(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外管と、この外管より内側に位置しオーステナイト系ステンレス鋼にて形成された内管とを備え、これら外管と内管とが溶接継手部で溶接された二重構造エキゾーストマニホールドであって、
溶接継手部は、外管の母材部と、内管の母材部と、これら外管と内管とが溶着している溶着部と、外管の母材部および内管の母材部と溶着部との境界であるボンド部とを有し、
内管の母材部成分は、C:0.08質量%以下、Si:1.5質量%以上4.0質量%以下、Mn:2.0質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.01質量%以下、Cr:17.0質量%以上20.0質量%以下、Ni:10.0質量%以上14.0質量%以下およびN:0.08質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物にて構成され、
溶着部成分は、C:0.08質量%以下、Si:1.0質量%以上3.0質量%以下、Mn:2.0質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.01質量%以下、Cr:17.0質量%以上20.0質量%以下、Ni:10.0質量%以上14.0質量%以下およびN:0.08質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物にて構成され、
内管におけるボンド部から溶着部側へ200μmの範囲は、δフェライト量が体積率で3.0%以上であり、前記母材部成分よりCr、Si、Ni、PおよびSが合計で6.0質量%以上濃化した異相の体積率が2.0%以下であり、
内管は、1000℃での0.2%耐力が30MPa以上である
ことを特徴とする二重構造エキゾーストマニホールド。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
二重構造エキゾーストマニホールドは、それぞれプレス成形された内管と外管とを隅肉溶接により溶着して製造されることが多い。
【0008】
しかしながら、二重構造エキゾーストマニホールドの内管は、通常の単構造エキゾーストマニホールドより薄肉であるため、溶接における入熱量の制御が非常に難しく、特に溶接継手部にて、高温割れや延性低下割れ等の溶接欠陥が発生する可能性がある。
【0009】
また、エキゾーストマニホールドは、排気ガスが流入して高温に曝される使用環境であるため、二重構造の場合には特に内管の高温強度を向上させる必要がある。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、溶接欠陥が発生しにくく、かつ、内管の高温強度が良好な二重構造エキゾーストマニホールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載された二重構造エキゾーストマニホールドは、外管と、この外管より内側に位置しオーステナイト系ステンレス鋼にて形成された内管とを備え、これら外管と内管とが溶接継手部で溶接された二重構造エキゾーストマニホールドであって、溶接継手部は、外管の母材部と、内管の母材部と、これら外管と内管とが溶着している溶着部と、外管の母材部および内管の母材部と溶着部との境界であるボンド部とを有し、内管の母材部成分は、C:0.08質量%以下、Si:1.5質量%以上4.0質量%以下、Mn:2.0質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.01質量%以下、Cr:17.0質量%以上20.0質量%以下、Ni:10.0質量%以上14.0質量%以下およびN:0.08質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物にて構成され、溶着部成分は、C:0.08質量%以下、Si:1.0質量%以上3.0質量%以下、Mn:2.0質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.01質量%以下、Cr:17.0質量%以上20.0質量%以下、Ni:10.0質量%以上14.0質量%以下およびN:0.08質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物にて構成され、内管におけるボンド部から溶着部側へ200μmの範囲は、δフェライト量が体積率で3.0%以上であり、前記母材部成分よりCr、Si、Ni、PおよびSが合計で6.0質量%以上濃化した異相の体積率が2.0%以下であり、内管は、1000℃での0.2%耐力が30MPa以上であるものである。
【0012】
請求項2に記載された二重構造エキゾーストマニホールドは、請求項1記載の二重構造エキゾーストマニホールドにおいて、内管の母材部成分は、Al、Nb、Ti、ZrおよびVの少なくとも1種を合計1.0質量%以下で含有し、溶着部成分は、Al、Nb、Ti、ZrおよびVの少なくとも1種を合計0.8質量%以下で含有するものである。
【0013】
請求項3に記載された二重構造エキゾーストマニホールドは、請求項1または2記載の二重構造エキゾーストマニホールドにおいて、内管の母材部成分は、MoおよびCuの少なくとも1種を4.0質量%以下で含有し、溶着部成分は、MoおよびCuの少なくとも1種を3.0質量%以下で含有するものである。
【0014】
請求項4に記載された二重構造エキゾーストマニホールドは、請求項1ないし3いずれか一記載の二重構造エキゾーストマニホールドにおいて、内管の母材部成分は、Bを0.01質量%以下で含有し、溶着部成分は、Bを0.008質量%以下で含有するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、母材部成分および溶着部成分の各元素の含有量が所定の範囲で制御されているとともに、内管のボンド部から溶着部側へ200μmの範囲において、δフェライト量が体積率で3.0%以上であり、異相の体積率が2.0%以下であるため、溶接欠陥が発生しにくくでき、かつ、内管の良好な高温強度を確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態の構成について詳細に説明する。
【0018】
二重構造エキゾーストマニホールドは、外管と、この外管より内側に間隙を介して配置された内管とを備える。これら外管と内管とは、溶接ワイヤ等の溶接棒を用いて溶接継手部にて溶接されて互いに固定されている。
【0019】
すなわち、二重構造エキゾーストマニホールドは、外管の一部と内管の一部とが溶接継手部にて溶接されて、外管と内管との間に中空の断熱層が配置された状態にて固定されている。
【0020】
また、このように外管と内管とが溶接された溶接継手部は、外管の母材部と、内管の母材部と、外管と内管とが溶着している溶着部と、外管の母材部および内管の母材部と溶着部との境界であるボンド部とを有する構成となる。
【0021】
そして、二重構造エキゾーストマニホールドは、自動車等のエンジンの下流に設置され、エンジンからの排気ガスが流入することにより、例えば850〜900℃の高温に曝される。そのため、特に、流入する排気ガスに曝される内管の高温強度および耐高温酸化性が重要である。
【0022】
また、内管は、外管より薄肉であり、溶接における入熱量の制御が非常に難しいため、例えば高温割れや延性低下割れ等の溶接欠陥が発生しにくいようにすることが重要である。
【0023】
そこで、内管は、フェライト系ステンレス鋼より加工性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼にて形成され、具体的には下記の通り成分設計されている。
【0024】
内管の母材部成分は、0.08質量%以下のC(炭素)、1.5質量%以上4.0質量%以下のSi(ケイ素)、2.0質量%以下のMn(マンガン)、0.04質量%以下のP(リン)、0.01質量%以下のS(硫黄)、17.0質量%以上20.0質量%以下のCr(クロム)、10.0質量%以上14.0質量%以下のNi(ニッケル)、および、0.08質量%以下のN(窒素)を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物にて構成されている。
【0025】
また、溶着部成分は、0.08質量%以下のC、1.0質量%以上3.0質量%以下のSi、2.0質量%以下のMn、0.04質量%以下のP、0.01質量%以下のS、17.0質量%以上20.0質量%以下のCr、10.0質量%以上14.0質量%以下のNi、および、0.08質量%以下のNを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物にて構成されている。
【0026】
Cは、オーステナイト系ステンレス鋼の高温強度の向上に有効であるが、0.08質量%を超えて過剰に含有させると、使用中にCr炭化物を形成して靭性が劣化する可能性があるとともに、耐高温酸化性の向上に有効な固溶Cr量が減少する可能性がある。したがって、内管の母材部および溶着部におけるCの含有量は、0.08質量%以下(無添加を含まず。)とする。
【0027】
Siは、高温酸化特性の向上に非常に有効であり、内管の母材部において1.5質量%以上含有させ、溶着部において1.0質量%以上含有させることにより、850〜900℃の温度域でSi濃化被膜をCr酸化物の内側に形成させ、耐スケール剥離性の向上に寄与する。一方、Siを、内管の母材部において4.0質量%を超えて過剰に含有させ、溶着部において3.0質量%を超えて過剰に含有させると、σ脆化感受性を高め、使用中にσ脆化を誘発する可能性がある。したがって、内管の母材部におけるSiの含有量は、1.5質量%以上4.0質量%以下とし、好ましくは3.0質量%以上4.0質量%以下とする。また、溶着部におけるSiの含有量は、1.0質量%以上3.0質量%以下とする。
【0028】
Mnは、オーステナイト相安定化元素であり、主としてδ相バランスを調整する作用を奏するが、2.0質量%を超えて過剰に含有させると、耐高温酸化性の低下を招いてしまう可能性がある。したがって、内管の母材部および溶着部におけるMnの含有量は2.0質量%以下(無添加を含まず。)とする。
【0029】
Pは、0.04質量%を超えて含有させるとオーステナイト系ステンレス鋼の熱間加工性を低下させる可能性があるため、可能な限り含有量を低減することが好ましい。したがって、内管の母材部および溶着部におけるPの含有量は0.04質量%以下とする。
【0030】
Sは、Pと同様に0.01質量%を超えて含有させるとオーステナイト系ステンレス鋼の熱間加工性を低下させる可能性があるため、可能な限り含有量を低減することが好ましい。したがって、内管の母材部および溶着部におけるSの含有量は0.01質量%以下とする。
【0031】
Crは、高温でのスケール生成を抑制し、高温酸化特性の向上に有効な元素であり、このような作用を奏するには17.0質量%以上含有させる必要がある。一方、Crを20.0質量%を超えて過剰に含有させると、σ脆化を誘発する可能性がある。したがって、内管の母材部および溶着部におけるCrの含有量は17.0質量%以上20.0質量%以下とする。
【0032】
Niは、オーステナイト相安定化元素であり、主としてδ相バランスを調整するために含有させるが、このような作用を奏するには、10.0質量%以上含有させる必要がある。一方、Niを14.0質量%を超えて過剰に含有させると、耐高温酸化性の低下を招いてしまう可能性がある。したがって、内管の母材部および溶着部におけるNiの含有量は10.0質量%以上14.0質量%以下とする。
【0033】
Nは、固溶強化により高温強度を向上させる元素であるが、0.08質量%を超えて過剰に含有させると、Cr窒化物の形成により、靭性の低下や耐高温酸化性の向上に有効な固溶Cr量を減少させる可能性がある。したがって、内管の母材部および溶着部におけるNの含有量は、0.08質量%以下(無添加を含まず。)とする。
【0034】
ここで、高Si含有鋼の溶接継手部では、溶着部の粘性が低いため、溶接時に溶け込みを制御しにくく、また、Siが母材部の融点を低下させるとともに、溶着部の最終凝固部に低融点化元素としてのSiが濃化しやすい。
【0035】
また、凝固速度が遅くなるほど溶着部の粒界に低融点化元素が濃化しやすく、低温まで粒界の液相部分が残存しやすくなる。
【0036】
そして、溶着部の粒界が低温まで液相化する結果、粒界強度が低下し溶接の際の熱変形による高温割れ等の溶接欠陥が発生しやすい状態になってしまう。
【0037】
また、二重構造エキゾーストマニホールドの内管の耐久性(高温強度および耐高温酸化性等)は、内管の母材部成分に比べて低融点化元素であるCr、Si、Ni、PおよびSが濃化した低融点化元素濃化部が存在することにより著しく低下する。より具体的には、溶接の際に、低融点化元素濃化部と鋼素地(母材部または溶着部)との界面に微小亀裂が存在しやすく、また、微小亀裂が存在しなくても界面強度そのものが弱く亀裂が発生しやすいため、耐久性が低くなると考えられる。
【0038】
したがって、二重構造エキゾーストマニホールドに溶接欠陥が発生しにくくするとともに、二重構造エキゾーストマニホールドの耐久性を向上するには、内管の母材部成分や溶着部成分の調整により低融点化元素濃化部の存在比率を低下させることが重要である。
【0039】
そこで、ボンド部から溶着部側へ200μmの範囲において、低融点化元素であるCr、Si、Ni、PおよびSを内管の母材部成分より合計6.0質量%以上含有し低融点化元素が濃化した低融点化元素濃化部としての異相の存在比率が、体積率で2.0%以下となるように、内管の母材部成分や溶着部成分を上記範囲内で調整する。
【0040】
また、異相の存在比率は、溶着部のδフェライト相と密接に関係しており、δフェライト相が多いほど異相の存在比率が低下する。
【0041】
そこで、ボンド部から溶着部側へ200μmの範囲において、δフェライト量が体積率で3.0%以上にすることにより、異相の存在比率が低下して耐久性が向上する。
【0042】
なお、δフェライト量が多量になると、δ相がσ相となり耐久性が低下するため、ボンド部から溶着部側へ200μmの範囲におけるδフェライト量は、体積率で10%以下であることが好ましい。
【0043】
そして、内管の母材部成分および溶着部成分の各元素含有量を調整して、δフェライト相の体積率を3.0%以上とし、異相の体積率を2.0%以下にすることによって、内管の1000℃での0.2%耐力を30MPa以上にして、高温強度を確保するとともに、溶接欠陥が発生しにくくできる。
【0044】
なお、
図1(a)にはボンド部から溶着部側へ200μmの範囲における異相を示し、
図1(b)にはボンド部から溶着部側へ200μmの範囲におけるδフェライトを示す。
【0045】
また、これら異相およびδフェライトは、EDX分析にて成分を確認できる。そこで、ボンド部から溶着部側へ200μmの範囲における異相およびδフェライトのEDX分析結果の一例を表1に示す。
【0047】
また、必要に応じて、二重構造エキゾーストマニホールドの内管の母材部成分は、Al(アルミニウム)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)およびV(バナジウム)の少なくとも1種を合計1.0質量%以下で含有し、溶着部成分はAl、Nb、Ti、ZrおよびVの少なくとも1種を合計0.8質量%以下で含有することが好ましい。
【0048】
Alは、強力なフェライト生成元素であり、δ相の安定化に有効である。また、Nb、Ti、ZrおよびVは、CやNと結合し高温強度を向上させる元素である。しかしながら、Al、Nb、Ti、ZrおよびVは、過剰に含有させると、低融点化につながる可能性がある。したがって、高温強度を向上する目的でAl、Nb、Ti、ZrおよびVを含有させる場合は、内管の母材部にはAl、Nb、Ti、ZrおよびVのうちの少なくとも1種を合計1.0質量%以下で含有させ、溶着部にはAl、Nb、Ti、ZrおよびVのうちの少なくとも1種を合計0.8質量%以下で含有させることが好ましい。
【0049】
さらに、必要に応じて、二重構造エキゾーストマニホールドの内管の母材部成分はMo(モリブデン)およびCu(銅)の少なくとも1種を4.0質量%以下で含有し、溶着部成分はMoおよびCuの少なくとも1種を3.0質量%以下で含有することが好ましい。
【0050】
Moは、フェライト生成元素であり、高温強度の向上に有効であるが、過剰に含有させるとσ脆化を招き、靭性が低下する可能性がある。
【0051】
Cuは、オーステナイト生成元素であり、高温強度の向上に有用であるが、過剰に含有させると耐高温酸化性の低下を招く可能性がある。
【0052】
したがって、高温強度の向上を目的としてMoおよびCuを含有させる場合は、内管の母材部にはMoおよびCuの少なくとも1種を4.0質量%以下で含有させ、溶着部にはMoおよびCuの少なくとも1種を3.0質量%以下で含有させることが好ましい。
【0053】
また、必要に応じて、二重構造エキゾーストマニホールドの内管の母材部はB(ホウ素)を0.01質量%以下で含有し、溶着部はBを0.008質量%以下で含有することが好ましい。
【0054】
Bは、溶接継手部の粒界強度を向上させるのに有効であるが、多量に含有させると熱間加工性が低下してしまう可能性がある。したがって、粒界強度の向上を目的としてBを含有させる場合は、内管の母材部には0.01質量%以下で含有させ、溶着部には0.008質量%以下で含有させることが好ましい。
【0055】
そして、上記二重構造エキゾーストマニホールドによれば、内管の母材部成分および溶着部成分の各元素の含有量が所定の範囲で制御されているとともに、内管のボンド部から溶着部側へ200μmの範囲において、δフェライト量が体積率で3.0%以上であり、異相の体積率が2.0%以下であるため、溶接の際に粒界強度が低下しにくく溶接欠陥が発生しにくくできるとともに、内管の良好な高温強度を確保できる。
【0056】
内管の母材部にAl、Nb、Ti、ZrおよびVのうちの少なくとも1種を合計1.0質量%以下で含有させ、溶着部にAl、Nb、Ti、ZrおよびVのうちの少なくとも1種を合計0.8質量%以下で含有させることにより、内管の高温強度を向上できる。
【0057】
また、内管の母材部にMoおよびCuの少なくとも1種を4.0質量%以下で含有させ、溶着部にMoおよびCuの少なくとも1種を3.0質量%以下で含有させることにより、内管の高温強度を向上できる。
【0058】
さらに、内管の母材部に0.01質量%以下のBを含有させ、溶着部に0.008質量%以下のBを含有させることにより、溶接継手部の粒界強度を向上できるため、溶接欠陥の発生を防止できる。
【実施例】
【0059】
以下、本実施例および比較例について説明する。
【0060】
表2に示す成分のオーステナイト系ステンレス鋼を溶製し、所定の板厚の冷延焼鈍板とした。そして、この冷延焼鈍板を供試材として、高温強度試験および溶接性試験を行って本実施例および比較例における高温強度および溶接性の評価を行った。
【0061】
【表2】
【0062】
高温強度試験では、板厚2.0mmの各供試材の圧延方向を長手方向として高温引張試験片を切り出した。
【0063】
この高温引張試験片を用い、JIS G 0567に準拠して、1000℃にて引張試験を行って0.2%耐力を測定した。なお、引張速度は、評点間50mmに対し0.3%/minにて行った。
【0064】
高温強度の評価は、0.2%耐力が30MPa以上のものを二重構造エキゾーストマニホールドの内管として高温強度が良好であると判断して○と評価し、0.2%耐力が30MPa未満のものを×と評価した。
【0065】
溶接性試験では、板厚0.8mmの各供試材から100mm×200mmの板を切り出し、この切り出した板を2枚重ね合わせてMIG溶接を施して溶接性試験片とした。溶接条件は、電流を120Aとし、電圧を14.4Vとし、溶接心線を308(φ1.2mm)とし、シールドガスをAr+5%O
2(10L/min)とした。
【0066】
そして、各溶接性試験片を5つ作製し評価数を5として、それぞれ溶着部を観察した。また、観察の結果、溶着部の裏面に割れが発生していたものを溶接割れ判定とし、割れ発生率を算出した。
【0067】
これら高温強度試験および溶接性試験の結果を表3に示す。なお、表3において、σ
0.2は、0.2%耐力を示し、δはδフェライト相の体積率を示す。
【0068】
【表3】
【0069】
表3、
図2および
図3に示すように、本実施例である鋼種No.1ないし10は、0.2%耐力が30MPa以上であり、溶接後に割れが発生しておらず、いずれも高温強度および溶接性が良好であった。
【0070】
一方、Siの含有量が4.0質量%より多い構成、または、Pの含有量が0.04質量%より多い構成であり、δフェライト相の体積率が3.0%未満で、異相の体積率が2.0%より多い比較例である鋼種No.11,12,15は、溶接後に割れが発生しており、溶接性が悪かった。
【0071】
また、Pの含有量が0.04質量%より多い構成であり、δフェライト相の体積率が3.0%未満で、異相の体積率が2.0%より多い比較例である鋼種No.13,14は、溶接後に割れが発生しており、溶接性が悪いとともに、0.2%耐力も30MPa未満で高温強度が低かった。