が損なわれるため、光の透過と装飾効果を両立させ得る厚みとすることが好ましく、本実施形態のように、その材質が白蝶貝である場合には例えば100μm〜150μmとする。本実施形態では、樹脂基板20が370μm、装飾板21が100μmであり、後述する粘着層と補強層の厚さ30μmを含めると、文字板3の層厚は500μmである。
【0039】
図3は、
図2のうち、時字5、樹脂基板20、及び装飾板21を含む領域50を拡大した図である。
図3に図示した樹脂基板20の裏面には凹凸模様である渦巻き模様4a及び放射状模様4bが形成されている。また、樹脂基板20の表面は平滑面となっている。本実施形態では、樹脂基板20の裏面のうち、周縁部分(
図3左側)に渦巻き模様4aが形成され、指針7の軸を基点として周縁に至る領域(
図3右側)に放射状模様4bが形成されている。凹凸模様は断面が三角形の溝で形成されているが、溝の断面形状は四角形や半円形等であってもよい。
【0040】
ここで、少なくとも樹脂基板20の裏面に形成された凹凸模様の凹部と装飾板21との間に空気が介在することから、樹脂基板20の表面側から入射した光は、樹脂基板20の裏面側に抜ける際に、屈折率の高い領域(樹脂基板20内部)から屈折率の低い領域(樹脂基板20外部である空気層)に出て行くことになる。そのため、凹凸模様部分で全反射の起こる条件が満たされ得て、渦巻き模様4aや放射状模様4bが鮮明に視認されることになる。さらに、凹凸模様は樹脂基板20の裏面に形成されるため、樹脂基板20の厚さに応じて樹脂基板20の奥側の位置で模様が認識されることになるし、樹脂基板20の表面と比較して装飾板21に近い位置で模様が認識されることになる。従って、樹脂基板の裏面に形成された凹凸模様は、装飾板21の表面に存在するかのような錯覚を生じやすい。このような作用により、文字板3を視認すると、装飾板21に模様が彫刻されているかのように視認される。
【0041】
樹脂基板20の裏面のうち凹凸模様が形成された領域を模様領域と呼び、樹脂基板20の表面のうち平滑面が形成された領域を平滑領域と呼ぶ。本実施形態では、模様領域と平滑領域は、貫通孔で形成した日窓6の領域以外で重なっている。模様領域と平滑領域は、模様領域の少なくとも一部で重なっていればよい。模様領域と平滑領域が重なる部分では、装飾板21に模様が彫刻されているかのように視認される効果が最もよく発揮される。
【0042】
なお、これまでの説明では、樹脂基板20の裏面に凹凸模様が形成されているものとして説明したが、これに加え、樹脂基板の表面の一部に凹凸模様をさらに形成してもよい。そのような構成を採用することで、装飾板21に模様が彫られているかのように視認させ、かつ、樹脂基板20の裏面に凹凸模様が形成されているので、樹脂基板20の厚さに応じて、装飾板21の上方に模様が浮いているかのように視認させて、美感を起こさせる文字板3が得られる。樹脂基板20の表面に形成する凹凸模様は、裏面に形成する凹凸模様と重なってもよいが、樹脂基板20の表面のうち、裏面の模様と重なる領域の少なくとも一部は平滑面とする。樹脂基板20の表面と裏面の両方に凹凸模様が形成されている部分では、装飾板21に模様が彫られているかのように視認しづらくなるためである。また、樹脂基板20の表面のうち、裏面の凹凸模様と重なる部分を粗面にすると、裏面の凹凸模様の視認が妨げられ、同様に、装飾板21に模様が彫られているかのように視認しづらくなる。
【0043】
なお、装飾板21の一部に貝等の非樹脂材料を用いる場合、装飾板21の表面のうち、樹脂基板20の模様領域と対向する領域の少なくとも一部において、貝等の非樹脂材料を用いることとする。当然ながら、装飾板21の表面のうち、樹脂基板20の模様領域と対向しない領域において、貝等の非樹脂材料を用いてもよい。その場合、非樹脂材料が用いられていない装飾板21の部分にも、模様が彫刻されているかのように視認させることができる。
【0044】
なお、本実施形態では樹脂基板20を1枚の樹脂板で構成することとしたが、複数枚の樹脂板を貼り合わせて構成することとしてもよい。例えば、円形の樹脂板の周縁にリング状の樹脂板を貼り合わせて、一体の樹脂基板とすることができる。当該リング状の樹脂板の表面には、時字等を設けたり凹凸模様を形成したりすることができる。樹脂基板の裏面に凹凸模様を形成する点は、前述した通りである。そのような構成を採用することで、装飾板21に模様が彫刻されているかのように視認させつつ、時字や模様が異なる高さに浮いているかのように視認させることのできる文字板が得られる。
【0045】
裏面に凹凸模様が形成された樹脂基板20は、適宜の塑性成形法、例えば射出成形により形成する。具体的には、当該凹凸模様に対応する200nm〜2μmの深さの溝が彫られた金型を用いて、熱可塑性(もしくは熱硬化性)を有する樹脂材料を金型に充填することで形成する。これにより、容易かつ安価に樹脂基板20が得られる。これに対し、装飾板21に直接凹凸模様を施す、例えば、上述の従来技術のように貝基材に直接模様を彫ることとすると、加工時間が増大し、また加工中の材料の破損による歩留まりの低下が見込まれ、コスト増を招来することが予想される。このことは、材料が脆性材料である場合や、凹凸模様の形成に費用を要する材料において顕著であるから、本発明は、装飾板21が脆性材料である場合に特に好適であるといえる。
【0046】
本実施形態のように、装飾板21に用いるような非樹脂材料は、厚さが厚くなると透過率が低下することとなる。従って、装飾板21の裏側に配置されるソーラーセル30の発電量を確保するため、装飾板21を薄くして、ソーラーセル30の発電に必要とされる程度の光を透過させる必要がある。ここで、装飾板21を薄くするほどその透過率は上がるものの、薄いほど表面に模様を彫ることは困難となるし、凹凸模様の溝の深さを浅くせざるを得なくなり、模様の視認性が下がることになる。これに対し、樹脂基板20の裏面に凹凸模様を設けるようにすれば、装飾板21に直接模様を彫刻する必要がなくなるため、専ら透過率を適切とするために装飾板21の厚みを選択することができるようになる。よって、本発明は、装飾板21が有色材料であったり、構造上吸収係数が大きいなど、透過率が厚さの変化に大きく依存する場合に特に好適であるといえる。
【0047】
また、本実施形態のように、樹脂基板20が装飾板21より厚い場合、比較的薄い装飾板21に直接凹凸模様を形成するよりも、凹凸模様の溝の深さの制限が緩和され、模様の表現の自由度が増すことになる。仮に、比較的薄い装飾板21に、外観を優先した深い凹凸模様を形成することができたとしても、強度面では不利となってしまう。樹脂基板20の裏面に凹凸模様を形成する場合であれば、樹脂基板20を装飾板21よりも厚くして、樹脂基板20について十分な強度を確保することができるため、強度面での問題は生じない。さらに、樹脂基板20を装飾板21より厚くする場合、両者の透過率は、樹脂基板20が装飾板21より高い方が好ましい。ここで、ソーラーセル30の発電に寄与する波長帯の光に関して、樹脂基板20の透過率が装飾板21の透過率より高いことが好ましい。これにより、ソーラーセル30の発電量を確保した上で、装飾板21より厚い樹脂基板20を用いることができ、前述の模様の表現の自由度や強度の確保の効果が得られる。
【0048】
樹脂基板20と装飾板21は、太陽電池付き時計1の組み立ての際に、それぞれ別々の状態で重ねて組み立てることも可能であるが、貼り合わせを行い、一体の文字板とした後に組み立てることで、組み立て作業が容易となる。貼り合わせを行う際、樹脂基板20と装飾板21は、樹脂基板20の模様領域では接着されず、
図3では図示しない周縁部分で接着剤等により固定される。このように接着範囲を設定することで、樹脂基板20の裏面に形成された凹凸模様が接着剤により埋められることがなく、凹部と装飾板21との間に空気が介在することになるので、前述の通り凹凸模様部分で全反射が起こり得て、凹凸模様が視認されやすく、文字板3の装飾性は損なわれない。また、周縁部以外では、時字5の下などの、視認されない部分で接着することも可能である。
【0049】
また、樹脂基板20と装飾板21は、樹脂基板20の裏面に形成した渦巻き模様4aや放射状模様4bのような凹凸模様の凸部が、装飾板21の表面と離間せずに接するように配置することが好ましい。そのように配置した場合には、装飾板21の表面に対して凹凸模様が最も近接した位置となり、装飾板21の表面に模様が彫刻されているかのように視認される効果が最大限に発揮される。逆に、凹凸模様の凸部と装飾板21の表面との距離が離れすぎると、凹凸模様が装飾板21の表面から離れて浮いたように見え、装飾板21の表面に模様が彫刻されているかのように視認される効果が薄れる。
【0050】
樹脂基板20の裏面に形成した凹凸模様の凸部が、装飾板21の表面と接している場合であっても、凹凸模様を構成する凹部に空気が介在するため、樹脂基板20と凹部の空気層の屈折率の違いから、凹凸模様は鮮明に視認されることとなる。なお、凹凸模様の凸部の高さにバラツキが生じる場合には、最も装飾板21側に突出する凸部が、装飾板21の表面に接するように配置することが好ましい。すなわち、凹凸模様を構成する少なくとも一部の凸部が、装飾板21の表面に接するように配置することが好ましい。
【0051】
なお、装飾板21の表面は曲面であってもよい。その場合、樹脂基板20の裏面は、装飾板21表面の曲面に沿った形で形成されるものとする。また、樹脂基板の表面は曲面であってもよい。このような構成を採用することで、立体的な形状や模様により美感を起こさせる文字板3が得られる。また、装飾板21の表面にも凹凸模様を形成しても良い。これにより、樹脂基板20の凹凸模様と装飾板21の表面の凹凸模様により、さらに複雑な凹凸模様を表現することも可能である。
【0052】
装飾板21の裏面には、粘着層22を介して補強層23が設けられる。補強層23は樹脂材料等からなる膜で、軟性のものが望ましい。装飾板21に加わる衝撃を吸収して、装飾板21の破損を防ぐためである。また、粘着層22は補強層23よりも厚く形成することが望ましい。例えば、粘着層22の厚さを18μmとし、補強層23の厚さを12μmとする。このような構成を採用することで、熱変化が生じた場合の反りを軽減することができる。なお、いわゆるアクリルレジスト等を用いて、補強層23自体を直接装飾板21の裏面に形成するようにしてもよい。その場合には、粘着層22は必ずしも必要ではない。
【0053】
補強層23の裏面(ソーラーセル30に対向する面)は、つや消し印刷がされ、いわゆる梨地面となっている。補強層23の裏面を梨地面とすることで、微小な凹凸により、補強層23がソーラーセル30に貼り付くことを防止できる。ひいては、文字板3がソーラーセル30に貼り付くことで発生する、干渉縞や貼り付き痕の発生を防止できる。補強層23が直接ソーラーセル30に接してもソーラーセル30に貼り付かない場合は、つや消し印刷を省略しても良いし、つや消し以外の印刷をしても良い。
【0054】
図4は、本発明に基づく実施例と比較例における、凹凸模様の視認性と凹凸模様の溝の深さの関係について示した図である。比較例は、白蝶貝からなる装飾板に直接凹凸模様を彫刻した場合である。実施例は、上述の実施形態の通り、白蝶貝からなる装飾板21と、裏面に凹凸模様を形成した樹脂基板20とを重ねた場合である。図中の、200nm、300nm、500nm、1000nm、2000nmという数値は、凹凸模様の溝の深さを示している。同図に示す通り、比較例では、溝の深さが200nm乃至1000nmの場合には肉眼では模様が視認できず(×印)、溝の深さが2000nmの場合には、注意深く観察すれば視認できる程度であった(△印)。一方、本発明の実施例では、溝の深さが200nmの場合で既に模様が視認でき(○印)、溝が深くなるほどより明確に模様が視認できた。従って、本実施形態によれば、浅い溝によって繊細な模様を表現したり、溝の深さを使い分けることで強弱のある模様を表現したりすることができ、一層豊かな美感を起こさせる文字板3が得られる。しかも、白蝶貝に形成しても視認が困難である浅い溝によって、繊細な模様を表現することができ、それが、白蝶貝に形成された模様であるかのように視認させることが可能である。
【0055】
本実施形態で模様の視認性が高くなる理由は、前述の通り、樹脂基板20の裏面に形成した凹凸模様部分で全反射が起こる条件が満たされ得るためであると考えられる。一方、比較例のように装飾板21に直接彫刻を施す場合、模様部分で反射率が特別に大きくなることはなく、他の部分との境界が不明瞭になりがちであり、凹凸模様の視認性が低くなると考えられる。
【0056】
なお、本実施形態では樹脂基板20と装飾板21の間(凹凸模様の溝部分)には空気があるが、必要に応じてHe等の不活性ガスを充填することとしてもよい。その場合であっても、樹脂基板20内部の方が外部よりも屈折率が高いため、全反射が起こり得て、凹凸模様の視認性は良好に保たれる。
【0057】
図5は、ムーブメント12の上面図である。ムーブメント12は、その上面に備えられたソーラーセル30と共に中枠40に収められている。ソーラーセル30は、ムーブメント12と中枠40によって、その周縁を挟まれ固定されている。中枠40の上面には、文字板3の外縁形状と噛み合うような内縁形状が形成されている。また、文字板3の位置合わせのため、2時方向に第1突起部41、8時方向に第2突起部42が形成されている。なお、4時方向及び10時方向に形成された突起部は、ムーブメント12と中枠40の位置合わせのための突起部である。
【0058】
図6は、中枠40に文字板3を重ね合わせた状態を示す図である。前述のように、文字板3は、中枠40の第1突起部41及び第2突起部42によって位置合わせされ、重ね合わされる。
図6に示される中枠40及び文字板3は、胴10に収容される。文字板3は、中枠40と、外装部品である見返しリング2bとによって、その周縁を挟まれ固定されることになる。
【0059】
以上説明した太陽電池付き時計の文字板3によれば、樹脂基板20の裏面に形成された凹凸模様によって、貝等の非樹脂材料からなる装飾板21に模様が彫刻されているかのように視認させることができるという効果がある。
【0060】
なお、本発明は、内蔵アンテナにより時刻情報を含む電波を受信して、時刻を修正する電波修正時計に適用することもできる。さらに、本発明の実施形態として腕時計の場合を説明したが、本発明は壁掛け時計等の腕時計と比較して大型の時計にも適用することができる。その場合、装飾板21の一部に貝等の非樹脂材料を用いる構成が好適となる。
【符号の説明】
【0061】
1 太陽電池付き時計、2a ベゼル、2b 見返しリング、3 文字板、4a 渦巻き模様、4b 放射状模様、5 時字、6 日窓、7 指針、8 竜頭、9 風防、10 胴、11 裏蓋、12 ムーブメント、20 樹脂基板、21 装飾板、22 粘着層、23 補強層、30 ソーラーセル、40 中枠、41 第1突起部、42 第2突起部。