特許第6249804号(P6249804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249804
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】生け簀装置およびそれを備えた船舶
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/26 20060101AFI20171211BHJP
   A01K 63/00 20170101ALI20171211BHJP
【FI】
   B63B35/26 Z
   A01K63/00 D
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-19242(P2014-19242)
(22)【出願日】2014年2月4日
(65)【公開番号】特開2015-145195(P2015-145195A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2016年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 実
【審査官】 前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−032597(JP,U)
【文献】 特開平11−125230(JP,A)
【文献】 実開昭56−108997(JP,U)
【文献】 実開平07−010541(JP,U)
【文献】 特開平11−051032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/26
A01K 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生け簀本体と、
前記生け簀本体に設けられた開口部と、
前記生け簀本体に給水または前記生け簀本体から排水するための給排水口を備え、前記給排水口を前記開口部の周面に対向させた状態で前記開口部に移動可能に組み付けられ、前記開口部の周面に対する前記給排水口の位置に応じて給水または排水の量を変更できる蓋部材と
を備えた生け簀装置において、
前記開口部に雄ネジまたは雌ネジで構成される取付部を設けるとともに、前記蓋部材に前記雄ネジまたは前記雌ネジに螺合可能な雌ネジまたは雄ネジで構成され前記取付部に位置調整可能に係合する被取付部を設け、前記雄ネジで構成される前記取付部または前記被取付部に、前記取付部と前記被取付部の係合位置が所定の位置になったときに、前記被取付部または前記取付部に圧接して前記取付部と前記被取付部との係合を解除され難くする凸部を設け、前記雌ネジで構成される前記取付部または前記被取付部に、前記凸部の前記被取付部または前記取付部に対する圧接を解除する凹部を設けたことを特徴とする生け簀装置。
【請求項2】
前記凸部は、前記取付部と前記被取付部を係合させるときの係合方向における係合開始位置から離間した位置に設けられている請求項1に記載の生け簀装置。
【請求項3】
前記凸部は前記雄ネジの谷間に設けられている請求項1または2に記載の生け簀装置。
【請求項4】
前記凹部は、前記雌ネジに交差する縦溝で構成されている請求項1ないし3のうちのいずれか一つに記載の生け簀装置。
【請求項5】
前記凹部は、前記被取付部または前記取付部の周方向に沿って一部分に設けられている請求項ないしのうちのいずれか一つに記載の生け簀装置。
【請求項6】
前記開口部と前記蓋部材の少なくとも一方は弾性を備えている請求項1ないしのうちのいずれか一つに記載の生け簀装置。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか一つに記載の生け簀装置を備えた船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採取した魚貝類を一時的に入れるための生け簀装置およびそれを備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船舶や海岸等に生け簀装置を設けて、この生け簀装置に採取した魚貝類を一時的に入れておくことが行われている。このような生け簀装置の中に、底板が小型船舶の船底の一部を兼ねた箱形に形成されて上端開口縁部に蓋体がヒンジを介して開閉可能に取り付けられ、底板に、海水を導入したり導出したりする給排水機構が取り付けられたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この生け簀装置の給排水機構は、海水を導入する第1のスカッパーと、海水を外部に導出する第2のスカッパーと、第1および第2のスカッパーにそれぞれ取り付けられた海水量調節手段を備えている。第1および第2のスカッパー(開口部)は、それぞれ内周面に内側ねじ部が形成された円筒体の下部に、傾斜した複数の横桟からなる下端面を設けた形状をしており、底板に設けられた2つの貫通孔に、互いの横桟の傾斜方向を変えて取り付けられている。また、海水量調節手段(蓋部材)は、第1および第2のスカッパーの内側ねじ部に螺合できる外側ねじ部と、その螺合の度合いによって開口面積を変更する取水口とを備えている。このため、海水量調節手段を回転させて第1および第2のスカッパーに対する海水量調節手段の位置を変更することにより、海水の導入量と導出量とを調整できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3137206号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、前述した従来の生け簀装置では、海水量調節手段を回転させて、第1および第2のスカッパーに対する海水量調節手段の位置を調整する際に、海水量調節手段をどの程度回転させたかが分かりにくいため、内部に入れておく海水量の調整がし難いという問題がある。また、海水量調節手段を緩める方向に回転させすぎると、第1および第2のスカッパーから外れてしまうという問題もある。
【0006】
本発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、生け簀本体内の給排水の量の調整がし易く、蓋部材が開口部から外れ難い生け簀装置およびそれを備えた船舶を提供することである。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係る生け簀装置の構成上の特徴は、生け簀本体(21)と、生け簀本体に設けられた開口部(24)と、生け簀本体に給水または生け簀本体から排水するための給排水口(27d)を備え、給排水口を開口部の周面に対向させた状態で開口部に移動可能に組み付けられ、開口部の周面に対する給排水口の位置に応じて給水または排水の量を変更できる蓋部材(27)とを備えた生け簀装置(20)において、開口部に雄ネジ(27c)または雌ネジ(24c)で構成される取付部を設けるとともに、蓋部材に雄ネジまたは雌ネジに螺合可能な雌ネジまたは雄ネジで構成され取付部に位置調整可能に係合する被取付部を設け、雄ネジで構成される取付部または被取付部に、取付部と被取付部の係合位置が所定の位置になったときに、被取付部または取付部に圧接して取付部と被取付部との係合を解除され難くする凸部(27e)を設け、雌ネジで構成される取付部または被取付部に、凸部の被取付部または取付部に対する圧接を解除する凹部(24e)を設けたことにある。
【0008】
本発明に係る生け簀装置では、生け簀本体に設けられた開口部に取付部を設け、蓋部材に、取付部に位置調整可能に係合する被取付部設けて、取付部と被取付部の係合位置を変更することにより給水および排水の量を調整できるようにしている。また、取付部と被取付部の少なくとも一方に、凸部を設けて、取付部と被取付部が所定の位置で係合しているときに、凸部が被取付部または取付部に圧接することより取付部と被取付部との係合が解除され難くなるようにしている。
【0009】
このため、開口部に対して蓋部材を移動させると、凸部が被取付部または取付部に当接せずに蓋部材が移動し易い状態と、凸部が被取付部または取付部に圧接して蓋部材が移動し難くなる状態切り換わることから、取付部と被取付部との係合位置の確認が可能になる。また、係合位置を確認できることから、蓋部材が開口部から外れるまで開口部に対して蓋部材を移動させてしまうことが防止される。さらに、凸部がストッパーとして機能するため、所定位置に位置決めされた蓋部材が緩む方向に回ってしまうことが防止される。
【0010】
なお、本発明においては、開口部は、生け簀本体と一体に形成してもよいし、別部材で構成して、生け簀本体に形成した取付け用穴に取り付けてもよい。また、開口部は、生け簀本体における海水や河川水などの水中に位置する部分であればどこに設けてもよいが、生け簀本体の底部に設けることが好ましい。さらに、開口部と蓋部材は、一組だけ設けてもよいし、複数組設けてもよい。一組設ける場合は、給水と排水の両方を行えるようにする。
【0011】
複数組設ける場合には、給水用のものと排水用のものに分けて用いてもよいし、複数組のものがそれぞれ給水と排水の両方を行えるようにしてもよい。本発明における給排水口は、給水と排水の少なくとも一方ができる開口である。また、蓋部材は開口部の内周面に係合しても外周面に係合してもよく、蓋部材が開口部の内周面に係合するときには、本発明に係る開口部の周面は内周面となり、蓋部材が開口部の外周面に係合するときには、本発明に係る開口部の周面は外周面となる。また、本発明では、開口部と蓋部材の係合が雄ネジと雌ネジの螺合によって行われるため、開口部に対して蓋部材を回転させることにより、給水および排水の量を調整できる。そして、雄ネジに凸部が設けられ、雌ネジに凹部が設けられているため、蓋部材を回転させて、凸部が凹部内に入ったときと、凸部が被取付部または取付部に圧接しているときの回転に対する抵抗力の違いにより、開口部に対する蓋部材の位置を認識することができる。この凹部は、1つ設けてもよいし、複数設けてもよいが、雌ネジが延びる方向に間隔を保って複数設けることが好ましい。これによると、凸部が通過した凹部の数によって開口部に対する蓋部材の位置を正確に知ることができる。
【0012】
また、本発明に係る生け簀装置の他の構成上の特徴は、凸部が、取付部と被取付部の係合方向における係合開始位置から離間した位置に設けられていることにある。
【0013】
凸部を、取付部と被取付部の係合方向における係合開始位置に設けた場合には、開口部に対して外れる方向に蓋部材を移動させたときに、凸部が被取付部または取付部に圧接した状態から開放されると同時に、蓋部材が開口部から外れるようになる。これに対し、本発明に係る生け簀装置では、凸部が取付部と被取付部の係合方向における係合開始位置から離間した位置に設けられているため、蓋部材が開口部から外れる前に、凸部が被取付部または取付部に圧接した状態から開放される。このため、凸部が被取付部または取付部に圧接した状態から開放されたときに、これ以上蓋部材を移動させると、蓋部材が開口部から外れてしまうことを認識できる。これによって、蓋部材が開口部から外れることをより確実に防止できる。
【0016】
本発明に係る生け簀装置のさらに他の構成上の特徴は、凸部が雄ネジの谷間、すなわちネジ谷に設けられていることにある。本発明によると、凸部が雌ネジ以外の部分に当たって破損することを防止できる。また、雄ネジが備わった部材を樹脂成型する場合には、凸部を備えた雄ネジの成形が容易になる。
【0017】
本発明に係る生け簀装置のさらに他の構成上の特徴は、凹部が、雌ネジに交差する縦溝(24e)で構成されていることにある。この場合の縦溝は、雌ネジのネジ山の所定部分を取付部または被取付部の軸方向に沿って削ることで形成できる。これによると、縦溝を平面または平面に近い凹凸面に形成することができ、雌ネジのネジ山は周方向に断続的に形成されるようになる。したがって、開口部に対して蓋部材を1回転させるごとに凸部が凹部内に位置するようになり、開口部に対する蓋部材の位置をより正確に知ることができる。
【0018】
本発明に係る生け簀装置のさらに他の構成上の特徴は、凹部が、被取付部または取付部の周方向に沿って一部分に設けられていることにある。本発明によっても、開口部に対する蓋部材の位置をより正確に知ることができる。
【0019】
本発明に係る生け簀装置のさらに他の構成上の特徴は、開口部と蓋部材の少なくとも一方が弾性を備えていることにある。この場合、少なくとも凸部と、凸部に圧接する被取付部または取付部との一方が弾性を備えていればよい。本発明によると、開口部に対する蓋部材の移動がスムーズになる。
【0020】
また、本発明に係る船舶(10)の構成上の特徴は、前述した生け簀装置を備えたことにある。本発明によると、生け簀本体内の水量の調整がし易く、蓋部材が開口部から外れ難い生け簀装置を備えた船舶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る生け簀装置を備えた小型船舶を示した平面図である。
図2図1に示した小型船舶の側面図である。
図3】スカッパーに蓋部材が取り付けられた状態を示した平面図である。
図4】スカッパーに蓋部材が取り付けられた状態を示した断面図である。
図5】スカッパーの内周面に形成された雌ネジと凹部を示した正面図である。
図6】蓋部材を示した断面図である。
図7】蓋部材の雄ネジに形成された凸部を示しており、(a)は正面図(b)は平面図である。
図8】スカッパーに蓋部材を螺合させて給排水口を閉じた状態を示した断面図である。
図9図8の9−9断面図である。
図10】蓋部材を緩めて給排水口を開いた状態を示した断面図である。
図11図10の11−11断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る生け簀装置を図面を用いて詳しく説明する。図1および図2は、同実施形態に係る生け簀装置20を備えた小型船舶10が海水上を走航している状態を示している。この小型船舶10は、船舶本体10aと、船舶本体10aの船尾に取り付けられた船外機11で構成されており、船舶本体10aの中央には運転席を備えた操縦室12が設けられている。操縦室12には、小型船舶10を操舵するためのステアリングホイール13や操作レバーおよび各種の操作スイッチ(図示せず)などが設けられている。このステアリングホイール13と操作レバー等の操作に応じて船外機11が制御され、船外機11の作動により小型船舶10は走行する。
【0023】
生け簀装置20は、船舶本体10aの船尾側部分の底部に形成されており、生け簀装置20の底部21aは、船舶本体10aの底部10bの一部を構成している。この生け簀装置20は、上面が開放された四角箱形の生け簀本体21と、生け簀本体21の上端縁部の後部の左右に配置された一対のヒンジ連結部22に回転可能に取り付けられた生け簀蓋23を備えており、生け簀蓋23を回転させることにより生け簀本体21を開閉できる。また、生け簀本体21の底部21aにおける前部左側と後部右側に、それぞれ取付け用穴21b(図4参照)が形成され、各取付け用穴21bにスカッパー24が固定され、各スカッパー24に蓋部材27が位置調整可能に取り付けられている。
【0024】
前部左側に位置するスカッパー24と蓋部材27は給水口を構成し、後部右側に位置するスカッパー24と蓋部材27は排水口を構成するものであるが、これらは両スカッパー24の向きを変えて配置された同じ部材で構成されている。したがって、以下の説明においては、給水口を構成するスカッパー24と蓋部材27と、排水口を構成するスカッパー24と蓋部材27とは同一のものとしている。また、スカッパー24で本発明に係る開口部が構成される。
【0025】
図3および図4は、底部21aの取付け用穴21bに固定されたスカッパー24に蓋部材27を取り付けた状態を示している。スカッパー24は、それぞれ硬質の樹脂材料からなるスカッパー本体24aと締付リング26で構成されている。スカッパー本体24aは、外周面に外側ネジ24bが形成され内周面に内側ネジ24cが形成された円筒部24dの下端に通水部25を形成して構成されている。通水部25は、外周部を構成する環状のフランジ部25aと、フランジ部25aの内周面に掛け渡された複数の水切桟25bで構成されている。
【0026】
フランジ部25aは、円筒部24dの下端から外周側に向かって突出しており、一方(図4の右側)から他方(図4の左側)に向かって徐々に肉厚になるように形成されている。このため、フランジ部25aの下端部は傾斜している。各水切桟25bは、それぞれ同じ大きさの四角形の断面形状を備えた棒状に形成されており、下端をフランジ部25aの下端に合わせた状態で等間隔に配置されている。図4の左右方向は、小型船舶10の前後方向に対応しており、複数の水切桟25bのうちの前後に位置する水切桟25bの左右方向の長さは短く、前後方向の中央側に位置する水切桟25bほど左右方向の長さは長くなっている。各水切桟25bの隙間は、生け簀装置20内に給水したり生け簀装置20内から排水する際の水路になる。
【0027】
また、円筒部24dの内面には、図5に示したように、縦溝からなる凹部24eが形成されている。この凹部24eは、内側ネジ24cにおけるネジ山の部分を上下方向に除去して(ネジ山を形成せずに)ネジ谷の部分と同一面になるようにして平面状に形成されており、円筒部24dの内面における対向する2か所に180度の間隔を保って設けられている。なお、内側ネジ24cで本発明に係る雌ネジが構成される。
【0028】
締付リング26は、軸方向の長さが短い筒状のリング本体26aと、リング本体26aの外周上部から外周側に突出したフランジ部26bで構成されており、リング本体26aの内周面には、スカッパー本体24aの外側ネジ24bに螺合できる締付ネジ26cが形成されている。このように構成されたスカッパー24は、スカッパー本体24aの円筒部24dを底部21aの取付け用穴21bに下方から挿し込んで、フランジ部25aを底部21aの下面に当接させ、円筒部24dの外側ネジ24bに締付リング26の締付ネジ26cを螺合させることにより底部21aに固定される。
【0029】
なお、取付け用穴21bの上部は、下部よりも大径になっており、下部と上部の間に段差21cが形成されている。このため、締付リング26をスカッパー本体24aに組み付けたときに、リング本体26aの下部は取付け用穴21bの上部内に入ってその下端部は段差21cに対向する。また、フランジ部26bは、底部21aの上面に圧接し、これによってフランジ部25aは底部21aの下面に圧接する。図4の左方向を小型船舶10の前方とした場合、図4に示したスカッパー24は、底部21aの後部右側に配置されたスカッパー24となり、底部21aの前部左側に配置されたスカッパー24は、図4に示したスカッパー24と前後(図4では左右)が逆になる。また、一対の凹部24eは、図3に示したように底部21aの前後に位置している。
【0030】
蓋部材27は、樹脂材料からなっており、弾性を備えた略円筒状の蓋本体27aと、蓋本体27aの上部に設けられた硬質の操作部28で構成されている。蓋本体27aの上面は天井部27bで閉塞されており、蓋本体27aの外周面における天井部27bを除いた部分には、スカッパー本体24aの内側ネジ24cに螺合できる雄ネジ27cが形成されている。雄ネジ27cは、外径が75mmでピッチが3.0mmの30度台形ネジで構成されており、内側ネジ24cはこの30度台形ネジに対応する雌ネジで構成されている。また、蓋本体27aには、内部から外部に貫通する4つの給排水口27dが円周方向に一定間隔で形成されている。この給排水口27dは、雄ネジ27cの下端から上方に向かってネジ山またはネジ谷を2つ越えた部分と天井部27bとの間に位置している。
【0031】
また、図6に示したように、雄ネジ27cの下端から最初のネジ山を越えた1番目のネジ谷に円周方向に180度の間隔を保って一対の凸部27eが形成されている。この凸部27eの外周部は、図7(a),(b)に示したように、平面視で半径が5mmの円弧状に形成されており、その中央部と、雄ネジ27cのネジ谷の間の長さ(突出長さ)は、0.2mmに設定されている。操作部28は、天井部27bの上面外周に形成された環状部28aと、環状部28aの上面における対向する部分に形成された一対の円弧状壁部28bと、環状部28aと一対の円弧状壁部28bに掛け渡された被操作片28cで構成されている。
【0032】
環状部28aの外周部は、天井部27bの外周部よりも外側に僅かに突出しており、円弧状壁部28bは、天井部27bの上面内周側に形成された隆起部からなっており、平面視が円弧状で側方視が台形になっている。被操作片28cは、天井部27bの上面から上方に突出する突条からなっており、両端がそれぞれ円弧状壁部28bの中央部に連結されている。また、蓋部材27の円周方向に対する被操作片28cの両端部の位置は、一対の凸部27eの位置にも対応しており、このため、被操作片28cの両端部の位置から凸部27eの位置を認識することができる。
【0033】
蓋部材27は、蓋本体27aの下端部をスカッパー本体24aの内周面上端に当接させた状態で上方から見た状態で時計回り方向に回転することによりスカッパー24に組み付けられる。その際、スカッパー24に対する蓋部材27の位置によって、生け簀本体21内への給水および排水の量が変更される。すなわち、蓋本体27aの給排水口27dは、生け簀本体21内とスカッパー本体24a内を連通させる機能を備えており、給排水口27dがスカッパー本体24aの内周面によって塞がれる面積に応じて生け簀本体21内への給水および排水の量が変更され、図4に示したように、給排水口27dがスカッパー本体24aの内周面によって閉塞された状態になると生け簀本体21内への給水および排水は停止される。
【0034】
また、天井部27bの外周面は、上下方向の中央部分が上下両側よりも凹んだ曲面に形成され、その外周面に弾性を備えたゴムからなるOリング29が取り付けられている。このOリング29は、給排水口27dがスカッパー本体24aの内周面によって閉塞されたときに、円筒部24dの上端開口縁部に圧接して、環状部28aおよび天井部27bと、円筒部24dの上端開口縁部の間を密閉する。
【0035】
つぎに、蓋部材27を回転操作する際のスカッパー本体24aの内側ネジ24cと凹部24eに対する凸部27eの位置関係を、図8ないし図11を用いて説明する。図8は、蓋部材27を回転できなくなるまで締める方向に回転して給排水口27dを閉塞した状態を示しており、図9は、図8の9−9断面を示している。この状態では、一対の凸部27eは左右(図9では上下)に並んで、スカッパー本体24aの内側ネジ24cのネジ山に圧接している。このため、蓋部材27は回転し難くなって給排水口27dが閉塞された状態に維持される。
【0036】
また、図10は、図8の状態から、蓋部材27を緩める方向に4回転と90度回転させて、給排水口27dを略全開させた状態を示しており、図11は、図10の11−11断面を示している。この状態では、一対の凸部27eは前後(図10および図11では左右)に並んで、スカッパー本体24aの凹部24e内に位置している。この場合、蓋部材27は、凸部27eが凹部24e内に位置する範囲で回転し易い状態になっているが、ある程度大きな力を加えて蓋部材27を回転させない限り、凸部27eが凹部24eから出ることはできない。このため、給排水口27dが開口した状態が維持される。
【0037】
蓋部材27を回転させる操作は、所定の回転治具を用いて行われる。この回転治具としては、被操作片28cと略同じ長さで被操作片28cを上方から覆って挟むことのできる断面コ字状の挟持部と、挟持部の上面中央に連結された上下に長いT字形棒状の操作部を備えた部材を用いることができる。この回転治具を用いると、挟持部側を生け簀本体21の開口から底部側に入れ、挟持部で被操作片28cを挟んだ状態で、操作部の上部を手で回転操作できるため、蓋部材27が生け簀本体21の開口から深い位置にあっても容易に回転させることができる。
【0038】
また、図8の状態から蓋部材27を回転させて図10の状態にするときには、まず、凸部27eと内側ネジ24cの圧接力に抗して蓋部材27を90度弱回転させる。これによって、凸部27eが凹部24e内に入り、蓋部材27は、凸部27eが凹部24e内に位置する範囲で回転し易い状態になる。このとき、給排水口27dの上部の極僅かな部分が開口する。その状態から、蓋部材27をさらに回転させて凸部27eを内側ネジ24cに当接させた後にさらに蓋部材27を回転させて凸部27eを内側ネジ24cに圧接させると、蓋部材27は回転し難い状態になる。
【0039】
その状態でさらに蓋部材27を回転していくと、給排水口27dの開口した部分が少しずつ増加していき、蓋部材27の初期の位置からの回転角が270度弱になったときに、凸部27eが再度凹部24e内に入る。これによって、蓋部材27は、凸部27eが凹部24e内に位置する範囲で回転し易い状態になる。その後、さらに蓋部材27を回転していくと、凸部27eが内側ネジ24cに圧接した状態と、凸部27eが凹部24e内に位置した状態とが交互に繰り返されて、その間、給排水口27dの開口した部分が少しずつ増加しながら、図10の状態になる。
【0040】
このとき、蓋部材27は初期の位置から4回転と90度回転しているため、給排水口27dは全開しており、これ以上、蓋部材27を回転させても給水および排水の量を増加できない。操作者は、この蓋部材27の回転数や回転角度によって、蓋部材27の上限位置を知ることができる。また、前述した蓋部材27を回転させる操作の際には、蓋部材27を半回転させるごとに、蓋部材27が回転し難くなったり回転し易くなったりすることが繰り返されるが、図10の状態から蓋部材27を半回転させても蓋部材27は回転し易い状態に維持される。これによっても、操作者は、蓋部材27の上限位置を知ることができる。
【0041】
なお、本実施形態では、図10の状態から蓋部材27を緩める方向に1回転させたときに、蓋部材27がスカッパー本体24aから外れるようにしている。すなわち、蓋部材27をスカッパー本体24aに取り付ける際に、蓋部材27を1回転させると、凸部27eが内側ネジ24cに到達するようにしている。これによって、操作者は、蓋部材27がスカッパー本体24aから外れる位置に近づいていることを知ることができ、スカッパー本体24aから外れるまで、蓋部材27を回転させてしまうことが防止される。
【0042】
蓋部材27を任意の角度回転させることにより、給排水口27dの開口の大きさを調整することもでき、この場合の調整は、蓋部材27を半回転ずつ回転させて凸部27eを凹部24e内に位置させることによって行う。また、スカッパー本体24aの内周面に上下に延びる凹部24eが形成され、蓋部材27に給排水口27dが形成されているが、蓋部材27の外周下部には全周に亘って雄ネジ27cが形成されているため、蓋部材27は、ネジ山を越えて上下方向にずれることなく、正確に内側ネジ24cの回転方向に沿って上下に移動する。
【0043】
つぎに、以上のように構成された生け簀装置20を備えた小型船舶10を用いて海で魚釣りをする場合について説明する。この場合、まず、2つの蓋部材27を回転操作して給排水口27dの開口の大きさを調整する。その状態で、小型船舶10を前進させると、前部左側に配置されたスカッパー24の下部から海水が入り、その海水は蓋部材27の給排水口27dを通過して生け簀本体21内に入る。また、生け簀本体21内の海水は、後部右側に配置された蓋部材27の給排水口27dを通過してスカッパー24の下部から外部の海中に出ていく。これが繰り返されて、生け簀本体21内には適度な量の新鮮な海水が保持される。
【0044】
そして、小型船舶10を停止させたり走行させたりしながら所定のポイントに位置させて、魚を釣る。釣った魚は、生け簀蓋23を開けて生け簀本体21内に入れる。生け簀本体21内の海水は、常に入れ替えされて新鮮な状態に維持されているため、生け簀本体21内に入れられた魚は海中にいるときと同様の状態で保持される。
【0045】
このように、本実施形態に係る生け簀装置20では、生け簀本体21の底部21aに設けられた2つの取付け用穴21bに、内周面に内側ネジ24cが形成されたスカッパー24をそれぞれ固定して、この2つのスカッパー24に、外周面に雄ネジ27cが形成された蓋部材27をそれぞれ螺合させている。また、スカッパー24の下部には、海中とスカッパー24内を連通する水路が形成され、蓋部材27には、生け簀本体21内とスカッパー24内を連通させるための給排水口27dが形成されている。このため、蓋部材27を回転させて、スカッパー24に対する蓋部材27の位置を変更することにより給排水の量を調整できる。
【0046】
また、蓋部材27の雄ネジ27cにおける給排水口27dよりも下方に一対の凸部27eが形成され、スカッパー24の外周面には内側ネジ24cに交差して上下に延びる一対の凹部24eが形成されている。このため、給水または排水の量を調整するために、蓋部材27を回転させていくと、半回転ごとに、凸部27eが内側ネジ24cに圧接して蓋部材27が回転し難くなる状態になったり、凸部27eが凹部24e内に位置して蓋部材27が回転し易くなる状態になったりする。これによって、蓋部材27をどの程度回転させたか、すなわち、スカッパー24に対する蓋部材27の位置によって決まる給水および排水の量水を知ることができる。
【0047】
また、蓋部材27の位置決めの際に、凸部27eを凹部24e内に位置させておくことにより、凸部27eがストッパーとなって、蓋部材27が自然に緩んで給水および排水の量が変わってしまうことが防止される。さらに、本実施形態では、蓋部材27をスカッパー本体24aに螺合させる際の初期位置から、蓋部材27が略1回転したときに、凸部27eが内側ネジ24cに到達するようにしている。このため、蓋部材27を緩めていく際に、蓋部材27が回転し易い状態になってから半回転しても、その状態が続いていれば、これ以上、蓋部材27を回転させると、蓋部材27がスカッパー本体24aから外れてしまうことを知ることができる。これによって、蓋部材27がスカッパー本体24aから外れることをより確実に防止できる。
【0048】
本発明は、前述した実施形態に限るものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した実施形態では、本発明に係る開口部を生け簀本体21の底部21aと別部材からなるスカッパー24で構成しているが、底部21aの取付け用穴21bに円筒状の開口部を一体に形成して、この一体に形成された開口部で本発明に係る開口部を構成してもよい。また、前述した実施形態では、スカッパー24と蓋部材27を2組設けているが、これは1組だけ設けてもよいし、3組以上設けてもよい。さらに、スカッパー本体24aを底部21aから上方に突出させて、蓋部材27をスカッパー本体24aの外周面に螺合させてもよい。
【0049】
また、前述した実施形態では、凹部24eを平面状に形成に形成しているが、この凹部24eは、凸部27eに圧接しない程度であれば凹凸面で構成されていてもよい。また、上下に配置されてなく、内側ネジ24cの螺旋に沿って複数設けてもよいし、1個だけ設けてもよい。凹部を1個だけ設ける場合には、緩める方向に蓋部材27を回転したときに、スカッパー24から蓋部材27が外れるまでの1回転前の位置で凹部内に凸部27eが位置するようにすることが好ましい。
【0050】
また、前述した実施形態では、取付部を内側ネジ24cで構成し、被取付部を雄ネジ27cで構成しているが、取付部と被取付部はネジに限らず、位置調整可能に係合できるものであれば何でもよい。例えば、少なくとも一方が弾性を備えた複数のリング状突部からなる取付部と、複数のリング状凹部からなる被取付部で構成し、互いを軸方向に押さえたり引っ張ったりすることにより係合位置を変更できるようにしてもよい。さらに、本発明に係る生け簀装置は、小型船舶10に限らず、海岸や河川岸の所定部分に設けられるものであってもよい。また、生け簀装置や小型船舶を構成する各部分の材料や構造についても本発明の技術的範囲内で適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0051】
10…小型船舶、20…生け簀装置、21…生け簀本体、24…スカッパー、24c…内側ネジ、24e…凹部、27…蓋部材、27c…雄ネジ、27d…給排水口、27e…凸部。
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