特許第6249845号(P6249845)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6249845
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】エンジン油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20171211BHJP
   C10M 149/00 20060101ALN20171211BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20171211BHJP
   C10M 143/14 20060101ALN20171211BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20171211BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20171211BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20171211BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20171211BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20171211BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20171211BHJP
【FI】
   C10M169/04
   !C10M149/00
   !C10M101/02
   !C10M143/14
   !C10M133/16
   C10N20:02
   C10N20:04
   C10N30:00 Z
   C10N30:06
   C10N40:25
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-59669(P2014-59669)
(22)【出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-183058(P2015-183058A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悟
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/046484(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/017556(WO,A1)
【文献】 特表2013−512313(JP,A)
【文献】 特表2008−518051(JP,A)
【文献】 特表2012−532958(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/156306(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/077811(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 169/04
C10M 101/02
C10M 133/16
C10M 143/14
C10M 167/00
C10N 20/02
C10N 20/04
C10N 30/00
C10N 30/06
C10N 40/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和分が70質量%以上、及び粘度指数が90以上、160以下の潤滑油基油と、
(A)(A−1)スターポリマー及び(A−2)重量平均分子量が200,000以上、400,000以下の窒素含有基を有するポリマーと、
摩擦調整剤である(B)炭素数が10〜30であり、分子末端がアミド基である脂肪酸アミド化合物と、を含む、
エンジン油組成物。
【請求項2】
前記スターポリマーが、ポリアルケニル化合物のコア部、及び該コア部に結合する4〜15のアーム部を有するポリマーである、
請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項3】
前記潤滑油基油の100℃動粘度が3.5〜5.0mm/sである、
請求項1又は2に記載のエンジン油組成物。
【請求項4】
前記エンジン油組成物の100℃動粘度が5.6mm/s以上、12.5mm/s未満であり、剪断速度1×10/s、150℃での高温高剪断粘度が2.6mPa・s以上である、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のエンジン油組成物。
【請求項5】
ディーゼルエンジン用であることを特徴とする、
請求項1〜4のいずれか一項に記載のエンジン油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省燃費性能に優れたエンジン油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの環境問題への対応として、エンジン油に対しても燃費低減効果が求められてきている。エンジン油による省燃費性向上技術には、低粘度化による流体潤滑領域での摩擦低減と、摩擦低減剤の配合による境界潤滑領域での摩擦低減技術が挙げられる。
しかしながら、過度な低粘度化は油膜強度不足により、エンジン耐久性への悪影響や境界潤滑領域での摩擦増大の問題がある。これは、ガソリン及びディーゼルの両エンジンに共通する問題であるが、特にディーゼルエンジンにおいて、エンジン油の低粘度化の悪影響が大きい。
【0003】
特許文献1〜3は、高温・高剪断下において一定の粘度を有し、省燃費性能の良好なエンジン油として、粘度指数が120以上の潤滑油基油に特定の粘度指数向上剤を含有させたエンジン油を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−095662号公報
【特許文献2】特開2010−095663号公報
【特許文献3】特開2010−095664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記、特許文献1〜3に係るエンジン油は、一定の燃費低減効果を有するものの、いまだ満足のいく性能ではない。
そこで、本発明の課題は、省燃費性能に優れ、かつ耐摩耗性に優れたエンジン油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題について鋭意研究した結果、特定の性状を有する潤滑油基油に、粘度指数向上剤としてスターポリマー及び窒素含有基を有するポリマー、並びに摩擦調整剤としてアミド化合物、イミド化合物、又は両化合物の混合物を含有させることにより、優れた耐摩耗性と省燃費効果を発現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、飽和分が70質量%以上、及び粘度指数が90以上、160以下の潤滑油基油と、(A)(A−1)スターポリマー及び(A−2)重量平均分子量が200,000以上、400,000以下の窒素含有基を有するポリマーと、摩擦調整剤である(B)炭素数が10〜30であり、分子末端がアミド基である脂肪酸アミド化合物と、を含むエンジン油組成物が提供される。
また、前記スターポリマーは、ポリアルケニル化合物のコア部、及び該コア部に結合する4〜15のアーム部を有するポリマーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエンジン油組成物は、特定性状の潤滑油基油中にスターポリマーを含む特定のポリマーを含有しているので、優れた省燃費性能と同時に極めて良好な耐摩耗性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。
本発明のエンジン油組成物の基油は、飽和分が70質量%以上、粘度指数が90以上、160以下の潤滑油基油(以後、単に基油と称する場合もある)である。
【0010】
当該基油の飽和分は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。特に、ほぼ全てが飽和分、具体的には飽和分が99質量%以上であることが最も好ましい。飽和分が70質量%未満では高温高剪断の潤滑条件で使用されるには、酸化安定性が十分でなく、また粘度−温度特性が悪く本発明の性能を実現できない。
なお、本発明でいう飽和分の含有量とは、ASTM D2007−11に準拠して測定される値(単位:質量%)を意味する。
【0011】
本発明の基油は、%Cpが60以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましい。また、100以下であることが好ましく、95以下であることがより好ましい。なお、本発明でいう%Cpとは、基油中のパラフィンを構成する炭素の全炭素数に対する百分率(%)を意味し、ASTM D3238に準拠して測定される。
また、本発明の基油は、%CNが40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましい。また、1以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。なお、本発明でいう%CNとは、基油中のナフテン環を構成する炭素の全炭素数に対する百分率(%)を意味し、ASTM D3238に準拠して測定される。
さらに、本発明の基油は、%CAが10以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。また、0以上であることが好ましい。なお、本発明でいう%CAとは、基油中の芳香環を構成する炭素の全炭素数に対する百分率(%)を意味し、ASTM D3238に準拠して測定される。
【0012】
また、基油の粘度指数は110以上であることが好ましく、より好ましくは120以上であり、さらに好ましくは125以上である。一方、160以下であることが好ましい。粘度指数が90未満であると、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化するだけでなく、摩擦係数が上昇する傾向にあり、また、摩耗防止性が低下する傾向にある。また、粘度指数が160を超えると、低温粘度特性が低下する傾向にある。
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定される粘度指数を意味する。
【0013】
なお、本発明の基油としては、鉱油系基油又は合成油系基油が挙げられる。これらは単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。
【0014】
鉱油系基油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素化異性化、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系鉱油、イソパラフィン系鉱油などが挙げられる。
特に、常圧蒸留ボトム油や減圧蒸留装置から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油が特に好ましい。なかでも、接触脱ろう処理をしたものがより好ましい。
【0015】
本発明の鉱油系基油の流動点は−12.5℃以下であることが好ましく、−15℃以下がより好ましい。また−35℃より高いことが好ましく、−30℃以上がより好ましく、−25℃以上がさらに好ましく、−20℃以上が特に好ましい。これは流動点が−12.5℃よりも高いと低温時の特性が悪化し、また−35℃以下では十分な粘度指数が得られないためである。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定される流動点を意味する。
【0016】
さらに、鉱油系基油におけるNOACK値(NOACK蒸発量)は15重量%以下が好ましい。なお、NOACK値とは、ASTM D 5800−95に準拠して測定された蒸発損失量(重量%)を意味する。
【0017】
鉱油系基油の硫黄分含有量については特に制限はないが、熱・酸化安定性の更なる向上及び低硫黄化の点から、基油中の硫黄分の含有量は100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。なお、ここでいう硫黄分はJIS 5S−38−2003で測定される値である。
【0018】
鉱油系基油の芳香族分の含有量については特に制限はないが、熱・酸化安定性の更なる向上及び低硫黄化の点から、基油中の芳香族分の含有量は30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
30質量%を超すと、高温高剪断の潤滑条件で使用されるには、酸化安定性が十分でなく、また粘度−温度特性が悪く本発明の効果を発揮できないおそれがある。
【0019】
一方、合成系基油としては、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
【0020】
鉱油系、合成系いずれも、基油の100℃における動粘度は1mm2/s以上が好ましく、2mm2/s以上がより好ましく、3mm2/s以上がさらに好ましく、3.5mm2/s以上が特に好ましい。一方、10mm2/s以下であることが好ましく、5mm2/s以下であることがさらに好ましく、4.5mm2/s以下であることが特に好ましい。100℃動粘度が10mm2/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、1mm2/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、またエンジン油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがあるため好ましくない。
なお、ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。
【0021】
また、鉱油系、合成系いずれも、基油の40℃における動粘度は8mm2/s以上が好ましく、10mm2/s以上がより好ましく、12mm2/s以上がさらに好ましい。一方、45mm2/s以下が好ましく、40mm2/s以下がより好ましく、36mm2/s以下がさらに好ましい。40℃における動粘度が8mm2/s未満だと潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、またエンジン油組成物の蒸発損失が大きくなる恐れがあるため好ましくなく、45mm2/sを超えると低温粘度特性が悪化し、十分な省燃費性が得られないため、それぞれ好ましくない。
なお、ここでいう40℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される40℃での動粘度を示す。
【0022】
本発明のエンジン油組成物は、粘度指数向上剤として(A)成分である(A−1)スターポリマーと(A−2)重量平均分子量が200,000以上、400,000以下の窒素含有基を有するポリマーを含有する。
【0023】
本発明のエンジン油組成物は、(A−1)スターポリマーをエンジン油組成物全量基準で、少なくとも4質量%以上含有することが好ましい。本発明において、スターポリマーとは、星形(若しくは星型)ポリマー、あるいは星形(若しくは星型)重合体とも称されるものであり、コア部と称される分子の中心部から星形を形成するようにアーム部が外側に伸びている形状のポリマー(重合体)を意味するものとする。
なお、本発明に使用するスターポリマーの製造例としては、例えば、米国特許第4116917号、同第4141847号、同第4346193号、同第4409120号、あるいは特表2002−504589、特開2013−129835等に示されている方法を適用することができる。
【0024】
本発明のスターポリマーは、ポリアルケニル化合物のコア部、及び該コア部に結合する4以上のアーム部を有するポリマーであることが好ましい。より好ましくはアーム部を5以上有するものであり、6以上有するものがさらに好ましい。またアーム部が20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。
アーム数が4未満では剪断安定性が十分でなく、使用時間の経過に伴い粘度が低下し、本来必要な粘度を確保できないおそれがある。またアーム数が20を超えると、高剪断時の粘度低下が十分ではなく、本発明の目的である省燃費性を確保できなくなるおそれがある。
【0025】
以下、より詳しく説明する。当該スターポリマーは、ジビニルベンゼンやポリビニル脂肪族化合物などの2重結合を2つ以上持つモノマー(コア部形成モノマー)と、2重結合を2つ持つ脂肪族ジエン(アーム部形成モノマー)と、を有するモノマー組成物の共重合反応により得られる、コア部とアーム部からなるポリマー構造を有することが好ましい。なお、アーム部のポリジエン(ジエンの重合体)は、コア部形成モノマーの重合体であるポリアルケニル化合物中の2重結合部を起点として、重合鎖が伸びており、当該重合鎖中の2重結合は共重合反応後に水添(水素添加)される。
アーム部の構造としては、水添されたアーム部のポリジエンの末端に、スチレンやアルケン等の芳香族モノマー、脂肪族モノマーがブロック重合により結合しているものが好ましい。より好ましくは、アーム部の末端にポリスチレン部が存在する構造が好ましい。さらに好ましくは、スターポリマー中の全てのアーム部の末端にポリスチレン部が存在する構造である。
また、アーム部のポリジエンは、その2重結合部分のほぼ全てが水添されていることが好ましい。
なお、以後、アーム部の重合体部を、末端のポリスチレン部等も含めて水添ポリジエンと称することもある。
【0026】
当該スターポリマーの核(コア部)を作り上げるポリアルケニル化合物は、ジビニルベンゼンやポリビニル脂肪族化合物などが好ましく、特にジビニルベンゼンからなることが好ましい。アーム部の水添ポリジエンを作り上げるジエンは、ブタジエン、イソプレンなどが好ましい。また、上記したようにアーム部の末端部にポリスチレン構造を有することが好ましいので、アーム部の重合モノマーとしてスチレンも原料として使用することが望ましい。
スチレンの含有量は、スターポリマー全量基準で2mol%以上が好ましく、さらには3mol%以上がより好ましい。また、10mol%以下が好ましく、さらには7mol%以下がより好ましい。スチレンの含有量が2mol%以下では十分な高温剪断粘度の低下が得られず、10mol%より多い場合は、基油に対して十分な溶解性を得ることができない。
【0027】
スターポリマー中のアーム部の重量平均分子量は、5,000〜600,000、より好ましくは10,000〜500,000、さらに好ましくは10,000〜300,000である。剪断安定性が良好で、耐摩耗性に優れるからである。
【0028】
スターポリマーの分子量は、具体的には、重量平均分子量が10,000〜1,000,000であることが好ましく、より好ましくは100,000〜800,000、さらに好ましくは300,000〜600,000である。剪断安定性が良好だからである。
なお、重量平均分子量は、(A−1)及び(A−2)とも、次の条件で測定できる。
測定装置 Waters社製 Alliance 2695
カラム 東ソーGMH6×2(本)
溶媒 テトラヒドロフラン
検出器 RI
標準物質 ポリスチレン
測定条件 流速1mL/min、サンプル濃度2.0質量%、打込量 100μL
【0029】
本発明の(A−1)スターポリマーの製造方法は、特に制限されず、例えば、コア部を作り上げるためのジビニルベンゼン等をラジカル重合で形成した後、形成されたコア部中に存在する2重結合を起点としてジエンを同様にラジカル重合させ、次いで末端のポリスチレン部の形成、及び水添を行うことにより製造することができる。なお、アーム部末端のポリスチレン部形成と水添は、どちらを先に行ってもよい。
あるいは、末端に反応起点を有するアーム部ポリマーを形成後、コア部形成モノマーと反応させ、コア部の形成とアーム部の結合を同時に行う方法、又は、コア部とアーム部のポリマーをそれぞれ形成後、その反応起点同士を反応させる方法等を採用することができる。
より具体的には、上記の米国特許あるいは日本特許に記載の方法で製造することができる。
【0030】
スターポリマーのPSSI(Permanent Shear Stability Index)は45以下であることが好ましく、より好ましくは40以下である。PSSIが45を超える場合には剪断安定性が悪化するため、初期の動粘度を高める必要が生じ、省燃費性を悪化させるおそれがある。また、PSSIが1未満の場合には潤滑油基油に溶解させた場合の粘度指数向上効果が小さく、省燃費性や低温粘度特性に劣るだけでなく、コストが上昇するおそれがあるため、PSSIは1以上であることが好ましい。
【0031】
ここで、本発明でいう「PSSI」とは、ASTM D 6022−01(Stand
ard Practice for Calculation of Permanen
t Shear Stability Index)に準拠し、ASTM D 6278
−02(Test Metohd for Shear Stability of P
olymer Containing Fluids Using a Europea
n Diesel Injector Apparatus)により測定されたデータに
基づき計算された、ポリマーの永久せん断安定性指数(Permanent Shear
Stability Index)を意味する。
【0032】
本発明のエンジン油組成物における、スターポリマーの含有割合は、エンジン油組成物全量基準で、少なくとも4質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは5質量%以上である。一方、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。含有量が4質量%より少ない場合には、省燃費効果の源泉である、100℃、106/sでの高い高温高剪断粘度(HTHS粘度)を保ちながら、100℃、107/sでの高温高剪断粘度を低くすることができず、また含有量が20質量%を超える場合には剪断安定性が悪化するおそれがある。
【0033】
本発明におけるもう一つの粘度指数向上剤である、(A−2)窒素含有基を有するポリマーは、後述する窒素を含むモノマーと他のモノマーとを共重合させたポリマーであり、(A−2)中に窒素を0.01質量%以上含有する。
当該窒素含有基を有するポリマーは、その重量平均分子量が200,000以上、400,000以下であり、また、PSSIが60以下であることが好ましい。重量平均分子量が当該範囲であることにより省燃費性能を高めることができ、さらにPSSIが60以下を満たすことによって、より一層省燃費性能を高めることができる。
【0034】
(A−2)窒素含有基を有するポリマーの具体例としては、次のものを挙げることができる。ここで、以下のコポリマーはいずれも、後述する式(2)又は(3)に示す窒素含有モノマーを共重合モノマーとして共重合させることにより、当該窒素含有モノマー由来部をポリマー中に有している。なお、便宜上当該窒素含有モノマー由来部の名称を特に示すことなく、以下に(A−2)の例を示す。
すなわち、ポリ(メタ)アクリレート、スチレン−ジエンコポリマーの水素化物、エチレン−α−オレフィンコポリマー又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステルコポリマー、ポリアルキルスチレン、及び(メタ)アクリレート−オレフィンコポリマー等を例示できる。
【0035】
本発明のエンジン由組成物中の粘度指数向上剤は、上述した(A)成分である(A−1)スターポリマー及び(A−2)窒素含有基を有するポリマーの2種のポリマーを必須として含むものであるが、本発明の効果を損なわない限りにおいて他の粘度指数向上剤を含有してもよい。本発明の効果を最大限に発揮する点において粘度指数向上剤は、(A)成分のみであることが好ましい。
当該他の粘度指数向上剤としては、例えば、エステル基含有粘度指数向上剤、及び上記例示した(A−2)のポリマーに対応するポリマーであって、窒素含有モノマーを共重合させないものを例示できる。好ましくは、ポリ(メタ)アクリレートである。
【0036】
(A−2)窒素含有基を有するポリマーの例として、ポリ(メタ)アクリレートについてさらに説明する。ここで、ポリ(メタ)アクリレートとは、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、アクリレートとメタクリレートとのコポリマー、及びこれらの混合物等の総称を意味し、これらのいずれであってもよい。
(A−2)がこのポリ(メタ)クリレートの場合は、次のような構成を例示することができる。すなわち、下記式(1)で表される(メタ)アクリレートモノマー(以下、「モノマーM−1」という。)と、式(2)及び(3)から選ばれる1種以上のモノマー(以下、それぞれ「モノマーM−2」、「モノマーM−3」という。)を共重合させた、窒素含有基を分子内に有するポリ(メタ)アクリレートである。
【0037】
【化1】
[式(1)中、R1は水素又はメチル基を示し、R2は炭素数1〜18の直鎖状又は分岐状の炭化水素基を示す。]
【0038】
【化2】
[式(2)中、R3は水素原子又はメチル基を示し、R4は炭素数1〜18のアルキレン基を示し、E1は窒素を1〜2個、酸素を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示し、aは0又は1を示す。]
【0039】
【化3】
[式(3)中、R5は水素又はメチル基を示し、E2は窒素を1〜2個、酸素を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示す。]
【0040】
1及びE2で表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、及びピラジノ基等が例示できる。
【0041】
また、モノマーM−2、モノマーM−3の好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン及びこれらの混合物等が例示できる。
【0042】
モノマーM−1と、「モノマーM−2若しくはM−3、又はこの両者(以下、M−2〜M−3と表す)」との共重合体の共重合モル比については特に制限はないが、M−1:M−2〜M−3=99:1〜80:20程度が好ましく、より好ましくは98:2〜85:15、さらに好ましくは95:5〜90:10である。
【0043】
(A−2)窒素含有基を有するポリマーの他の例としては、スチレン−ジエンコポリマーの水素化物を挙げることができ、当該コポリマーもコモノマーとして、スチレン及びジエンに加えて上記M−2〜M−3を用いて共重合されたものである。ジエンとしては、具体的には、ブタジエン、イソプレン等が好ましく、特に、イソプレンが好ましい。なお、水素化は共重合後に行う。
【0044】
(A−2)のまた別の例としては、エチレン−α−オレフィンコポリマーを挙げることができ、当該コポリマーもコモノマーとして、エチレン及びα−オレフィンに加えて上記M−2〜M−3を用いて共重合されたものである。α−オレフィンとしては、具体的にプロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、及び1−ドデセン等が例示される。
【0045】
これら(A−2)窒素含有基を有するポリマー中の窒素含有量は、いずれのポリマーも(A−2)全量基準で0.01〜1.0質量%であることが好ましい。0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が特に好ましい。また、0.5質量%以下が特に好ましい。0.01質量%未満では、本発明の目的である耐摩耗性を達成することができず、また1.0質量%を超えると、酸化安定性に懸念が生ずる。
【0046】
(A−2)の重量平均分子量(MW)は、上記いずれのタイプのポリマーも、200,000以上、好ましくは250,000以上である。また、400,000以下、好ましくは380,000以下であり、より好ましくは360,000以下である。重量平均分子量が200,000未満の場合には十分な摩耗防止性能を得ることができないおそれがある。また、重量平均分子量が400,000を超える場合には、粘度増加効果が大きくなりすぎ、省燃費性や低温粘度特性に劣るおそれがあり、さらに、剪断安定性や潤滑油基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0047】
(A−2)のPSSIは60以下が好ましく、より好ましくは55以下、さらに好ましくは50以下である。PSSIが60以下であれば、剪断安定性がより良好で省燃費性がより向上する。
また、PSSIは1以上が好ましい。潤滑油基油に溶解させた場合の粘度指数向上効果が十分に発揮され、省燃費性や低温粘度特性が向上するからである。
【0048】
(A)成分の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn:多分散度)は、(A−1)及び(A−2)いずれも、5.0以下であることが好ましく、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.0以下である。また、Mw/Mnは1.0以上であることが好ましく、より好ましくは2.0以上、さらに好ましくは2.5以上、特に好ましくは2.6以上である。Mw/Mnが5.0を超え、若しくは1.0未満になると、溶解性と粘度温度特性の向上効果が低下する懸念があり、十分な貯蔵安定性や、省燃費性が維持できなくなるおそれがある。
【0049】
粘度指数向上剤である(A)成分[(A−1)+(A−2)]の含有量は、エンジン油組成物全量基準で、0.1〜50質量%であることが好ましく、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは1.0〜15質量%、さらに好ましくは1.5〜12質量%である。含有量が0.1質量%より少ない場合には低温特性が不十分となるおそれがあり、また含有量が50質量%を超える場合には組成物の剪断安定性が悪化するおそれがある。
なお、(A)成分以外の他の粘度指数向上剤を含むときは、当該他の粘度指数向上剤の含有量は、エンジン油組成物全量基準で、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0050】
エンジン油組成物の、剪断速度1×106/s、100℃での高温高剪断粘度(a)に対する、剪断速度1×107/s、100℃での高温高剪断粘度(b)の比(b/a)が0.85以下となるようにすることが好ましい。0.85を上回ると省燃費性が低下するおそれがある。
【0051】
本発明のエンジン油組成物は、摩擦調整剤として(B)成分を含有し、具体的にはアミド化合物が好ましく、脂肪酸アミドがより好ましい。イミド化合物、又は両化合物の混合物を含有してもよく、イミド化合物は脂肪酸イミドであることが好ましい。また、直鎖脂肪酸由来のものがより好ましい。
【0052】
脂肪酸アミドの具体例としては、窒素原子を一つ含む、炭素数10〜30のアルキル基又はアルケニル基を少なくとも1つ有する脂肪酸アミドが挙げられる。当該脂肪酸アミドは、例えば、炭素数10〜30のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪酸やその酸塩化物を、アンモニアや炭素数1〜30の炭化水素基又は水酸基含有炭化水素基のみを分子中に含有するアミン化合物等を反応させることによって得られる。アンモニアと炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪酸を反応させた、分子末端がアミド基である脂肪酸アミドが特に好ましい。
【0053】
脂肪酸アミドの具体的化合物例として、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ヤシ油脂肪酸アミド、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸アミド、及びこれらの混合物等を挙げることができる。これらの脂肪酸アミドは摩擦低減効果に加え、摩耗防止効果に優れるので特に好ましい。
【0054】
その他のアミド化合物としては、国際公開第2005037967号に例示されている、ヒドラジド(オレイン酸ヒドラジド等)、セミカルバジド(オレイルセミカルバジド等)、ウレア(オレイルウレア等)、ウレイド(オレイルウレイド等)、アロファン酸アミド(オレイルアロファン酸アミド等)及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0055】
さらに、ドデシルウレア、トリデシルウレア、テトラデシルウレア、ペンタデシルウレア、ヘキサデシルウレア、ヘプタデシルウレア、オクタデシルウレア、オレイルウレア(C1835−NH−C(=O)−NH2)等の炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基を有するウレア化合物、及びそれらの酸変性誘導体(ホウ酸変性誘導体等)が挙げられる。
また、ドデカン酸ヒドラジド、トリデカン酸ヒドラジド、テトラデカン酸ヒドラジド、ペンタデカン酸ヒドラジド、ヘキサデカン酸ヒドラジド、ヘプタデカン酸ヒドラジド、オクタデカン酸ヒドラジド、オレイン酸ヒドラジド(C1733−C(=O)−NH−NH2)、エルカ酸ヒドラジド(C2141−C(=O)−NH−NH2)等の炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基を有するヒドラジド化合物、及びそれらの酸変性誘導体(ホウ酸変性誘導体等)が挙げられる。
【0056】
またさらには、アミド化合物の他の形態として、水酸基、カルボン酸基、又はこの両官能基を、同一分子内に有するアミド化合物を挙げることができる。例えば、炭素数10〜30のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪酸やその酸塩化物と、水酸基を有する炭素数1〜30のアミン化合物とを反応させて得られる水酸基含有脂肪酸アミド等が挙げられる。
これらの中で、下記式(4)で表される化合物が好ましい。
【0057】
【化4】
【0058】
式(4)において、R6は炭素数1〜30の炭化水素基であり、好ましくは炭素数10〜30の炭化水素基、より好ましくは炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基、特に好ましくは炭素数12〜20のアルケニル基である。R7は、炭素数1〜30の炭化水素基又は水素であり、炭化水素基の場合は、好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基であるが、特に好ましくは水素である。R8は炭素数1〜10の炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基、さらに好ましくは炭素数1〜2、最も好ましくは炭素数1の炭化水素基である。
【0059】
式(4)で表される化合物は、例えば、ヒドロキシ酸と脂肪族アミンの反応により合成することができる。ヒロドキシ酸のうち脂肪族ヒドロキシ酸が好ましく、さらに直鎖状脂肪族α−ヒドロキシ酸が好ましい。特に、α−ヒドロキシ酸の中でもグリコール酸が好ましい。
その他、好ましい具体例として、N−オレオイルサルコシン等が挙げられる。
【0060】
(B)成分としてのイミド化合物としては、直鎖状、又は分岐状、好ましくは分岐状の炭化水素基を1つ又は2つ有するモノ及び/又はビスコハク酸イミド、当該コハク酸イミドにホウ酸やリン酸、炭素数1〜20のカルボン酸あるいは硫黄含有化合物から選ばれる1種又は2種以上を反応させたコハク酸イミド変性化合物等が例示できる。
【0061】
コハク酸イミドの具体例としては、下記式(5)及び(6)で表される化合物を挙げることができる。
【化5】
【0062】
式(5)及び(6)において、R9及びR10は、それぞれ個別に、炭素数8〜30、好ましくは炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基を示し、R11及びR12は、それぞれ個別に、炭素数1〜4、好ましくは炭素数2〜3のアルキレン基を示し、R13は水素原子又は炭素数1〜30、好ましくは炭素数8〜30のアルキル基又はアルケニル基を示し、nは1〜7の整数を示し、好ましくは1〜3の整数である。
【0063】
摩擦調整剤である(B)成分の含有量は、エンジン油組成物全量基準で、0.01〜10質量%であり、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。(B)成分の含有量が0.01質量%未満であると、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、また10質量%を超えると、耐摩耗性添加剤などの効果が阻害されやすく、あるいは添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。
【0064】
(B)成分中の窒素は、エンジン油組成物全量基準に対する含有量として、0.0005〜0.4質量%であることが好ましく、より好ましくは0.001〜0.3質量%、特に好ましくは0.005〜0.25質量%である。0.0005質量%未満であると十分な摩耗防止性が得られないおそれがあり、また0.4質量%を超えると、エンジン油組成物中への溶解性が低下し、沈澱や濁りが生じるおそれがある。
【0065】
本発明のエンジン油組成物は、金属系清浄剤を含有することができる。
金属系清浄剤としては、アルカリ金属/アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属/アルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属/アルカリ土類金属サリシレート、及びアルカリ金属/アルカリ土類金属サリシレート等の正塩又は塩基性塩を挙げることができる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等、アルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられるが、マグネシウム又はカルシウムが好ましく、特にカルシウムがより好ましい。
また、これら各金属系清浄剤は任意に組み合わせてエンジン油組成物中に配合してもよい。
【0066】
上記アルカリ金属/アルカリ土類金属スルホネートとしては、より具体的には、分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属/アルカリ土類金属塩を挙げることができる。アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。
本発明においては、過塩基性のスルホネート及び/又は低塩基性のスルホネートを用いることが好ましい。
【0067】
過塩基性のスルホネートの場合は、その塩基価が150mgKOH/g以上、好ましくは200mgKOH/g以上、さらに好ましくは250mgKOH/g以上、もっとも好ましくは300mgKOH/g以上であり、また、350mgKOH/g以下が好ましい。
当該過塩基性のスルホネートを、エンジン油組成物の全量を基準として、該エンジン油組成物の塩基価が2mgKOH/g以上、好ましくは3mgKOH/g以上、また、好ましくは10mgKOH/g以下、より好ましくは7mgKOH/g以下、さらに好ましくは5mgKOH/g以下となるように含有することが好ましい。塩基価が2mgKOH/g未満では、本発明のエンジン油組成物に要求される酸化安定性が不十分となるおそれがあり、また、10mgKOH/gを超えると、灰分量が多すぎ、燃焼室デポジットが増加するおそれがある。
【0068】
低塩基性のスルホネートの場合は、その塩基価が50mgKOH/g以下、好ましくは30mgKOH/g以下、さらに好ましくは20mgKOH/g以下であり、また、5mgKOH/g以上、好ましくは10mgKOH/g以上である。
当該低塩基性のスルホネートを、エンジン油組成物の全量を基準として、該エンジン油組成物の塩基価が0.01mgKOH/g以上、好ましくは0.02mgKOH/g以上、また、好ましくは2mgKOH/g以下、より好ましくは1mgKOH/g以下、さらに好ましくは0.5mgKOH/g以下となるように含有することが好ましい。塩基価が0.01mgKOH/g未満では、エンジン油組成物に要求されるクランクケースの清浄性が不十分となるおそれがあり、また、2mgKOH/gを超えても効果が増大せず、2mgKOH/gを超えるように含有させる利点が無い。
なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0069】
上記アルカリ金属/アルカリ土類金属フェネートとしては、より具体的には、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノール、このアルキルフェノールと硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイド又はこのアルキルフェノールとホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物のアルカリ金属/アルカリ土類金属塩を挙げることができる。
当該アルカリ金属/アルカリ土類金属フェネートは、その塩基価が150mgKOH/g以上、好ましくは200mgKOH/g以上、さらに好ましくは250mgKOH/g以上であり、また、350mgKOH/g以下が好ましい。
該アルカリ金属/アルカリ土類金属フェネートを、エンジン油組成物の全量を基準として、該エンジン油組成物の塩基価が0.3mgKOH/g以上、好ましくは0.7mgKOH/g以上、さらに好ましくは1mgKOH/g以上、また、好ましくは5mgKOH/g以下、より好ましくは3mgKOH/g以下、さらに好ましくは2mgKOH/g以下となるように含有することが好ましい。塩基価が0.3mgKOH/g未満では本発明のエンジン油組成物に要求される酸化安定性が不十分となるおそれがあり、また、5mgKOH/gを超えても効果が増大せず、5mgKOH/gを超えるように含有させる利点が無い。
【0070】
上記アルカリ金属/アルカリ土類金属サリシレートとしては、より具体的には、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルサリチル酸のアルカリ金属/アルカリ土類金属塩を挙げることができる。
当該アルカリ金属/アルカリ土類金属サリシレートは、その塩基価が150mgKOH/g以上、好ましくは200mgKOH/g以上、さらに好ましくは250mgKOH/g以上、特に好ましくは300mgKOH/g以上であり、また、350mgKOH/g以下が好ましい。
該アルカリ金属/アルカリ土類金属サリシレートを、エンジン油組成物の全量を基準として、該エンジン油組成物の塩基価が2mgKOH/g以上、好ましくは3mgKOH/g以上、また、好ましくは10mgKOH/g以下、より好ましくは7mgKOH/g以下、さらに好ましくは5mgKOH/g以下となるように含有することが好ましい。塩基価が2mgKOH/g未満では本発明のエンジン油組成物に要求される酸化安定性が不十分となるおそれがあり、また、10mgKOH/gを超えると、灰分量が多すぎ、燃焼室デポジットが増加するおそれがある。
【0071】
上記アルカリ金属/アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属/アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ金属/アルカリ土類金属サリシレートは、中性塩(正塩)だけでなく、塩基性塩や過塩基性塩(超塩基性塩)であってもよく、これらの混合物でも良い。
なお、上記の範囲の塩基価を有する過塩基性スルホネート、低塩基性スルホネート、過塩基性フェネート、及び過塩基性サリシレートを組み合わせて用いることが好ましい。最も好ましくは当該三種類の金属系清浄剤を組み合わせたものを、エンジン油組成物の全量を基準として、該エンジン油組成物の塩基価が2mgKOH/g以上、好ましくは3mgKOH/g以上、また、好ましくは10mgKOH/g以下、より好ましくは7mgKOH/g以下、さらに好ましくは5mgKOH/g以下となるように含有することが好ましい。これにより、エンジン油として要求される清浄性と、省燃費性をバランスよく達成することが可能となる。
【0072】
本発明のエンジン油組成物において金属系清浄剤を含有する場合、その含有量は、エンジン油組成物全量を基準として、金属元素換算で500質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは800質量ppm以上、さらに好ましくは1000質量ppm以上である。また好ましくは、3500質量ppm以下、より好ましくは3000質量ppm以下、さらに好ましくは2600質量ppm以下である。500質量ppm未満の場合は十分な塩基価維持性、高温清浄性を発揮することができないおそれがあり、一方、3500質量ppmを超えると使用によって生成する硫酸灰分量が多くなるため、排ガス浄化触媒のフィルター詰まりを加速することが懸念される。
【0073】
また、本発明のエンジン油組成物は、無灰分散剤を含有することができる。
無灰分散剤としては、炭素数40〜400の直鎖若しくは分岐状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体を挙げることができる。具体的にはコハク酸イミド、アルケニルコハク酸イミド、あるいはそれらの変性品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0074】
無灰分散剤が有するアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは40〜400、より好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下する傾向にあり、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を超える場合は、エンジン油組成物の低温流動性が悪化する傾向にある。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分岐状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分岐状アルキル基や分岐状アルケニル基等が挙げられる。
【0075】
好ましいコハク酸イミドとして、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した、いわゆるモノタイプのコハク酸イミド、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドを例示できる。なお、モノタイプ及びビスタイプのコハク酸イミドのいずれか一方を含有してもよく、あるいは双方を含有してもよい。
【0076】
その他の無灰分散剤として、ベンジルアミンを用いることもできる。好ましいベンジルアミンとしては、具体的には、下記式(7)で表される化合物等が例示できる。
14−Ph−CH2NH−(CH2CH2NH)p−H (7)
式(7)において、R14は、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基、好ましくは炭素数60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、Phはフェニレン基を示し、pは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0077】
さらに別の無灰分散剤として、ポリアミンを用いることもできる。ポリアミンとしては、具体的には、下記式(8)で表される化合物等が例示できる。
15‐NH−(CH2CH2NH)q−H (8)
式(8)において、R15は、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、qは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0078】
また、無灰分散剤として使用できる上記含窒素化合物の誘導体の具体例は、該含窒素化合物に炭素数1〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸、ヒドロキシ(ポリ)アルキレンカーボネート等の含酸素化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したもの、アミド化した有機酸等による変性化合物、又は前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物等が挙げられる。さらに、ホウ素化合物で変性したものも挙げられる。
【0079】
ホウ素化無灰分散剤は、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤をホウ素化したものである。ホウ素化は、一般に、前述の含窒素化合物にホウ酸等を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和することにより行われる。
例えば、ホウ素化コハク酸イミドの製造方法としては、特公昭42-8013号公報及び同42-8014号公報、特開昭51-52381号公報、及び特開昭51-130408号公報等に開示されている方法等が挙げられる。具体的には例えば、アルコール類やヘキサン、キシレン等の有機溶媒、軽質潤滑油基油等にポリアミンとポリアルケニルコハク酸(無水物)にホウ酸、ホウ酸エステル、又はホウ酸塩等のホウ素化合物を混合し、適当な条件で加熱処理することにより得ることができる。なお、この様にして得られるホウ素化コハク酸イミド中のホウ素含有量は、通常0.1〜4.0質量%とすることができる。
【0080】
本発明のエンジン油組成物が無灰分散剤を含有する場合、無灰分散剤の含有量は、エンジン油組成物全量基準で、好ましくは0.1〜20質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。またさらに好ましくは2.5質量%以上であり、最も好ましくは5質量%以上である。無灰分散剤の含有量が0.1質量%未満の場合は、摩擦低減性向上効果が不十分となるおそれがあり、一方、20質量%を超える場合は、エンジン油組成物の低温流動性が大幅に悪化するおそれがある。
【0081】
また、上記ホウ素化コハク酸イミド等のホウ素化無灰分散剤を用いる場合、エンジン油組成物中のホウ素含有量は、エンジン油組成物全量基準で、0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上であり、また、0.15質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下である。
本発明においては、無灰分散剤としてホウ素化コハク酸イミド及び非ホウ素化コハク酸イミドの両者を含有することが好ましい。ホウ素化コハク酸イミドの非ホウ素化コハク酸イミドに対する比率は、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、さらに0.3以上が好ましい。また0.6以下が好ましく、0.5以下がさらに好ましく、0.4以下がさらにより好ましい。0.1未満では、ホウ素化コハク酸イミドの耐熱性と、耐摩耗性の効果が十分ではなく、また0.6を超えると、清浄性が不十分となる。
【0082】
さらに、本発明のエンジン油組成物は、酸化防止剤を含有することができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤等の無灰系酸化防止剤や有機金属系酸化防止剤等、潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。酸化防止剤の添加により、エンジン油組成物の酸化防止性をより高められ、本発明の組成物の、鉛含有金属の腐食又は腐食摩耗防止性能を高めるだけでなく、塩基価維持性をより高めることができる。
【0083】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4'−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4'−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2'−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N'−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4'−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2'−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2'−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類等を好ましい例として挙げることができる。これらは二種以上を混合して使用してもよい。
【0084】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、芳香族系アミン系酸化防止剤であるフェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、及びジアルキルジフェニルアミンを挙げることができる。これらは二種以上を混合して使用してもよい。
【0085】
上記フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤を単独で使用することができるが、組み合わせて配合することが好ましい。配合割合としては、フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤の合計量に対し、アミン系酸化防止剤が10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0086】
本発明のエンジン油組成物においては、その性能をさらに向上させる目的で、必要に応じて、上記添加剤の他に、(B)成分以外の他の摩擦調整剤、さらには摩耗防止剤(又は極圧剤、)腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、ゴム膨潤剤、消泡剤、着色剤等の各種添加剤を単独で又は数種類組み合わせて配合しても良い。
【0087】
他の摩擦調整剤としては、有機モリブデン化合物及び無灰摩擦調整剤から選ばれる摩擦調整剤等が挙げられる。
有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物と、硫黄含有有機化合物あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。
【0088】
有機モリブデン化合物を用いる場合、その含有量は特に制限されないが、エンジン油組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.03質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.08質量%以下である。その含有量が0.005質量%未満の場合、エンジン油組成物の熱・酸化安定性が不十分となり、特に、長期間に渡って優れた清浄性を維持させることができなくなる傾向にある。一方、含有量が0.2質量%を超える場合、含有量に見合う効果が得られず、また、エンジン油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0089】
また、無灰摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基または直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。また窒素含有化合物及びその酸変性誘導体からなる群より選ばれる1種以上の化合物や、国際公開第2005/037967号パンフレットに例示されている各種無灰摩擦調整剤が挙げられる。
【0090】
無灰摩擦調整剤を用いる場合、その含有量は、エンジン油組成物全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。無灰摩擦調整剤の含有量が0.01質量%未満であると、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、また3質量%を超えると、耐摩耗性添加剤などの効果が阻害されやすく、あるいは添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。
【0091】
摩耗防止剤(又は極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用できる。
本発明においてはアルキルジチオリン酸亜鉛が有効である。アルキル基は炭素数3から12のものが通常使用される。本発明においては、それぞれ1級アルキル基と2級アルキル基をもつアルキルジチオリン酸亜鉛を使用することが、極圧性と酸化安定性のバランスを取るために好ましい。1級の2級に対する比率は、0.3以上が好ましく、より好ましくは0.5以上、最も好ましくは0.55以上である。また0.8以下が好ましく0.7以下がより好ましい。0.3未満では酸化安定性が不足する可能性があり、0.8を超えると極圧性が不足する可能性がある。なお、1級と2級のアルキル基の併用は、同一アルキルジチオリン酸亜鉛内であってもよいし、異なるアルキルジチオリン酸亜鉛の混合であってもよい。
【0092】
なお、アルキルジチオリン酸亜鉛を用いる場合、その含有量は、エンジン油組成物全量を基準として、リン元素量で0.02質量%以上が好ましく、0.05質量%がより好ましく、0.08質量%以上がさらに好ましい。また0.2質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましく0.1質量%以下がさらに好ましい。0.02質量%未満では十分な極圧性が得られず、0.2質量%を超えると、排気ガス後処理装置に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0093】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系、エポキシ系化合物等が挙げられる。
【0094】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0095】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0096】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0097】
上記流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。重量平均分子量としては150,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、80,000以下がさらに好ましい。また20,000以上が好ましく、40,000以上がより好ましい。150,000を超えると、製品粘度が目標から外れる懸念があり、20,000未満では流動点降下剤としての機能が不足するおそれがある。本発明の潤滑油組成物に流動点降下剤を含有させる場合、その含有量は、組成物全量基準で、通常0.005〜5質量%の範囲から選ばれる。
【0098】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1,000〜100,000mm2/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレート、o−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0099】
これらの添加剤を本発明のエンジン油組成物に含有させる場合の含有量は、エンジン油組成物全量基準で、消泡剤は0.0001〜0.01質量%、他の添加剤は0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0100】
本発明のエンジン油組成物の粘度指数は140以上であることが好ましく、150以上であることがより好ましく、160以上であることがさらに好ましい。粘度指数が140未満の場合、低温時に十分な省燃費性を発揮できないおそれがある。なお、粘度指数の上限については特に制限はなく、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを水素化分解/異性化したイソパラフィン系鉱油のような135〜180程度のものやコンプレックスエステル系基油やHVI−PAO系基油のような150〜250程度のもの使用することが出来る。
【0101】
本発明のエンジン油組成物の100℃における動粘度は5.6mm2/s以上であることが好ましく、9.3mm2/s以上であることがより好ましい。また12.5mm2/s以下であることが好ましく、11.5mm2/s以下であることがより好ましい。100℃における動粘度が12.5mm2/sを超える場合は省燃費効果が低下するおそれがあり、5.6mm2/s未満の場合では、エンジンの油圧が所定圧に達せず、エンジン油組成物の供給不足となり、焼付きが発生するおそれがある。
【0102】
本発明のエンジン油組成物は、種々のエンジン機関に適用でき特に限定されないが、ディーゼルエンジン機関に用いることが好ましい。
【実施例】
【0103】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
省燃費性の指標として高温高剪断粘度、及び耐摩耗性について、以下に示すようにして測定し、評価した。
1.エンジン油組成物の高温高剪断粘度(HTHS粘度)
省燃費性に影響を及ぼす、剪断速度1×106/s及び1×107/sでの高温高剪断粘度を次のようにして測定した。なお、剪断速度1×106/sでの高温高剪断粘度はASTM D4683−10に準拠して測定し、剪断速度1×107/sでの高温高剪断粘度は、PCS Instruments社製のUSV粘度計を用いて測定した。測定温度はいずれも100℃である。
なお、剪断速度1×106/sでの粘度を一定に保ち、1×107/sでの粘度を低減することにより良好な省燃費性を発揮することができる。具体的には、前者が6.0mPa・s以上、後者が5.5mPa・s以下の値を両立することが好ましい。
【0105】
2.エンジン油組成物の耐摩耗性
シェル四球試験装置を使用してエンジン油組成物の耐摩耗性を評価した。試験法としてはASTM D2266に準拠した。ただし、試験条件は回転速度1800rpm、荷重492N、油温120℃、試験時間1分間である。
【0106】
(実施例1)
以下に示す成分を使用し、表1に示す配合組成(質量部)の実施例1に係るエンジン油組成物を調製した。この実施例1のエンジン油組成物について、上記1.高温高剪断粘度、及び2.耐摩耗性を評価した。評価結果を表1に示す。
(1)潤滑油基油:基油A;水素化分解、接触脱ろう基油。詳細は、表1の欄外に示す。
(2−1)(A−1):VM−A;SV261(インフィニアム社製);Mw 430,000、PSSI 25
(2−2)(A−2):VM−B;窒素含有基を有するポリメタクリレート、Mw260,000、PSSI 50、窒素含有量0.1質量%
(3−1)(B):オレイルアミド
(4)金属系清浄剤及び酸化防止剤:表2に示す成分を有する組成物(以下、パッケージ添加剤と称する)。なお、表2に示す各成分の含有量は、(1)のエンジン油組成物全量を100質量部としたときの質量部である。
【0107】
(実施例2〜5)
基油と各添加剤を表1及び表2に示す配合量で配合し、各実施例のエンジン油組成物を調製した。各エンジン油組成物について、実施例1と同様、上記1.高温高剪断粘度、及び2.耐摩耗性を評価した。評価結果を表1に示す。
また、ここで、上記した成分以外の成分は次の通りである。
(1)潤滑油基油:基油B;水素化分解、接触脱ろう基油。詳細は、表1の欄外に示す。
(5)流動点降下剤(PPD):ポリメタクリレート、重量平均分子量55,800
【0108】
(比較例1〜9)
基油と各添加剤を表1及び表2に示す配合量で配合し、各比較例のエンジン油組成物を調製した。各エンジン油組成物について、実施例1と同様、上記1.高温高剪断粘度、及び2.耐摩耗性を評価した。評価結果を表1に示す。
なお、比較例1〜8は省燃費性を優先させて、高温高剪断粘度を設定したものであり、各実施例とほぼ同等の高温高剪断粘度特性となっている。一方、比較例9は、耐摩耗性を優先して設定したもので、実施例及び他の比較例より高い高温高剪断粘度となっており、特に1×107/sでの粘度が5.5mPa・sを大きく超えている。
また、ここで、上記した成分以外の成分は次の通りである。
(2−3)(A)成分以外の粘度指数向上剤:
VM−C;窒素含有基を有するポリメタクリレート、Mw100,000、PSSI 5、窒素含有量0.2質量%
VM−D;ポリメタクリレート、Mw430,000、PSSI 5
VM−E; ポリメタクリレート、Mw450,000、PSSI 5
VM−F;ポリメタクリレート、Mw380,000、PSSI 25
(3−2)(B)成分以外の摩擦調整剤:オレイルアミン又はグリセリンモノオレート(旭電化工業株式会社製のアデカキクルーブ FM210)を使用した。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
表1から明らかなように、(A−1)スターポリマー、(A−2)窒素含有基を有するポリマー、及び(B)アミド化合物、イミド化合物、又は両化合物の混合物を使用した各実施例のエンジン油は、比較例1〜9のエンジン油に比して顕著に優れた、省燃費性と耐摩耗性の両立を達成している。
すなわち、各実施例のエンジン油組成物は、比較例1〜8と同等の低い高温高剪断粘度特性を有し、省燃費性に優れる性能を発揮しつつ、比較例1〜8より顕著に良好な耐摩耗性も有している。この各実施例の耐摩耗性は、省燃費性を期待できない高い高温高剪断粘度特性を持つ比較例9と同等の性能であり、このことから、省燃費性と耐摩耗性が高度に両立されていることが判る。